もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら   作:ちゃーらんき

23 / 28
お待たせしました。
前回の続きからで、ザムザザーを擁する地球軍艦隊との海戦になります。


ソロモン沖海戦

 空母から続々と発艦する連合のモビルスーツの編隊。

 数が多い上に、その内容もダガーLだけでなく半数が最新鋭の量産機であるウィンダムで構成されている。

 

「艦長、敵艦隊の最後尾にいる大型空母の甲板上に未確認の大型機動兵器の姿を確認!」

 

 加えて、旗艦と思われる最後尾の空母の甲板にはユノの報告にあった外観に合致する、見たことのない緑色の巨大な蟹型のモビルアーマーの姿もあった。

 

「あれが、連合の新兵器……」

 

 初手から繰り出すつもりはないのか今はまだ甲板上に置かれているだけだが、多数の砲門を備えているなど外観だけでもかなりの重武装が施されているのが見て取れる。

 

 一方甲板に上がった2機のザクと、上空に展開するインパルスの方は、飛び立ちこちらに接近してくるモビルスーツ部隊を迎撃する構えを取る。

 その際、甲板に上がった時まだ重力圏に慣れておらず少しふらつきながらで着地したルナマリアに、レイが注意するよう声をかけた。

 

「海に落ちるなよルナマリア、落ちても拾ってはやれない」

 

「意地悪ね。こっちこそあんたなんかに頼わないわよ、ユノさんに拾ってもらうから」

 

「……こちらも艦の護衛で手一杯になる。ただでさえおぼつかない足取りなんだ、間違っても格闘戦なんて仕掛けるような真似はするな」

 

「あんた私のこと単細胞かなんかだと思ってない!? シンと一緒にしないで!」

 

「いやなんで俺に飛び火するんだよ! つーか、誰が単細胞だ!」

 

 レイがしたのはただの注意喚起だったが、言い方が冷たかったことでルナマリアが突っ掛かり、それにレイが煽り返してルナマリアが挑発に反応しシンが巻き込まれて、仲良しなパイロットの同期組が騒ぎ出す。

 

「うっさいわね! 前見なさい敵が来てるわよ!」

「集中しろシン! 敵はすぐそこに来ているんだぞ!」

 

「分かってるっての! こんのぉおおおお!」

 

 しかしそこはザフトレッドの優秀なパイロットたち。

 敵モビルスーツの接近は把握しており、まずは遊撃役のシンが射程圏内に入ってきた一群へビームライフルを撃ちながら突っ込んでいき、ミネルバの対空戦闘と共にレイとルナマリアの方も接近してくる敵モビルスーツに向けて各々のビーム兵器を発射して迎撃を開始した。

 

「こいつ! クソッ! あたれぇえええ!」

 

 猪のように突っ込んでいったシンだが、すかさず散開して包囲し、集団で囲みながら一撃離脱を基本とする波状攻撃を仕掛けてくる敵に翻弄される。

 ウィンダムの性能あるが、大気と重力の影響が大きい地球は連合のパイロットにとってホームグラウンド。さらに集団戦は彼らの十八番であり、単騎の敵機をチームで囲い込む連携にシンは翻弄される。

 シンの方もしっかりと囲まれながらも敵の射線を気にしながら立ち回り波状攻撃に対応しているが、悠長に狙いを定める暇がないことや、調整はされているが大気の影響で普段と違う調子になっているインパルスの放つビームライフルの方も飛び回る敵モビルスーツをなかなか捉えられない。

 

「このっ! ああもう、ちょこまかと! 射撃はあんまり得意じゃないのよ!」

 

「大気によるビームへの干渉が予想より誤差を大きくしている……ユニウスセブン落下の影響もあるか。いや、敵の技量もさるものということか!」

 

 射撃が苦手というルナマリアだけでなく、レイのザクも飛び回る敵機をなかなか捉えられない。

 地球における実戦は初めてであり、かつユニウスセブン落下の影響もあり、データを元に調整していた数値と実際のビームの地球上における干渉に誤差があり、狙いが思うようにいかなかった。

 

 そして最新鋭量産機であるウィンダムを揃えているだけあり、当然その乗り手も優秀な兵士が務めているのだろう。

 地球に慣れている敵モビルスーツの回避も的確であり、その数もあり撃墜できず弾幕にて近づけないようにするのが精一杯であった。

 

