もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら   作:ちゃーらんき

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リジェネレイト撃破では終わらない、むしろこっちが本命のユニウスセブン破砕作業の続きです。
唯一盗まれなかった水泳部員がミネルバにようやく合流します。


世界が終わる時

 

 リジェネレイトを撃退し、ルナマリアの救出には成功した。

 しかしすでにユニウスセブンは限界高度まで落下しており、これ以上の破砕作業は地球の重力に艦艇が捕まり離脱に支障をきたすこととなる。

 部隊の損害も大きく、これ以上のメテオブレイカーによる破砕は困難と判断したザフトは、ユニウスセブンからの撤退を余儀なくされることとなる。

 

 ユニウスセブン落下の阻止はできなかった。

 しかし少しでも被害を減らすために、タリアは艦首砲“タンホイザー”による破砕作業の続行及び地球圏への降下を決断する。

 

 エラム隊は謎の3機のモビルスーツの襲撃により旗艦ヘルダーが沈み、ディドロも損害が大きかったことから艦の放棄を決定。

 生き残りはジュール隊とミネルバが収容することとなり、元々ミネルバに配属予定だったこともありアビスはミネルバとともに地球へ降下することとなった。

 

 デュランダルはボルテールへ移乗し、復興支援に向け動くためにプラント本国へ戻ることとなり、ジュール隊はユニウスセブンより撤退。

 本人の強い希望により残ることとなったカガリを乗せ、モビルスーツ部隊に撤退指示を出したミネルバがタンホイザーを起動し最後までユニウスセブンの破壊を続行するため地球への突入準備に取り掛かった。

 

「新型、名を名乗れ」

 

「は、はい! シン・アスカです!」

 

「シン・アスカ、か……見事な腕だった。貴様と共に戦えたこと、嬉しく思う」

 

「……ッ! はい、俺のほうこそ貴方のような英雄とともに戦えたこと光栄に思います!」

 

 別れ際、イザークがシンに声をかける。

 大戦にてさまざまな経験を経て丸くなったとはいえ、それでも滅多に他人を褒めることがないイザークだが、ルナマリア機を救出した上にリジェネレイトに一太刀与えてみせたシンの技量に賞賛の言葉をかけた。

 

「見事だったぞ、シン・アスカ」

「グゥレイト! 女のために命張るの、カッコよかったぜ!」

 

 シホとディアッカも、去り際にシンへ賞賛を贈る。

 

 イザークたちから送られた賞賛は、シンにとって大きな自信になった。

 シンもまた嬉しそうに、シホとディアッカのザクに支えられながらボルテールに帰還するボロボロとなったイザークのザクファントムへ向け、艦に収容されるまで敬礼をして見送った。

 

「議長をお願いします、ジュール隊長」

 

「武運を祈る、グラディス艦長」

 

 デュランダルのシャトルとモビルスーツを収容したボルテールは、ミネルバに後を託しユニウスセブンより離脱。

 ミネルバはタンホイザーを起動し、最後の破砕作業に取り掛かることとなる。

 

 タンホイザーは強力な兵器だが、いまだにかなりの大きさの塊が複数残っているユニウスセブンの残骸を焼き尽くすことはできない。

 それでも地球への被害を少しでも減らすため、やれることは最後までやる。

 

「タンホイザー起動! メイリン、モビルスーツ部隊は?」

 

 タンホイザーの発射体制に入ったタリアが、最後にモビルスーツ部隊の収容状況を確認する。

 先ほどルナマリア機とともにアビスが帰投したことで全機を収容したと思っていたのだが──

 

「インパルス及びアスラン機がまだ帰投していません!」

 

「何ですって!?」

 

 メイリンから返ってきたのは、まだインパルスとアスランの乗るザクが帰投していないという報告だった。

 

 一方、リジェネレイトと引き剥がしたことでエネルギー切れを起こし停止したルナマリア機を抱えてミネルバに降りたアビス。

 そこで格納庫にインパルスもコアスプレンダーも姿がないことに気づいたユノが、ブリッジに通信を繋げる。

 

