もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら 作:ちゃーらんき
アビスが連合の艦隊を旗艦を始め大いに沈めカーペンタリアへと抜ける道を切り開いた光景は、ミネルバのCICでも確認できた。
「空母他敵艦11撃沈を確認!」
「アビスの開いた道を抜ける! 取舵30、機関最大!」
「了解、取舵30、機関最大!」
連合軍艦隊の包囲網の片翼が切り落とされた。
この好機を逃さず、タリアは包囲網にこじ開けられた道に向けミネルバを進めるよう指示を出し、操舵を担当するマリクがそれに従いミネルバの進路を左に傾け一気に加速させる。
ザムザザーを乗せてきた敵艦隊の旗艦を艦橋を吹き飛ばすというオーバーキルをかました上で沈め海上に姿を現したアビスも、ミネルバの援護のためにモビルアーマー形態に移行して向かってくる。
旗艦は情け容赦なくトドメを刺したが、アビスの攻撃を受けたほとんどの艦艇は魚雷攻撃による浸水で沈められている。多くの船が沈み荒れる海には多数の連合軍の兵士が浮いており、救助を必要としている状況だ。
艦隊にこれだけの損害を与えられたとなれば、もはや敵もミネルバの追撃どころではないはず。
事実、ミネルバに攻撃を仕掛けてきていた残る敵もザムザザーを除きモビルスーツ隊やヘリ、艦艇などが、海に投げ出された友軍の救援を優先して離脱しており、包囲網も完全に崩れていた。
あとはこちらのモビルスーツを収容して、敵艦隊を切り抜けるだけ。
これはいけるとミネルバのクルーたちが絶望的な戦況を切り抜けられる希望を見出す。
「──艦長! 敵空母より離陸したモビルスーツ部隊がアビスに!」
「そんな……! 艦長、敵大型モビルアーマーがシールドを解除しインパルスに向かっています!」
「なんですって!?」
だが、敵はそれを認めてくれなかった。
砲撃をやめ戦場からの離脱を試みるザフトに構ってなどいられない状況であるにもかかわらず、一部の敵部隊がミネルバではなくこちらのセカンドステージシリーズのモビルスーツを狙い攻勢をかけてきたのである。
「セカンドステージシリーズが狙いってことなの……!?」
敵の狙いはセカンドステージシリーズのモビルスーツの強奪、または撃破。
ミネルバを討つのはあくまでついでと言わんばかりの動き。
インパルスとアビスがミネルバとともに地球におりたことは、一時乗艦していたカガリたちも知っている。
オーブは最新鋭のセカンドステージシリーズのモビルスーツが搭載されている情報も大西洋連邦に売ったのではないか? だからこそ、敵は最新鋭艦とはいえ1隻だけのミネルバを沈めるのに、カーペンタリアの包囲に戦力を必要とするはずの中でもこれだけの戦力を投入したのではないか?
