もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら 作:ちゃーらんき
アビスVSリジェネレイトです。
2年前の第一次連合・プラント大戦を経て、紆余曲折あり地球連合の手に落ちたリジェネレイト。
動力源である核エンジンとNJC、コクピットをはじめとする制御中枢などの重要機関を集約したコアユニットと、複数のパーツを合体させて形成する機体。
可変機構を持つイージスをベースに設計・製造されたこの機体は、連合の手により改良が施されており、ザフトのモビルスーツとして戦っていた頃とは変わっている点がある。
一つ目は、維持・生産コストの改善のための装甲の変更。
ビーム兵器が主流となったこの時代において、対モビルスーツ戦闘を主任務とすることから換装可能な予備パーツの量産性を改善するため、コアユニット以外のパーツに関してはフェイズシフト装甲を備えない形となっている。
これにより防御性能は低下したものの、今時においてはビーム兵器の通用するフェイズシフト装甲の優位性は相対的に低下しており、前大戦にて敗因となった予備パーツの枯渇という問題をクリアするためフェイズシフト装甲に比べ生産が容易で安価な通常の装甲を用いたパーツを用いている。
二つ目は、合体・分離機構を生かしたあらゆる戦局に適応させる汎用性の拡大のための、機体パーツの改良。
コアユニットから入手した機体を構成するパーツや武装を用いて製造を行いリジェネレイトを復活させた一方で、武装面や機動性能面において宇宙空間だけにとどまらず地球を戦場とした想定も行い、パーツや武装もあらゆる戦況に対応できるように複数のパターンを持たせている。
従来の高出力のビーム兵器だけでなく、その巨体を生かした戦艦の主砲クラスの巨大なコイルガンを搭載し大気圏内における砲弾の利点を生かした遠距離曲射攻撃を可能とするコイルガンユニット。
通常の装甲に切り替えた防御性能の低下を補うための対ビームシールドや、フェイズシフト装甲ほどではないが物理攻撃の防御を補う大楯、それを用いるための防御行動用のサブアームなどを搭載したディフェンダーユニット。
ミラージュコロイド・ステルスを用いた隠密行動からの奇襲による破壊任務を目的として作られた、対艦・対要塞破壊用の大型ミサイルの装備を可能とするミサイルユニット。
レイダーに採用されているアンチビームコーティングが施された防御にも使用可能な巨大な鉄球であるミョルニルと、ブリッツなどに用いられているランサーダートを装備した攻盾複合装備であるトリケロスを装備した近接戦闘に強化を置くトリケロスユニット。
無限軌道のキャタピラと細かい姿勢制御を行うための補助スラスター、死角が少ない砂漠においてバクゥのような機動性の高い敵との戦闘を想定し命中精度よりも弾丸をばら撒くことを主軸とした大型ビームガトリング砲を砲身のクールタイムによる隙を埋めるためにも4門備えるなど、砂漠の戦場を想定したガトリングユニット。
これら多岐にわたる戦闘能力と武装を与えられる形で生産された機体パーツと武装は、ストライカーパックの構想を織り込む形で連合によりリジェネレイトを昇華させるに至った。
そして、当然ながらこのパーツには海戦を想定したものも存在する。
ミラージュコロイド・ステルスやビーム兵器に制限がある水中において、グーンやゾノなどを相手に水中戦闘を行うことを想定して作られた海戦用のマリンユニット。
この戦場に現れたリジェネレイトは、このユニットを装備していた。
近接戦闘用装備には、肩と両脚部に3本の爪を備えた大型クローと、フォビドゥンに採用されているニーズヘグ。大型クローを装備するアームの掌部位にはフェイズシフト装甲を持つ敵も想定し貫くためランサーダートが搭載されており、クローで掴んだ敵機を近距離から串刺しにする事も可能である他、手持ちの槍として予備の近接装備としても利用可能となっている。
突撃用装備としてモビルアーマー形態時にはクローが合体、先端に衝角部を形成し、突撃による大型目標の破壊も可能となっている。
またこのクローはモビルアーマー時にもクローとして展開可能。敵機の捕獲にも用いる事が可能であり、当然ランサーダートも問題なく発射可能となっている。