「メイリン、シンは?」

 

「インパルスはアス──いえ、破砕作業に協力していただいている民間人の搭乗したザクの捜索に向かっており、まだ帰投してません」

 

「え!?」

 

 メイリンから返ってきたのは、シンががまだ帰投していないという情報。

 再出撃許可は出ていなかったが、自分の命よりも弟が大事な重度のブラコンのユノが耐えられるはずもなく、すぐさまアビスをミネルバのハッチから飛び立たせた。

 

「待ってください! アビスがミネルバより発艦、インパルスの捜索に出たようです!」

 

「何ですとぉ!? おい、アサガオ! タンホイザーの発射体制に入るんだ、勝手なことをするな!」

 

 勝手に再出撃したアビスに、アーサーは直ぐに帰還命令を出すがユノは無視。

 血の繋がりこそないが、パイロットとして非凡な能力の持ち主であることといい、この命令違反といい、弟そっくりだとアーサーは頭を抱えた。

 

 そしてアビスの暴走の原因となったインパルスは──

 

「何してるんですか、帰還信号がでましたよ」

 

 シンもまた帰ってきていないアスランのザクの捜索をしており、倒れたメテオブレイカーの再設置をしていたところを発見して帰還するよう声をかけていた。

 

「ミネルバの艦首砲でも、外からの攻撃では確実とは言えない。これだけでも……」

 

 当然、アスランも帰還信号は受けている。

 しかし外側からの攻撃となるタンホイザーだけでは破砕しきることはできない。

 アスランは少しでも破片を小さく砕くために残されたメテオブレイカーの設置を進めており、これを設置したら戻るからと言いシンには帰還するよう促した。

 

「……何で、そこまでするんですか?」

 

 モビルスーツでできることは全てやった。

 限界高度も過ぎている。

 これ以上は待てないとタンホイザーをぶっ放すことがあれば巻き添えを喰らうかもしれないのに、ザフトでもない民間人になったのに、プラントではなく地球のために何でそこまでするのかと疑問を投げかけるシン。

 

 レノア・ザラが血のバレンタインの犠牲者にいたことは、ザフトでは有名な話だ。

 母親の眠る墓標なのに、地球にいるナチュラルが憎くないのかと。

 

「……憎しみは何も生まない」

 

「────ッ!」

 

 アスランから返ってきたのは、ありきたりな理想を語る者たちの出す常套句。

 しかし両親を失っているアスランがそれを口にするのは、まだ両親の死の憎しみを消せないシンにとって衝撃を受ける言葉だった。

 

「なんで、あんたみたいな人がオーブなんかに……」

 

「…………」

 

 シンのこぼしたその言葉は、一見するとアスランほどの人物が憎しみを向ける対象であるオーブにいることに対して理解できないという困惑の言葉に聞こえる。

 しかしアスランの耳には何となくだが、彼が「オーブなんかに」と地球ではなくオーブを指して言ったことから、表面上は嫌っていてもオーブのことを心底憎みきれていないように聞こえた。

 

「さっさとしてくださいよ」

 

 そして口では反抗的な態度をとりながらも、メテオブレイカーの固定に手を貸す。

 そんなシンを見て、アスランは口では過激なことを言いつつも彼の本質はやはり人を憎むのには向いていない純粋な心の持ち主なんだと決めつけた感じた。

 

 メテオブレイカーのタイマーをセットする。

 掘削機がユニウスセブンの破片に突き刺さり、破片に亀裂が入る。

 

「ほら、今度こそミネルバに戻りますよ!」

 

「ああ」

 

 もういいでしょう、とシンが促し、アスランも了承して2機のモビルスーツがミネルバへ帰還しようとした時だった。

 

「逃すかぁ!」

 

「なっ!?」

 

 テロリストで唯一生き残っていたサトーのジンが、アスランのザクにしがみついてきたのである。

 

「こいつ、まだ!」

 

 アスランのザクも、サトーのジンも、すでに武装を全て失っている。

 まるで1人でもユニウスセブンの落下に巻き込もうとするかのような行動。

 しがみつかれたザクは地球の重力の影響もあり、2機分のモビルスーツの重量を持ち上げられずユニウスセブンに落下していく。

 