アビスが実戦ではまだ海を舞台に戦っていないためその戦力は未知数。水中戦闘を想定した備えが不十分であるという、数は過剰でありながらで個々の対策がなってない杜撰さも相成り、そんな疑念が湧き上がる。
「艦長! 全速で抜ければ、ミネルバだけは包囲を逃れられます!」
今の敵部隊で友軍の救援に走らず攻勢を仕掛けているのは、ザムザザーとアビスに襲いかかってきたカラミティ率いる1部隊のみ。この状況、敵の艦隊を全速力で抜けるのにミネルバを狙ってくる障害はない。
インパルスとアビスを囮にすれば、ミネルバは敵艦隊を切り抜けカーペンタリアに逃れることができるだろう。
逆にインパルスを助けるためにあの難攻不落の防御を持つザムザザーとの戦いを選び時間を浪費して仕舞えば、戦力を大いに削ったとはいえ敵に立て直しの猶予を与え再びミネルバをも標的にされることもあり得るし、それ以前にザムザザーの攻撃でミネルバがやられる展開も十分に考えられる。
インパルスとアビスの救援をしようとして全滅、などという最悪のシナリオになりかねない。
だが、アーモリーワンではカオスにガイア、さらにはザクまでも盗まれた。
その上アビスやインパルスまで奪われ、それが連合に利用されるような事態となれば、それは既に連合と開戦したプラントにとって大きな災禍となるのは明白である。
ミネルバの艦長としてはクルーと艦の安全のためにはモビルスーツ2機を囮として切り捨てるのもやむを得ない判断の一つに上がるが、今のミネルバ1隻を引き換えにその災禍を招くことはザフトの白服として許すわけにはいかない。
「インパルスを見捨てるわけにはいきません! バート、機関出力を70に! チェンは敵大型モビルアーマーを攻撃、インパルスに取り付かせないで!」
「了解! 機関出力70!」
「ランチャー3、パルジファル装填。目標敵大型モビルアーマー!」
「撃てぇ!」
インパルスとアビスを囮とすれば、ミネルバは切り抜けられる状況。
取りこぼしを拾おうとすれば、仲良く全滅もあり得る。
それでも、そのリスクを承知の上でタリアはインパルスとアビスを見捨てず全員で切り抜けるという決断をした。
「インパルスは直ちにミネルバに帰投! メイリン、レイとルナマリアにモビルアーマーに攻撃しインパルスの撤退を支援するよう指示して!」
「了解! レイ機並びにルナマリア機へ、インパルス撤退援護のために敵大型モビルアーマーに対し支援攻撃を実施してください」
ミサイル攻撃にてザムザザーに牽制を仕掛けるとともに、インパルスにミネルバへの撤退を指示。
さらにインパルスに取り付かせないよう機動兵器の撤退により手透きとなったモビルスーツ部隊にもインパルスの撤退を支援するよう指示を出す。
「ファイヤビーもそろそろ弾切れじゃないの? ここは私に任せて、あんたはさっさと補給を済ませなさい!」
「すまん、ルナマリア」
援護射撃の指示を受け、ルナマリアはザムザザーに対してオルトロスにて砲撃を仕掛ける。
一方でレイの方は指示を受けるまでもなくモビルスーツ部隊が下がってからは狙いをザムザザーに変えてファイヤビーにて攻撃を仕掛けていたが、こちらの残弾も底をつきビーム突撃銃もバッテリー切れに陥っていたため、ルナマリアに支援攻撃を一時任せてミネルバに後退した。
「バートはアビスを狙う敵モビルスーツ部隊の解析、アーサーはアビスの帰還支援のためにデータを元に敵部隊に対し砲撃を!」
「了解! ……索敵完了、データ送ります!」
「は、はい! イゾルデ照準敵モビルスーツ部隊!」
ミネルバではさらにアビスの撤退支援に向けても動く。
索敵担当のバートにアビスを狙う敵部隊の戦力と座標を割り出させ、アーサーにはそのデータを元にアビスを狙う敵モビルスーツ部隊を撃ち払うよう指示を出した。
ユノならばわずかな隙があれば海中に離脱してミネルバに撤退するはず。