遠距離戦闘用装備には、主力となる魚雷とレールガンを備える複合砲が背中と腰の左右に合計3基搭載されている。背中は3連装レールガンが1門と魚雷が40発、腰に左右それぞれに1門ずつ2連装レールガンと10発ずつの魚雷が搭載されており、戦艦の砲塔のように回転機構が備わっておりこれにより照準を定めることが可能となっている。
さらに核動力による無尽蔵のエネルギー供給の利点を生かした非実態弾兵器として、胸部には大型フォノンメーザーが1門搭載されている。水中においてはスキュラに匹敵する破壊力を発揮できる、マリンユニットにおける最強の兵装として機能している。
サブウェポンとしてバズーカも予備含めパーツ1台につき2台ずつ装備しており、サブアームには敵の視界を遮断したりフォノンメーザーの威力を減衰させるためのバブルボムが備え付けられたシールドが装備されている。
海戦を想定したマリンユニットの兵装はアビスにも引けを取らず、リジェネレイトでありながらリジェネレイトではない脅威として存在していた。
加えて、このマリンユニットを構成する予備パーツを母艦の潜水艦が多数搭載している。
パーツにはフェイズシフト装甲が無いため連装砲などのアビスの兵装でも容易に破壊可能だが、核動力による無尽蔵の稼働時間とこの予備パーツを用いた合体・換装機構が実弾兵器を多く用いているにも関わらず高い継戦能力を与えており、デュートリオンビームによりバッテリーは回復したが艦隊との戦闘で消費した魚雷などは補充できていないアビスにとって長期戦を不利に傾ける障害となっていた。
そして三つ目の変更点。
かつてのリジェネレイトから大きく変わったのが、パーツや武装が複雑化し強力になった反面パイロットに要求する制御負担が大きく増えた点をカバーするために行われた、制御中枢であるコクピットの改造である。
多彩な武装を展開する新生リジェネレイトの制御を一つのコクピットで司るためかつ、現行のコアユニットを大型化せずに行うため、コクピットは専属の生体CPU専用のものとして改造された。
通常のモビルスーツ用コクピットではなく、モビルスーツの制御に適した形に作り替えた生体CPUの神経を機体の制御機構と専用プラグにて接続した、搭乗員を文字通り機体と一体化させたコクピットである。
あるべき人間の形ではなく、新生リジェネレイトを己の体と認識させる改造を施された脳と神経を与えられた専属の生体CPUを機体に物理的に繋ぎ、本来は自らの体を動かすために流れる脳からの信号を機体にて受信して制御することで、この複雑なリジェネレイトを1人の生体CPUにて自在に制御できるように成立させた。
当然物理的に肉体とモビルスーツを繋がれた専属の生体CPUは、生涯をこのコクピットの内部で過ごすことになり、生命維持機能から栄養と酸素を補給しなければいけないため陽の光の下を歩くことはできない。
元より脳幹を人間の体ではなくリジェネレイトの機体を動かすためのものに作り変えているため、己の体の動かし方すら分からなくなっているので、切り離すことができたとしても植物人間のままとなる。
友軍のとやりとりのために聴覚と声を発する機能だけは残されているが、そのほかの人間としてのほとんどの機能は失われており、視覚にはレーダー情報しか映さなくなった専属生体CPUの本来の眼球は摘出されているなど、他の多くの生体CPUと比較してもより非人道的な処置が施されている。
しかしその代償によって得た力は大きい。
人間の肉体を動かすかのように生体CPUによって自在に制御される機体は、通常のモビルスーツと比較してはるかに優れる操作反映機能を獲得しており、まさに手足を扱うかのようにこの巨大なモビルスーツを動かすことを可能としていた。
そのリジェネレイトを足止めするため、囮として戦場に残ったアビス。
バッテリーは補給できたものの、海戦における主力兵装となる魚雷は艦隊との戦闘にて幾らか消費しておりリジェネレイトと戦うには心許ない。
海を進むリジェネレイトが彼女の知るザフトの兵器だった頃とは明らかに違う、連合にて地球での戦闘に適した形に改造された姿は確認している。その武装も彼女が知るかつてのファーストステージシリーズとして登場したリジェネレイトとは別物と見るべきだとユノは判断した。
