もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら 作:ちゃーらんき
前半はジュール隊、後半はオリ主の視点になります。
ユニウスセブン破砕作業におけるミネルバの任務は、破砕作業の支援と工作部隊の援護である。
メテオブレイカーを用いての破砕作業を主として担うのは、2隻のナスカ級“ボルテール”と“ルソー”からなる、イザーク・ジュール率いるジュール隊である。
これにミネルバの他、2隻のローラシア級“ヘルダー”と“ディドロ”からなるエラム隊が支援として向かっていた。
修理を終えミネルバが向かい始めたころにはジュール隊がすでにユニウスセブンに到着しており、副官のディアッカ・エルスマンがモビルスーツ隊の指揮を担い、イザークが破砕作業全体の指揮を取る形で準備が進められていた。
「よく聞け! そいつはただのデカい岩というだけではない。落下の衝撃はもちろん、向こう数百年にわたって地球の環境を変えてしまい、下手をすれば人類が生存できない環境にしてしまう可能性すらある! この任務が、何万……いや何億という人間の生死に関わる重大事であることを肝に銘じろ!」
「「「了解ッ!」」」
イザーク・ジュール。
この名前は、ザフトでは“アスラン・ザラ”に匹敵するほど広く知られている。
ヤキン・ドゥーエの戦いを生き抜き、連合のモビルスーツ“フォビドゥン”や、核ミサイル攻撃部隊“ピースメーカー隊”の旗艦“ドゥーリットル”の撃破など多大な功績を上げプラントを守り抜き終戦に尽力した英雄の1人である。
そのイザークの言葉を受け、ユニウスセブンの破砕作業に従事することの重大さを認識したパイロットたちは表情を引き締めた。
ジュール隊も大戦を経験し生き抜いてきた精兵は少ない。
従事するパイロットの多くが戦場に兵士としてたった経験のない者たちであり、イザークの言葉を受けて改めて自分たちの任務に地球に住まう全人類の未来がかかっているという事実がのしかかり、プレッシャーに顔を青くしている兵士もいた。
「時間はたっぷりあるわけじゃない。手際よくやれ!」
ザフトでは今や艦隊を預かる指揮官にまでなった彼は、メテオブレイカーとモビルスーツ部隊の準備が整うまでの間、地球に向けて加速を続けるこの墓標と、それを砕くためのメテオブレイカーの設置に向かうディアッカ率いるモビルスーツ部隊の様子をモニター越しに見ながら指示を飛ばす。
パイロットたちに容赦なくプレッシャーをかけるイザークに、彼の同期であり戦友でもある、モビルスーツ部隊の指揮をとっている副官のディアッカが通信を飛ばしてきた。
「しっかし、改めて見るとデカいな」
「当たり前だ。俺たちは住んでいるんだぞ、似たようなところに」
「そんなの砕くってんだろ? しかも俺たちだけで」
「俺たちだけじゃない、ミネルバとエラム隊がこちらに向かっている。だが時間がない、口を動かす暇があるなら機体を動かせ」
「あいよー。……ったく、根詰めすぎなんじゃねえの?」
「やかましい。破砕作業に集中しろ!」
主にゲイツRからなるジュール隊のモビルスーツ部隊。
ガナーザクウォーリアにて、メテオブレイカーの設置作業を監督するディアッカからきた通信。
内容は今回の任務であるユニウスセブンの破砕作業──その対象である、巨大なコロニーの残骸を見て規模とこれを砕くという任務内容に思わず大変だとぼやく無駄口だった。
口を動かす暇があるなら手を動かせとディアッカをイザークが嗜める。
白服になったからって張り切りすぎだろと気兼ねなく接することのできる友人故のディアッカの軽口に対し、イザークは黙って仕事しろと再度注意した。
「はいよ。ほら隊長の命令だ、手際よくやれよお前らー」
「貴様もだ、働け馬鹿者!」
白服となり部隊を預かる立場となって、多くの雑務が舞い込むようになり、以前のようにモビルスーツを駆って再前線にて一兵卒として働く機会は最近ではほとんどない。
