もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら   作:ちゃーらんき

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ブレイク・ザ・ワールドの顛末と、その後の情勢、オーブに向かうミネルバの様子になります。
アスラン達は今回お休みで、オリ主とシンが中心になります。


混迷の大地

 

 ブレイク・ザ・ワールド──

 

 地球全土に未曾有の被害をもたらしたユニウスセブン落下テロ事件。

 ユニウスセブンの破砕には成功し、ペルム紀や白亜紀の終焉に代表される長期的かつ大規模な環境改変を引き起こす災害に発展することだけは何とか防げたものの、無数に砕け世界中に降り注いだ破片の落下による被害は大きかった。

 

 中規模の破片が直撃したことによる被害が発生したのは、北京、ローマ、フィラデルフィア、ゴビ砂漠、大西洋北部、ケベック、パルテノン、上海など。

 いずれの都市も落下による衝撃波や地震、津波などにより都市に壊滅的な被害が発生し、地球全体で億に達する規模の死者・行方不明者を出している。

 

 また無数の破片は海にも降り注ぎ、特に大西洋やインド洋沿岸の地域に津波となって襲い掛かり、中規模の破片が落下したニューヨークなど大西洋北部沿岸が都市すべてが水没するという事態を始め、多くの被害を出すこととなった。

 

 この非常事態を受け、地球各国は国家の枠組みを超え人類一丸となって災害対応に奔走することとなる。

 プラントのデュランダルも地球への災害支援の協力を表明すると、支援物資を乗せた艦隊を地球へ派遣し、物資支援と共にモビルスーツを用いた瓦礫撤去などの救助支援活動を行った。

 

 一方、大西洋連邦は地球各国の災害救助及び復興を世界規模で連携させるためという名目のもと、地球全土に新たな同盟締結を提案。

 ユニウスセブンに眠るものたちの怨念によるものか、大西洋連邦とともに特に大きな被害を受けることとなった地球連合の主要国であるプラント理事国の東アジア共和国とユーラシア連邦がこれに同意し、新たな地球連合が結成されることとなる。

 中立姿勢をうたうスカンジナビアやオーブ、地球連合に対する反発が強い親プラント国である南アメリカや大洋州などの国々は慎重な姿勢を見せたが、その後大西洋連邦がユニウスセブンにて入手したというとある画像データが公開されたことでこれら中立国に大きな動揺が走ることとなった。

 

 その画像データはブルーコスモスの後継であり地球経済を牛耳る軍産複合体ロゴスが入手したものであり、そこにはユニウスセブンにてフレアモーターを設置し人為的にユニウスセブンを動かしたサトーたちのジン・ハイマニューバ2型と、ユニウスセブンの破砕任務に従事するザフトを襲撃しそれを妨害する条約で保有を禁止されているはずのミラージュコロイド・ステルスを搭載する核動力モビルスーツファーストステージシリーズの1機であるリジェネレイトの姿が映っていたのである。

 

 大西洋連邦が事実確認を行ったところ、プラントはユニウスセブンの落下が自然災害ではなく人為的に引き起こされたものであることを大筋で認めた。

 実行犯のテログループがプラントを離反した過激派の元ザフトであることと、テロリストのモビルスーツに確認された装備の斬機刀がプラントとジャンク屋組合などで取引されているものと同様の装備であることをプラントの最高評議会が認めたことを受け、地球ではユニウスセブン落下テロ事件がコーディネイターによって引き起こされた事態であるという認識とともに反コーディネイター感情が急速に拡大することとなった。

 

 大西洋連邦が発表したユニウスセブン落下テロ事件の実行犯の正体と、プラント側の示した見解。

 かつての大戦で破壊されたはずの、ユニウス条約を違反しているミラージュコロイド・ステルスと核動力を搭載しているリジェネレイトもジャンク屋組合が秘密裏に修復・保有していたものをテロリストに提供していたなどというデマまで流れた。

