もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら 作:ちゃーらんき
ザムザザーを擁する艦隊との第二ラウンドの続きです。
ヘリから放たれるミサイルをCIWSが迎撃する。
イゾルデの飛ばす砲弾が、駆逐艦の主砲と艦橋のレーダーを貫く。
トリスタンの光線が、護衛艦の船体を焼き払い轟沈させる。
CIWSの迎撃を掻い潜ったミサイルが、右舷のカタパルトに直撃する。
駆逐艦から放たれる魚雷が、船底に突き刺さり水柱をあげる。
連射されるイージス艦の主砲が、イゾルデの砲塔をへし折る。
ヘリから放たれる対艦ミサイルが、側翼を砕く。
ダガーLの発射するロケットランチャーが、甲板に直撃する。
ウィンダムの発射するビームライフルが、迎撃するCIWSを吹き飛ばす。
数はやはり地球軍の方がはるかに多い。
そこから放たれる物量の雨霰、無数の攻撃にミネルバの迎撃は追いつけず、何度も被弾を許し、その度に劣勢になっていく。
「CIWS8番沈黙!」
「右舷カタパルトに直撃!」
「船底に被弾!」
「浸水は!?」
「浸水確認! 隔壁閉鎖します!」
「ランチャー3、ディスパール装填! 撃てぇ!」
多くの攻撃を喰らいながらも、ミネルバのCICは戦闘を継続。
無事な武装を用いて、トリスタンで魚雷を当ててきた駆逐艦を沈め、ディスパールを用いてヘリを落とし、無事な方のイゾルデにてさらに護衛艦に直撃弾を与えて撃沈に追い込む。
「舐めんじゃないわよ!」
甲板の上では、2丁装備のビーム突撃銃を使い、ビームをばら撒くようにしてミネルバのまわりを飛ぶモビルスーツやヘリを迎撃する赤いザクと──
「──そこだ!」
多少距離を離そうともオルトロスで狙い撃ちにして、モビルスーツを落としていく白いザクが、2機で攻め寄せてくる無数の敵の機動兵器を迎撃していた。
当然地球軍側もこのミネルバの甲板で砲台がわりに迎撃を担っているモビルスーツも狙い攻撃しているが、そこは2人ともアカデミーの成績優秀者である証の赤服を授かるザフトレッドである。
初めての地球上での戦闘という慣れない重力と、ユニウスセブン落下の影響もあり武装の調整もガタガタだった昨日と異なり、メカニックの手で武器も機体もしっかりと地球の重力と大気に合わせられ、本人たちも重力圏内における海上の戦闘に慣れてきた事もあり、狙われる攻撃は捌き反撃はしっかりと当ててくるなど、本来の実力を発揮して迎え撃っている。
「そこぉ!」
「弾数が多すぎる! こんなの避けられ──ぎゃあああぁぁぁ!?」
2丁のビーム突撃銃を装備するルナマリアは、牽制やミサイルの迎撃だけでなく、囲むように撃ちまくり回避先を絞らせて狙い撃つなど、手数を生かしてヘリやモビルスーツを撃ち落としていく。
当然バッテリーの消耗は多いが、ザクのビーム突撃銃は機体に依存しない独立したバッテリーを有する装備であり、ザクのシールド裏だけでなく甲板上にも予備のバッテリーを置いているため、それらを次々に換装することで継戦能力を維持していた。
「──落ちろ!」
「くそっ、昨日と射撃の精度がまるで違う! こいつらザフトレッドか──ぐあああぁぁぁ!?」
「ばかな、2機同時になど──うわああぁぁぁ!?」
一方のレイはルナマリアに比べて手数は少ないが、距離を取る敵機にもその射程を生かした狙撃を仕掛け、オルトロスにて次々にモビルスーツを撃破していく。
さらには射線上に敵機を捉え、2枚抜きという曲芸じみた狙撃まで行い着実に敵の数を削っていた。
「2枚抜きって、そんなことするためにガナーにしたわけ?」
「無駄口を叩く暇があるなら一機でも多くの敵を落とせ」
