もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら   作:ちゃーらんき

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ミネルバのオーブ入港になります。
アニメではphase 8『ジャンクション』にあたります。



ソロモン沖海戦
オノゴロ入港


 

 それは、ユニウスセブン落下テロ事件の直後にて世界が未曾有の大災害の被害による混乱に陥っていた時のこと。

 

 オーブ連合首長国領である太平洋に浮かぶとある島にて。

 盲目の神父が経営する孤児院のあるこの島は、破片の直撃こそ幸いなことに避けられたものの、綺麗な青い海を浜辺より見渡せる素敵な景色に彩られている普段の光景は消え、ユニウスセブンの破片が落下した影響により海と空が荒れ灰色に染まり、津波によって流されてきた瓦礫や破片などの破壊の惨状が浜辺を荒らす酷い状態になっていた。

 

 落下の衝撃波が落ち着いたころを見計らい、地下のシェルターに避難していた孤児たちを連れ盲目の神父が地上に出てくる。

 地上にあった教会などの建物は衝撃波で倒壊しており、木々も倒され、勉学や遊びの合間に子供たちが育ててきた野菜などの植物が植えられていた畑もボロボロとなっている。

 

 空に広がる雲では雷が轟音を立て続けており、汚れた海には破片と共に衝撃波などにより骸になった魚が無数に浮いている姿も見える。

 

 酷い惨状に怯える子供達に声をかけながら浜の方に向かう神父。

 

「先生! 人がいるよ!」

 

「!?」

 

 破壊の惨状が水に攫われ打ち上げられた浜に、子供達が人の姿を見つける。

 

 瓦礫に混じり、浜辺に打ち上げられていたその人物は、ザフトのモビルスーツパイロットに支給されるノーマルスーツを着用した、顔に横一文字の傷がある男だった。

 

 

 

 

 

 オーブ領、オノゴロ島──

 

 太平洋の島国であるオーブ連合首長国。

 代表であるカガリとその護衛のアスランを送り届けるため、ミネルバはオーブ領の島の一つであるオノゴロ島へ入港した。

 名目はカガリを届けるためだが、予定外の地球への降下となったのでプラント本国と連絡をとり復興支援か、次の任務に赴くためにボギーワンとの戦闘から応急処置で済ませてここまで戦ってきた艦の整備及び補給をする必要があり、オノゴロ島の軍港にてそれを受けることとなった。

 

 ユノとシンにとって、この島は故郷であり、家族が命を落とした地である。

 オノゴロは幸いユニウスセブン落下による被害は少なく、かつて地球連合によって徹底的に破壊された軍港も終戦以降復興が進み元の姿を取り戻していた。

 

 入港後、カガリはオーブ宰相のウナト・エマ・セイランとその息子で婚約者であるユウナに迎えられた。

 

 オノゴロはオーブの軍需企業モルゲンレーテの本社があり、ザフト製のモビルスーツや軍艦の整備もできる機能が揃っている。

 ミネルバには本国より修復と補給を済ませたのちカーペンタリア基地に向かうようにという命令が出され、艦の修復が完了するまでの間、整備班と一部のクルーを除く面々には出航準備が整うまで艦を降りる許可が出た。

 

「なあシン──」

 

「……悪い。俺、行くところがあるから」

 

「そ、そうか……じゃあ、レイ──」

 

「断る」

 

「そんな食い気味になって断らなくてもいいだろ!?」

 

 艦内にこもってはストレスが溜まると、ヴィーノは仲の良いヨウランやホーク姉妹を誘い、オーブの街に繰り出すことに。

 その際シンとレイにも声をかけたが、シンには先約があるからと断られ、レイには誘い文句の途中で遮られる形で拒否された。

 

「こんな機会滅多にないわよ」

 

「結構だ」

 

「あんたねえ……まあ、無理強いするつもりないし。シンは?」

 

「先ほど保護者と出て行った。すれ違わなかったのか?」

 

「え、先約ってユノさんだったの?」

 

 ヴィーノが拒否された後、ルナマリアも部屋を訪ねて2人に声をかけたが、レイはこちらの誘いも拒否する。

 シンもルナマリアが訪ねた時点で先約であるユノとともに部屋を後にしており、この機会に2人にユニウスセブンにてリジェネレイトから救出された件のお礼として何かプレゼントを買おうと思っていた彼女は眉を顰めた。

 

「タイミング悪いわね……しょうがないか」

 