それにイザークには本業であるプラント“マティウス市”の議員秘書としての仕事もあるので、大戦の終結以降は操縦桿よりも書類を手にする機会が多くなっていた。
おかげで目と肩に疲れが溜まる日々である。
「全く……」
ディアッカのやつは事態の深刻さをわかっているのだろうか。
そんな疲れたため息をもらすイザークだが、あの軽薄な態度も長い付き合いからディアッカなりの“肩肘張りすぎるなよ”というメッセージであることもわかっているので、とやかく言うのはここまでにしておいた。
実際、イザークとディアッカのやり取りをみて、ジュール隊のパイロットたちの間に蔓延っていたヤキン戦役を生き抜いた英雄の下で働くプレッシャーによる余計な緊張感が和らいだ様子が見て取れる。
余計な力が抜けたことで、動きが固い下手くそな新兵どもの作業も先程までのガチガチな動きから多少はスムーズに動くようになってきた。
隊長として規律を保つために隊員たちの前では気を張っているため、イザークにとってこうして不必要な緊張を緩和させる役目を担ってくれるディアッカの存在はありがたい。
かつての大戦にて所属していた部隊でも、ディアッカは個性が強く衝突が多かったメンバーの間をよく取り持ってくれていたものである。
「ジュール隊長のおっしゃる通りです。ディアッカ・エルスマン……腕は認めるが、緊張感に欠けている」
「構わん。弛むようなら都度俺が締めればいい」
ディアッカたちの作業をモニター越しに見ているイザークの横に、ジュール隊のもう1人の副官である赤服“シホ・ハーネンフース”が来て、軽すぎるとディアッカに対する苦言を呈した。
生真面目で実直な性格の彼女は、軽薄で軟派なディアッカとは馬が合わないらしい。
パイロットの腕は認めているが、初対面でナンパされたこともあり、彼女は不真面目に見えてしまうらしいディアッカのことを一方的に嫌っているところがある。
とはいえ、突っかかるたびにディアッカの方が煙に巻いて流すし、お互いヤキン戦役を生き抜いた戦友ということもあり信頼関係はあるので、イザークが引き締め、ディアッカが適度に和らげ、シホが弛まないよう目を光らせてといった形で、ジュール隊はうまく機能していた。
「メテオブレイカー、1番から4番設置完了」
「6番、7番設置完了!」
「5番の設置ができたら、各所掘削開始しろ。起爆タイマー、1と2は300、3番以降は1500で設定しておけ!」
「了解、タイマーセット」
メテオブレイカーの設置は順調に進んでいる。
まずは第一段階として、大きな塊を二つに割るためのポイントにメテオブレイカーを設置。タイマーを起動し、掘削が始まる。
「エラム隊とミネルバに通信──」
この分なら応援の部隊と合流すれば地球に落ちる前に十分な大きさに砕けるだろうと見て、イザークがこちらに向かっているミネルバとエラム隊に通信を繋げるためにオペレーターへ指示をしようとした時──
「──ポイントD4に複数の熱源あり! 掘削部隊に接近中!」
「何……?」
ボルテールの索敵を監視するオペレーターの方から、掘削作業の部隊に接近する謎の熱源を発見したという報告がもたらされた。
「データベースに該当あり──ジン・ハイマニューバ2型です! 数8、距離500!」
「どこの部隊だ!?」
その接近してくる熱源を照合したところ、それはザフトのジンの改良型機種のモビルスーツであることが判明する。
ユニウスセブンに破砕作業用の増援が到着したという連絡は受けていない。
この場になぜジンがいるのかわからず、イザークはオペレーターにどこの部隊か確認するように指示する。
数が多いので宇宙海賊の類である可能性は低いが、ユニウスセブンの破砕作業中に接近してくる正体不明の複数のモビルスーツというのは極めて不審な存在である。
作業に支障をきたすわけにはいかないため、所属を確認しようとした。