 そして地球側ではユニウスセブン落下をザフトとジャンク屋組合が共謀して起こしたなどという事実と全く異なる噂まで起こり、仮初であっても平和になったはずの世界に再び戦火が巻き起こることとなる。

 

 反コーディネイター感情の拡大を受け、中立国であったはずのオーブも大西洋連邦の提示した新たな地球連合を結成する同盟に加盟。

 国是として中立維持を掲げてきた技術立国であるオーブの地球連合への加盟は、他の中立姿勢を示す地球諸国にも影響を与え、再び世界は地球連合とプラントに2分されようとしていた。

 

 そして、膝に黒猫を置きながらその世界情勢に関する報告をモニター越しに大西洋連邦大統領のコープランドから聞く男の姿があった。

 

「──それは僥倖。オーブの加盟は今後のプラント制圧に向け大きな戦力となるでしょう」

 

「ジブリール殿、いくらなんでも性急ではないですか? ユニウスセブン落下の被害は深刻であり、我々大西洋連邦もこの情勢下で戦争など、世論が認めるはずが──」

 

「立場を弁えたまえ、コープランド。月の宇宙軍が無事ならば、プラントを滅ぼす戦力は十分。世論はこちらでなんとかする、お前達はあのコーディネイターどもが宇宙にバカスカ作り上げた忌々しい砂時計を焼き払う準備を進めなさい!」

 

 大西洋連邦の大統領が下手に出なければならないその男は、コープランド率いる政党にとっての有力な支持母体である軍産複合体ロゴスのトップであり、ブルーコスモスの現在の盟主である。

 名はロード・ジブリール。

 アーモリーワン事変を起こしセカンドステージシリーズを強奪した実行犯である特務隊ファントムペインらを傘下とする、軍事産業を中心に大西洋の経済界を牛耳る大物である。

 

 彼もまた、地球とプラントの戦争を扇動しそれにより財をなす死の商人の1人。

 その目的は再度の大戦を引き起こし、コーディネイター達を排除して宇宙の利権を得ることにあった。

 

 ユニウスセブン落下テロ事件。

 この大惨事は、ジブリールも知らない場所で行われていたことだが、彼はこの事件を己の目的に利用しようとしていた。

 

「忌々しいコーディネイター共めが……!」

 

 ジブリールの苛立ちを感じた猫が、膝の上から降りる。

 

 仮初の平和が終わる時が近づいていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 太平洋上を航行するミネルバは、艦の損傷などにより本国との通信ができなかったことや、広い海を1隻でオーブに向けて進んでいるという孤立した状況もあり、これら世界情勢の動きを把握できていなかった。

 

 それでもオーブ本国とは通信を繋ぐことができ、カガリを送り届けるためオーブ領オノゴロ島への入国許可を得た。

 その際、Gシリーズをはじめとする大戦に大きな影響をもたらす兵器を開発したオーブ唯一の軍需企業モルゲンレーテにてミネルバの修復と補給を受けられることとなり、ミネルバは進路をオノゴロ島に向けることとなる。

 

 レイ達が甲板に出て射撃訓練を行っていたころ、ユニウスセブン破砕作業時にインパルスの捜索と救出のためとはいえ無断で再出撃を強行した上にモビルスーツで地球へ降下を行うという勝手な行動をとった責任をとり自室謹慎となっていたユノの元に、シンが訪れていた。

 

「姉さん、いる?」

 

「シン? 謹慎中の接触は許されてないってへっぽこトラインから言いつけられてるでしょ、見つかる前に戻りなさい」

 

「へっぽこって……いやまあ抜けてるとこあると思うけどさあの人」

 

 ロックのかけられた扉越しに声をかけると、副長のアーサーに対して弟成分の補充と称して散々抱きついていた時間を切り上げる呼び出しをした事を根に持っているユノからの返事が聞こえてきた。

 