連合にとって故郷である地球は慣れた星であり、多くの兵器がその地球を舞台とすることを想定して造られている。
合体機構を持つリジェネレイトを手に入れた連合が、ストライカーパックとの技術的な融合によりあらゆる戦場に適した改造を加えることは想像に難くない。
未知の武装──おそらく海戦を想定した武装を持つ可能性が高い核動力モビルスーツという敵を足止めする。これが一筋縄では行かない厳しい戦いになることは、戦闘経験の多いユノには容易に想像がつくことだった。
だが、勝てない戦いでは無い。
リジェネレイトは母艦から予備パーツを補充する機体である。それに関しては、インパルスとは変わらない。
そしてその母艦は巧妙に姿を隠しているつもりだろうが、ユニウスセブンにて同じ戦場にいたエールカラミティが襲来したことから、ミネルバの後方をとっていた北側に展開しているという推測を立てていた。核動力機であるリジェネレイトと、バッテリー駆動の機体であるカラミティならば、母艦が輸送するだろう機体はカラミティになることは想定できるからである。
そして前大戦はカーペンタリアに配属されていた彼女にとって、南太平洋はよく知る戦場である。水上艦の姿がない以上は敵の母艦は潜水艦であると推測しており、そしてリジェネレイトのパーツやカラミティを搭載した艦艇が姿を隠せる海域がこの周辺でどこにあるかという候補も絞っていた。
リジェネレイトのパーツを補充する必要性がある以上、母艦は遠くには展開していない。尚且つミネルバの後ろをとっていた位置で、レーダーに観測されず、カラミティを発見した場所よりも北側の海で、相応の大きさの潜水艦が隠れられる深さの海。
これだけの情報があればその位置の推測は可能であり、予備パーツを一度でも補充させれば戦闘中だろうとその位置を特定する自信があった。
ならば、リジェネレイトを撃退するまでの段取りも組み上げられる。
ミネルバにはカーペンタリアから援軍を派遣するように頼んでいるので、アビスにてリジェネレイトに損害を与えるなどして予備パーツの射出元を確認し、援軍がきたらアビスでリジェネレイトを拘束している間に位置を割り出した母艦を援軍に叩いてもらい追撃どころではない状況に追い込んでから、カーペンタリアに向けて離脱していく。
徒党を組んだ艦隊ではなく、隠密性を重視した潜水艦を母艦にしているならば、少数のグーンの援軍でも十分叩くことは可能である。リジェネレイトのパーツを積んでいるほどの大型艦と仮定するならば、位置さえ割り出せればグーンの足からは逃げられないだろうし、ゾロゾロ護衛を連れてくるのではなくわざわざ隠れることを選ぶならばリジェネレイトの運用に特化した輸送艦に近い機能の艦艇であり自衛の戦力は然程ないと推測できる。
ならばアビスでやるべき目標も立つというもの。
リジェネレイトに損害を与えて予備パーツを吐き出させて母艦の位置を特定し、援軍がきてその母艦を叩いてくれるまでリジェネレイトを抑える持久戦を行う。
母艦の位置を特定してからは見失わないようにしつつ、バッテリーと魚雷などの残弾に注意して、リジェネレイトは撃破ではなくアビスとの戦闘に拘束するように立ち回ればいい。幸い、リジェネレイトの目的はアビスであり、囮として引きつけるのは難しくない。
最も警戒するべきは接続した機体の操縦を掌握することも可能なリジェネレイトの合体機構に用いられているプラグだが、ミラージュコロイドを使えない水中戦闘にて警戒するべき対象として分かっているならばそんなものに捕まるヘマなどしない。
「……よし、これで行こう」
リジェネレイトから逃げ切るための流れを頭の中で組み上げたユノは、それを果たすためにまずは母艦の位置を特定するためにもとリジェネレイトのパーツに損害を与えるべく接近してくる巨大な敵機に向かっていった。
「グーンと同じだと思うなよ!」
アームを束ねた衝角を前にしたモビルアーマー形態で接近してくるリジェネレイトに、まずは挨拶がわりだと魚雷を4発発射する。
しかしリジェネレイトのアームを束ねた先端付近は頑強であり、魚雷の直撃を受けても損壊はほとんど見られず、巨大な敵機は速度を落とすことなく突撃してきた。
「このくらいは弾くか……けどまあ、デカい図体のウスノロに当たってなんかあげないよ!」