あの大型モビルアーマーも、インパルスを引き離し砲撃で足止めして距離を作れば、この戦況では流石に諦めるだろう。
なんとか状況を切り抜けるために、タリアの指揮の元ミネルバがザムザザーとエールカラミティ率いる編隊に牽制を仕掛けるが、ここで守りを続けてきたザムザザーが主砲となる複列位相エネルギー砲“ガムザートフ”をミネルバに向けてきた。
ザムザザーの機長が、ミネルバがあくまでも突破を目的としていることと、インパルスとアビスを見捨てない選択をしたことを見抜いたらしい。
海に投げ出されている同胞の救助にも向かわずミネルバに仕掛けてきたザムザザーは、タンホイザー以外なら被弾してもかまわんと自慢の装甲で牽制となるパルジファルやモビルスーツから放たれるビームを耐え、初めてその火力をミネルバに対して向けてきた。
パルジファルは直撃するも、ザムザザーの分厚い装甲がそれを阻みまともな損傷にならない。
一方で装甲の頑強さを頼りとする被弾覚悟でザムザザーの放ったガムザートフはミネルバの左艦尾に当たり、推進器に重大な損傷を与えてきた。
「艦尾に被弾!」
「推進器に損傷! 出力50に低下!」
衝撃で揺れるミネルバの艦内。
同時に推進器の破損により、その速力が損なわれる。
「きゃっ──!?」
当然その衝撃はミネルバの甲板でザムザザーに対し射撃をしかけていた2機のモビルスーツを襲い、ルナマリアのザクが衝撃によりバランスを崩してミネルバの船体に思いっきり機体をぶつけてしまった。
「ちょっ、やば──」
地球の重力と、宇宙を進むのとは違う海の揺れに慣れていないルナマリアは、そのまま足を踏み外して甲板からおちそうになり──
「──何をしている。気をつけろと言ったはずだ」
寸前でビーム突撃銃だけ持ち替えて再出撃して来たレイの白いザクファントムに支えられて海に落ちるという事態は避けられた。
「わ、悪かったわね!」
「構わん、俺の方も補給を終えるまでお前に任せきりだったからな。これで貸し借りなしだ」
ルナマリア機の落水という事態を防いだレイは、さっさと元の持ち場についてインパルスを狙うザムザザーにビーム突撃銃を向ける。
ルナマリアも気を取り直してオルトロスをザムザザーに向けるべくインパルスの方を見ると、そこには片足をクローに捕まれたインパルスの姿があった。
「何をしているんだシン!」
「何してんのよあんたは!」
「うるさいな、ハモることないだろ!」
ものの見事に捕まってしまった同期に、2人の声が思わず重なってしまった。
少し時を戻す。
モビルスーツ部隊は撤退したものの、今度はザムザザーが仕掛けて来たインパルスの方は、ミネルバより帰還命令が出されたこともありザムザザーに詰められる前にミネルバに帰投するべく、シンが機体を翻していた。
ミネルバからの支援攻撃や、レイのザクファントムが飛ばすミサイルを受けながらも、その重厚な装甲で物ともせずシュナイドシュッツに頼ることなくザムザザーはインパルスに向かってくる。
「こいつ──カニみたいな図体のくせに空飛んでんじゃねーよ!」
悪態つきながらビームライフルを発射してザムザザーを追い払おうと試みるシン。
だが多少の損傷は与えられるがザムザザーの装甲は堅牢であり、的はデカいので当てるのは難しくないもののビームライフルでも止まらずに突き進んでくる。
図体の割に小回りは効かなそうだが速度はあるザムザザー。
しかも攻撃してもなかなか止まらず、距離を詰めて来てアームを伸ばしインパルスを捕まえようとして来た。
「そんなもの!」
「ちょこまかと、カトンボの如きモビルスーツ風情が!」
アームを振り回してインパルスを捕まえにかかりながら、砲門も容赦なくインパルスを狙って火を吹いてくる。
それらを回避しつつザムザザーを攻撃するシンだが、こちらもこちらでなかなか堅牢な走行をなかなか切り崩せない。
近接戦特化のソードの場合はあのアームを掻い潜って攻撃しなければいけないしそもそもザムザザーの撃破は目的ではない。