 プレゼントの内容は欲しいものを本人に聞くのが1番確実で手っ取り早かったし、シンかユノが残っていれば家族の好みも知っているだろうからそれを尋ねられたのだが、2人ともいないというならば仕方ない。

 本人に直接訊くのは諦めて、ルナマリアはシンと1番接する時間が多く彼の嗜好を把握している可能性の高い、艦に残ろうとしている金髪の青年を代わりに引っ張り出すことにした。

 

「レイ、買い物付き合いなさい」

 

「断る」

 

「あんたどうせ暇でしょ? 付き合いなさいよ」

 

「一方的な決めつけは──」

 

「ユニウスセブンで迷惑かけたし、シンとユノさんにお詫びのプレゼント贈りたいの。あんただって真っ先にやられたんだから、シンに負担かけた分の埋め合わせに付き合いなさい」

 

「……少し待て」

 

 再度ルナマリアの誘いを拒否したレイだが、ユニウスセブンでシンに負担をかけた詫びの品を買うために付き合えと言われ、リジェネレイトに最初に撃破されたことでシンに負担をかけてしまったと感じていたレイはそういうことならばと折れ、ルナマリアのショッピングに付き合うこととなった。

 

「私服持ってたのね」

 

「私服くらいはある」

 

「あんたの格好はパイロットスーツか軍服しか見たことないわよ」

 

「お前が知らなかっただけだろう」

 

「ならなんで今日に限って私服なわけ?」

 

「この情勢下、オーブといえどザフトの姿のまま街に降りれば要らん軋轢を呼び込む可能性が高いからな」

 

 街に出ても違和感のない私服姿になった2人のパイロットは、ヴィーノたちに遅れてミネルバより降りてオノゴロに上陸する。

 その際、堅物の同期が初めて見せた私服姿が整った容姿に合うオシャレな姿だったので、ルナマリアはファッションセンスあったんだと少し驚いた。

 

 

 

 

 

 一方、ルナマリア達より一足早くミネルバを降りたユノとシンは、街に繰り出した仲間達とは別の方向に足を向けていた。

 

 そこはかつてオーブと地球連合が交戦したオーブ解放作戦において、最大規模の戦闘の部隊となったオノゴロ島の戦場で犠牲となった人々の名前が刻まれた慰霊碑──すなわち、ユノの祖母とシンの両親が眠る場所であった。

 

「…………」

 

 慰霊碑に刻まれた両親の名前に静かに触れるシン。

 ユノは祖母の名前が刻まれたところを見つめている。

 

 慰霊碑には多くの花が供えられている。

 2人もまた、ここにくる道中で立ち寄った花屋にて献花のために花束を購入している。慰霊碑に刻まれた名前のところへ、この島で失った家族を思いながら花を備えて両手を合わせる。

 

 かつて住んでいた家も、戦火に呑まれた。

 プラントでは帰郷する暇などなく、また悲しい思い出の方が大きいオーブに帰りたくないという気持ちがあったこともあり、シンがオノゴロ島に来たのは両親を失ったあの日以来のことである。ユノに教えられるまで、オノゴロ島に慰霊碑があることすら知らなかった。

 本当は上陸するつもりなどなかったが、ユノからこの機会に一度は両親に会うように言われ、姉と共に初めてこの場所を訪れた。

 

「父さん、母さん……遅くなってごめん」

 

 棺すら用意されず、冷たい土の中に眠っている両親に、シンは会いにくるのが遅くなったことを謝る。

 

 死者の声は聞こえない。

 風と波の音がするのみで人の声などなかったけれども、シンの耳には徐々に記憶が薄れていく両親の声が聞こえた気がした。

 

「……うん、マユは俺に任せといて。どうか、安らかに」

 

 シンの耳に聞こえた両親の声は、プラントに置いてきた娘を心配する声だった、ような気がする。

 シンはその声に静かに返事をすると、もう一度慰霊碑に向かって手を合わせて両親の冥福を祈った。

 

 あの時とは違う。

 ザフトに入隊し、インパルスのパイロットとなった。

 守れなかった両親、自由に歩くことすらできなくなった妹。

 家族を傷つけられ、失うこととなったのは、力がなかったから。

 そして今は力を得た。誰かを守る力。理不尽に死をばら撒く戦火から、大切な人を守る力を。

 

