もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら 作:ちゃーらんき
本来は種割れシンの活躍でザムザザー撃破&艦隊壊滅で戦意喪失により撤退させたところですが、こちらはザムザザー健在・空母含め船はある程度沈めたがまだまだ艦隊は健在・MSの被害は多くない・ヘリ部隊のおまけ付き・ミネルバ損傷により速力低下してるという状況なので、当然撤退などせず立て直しを終えたら索敵&追撃に出るので第二ラウンドがあります。
オーブ領海から出るなり新型の大型モビルアーマーを擁する大西洋連邦の大艦隊に待ち伏せを受けるという絶体絶命の状況に追い込まれたミネルバ。
待ち伏せを仕掛けて来た連合軍の艦隊戦力はミネルバ一隻に対し過剰なほどの大軍。その戦力差は圧倒的であり、加えて大西洋連邦に通じるオーブにより退路を遮断され後退もできないという、前門の虎後門の狼という危機的状況。
この圧倒的不利な戦況において、ミネルバは前方の連合軍艦隊の突破を決断。
戦力差は圧倒的であったが、インパルスの合体分離機構を生かしてザムザザーを翻弄したシン、アビスによる海中からの奇襲攻撃で艦隊に大損害を与えて突破口を作り出したユノ、そしてそのアビスの攻撃まで圧倒的に上回る敵軍の攻撃を耐え凌いだレイとルナマリア、そしてミネルバの奮戦により、この窮地を辛くも脱し包囲の突破に見事成功した。
しかしザムザザーの攻撃によって推進器に被弾したミネルバは速力が本来の半分にまで低下。
連合軍がシンの機転で切り札であるザムザザーが戦場から離れてしまったこと、船を沈められて海に投げ出された多くの友軍の救助を優先したことによりミネルバへの追撃は一時的に切り上げられたことなどにより、速力を落としながらもなんとか包囲網を抜け連合軍の目からも逃げ切ることには成功した。
ミネルバの離脱後、大西洋連邦はオーブに救援を要請。
大西洋連邦の艦隊は艦艇の損害は大きかったが、モビルスーツ部隊を始め機動兵器の損害は少なかったこと、ミネルバを領海に入れまいとその退路を遮断していたオーブ海軍が要請に応じ救助に加わったことで、その日のうちに生存者の救出と艦隊を立て直しを済ませた。
その後はミネルバの追撃を開始。
旗艦と艦隊司令官らをやられていたものの、足に損害を与えたミネルバをこのまま逃してはやらないと、カーペンタリアを包囲する艦隊にも援軍を要請し捜索網を形成する。
厳重な捜索網はソロモン諸島とカーペンタリア間の海域を重点的に形成され、モビルスーツやヘリを飛ばし日没後も休むことなく行われるほどであった。
そして、敵が血眼になって探していることはミネルバ側も察知していた。
包囲の突破にこそ成功したものの、アビスに支えられながらであっても今のミネルバの足ではカーペンタリアに逃げ込む前に敵の追撃に追い付かれてしまう。
ならば真っ直ぐカーペンタリアを目指すよりも、敵の目を欺き身を隠しながらカーペンタリアに入れるチャンスを窺う方が良い。
タリアは逃げるよりも敵の索敵から隠れることを選択し、重点的に捜索が行われるだろう海域は避けて進路を北に取りビスマルク諸島の方へと向かった。
現在は敵の捜索の手を警戒しながらビスマルク諸島を抜け、ニューギニア島の北部にある無人島にて日没を迎え停泊している。
船の残骸などが浜辺に打ち上げられ、いまだにユニウスセブンの破片がもたらした被害の爪痕が色濃く残る島には人の気配はない。
敵に見つからないよう無線通信は遮断、機関も停止させ、隠蔽を施した上で艦の応急処置作業が行われていた。
ドックも機材もない中での修理作業。
進水式すら無いまま戦場に出て小惑星に打ち付けられるなど大きな損傷を受け、オーブで修理を終えたばかりだというのに今回の海戦でまたも傷だらけとなり、整備班はほぼ休みなしで艦の修理に奔走している。
