もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら   作:ちゃーらんき

21 / 28
大変長らくお待たせ致しました。
今回は『phase9 驕れる牙』〜『phase11 選びし道』に当たる場所になります。
注意事項にある通り、この物語はあくまでもシンたちミネルバの面々やザフト側が中心です。アスラン、キラ、カガリ視点の物語はこれからはほぼ省略していきますので、ご了承ください。


驕れる牙

 

 地球を襲った未曾有と大災害となったユニウスセブン落下事件、ブレイク・ザ・ワールドからおよそ一ヶ月後。

 いまだに何百万という生死不明の行方不明者がおり、大きな被害を被った地域では復興も手付かずで混乱が続く状況において、突如として新たな地球連合とも言える大西洋連邦を中心とした同盟からプラントに対して一方的な通告がもたらされた。

 

 内容は、ユニウスセブン落下事件における犯人であるテロリストたちの身柄の引き渡し及び、今回の事件における賠償、デュランダルを議長とする現在のプラントの政権である最高評議会の解散と連合主導による新政権という名の傀儡政権の設立、プラント行政機関の一新とその監査役として地球連合から派遣される人員を入れた新たな機関の設立への同意、そして国防委員会であるザフトの解体とプラント側の全面的な武装解除および判明している犯人グループのメンバーと関わりのあった者たちの参考人としての大西洋連邦最高裁判所への出頭などなど、もはや無条件降伏を要求しているかのような到底受け入れ難い代物であった。

 

 その上で、地球連合はこの要求が1週間以内に受け入れられない場合は現プラント政府ならびにプラントに居住する全てのコーディネイターをユニウスセブン落下事件の実行グループを支援した首謀組織と認定し、地球人類に対する明確な敵対行為を行うテロ組織として、自衛という名の侵略を大義に掲げ月面基地を中心に展開する宇宙軍戦力を持って殲滅すると恫喝し、しかも脅しでは済まないと言わんばかりにアザッヘルに駐留する艦隊を続々と宇宙にあげてきていた。

 

 ユニウスセブン落下事件後、デュランダルはユニウスセブン落下が人為的に行われたものであること、実行犯が元ザフトの過激派テログループのコーディネイターたちであったことを認めた上で、ユニウスセブンにおけるザフトとの戦闘にてテロリストが全員死亡したことは通達していたし、大西洋連邦ら地球各国も一度はそれを承知したという返事を受け取っていた。

 その上でのこの手のひら返しである。

 内容といい期日といいアザッヘルの動きといい、もはやこれはプラントのコーディネイターを殲滅する戦争を起こしたいものたちによる口実造りでしかないことは目に見えていた。

 

 ユニウスセブン落下事件は防げなかった。

 それでも被害を抑えるためザフトは尽力したし、デュランダルの指示のもとその後もプラントは地球への支援を惜しむことなく行ってきたつもりだった。

 その返答がこれとあっては、いかに穏健派である現在の最高評議会といえども地球連合への反発が出るのは当然であった。

 

 デュランダルは地球連合からの挑発とも言える声明を受けながらも、あくまでも対話による平和的解決を模索することを諦めない姿勢を維持する。

 すでにテロリストは全員死亡を確認したこととテロリストたちがザフトから抜けて以降は現在のザフトの人員は接触がなかったため事件には一切無関係であるとして現在のプラントの事件への関与は否定。

 一方で賠償金ではなく復興支援費という名目であれば被災地域の経済的被害の負担をプラントが請け合うことを承諾する姿勢を見せる。

 しかし地球の脅しを全面的には受け入れることはできないと政権の解体などの内政干渉は拒絶するなど、条件の内容ごとに否定・譲歩・拒否と言った返答で、譲れるところは最大限引きながらも譲れない一線は守り抜くという形で交渉を試みる。

 

 だが、大西洋連邦の返答は一切の条件の緩和を許さないという拒絶のみ。

 さらには南アメリカやユーラシアなどでジンやバクゥなどザフト製のモビルスーツを用いたテロ事件が勃発し犠牲を出したことで余計に地球においてプラントへの反感が高まり、ついには地球側がジブラルタルや太平洋に艦隊を派遣しザフト側の地球基地を海上封鎖するという暴挙に出たことで、もはや一触即発の緊張状態となった。