「離せよコイツ──」

 

「ここで散った命の嘆き忘れ、討った者らとなぜ偽りの世界で笑うか貴様らは!?」

 

 すぐにシンがザクを掴むジンを切ろうと、もう一本のビームサーベルを抜刀した時、サトーがアスランのザクとインパルスへ通信を繋げ、この暴挙に出た──内に込められた憎悪をぶちまけてきた。

 

「えっ……?」

「何を……」

 

 何を言っているんだと困惑するシン。

 その言葉に、映像越しに見た血のバレンタインの光景が蘇るアスラン。

 

「軟弱なクラインの後継者どもに騙され、ザフトは変わってしまった……! 恋人を、親を、子を、娘を……愛するものを理不尽に奪われた我らの憎しみ! 我らの憎悪! ナチュラルどもがいる限り、終わることがない!」

 

「それ、は……」

 

「なぜ気づかぬか! 我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラの道こそが、唯一正しきものだと! アスラン・ザラ!」

 

「────ッ!?」

 

 通信を盗み聞いていたサトーは、このザクのパイロットがアスランであることを知っていた。

 何故パトリックの息子が、母を奪われた男が、ナチュラルに与するのかと、憎しみに満ちた声を向けるサトー。

 

「何故ジェネシスを止めた……!? 貴様の選択の末に何があった!? いまだにブルーコスモスのテロは横行し、数多の同胞の命が失われる! 故郷を捨て、母を奪った奴らとそんな世界を分かち合うのが貴様の望みだったのか!?」

 

「うっ……」

 

「ならばこのまま墓標と共に落ちろ! 貴様をあの世に導き、パトリック・ザラの前に晒してくれる!」

 

 アスランもまた、血のバレンタインの犠牲者の遺族の1人。

 戦争には今では断固として拒否の姿勢を示すし、憎しみが何も生まない、その連鎖を断ち切らなければならないことはわかる。

 

 しかし、サトーの怨念を受け、あの日理不尽に大切な人を奪われた者たちの憎しみを受け、そしてようやく戦争が終わったのにまだ平和から程遠い世界を見せつけられ、憎しみというものの大きさに動揺し操縦桿の動きが止まる。

 

「俺、は……」

 

「何してるんですか!?」

 

 ユニウスセブンに落ちていくザク。

 そこへインパルスが駆けつけ、ビームサーベルでジンの腕を切り落とし、離れたジンをユニウスセブンめがけて蹴り飛ばした。

 

「アラン……レオ……すまん……!」

 

 大気の摩擦熱に焼かれ落ちるジン。

 やがてユニウスセブンに機体が叩きつけられ、恋人の眠る墓標に消えた。

 

 動かずにいるザクを掴み、インパルスがミネルバに向かってスラスターを全開にする。

 しかしすでに地球の重力に捕まった2機は逃れられず、地球に向けて落ちていった。

 

「シン!」

 

「ね、姉さん!?」

 

 そこへインパルスの捜索に勝手に飛び出していたユノが合流する。

 すかさずユノはインパルスとザクを発見したこととその座標をミネルバへ送り、インパルスを捕まえた。

 

「心配かけないでよ、バカ! このまま大気圏に突入する、できるね!?」

 

「あ、うん!」

 

 愛する弟が無事でいたことに安堵しつつ、もはやミネルバへの帰還が困難であることからモビルスーツによる大気圏突入を決めるユノ。

 アビスのシールドでインパルスを守りながら、何とかザクで耐えているアスランの機体へと接近していく。

 

「艦長、アビスより通信! インパルスとザクを発見したとのこと! ミネルバへの帰還は困難のため、ユニウスセブンより離れモビルスーツによる大気圏突入を行うとのことです!」

 

「あいつら、勝手するにも限度ってものが──!」

 

「シンはともかく、彼女は地球に降りたら自室謹慎ね……タンホイザー起動! 照準右舷前方、構造体!」

 