しかしコードの提示もなければ、通信で呼びかけるも応答しない。
「オッタル、接近するジンに制止を呼びかけろ」
「了解」
制止を呼びかけるために警邏担当のゲイツRを接近してくるそのジンの方に向かわせたイザークだが──
「そこのジン、止まれ! こちらは現在、ユニウスセブンの破砕作業中で──な、なんで撃ってくるんだ!? うああぁぁぁ──!」
「何!?」
そのジンの一群はジュール隊からの呼びかけに対し、無警告でビームガンを発射し制止を試みたゲイツRを撃墜したのである。
「敵だ! 各員、戦闘体制!」
正体不明の敵からのいきなりの攻撃。
いきなり友軍が通信で断末魔をあげてロストしたことに特に新兵が戸惑い混乱する中、イザークはこちらの部隊を狙って仕掛けてきたジンの一群を迷わず敵と判断し部隊に迎撃するように命令を出した。
「ジュール隊長、奴らは一体──」
「正体など後回しでいい、撃ってくるなら敵だ!」
どういうことかと戸惑いながら尋ねるシホに、所属も答えず一方的に撃ってきたなら正体がなんであろうとあれは敵だと答えるイザーク。
「俺のザクを用意しろ! 残っているモビルスーツの装備を戦闘用に換装し出撃、ディアッカを援護する! シホ、お前も来い!」
「はっ!」
ディアッカたち破砕作業中の部隊を守るため、残っているモビルスーツを破砕作業用から戦闘用の装備に換装させ、イザークもシホとともに出撃することにした。
一方、ユニウスセブンの破砕作業を進めていたディアッカたちの方は。
突如現れたこの謎のジンの一群の襲撃を受け、大混乱に陥っていた。
「破砕作業は中止! 総員散開し迎撃体制を取れ!」
「ま、待って──ああ!? スラスターがやられた!」
「隊長助けて──うああぁぁぁ!?」
「ロイ!? い、嫌だ死にたくない!」
「ど、どうすれば──ぎゃあああぁぁぁ!?」
「嫌ッ……来ないで! 来ないでぇ!」
特に本当の殺し合いなど未経験である新兵たちの混乱は酷い。
ディアッカは破砕作業を中止して迎撃するように指示を飛ばすが、突然襲撃してきたジンの攻撃で仲間が撃ち殺され自分も狙われるという恐怖によりパニック状態になる兵士が続出し、カカシのように動けなくなったところを次々に撃ち抜かれていた。
「止まるな! 死にたくないなら機体を動かせっての!」
ディアッカはとにかく動けと指示を飛ばすも、パニックでまともに反応できない兵士が多い。
その混乱の中、ジンはカカシになっているゲイツから優先的に狙い撃ち落としていく。
どこの誰かもわからない状況。
破砕作業ということもあり、装備も戦闘を想定したものじゃない。
ろくな反撃手段もないため、こちらは逃げ回るしかない状態である。
謎のジンはメテオブレイカー周辺のザフトを片付けると、掘削を開始していたメテオブレイカーに狙いを定めビームガンを発射し、メテオブレイカーを破壊した。
「メテオブレイカー2番、4番、ロスト!」
「狙いはそれってことか? まさか、こいつらの仕業なのかよ!?」
メテオブレイカーをやられたことで、ディアッカはこの謎のジンの襲撃の理由を察する。
彼の推測通り、ジンの一群はユニウスセブンを動かしたサトー率いる元ザフトのテロリストたちであった。
ジュール隊がユニウスセブンに来た際にその通信を傍受し、プラントがユニウスセブンの破砕を計画していること、そしてそのためにメテオブレイカーを持ってきたことを知り、ユニウスセブンの破壊を阻止するために襲撃を仕掛けてきたのである。
「メテオブレイカーを潰せ! ユニウスセブンをやらせるな!」
我々の憎しみに目を背け、ナチュラルの星を守ろうとする裏切り者は同胞だろうと容赦はしない。
かたや狂気の妄念を果たすためなら命も名誉も捨てる覚悟を決めている、大戦を戦い抜いてきた精兵。
かたや2年の平和を享受し、戦争の記憶も薄れ、本物の戦場を知らない新兵が増えた今のザフト。