 

 ついには地球連合側からの回答期限が来たことにより、交渉は決裂。

 デュランダルは国防委員会側から提出されたプラント及び地球におけるプラントならびにプラントの友好国の勢力圏を地球連合の攻撃から防衛するための軍事行動を承認し、宣戦布告した地球連合に対しザフトによる軍事的自衛行動を発動。

 

 アザッヘルから出撃してきた地球連合艦隊に対し、空母ゴンドワナを中心とするザフトの防衛戦力が迎撃する形で、2年の時を経て本格的な地球連合とザフトによる軍事衝突が発生することとなった。

 

 戦火の拡大を望まないデュランダルは、あくまでも積極的自衛権の行使を掲げ、勢力圏への警告を無視した越境や攻撃を行うと言った明確な侵略行為を行う勢力の迎撃のみにとどめること、民間人のいる地域への破壊は行わないことを徹底させて対応する。

 一方の地球連合はあくまでもプラント本国の制圧を第一目標とし、地球の戦力は海上封鎖などの包囲にとどめアザッヘルから繰り出した艦隊による攻撃を主軸としてきたため、2度目の戦争はまず宇宙にて繰り広げられることとなった。

 

 この時点で明確に大戦への参戦の意向を表明したのは、地球連合側は大西洋連邦及びユーラシア連邦、東アジア共和国。大洋州連合などの親プラント国に関しては戦火の拡大を望まないプラント側が共同参戦を拒否したことから、プラント側の勢力はプラント単独となり、同盟に加盟するオーブもまずは参戦まではせず中立を維持したことで、地球側の戦線は小規模なものとして始動する。

 

 オーブでは一部大西洋連邦側に立ち参戦をという声もあったが、コーディネイターが多いこと、永世中立の理念を国是とすること、同盟には軍事通行権の承認などの項目はあるものの交戦状態になった時の参戦義務まではなかったことから、プラントとの開戦は行わず、修理中であったミネルバの接収や、ザフトの身柄の拘束などは行われなかった。

 

 大西洋連邦からの一方的な要求が突きつけられた情報は、オーブにある面々も知ることとなる。

 それを受け、アスランは戦争回避を模索するべくカガリにオーブ代表の代理という形で一度プラントは戻る意志を告げ、地球から飛び立つこととなった。

 しかし彼がプラントに到着した時には既に地球連合の艦隊がプラントへの侵攻を開始しており、その対応によりデュランダルら議会との面会すら叶わぬままに戦争が始まってしまう。

 

 オーブに残っていたミネルバでは現在のオーブが敵対国ではないものの大西洋連邦寄りの姿勢を見せていたことからいらぬ諍いが生じることを避けるため、艦を降りていたクルーを全員ミネルバに呼び戻し、モビルスーツの出撃体制をいつでも可能とするなど厳戒態勢をとることとなる。

 

 既にカーペンタリアは地球連合の大艦隊に包囲されており、そんな場所へ修理も終えてないミネルバ単艦でのこのこと行こうものなら多勢に無勢、待ってましたと言わんばかりに蜂の巣にされるのは明白である。

 オーブからはあくまでも中立の意思を堅持し、オノゴロ島に関しては地球連合軍の立ち入りを制限するなどミネルバを匿う意向を示してくれていることから、ひとまず艦の修復が完了するか情勢が変化するまではオノゴロ島にて待機することとした。

 

 カーペンタリアに早急に向かうべきだったか、オノゴロ島にて補給と修理を万全に終えるのか、どちらが正しかったかはわからない。

 もしも簡単な補給だけでいけばカーペンタリアに辿り着けていたのかもしれないが、それはあくまで航海にて支障が出なければの話。重大なトラブルに見舞われて海を漂うことになっていれば、カーペンタリアに向かう地球軍の最初の餌食にされていた可能性が高い。

 一方でオノゴロ島に留まって修理を終える選択というのは確実で安全という意味では正解だったが、この情勢にてオーブがどう動くか分からないため複雑で不安定な立場に置かれているというのは手放しに安心できる状況ではない。