「了解! タンホイザー、撃てぇ!」

 

 好き勝手してくれる姉弟に頭を抱えながら、送られてきた座標を元に彼らを巻き込まない方向の破片に向けタンホイザーを発射するミネルバ。

 大気圏へ突入しつつ、陽電子破砕砲にて大型の破片を砕く。

 

「エネルギー装填!」

 

「彼らを巻き込まないように注意しろ!」

 

「分かっています副長! 照準インディゴ、構造体!」

 

「撃てぇ!」

 

 まだまだユニウスセブンの破片は多い。

 エネルギーを充填後、第二射を発射し二つ目の破片を砕くミネルバ。

 

 落下するユニウスセブンの破片と、タンホイザーによる破壊の光景は地上から見えており、そして赤道を始めとする地球各地に破片が次々と落下してきた。

 

 混乱する地球側では各所で避難誘導を進める一方、落下の衝撃やそれにより起こる爆発、津波などにより各地に大きな被害が発生する。

 それはまさに人類の力など天災の前には遠く及ばないと見せつけるかのような、たった一つの物体の落下で何百万もの人々の命を消し去る大災害であり、想像を絶するほどの被害を発生させた。

 

「一つでも多くの破片を砕く! タンホイザー、照準左舷大型構造体!」

 

「撃てぇ!」

 

 すでに地表に落ちている破片もある中で、ミネルバは地上への被害をわずかでも減らすために最後までタンホイザーによる破砕を繰り返しながら、地球へと降下していった。

 

 そしてミネルバに帰還できなかったインパルスとアビスは、大気の摩擦熱によりボロボロとなりスラスターも効かなくなって落下するだけとなったザクの元に辿り着いていた。

 

「損傷のせいか、計器が効かない……! ブースターがなければ、大気圏では──」

 

 専用装備も持たずに行なった無理な大気圏突入により、ザクはかなりの損害を受けている。

 メインブースターも失い、大気の熱で計器も損傷しており、機体の制御を完全に失っている状態にあった。

 

 そこにアビスとインパルスが接近する。

 

「そのまま! シン、ザクをアビスのシールドの内側に!」

 

「分かった!」

 

「シン!? それに、あの機体はアーモリーワンの──」

 

 インパルスがザクを捕まえ、アビスのシールドの下に動かす。

 3機がまとまる形となり、アビスはシールドを駆使してインパルスとザクを守りながら、ミネルバへ座標を送ったことでタンホイザーに巻き込まれることなくユニウスセブンから離れ、地球に向けて降下していく。

 

「よせ、いくら新型でも大気圏の重力下でザクを抱えるのは──」

 

「全く、何であんたはいつもそうやって一人で背負い込もうと……! 俺を助けろとか言えないんですか?」

 

「……その方がいいのか?」

 

「いいえ、ただの例えです」

 

 一度は一緒に落ちてしまうと救助を拒否したアスランだが、シンから言い返され大人しくアビスのシールドの下に入る。

 そのまま成層圏を抜け、焼き尽くされることなく対流圏に入り雲の下へ降りることに成功した。

 

「高度4000……降下シークエンスに移行」

 

「ミネルバへ座標転送……ダメだ姉さん、ユニウスセブン落下の衝撃で通信が通じない」

 

「回復するのを待つか、向こうが見つけてくれるのを期待するしかないね。大丈夫、アビスとインパルスならザク1機を支えた状態でも十分減速して降下可能だよ」

 

 インパルスとアビスのスラスターにより、ザクを支えながら降下していく3機のモビルスーツ。

 ザクの搭乗者がアスランであることを知らないユノは、ミネルバへの帰投後に乗っていた意外な人物に驚くことになるが、それはまた別の話。

 

「センサーに反応! 左舷後方、距離400!」

 

「インパルス、アビス、ザク、3機とも無事です!」

 

「「「おお!」」」

 

「アーサー、艦を寄せて」

 

「はっ!」

 

 通信こそ効かなかったものの、幸いミネルバの位置が近かったこともあり、インパルスらを確認したミネルバからの発光信号の誘導もあって海面に降りる前に帰還することに成功した。