しかしその程度は想定内。
突撃してきたリジェネレイトに対し、ユノもアビスをモビルアーマー形態に変形させ回避行動に移る。
パーツを組み上げて合体しているリジェネレイトは巨大であり、かつ速度は出るが小回りが効かないモビルアーマー形態である。タイミングを誤らなければ、その突撃を回避することは難しくない。
「……クロー展開」
進行方向を冷静に見極め衝角にしたアームの突撃を回避するが、それに対してリジェネレイトは衝角にしていたアームを展開し回避したアビスに伸ばしてきた。
「うわ!? 何、こいつもクローなんてカッコ悪いの使ってるの?」
伸ばされたクローに驚きながらも、連装砲を撃ちながら回避する。
連装砲の炸弾による妨害もありアビスに届かなかったクローだが、逃すかと言わんばかりに開かれたその掌からランサーダートが発射されてきた。
「ずいぶん趣味の悪いギミック載せてるじゃん!」
ランサーダートによる追撃に、ユノはアビスをモビルスーツ形態に移行し、接近してきたランサーダートをランスで叩き落とす。
「モビルスーツ形態に移行」
対するリジェネレイトの方も、モビルアーマー形態からクローを展開させるモビルスーツ形態に移行し、連合によって大きく様変わりしたマリンユニットを搭載した新生リジェネレイトの姿を見せた。
フォビドゥンに採用されている鎌形の近接戦闘武装であるニーズヘグを持つ腕の他に、ランサーダートを搭載する3本爪の大型クローが両肩と両足に4本、さらにシールドを備えるサブアームが2本。
腰には左右にレールガンが搭載された砲塔を備え、胸部にはザフトの技術を流用して製造したと思われるグーンなどの水中戦闘用モビルスーツのそれをはるかに上回るリジェネレイトの巨体に合わせたかのような大型のフォノンメーザーが見られる。
そこにはザフトで運用されていた頃とは似ても似つかぬ、海戦特化の装備で固められたリジェネレイトの姿があった。
「あのモビルアーマーといい、連合って本当に趣味が悪いよね」
連合にて改造されたマリンユニットを装備するリジェネレイトの姿を見たユノは、その外見から見て確認できる武装を見極めつつ、その外見を酷評した。
しかし、格好はユノに言わせれば趣味の悪いゲテモノだが、外見から判別できるだけでもその武装の数々は侮れない。
特に長いリーチを持つ巨大なクローは捕まれば最後、一気にVPS装甲を消耗させられ機能停止に追い込まれるか、ランサーダートにてコクピットを串刺しにされるだろう。
ただでさえ他のMSと比較してその大きさが目立つリジェネレイトだが、マリンユニットを装備するリジェネレイトは4本のアームのせいでより巨大な機体になっていた。
そしてその巨体で機敏に、器用に動く。
無尽蔵のエネルギーを供給する核動力炉と、消耗品として使われるパーツだからこその負荷を気にせず使い潰す勢いで行使される駆動。これらのメリットを活かし、かつより機体制御に適した改造を施した生体CPUによる操縦によって、リジェネレイトはその巨体を素早く動かすことを可能としていた。
「近接戦闘装備、大型クロー“ベルグランデ”展開」
伸ばされる4本のアームが、クローを展開しアビスを捕まえようと取り囲むように仕掛けてくる。
それに対しユノはアビスを後退させず、あえて囲い込むように伸ばされるアームの間隙であるリジェネレイト本体の直線コースに向けてアビスを突撃させた。
「それなら懐に飛び込むまでさ!」
モビルアーマー形態を取り、ランスの穂先をリジェネレイトの胴体部に向けて仕掛ける突撃。
水中にも関わらずその抵抗をものともしない速さで動くアームだったが、タイミングを見切ったユノのアビスを捉えきれず空振りし、クローを潜り抜けたアビスがリジェネレイトに肉薄する。
「主砲……大型フォノンメーザー発射」
それに対し、リジェネレイトの方はニーズヘグを用いた迎撃ではなく、胸部に搭載されている大型フォノンメーザーを近距離でアビスに向けてきた。
余波や跳弾が伸ばしたアームに当たる可能性が高い、安全距離を無視した攻撃。
しかしリジェネレイトはパーツが損壊したとしても予備に換装すればすぐさま戦線復帰を果たせる再生の名を冠する機体である。故に自機の損壊を無視するこうした攻撃も躊躇せず実行できる。