機体の性能では型落ちの旧式機を改造しているジン・ハイマニューバ2型のテロリストたちに対し、ゲイツRやザクが主力機となっているザフトの方が圧倒的に上回っているが、パイロットの技量も殺し合いをする覚悟も圧倒的にサトーたちの方が上である。
破砕作業のため多くのゲイツRはビームライフルすら持ってきていなかったため、まともな戦闘にならない。
ジュール隊のモビルスーツは一方的に次々と撃ち落とされ被害を拡大していった。
「来るな来るな来るなぁ! う、嘘だろ──!?」
「マックス! いやいやテロリストにしては装備がおかしいでしょ、あれ!」
ほんの数秒前までディアッカのザクに随伴していた僚機のザクが、ジンの振るう実体剣に切り裂かれてコクピットを両断され撃墜された。
対モビルスーツ戦闘に特化した改良と武装を施されているジン・ハイマニューバ2型の特徴的な装備である、重斬刀よりもはるかに鋭い切れ味が特徴の斬機刀。
駆使するパイロットたちの格闘戦能力もあり、距離を詰められたら逃げる背中を捕まえられたゲイツやザクが次々にこの刀の餌食にされていった。
「この動き、海賊なわけねえよな……奴らの狙いはメテオブレイカーだ! 連中、ユニウスセブンを落とそうとしているぜ!」
テロリストからのビームガンを回避しながら僚機がやられる姿とメテオブレイカーを狙う動き見たディアッカは、ジュール隊に目的がユニウスセブンの破砕の妨害であること伝えた。
マックスのザクを落としたジンが、ディアッカに狙いを定めて距離を詰めてくる。
それに対しディアッカはシールドからトマホークを取り出して投擲し、長距離ビーム砲を発射。
ジンはビームに反応して回避するが、直後にその回避先に飛んできたトマホークに斬機刀を握る腕を切り落とされた。
「グゥレイト! ……だが、今ので弾切れだぜ!」
流石の技量でジンに一矢報いるディアッカだったが、元々破砕任務が目的の装備であり、ビーム砲用のガナーウォーリアのエネルギーは1発分しか乗せてなかった上にトマホークも投げてしまったのでこれで丸腰になってしまった。
「イザーク早くきてくれ!」
大戦を戦い抜いた英雄も、武器がなければどうしようもない。
ビームガンでジンに追い回されるディアッカの声に応える余裕のある者はいなかった。
テロリストの襲撃を受けて大きな被害を受けたアーモリーワン。
コロニーや施設の修理はおろか、民間人の保護や行方不明者の捜索も終わっていない。
しかしユニウスセブンが動き出したという未曾有の事態に、比較的距離が近かったことから破砕作業のための部隊を派遣する指令を受け、2隻のローラシア級戦艦からなるエラム隊がユニウスセブンに向かっていた。
メテオブレイカーでも砕ききれなかった場合は、地上からのミサイルなどで砕くことになる。
宇宙空間にて行うとすれば、艦砲射撃の他、ガナーザクウォーリアの長距離ビーム砲やD装備などによる攻撃になるだろう。
そしてザフトの現在保有するモビルスーツの中でも、カリドゥス複相ビーム砲をはじめとする多数の武装を備えたトップクラスの火力も有するアビスも動員されることとなり、正規パイロットのマーレが負傷しているためテストパイロットであり操縦経験豊富なユノが暫定的にアビスのパイロットとなりユニウスセブン破砕作業を支援するためエラム隊に入り向かっていた。
「ふふ……頑張ってるね、シン。ユニウスセブンについたら、褒めてあげなきゃ」
ミネルバもユニウスセブンの破砕任務を支援するために向かっていることはユノも聞いている。
ボギーワン追撃にて無事に生き残ったことと敵のモビルアーマーやカオスを相手に渡り合ったことも聞いており、再会したらそれを褒めちぎって甘やかしてやろうと、愛する家族たちと3人で撮った写真を眺めながら拗らせたブラコンを暴走させていた。
ユノもシンと同様に地球には身内もいなければ親しい友人も失って悲しむ相手もいないので、ユニウスセブンが動いていることに関しては落ちたら大惨事になりそうだな程度の認識しかない。