そんな整備班の面々に混じり、ミネルバの修理作業にいつもの武装を搭載したシールドではなく作業用設備を肩に装備したアビスと、パイロットスーツではなく繋ぎを着たコクピットに乗るユノの姿があった。
「こいつをこうして……そしてこれを嵌めれば……よし、できた。レイ、次のフレーム頂戴。Bの205番のやつ」
『これか?』
「それで合ってるよ、ありがと」
クレーンもアームもないが、ザフトにはモビルスーツという手段がある。
人間には扱えない大型の予備部品がミネルバの甲板に置かれており、それをレイの扱うザクがユノの指示に従いアビスに受け渡し、作業用設備を装備したアビスにてユノが修理作業を行なっていた。
ミネルバに帰投後、速度の低下を見て回り道と隠れる選択をしたタリアは、敵に見つからない場所で応急処置だけでも行うことを決定し、この島に上陸。
その際にモビルスーツが必要な修理作業を専門はモビルスーツだがエンジニアが本業であるユノに指示し、シールドをクレーンアームなど作業用設備に換装させたアビスを動員した。
包囲網突破のための戦闘に速度が落ちたミネルバを支えての移動と出撃続きのユノだが、当人は後輩たちが奮闘する中大した活躍もしていなかったからこのくらいは働かないとと作業に参加。
そんなユノの姿にレイが手伝いを申し出て、2機のモビルスーツがミネルバの修理作業に出ていた。
ちなみに休み無しで働くユノを少しでも手伝いたいとルナマリアとシンも参加したがっていたが、ルナマリアの方はミネルバに衝突した際か機体に不具合が生じたためザクがメンテに入り参加できず、シンの方は繊細な作業は向いてないとレイにバッサリと切り捨てられたため不参加である。
『ごめんなさいね、貴女も疲れているでしょうに』
「気にしないでください艦長、僕なんかただ泳いでただけですから。労うならミネルバを守るために頑張ってくれたみんなに声をかけてあげてください」
『……ありがとう。その作業が終わったら、ゆっくり休んで頂戴』
ドックもない無人島での修復作業、早期の復旧にはモビルスーツの力が必要。
だがモビルスーツを用いての艦隊の修理作業をこなせるパイロットとなるとミネルバにはユノしかいない。
大西洋連邦の送り込んできた艦隊に対して突破口を切り開く攻撃を成功させ、エールカラミティを撃退し、速度の低下したミネルバを押してと、戦闘から休み無しのユノに多くの負担をかけていることを謝罪するタリアに、ユノは疲労を顔に出さずに気にしないでと返した。
他の若手たちよりも軍務経験が長く2年前の大戦にも参加して来たとはいえ、長時間モビルスーツを動かし続けている疲労は溜まっている。
表情では心配をかけさせないために隠しているが、それが取り繕ったもので無理をしていることはタリアに見抜かれていた。
「むむむ、流石に艦長には見抜かれてるか。でもまあ、実際弱音なんて吐いていられる状況じゃないし、そこは遠慮なく使ってもらって構わないんだけどね」
先の海戦でミネルバだけなら離脱できた状況でもモビルスーツ部隊を見捨てなかったことといい、部下を大事にする上官としては信頼できるが軍人としては冷徹さに欠ける艦長に向け、自分くらいならもっとこき使ってもいいのにとこぼしながら、レイから渡された部品の取り付けを完了させる。
「これでスラスターはOKっと。でもあくまで応急処置だから、宇宙空間ならともかく海で全速を出すのは厳しいかな」
『終わったのか?』
「うん、もう大丈夫だよ。レイもありがとうね」
『貴女ばかり働かせるのは忍びない』
モビルスーツで行う修理作業を終え、手伝ってくれたレイにも礼を伝える。
感情表現が乏しいので一見すると冷徹に見えるが、人付き合いが不器用なだけで自分も疲れているだろうにこうして手伝ってくれるなど仲間想いで優しい彼らしい返答が返って来た。
『姉さん、終わった?』
レイから作業が終了したことを聞かされたのか、ミネルバのブリッジにてそわそわしながら待っていたシンからアビスに有線通信が飛ばされて来た。