大型フォノンメーザーを搭載した胴体パーツもその一つ。ランスが突き刺さろうともコアユニットさえ無事ならば構わないリジェネレイトからすれば、被弾を恐れない相打ち覚悟の攻撃は捨て身ではなく一つの戦略に過ぎない。
スキュラに匹敵する破壊力を発揮する大型フォノンメーザーがアビスを捉える。
「──残念」
直後にアビスの機体が貫かれるだろうと思われたその一撃は、しかし砲身の向きに合わせて突撃中の機体の軌道を修正したアビスのシールド表面を掠めるだけにとどまり、ランスの方がクローを搭載するアームの根本である左肩を貫き4本のアームの1つを切り落とした。
「
マリンユニットに搭載している大型フォノンメーザーは、ザフトの鹵獲MSの兵装を解析して作られた代物である。前大戦ではグーンに乗っていたユノにとっては見慣れた兵器であり、大きさは違うがその砲口の形状と発射体制の流れなどから発射のタイミングやメーザーの軌道を見抜くのは可能であった。
そしてアビスのシールドは彼女の言葉の通り、極めて困難なフェイズシフト装甲と対ビーム装甲の両立を成功させた特別製の盾である。
高威力の大型フォノンメーザーは流石に直撃を受ければ破壊されかねないが、モビルアーマー形態時に抵抗を減らすためのその形状も相成り、掠める程度であれば防ぎ切れる。
結果としては、相打ち狙いの突撃を迎撃するつもりだったリジェネレイトがほぼ一方的に損害を被る形となった。
突撃の軌道を修正したために胴体を貫くことはできなかったが、厄介なアームを1つ落とすことができた上に、目的であったパーツに対する損害を与えることにも成功した。
元よりこの戦闘の目的は、ミネルバ離脱の時間稼ぎと、増援が来て敵の母艦を叩くチャンスを作るまでのリジェネレイトの足止めである。
一撃を与えてそのままモビルアーマー形態にて抜けていき、距離を取るユノ。
それに対しリジェネレイトは予想外の反撃に面食らったのか、一撃離脱で離れていくアビスに対し追撃はせず、距離を取ったアビスの方を向くだけでその場からは動かなかった。
「1番アーム喪失」
『予備パーツは必要か?』
「不要。戦闘続行」
アームの破壊を受け、リジェネレイトのコクピットに接続されている生体CPUのラルフは、母艦からの通信にまだ予備を必要とするほどの損壊ではないと返答する。
時間稼ぎを目的としているユノの方は、損害を与えることに成功した現状、リジェネレイトが仕掛けてこないならば積極的には仕掛けずに予備パーツが発射されてくる瞬間を待っている。
その様子に、ラルフはリジェネレイトが核動力機であることを承知しているはずのザフトのモビルスーツが一撃を与えてから様子見を始めたことに、短期決戦よりもこちらが遥かに有利となるはずの長期戦を見据えたような動きを不審に感じていた。
「報告。敵新型モビルスーツ、対象の行動に不可解な点有り」
『不可解な点だと?』
「当方に対する攻勢を停止、何かを警戒している模様」
『……確かにな。あの新型機、何かを狙ってるのか?』
母艦の方に不審な点を報告する。
それを受けたクダバが、リジェネレイトに一撃を与えてから動きを止めたアビスを見てラルフと同じ不審な挙動の違和感に行き着いた。
当初の戦況はミネルバの動向を掴むことができ待ち伏せと挟み撃ちの体制を整えていた地球連合側が圧倒的に優勢であった。
しかし敵は数的不利を覆し、新型機の危険性を証明するように大西洋がユーラシアに作らせた最新鋭モビルアーマーであるザムザザーを落とし、艦隊に損害を与え、こちらの虎の子の戦力である生体CPUを搭載したエールカラミティも撃破した。
これにより地球連合艦隊の士気は崩壊し、海域を封鎖していた艦隊は戦線からの逃走を開始。抵抗の意思を見せた一部の部隊も海を泳ぐモビルスーツと新型戦艦により殲滅された。
海域の封鎖は完全に解かれ、この場でなおも仕掛けたのはリジェネレイトのみ。
対してミネルバはMS1機すら失うことなく、大西洋連邦の艦隊を撃退してみせた。
この時点でいかにリジェネレイトといえど戦力的には連合側が不利になっており、ミネルバが持ち得る戦力を結集して戦えばわざわざアビスを囮にしてまで逃げる必要はほぼなくなっていたはずである。
それにも関わらず、ミネルバはアビスを捨て置きカーペンタリアへの離脱を図った。