 

 インパルスとアビスに抱えられ、ミネルバへ戻ってきたアスラン。

 借りたザクはボロボロになってしまったが、無事帰還しカガリとの再会を果たした。

 

「アスラン! 無事で、よかった……」

 

「ああ。……ッ」

 

 無事の再会と、それに安堵する彼女に、アスランの表情も穏やかなものとなる。

 しかしユニウスセブンを落としたテロリストから受けた言葉に、その表情には翳りが見えた。

 

 一方、ザクを下ろしたアビスとインパルスからも2人の赤服が降りてくる。

 こちらにはレイとルナマリアの他、シンと親しい整備兵であるヴィーノやヨウランたちが駆け寄ってきた。

 

「シン、お前は心配かけさせんなよな!」

「ホントだよ、帰ってきてないって聞いて寿命が縮んだぞこっちは!」

 

「ごめんって」

 

 まずは駆け寄った2人の親友に飛びつかれ、彼らに心配をかけた事を謝罪するシン。

 2人の後に近づいてきたレイには、逆に謝られた。

 

「すまなかった、シン。リジェネレイトの対応をお前1人にさせてしまった」

 

「いや、あんなのどうしようもなかったって。俺だって1人じゃなんもできなかったし」

 

「だが、ルナマリアとアスランを助けた。それは紛れもないお前の功績だ」

 

「まあ、2人も無事でよかったよ」

 

 早々に撃破されてしまったことを悔いながらも、インパルスの活躍に彼にしては珍しく素直な賞賛の言葉を送るレイ。

 物言いや態度から誤解されることが多いが、別にレイは冷たいということはなく褒めるべき時は素直に相手を褒めるし、非があるときは素直に謝罪する実直な人物である。

 コイツ人を褒めるときあったのかよ、と言いたげな表情を2人の整備士が向ける中、付き合いの長いシンはレイの決して冷たい人間ではないところも知っているため、こちらも撃破されたのはレイの責任じゃないとフォローして、褒め言葉は素直に受け取った。

 

「撃破されるだけならまだマシでしょ。私なんて機体乗っ取られて危うく味方撃ち殺すところだったのよ」

 

 撃破されるだけならまだマシだと言いながら、ルナマリアがシンのところに来る。

 こちらはリジェネレイトに機体を乗っ取られて同士討ちを強要され、救出された後も機体のバッテリーが底をつきアビスに運んでもらい破砕作業にも参加できなかったと、致し方ないとはいえレイ以上にシンたちに迷惑をかけてしまったと、だいぶ落ち込んでしまっていた。

 

「今回は、本当に助けられたわ。大きな借りができたわね。……ありがとう、シン」

 

「いや、ルナが無事だったならよかったよ。それに、俺1人じゃ助けられなかった。ジュール隊長や姉さんたちのおかげだ」

 

 一つ年下の同期へ、素直に礼を口にするルナマリア。

 普段は彼女に揶揄われることもあるシンだが、今は救出できた仲間が無事だった対する安堵が大きく、またイザークたちがいなければ助けられなかったと強く感じていたため、ルナマリアの差し出した片手を礼と共に素直に受け取った。

 

「シン!」

 

 そこへ、アビスから降りてきたユノが駆け寄ってくる。

 彼女の声を聞いたルナマリアが避けた直後、愛する弟へ抱きついた。

 

「わっ!? ね、姉さん……!」

 

「シン……ホント、無事でよかった……! 帰還してないって聞いて、お姉ちゃんがどれだけ心配したと思ってるの!?」

 

「ご、ごめん……! それは悪かったって」

 

「おバカ! ホント……よく頑張ったよ……!」

 

 ミネルバに帰還していないと聞いたとき、どれほど心配したことか。

 大気圏突入に集中するため通信では言えなかったことを、再会できた弟を抱きしめながら伝える。

 