フォースは機動力で躱せるが、決定打にかける。
火力の高いブラストであればシュナイドシュッツに頼らなければならない高火力を叩き込めるから運が良ければ撃墜、できずとも足止めしやすいのだが、こちらは重武装な分本体の機動力が落ちるので捕まるリスクが高くなる。
もっと都合のいいインパルスの組み合わせはないものかと心の中で文句を唱えながらミネルバの方からの援護もありでザムザザーから逃げ続けていたシンだが、その最中にザムザザーがミサイルの被弾を物ともせずアームを展開していない足からガムザートフをミネルバへと発射した。
「ミネルバが──しまった!?」
「よそ見とは余裕だな!」
ミネルバの被弾に、シンの意識がそちらに逸れてしまう。
その一瞬の隙を見逃さなかったザムザザーが、ガムザートフではなくクローを展開していた方の足を伸ばし、鋏状の大型クローにてインパルスの右脚を挟みとった。
超振動クラッシャー“ヴァシリエフ”。
その頑強かつ振動によって赤熱する二つの焼刃が、実体兵器のダメージを軽減する盾であるVPS装甲を削り取り、瞬く間にバッテリーを消耗させる。
「くそっ……そんなにほしけりゃくれてやるよ!」
あの巨大な武器ならば一気に断ち切ることも可能だろうに、バッテリー切れで動けなくなって捕獲するためかジワジワと削るように挟んでくるクロー。
シンはそんなのにやられてたまるかと、捕まっている箇所であるレッグフライヤーを切り離した。
合体機構を持つインパルスならではの離脱手段。
嬲るようなやり方を駆使し舐めてかかって来ていたザムザザーの鼻を明かすことに成功し、切り離されたレッグフライヤーだけを掴んでいるザムザザーが離れる。
すかさず自爆信号を入力することで、クローに掴まれたまま離れた下半身パーツを爆破させた。
「こいつを囮にして……!」
爆発によって発生した煙と爆風を目眩しにしてザムザザーから距離をとり、すぐさまチェストフライヤーとコアスプレンダーも切り離す。
そのままチェストフライヤーは自爆タイマーをセットして明後日の方向に飛ばし、コアスプレンダーでミネルバに向かった。
先ほどメイリンからもザムザザーがインパルスを狙ってきたこと、アビスの活躍で突破の道が開いたことはシンも聞いている。
若いので熱くなるところはあるが、軍の規律と冷静さを見失わないことなど先輩として多くの教えをくれた姉の教育により、狭い視野に捉われず自分が求められることを理解する努力を重ねた彼は、今の状況ではインパルスを渡さずに帰還することとあのモビルアーマーの撃破に固執する必要性はないことを理解していた。
「パーツでも追ってろよ、バーカ!」
2分後に爆発する爆弾となったチェストフライヤーに釣られて明後日の方向に飛んでいったザムザザーに子供みたいな捨て台詞を飛ばし、煙を上げながら進むミネルバのハッチにコアスプレンダーを滑り込ませるシン。
彼の機転によりザムザザーを引き離した上に、インパルスも無事帰還に成功した。
そしてコアスプレンダーのないチェストフライヤーを追いかけたためにミネルバの進行方向と逆に飛んで行き距離が離れたザムザザーが、チェストフライヤーを捕まえる。
直後にシンの置き土産となる自爆によって再度視界を見失う羽目となり、さらにミネルバと距離を引き離されることとなった。
「全く、心配かけないでよね……」
「合体機構をうまく利用しているな」
シンがインパルスの合体・分離機構を活用し、一度は捕まりながらもザムザザーを翻弄して逃げ切ることに成功した姿に、2人の同期もそれぞれ安堵と称賛の声を通信にてかける。
「そりゃインパルスの正式パイロットだしな」
「「調子に乗るな」」
「だからなんでそういうのは息ぴったりなんだよ!」
同期達の称賛が嬉しくて誇らしくて、シンはつい天狗になって返事をしたところ、一方でガッチリとアームにとっ捕まってた間抜けな姿も見ていた2人から声を揃えて釘を刺された。