 それにいくらオーブが艦の修理と補給を終えるまでは匿ってくれるとはいえ、それはあくまでミネルバの損傷が地球連合との交戦による被害ではないこと、物資不足と航海も困難な損害を受けた艦で放り出すことは流石にという人道的な配慮であること、ミネルバがユニウスセブン落下事件において被害の拡大阻止に尽力したこととアーモリーワンにて負傷した代表のカガリを治療しオーブ本国に送り届けてくれた恩義からである。

 艦の修復と補給が終われば流石に出ていかなければならなくなるため、それまでにカーペンタリアの友軍と合流できる手立てを考えなければいけなかった。

 

 クルーたちにもミネルバの置かれた不安定な状況から、いつか地球軍を迎え入れてミネルバを包囲してくるのではないかと不安な空気が漂っている。

 そのあたりはアーサーが穏やかでお人好しな彼の人柄を持って中心となり宥めているが、安全のためとはいえ開戦してからは艦に事実上籠城しているような日々となっているため特に若いザフトには不安が拭えずストレスを抱える者が多数出ていた。

 

 アーサーが特に不安視していたのは故郷に悲しい思い出と複雑な感情を残しているユノとシンの2人だったが、ユノは過ごした時間が短かったことや軍役経験が長いことからオーブに対しては割り切っているらしくむしろ不安がる若手を宥めて回るくらいの余裕はあり、シンの方も本国に歩けない妹がいるという不安もある中であったがユノがついていてくれたことで安心しているのか下手な癇癪を起こすこともなく大人しく過ごしている様子。

 むしろヴィーノなど地球に降りた経験もなく、戦火に身を投じたのはアーモリーワンが初めてで、艦内に閉じ込められて長時間過ごすというのが初めてだというプラント育ちの若いザフトの方がストレスを抱えがちでフォローが必要なほどであった。

 

「そう……シンはユノに任せておいた方がいいかもしれないわね」

 

 そうしたクルーたちの近況に関する報告をアーサーから受けたタリアは、彼女としてもカガリを相手に突っかかるという騒動を起こしてくれたシンを不安視していたのもあり、彼が安定しているという報告を受けてシンのことはユノに任せるのが良いだろうと判断した。

 

「レイからもシンに関しては安定していると聞いています。アサガオが本国の方はジュール隊長たちが守っているから大丈夫だと言い聞かせてから安心したようで、ユニウスセブンで彼らの戦いを間近に見たのも一因でしょうか。私の目が届かないところでもクルーたちに声をかけてくれているようで、いやぁさすがベテランですな」

 

「本来はユニウスセブン落下の復興支援要員として乗ってもらったのだけど、彼女がこの艦に来てくれたのは幸いだったわね。それと貴方は忙しさを理由に副官としての任務を疎かにしないように。この情勢よ、いつ戦闘が起きてもおかしくない。そんな時、睡眠不足でクルーが多数倒れるような状況にしないで頂戴」

 

「肝に銘じます……」

 

 ユノはほぼシンにつきっきりで過ごしているが、アーサーの目が届かないところ──特に若い女性クルーを中心にストレスを抱えがちになっている面々のフォローにも回ってくれている。

 本来は地球において復興支援作業要員としてマーレが復帰するまでのアビスの繋ぎのパイロットでミネルバに乗り込んでいる彼女だが、パイロットとして以外にもこういった面で先達としてミネルバの面々を支えており、ブラコンから来る命令違反の常習犯という問題児ではあるものの同時に大いに助かる存在でもあった。

 

「本当に、身内が関わらなければまともなんけどなあ……」

 

 今の情勢に似つかわしくない呑気な悩みを愚痴りながら、艦長室を後にするアーサー。

 するとそこには先ほど話題に挙げていたアビスの仮パイロットという何ともフワッとした身分でミネルバに搭乗している件のパイロットの姿があった。

 

「あ、へっぽこ──失礼、副長でしたか」

 

「おいこら、今はっきり聞こえたぞ“へっぽこ”と。お前なぁ、人のこと陰でそんなふうに呼んでいるのか?」

 