 マーレが乳牛女呼ばわりしていたパイロットスーツ越しでも目立つ胸に顔を埋めながら、姉に心配をかけたことに謝るシン。

 家族だけなら彼女の胸の中に抱かれるのは心地よく安心するが、さすがにこの場で姉に抱きつかれているのは恥ずかしい。

 離してとタップするも、ユノは離すどころかより弟を抱きしめる腕の力を強くする。

 

「姉さん、流石に恥ずいって……!」

 

「よく頑張ったね、カッコよかったよ! 大好き!」

 

「そういうのやめろよ! 離せって!」

 

「やだ、お姉ちゃんも頑張ったんだもん! シンのこともっと褒めたいし、こうして感じたいし、弟成分補充しきれてない!」

 

「もんとか言うなよ! レイ、助けてくれ!」

 

 ブラコンが大暴走したユノは、人目を一切気にしていない。

 羞恥心で真っ赤になるシンは抵抗するも力では振り解けずレイに助けを求めるが、彼からは微笑ましい視線を向けられるだけで助けに来てくれなかった。

 

「やっぱりこうなるか……」

「くそぉ……羨ましいぞ!」

 

「そんなこと言うなら代われよヴィーノ!」

 

「お前に俺の気持ちがわかってたまるかぁ!」

 

「意味わからないんだけど!?」

 

 2人の親友の整備兵もシンを助けるつもりはない様子。

 ヨウランは予想していた光景だとため息をつき、しょうもない嫉妬をシンに向けるヴィーノを引っ張ってシンを助けることなく行ってしまった。

 

「ルナ!」

 

「ルナマリアならアスラン・ザラの方に行ったぞ」

 

「なんでだよ!?」

 

 残ったのはルナマリアのみ。

 しかし彼女は姉弟の再会の邪魔をするのは野暮だと、すでにアスランの方に向かっていた。

 

 恥ずかしいからせめて見ないでどっかいってくれと訴えるも、レイは何故かずっとユノに抱きしられているシンを見守り続け、結局ユノがブリッジから呼び出しを受けるまでシンはなされるがままだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その後、太平洋上に降下したミネルバ。

 ユニウスセブン破砕中に飛んできた破片などもありその艦体は無事とはいかなかったものの、海面への着水は成功し、海上にて停止する。

 完全な破砕こそ叶わなかったが、ようやく状況が落ち着いたことでブリッジの乗組員たちも一息つき、メイリンは急いで席を立つと姉の元へと走っていった。

 

 地球各国は、この大災害の対応で忙しなく動き回っている。

 砕くことには成功したものの、落下した破片による被害は非常に大規模なものになっている。

 多くの都市にも破片は落下。

 地中海に落下した破片はパルテノン神殿を吹き飛ばし、北京へ落下した破片は都市を更地へ変えてしまう被害をもたらした。

 

 この未曾有の事態に、各国は救助に向け動き出す。

 プラントもすぐに災害派遣に向け動き、宇宙から支援物資を載せた部隊が地球各地へと降下して現地の災害救助隊と連携して動いている。

 

 しかし被害は甚大であり、今なお犠牲者の数は膨らみ続けている。

 

 その状況下で本国との通信もままならないまま太平洋を航行するミネルバは、まずはカガリとアスランをオーブに送り届けるため、艦の応急処置と通信機能、センサー類の修理が完了次第オーブ本国へ進路を取る予定となっている。

 整備兵たちが忙しなく動く中、手隙になったパイロットたちは甲板に出て射撃訓練を行なっていた。

 

 現在射撃場を使用しているのは、レイとメイリンの2人。

 ユノは自室で謹慎中、シンはユノに会いに行っており、ルナマリアも格納庫では再会を喜ぶ姉弟の場の邪魔をするのは無粋だからと遠慮していたので改めてリジェネレイトから助けてくれたことのお礼を伝えるべくユノの部屋に向かっていた。

 

 アスランは協力してくれた民間人でありザフトに彼を裁く権限はないし、ルナマリアは機体を乗っ取られたものの彼女の失態ではないとタリアは結論づけ不問とし、インパルスもザクの捜索に出向いて遅れたものの帰還命令には従っていたため不問となり、勝手な再出撃をしたユノのみが帰還後アーサーに散々説教を受け自室謹慎を命じられ、あてがわれた部屋に閉じ込められることとなった。