強いて言うならユニウスセブンの方に婚約者だったアランの戦友であるサトーの恋人が眠っているのを聞かされているのでそれを砕くとなると彼に申し訳ないなと思うくらいである。
もっとも、ユノの方はサトーの恋人であるクリスティと面識は無い。
サトーから聞いた話では自然を愛する心優しい女性とのことなので、ユニウスセブンが地球を焼くことを望んではいないだろうし、サトーも納得してくれるだろうと思っていた。
そのサトーも戦後ザフトを去っていった。
時折アランやレオの思い出話を通話越しにするくらいで、最近は会っていない。
ユニウスセブンの破砕が終わったら、サトーに連絡をとり、風化しないよう彼からクリスティという人の話を聞いて自分も覚えようと考えていた。
そして今は愛する弟と再会する時が待ち遠しくてたまらないという思いで頭が埋まっている。
先ほどまでその弟の自慢話を延々と聞かされていた整備士がため息をついた。
「ブラコン拗らせすぎでしょこの人……」
アビスの整備を担当している彼は、アーモリーワン事変の際に6番ハンガーにいてマーレとのやりとりを夫婦漫才と称した人物である。
アウルに撃たれたが幸いなことに傷は浅く復帰できたため、アビスの整備士としてユノとともにエラム隊に配属されていた。
「ことの重大さ理解してます? ユニウスセブンが落ちたら大変なことになるんですからね?」
「分かってるって。まあ僕も無関係じゃないし、全力で取り組むよ」
「……誰か、亡くしたの?」
「アランの親友のサトーって人の恋人が、血のバレンタインでね。僕はその人とは面識ないけど」
「そっか……」
ことの重大さを分かっているのかと尋ねる整備士に、ユノはユニウスセブンは全くの無関係というわけではないことを伝え、だから破砕作業に関しては真剣に取り組むつもりであると答える。
この整備士はテストパイロット時代からともにアビスの完成に向けて取り組んできたそれなりに長い付き合いであり、ユノに婚約者がいたこととそれを大戦で失ったことを知っている。
事情を聞いた整備士は、ならば心配無用かと思ったが──
「ふふ……可愛いなあ」
「…………」
写真を見てまた表情を緩めたユノを見て、やっぱり不安だと思い直した。
──その時、艦内に警報が響き渡った。
「艦内各員に通達! コンディションレッド発令!」
「「!?」」
ジュール隊からの連絡を受けたエラム隊はユニウスセブンにて破砕作業を妨害するジンの一群と戦闘状態に入ったことを受け、臨戦体制に移行。
ジュール隊の援護と謎のジンの一群を制圧するため、モビルスーツ部隊の発進を決定した。
「現在、ユニウスセブンにて破砕作業中のジュール隊が所属不明の複数のジンの襲撃を受け交戦中! モビルスーツを出撃させ、ジュール隊の援護並びにアンノウンの制圧を行います! 各員は直ちに出撃準備に取り掛かってください!」
「戦闘!?」
「すぐに出撃準備に取り掛かる!」
ジュール隊が敵襲を受けているという通達を聞き、整備士は驚きの声を上げる。
一方、先の大戦を戦い抜いてきた経験のあるユノは先ほどまでのブラコンを全開にしていた表情を戦いに赴く戦士に一変させると、すぐに出撃準備に取り掛かるためパイロットスーツに着替えるためにロッカールームへと向かった。
「ユノ!?」
「一刻を争う事態だ、ぼさっとするな!」
「りょ、了解!」
ユノの叱責を受け、整備士も急いでアビスの出撃体制を整えるために格納庫に向かう。
「パイロットは出撃体制が整い次第、順次発進してください」
緊急出撃のため、ブリッジからパイロットへはブリーフィングルームではなく直接機体に向かい出撃体制が整った機体から順次出るようにという指示が出された。
(ユニウスセブンの破砕作業を妨害……? まさかとは思うけど、ユニウスセブンが動いたのって人為的なものなの……?)