手持ち無沙汰となっていたパイロットたちには、タリアから休息の指示が出ていたはず。
日付が変わろうかという遅い時刻にもかかわらず、戦闘の疲労もあるだろうにまだ寝ていなかった弟に、ユノは驚く。
「えっ、シン? まさか、ずっと待ってたの?」
『いやだって、姉さんのこと心配だったし……』
タリアだけでなくレイやユノからも休んでおくようにと言われていたので、ユノの反応を受け夜更かしがバレた子供のように申し訳なさそうになるシン。
平時ならばこの時間まで起きていることを叱ったユノだが、今回は自分のことを心配したからというシンの優しさからくるものであったことは察したため、嬉しさの方が上回った。
「もう、休んでいるようにって言ったのに……ああもう可愛いなぁ!」
命令には従いなさいと叱りつけようとしたが、取り繕う間も無くブラコンモードが発動。
その表情はふにゃりと崩れ、だらしない笑顔を晒した。
「お姉ちゃんすぐ戻るからね! 一緒にシャワー浴びて、一緒に寝よう!」
『やだよ、もう子供じゃあるまいし!』
「恥ずかしがることないよ、家族だもん!」
『もんとかいうなよ、恥ずかしいって! 艦長とかにも聞こえてるから!』
「やだやだ! お姉ちゃんは弟とのスキンシップに飢えてます。今日なんてずっと働きっぱなしなんだもん、そのくらいのご褒美は欲しい!」
『ホントに恥ずかしいって! 頼むから戻ってくれよ!』
そしてユノのブラコンモードが発動すると、普段は手のかかる弟であるはずのシンの方がまともになる。
この通信がタリアもいるブリッジに響き渡っていることもあり、姉の晒す醜態に頼むから元に戻ってくれと懇願するシンは、この時に限ればどちらかというと妹の駄々に振り回される兄のようであった。
『…………』
『もうやめてよ姉さん! 艦長が頭抱えてるから!』
「待っててねシン、お姉ちゃんすぐ戻るから!」
『話を聞いてくれぇ!』
先の包囲網突破において、ユノとシンの活躍は非常に大きく2人がいなければミネルバはあの海で沈められていた可能性が高い。
その上ユノには休む間もなくミネルバの修理作業に動員するなど、致し方ないこととはいえ多くの負担をかけている。
ブリッジのクルーも半数以上はすでに休息を命じており、この会話を聞いている人数も少ない。
身内さえ関わらなければ至ってまとも。
アーサーがそう評する先ほどまでの姿が見る影もないユノの暴走するブラコン振りを見たタリアは、自身の疲れもありこれ以上問題を作らないでと疲れたため息をつき頭を抱えた。
「艦長、ずっと働きっぱなしの僕はもう限界です! 弟成分を補充できないと疲れが取れません! 今日はシンと一緒に寝る許可をください!」
そんな疲れた様子のタリアにも、ブラコンモードで暴走がもはや止まらなくなっているユノは躊躇なく更なる頭痛の種をぶち込んできた。
これが深夜テンションなのか、暴走するブラコンには怖いものなしである。
『────ッ!? 何言ってるの姉さん! お願いだからもうやめて!』
タリアを巻き込んできた暴走にシンは驚きのあまりイスから転げ落ち、顔を真っ赤にして制止を試みている。
「僕の邪魔をするなら、艦長といえども容赦はしません」
しかし暴走しているユノに効果はない。
ミネルバの格納庫に帰投したユノは、あろうことかビームランスを手に取り格納庫の様子を確認するためのカメラにその穂先を向けて脅迫するという暴挙に出た。
……ダメだこのブラコン、話にならない。
タリアもタリアで朝から戦闘、連合の索敵に見つからないよう航路を取り気を抜く暇もなかった疲労もあり、叱責するのも億劫になったためこの暴走するブラコンの対応を半ば諦めた。
「……シン、貴方には休憩を命令しました。しかしそれに従わず、貴方はここで何をしているの?」
「そんなことより艦長も姉さんをどうにかして──」
「口答えしない。罰として貴方には今夜ユノの指示に従い、彼女の部屋での謹慎を命じます」