「CIWS迎撃! イゾルデ、トリスタン、照準左舷前方の敵艦隊! 撃てぇ!」

 

 ミネルバの方も艦の武装を総動員し、接近するモビルスーツに対する対空砲火を仕掛けると共に、突破目標である左側に展開してくる敵の艦隊に主砲の火力を集中させる。

 艦同士の射程に入ったことで、両軍ともに艦砲による砲撃やミサイルの応酬を仕掛けていく。

 

 迫り来る砲弾や対艦ミサイルをCIWSが撃ち落とし、逆にトリスタンの光線が最も近い位置にいた護衛艦を捉え直撃にて沈め、迎撃を掻い潜ったパルジファルがその奥の空母に直撃し甲板に火災を発生させた。

 

 だがミネルバも無傷では済まない。

 数で圧倒する上に、急接近からの一撃離脱を繰り返す波状攻撃で翻弄するモビルスーツ部隊からの攻撃により、船体にビームを被弾する。

 アンチビーム爆雷を散布しそれらを防ごうとするも、数が多く全てを相殺し切るのは難しかった。

 

「タンホイザーは!?」

 

「現在エネルギー充填率80%!」

 

「モビルスーツを取り付かせないで! ディスパールを!」

 

「了解! ランチャー4、ランチャー5、ディスパール装填! 撃てえ!」

 

 やはり数が多いモビルスーツからの攻撃が艦への被弾を増やしている。

 タンホイザー発射体制が完了するまでモビルスーツを取り付かせないように、対空ミサイルに切り替え周囲の敵モビルスーツに対する弾幕をさらに強くするようタリアが指示を出し、ミネルバから対空ミサイル“ディスパール”が多数発射された。

 

 空ではモビルスーツの編隊に囲まれながらも、インパルスの機動性とシールドを駆使して敵の攻撃をしのぐシンが、なかなか敵を捉えきれない状況で、焦りと苛立ちから頭に血を上らせていたが──

 

「アビス……」

 

 ふと目に入った戦闘中のコンディションを示す友軍機の羅列に、アビスの名を見つけて冷静さを取り戻した。

 

「ああ、そうだ……姉さんが教えてくれた。焦るな落ち着け……連携する敵の編隊と戦う時は──」

 

 はやる気持ちを落ち着かせて、姉の教えを思い出す。

 連合軍が得意とする、数を生かす一撃離脱の波状攻撃。

 その対応も、しっかりとユノに授けられていた。

 

 

 

 シミュレーションにて、連合のモビルスーツ編隊との空中戦を想定した場面にて。

 3〜4機までなら勝てるが、それ以上となると殲滅しきれず、10機を上回れば1機すら捉えられずに落とされるという結果を繰り返すシンに、ユノが一撃離脱を繰り返す敵の部隊と単機で戦わなければいけない時のコツを説いてくる。

 

「いいかい、シン。一撃離脱の重ねがけで仕掛けてくるこの波状攻撃、狙いを絞るような真似はかえって逆効果だ」

 

「ならどうすんだよ?」

 

 一機ずつ狙い撃とうとしても、これだけ数が増えればそれは難しい。

 背中を追う間に背中を捉えられ、蜂の巣にされてゲームオーバー。

 しかし一つずつ落としていかないと敵の攻め手は削れない。

 八方塞がりだと拗ねるシンに、シミュレーターの席を交代したユノが自らその場合の対応というものを見せる。

 

 カメラから示される映像と、レーダー、ロックオン警報。

 ユノがとった対応は、それらを注意深く見てひたすら敵の攻撃に対し守りに徹し自機の撃墜を防ぎ続けるというものだった。

 

「姉さん、それじゃ相手の思う壺じゃんか」

 

 ユノの見せた対応に、シンはこれでは多少は持つだろうけどジリ貧で撃ち負けて何もできずに終わると文句を言う。

 

「ところがどっこい、そうじゃないんだよ」

 

 しかしユノはシンの言葉を否定する。

 直後、彼女は完璧なタイミングで接近してきた敵機にカウンターで一撃を打ち込み一機を易々と撃墜してみせた。

 

「えっ!?」

 

「ふふん」

 