「やったなシン!」
「お前すげーよ!」
一方でコアスプレンダーを降りたシンは、彼が帰ってくるまで戦闘の様子を見守っており、一度は捕まりながらもインパルスの分離機構を活かした立ち回りによってミネルバでは傷ひとつつけられなかったあのザムザザーを翻弄した姿もバッチリ見ていた親友の整備兵たちに、称賛の声で迎えられた。
「あのバケモノモビルアーマー相手に大立ち回りやりやがって、こいつ!」
「捕まった時は心臓止まるかと思ったんだからな!」
「暑苦しいっての!」
「騒ぐな貴様ら! まだ戦闘中なんだぞ!」
「「「ハ、ハイ!」」」
そして最後は仲良く整備長の一喝を受けることとなる。
ザムザザーは退けたとはいえ、まだここは戦場。敵の包囲を切り抜けたわけではない。
アビスは交戦中であり、ミネルバも速力が低下している。
ザムザザーも落としたわけではない。シンの囮に釣られたとはいえ、ミネルバに追いつくことは不可能ではないのである。
「コアスプレンダー、帰投完了!」
インパルスは帰投を果たした。
しかしながら、ザムザザーの攻撃によりミネルバは速力が落ちている。
全速が出せればこのまま崩れた包囲から抜け出しシンの機転のおかげで大きく引き離すことができたザムザザーからも離脱することができただろうが、速力が落ちたことでそれも厳しい状況となっていた。
「バート、アビスの方はどうなってるの?」
「現在エールカラミティを含む敵モビルスーツ部隊と交戦中!」
そしてもう1機の狙われているセカンドステージシリーズの機体──アビスの方は、これを狙い仕掛けて来たエールカラミティらモビルスーツ部隊と交戦中だった。
飛行モジュールにより地球の重力圏中においても高い機動力と単独の飛行能力を有し、複合兵装“アドラー”をはじめとする多数の武装を備える、最後にロールアウトを果たした高機動戦闘タイプのカラミティ。
その機体は、オーブで己の祖母と大切な幼馴染達の両親を奪った仇ではない。
その機体は、兄を葬ったボアズに核ミサイルを届かせた仇ではない。
その機体は、ヤキンで愛する婚約者を奪い、正義の名を冠する機体によって討ち取られた仇ではない。
カラーリングが違う。
武装が違う。
動きが違う。
機体も、中身も、ユノの記憶に残る激しく燃え盛る復讐の刃、憎悪の矛をぶつける相手ではない。
あの仇はヤキン・ドゥーエにて討たれた。
たった1人の血のつながった家族である兄を守ることすらできず、怪我で動けなくなっていた間に行われた決戦の舞台で。
だから、こいつは違う。
その機体は、ユニウスセブンにて遭遇した機体だ。
エラム隊の仲間を葬り、ヘルガーを沈め、エラム隊長を討ち、戦場と化したユニウスセブンを混乱に陥れ、婚約者の親友で一人ぼっちになったユノを支えてくれた恩人の恋人が眠る墓標を大災害の道具に仕立て上げたテロリストどもの大罪を手助けしたと言っていい敵である。
「……よし、落ち着いた」
ジャベリンモードを展開するアドラーとビームランスにて鍔迫り合いを行う相手、エールカラミティに対して向ける執着の憎悪は、相手が違うと言い聞かせて落ち着いた。
今はミネルバを突破させる戦いだ。
そして、アビスの役目は包囲に穴を開けること。これは果たした。
ならばあとは追撃の手を押さえ込む。
海を渡る深淵の名を冠するこのガンダムは、海というこの懐かしき戦場において何よりも真価を発揮する機体である。
瞳から濁った復讐の色を落としたユノは、この至近距離でスキュラを撃ち込もうとしてきたエールカラミティの機体を蹴り付けて引き離し、シールドを広げその裏側に搭載されている多数のビーム砲をアビスに群がる敵部隊に向けてばら撒くように発射した。
ウィンダムやダガーLがその広範囲攻撃を受けて次々に被弾し半数は被弾箇所により損傷が大きく撃墜に追い込まれた中にあって、エールカラミティは持ち前の機動力を持ってそれらをことごとくかわしながら肉薄してくる。