「艦長!?」
暴走するブラコンが本気でミネルバに対し危害を加える前に1人の犠牲で事態を収束させるため、罰則という名の言いがかりを用いてタリアはシンを見捨てる選択をとった。
疲れていたとはいえ、タリアが普段の彼女ならば絶対にしないだろう判断を下したことに驚くシン。
一方で自身の要求が通ったことにユノの表情はだらしない笑顔一色となる。
「艦長、愛してます!」
「いいからさっさとアビスから降りなさい」
「はい! 待っててね、シン!」
水を得た魚のようにビームランスを置いたアビスのコクピットから飛び出したユノは、シンがいるブリッジに向けて走り出す。
そして一分もかからずにブリッジに辿り着くと、逃げようとした愛する弟に抱きついて捕まえ、シャワールームへと連行していった。
「ほら艦長命令だよ! まずはシャワーにレッツゴー!」
「放せよ! 艦長の裏切り者ぉぉおおお!」
シンもユノのことは大好きである。
愛する姉の温もりに身を委ねて眠りにつくのは、むしろ1人で眠るよりも安眠できる。
だが、こういうことじゃない。こういうことでは断じてない。
誰か姉の暴走を止めてくれ。
そんなシンの願いを聞き入れてくれるものはなく、その日は久しぶりに姉の前に裸を晒し、姉に与えられた部屋で抱き枕にされて夜を過ごすこととなった。
翌朝、ユノの顔は隠すまでもなく溜まっていた疲労は無くなり生き生きとしたものとなり、一方のシンは半分魂の抜けたような表情となっていた。
そして昨晩の問題行為により、この日はユノが1日自室謹慎を言い渡されることとなった。
謹慎となり外側から施錠された彼女の部屋からは「艦長の裏切り者ぉぉおおお!」という昨晩のシンの嘆きと同じ言葉が何度も響いたという。
ミネルバの応急修理が終わった翌朝のこと。
疲れ果てた様子で解放されたシンが自室に戻ると、1人で昨日の海戦のデータを見直しザムザザーの戦力分析と対抗策を模索しているレイの姿があった。
「……シンか。謹慎は解かれたのか?」
「うん。さっき、ルナとメイリンが迎えにきてくれて……姉さんは艦長に呼ばれて行った」
「そうか」
追撃部隊にザムザザーという強敵が健在である以上、捜索網を張る連合に見つかり戦闘となった場合にはこの強敵とも戦うこととなる。
次に戦場で相見えたとき、この強敵にどう対抗するべきか。
ザムザザーへの対抗策を真剣に模索しているレイは、それに夢中でシンの方を見向きもしない。
それを無関心だと感じたシンが、ムッとした表情になりレイに飛びかかった。
「そうかって……もっと関心持てよこいつ!」
後ろから飛びかかって来たシンを無駄のない動きで回避するレイ。
空振りとなったシンはレイではなく、レイが回避する直前まで座っていた椅子に飛び掛かることとなり、躓いて派手に転がってしまう。
「痴情のもつれに興味はない」
「違えし!」
身内のゴタゴタを痴情のもつれ扱いするレイに、血の繋がりこそないもののユノは親代わりであり姉のようなもの、家族と同義でありそういう目で見たことはないと否定するシン。
しかしその顔は赤くなっており、健全な思春期の青少年らしく異性として意識している面が全くないということはなさそうである。
「姉さんは家族だから、そんな目で見たことなんてねえよ!」
「顔が赤いぞ。言葉では否定しても、体は嘘をつかないな」
「あ、赤くなんかなってねえよ!」
「フッ……その顔では説得力がないな」
顔色と言葉が合ってない、わかりやすい反応。
この年下の同期を軽く揶揄ったレイは表情の乏しい彼には珍しく楽しそうな笑みを浮かべてから、自身の機体の武装に関する注文をまとめ格納庫に向かうべく、シンを置いて部屋を後にした。
「ちょっ、レイ! ……ったく、なんなんだよあいつも」
散々揶揄ってくれた同期に対し口では文句を言いつつも、その表情は決して悪いものではない。