一方、手早く出撃準備を整えるユノは、ジュール隊を襲撃する正体不明のテロリストと聞きユニウスセブンが動き出したというこの事態が作為的なものではないかと疑い始めた。
(いや、事件の真相を考えるのは兵士の仕事じゃない。今はジュール隊を援護してユニウスセブンの破砕を成功させることが優先!)
赤いパイロットスーツに身を包んだユノは、格納庫へ向かう。
すでに準備を整えたゲイツが何機か出撃しており、ユノもアビスのコクピットに乗り込むと機体を起動させた。
「カタパルト接続。アビス、発進どうぞ!」
「ユノ・アサガオ──アビス、出撃します!」
エラム隊の旗艦であるローラシア級戦艦ヘルダーの発進ゲートより出撃し、エラム隊の繰り出したゲイツの部隊とともにユニウスセブンへと向かっていく。
モビルスーツ部隊が出撃したことを確認した指揮官のエラムは、緊急事態につきブリーフィング無しで出撃させたため状況を把握しきれていないパイロットに説明するべく通信を繋げた。
「モビルスーツ部隊、出撃しました」
「エラムよりモビルスーツ各機へ。ユニウスセブンの破砕任務ということで我々に出撃が命じられたわけだが、先ほど先行してメテオブレイカーによる破砕作業にとりかかるジュール隊より緊急の通信があった。ジン・ハイマニューバ2型8機からなる所属不明のモビルスーツ部隊に襲撃を受け、現在破砕作業を中止し交戦中とのことである」
エラムから簡潔な説明を受けたパイロットたちは戸惑いを見せる。
何しろユニウスセブンの破砕作業と聞いていたのに、戦闘が勃発しているといきなり言われたのだ。
それも正体不明のジン・ハイマニューバによる襲撃。
ダガーなら地球軍を疑うが、その機体はプラントの兵器である。
「ジン・ハイマニューバって……」
「無論、ザフトではない。何らかの手段で強奪された機体を用いたテロリストだろう」
まさかザフトが?