「くたばれ、圧殺──ッ!」
ジャベリンモードからウォーハンマーモードにアドラーを切り替えて、VPS装甲を貫き内部から破壊する巨大な鈍器を振り回してくるエールカラミティ。
「おっと、それは受けてあげないよ」
それをユノはMA形態の移動時にて流体の抵抗を抑えるためにデザインされた独特の形状を持つ肩のシールドを駆使して、アドラーに表面を滑らせるようにして受け流す。
ウォーハンマーモードのアドラーは当たれば破壊力絶大だが、その重量とさらなる威力を増やし回避を困難にさせるべく加速を与える補助ブースターまで吹かせて振り回してしまったことも相成り、受けたり避けたりせず受け流されると大きくバランスを崩してしまう。
一方のアビスは大きく回避したり受け止めるという真似はせず、受け流しで躱したことで詰めた間合いを保ったままその隙を間髪入れずに作るカウンターの体制を整えていた。
「やべっ──!?」
「──貰った」
エールカラミティには、対応不可能なタイミング。
カウンターで横に突き出されたビームランスの刃は、エールカラミティの両腕を貫く。
すかさずユノはビームランスを振り回し、アドラーを支えるエールカラミティの両腕を切り落とした。
「くそガァ!!」
アビスを相手にいいようにやられたことで、苛立ちを撒き散らすようにスキュラを発射してくるエールカラミティ。
「おっと」
しかしそんな悪あがきの攻撃に当たってやるほどユノは間抜けではない。
焦ることなくエールカラミティの追撃よりも悪あがきの回避を優先して易々とその一撃を回避すると、シールド下部の連装砲を向けてエールカラミティへ炸裂弾を発射した。
飛んで行った炸弾は直撃とともに強烈な爆発を起こし、破片を撒き散らす。
実体弾のためTP装甲を採用しているエールカラミティには大して効き目はないものの、目眩しには有効である。
『アビス、帰投を!』
「分かってるよ」
メイリンから受けた帰投命令。
ザムザザーはシンの機転もあり距離を取ることに成功しており、エールカラミティの率いるアビスを狙って来た敵部隊も損害を与えてそのほとんどを追い払っている。
今回はあくまで殲滅ではなく突破が目的なので、ミネルバに対する追撃の手をこの時点でほとんど潰すことに成功したので、潮時だと判断しユノもアビスを海に潜らせた。
「海中から殿をします。モビルスーツ部隊も全て収容して。やられた推進器の代わりにアビスでミネルバを押すから、そのまま出せる速度を出すように伝えて」
『了解です』
ミネルバは推進器をやられて速度が落ちている。
ならばとユノはやられた推進器の代わりにアビスで水中からミネルバを押すことで、少しでも速度を出せるようにしつつ、殿を務めるポジションに入ってミネルバの背中を守る体制についた。
「逃さねえぞ、テメエ!」
そして海中に逃げたアビスを見失ったエールカラミティが、逃すかとミネルバを追ってくる。
「はいはい、ストーカーはそこまでだよ」
「なっ!?」
しかし海中からエールカラミティの追撃を確認していたユノは、背部に搭載されている可動式2連装ビーム砲“バラエーナ改”を用いて、エールカラミティの飛行モジュールを奇襲にて撃ち抜きその機動力を奪い取った。
「チクショウがぁぁぁあああ!」
飛行モジュールがなければ、地球の重力圏内においてエールカラミティは単独飛行ができない。
海に落ちるエールカラミティをよそに、アビスに支えられながらミネルバは無事に海域を離脱。
その後アビスの援護によって全速は出せなかったもののある程度の速力を得ることができたミネルバは、シンが切り離したチェストフライヤーの囮に食いついて距離を作ってしまったザムザザーからも逃げ切ることに成功し、絶望的と思われていた包囲網を敵の大艦隊に逆に大きな損害を与えて逃げ切ることに成功した。
これにてソロモン沖海戦は終了です。
ザムザザーは撃破できず、シンの種割れはお預けとなりました。