「分かってるわよ!」
自分よりもオルトロスを使いこなすレイに、敵の数が多く行き着く暇もない苛立ちもあり当てつけのつもりかと突っかかるルナマリア。
それに対しレイは無駄口を叩く暇があるなら働けと正論を返しながら、バズーカを構えて接近してきたウィンダムをオルトロスにて撃ち抜いた。
「これ以上やらせるかぁ!」
その戦力差は圧倒的で、多勢に無勢。
ミネルバは次々くる敵の攻撃を捌ききれず、船体の被弾は増え続けている。
それでも諦めてたまるかと、これ以上ミネルバを傷つけさせるかと空から攻撃してくる地球軍を阻止するべく、ブレイズウィザードのファイヤビーを斉射してミサイルやヘリを次々に撃ち落とす。
2機のモビルスーツの奮戦はミネルバを支え、群がる地球軍側の機動兵器の攻勢を弾き続ける。
これらの奮戦により、ミネルバに群がるモビルスーツやヘリ部隊は次々に落とされており、艦艇は撃ち合いで沈められ、被害が拡大していた。
そしてミネルバの後方では、エールカラミティとフォースインパルスによる空中戦が展開されている。
「テメェはお呼びじゃねえんだよ! 邪魔すんな、どけ!」
「こんのぉ!」
エールカラミティはアドラーの他、飛行モジュールにはシュラークが、昨日アビスに切り落とされたアドラーを握る両腕にはビームサーベルを搭載するガントレットが装備されていた。
昨日の戦闘ではその質量で生半可な盾は破壊するしフェイズシフト装甲を相手にしても貫き内部を破壊できるが、大振り故に隙ができやすいアドラーの弱点を突かれた。
その隙を補完するべく用意したガントレットなどの追加の武装により、エールカラミティはまるで砲撃戦仕様である初代カラミティのような火力を備えてきており、それを駆使してインパルスを攻め立ててきた。
「撃滅ッ!」
「くっ──!」
2門のシュラークを同時に発射するのではなく、スキュラと合わせて交互に発射を繰り返すことにより、VPS装甲を貫く攻撃を絶え間なく仕掛け続ける。
シールドを駆使しながらそれらの攻撃をシンは潜り抜けるが、特にシールドを構える瞬間を見計らいベルニスはエールカラミティの機動性能を活かして一気に距離を詰めてきて、アドラーを振り回してくる。
ウォーハンマーモードのアドラーの一撃は、VPS装甲の内部に破壊をもたらす強力な攻撃である。大振りな分、一撃当たれば致命傷になる可能性が高い。
アドラーを振り回した隙を狙おうにも、ガントレットをうまく使いビームライフルを防いでカバーするため、攻撃が通らない。
エールカラミティは飛行モジュールにより重力圏内においても自由に空を飛び回ることが可能な高い機動性を持つ上に、まともな人間では無い生体CPUであるベルニスが操縦桿を握るため人間を乗せたモビルスーツには不可能な無茶な機動も取ってくる。
急上昇に急停止、コーディネイターでも目が回りナチュラルなどでは意識が飛ぶだろう激しく機体を回すアクロバットな回避に、この重力下でやろうものなら内臓が潰れて骨が折れてしまいそうな飛行。
多彩な武装とそれを扱う技量に加え、このモビルスーツパイロットの安全を度外視する出鱈目な動きに翻弄され、シンはなかなか反撃の糸口が掴めずにいた。
「くそっ、なんで出鱈目な動きなんだ……」
エールカラミティの機動力にものをいわせて、一瞬で視界から外れ次の瞬間には攻撃が飛んでくる。
シールドを展開する瞬間、ビームを防いだ直後には間合いを詰めてくる。
それを迎撃してビームライフルを撃つも、ガントレットで防ぎながら強引に突っ込みシュラークを発射してくるし、それを避けても横に上下に飛び回り翻弄しながら距離を詰め、いつの間に取られた上からウォーハンマーモードのアドラーが振り下ろされてくると、一瞬でも見失うと次の瞬間やられかねない攻撃を絶え間なく仕掛けてくる。