「呼ばれたくなかったらモルゲンレーテの女性技師のケツとおっぱいを目で追ってないで、クルーのメンタルケアくらいこなしてくださいよ」

 

「うぐっ……! 確かにメンタルケアをしてくれるのは助かるが、上官に向かって何て口を聞くんだ! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」

 

 このブラコン、盲目になる家族愛以外にもまともじゃない点があった。

 自室謹慎以降、やたらとアーサーに突っかかるこの態度も大いに問題児である。

 艦長にはちゃんと接するのに、この扱いの差はなんなのかとげんなりするアーサーであった。

 

「……それで、艦長に何か用なのか?」

 

「悪いニュースが3件ほど。胃への負担は確実ですが、副長も一緒に聞いておきますか?」

 

「……も、もちろん」

 

「ではご一緒に。艦長、失礼します」

 

 艦長室に来たということは、タリアに何か用があったのだろうか。

 用件を尋ねると、ユノはいくつか報告する内容があるとのことで、副長であるアーサーも承知しておいた方がいい内容なので一緒にどうかと提案する。

 悪いニュースもあるとのことで、新たなストレスの種を抱える覚悟はあるかと尋ねるユノに、これでも副官だとアーサーも応じ、ならばとユノはアーサーと共に艦長室に入った。

 

「アーサーも連れて何かしら?」

 

 先ほど出て行ったばかりの副官を連れて入室してきたユノに、用件を尋ねるタリア。

 極めてくだらない個人的な逆恨みも込めてアーサーのことをへっぽこ呼ばわりするなど無礼を働くユノだが、それはあくまでもアーサーだからでありタリアに対しては艦長に対する礼節ある態度を示す。

 

「オーブとカーペンタリア、それからスカンジナビア王国の知己から提供された情報で、悪い知らせが3つほどあります」

 

「聞かせて頂戴」

 

 ユノが持ってきた悪いニュースというのは、彼女が自分の伝手から得た情報とのこと。

 かつての大戦でユノはカーペンタリア基地に配属されており、いっときはオーブに亡命者を装ったスパイとして潜入していた過去があり、また父や兄弟、婚約者が配属されていた部隊にも知り合いが多くいたことから顔が広く、彼女にはその人脈にて築いた情報網がある。

 それを使ってユノが入手したという3つの情報は、いずれもザフトにとって悪いニュースといえるものであった。

 

「1つ目はオーブの情勢に関することですが、大西洋連邦から安全保障に関する新たな同盟を提案されているとのことです。すぐに締結という形にはならないと思いますが、これに関して首長たちの中でも現在の国政を事実上握っているセイラン家が前向きな姿勢を見せているらしく、加盟国と第三国が交戦した場合における同盟国の参戦義務を含む内容とのことで、場合によってはオーブが新たな敵国として参戦する可能性が高いです」

 

「ええっ!?」

 

 1つ目の情報は、オーブの仲間から得たというもので、オーブに対して大西洋連邦がまるで今大戦への参加を促すかのような内容を含んだ新しい軍事同盟を持ちかけており、それに対し現在のオーブの国政を事実上握っている宰相のセイラン家の当主が前向きな姿勢を見せているというもの。

 これはオーブ内において政治的情勢の変化が起こらなければオーブがプラントの敵として参戦してくるという可能性をはらむものであった。

 

 この時点でアーサーは衝撃を受けている様子。

 一方でタリアはオーブがミネルバに対して友好的な態度をとっているとしても、プラントや地球に向けての外交はまた別物でありこの可能性を考慮していたので、落胆する思いこそあれど驚くことではなかった。

 

「……続けて頂戴」

 

「はい。2つ目はカーペンタリアからで、カーペンタリアを包囲する地球連合軍艦隊に東アジア共和国軍が合流しその数はより膨れ上がったとのこと。そこにはダガーLだけでなく、連合側の最新鋭量産型モビルスーツであるウィンダムの姿も多数確認されており、加えて大西洋連邦が新型の大型モビルアーマーを配備している後詰の艦隊をハワイより出航させたとのことです」

 

「大型モビルアーマーですって?」

 