 シンが驚く合間に、ユノはそれまでの引きこもりが嘘のように的確な反撃で次々にシュミレーター上の敵機を撃墜していく。

 そして瞬く間にシンが手も足も出なかった1対10のステージをクリアしてみせた。

 

「今のは何!? どうやったの!?」

 

 そのコツを教えて欲しい。

 せがむ弟に、ユノはふふんと腰に手を当てながらそのコツを教える。

 

「こういうのはね、相手を個で捉えるんじゃなくて、リズムで捉えるのさ」

 

「リズム?」

 

「そう。この波状攻撃はチームで仕掛ける攻撃だから、仕掛ける→撃つ→離れるを繰り返しながらも、反撃を許さないように連携するのが重要になる。そしてこれを正確にこなし自分たち同士の衝突事故を防ぎながら続けるために、そこにはそれぞれのチーム特有のリズムができる。“あいつがこう動くから、俺はこうしかけよう”ってね。それを読み解けば、相手に絶好のカウンターを叩き込む機会を見つけられるんだよ」

 

 集団による一撃離脱を駆使した波状攻撃を仕掛ける者たちが作るリズム。

 それを読み解くこと。

 それこそが、この集団戦法を駆使する敵を倒すコツであると。

 

「でも、そんなのどう読み解くっていうんだよ」

 

 しかし、そんな長年のベテランの勘がものを言うようなのを敵に囲まれ撃たれながらと言う状況でどう読み解けばいいんだと文句を言うシン。

 とても自分にはできないと拗ねる彼に、ユノは先ほど見せたシミュレーターのログを見せた。

 

「だから、最初は動かず守りに徹したの。一撃離脱の繰り返しは、間隙こそ少ないけど味方撃ちを避けるために1発ずつ仕掛けるのが基本なの。無闇に動いて回避するよりも、1発撃たれるのを2秒に1回盾で受けるをずっと繰り返す。撃たれる恐怖はあるし、動かなければいい的になっちゃうし、シールドにも限界があるけど、慣れないうちはこの方が意外と守りやすいんだよ。そして──」

 

 そしてもう一つ、と動かずに敵の攻撃を受ける理由を教える。

 

「的が動かないとくれば、撃ってくる方も連携が自ずと固定されたフォーメーションとタイミングで仕掛けるようになる。これが相手の1番の基本的なフォーメーションとリズムだってね。この時の相手のリズムと動き、タイミングを読みとければ、カウンターのタイミングも自ずと理解できるようになるってわけさ」

 

 的が動かなければ、仕掛ける側のフォーメーションも自ずと固定化されたものになる。

 動くよりも、そのタイミングを、リズムを把握しやすくなる。

 敵の波状攻撃を捌けるようになるという前提はあるが、慣れれば的となる自分が動き回ることで不規則に変わるフォーメーションでも読み解けるようになってくるのだという。

 

「まずは撃ち落とされないように敵の攻撃をひたすら防ぐ。そうして守っている間に、射撃の間隔、方向、敵がどこから仕掛けてきたか・どの方向に離脱したか・次にどの敵が仕掛けてくるかといった具合にね。敵の連携のリズムは守りに徹し捌いていけば見えるようになる。まあ、ここは練習あるのみだけどね」

 

 こうして説明されると、どうすればいいのかという答えが見えない手探りだった状態からしっかりと積み重ねるべき目標が見えて、クリア不可能だと思っていたこれらの設定もクリアできそうだという可能性が見えてきた。

 

「これはシミュレーターだから、何度でもチャレンジできるさ。コツを知ったらあとはひたすら練習。ほら、お姉ちゃんも付き合ってあげるから、頑張ってクリアしよ?」

 

「……わかった!」

 

「よし、いい子! クリアできたら、ご褒美にローストチキン作ってあげるから!」

 

「よっしゃあ!」

 

 攻略法がわからず手探り状態に苛立ちいじけていたのは収まった。

 姉の教えを受け、攻略法が見えた上で、シンは再度シミュレーターに挑む。

 最初はクリアに行けなかったが、徐々にこの集団相手の戦い方のコツを掴んでいき、ついに1対10の高難易度もクリアできるようになった。

 

 

 

「……そうだ、相手を個で捉えちゃダメ……リズムで捉える!」

 