 現在は自室に謹慎しており、姉だけが罰を受けることとなった事に申し訳なさを感じて会いにいったシンと扉越しに話をしている。

 

 レイは正確に人型を模した的の頭部と胸部の中心付近に銃撃を当てており、隣のメイリンはオペレーターながら射撃に関しては優れた技量を持っておりこちらもレイには及ばないものの的の中心付近に多くの銃弾を命中させていた。

 

 カガリは現在タリアと会っており、ミネルバがオーブに向かう旨を伝えられている。

 1人になり休んでいたアスランだが、サトーの言葉がずっと彼の頭に響いており、部屋に閉じこもっては気が滅入ると艦内を歩いていたところで偶然射撃訓練に勤しむ2人を見つけた。

 

「訓練規定か?」

 

「アスランさん? あの、アスハ代表は……」

 

「彼女はタリア艦長と一緒だ。……すまない、邪魔だったか?」

 

「い、いえ……」

 

 艦内ではほとんどカガリのボディーガードとして一緒にいるアスランが1人でいたことに疑問を抱いたメイリン。

 彼女の質問にアスランが今はタリアと一緒にいる事を伝えると、無心で銃を的に撃ち続けていたレイが弾切れになったタイミングで銃を置き、アスランの方を向いて敬礼をした。

 

「この度はユニウスセブン破砕作業にご協力いただいた事、感謝いたします」

 

「いや、君たちの尽力によるものだ。礼を言われるようなことはしてないさ。……それに、破片の落下は防ぎきれなかった」

 

「…………」

 

 民間人でありながら破砕作業へ協力してくれたことへの感謝をザフトの軍人として伝えたレイだが、結局落下の被害を防げなかったこととサトーの言葉が頭に残るアスランはそれを素直に受け取ることができなかった。

 

 悔しさを表情に滲ませるアスランに、見ていられなかったメイリンが声をかける。

 

「で、でも……皆さんできることを全力でしました! 被害だって、最小限に抑えられた……はずです……」

 

 落ち込むアスランをフォローしたかったメイリンだが、プラントの人間が軽々しく被害を最小限になどと言うべきかと感じ、途中で声が沈んでしまった。

 

 ユニウスセブンの破片の落下により、各地で巻き上がったチリが雲のように地球を覆い、海を灰色に染めている。

 地球を一周してきた衝撃波が、落下してから何度もミネルバにも伝わってきた。

 どれほどの被害が出たか計り知れない。

 

──なぜ気づかぬか! 我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラの道こそが、唯一正しきものだと! 

 

 サトーの言葉はいまだにアスランの頭に響いている。

 

──終わるさ、ナチュラル共が全て滅びれば戦争は終わる! 

──討たねばならんのだ! 討たれる前に! 敵は滅ぼさねばならん! 

──撃て……ジェネシ……我らの……世界を……奪った……報い……

 

 ナチュラルをひたすら憎み続けた父親の言葉が蘇る。

 戦争が終わっても、憎しみは消えることはない。

 それが産んだ無差別大量虐殺の悲劇。

 

 最後まで和解することができなかった父親。

 その父が残した怨念に突き動かされたテロリストたちの起こした蛮行。

 母が命を奪われた墓標が、父の残した怨念によりジェネシスに匹敵するかそれ以上の大量殺戮を起こした道具にされたことに、そしてそれを止めることができなかったことに、アスランは苦悩と後悔と悲哀が入り混じった表情で灰色の空を見上げた。

 

(キラ……)

 

 あいつならどうしたのだろうか。

 最初は敵として、そして最後は味方として、大戦を戦い抜いた親友に思いを馳せる。

 

 灰色の空は雷を鳴らすばかりで答えを返してくれない。

 その雷鳴が、アスランにはこのユニウスセブンの落下で犠牲になった罪なき人々の慟哭のように聞こえた。




『ユニウスセブン落下テロ事件』はここまでになります。
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