 愛する弟が会いにきてくれたことはとても嬉しい。ロックされている扉を今すぐ蹴破りベッドに引き摺り込んで一日中くっ付きたい。補充しきれていない弟成分を今度こそ満足いくまで補充したい。くっつく間、とことん褒めて甘やかしたい。

 シンの声を聞いて、ユノは暴走するブラコンが一線を踏み抜きかねない欲望が溢れ出そうになった。

 

 しかし、自室謹慎を命じられているユノには謹慎が解かれる明日まで接触するなという指示がアーサーからクルーへ出ている。

 自分のせいで今回誰よりも頑張った弟にペナルティが出されるようなことがあれば、ユノは今度はアーサーを殴ってしまいそうになる。

 誰かに見つかったらまずいからとユノは断腸の思いで湧き上がる欲望に蓋をして、表情はダラッダラになっているが声はなんとか冷静さを保ちながら、シンにすぐここから離れるように言った。

 

 謹慎中で接触禁止となっている自分に、リスクを冒してまで会いにきてくれた弟を追い返す。

 それは、シンのことが大好きなユノにとっては身を引き裂かれるような思いである。

 そして姉弟の仲を引き裂く事を企むお邪魔虫のアーサーのことは、今後一生へっぽこ呼ばわりしてやると心に決めた。言いがかりも甚だしい。

 シンの方はアーサーに対するへっぽこ呼ばわりに関しては、人柄は良いが有事には頼りないので否定しなかった。アーサーは泣いていい。

 

「でも、今は誰もしないし……ほら、部屋にも入ってないしさ。そう、これはただの独り言!」

 

「ちょっと、可愛い弟にそんな悪知恵教えたの誰!? 嬉しい──じゃなかった、お姉ちゃんに教えなさい!」

 

 扉が遮ってシンには見えていないが、声は平静を装っているユノの表情はデレッデレである。

 ……訂正、すでに声も平静を装えなくなりつつある。心の声が溢れ始めている。

 

「屁理屈覚えたシンも可愛い……ふへへ……はっ! そ、そんなのどうでもいいところで真面目になるへっぽこトラインに通じないかもしれないでしょ! お姉ちゃん嬉しかった──違った、ザフトとしての自覚を持って! 今度はシンが謹慎になっちゃうかもしれないの! ちゃんと命令には従いなさい!」

 

「ご、ごめん……」

 

「待って待ってお姉ちゃん怒ってないよ! シンは悪くないから、とっても優しい自慢の弟だから、そんなに落ち込まないで!」

 

 それでも辛うじて取り繕いザフトの先輩として副官の命令には従うように叱りつけると、自分のことを思って叱ってきたユノの言葉に申し訳なさを感じたシンは申し訳なくなり小さい声で謝る。

 その謝罪を聞いたユノは辛うじて取り繕っていたメッキがついに剥がれ落ち、叱ったことにシンがショックを受けたと思い込んで慌てて扉に取り付き必死で励ました。

 

「嘘だよお姉ちゃんシンが来てくれてすっごい嬉しいの! トラインとかもうどうでもいいしあんなへっぽこの命令なんて! それに何があってもお姉ちゃんが守るから安心して!」

 

「いやもうさっきと言ってること真逆じゃん……」

 

 声は辛うじて平静を装っていたが、付き合いの長い弟はお見通しである。

 そして別に落ち込んだわけではないのに過剰反応していつまでも弟離れできない姉に、こっちの方が心配になるわと心の中でぼやきながら扉の向こうの相手には聞こえない小さい声で即座にさっきの発言を全否定してきた姉の手のひら返しにツッコミがでた。

 

 ユニウスセブンでのテロリストとリジェネレイトの襲撃、ルナマリアの救出、そしてユニウスセブンの破砕。

 アーモリーワンで戦場に置いてきてボギーワンの追撃に移り、それからというものカオスなどとの戦闘中も再会するまで姉の安否が気になってしかたなかった。

 そしてようやく訪れた再会からも、地球に降りるまで姉とゆっくり言葉を交わす時間もなかった。

 