ルームメイトと軽口を叩き合ったシンは自身のベッドに向かおうとして、ふとレイが先ほどまで繰り返し熱心に見ていたモニターに目を向ける。
そこには昨日の海戦にて戦い、出し抜くことには成功したものの結局まともな損傷を与えることはできなかったモビルアーマーに関してレイが行った分析のデータが記されていた。
「こいつは、昨日のモビルアーマー……?」
そのデータを見たシンは、倒したイスを起こして座り、そのデータを食い入るように見る。
「スキュラ級の主砲に、振動するアーム……あいつのバリア、上部の3つの発生器で作られてるのか……」
レイが残した分析データと、昨日の戦闘のログ。
それらを見ながら、シンもまたザムザザーを相手にインパルスでどう戦うか、今度は逃げ切るためではなく敵を落とすための考えを巡らせていく。
そのデータを見つめる瞳にあったのは、部屋に入るまでの一晩中ブラコンの姉に振り回された弟のものでも、先ほどまで同期と戯れあっていた若者のものでもない。
モビルスーツを駆使し、守るべきものを守り戦うべき敵を討ち果たす戦士の目があった。
一方、ミネルバにやられた地球連合軍艦隊の方は、タリアの予想通りソロモン諸島からカーペンタリアに至る海域を重点的に捜索していた。
しかしながら全てを動員していたわけではなく、一部はミネルバが逃げた先の北側にも索敵の手を伸ばしており、ニューギニア島にも捜索部隊が派遣されていた。
そこで連合軍は地元民の目撃情報から、ニューギニア島の北をミネルバが迂回していたことを知る。
これを受け連合軍は直ちに艦隊を派遣。
ニューギニア島の北を迂回したミネルバが東ではなく西からカーペンタリアに向かってくると予測し、それまでソロモン諸島とオーストラリアの間の海域に広げていた索敵もほとんどを切り上げ、ザムザザーを伴いニューギニア島の南をまっすぐ進みミネルバが来ると踏んだ西側の海に展開する。
さらにエールカラミティを擁する一部の部隊を別働隊とし、ニューギニア島の北から西に回り込むように迂回させ、挟撃体制を構築した。
地球軍艦隊の動きはカーペンタリアより観測されていたが、ミネルバの方が身を隠すために無線通信を遮断していたこと、連合側の通信妨害がかけられていたこともあり、この情報はミネルバに届けられなかった。
このニューギニア島の北を回り込み背後を取る形で展開した別働隊には、先の戦闘でアビスに飛行モジュールをやられて海に落とされるという屈辱を与えられていたエールカラミティの姿もある。
「覚悟しろよウミネコ野郎……今度こそぶっ殺してやるからな」
青く晴れ渡った太平洋に浮かぶ空母の甲板にて。
エールカラミティのパイロットであるベルニス・グシオンが、アビスへのリベンジに燃えていた。
一方で夜のうちに推進器の修復を終わらせたミネルバ。
連合の捜索網が広がっている可能性を考慮し、タリアは無人島からの出航を決断。
ニューギニア島の西に抜けてから、セラム海よりカーペンタリアを目指す予定である。
「機関始動、微速前進!」
偽装工作が功を奏したことで、ニューギニア島の地元民が海を進むその姿を目撃して以降は、連合の目からは逃れている。
しかしすでに最短ルートではなくニューギニア島の北をまわり西からカーペンタリアを目指していることは、連合側に把握され待ち伏せの構えを取られていることを彼らは知らない。
無人島を出航したミネルバは、ニューギニア島の西に抜け、そこからニューギニア島とミソール島、セラム島などに囲まれた海であるセラム海に入った。
あとはこのセラム海を南に抜ければ、目的地であるカーペンタリアの西側に広がるアラフラ海に出られる。
地球軍の偵察機などに出くわさなかったことで、ミネルバはこの迂回ルートをとったことにより敵を欺くことに成功したと思っていた。
しかし、そこで地球軍の張っていた索敵の網についに見つかってしまう。
「レーダーに反応! 本艦後方より急速接近する飛翔体を確認!」