生体CPUの扱うモビルスーツだからこそできる戦い方に翻弄され、シンは落とされないよう致命的な攻撃を凌ぎ続けるのが精一杯であった。
「貫け、刺殺ゥ!」
「まずい──ッ!」
ウォーハンマーモードのアドラーとスキュラは、シールドで受けても致命傷になりかねない。
それだけは絶対に回避し、落とされないように凌ぎ続けるインパルスに、エールカラミティがアドラーをウォーハンマーモードからジャベリンモードに切り替えて、大振りの攻撃ではなく点の軌道を取る刺突を繰り出す。
コアスプレンダーを狙うアドラーの穂先。
しかも回避先を封じるように放たれるシュラークが、よければインパルスに直撃するコースを捉えている。
直感でこの攻撃を機体を飛ばして回避してはいけないと感じたシンは、咄嗟にバーニアを駆使し機体を横向きにして、アドラーの穂先がインパルスの表面装甲を掠める形で回避。
直後に当たらないように避けていればインパルスを捉えていただろう場所をシュラークのビームが通り抜けていった。
「────ッ!」
生きた心地がしなかった瞬間だが、気を抜く余裕などない。
「バカが!」
紙一重どころかアドラーが掠めるというギリギリでシュラークによる追撃もろともしのいで見せたインパルスだが、ベルニスはそれに驚くことも感心することもなく目の前の敵を倒すための攻勢を止まることなく仕掛ける。
インパルスの表面を掠めたアドラーの穂先をウォーハンマーモードに切り替えると、アドラーを振り回すとともにブースターを点火、アドラーでインパルスを力任せに振り回した。
「ぐっ、うぅぅ──!」
振り回されることで、インパルスに強力なGがかかり、そのコクピットにて晒されるシンも意識が飛びそうになるほどの力を受ける。
初めて受けた時には泡を吹いて意識が飛んだG耐性訓練でもこれほど強力なGは受けたことがない。
それでも歯を食いしばり耐えながら、チェストフライヤーとコアスプレンダーの接続を解除。
直後にアドラーに振り回されるインパルスの上半身とコアスプレンダーの接続が切り離され、レッグフライヤーとコアスプレンダーがアドラーの振り回しから逃れた。
「あっ!?」
「メイリン、ソードシルエット!」
「はい!」
アドラーの振り回しから逃れたシンは、すかさずメイリンにソードシルエットとチェストフライヤーを要求。
さらに突然目の前のモビルスーツが二つに切り離されたことに一瞬戸惑ったベルニスの鼻を明かすようにチェストフライヤーに自爆信号を送り、残されたインパルスの上半身を自爆させ爆煙でエールカラミティの視界を奪って離脱した。
「クソがぁ!」
苛立ちに任せてアドラーを振り回し、インパルスの上半身が自爆したことでできた煙を振り払うエールカラミティ。
しかしその一瞬見失ったうちにシンはミネルバの方に飛び去っており、要請を受けて送られた新しいチェストフライヤーとソードシルエットを受け取りソードインパルスを形成していた。
「まだまだぁ!」
対艦刀エクスカリバーを繋げるのではなく、双剣のように両手に分離した状態で装備して、ミネルバに向かってくるエールカラミティに再度立ち向かっていく。
「撃滅ッ!」
「やらせるかぁ!」
ミネルバにスキュラを発射するエールカラミティ。
それをシールドで防ぎながらスラスターを全開にして突き進み、エールカラミティに肉薄してエクスカリバーを振り回す。
「テメェ、生きてやがったのか。ったく、邪魔くせぇんだよ!」
その攻撃はエールカラミティも易々と躱すが、先ほどアドラーの振り回しに空中分解を起こしたと思っていたインパルスが姿を変えてまた立ちはだかってきたことに驚きと苛立ちを見せた。