 落ち着いた時にその声をゆっくり聞きたかったし、ルナマリアを助けるために戦ってくれたお礼も言いたかった。

 だからアーサー達の目を盗んでこっそりとこの部屋を訪れた。

 そしてもはや慣れてしまった平穏な場で聞けるユノのブラコンを爆発させてる声を聞いて、やっとこの姉がちゃんと生きているんだという安心感を得られた。

 

「ドタバタでここまで全然ゆっくりできなかったけど、やっと姉さんの声をこうして聞けて、安心したよ」

 

 アーモリーワンを出てからずっと心に抱えていた不安が取り除かれたシンは、扉に背を預けるようにして通路に座り込む。

 シンの言葉に愛する弟に心配をかけてしまっていたことを知ったユノは、ブラコン大爆発の落ち着かない状態から、今度は慈しむような穏やかな声になった。

 

「何言ってんの。お姉ちゃんは強いんだから、シンに心配されることなんて何もないよ。……でも、ありがと」

 

「……俺の方こそ、ありがと。姉さんがいなきゃルナを助けられなかったし、地球に降りる時もインパルスだけじゃ落ちてたかもしれなかった」

 

 ユノの言葉にシンは照れくさくなり、顔を赤くしながらもルナマリアを助けるのに力を貸してくれたことへのお礼を口にする。

 

 シスコンを暴走させることも多い、姉のような存在である幼馴染。

 照れくさくて素直になれず、他の人間の目がある場ではありがとうの一言すら言えないことの多いシンだが、彼もまたこの血のつながりがない家族のことが心の底から大好きであり、そして恩人として慕ってもいる。

 強がっていてもまだまだ甘えたい年頃でもあり、なんだかんだ言って他人の目さえなければシンはユノに素直になれることは多かった。

 

 2人きりになれば素直になることの多い弟が、それでもやっぱり照れくさくて小さい声で言ったお礼の言葉。

 それを聞いたユノは、顔を赤くしているシンのことが容易に想像できて、その姿が愛しくて、優しい微笑みを浮かべながら扉を触れた。

 

「シン……カッコよかったよ。ユニウスセブンの時だけじゃない、アーモリーワンでもガイアに近接戦で押してたし、艦の記録から拾ってきたけどブラストインパルスでカオスとデブリベルトで戦えてた。使いこなしてるね、インパルス」

 

 アーモリーワン事変が初の実戦でありながらシンはこれまでの戦場で決して容易ではない強敵達と戦い生き残ってきた。それは紛れもないシンの非凡な操縦技術と戦闘センスによる実績である。

 ソードインパルスを使いコロニーの地上でガイアと渡り合い、ブラストインパルスを使い障害物だらけの宇宙でカオスと渡り合い、そしてユニウスセブンではリジェネレイトを撃退した。

 身内贔屓が混じっているとはいえ、ユノはシンのこれまでの戦果を褒め、彼がインパルスを使いこなしていることを賞賛した。

 

「……うん」

 

 模擬戦では何度もボコボコにされてきたユノの強さを知るシンにとって、その賛辞は誇らしく自信につながるものとなる。

 遥か高みにいる凄腕のパイロットであることを抜きにしても、家族から褒められるというのは素直に嬉しい。

 頬が緩むのが我慢できず、扉の奥にある家族を含め誰にも見られていないだろう通路で1人シンは嬉しさを噛み締めて笑みを浮かべた。

 

 アカデミーに入った頃は、オーブで生まれ育ったシンにとってモビルスーツは縁遠いものであり、成績は散々なものだった。

 それでも引き取ってくれた姉を守りたい一心で、同期たちにも恥を偲んで頭を下げて頼り、必死に技術を磨いてきた。

 それでも勝てない壁はあり、なんとか赤服を受領するもインパルスのパイロットになったばかりの頃は贔屓だの裏技を使っただのとバカにされ否定されることも多かった。

 