 ユノの教えを思い出し落ち着いたシンが、インパルスを無闇に動かすのをやめて反撃すら最小限にしひたすら防御する構えをとる。

 

 それを見た連合側のモビルスーツは容赦ない攻撃を繰り返すが、レーダー、カメラの映像、ロックオン警報、様々な情報に目と耳を澄ませ、シールドで的確にそれらの攻撃を凌ぐインパルスはなかなか崩せない。

 

 敵の攻撃に対し無闇矢鱈に突っ込むのをやめて守りに徹するインパルス。

 そのコクピットで、攻撃のタイミング、離れる方向、次に仕掛けてくる敵の動きをリズムで捉えてきたシンが、徐々に敵のフォーメーションを見切り、ついにカウンターをたたき込む好機を見出す。

 

「──そこだぁ!」

 

「何!?」

 

 そのカウンターは完璧だった。

 

 亀のように動かず防御に徹した敵の新型モビルスーツ。

 ひたすら防御に集中するインパルスに四方八方から攻撃を仕掛ける連合のモビルスーツの方は、怯えて動けなくなったと思い込み、守りこそ硬いがいずれシールドが焼け尽きるか推進剤かバッテリーが底をつくかして落ちるだろうと見ていた。

 

 そこに、今まさに攻撃を仕掛けようとしたタイミングで、守りに徹していたインパルスが回避できない完璧なタイミングでビームライフルを向け発射してきたのである。

 

 犠牲になった連合のパイロットは、その時インパルスが守りに徹していたのが怯えていたのではなくカウンターの機会を伺っていたことを察し、直後に火だるまとなって落ちていった。

 

 そしてインパルスの突然の反撃に、他の連合のモビルスーツにも動揺が走る。

 その時フォーメーションは崩れ、これまでにないインパルスの反撃を許すだけの間隙が生まれる。

 

 シミュレーターはAIだから撃ち落とされても容赦なく攻撃を続けるが、現実では人間が相手になっている。だからこそ、このカウンターが決まった時にほとんどの相手はフォーメーションが崩れ、絶好の攻撃のチャンスが生まれる。

 実戦を知るユノが教えてくれた通り、その機会はたったの一撃で生まれた。

 コーディネイターとしてナチュラルをはるかに上回る反射神経を持つシンには、その大きな隙が絶好の攻撃チャンスとなる。

 

「ここだぁ!」

 

 続け様に発射されたインパルスのビームライフルは、フォーメーションを見切っていたことで狙いなどいちいち定めずとも敵機がどこにきているのかを理解しており、瞬く間に3機のウィンダムを撃ち抜いた。

 

「まずい、フォーメーションを立て直さなければ──!」

 

「いける……行けるぞ!」

 

 ついに連合のモビルスーツを捉えたシンが、反撃に出る。

 数を削られた連合側の編隊は連携が崩されており、動き出したインパルスからの攻撃に攻守が逆転して次々に被弾を許していく。

 

 ザフトの最新鋭機であるセカンドシリーズの名は伊達ではない。

 その正式パイロットの座を射止めた腕は、確かな弛まぬ研鑽で磨き上げたものである。

 

「はああぁぁぁ!」

 

「抑えきれん……応援を! この敵の新型、ただものではない!」

 

 インパルスがその機体性能を遺憾なく発揮し連合側のモビルスーツ編隊を相手に数の優位をひっくり返し反撃に出たことで、相対する連合軍がインパルスを抑えるために戦力を傾けることとなり、ミネルバに対する攻勢が緩んだ。

 

「シンか? フッ……やるじゃないか」

「あいつばっかり活躍されるわけにいかないわよ!」

 

 ミネルバに対する攻勢が緩み、モビルスーツ部隊がインパルスに吸い寄せられていく光景に、同期の奮戦を見たザクを駆る2人も負けてはいられないと奮起する。

 

「ルナマリア、お前はヘリを狙え」

 

「わかってるわよ! あんたこそ曲がるビームはやめて、ファイヤビーでも撃ってなさい!」

 

「ああ。ビームが当たらないと言うならば、これで──!」

 