「ミネルバはやらせない! ここからが勝負だ、カラミティ!」
「ウミネコ野郎の前にテメェを海の藻屑にしてやるよ、合体野郎!」
ソードインパルスとエールカラミティが、互いの近接武装を空中でぶつけ合う。
両者一歩も譲らない攻防は、近接戦に移行した。
「後輩たちにばっかり活躍させるのはカッコ悪いからね。グーンですら手こずるお前らが、海でアビスに勝てると思うなよ!」
そして、海という戦場で最も真価を発揮する、ザフトの最新鋭機セカンドステージシリーズの1機は、機雷を躱し、魚雷は連装砲で迎撃しながら艦隊からの攻撃を余裕で捌き、海中から魚雷を発射しランスで突撃しては船体を破壊して次々に地球軍の艦艇に沈没する大ダメージを与えて暴れ回っていた。
「ほら、こっちだデカブツ!」
さらに遊撃役のインパルスがいない事もあり、ザムザザーをミネルバに張り付かせないための陽動も、アビスは担っている。
海中からバラエーナ改で狙い撃ちにしたり、海面に出てきてはカリドゥスで奇襲したりと、ザムザザーでもシュナイドシュッツに頼らなければならない攻撃を仕掛けて足止めしていた。
「おのれちょこまかと! アメンボ如き貧弱なモビルスーツめが!」
アビスの攻撃を無視できず、ザムザザーは泳ぎ回る白いシールドの目立つ機体に対して攻撃を仕掛けてくる。
主砲のガムザートフや、足に装備されている戦艦並みの大砲である単装砲を発射するが、泳ぎ回るアビスを捉えられず1発も当てられない。
その上アビスが友軍の艦隊の中を泳ぎ回るので、下手な攻撃は誤射に繋がり、これまでに駆逐艦や巡洋艦に砲弾が掠め、ガムザートフが誤って空母を貫き一隻沈めてしまうというアクシデントにも見舞われていた。
ユノの方も、ただいたずらにアビスを泳がせて嫌がらせをしているだけではない。
ザムザザーの動きを見て、シュナイドシュッツが上部にしか展開できない事やそれが3つの突起となっているバリアの発生器で形成されている事、カリドゥスの攻撃を装甲で受けようとせず必ずシュナイドシュッツで受けている事、魚雷など対潜兵器を持っていない事を見ており、分厚い装甲もカリドゥスやビームランスを用いれば突破可能であるという攻略法を見抜いていた。
「──そこ!」
そしてザムザザーに何度も海中から仕掛けていくうちに、攻撃を叩き込む隙を見出し好機を捉えて動く。
カリドゥスで狙い撃つのではなく、モビルアーマー形態のまま海中より飛び出すと、ブースターを駆使してカリドゥスによる攻撃を警戒しシュナイドシュッツを展開してきたザムザザーのところまで飛び上がり、そのままザムザザーを超えて裏面をとる。
「ま、まずい! 回頭を──」
「遅いんだよ!」
騙されたことに気づいた機長がすぐに上下回頭をするように指示を叫ぶが、その時にはすでにアビスはモビルスーツ形態に戻り狙いを定めている。
「落ちろ!」
そしてシュナイドシュッツが展開されていない面に対し、カリドゥスを撃ち込みザムザザーの装甲を撃ち抜いた。
「メインエンジン大破! 高度維持できません!」
「シュナイドシュッツ発生器2号機破損! バリア展開不能!」
「そんなこと言ってる場合か! 直ちに迎撃を──」
致命的な損害を受けたザムザザーが、黒煙を吐きながらその高度を落としていく。
しかしまだ上にアビスがいる。
機体を立て直そうとする操縦士と、頼みの綱のシュナイドシュッツが先程の攻撃で破壊され展開不能になったことにパニックを起こす砲手に、機長は上にいるアビスを早く迎撃しろと叫ぶ。
だが、制御を失い盾を失ったザムザザーに反撃する余裕などない。