「照合急いで!」
「熱紋照合に該当を確認──カラミティです!」
「馬鹿な……読まれていたというのか!?」
ミネルバの後方を、別働隊のエールカラミティが捉える。
さらにアラフラ海に抜けさせまいと、ミネルバの前方にも多数の大西洋連邦海軍が主力となる地球軍艦隊が立ち塞がった。
「艦長、前方に艦影多数! 地球軍です!」
「くっ……!」
前方の待ち伏せと、後方からの追撃。
ことここに至って、ミネルバの方も自分たちが迂回していたことが地球軍に把握されていたことを知る。
再度の挟み撃ちという状況に加えて、前方の艦隊に控える空母の甲板には見覚えのある緑色の巨体が鎮座していた。
「前方敵艦隊の空母に、先日の大型モビルアーマーの姿を確認!」
タンホイザーすら防ぐ鉄壁の防御を有する大型モビルアーマー。
昨日の戦闘では終ぞまともな損傷を与えられなかったあの敵機は、しかしミネルバに対してその船体を貫ける強力な武装が搭載されている非常に危険な敵である。
「まずいですよ艦長!」
「泣き言を言っている暇はないわよ! コンディションレッド発令! モビルスーツ部隊は直ちに出撃! カーペンタリアに入るには、あの敵艦隊を突破するしかない!」
「は、はいぃ!」
もはや敵に位置は割れている。
引き返したところで背中を撃たれるだけである。
敵艦隊の突破を図る以外道はないと判断したタリアは、混乱するクルーたちに戦闘体制を取るように指示を出す。
モビルスーツ部隊にも出撃命令が下り、シンたちは各々の機体に乗り込むべく駆け出した。
「現時刻を持って、すべての通信制限を解除します! カーペンタリアに救援を要請!」
「通信妨害がひどく、カーペンタリアに繋がりません!」
「なら信号弾を上げて! この距離なら通じる可能性はあるわ、引き続き呼びかけなさい!」
「了解!」
さらにカーペンタリアに救援要請を発信。
隠れるために遮断していた通信制限もすべて解除し、通信妨害があるならばと信号弾を上げるとともに、距離が近いこともあり届く可能性に賭けて呼びかけ続けるように指示する。
「CIWS起動!」
「ランチャー2、ランチャー5、パルジファル装填!」
「イゾルデ、トリスタン起動! 照準前方敵護衛艦および駆逐艦!」
「タンホイザー発射体制! エネルギー充填開始!」
援軍が来るまで持ちこたえるか、包囲を突破するか。
いずれにせよ、先のソロモンにおける待ち伏せほどではないが困難を極めるだろう戦況である。
「敵大型モビルアーマーの発艦を確認!」
「攻撃ヘリ、モビルスーツ多数接近!」
「ランチャー3、ディスパール装填! モビルスーツを近づけるな!」
「敵艦隊、射程に入りました!」
「トリスタン、照準敵駆逐艦! 撃てぇ!」
こうしてカーペンタリアへの入港を目指すミネルバと、セカンドステージシリーズを狙う大西洋連邦の艦隊による二度目の海戦の火蓋が切られることとなった。
トリスタンやミサイルによる攻撃が開始される中、ミネルバの方もモビルスーツ部隊の出撃体制が進められ、用意が終わった機体から順次発進していく。
『ルナマリア機、発進スタンバイ。ウィザードはブレイズを装備します』
「ヨウラン、ビームの修正は終わってるわよね?」
『ユニウスセブン落下後の大気状態に合わせて修正してある。外れるとしたらそれはパイロットの腕だな』
「うるさいわね。ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
ルナマリアのザクは、今回手数が多いブレイズウィザードを装備しての出撃である。
昨日はユニウスセブン落下の影響によるデータが修正されておらず命中率が悪かったビーム兵器の方も、メカニックたちの方で修正がしっかりと行われている。
『レイ・ザ・バレル機、発進スタンバイ。ウィザードはガナーを装備します』
一方のレイのザクには普段のブレイズウィザードではなく、本人の強い希望により砲撃戦仕様であるガナーウィザードが取り付けられる。