 そこから2人は短いやり取りで各々の役目を決め、ミネルバに近づく敵を無闇矢鱈に迎撃するのではなく、ルナマリアが遅いヘリを中心に狙い撃ち、レイは曲がって当たらないビーム突撃銃にて狙撃するのを諦め牽制に割り振り大気圏の影響を受けにくい誘導ランチャーであるファイヤビーを攻撃のメインに切り替えインパルスの方に向かい数の減ったモビルスーツを中心に迎撃を担った。

 

 これが大いに嵌り、ルナマリアの砲撃でヘリが撃ち落とされ、レイの放つランチャーにダガーLやウィンダムが餌食となり、ミネルバに接近していた連合側の機動部隊が次々と海に落とされていった。

 

「モビルスーツ部隊に遅れを取るな! こちらも敵艦を討つ! イゾルデ、照準オレンジ26ブラボー、敵空母! 撃てぇ!」

 

 モビルスーツ部隊の奮戦に、ミネルバも負けじと対艦戦闘で見せる。

 イゾルデの砲撃を持ってミサイルに被弾した艦に変わり前衛に出てきた空母を狙い撃ち、直撃弾を叩き込んでこれを撃沈に追い込んだ。

 

「流石はザフトの最新鋭艦、簡単には取らせてくれないか……ならばこちらも奥の手を出そう。ザムザザー、発艦せよ!」

 

 ミネルバの奮戦に、最新鋭艦というだけあり一筋縄ではいかない相手と見た大西洋連邦の艦隊司令官が、奥の手である新型の大型モビルアーマー“ザムザザー”を出撃させることを決断する。

 

「これからの時代は大型モビルアーマーが戦場を制する新たなゲームチェンジャーとなるのだ! 見せてやるコーディネイターども……我らが地球連合の新たな力を!」

 

 最後尾の旗艦である空母の甲板より、ついにザムザザーが離陸する。

 メビウスなどそれまでの連合のモビルアーマーとは比べ物にならない重武装と装甲、そしてそれを抱えながら地球の重力圏内でも飛行可能な戦闘機並みの運動性能を両立した機体。

 

 旗艦から飛び立ったザムザザーは、敵の本丸であるミネルバを直接叩くべく前進していく。

 

「敵の新型兵器が発艦、本艦に向けて接近してきます!」

 

 そしてザムザザーの出撃と接近は、ミネルバの方でも観測している。

 巨体と重武装に見合わない高速飛行には面食らったものの、アーサーは余裕があった。

 

「それを繰り出すのは一足遅かったな。タンホイザー、照準敵大型モビルアーマー並びに後方の連合軍艦隊! まとめて蹴散らすぞ!」

 

 アーサーの余裕の根拠は、ミネルバが誇る最強の兵装である陽電子破砕砲タンホイザーの発射体制が整ったことにある。

 ザムザザーの機動性能は想定を上回っていたが、接近される前にタンホイザーにて艦隊もろともまとめて吹き飛ばす体制は整っており、それを防ぐにはザムザザーの出陣は遅かった。

 

 艦首砲がザムザザーとその後ろの艦隊を照準に捉える。

 

「来たか……」

 

 それを見たザムザザーは、回避行動を取るどころかその場に停止するという謎の行動をとる。

 

「何……?」

 

 あの機動性能があれば、母艦を失うことになるとしてもタンホイザーの回避は可能なはず。

 オーブから情報提供を受けているならば、タンホイザーの破壊力は承知しているはずなのに、それでもまるで受けて立つとでも言うかのようなザムザザーの不可解な行動をみて、タリアは疑念が浮かぶ。

 

 一方の調子に乗るアーサーは、それがヤケクソだと判断した模様。

 

「タンホイザー、撃てぇ!」

 

 そのままエネルギーの充填が完了したタンホイザーを、ザムザザーに向けて発射した。

 

「シュナイドシュッツ展開!」

 

 強力な陽電子破砕砲に対し、その場に止まったザムザザーは機体を前傾させ、搭載された防御兵装を展開する。

 

 陽電子リフレクタービームシールド“シュナイドシュッツ”。

 それはビーム・実体弾を問わず拒絶し、戦艦すら容易く消し飛ばす陽電子砲の攻撃すら防ぎ切る、三基のシールド発生機によって展開される電磁フィールドで形成するバリアにより、あらゆる攻撃を跳ね返す鉄壁の防御兵装であった。

 

「そんな……!?」

 