その大穴を開けられた腹に降りたアビスが、ビームランスでザムザザーの足の根本を突き刺し槍を回して傷口を抉ると、それを振り回してザムザザーの足一本を切り落とす。
「沈んでろ」
容赦ない追撃で近接戦闘用のアーム、主砲、単装砲と装備が満載された武装の一つを破壊して、海面に叩きつけられるザムザザーから飛び降り海に潜っていき、直後に海面に叩きつけられたザムザザーはカリドゥスで開けられた穴と切り落とされた足の間の装甲に亀裂を走らせ、装甲が派手に破断し沈んでいった。
「「「うわあああぁぁぁ!?」」」
そして装甲の破壊された箇所から次々に海水が流入。
コクピットも鉄砲水が扉を吹き飛ばしてパイロットたちを飲み込み、沈んでいく。
最終的に漏電により発生したスパークがタンクの破損で漏れた推進剤に引火。
海中でその巨体を飛ばす大量の燃料が爆発を起こし、巨大な水柱をあげて海の藻屑となった。
「まあざっとこんなものでしょ。アビスよりミネルバへ、敵モビルアーマー撃破しました」
ザムザザーが爆散したのを見届けたユノは、ミネルバに簡単な報告だけ済ませて再び艦隊の方に向かっていく。
昨日の戦闘ではまともな傷ひとつつけられなかった大物を討ち取ったにも関わらず特に誇る様子もないのは、あのモビルアーマーも海を舞台とするユノの扱いアビスにとっては苦戦するほどの相手では無いという自信からであった。
クールにかつ簡潔に報告を済ませたユノだが、ザムザザーという兵器の撃墜は両軍ともに大きな反応を生む。
「艦長! アビスがあのモビルアーマーを撃破しました!」
「「「オオオォォォ!」」」
メイリンの報告と、ザムザザーをアビスが撃墜して水柱に変えた姿を見ていたミネルバのCICは、歓声が上がる。
なにしろ昨日の戦闘では手も足も出なかったあの強敵が、海を舞台にすればアビスにほぼ一方的に撃破されたのだ。
タンホイザーすら耐える堅牢な盾に厚い装甲と重武装、加えて高い機動力を持つという、まさに空飛ぶ戦艦のような兵器が沈められた。
その恐怖からの解放と、ユノという海戦の経験豊富な優れたパイロットの技量もあってこそとはいえそのモビルアーマーをザフトのモビルスーツが撃破するという光景は、彼らの士気を大いに沸かせる光景だった。
「よぅし! さすが我が軍の次世代海戦特化型モビルスーツ! アサガオがやってくれましたよ艦長!」
アーサーも大興奮である。
散々生意気な態度を取られてきたとはいえ、機体だけでなくそれを見事に扱う技量は認めているのでパイロットも含めて称賛する。
「全く、流石としか言いようがないわね。本当に、彼女がアビスを守り抜いてくれたことが大きいわ」
今回はアビスが海という舞台で戦ったからこそのアドバンテージも大きい。陸地や宇宙空間であの化け物モビルアーマーを相手にする場合は、こうはいかないだろう。
ユノの叩き出した大金星を素直に褒めるとともに、もしアビスがアーモリーワンで奪われていたらどれだけの被害が出たことかと想像し、それを阻止してくれた功績も大きいことをタリアは認識した。
「まだ戦いは終わっていないのよ。気を引き締めなさい!」
そしてすぐに艦長の顔に戻り、クルーたちに戦闘に集中するよう指示を出す。
大物を討ち取った当人がそれを誇る暇もなく艦隊に攻撃を仕掛けているのである。こちらも浮かれている暇などない。敵はまだまだ大軍であり、ミネルバが危機的状況にあることは変わらない。
「「「了解!」」」
タリアの喝にクルーたちもすぐさま戦闘に意識を戻す。
とはいえ、ザムザザーを落とされた地球軍の方は明らかに動揺が見られ、攻撃の手が鈍っている。
むしろ士気が落ちてアビスから逃げるように戦域から離れようと動く艦艇の姿も出てきた。