そんな疑惑を持つパイロットたちに、エラムは明確にザフトではないと否定した。
そしてその正体不明のジンの部隊──アンノウンが、ユニウスセブンの破砕作業を妨害しメテオブレイカーを破壊しているということを伝える。
「ジュール隊からの連絡では、アンノウンはジュール隊への襲撃だけでなくメテオブレイカーを破壊しており、目的はユニウスセブン破砕の妨害と推測される」
「ど、どういうことですか!? ユニウスセブンが動いたのは隕石の衝突という話ではなかったのですか!」
「落ち着け! それもこれから説明する」
ユニウスセブンの破壊を妨害している。
それを聞いたパイロットたちに浮かんだのは、それではまるでユニウスセブンをいたして地球に向けて落とそうとしている者がいるのではないかという疑惑。
自然現象ではなかったのかと騒ぐ隊員たちに、エラムはそれもこれから話すから聞けと黙らせて、状況の説明を再開した。
「ユニウスセブンの落下が隕石の衝突ではないかというのは、あくまで推測であり確証があったわけじゃない。隕石が観測された記録もなかったからな。しかしユニウスセブンが動いていること、そして破砕を妨害しユニウスセブンの落下を企むテロリストがいるということは現実として今起こっている!」
「人為的なものだというのですか!?」
「それは不明だが、可能性は否定できない」
ユニウスセブンの地球への落下。
そんなふざけたことを企む存在があることに動揺するエラム隊の兵士たち。
彼らに隊長のエラムは「しかし──」と言葉を続けた。
「しかし──ユニウスセブンが落下すれば多くの犠牲を生む! 現状、これを阻止できるのは我々ザフトだけだ! カーペンタリアをはじめ、我らの同胞も多く住まう母なる星、これを破壊させるわけにはいかない! 総員、テロリストを駆逐しユニウスセブンの破砕を必ず成し遂げろ!」
「「「はっ!」」」
エラムの言葉を受け、エラム隊の隊員たちもわからないことだらけだが今やらなければいけないことを認識し、ひとまずの落ち着きを取り戻した。
「今は余計なことに目を向けるな、ユニウスセブンの破砕任務を成し遂げることだけを考えろ!」
まずはユニウスセブンを砕く。
余計なことは後回しにして今はそれだけに集中しろというエラムの指示を受け、混乱しているエラム隊も隊員たちもユニウスセブンの破砕任務に集中することとなった。
「では私も出る。この場を任せるぞ」
「はっ!」
こうして隊の混乱を落ち着かせたエラムは、自らも指揮官用ゲイツで出撃するべくブリッジを後にする。
「我々もこのままユニウスセブンに向かう! 進路そのまま──」
「艦長! ブルー2ブラボーより急速接近してくる熱源があります! 数1、距離3000!」
艦の指揮を任された黒服の副官が敬礼し隊長を見送り、引き継いだ艦の指揮に取りかかろうとした時だった。
索敵を担当するオペレーターから艦に急接近する謎の熱源があるという報告がもたらされる。
「照合急げ!」
テロリストの新手かもしれない。
照合するよう指示を出す副官に従いオペレーターは熱源のデータからその正体を調べたところ、データベースにヒットするモビルスーツ確認した。
「照合データあり! ……嘘だろ!?」
そしてそれにヒットした機体を見て、オペレーターは目を疑う。
「どうした、報告しろ!」
「該当あり──ZGMF-X11A“リジェネレイト”です!」
「何だと!?」
報告するよう命令する副官。
オペレーターから齎された報告に、彼も驚愕の声を上げる。
その機体はかつての大戦にてザフトが開発した、
「──ザフト艦2隻、モビルスーツを確認」
「最初の標的はアレでいいんだよな?」
「ザフトなら全部敵だ。ラルフ、まずは艦を潰すぞ」
エラム隊に迫る巨大なモビルスーツと、それに乗る2機のモビルスーツ。
戦場への新たな乱入者が、最初の獲物と見定めたジュール隊の支援に向かうエラム隊の艦を狙う。
そして、そのうちの1機は、武装や外装など異なる点があるものの、かつてオーブ解放作戦にてユノの祖母とシンたちの両親の命を奪い、ボアズでは兄を殺したピースメーカーの核ミサイルを届かせ、ヤキンでは婚約者のアランの乗る機体を落とし、そしてジャスティスにより散ったはずの機体と酷似するモビルスーツの姿があった。
「ケーシュ、ラルフ、準備はいいな?」
「はっ! 誰に言ってやがる?」
「無論」
「上等! 行くぞ!」
接近するモビルスーツを迎撃するべく、隊長のエラムらモビルスーツが出撃して彼らの前に立ち塞がる。
そこにリジェネレイトから飛び出した2機のモビルスーツ──有人機タイプの“ゲルプレイダー”と、機動戦用として開発されたカラミティの派生機“エールカラミティ”が攻撃を仕掛けていった。