 何度も挫けそうになったが、決してシンのことを否定せず背中を押し続けてくれた人がいた。

 ユノはその1人。

 ザフトを目指すと言った時には誰よりも猛反対した彼女だが、アカデミーに入ってからはいついかなる時も味方でいてくれた。

 誰よりも1番多く褒めてくれた相手。

 それでも、いつ聞いても彼女に褒められるのは誰からの賞賛よりもシンにとっては嬉しいものである。

 

 人差し指で鼻を擦るシン。

 そして顔を上げると、アーサーの目を盗んでリジェネレイトから助けられた件のお礼を言いにユノの部屋に来ていたが先客がいてタイミングを測っていたルナマリアと目があった。

 

「あ……あ、あら奇遇ねシン。あんたもユノさんに用?」

 

 見つかったルナマリアは、しまったという表情となる。

 そしてなんとか取り繕おうと、今来ましたよと嘯いた。

 

 しかし、通路で隠れていた様子は目があったときにシンも見ている。さすがにここまでわかりやすい演技には騙されない。

 歩き方も目の動きもだいぶぎこちない。ルナマリアとしても見つかってしまうのは想定外だった。

 

「……いつから?」

 

「さ、さっき──ごめん、へっぽこトラインのあたりから」

 

「ほとんど全部じゃん!」

 

 誰もいないと思って油断していたシンだが、隠れていたルナマリアはへっぽこトライン発言のあたりから2人の会話を聞いていた。

 隠しきれないと早々に降伏したルナマリアが真実を伝えると、シンの顔は先ほどとは別の意味で真っ赤になる。

 他の誰にも聞かれたくなかったことも全部聞かれていたので、トマトのように顔を赤くしたシンは涙目を浮かべながらその場から逃げ出した。

 

「ちくしょー!」

 

「シン!? ちょっと待ってどこ行くの!?」

 

 そして扉の向こうで何が起きたのか知らないユノからすれば、突然シンが大声を上げて走り去ったようにしか聞こえない。

 

「待って! お姉ちゃん何かしちゃったの? もしそうなら謝るから、お願い待って!」

 

 混乱するユノはもしや嫌われてしまったのではないかと思い、ロックをかけられた扉を叩く。

 しかし走り去ったシンの耳には聞こえず、離れていく弟を止められない。

 

「何で……お姉ちゃんのこと嫌いになったの……? やだやだやだ! シンに嫌われたら僕生きていけない! 早く追わなきゃ……開けろこのくそドア!」

 

 そして愛する弟に嫌われたと思い込んでしまったユノはブラコンが再び暴走をはじめ錯乱する。

 ロックのかけられた扉を内側から蹴り付け、力尽くで閉じ込められている部屋からの脱出を図ろうとしている。

 それに気づいたルナマリアが、慌ててユノを宥めるために声をかけた。

 

「お、落ち着いてください! ユノさん私です、ルナマリアです!」

 

「ルナマリア……? シンはどこ!?」

 

「いやその……多分今あいつが逃げていったの、私のせいです」

 

 部屋の中にいるユノに、ルナマリアがとりあえず事情を説明する。

 アカデミーからの同期として付き合いの長いルナマリアは、シンの強がりな子供っぽいところもよく知っており、姉と2人きりの時だけ見せる素直な姿を見られたのが恥ずかしくて逃げ出したということを察していた。

 

 そして弟へのスキンシップは人目を気にしないため、人前では離れろと文句を言ってくる素直になれない姿も知っているユノは、ルナマリアから説明されて納得した。

 

「そっかぁ……てっきり嫌われちゃったと思って焦った。なんかごめんね、驚かせちゃった?」

 

「まあ驚いたのは確かですけど、割とよく見た光景なんで……それに、あいつがユノさんのこと嫌いになるとか無いですよ。絶対、あいつの方もシスコン拗らせてますから」

 