「このまま突破します! 機関最大!」
「了解! 機関最大船速!」
地球軍は動揺し怯んでいる。
これを好機と捉えたタリアが、ミネルバに全速で艦隊を突破するよう指示を出し、それを受けた操舵を担うマリクがミネルバを加速させた。
そして、ミネルバの甲板上でもザムザザーの墜落は見えていた。
「流石ね。全く、あの人には敵う気しないわ……」
「…………」
水柱を上げて沈んだ巨大なモビルアーマーの最期。
それを見届けたルナマリアはこれを落とした尊敬する先輩の活躍ぶりに感嘆し、レイはザムザザーの攻略を考えてガナー装備をしたのが無駄になったことを受け嘆くべきか喜ぶべきかと逡巡し結局言葉が出なかった。
ザムザザーの墜落に、ミネルバに群がってきていた地球軍のモビルスーツ部隊も動揺しているのか、攻撃の手が止まる。
「…………」
それを見たレイは無言でオルトロスを構え直すと、ザムザザーの撃墜にショックを受け茫然としていたウィンダムを容赦なく撃ち抜き撃墜した。
そしてレイの砲撃を合図にするように、ミネルバに仕掛けていたモビルスーツやヘリなどの機動兵器もミネルバに対する攻撃を再開するものや錯乱しながら戦域からの逃亡を開始するものが生じ、再び動き出した。
「手を止めるなルナマリア! 戦いはまだ終わっていない!」
「分かってるわよ!」
レイの呼びかけと敵機の攻撃に反応したルナマリアの方も、再び両手に構えるビーム突撃銃による迎撃を開始する。
ザムザザーの撃破の影響は大きく敵の攻勢の手は目に見えて鈍り始めたが、それでも数で圧倒する地球軍の攻撃は気を抜けるものでは無い。
とはいえ最大の懸念であったザムザザーは落とした。
これにより、敵軍はミネルバの攻撃を防ぎ切る盾を失ったということ。
正面を塞ぐ艦隊に突破口を形成するべく、タリアは艦首砲の起動を指示する。
「タンホイザー発射用意、前方の敵艦隊を薙ぎ払う! メイリン、アビスにタンホイザーを撃つことを伝えて!」
「了解! ミネルバよりアビス、タンホイザーの発射体制に入ります。射線上より退避してください」
「了解! タンホイザー、照準前方敵艦隊!」
「アビス、急速潜行にて退避完了!」
「エネルギー充填100%!」
「撃てぇ!」
ミネルバの有する最強の武装である陽電子破砕砲が発射され、ザムザザーという盾を失った地球軍艦隊を薙ぎ払う。
タンホイザーの射線上にいた空母を含める7隻の艦艇が瞬く間に消し飛び、直撃こそ免れたものの近くにいた艦艇もその熱にさらされ装甲が融解するなど大きな損害を受けた。
これにより、敵艦隊の包囲に大きな穴が開かれる。
すかさずタリアはその穴から艦隊を突破するよう指示を出した。
「敵艦隊を突破する! メイリン、インパルスは?」
「カラミティと交戦中です!」
「インパルスに帰投命令! レイにインパルスの撤退を支援するように伝えて!」
「了解です! ミネルバよりインパルス、ミネルバへの帰投をお願いします。レイはインパルスの撤退を支援してください」
「そんなこと言われても──」
「了解。シン、オルトロスで援護する。隙を見て離脱しろ」
後方でエールカラミティと交戦中のシンにもミネルバへの帰還命令が出され、レイにオルトロスによるインパルスの撤退支援砲撃を行うようにも指示が出される。
エールカラミティとの空中戦に手一杯のシンからは援護なしで振り切るのは難しいと文句が返ってきたが、それを遮るようにレイから援護射撃でエールカラミティに隙を作るからその間にミネルバに後退しろと通信が入った。
「このォ!」
「はっ、そんな大振り──」
「そこだ──!」
エクスカリバーを振るい、エールカラミティを引き離す。