 隣にいる幼馴染は、祖母だけでなく両親も、兄弟も、恩人も、戦友も、婚約者までも失ったと聞く。

 本人は隠しているつもりだが、後見人として引き取ってくれて同居をしていたころには、寝付けず夜中に目が覚めた際にうなされる彼女の声が聞こえてきたことが何度かある。

 自分たちに聞こえないよう必死に蓋をして押し殺し寝静まってからようやくこぼしていた声は、誰にも見せようとしなかった彼女の心が上げていた悲鳴だった。

 その内容は……“1人にしないで”、“なんでソーマが”、“いやだよニコル”、“父さんまで”、“僕を置いていかないで”、“ごめんねおばあちゃん”、“兄さん死んじゃいやだ”、“ナチュラルどもめ”、“会いたいよアラン”、“なんで僕だけ”……守れなかった人たちの死を悔やみ生き残った自分を責めるものばかりだった。

 

 シンも両親を失い、妹は歩けなくなり、五体満足で生きているのが自分だけという現実に、戦火を選んだアスハを憎み、そして家族を守れなかった無力な自分を責めた。自分たちを襲った理不尽を嘆いた。

 どうして俺たちばかり犠牲にならなきゃいけないんだと。どうして戦争を始めた奴らの自己満足で、関係ない俺たちが犠牲を強いられるんだと。

 ……どうして、失う前に守る力がこの手に無かったんだと。

 

 でも、自分たちだけじゃなかった。

 その嘆きはこの世界にはありふれたもので、その嘆きを必死に押し殺して歯を食いしばってそれでも生きてる人たちがいることを知った。

 

 嘆くだけでは何もできない。何も変わらない。

 彼女ほどの強い人ですら家族を失った。彼女のように──否、彼女よりも強くならなければ、誰よりも強くならなければ、この手にまだ残っているものすらも奪われ取りこぼすことになる。

 

 シンの前では強い姿しか見せなかったユノだが、自分と同じ──いや、それ以上に深く傷ついていることを知った。

 それからというもの、強い人だと思っていた彼女のことが急にいつ散ってもおかしくない、ふとした瞬間に簡単に崩れて消えてしまう、そんな危機感を感じる儚い存在に見え始めた。

 

 もう誰も死なせない。

 両親の名が刻まれた慰霊碑の前で、言葉にすることなく誓いを胸に立てる。

 

 立ち上がると、ユノが優しく肩を抱き寄せた。

 他人も目はないので、シンも素直に姉の肩に寄りかかる。

 彼女の体温と心臓の鼓動が聞こえる。

 その温もりと鼓動は、彼女が生きていることを教えてくれる。自分だけが置いていかれていないことを教えてくれる。

 

 突如として奪われた平穏な日常。

 ときおり悪夢に見る家族の死の惨状。それは、生きてるはずの姉妹まであの時死んだことになっている。

 強いはずの姉は生きていることを拒むような目を見せることがあり、いつか散りそうな儚さを感じてしまう。

 

 “置いていかないで──”

 

 大事な人が死んでしまう恐怖。置いていかれる恐怖。自分だけが生き残る──生き残ってしまう恐怖。

 

 彼女が生きていることを感じる時、悪魔にうなされるたびに思い出し増幅されるこの恐怖は沈み消えていく。凍りつく心が溶けて、暖かな安心に満たされていく。

 

 家族を理不尽に奪われたあの日を世間に忘れさせないために作られた記念碑。

 それを前に、シンとユノは互いの温もりを求めるように、お互いの存在を確かめ合うように、生きる理由を相手に求め縋るように抱きしめ合った。

 

「……温かい」

 

「……うん」

 

「……僕たちを置いてかないで」

 

「……大丈夫。置いてかない、絶対に」

 

 雲が晴れ、茜色の空が水平線を照らす下。

 姉弟はしばらくの時間お互いの存在を確かめ合い、その後ミネルバへの帰路についた。

 

 そしてこの日、自由の名を冠する機体を駆使した英雄は、先日のユニウスセブン落下後に孤児院近くの浜で見つけた生存者を同居する恋人や導師らとともに介抱するために孤児院の方に留まっており、この場に現れることはなかった。

 

 

 

 

 

 ミネルバはしばらくの間オーブにて修復と補給のため滞在することとなる。

 そして、ユニウスセブン落下により地球全土にもたらされた被害情報がオーブ本国にも次々に伝わるようになり、比較的被害が少なく余裕のあったオーブでは深刻な被害を受けた地域への援助に向けた動きが始まった。

 