 2つ目の報告は、カーペンタリアの仲間からで、基地を包囲する連合側の艦隊戦力に増援として東アジア共和国の派遣した艦隊が合流しその規模が増大、包囲網がより分厚くなり突破が困難になったというもの。

 加えてハワイから後詰として新たな大西洋連邦の艦隊が南太平洋に向け出撃してきたとのことで、これには新型兵器と目されるザフトにとって未確認の大型モビルアーマーが配備されているとのことだった。

 

「はい、外観は潰れた蟾蜍──失礼、砲門を備える巨大なアームを4本搭載した蟹のような形状をしており、その設計からメビウスとは全くの別系統のモビルアーマーであると推測されるとのことです。武装は戦艦の主砲クラスの大型砲が最低でも8門、イーゲルシュテルンが16門、ビーム砲が4門確認されており、アームにも大型クローと思われる鋏状の武装が搭載されているとのことです」

 

「なんだその化け物は!?」

 

「まるで戦艦ね……」

 

 未確認の大型モビルアーマーに関しては、あくまでも偵察部隊からの目撃情報とスパイから得られたもののため大まかな外観と見た目から判別できる武装のみだが、それでもメビウスなどとは比べ物にならない武装を積み込んだまるで戦艦のような兵器であった。

 モビルアーマーが宇宙戦闘用戦闘機というなら、こちらは差し詰め空飛ぶ戦艦をイメージして作られた兵器と言えるだろうか。

 それだけの武装と巨体ならば洋上艦による輸送であれば数は限られるだろうが、その情報だけで1機であろうと大きな脅威になることが容易に想像できる兵器だった。

 

「ハワイから来るとなると……今オーブから下手に離れれば、位置関係から我々がカーペンタリアにたどり着く前にこの増援と包囲網を形成する連合の艦隊から挟撃を受ける可能性が高いのでは?」

 

「東アジア共和国軍まで加わったとなれば、それこそ突破は困難だわ。おそらく地球軍の艦隊は宇宙の戦況次第でカーペンタリアへの攻撃を開始するはず、その戦闘の隙をつく形で一気に突破する方が賢明ね」

 

 アーサーの言葉に、タリアも同意する。

 

 このきな臭い情勢の中で立て続けに入る悪いニュースは頭を悩ませる。

 オーブを追い出されることになるとしても、このハワイ基地から出てきた新たな敵艦隊との挟撃だけは絶対に避けなければならない。何も知らずにその時を迎え挟撃を食らっていたらと思うとゾッとする。

 事前にこの情報を得られたのは大きい。早急に出航の日程及び出航後の進路をもう一度組み直す必要性が出てきた。

 

「確か報告は3つと言ったわよね?」

 

「はい艦長」

 

「そういえばまだあったのか……」

 

 アーサーはすでに満腹状態といった様子だが、ユノが持ってきた悪いニュースは3件ある。すなわち、まだ1件残っているのである。

 艦の指揮はほぼタリアが担っているとはいえ、普段の業務に加えてクルーのメンタルケアだけでも自他共に認める人柄がいいが凡人のアーサーとしては許容限界だというのに、これ以上のストレスは勘弁してくれという表情である。

 

 だが、聞かなければいけない内容である。

 最後の一つの報告を促すタリアに従い、ユノはこの3つのニュースの中で最悪と言える情報を報告した。

 

「最後はスカンジナビアにいる協力者から提供された情報で、1週間ほど前にビクトリアのマスドライバー施設から月基地に上がった地球連合の艦隊に関して解析したデータにて、アザッヘルに搬入された物資に放射性物質の存在を確認したとのことです」

 

「なっ──!?」

「それはまさか!」

 

「──地球連合は、月基地に多数の核兵器を配備した可能性が高いです」

 

 スカンジナビア王国にいる仲間から得た情報。

 その最後のニュースに、アーサーだけでなくタリアも驚愕の表情を浮かべる。

 

 プラントのものならば誰もが知っている、前大戦を凄惨な絶滅戦争の様相に変えてしまった全ての元凶である、ユニウスセブンを破壊したあの“血のバレンタイン”を引き起こした兵器。

 

 地球連合は、あろうことか初手から核兵器をプラント本国への攻撃に用いるという禁じ手を繰り出してきたのである。

 