突然の隙ができる大振りの攻撃に、ベルニスはエールカラミティを後退させてそれを回避しながらスキュラを発射しようとするが、そこにレイがオルトロスで狙撃してきた。
「────ッ!?」
ミネルバからの突然の長距離攻撃。
直前で気付いたベルニスが、インパルスに対するスキュラの発射をやめて回避する。
直後に飛来したオルトロスが、エールカラミティを掠めガントレットに守られた右腕をその高威力のビームで貫き破壊。
その際の爆発でアドラーを取り落とし、エールカラミティが機体のバランスを崩す。
「────ッ!」
その瞬間、エールカラミティに投げつけられる巨大な対艦刀。
それは撤退の指示に従おうとしたが、レイの援護射撃で生まれたエールカラミティの隙を見逃さなかったシンが本能的に投げつけたエクスカリバーである。
レイの発射してきたオルトロスでガントレットが砕かれ、重量のあるアドラーを落とし、腕を破壊する爆風で体制が崩れた。
この瞬間、ユニウスセブンにてリジェネレイトからルナマリアのザクを切り離した時と同じ感覚が、シンに走った。
ここを逃せばエールカラミティは討ち取れない。
そしてこの一瞬、このチャンスだけは、エールカラミティにインパルスの刃が届くという確信。
ゾーンに入った感覚。
ビームライフルに持ち替えている暇はない。
攻撃手段に用いるべきは、この両手に構えるエクスカリバー。それを
その投げつける軌道も、タイミングも、未来が見えているかのようにシンには掴めており、ただそれに従いエクスカリバーを投擲する。
一本は、爆発が煙幕がわりとなり一瞬だけ視界を失ったエールカラミティのコクピットを貫く軌道で。
もう一本は、そのコクピットのすぐそばのスキュラの発射口に。
続け様に投げつけられたエクスカリバーのビームの刃が、TP装甲を貫きエールカラミティのコクピットを貫いた。
「ぐあ──ッ!?」
エクスカリバーにコクピットを潰され、肩から下の左半身が丸ごと持っていかれる致命傷を受けるベルニス。
戦士として作られた生体CPUの本能が、自分が何をされたのかを理解させ、直後に襲うのは怒りと自身の血肉がぶちまけられ赤一色となるヘルメット越しの視界。
「ああああぁぁぁぁぁ!!」
その時点で、エールカラミティの撃墜とベルニスの死は確定した。
ほんの一瞬の後にこの命の灯火は失われる、決定的な致命傷だった。
その命が消える一瞬。
しかしそこに、ベルニスは己の怒りを込めた一撃を放つべく、残された右手が掴むスキュラの発射ボタンを押す。
視界は失われ、ロックオンもされてない。
それでもスキュラの射線はエクスカリバーを投げつけてきたインパルスを捉えていた。
だが、その最期の一撃は撃たれなかった。
即座に投擲されたエクスカリバーの2本目が、スキュラの発射口を潰していたから。
「──────」
ベルニスにはその事実を知る間もない。
ボタンを押した時にはすでにその命の灯火は消え、コクピットに残る潰れた肉塊は物言わぬ骸となっていたから。
戦士としての本能が敵の最後の悪あがきすら封じる攻撃を教えてくれた。
それに従いエールカラミティに致命傷を与えたインパルスは、そのままエールカラミティに飛びかかりエクスカリバーを掴む。
「はああぁぁぁ!」
そして、掴んだエクスカリバーを振り抜き、沈黙したエールカラミティの機体を3つに切り裂くとどめの一撃を喰らわせる。
空中で爆散したエールカラミティの残骸から、エクスカリバーを両手に携え、インパルスはミネルバの甲板へと転がり落ちるようにして帰還。
「インパルスがカラミティを撃破!」
「「「オオオォォォォ!!」」」
メイリンからの戦況報告に、ミネルバのCICにて2度目の歓声が上がった。