 その情勢に伴い、ウナトは大西洋連邦をはじめとする地球連合各国との間に新たな条約を締結。

 互いの支援・救助活動の円滑化のための条約ではあるが、内容は軍事にも及び、集団的自衛権などの内容まで盛り込まれている実質的な軍事同盟と言える内容だった。

 

「大西洋連邦との新しい条約の締結!?」

 

 早急な復興支援を得るためという名目により、ウナトはその同盟締結を承認。

 ミネルバがカガリを届けた時には、既にオーブは中立国ではなくなり、実質的な新しい反プラント同盟ともいえるこの同盟に加盟していた。

 

 ──他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない──

 

 かつてのオーブの指導者であり、戦火による悲しい死別を遂げた父──ウズミ・ナラ・アスハが貫いたオーブの理念を否定するような勝手な行い。

 今回の未曾有の大災害に対し早期の対応が必要なのは確かであり、カガリが若いことなどもありオーブにおける政務は基本的にウナトに任せているが、それでも名目上とはいえオーブの現首長である自分に何一つ伝えぬままに進められた今回の同盟締結には、カガリとしても黙ってはいられなかった。

 

「どういうことだウナト! なぜ今、なぜこの情勢で! 何より、首長である私に何も告げずにそんなのを勝手に結んだんだ!」

 

「カガリ様にお伝えしないままこの件を進めたのは私の独断、それについては申し開きもありません」

 

 アーモリーワン事変とユニウスセブン落下による混乱で事前に連絡を取ることが困難だったとはいえ、さすがにこれは独断が過ぎるという認識はあったウナトの方はカガリの怒りを尤もであると受け止め謝罪をする。

 

「確かに形の上では軍事同盟に等しい内容ですが、これはあくまでも今回の未曾有の災害における復興に向け国家間の円滑な支援体制を履行するためのもの。災害対応に際し、軍の力も必要とすることもあります。軍事通行権はこのためのものです」

 

「それはそうだが……だが、ならばなぜ大西洋連邦となんだ! 何故プラントを締め出すような真似をする!? これではまるで、プラントを孤立させようとしているみたいじゃないか!」

 

 ウナトはその上で今回の同盟締結に至った理由として、表向きのものである地球国家間の復興支援の円滑化を図るためを根拠に挙げた。

 しかしそれならばユニウスセブン落下以降、すぐに地球に対して支援の手を差し伸べてきたプラントを締め出すかのような、まるでかつての地球連合の再来のような加盟国の並びに、まるでこれでは対立の扇動やコーディネイターの排斥じゃないかとカガリは訴える。

 

「代表はザフトの艦にいたこともあり現状を把握できていないのでしょう。これは近々大西洋連邦から発表されたものですが、ユニウスセブンにてこのような画像が撮影されまして……」

 

「これは──!?」

 

 それを受けたウナトは、ならばとこの同盟締結に至った裏の理由として、大西洋連邦の発表したユニウスセブン落下事件に関する重大な事実を映したある画像を提示してきた。

 

 それを見たカガリは一瞬言葉を失う。

 そこに映っていたのは、ユニウスセブンにフレアモーターを設置するジン・ハイマニューバII型の姿だった。

 

 ユニウスセブン落下は人為的に起こされたテロであるという確固たる証拠。

 それが事実であることは、現地でサトーたちの暴挙を見たカガリが承知している。

 

「何でこんなものが……!」

 

「カガリ様、貴女もこれを見せられれば、世界中でコーディネイターへの反発が噴出するということは容易に想像できるでしょう。その悲しみと怒りの矛先は、当然プラントに向けられます」

 

「いや、だがこれは……一部の、過激なテロリストたちがやったことで、プラントとは関係ない! 現にデュランダル議長はユニウスセブンの落下を阻止するために全力でことに当たってくれた! ザフトもだ! そして今も支援の手を惜しみなく差し伸べている!」

 

 地球を守るためにユニウスセブンの破砕に最前線で全力を上げ取り組んだミネルバらザフトたちの奮闘を見たカガリは、今回の件が人為的に引き起こされたものとはいえプラントは無関係であったことを知っている。

 ユニウスセブン落下という未曾有の危機を起こした者たちがプラントとは関わりを絶ったテロリストであること、その狂気の大事件を阻止するために多くの犠牲を出し同胞と殺めてでも尽力してくれた彼らを間近で見てきたからこそ、カガリはプラントは今回の件に関わりがないと擁護を訴えた。

 

「ええ、もちろんそれは我々も承知しています」

 

「なら──」

 

「──ですが」

 