 

 

 

 

 外れて欲しいと願うその情報は、真実だった。

 アザッヘルから出撃した地球連合は、艦隊をザフトの迎撃部隊を引きつけ拘束するための陽動を担う主力の艦隊と、プラントを跡形もなく吹き飛ばさんとするべくニュートロンジャマー・キャンセラーと核ミサイルを搭載した主攻とする別働隊の二つの艦隊に分けて出撃。

 先に出撃した主力艦隊がまずはプラントに侵攻し迎撃のザフト部隊と交戦しこれを拘束、その間に別働隊の艦隊が奇襲を仕掛け核ミサイルをプラントに打ち込みその全てを消し飛ばすという非情な戦略を立てていた。

 

 アザッヘルから地球連合の艦隊が出撃してきたのは、プラント側も確認している。

 ユニウス条約にて定められたプラント側の主権領域を侵してきた地球連合艦隊に向けまずは退去勧告を発し、それを無視した地球連合側の艦隊が一方的な砲撃を仕掛けてきたことから、L5宙域にて2年の時を経て連合とザフトの本格的な戦闘が再び火蓋を切ることとなった。

 

「奴らをプラントに近づけるな!」

 

 ザフトが展開した防衛部隊の旗艦である宇宙空母ゴンドワナにて、イザークが指揮をとりまずは艦砲射撃の応射から展開される。

 しかし艦砲の撃ち合いにおいては数で上回る地球連合が優勢であり、この撃ち合いではザフト側がジリ貧になるのは明白。

 すぐさま自分達の土俵である機動戦力を用いた近距離戦闘を展開するべく、ザフトはNジャマーを散布しモビルスーツを出撃させ、高速艦であるナスカ級を中心に艦隊も前に出し距離を詰めてきた。

 

「モビルスーツを出せ! 対艦兵装機を主軸とし、母艦を中心に足を奪い地球の艦隊を追い払う! 他は対艦兵装機及びこちらの艦艇の護衛だ!」

 

 ザフトはモビルスーツを展開すると、対艦兵器を搭載するモビルスーツを攻撃の主軸として、特に母艦の機関部を優先的に狙い航行不能に追い込むことで継戦能力を削ぎ地球連合の艦隊を撃退する作戦にて地球連合の艦隊へと攻撃を仕掛けていく。

 

「小癪な! ダガー隊を繰り出せ! 数はこちらが上だ、奴らをこのまま押しつぶす!」

 

 対する地球連合軍側もダガーLを主力とするモビルスーツ部隊を展開。

 繰り出されるダガーLとゲイツR、数合わせで配備されたストライクダガーや105ダガー、一部にはデュエルダガーやバスターダガーといった派生機、ザフト側にはシグーやジンだけでなく最新鋭量産機であるザクウォーリアなど、多数のモビルスーツが宇宙空間にて激突する。

 

「そう簡単に突破なんかさせねえよ──!」

 

 数で勝る地球連合だが、やはりモビルスーツによる機動兵器の戦闘はハイネなど多数のエースが獅子奮迅の活躍を見せるザフト側が優勢。

 加えて艦隊の方も数を集めたことで狭い宙域に密集したため、前衛の艦隊は回避が困難となり次々にザフトのモビルスーツの攻撃を受けて航行不能、或いは撃沈に追い込まれ被害を募らせることとなった。

 

 しかし、地球連合の方も黙っていない。

 

「落ちろコーディネイター!」

 

「隊長────うわあああぁぁぁ!?」

 

 かつての大戦を生き抜いた精兵たちはともかく、ザフトの方も世代交代が進み戦争を知らない若い兵士が増えている。

 もう二度と戦争など起こらないだろうという楽観的な思想が染み付いていた彼ら新兵は、たとえアカデミーでの訓練成績が優秀であっても実戦では使い物にならないという欠陥が露呈するケースも多く、こちらもこちらでかつての大戦を生き抜いてきた復讐に燃える地球連合の古参兵相手に面白いように落とされる事態が発生しており、モビルスーツの戦闘もザフトの圧倒とはいかなかった。

 