連射は効かないが、長い射程と通常のモビルスーツのシールドならば破壊可能な高威力の長距離ビーム砲オルトロスは、ザムザザーとの戦いを視野に入れその攻略方法を考えたレイの選択によるものであった。
『レイ、本当にそれでいくのか?』
「ああ」
『まあ、お前のことだからなんか考えがあってのことなんだろうけどよ』
普段と違う装備をわざわざ注文してきたことに、ヴィーノはレイのことだから考えあってのことなのだろうと疑問を抱きながらも従う。
普段と違う巨大なビーム砲を携えた白いザクが、開いたハッチからミネルバの甲板に飛び出していった。
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
出撃した2機のザクは、昨日と同様にミネルバの甲板に配置。
甲板上にて昨日と同様にミネルバを狙ってくる敵機の迎撃が役目となる。
昨夜のやりたい放題の結果1日の謹慎を命じられていたユノも、この状況ではアビスを遊ばせてなどいられなかったことから出撃命令が出され、肩に作業設備から再びシールドを搭載したアビスにて出撃体制に入っている。
『アビス、発進スタンバイ。進路クリア、発進どうぞ!』
「ユノ・アサガオ、アビス、出撃します!」
ミネルバから出撃したアビスは、モビルアーマー形態となり海に飛び込むと、昨日と同様に艦隊を海から叩くべく海中を進んでいく。
流石に敵もアビスを警戒していだろうから昨日のようにはいかないと思いつつも、それでも船を沈めてみせると操縦桿を握る手に力を込めるユノは、この日アビスを迎撃するため地球軍が用意した新たな戦力と海中で対峙することとなる。
『インパルス発進スタンバイ。ハッチ開放、進路クリア。コアスプレンダー、発進どうぞ!』
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
コアスプレンダーの発進後、次々にインパルスを構成するパーツの発進体制が進められる。
レイが残したデータを元に、ザムザザーの攻略方法を考えていたシン。
彼は強力な近接戦闘装備であるヴァシリエフを有するためリスクは高いがその防御を突破できる接近戦にザムザザー相手の勝機を見出しており、今回の出撃に際しヴァシリエフを潜り抜けための機動力とその守りを突破するビームサーベルを装備するフォースシルエットを要求していた。
『モジュールはフォースを選択、シルエットハンガー1号を開放します。進路クリア、シルエットフライヤー発進どうぞ!』
その注文通りに飛ばされてきたフォースシルエットを搭載する輸送機シルエットフライヤーと、インパルスを構成するチェストフライヤー及びレッグフライヤーをコアスプレンダーにて制御し合体、フォースインパルスを形成した。
「よし、それじゃ俺はあのモビルアーマーを──」
『インパルスは後方より接近するカラミティの迎撃をお願いします』
「俺がカラミティをやるの!?」
勇んで出撃したシンは、初手から繰り出してきた敵のザムザザーを迎撃するべく艦隊の方にインパルスを飛ばそうとしたが、そこに入ってきたのはメイリンの通信。
艦隊への攻撃はユノのアビスが、敵の機動兵器の迎撃はレイとルナマリアのザクが担うため、ミネルバに大きな損傷を与えられる強力な武装スキュラを有するエールカラミティの迎撃はインパルスしかできない。
ザムザザーと戦う気満々だったこともあり予想外の指示に面食らったシンだが、命令ならば仕方ないとミネルバの背後を狙う災厄の名を冠する敵機に向かって進路を取る。
「まあいいや。インパルス、カラミティの迎撃に向かいます!」
こうしてミネルバと大西洋連邦艦隊にて、再度の海戦が展開されることとなったこの日。
プラント本国もまた大きく動いており、積極的自衛権行使という名の地球各地に対する大規模な降下・侵攻作戦が開始されることとなる。