 カガリの言葉にウナトもプラントの仕業ではないことは重々承知していると同意を見せる。

 認めた上で、それでもとウナトは首を横に張った。

 

「それでも、です。テロ行為によるものであること、利用されたのがジンであること、実行したテロリストがコーディネイターであることも、プラントも大筋を認めているのです。コーディネイターの仕業であることは事実であり、そして我々ナチュラルにとってコーディネイターとプラントは切り離して考えることができない相手なのです。我々上層部が理解して国民に説明したとしても、民衆は決して納得しない」

 

「それは……いや、それでもわかってくれるまで説けば──」

 

「カガリ様。その説得にどれほど時間を費やしても、一度湧き上がった憎しみの炎は抑えることはできないのです」

 

 何とか食い下がろうとするカガリに、言葉を被せるようにしてウナトは否定する。

 群衆の強烈な感情の前に、事実を説明し説得しても湧き上がった憎しみの炎の前には話を聞いてくれなくなると。それが民衆であると。

 

「何千万という被災した者たちに真実を伝えたところで受け入れられるでしょうか? あなた方は酷い目にあったが、地球は無事だったのだからコーディネイターは許せと。彼らを前に同じことを言えますか?」

 

「…………」

 

「確かに、いずれは我々の言葉が届くかもしれません。しかし、その前に必ず軋轢と衝突が起きる。そんな中、我々のみが地球ではなくプラントの擁護に回ればどうなるか──中立を謳おうと、世界はそれを認めてくれなかったことは、貴女が一番よく痛感しているはずです」

 

「────ッ」

 

 ウナトの言葉に、カガリは理想で国は守れないという事実を嫌というほど突きつけられたあの日のことを思い出し言葉が詰まる。

 

「正しさだけでは国を守れません。理念も大事ですが、今我々が誰とこの痛みと悲しみを分かち合うか、それを示さなければ憎悪の矛先はいずれ我々にまでも向くことになるのです。貴女が守るべきはプラントではなく、このオーブの民なのです。どうかご理解のほどを」

 

「…………」

 

 ウナトの言葉に、感情は納得できなくとも無力さが罪であることを知らしめられてきたカガリは言い返す言葉が思い浮かばなかった。

 悔しいが、ウナトの言葉も理解できる。

 

「……決して戦争になると決まったわけではありません。彼らに罪はないことは、我々も承知しています。悲しき誤解からくる衝突を止めるためならば、あらゆる手を尽くすつもりです」

 

 最後はカガリを慰めるように、穏やかな口調で戦争という最悪の事態だけは防ぐための手は尽くすつもりだと告げ、ウナトは息子のユウナにカガリを休ませるように指示をした。

 

「ユウナ、カガリ様を部屋にお連れしなさい。故郷に帰ったばかりというのに、このようなことを聞かせてしまったのだ、カガリ様にも休息は必要だろう」

 

「はい、父上。さあカガリ、こちらへ。酷なことを聞かせてすまないね、あとは僕たちに任せて今は休むんだ」

 

「ああ、ありがとうユウナ。ウナト、くれぐれもよろしく頼む」

 

「もちろんです」

 

 カガリは最後にウナトへくれぐれも戦争になるようなことだけは避けてほしいと念を押してから、ユウナに付き添われながら自室へと向かった。

 

「……やれやれ、お若いことだ」

 

 そしてそれを見送ったウナトの目には、カガリとのやり取りの中では巧妙に隠していた冷たい色が帯びていた。

 

 

 

 

 

 いっぽう、モルゲンレーテの工廠では入港したミネルバが修理作業を受けていた。

 進水式すら経ずに初航海を迎えた新造艦でありながら、アーモリーワン事変から戦い続けてきた艦体は多くの損傷を受けており、既に長年の戦歴を重ねてきたかのような外観になってしまっている。

 モルゲンレーテではユニウスセブン破砕に全力を尽くし自国の代表を送り届けてくれた恩あるこのザフトの最新鋭艦の修復作業が急ピッチで行われていたが、それでも安全な航海を可能とするまでの艦の修復には相応の時間が必要であった。

 

 ミネルバはインパルス専用の発進機構をはじめ、ザフトの最新鋭艦として多くの技術が取り入れられている。

 いくらドックと人員・資材を提供してくれるとはいえ、デュランダルの許可も無いままにその全貌を他国に見せることはできない。

 その辺りの線引きはしっかりと引くタリアは、船体の修復はモルゲンレーテに頼みつつ機密事項の多い内部の修理は艦の整備クルーの手で行うように指示を出す。

 