 タンホイザーの直撃を受けたはずのモビルアーマーは、無傷。

 もちろん後方の敵艦隊にも一切被害がなく、ミネルバの最強の兵装は敵の未知のモビルアーマーの前に容易く防がれた。

 

 タンホイザーを防いでみせたザムザザーの姿に、アーサーは絶句する。

 アーサーだけではない。これはとったと勝利を確信していたクルーたちも、この未知の新兵器の見せた防御を前に、言葉を失っていた。

 

 “あんなもの、どうやって戦えばいいんだ”

 

 そんな士気の落ち込む空気が満ちるCICにて、タリアがクルーを叱咤する。

 

「手を休めないで! ぼさっとしている暇はないのよ! 落とせないから何? 私たちの目的はあくまで敵艦隊の突破よ、ならば付き合わずアビスが海から艦隊を攻撃するチャンスを作りなさい!」

 

「は、はい!」

 

 タリアの叱責により、クルーたちが立て直す。

 

 大型モビルアーマーといえども、あの兵装であの機動性能を持っているのである。空母の甲板に直置きでわざわざこの戦場に引っ張ってきたということは、継戦能力に関しては決して高くはないはず。

 目的を突破に絞れば、艦隊を狙う攻撃要員として出したアビスの活躍次第でザムザザーを落とさずとも退けることは可能である。

 落とせないと言うならミネルバを追えない状態に追い込むことを目標に戦えばいい。

 

 目的を明示し、ザムザザーを落とす必要はないとした上で、突破するために戦うように促すことでクルーたちの士気を立て直した。

 

 こちらにはアビスがいる。

 ザムザザーの迎撃要員として、インパルスもミネルバから離れないように指示し展開させている。

 今なすべきは、アビスが艦隊を仕留めインパルスがモビルスーツ部隊を蹴散らしザムザザーの迎撃に来れるようになるまで、ミネルバであの未知のモビルアーマーを迎撃し時間を稼ぐことである。

 

「メイリン、ルナマリアに敵モビルアーマーに対し砲撃を仕掛けるように伝えて」

 

「ミネルバよりルナマリア機へ、敵モビルアーマーに対し砲撃を実施し足止めをしてください」

 

「アーサー、トリスタンの照準をモビルアーマーに! タンホイザーを防いだ際にあのモビルアーマーは機体をホバリングさせて上面をこちらに向けてバリアを展開していたわ。あのバリアは鉄壁でしょうけど、展開中はあの体制を取らなければならないとすると足を止めることはできるはず。火力を集中し、モビルアーマーを近づかせないで!」

 

「はい! イゾルデ、トリスタン、照準敵モビルアーマー! 足を止めるぞ、撃てぇ!」

 

 タリアの指揮に従い、シュナイドシュッツ展開のためのホバリングを利用し足止めさせるため、トリスタンをはじめとする各種砲門を向けミネルバの火砲をザムザザーに集中する。

 加えてメイリンにはルナマリアにもオルトロスの砲撃をザムザザーに向けるよう指示を出し、それを受けたルナマリアがガナーウィザードの長距離ビーム砲をザムザザーに向けて発射した。

 

「何をしようと無駄なことだ!」

 

 それに対し、ザムザザーは無駄な足掻きと嘲笑うように再びその場に止まると、機体を前傾させ展開したシュナイドシュッツにてそれらの攻撃をことごとく防ぎ切る。

 ザムザザーに攻撃は通らないが、その足を止めることには成功した。

 

「まったくもう、当てられても効かない相手とかムカつくんだけど!」

 

「足止めが目的だ。俺の方もいい加減ビームの偏光具合に慣れてきた、これよりモビルアーマーに対する攻撃に参加する」

 

 止まる上にあれだけ大きい的ならば、射撃を苦手と自負するルナマリアもオルトロスを当てるのは難しくはない。

 しかし当ててもまったく効かない的というのは分かっていてもイラつくものであり、文句を出さずにはいられない模様である。

 

 連合軍側が切り札であるザムザザーを繰り出してきたことで、被害の拡大を防ぐためにインパルスと戦闘中の部隊を除きモビルスーツら航空戦力を下げたことで余裕ができたレイも、ファイヤビーやようやく照準のブレ方に慣れてきたビーム突撃銃を駆使し、ザムザザーへの攻撃に加わる。