 そして何より地球連合は数が圧倒的に多い。

 片手間で航行不能に追いやられた友軍を救援しながらもなおザフトを相手に砲火で圧倒できる戦力があり、砲撃戦では劣勢が否めないザフト側も被害を募らせることとなっていた。

 

「数で押しつぶせ!」

 

「やむを得ん……ディアッカ、ここは任せるぞ。シホ、お前も来い!」

 

「あいよ、任せとけ」

「はい! お供いたします!」

 

 戦況から数で劣るザフトがこのままではジリ貧と見たイザークも、自らザクを用いてシホと共にゴンドワナより前衛へと出撃。

 

「舐めるなよナチュラル!」

 

 スラッシュザクファントムにて縦横無尽に暴れ回り、ヤキン・ドゥーエの戦いを生き抜いた英雄の名に違わぬ活躍ぶりで連合のモビルスーツや艦艇を次々に撃破して押されていた戦線を立て直し逆に押し返してみせた。

 

「ええい、邪魔する艦艇は吹き飛ばして構わん! 砲火を集中し、ザフトの防衛線に穴をこじ開けろ!」

 

 被害の拡大する地球連合の艦隊は、今度はあろうことか航行不能となり邪魔になった友軍艦艇を救援するどころか、他国籍ならば構わんとユーラシア連邦の一部が大西洋連邦の艦隊を背中から撃ち抜き沈めるという暴挙に出る。

 かつての大戦以降、半ば大西洋連邦の傀儡国家に成り下がっていた屈辱から生じた鬱憤もあっただろうが、この味方撃ちは連合側に混乱を生じさせる。

 

 そして座礁艦艇を交代させるのではなく排除する形で射線を確保して無傷の中衛の艦隊を前に出すと、その先のゴンドワナと麾下の部隊へ火力を集中し防衛線をこじ開けようと強行突破を仕掛けてきた。

 

「バカな奴らだぜ。そら、混乱する奴さんの隙に付け込むぞ!」

 

 それを見たハイネはそうはさせないと混乱する連合の艦隊の隙間を縫うようにしてゴンドワナに攻勢を仕掛ける艦隊に接近すると、横から次々に戦艦へ奇襲を仕掛けて沈めていき、前衛に出てきたユーラシアの艦隊を宇宙の藻屑に変えていった。

 

「揃いも揃ってやるじゃねえのよ。さて、俺も働きますかねっと……主砲のコントロールをこっちにくれ!」

 

 それを見たディアッカも負けてられないと艦隊指揮を一時サボってスナイパーの本領を発揮し、ハイネの攻撃で混乱するユーラシア連邦の旗艦に向けて正確無比な一撃を叩き込み巨艦をデブリに変えてみせた。

 

「グゥレイト! やったぜ!」

 

『艦隊指揮をほったらかして何を遊んでいるんだ貴様は!』

 

「あっと、おっかねえのに見たかった。今戻るって!」

 

 そしてその正確な狙撃からすぐに犯人を割り出したイザークから、指揮を任せたのに何を放り出しているんだと叱責を受け、すぐに己の任務に戻る。

 

 被害は地球連合の方が多く出しているが、続々の後衛を繰り出して戦線を埋めてくる連合の猛攻にザフトも消耗を強いられることとなり、数の差は否めず戦況は一進一退が続く。

 

 しかし主力艦隊の方はあくまでも囮。

 艦隊の司令部も大西洋連邦の高官の一部だけが作戦の全容を承知しており、ユーラシア連邦などの部隊は何も知らないまま数に任せて正面から叩き潰すという方針のもと動いているため、その攻撃は苛烈でありザフト側の目をこの正面からの攻撃一辺倒であると誤認させていた。

 

「いいか、あくまで目的は敵の撃退だ! 無闇矢鱈に戦域を広げるな、下手な戦線の拡大はこちらの息切れを早めるだけだ! 数は連合が圧倒的に多いことを忘れるな!」

 

 若い頃ならば勢いに任せて行け行けドンドンであったイザークも多くの経験を経て指揮官として冷静に戦況を見れるようになるなど地に足がついており、ザフトが数では劣勢であることを念頭に置き消耗戦にできるだけ耐えられるよう無闇な戦線の拡大はしないように厳命しながら、議会の方針にも合わせあくまでも迎撃戦に終始する形で動くよう指揮をとっている。