 ルナマリアの説明でシンが逃げ出した理由が自分を嫌いになったことでは無いことを知って安心したユノは、ブラコンも落ち着き普段の様子に戻った。

 ブラコンか復讐心が爆発している時は人が変わるが、普段の彼女は冷静でしっかり者であり、後輩たちを気にかけ助けることを惜しまない人格者である。ブラコンか復讐心が爆発さえしなければ、至ってまともなのだ。

 

 ユノはルナマリアが自分を訪ねてきたことを知らない。

 謹慎中の接触禁止はルナマリアも通知を受けているはずなので、ユノはルナマリアの目的はシンでは無いかと思い、この後輩が誰かに見つかり罰を受けてしまう前にここから離れるように忠告する。

 

「ところでルナマリアはシンのこと探してたの? 僕のことはいいから、用があるなら追いかけな。ここにいたら接触禁止令を破ったって誤解される。それにシンは結構足速いから、本気で逃げると追いかけるのは苦労するよ」

 

「それには及びません。私はユノさんに用があってきたので」

 

「僕に?」

 

 しかし、ルナマリアの目的はシンではなくユノにある。

 明日には謹慎を解かれるのでこそこそしなくても会いに行けるが、ユノはパイロットとしての技量はもちろん優秀だが、普段の本業がこちらなので自ら機体を整備できるなどエンジニアとしても優秀である。

 専門的な技術と知識を求められるアビスの整備チームもアーモリーワン事変でほとんど殉職しているため、インパルスやザクと異なり彼女の機体は調整ができるメンバーが少ない。プラント本国から地球上での復興活動が命令されれば、海での活動が主体であるアビスの出撃頻度は増える可能性が高い。

 

 もちろん機体の扱いや戦闘面のアドバイスを求められれば応じてくれるが、2人きりになれる機会というのは少ない。

 せっかくできた時間もシンの所に行くのが容易に想像できるので、多忙になるだろうユノの元を訪ねられる機会は減るはず。

 メイリンという妹がいることもあり、社交的なルナマリアはシンのような子供っぽいところは少ないが、それでも仲間に多大な迷惑をかけてしまったリジェネレイト戦については申し訳なさや恥ずかしさも感じていたので、ユノへのお礼は2人きりになれる時の方が良かった。

 

 そしてユノが謹慎中にある今は、そのチャンスである。

 ルナマリアが謹慎中にも関わらず訪ねてきた用件が分からずにいるユノに、ルナマリアは扉越しに深く頭を下げた。

 

「ありがとうございました。あの巨大モビルスーツから救っていただき、そして動けなくなった機体をミネルバに届けていただいたことの感謝を、伝えられてなかったので」

 

 ルナマリアの言葉を受け、ユノは扉の向こうで頭を下げている後輩へと穏やかな笑みを向けた。

 

「律儀な子なんだから……僕は手伝っただけ、ルナマリアを助けたのはシンだよ」

 

「いいえ、シンだけじゃない。あの時、ジュール隊長と彼の副官の方々、そしてユノさんがいてくれたから、私は生き残れました。皆さん全員に助けていただいたのです」

 

「そう言われたら弱っちゃうな……」

 

 感謝するなら囮しかしてない自分よりもリジェネレイトから切り離して助け出したシンにするようにと伝えるユノだが、自分を助けるためにリジェネレイトに立ち向かう姿を見ていたルナマリアは5機のモビルスーツ全員がいたからこそ救出されたということを知っている。

 当然その中には囮としてリジェネレイトの正面を受け持ち、シンたちがリジェネレイトから切り離すためのチャンスを作ったユノの存在も必要だったこともわかっていた。

 

 イザークたちの存在もあったからこそと言われてしまえば、ニコルの仲間たちにも甘いユノは否定できなくなってしまう。

 ならばとルナマリアからの感謝は受け入れることにし、彼女がこの件で救出に挑んだものたちに負い目を感じているならばそんなものは必要ないとフォローを入れることにした。

 