 

 シュナイドシュッツに阻まれその攻撃のことごとくはザムザザーの装甲にすら届かないが、モビルスーツとミネルバの絶え間ない砲火はシュナイドシュッツの展開を解除しザムザザーが仕掛ける暇を与えないことにより、足止めの目的は十分に果たしていた。

 

 そして、その足止めは功を奏する。

 

「さて、みんながこれだけ頑張っているんだから僕だけ手ぶらで終わるわけにはいかないよね!」

 

 アビスが迎撃用の機雷をすり抜けて連合の艦隊を捉え、海中より魚雷による攻撃を敢行し、次々にその船底に穴を開けて艦隊を混乱に陥れた。

 

「敵は単機だろうが! 何をしている!」

 

「早すぎて捉え切れません! ザムザザーに救援要請を!」

 

「数はこちらが上なのだ! ザムザザーが敵の戦艦を仕留めれば──ぐおっ!?」

 

「艦底部に被弾! ダメです、航行不能! 沈没します!」

 

 護衛艦、巡洋艦、空母と、海戦特化仕様機として開発されたその機体の性能を遺憾無く発揮し、艦隊を手当たり次第に沈めて行く。

 艦隊の方も迎撃するが、前大戦ではグーンに搭乗し連合の艦隊を相手に戦ってきた経験を持つ彼女にとって、グーンをさらに上回る水中での機動性能を持つアビスは艦隊が撒く魚雷や機雷で止められるような機体ではなく、一方的な展開となりついには旗艦の空母にも大きな損害が生じた。

 

 魚雷攻撃に加えてランスで直接切り付けられたことで船底に大穴を開けられた空母は、排水が間に合わない大量の浸水を許し、瞬く間にその船体が傾き沈んでいく。

 

 そして手も足も出ないままに撃沈に追い込む損傷を与えてきた敵モビルスーツが、その姿を嘲笑うかのように海中から姿を現した。

 

「おのれ、ロアノーク! 貴様がしくじらなければこのようなことには──」

 

 この機体の強奪に成功していれば、このような事態にはならなかったのに。

 アビスの強奪に失敗したファントムペインの隊長に対して恨み言を叫ぶ艦隊司令官だったが、その言葉は最後まで紡がれることはない。

 アビスが両肩に備える大型のシールドの裏側に搭載するビーム砲の砲門が艦橋に向けられ、艦隊司令官の恨み言を遮るように艦橋を吹き飛ばした。

 

「よし、旗艦は取ったし突破の道も開いた。あとはミネルバの救援に戻るだけだね」

 

 アビスを駆使するユノの活躍により艦隊は瞬く間に旗艦を含む11隻の艦艇が沈没を免れないダメージを受け、包囲網の一翼が全滅したことでミネルバの突破口が形成される。

 

「こちらアビス、敵旗艦を含む艦隊を殲滅し突破口を形成しました。これよりミネルバの援護に向かいます」

 

 敵艦隊に大損害を与えたユノは、突破口が形成されたことをミネルバに報告すると、ザムザザーやモビルスーツ部隊と交戦するミネルバの突破を援護するべく、モビルアーマー形態になり向かう。

 

「──撃滅ッ!」

 

「────ッ!」

 

 ところが、ミネルバの元に戻ろうとするアビスに、横から複数のビームが飛来しその進路を妨害してきた。

 

 咄嗟に回避し、アビスをモビルスーツ形態に移行させるユノ。

 そこへ彼女がミネルバに行く道を塞ぐように、最後に残っていた空母から発艦してきたモビルスーツの1隊が仕掛けてくる。

 

 そして、その先頭にて編隊を率いて接近する機体は、最近交戦を果たした──いや、それ以上に武装もカラーリングも違えどユノにとって忘れることのできないあの機体であった。

 

「お前は……!」

 

「リベンジマッチだぜ、ウミネコ野郎!」

 

「カラミティ!!」

 

 ユニウスセブンにて破砕作業部隊に強襲を仕掛けてきた、あのエールカラミティ──ユノにとって、大事な弟妹たちの両親を奪い、彼女の祖母と兄と婚約者を死に追いやった憎き仇である“災厄(カラミティ)”と同じ名を冠する機体であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。