「船体の方はモルゲンレーテにお任せしましょう。ですが、内部は貴方達が行うこと。これは徹底してちょうだい」

 

「ええ」

 

「資材や機器も貸してくれるとのことだから、入念に頼むわ」

 

 人員も足りない中での艦長からの要求だが、整備班のリーダーは言い訳ひとつせずに頷く。

 ヴィーノら若いザフトがこの場面を聞いていたとすれば、残業徹夜休み無しが確定する悪魔の決定にブーイングを飛ばし、上司に拳骨を喰らうまでが容易に想像できる。

 

 パイロットらと違い、あれだけの騒動と危機を潜り抜けたばかりなのに休息日が即終了することになった整備兵たちに心の中で合掌をしたアーサーは、まるでこのオノゴロ島にて全ての修復を済ませたいとでもいうかのような判断を出したタリアに疑問を呈した。

 

「艦長、補給などは分かりますが艦の修復に関してはカーペンタリアに入ってからの方が良いのではないかと自分は思いますが」

 

 資材などの提供を惜しみなくしてくれる友好的な対応を見せてくれたオーブにいるうちに、ボロボロの艦艇を安全な航行が可能な状態に修復しておきたい。

 この未曾有の大災害が発生したことで多くの被害と混乱が生じている現在の地球では、一度出航すれば何が起こるかわからない。

 故に安全を優先するタリアの判断を全面的に否定するわけではないが、やはり他国の工廠での修理は制約が多く、稼働可能な状態に持っていくだけで本格的な修復はカーペンタリア基地に移動してから行った方が良いのではないか。

 

「あなたの言いたいこともわかるけど、今の地球では何が起こるかわからないわ。各国への支援のためにカーペンタリアも動き回っているはずだし、太平洋の只中で動けなくなったなんてことになったとき、救援がきてくれるとも限らない」

 

 そう考えるアーサーの意見に、タリアは自分もそれを考えたとしながらも、それでも太平洋の只中で重大なトラブルに見舞われるリスクを可能な限り取り除く方針をとることは変えなかった。

 

 クルーの安全を最優先にした判断。

 それを言われては、アーサーも納得する。

 

「何なら、航海日誌にも書きましょうか?」

 

「い、いえ流石にそこまでは!」

 

「ふふ、冗談よ」

 

 優柔不断で軟弱なところはあるが、こうしてさまざまな局面で艦長の決定にいい諾々と従うだけでなく意見を出す副官というのは信頼できる。

 不安げな表情を見せる副官の緊張を和らげようと冗談を口にすると、職務には真面目な艦長が唐突に見せたユーモアに対応し切れるほど器用ではないアーサーはそこまですることはないと慌てた様子を見せた。

 

「でも、機密よりは艦の安全ですものね、やっぱり」

 

 そんな2人のやりとりに、声をかけられる。

 モルゲンレーテの作業員と思われる帽子と手袋、そして油汚れのシミが馴染む作業服を着たその人物は、男所帯の整備士たちの中では浮いている見目麗しい女性だった。

 

「船、戦闘艦は特に信頼できる常に信頼できる状態でないとお辛いでしょう? 艦長としては」

 

「……貴女は?」

 

 横でその女性に見惚れて鼻の下を伸ばしているアーサーの耳を引っ張りながら、軍需企業とはいえまるで軍人のような考え方をするその女性に、制服を着用しているし隠しているつもりはないとはいえ女である自分を一目で艦長だと認識した事もあり、少し警戒心を抱きながら何者かとタリアは尋ねる。

 

「これは失礼しました。モルゲンレーテ造船課Bのマリア・ベルネスです。船体の修理作業を担当させていただきます」

 

 タリアが警戒をしている様子に、お互い名乗りもしていないのに会話と雰囲気からザフトの艦長だと判断して突然声をかけたことに気づいた女性は、それは警戒されても仕方ないと自分の名と所属を明かした。

 

 マリアと名乗るその女性は、モルゲンレーテが担うミネルバの船体の修理作業の責任者とのこと。

 

 身分を明かしたことで、ミネルバの修理をしてくれる人物であることを知ったタリアの方も表情を和らげ、マリアが差し出した手を握った。

 

「艦長のタリア・グラディスよ」

 

 これが後に敵味方に分かれ戦場にて砲火を交えることになる2人の邂逅だった。

 

 

 

 

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