「ルナマリア、君が負い目を感じる必要はない。戦を知らないひよっこが先輩の足引っ張るなんて当たり前、その経験を肝に銘じて己の技術に取り入れなさい。それが君の仕事だよ。失態の責任を取るのは、ひよっこ卒業してからだ」

 

「はい!」

 

 まだまだ踏んでいる場数が少ないひよっこなら、先輩に迷惑をかけるなど当たり前のこと。

 ひよっこは負い目を感じる必要も、責任を感じる必要もない。

 失態の責任を取るならば、足を引っ張ることなく1人で戦える兵士になってから。

 ひよっこが責任を取るのだとしたら、それは1日でも早く一人前の兵士に辿り着くことだと説く。

 

 それを受けたルナマリアは、自分もまた赤服を授かったザフトの一員として1日でも早くその兵士に辿り着くために精進することを改めて心に誓い、尊敬する先輩へ向け敬礼をしてからユノの部屋の前から去っていった。

 

 真面目な彼女のことである。

 シミュレーターか、射撃場か……勤めを果たす兵士になるために、訓練に励むべく向かったのだろう。

 

「でもね、君たち若人が兵士になる必要なんて本当はないんだよ……」

 

 ルナマリアが去った後、ユノは彼女や愛する弟たちに向けるように呟く。

 それは彼女の願い。

 戦争なんてものは、兵士として立っている大人の自分達が片付けることであり、まだまだひよっこの若者たちがでしゃばるべきものじゃない。

 

 ユノは戦争に全てを奪われた。

 平和な世界の構築は間に合ったけど、それがこの先ずっと続く保証はない。

 家族も恩人も婚約者も失う。そんな経験を平和な時代を生きるべき後進たちにさせたくはなかった。

 

 だが、ユニウスセブン落下は薄氷の平和を壊す可能性が高い。

 

(大丈夫。そうなったとしても、もう絶対に死なせたりしない。マユも、メイリンも、これ以上家族を失う経験を子供達にさせたりしない。僕が守ってみせるから)

 

 それでも……たとえ戦火が再び燃え上がったとしても、今度こそ守ってみせる。

 シンもルナマリアもレイも、絶対に死なせないと決意を漲らせる。

 

 瞼の裏に刻まれた記憶、夢に何度も見た記憶。

 それは目を閉じれば今でも思い出す。

 

 ニコルを討ったトリコロールカラーのモビルスーツが。

 父をサイクロプスの餌食にする情報を流したクライン派の裏切り者が。

 その手先としてオノゴロ島を戦場に変え、祖母を奪い、シンたちから親を奪い、マユを2度と歩けない体にした裏切り者の手先のモビルスーツが。

 

 兄と婚約者の仇であるカラミティは、ジャスティスによって葬られた。

 だがユニウス条約締結後に姿をくらませたあの機体は、それを駆使するコーディネイターは今もどこかで生きている。おそらく、あのシーゲルの娘と共に。

 

(絶対に、お前にこれ以上僕の大切なものを奪わせたりはしない……)

 

 ユノにとっては恩人と父親の仇──憎悪を向ける対象であるその機体は、記憶に強く残っている。

 それ故か、根拠などないのにこの先巨大な戦火が巻き起こった時、あの自由の名を掲げるモビルスーツが敵として出てきて、ユノの大切な家族に牙を向けるという予感がした。

 

 

 

 そして、仮初の平和は崩れ落ち、その予感は現実のものとなる。

 ミネルバはプラントとの戦争準備を密かに進める大西洋連邦の動きと、向かう先であるオーブがその大西洋連邦と同盟を締結したことをまだ知らない。

 

 ユニウスセブンの破片落下の影響により舞い上がった灰に覆われた薄暗い空が、その過酷な未来を示唆しているかのように不気味な雷雨を太平洋の海に降らしていた。

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