 だが、そんな彼でも主力艦隊が自分達を囮と知らずに猛攻を仕掛けてきていたからこそ、暗礁宙域を密かに進む別動隊の艦隊を見つけるのが遅れてしまう。

 

 それは、離れた宙域から戦況を観測するための要員として置かれていた偵察型ジンが偶然発見した。

 

「あれは──!?」

 

 低温ガスを用いた推進器を用いて密かに暗礁宙域を進む、多数の長距離ミサイルを搭載したモビルスーツの群れと大西洋連邦の別働隊の艦隊の姿。

 そしてそのミサイルポッドに貼られた、核ミサイルを示すマーク。

 明らかにプラント本国を狙う動きを見せる核兵器にて武装した別働隊を見つけたそのジンからすかさずゴンドワナ、そしてプラント本国に通信が送られ、ザフトはそこで初めて別働隊の存在を察知することとなった。

 

「何だと!?」

「こいつら囮ってことかよ!」

「核ミサイルだって!?」

「だめだ、この距離では間に合わない……!」

 

 不幸にも、発見した時点ですでに別働隊はプラント本国に接近しており、地球連合の主力艦隊と交戦中のザフト部隊からでは迎撃が間に合わない状況となっていた。

 

「間に合わないなどと言っている場合か! 直ちに別働隊を叩く!」

 

 イザークは迎撃を試みるも、交戦中の地球連合の艦隊を抑えるのに手一杯であること、距離が離れており間に合いそうにないことから、核ミサイルがプラント本国に向けて放たれるのを見ているしかできなかった。

 

「やめろぉぉおおお!」

 

 それだけはやめてくれという声を踏み躙り、無情にも射程圏に収められた別働隊の艦隊より次々にプラントへ向けて核ミサイルが発射される。

 

 誰もがこれまでかと絶望したが────

 

 

 

「ニュートロンスタンピーダー、照射!」

 

 

 

 地球連合との開戦が避けられないとなったときから核兵器を用いてくる可能性はプラント側も把握しており、そしてアーモリーワン事変において用いられたNジャマー・キャンセラーを搭載したモビルスーツ“テスタメント”と“NダガーN”の存在や、スカンジナビア王国の協力者から核ミサイルが月面基地の地球艦隊に配備された可能性があるという情報を入手していた最高評議会は、地球連合によるプラントへの熱核攻撃の対策を用意していた。

 

 ニュートロンスタンピーダー。

 それは、照射した対象の核物質にて強制的に核分裂反応を誘発させる、いわば核兵器を暴走させる兵器。

 試験段階のため照射装置は一度しか使用できない使い捨てのものであったが、最悪の可能性を考慮して配備していたこの兵器はプラントを核の炎による悲劇から守りぬく。

 

 ニュートロンスタンピーダーを受けた地球連合の別働隊は、発射した核ミサイルやまだ艦に残していた安全装置を解除していない核ミサイルに至るまで、全ての核兵器が暴走を起こしその場で核爆発を起こしたことにより、プラントに届くことなく自らが核の炎に焼かれる形で消滅することとなった。

 

「なんということだ……」

 

 大西洋連邦が同盟国にも黙ってプラントへの熱核攻撃による殲滅を仕掛けようとしていたこと、そしてニュートロンスタンピーダーのもたらした破壊。

 その衝撃の光景を見た両軍は自然と戦意が喪失し、地球連合の艦隊が月面基地に撤退したことでひとまずの収束を迎えることとなる。

 

 だが、地球連合が一方的な通告で戦争をふっかけた上に、特に東アジア共和国などが反発するであろうプラントの占領ではなく破壊を目的とした攻撃を仕掛けたことは、プラントだけでなく地球各国からも大きな反発を招くこととなる。

 

 主犯の大西洋連邦は自国内ですら噴出したこの抗議の対応に追われることとなり、ジブラルタルやカーペンタリアへの攻勢も延期となったことから地球・宇宙共に睨み合いとなるこう着状態に陥ることとなった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。