足止めを買ったアビスは既に時間稼ぎの役目を果たしているといえるのに、足の速さで勝負することもせずリジェネレイトとの戦闘に至り、撃破する自信があったかと思えばアームに損壊を与えてからは仕掛けるのをやめた。
包囲を返り討ちにしたらさっさと逃げる母艦に、強力な兵器であることを既に証明したにも関わらずそのMSをトカゲの尻尾切りにし、切られた尻尾は自棄を起こすわけでも過信をするわけでもなくさりとてリジェネレイトを相手にするには不利になることが目に見えている長期戦の構えを見せるなど、ザフトの戦いぶりに合点がいかずその真意を読み取れない。
だがこれだけ不可解なことをするには何か理由があるはずだと、クダバはアビスのパイロットの目的を見出そうとする。
「予備パーツを射出しますか?」
「ラルフが必要ないと言っているならば必要ない。引き続き鹵獲、不可能であれば破壊を目的としあのモビルスーツに仕掛けるよう指示しろ」
「了解。母艦ジルガランよりリジェネレイト、引き続き敵モビルスーツへの攻撃を続行せよ」
『了解』
落とされたアームの予備を送らず、クダバはリジェネレイトにアビスに対する攻撃の続行を命令する。
敵の思惑がなんであれ、アビスを鹵獲するか沈めてしまえば何かあったとしても敵の思惑そのものを潰すことには繋がるだろう。
そもそもあれだけ暴れるアビスの存在をザフトに許しておけば、海戦にて地球連合が劣勢に傾く可能性は非常に高い。単機で孤立したこの好機に、放置し離脱を許すことができる敵ではなかった。
クダバからの指令を受け、リジェネレイトは再度アビスに攻撃を仕掛ける。
腰に搭載されるレールガンと、ニーズヘグに代わり装備したバズーカをアビスに向け発射し、一拍置いて魚雷を4本発射する2段階の遠距離攻撃である。
「おっと、今度は撃ち合いってわけ?」
一度止まったが、また攻撃を再開してきたリジェネレイトに、警戒を怠っていなかったユノもすかさず反応する。
「残念、レールガンも効かないんだよ!」
レールガンは一部をシールドで受けつつバズーカの砲弾とともに可能な限り回避し、ロックオンしている魚雷に対しては連装砲にて4本全てを迎撃した。
「大型フォノンメーザー発射」
それでは終わらないと、3段階目の攻撃としてフォノンメーザーを発射するリジェネレイト。
しかしそれもフォノンメーザーの射線を見抜いたユノがシールドを駆使して受け流し、表面を掠るだけで損傷を与えるには至らない。
「そら、お返しだ!」
アームを失ったリジェネレイトが予備のパーツと換装しないことから、更なる損害を与えるために攻撃を受けるばかりでなく今度はユノの方からも仕掛けていく。
フォノンメーザーを防いでから、流れるように防御に使った方と反対側のシールド下部に搭載される連装砲をリジェネレイトに向けて発射。
「────ッ」
これは反応したラルフがバズーカを咄嗟に投げて即席の盾にすることでフォノンメーザーへの被弾を防いだが、直後に連装砲とともに発射していた魚雷がリジェネレイトを捉え右肩に直撃した。
生産性の向上とコスト削減のために通常の装甲が用いられているマリンユニットでは巡洋艦や空母も沈める強力なアビスの魚雷の直撃には耐えきれず、アームがもう1本落とされる。
「ほら、裸になる前に新しいパーツを持ってこいよ──って、しぶといな!」
流石に今度こそ予備のパーツを持ってくるだろうと思ったユノだが、彼女の予想に反しリジェネレイトは再び様子見の体制に入ろうとしたアビスに対して予備のバズーカを取り出してレールガンとともに攻撃を仕掛けてきた。
「現状損傷軽微、パーツ換装不要」
4本のクローとランサーダートを搭載したアームのうち、すでに2本を失った。
そんな中で再びアビスが様子見の体制を見せようとしていた姿を見たラルフは、この時点でアビスの戦闘目的がリジェネレイトの装備の損壊に有るのではないかという推測を立てていた。
幸い破損したのはアーム2本であり、アビスの装甲を破壊可能な主砲である大型フォノンメーザーなどの武装は使用可能であり、継戦能力はさほど削がれてはいない。
この状況ではまだ予備パーツを用いるほどの損壊ではなく、アビスの狙いがリジェネレイトの換装を促すことにあるならば小さな損壊で新規パーツの換装を行うべきではないと判断した。
故に母艦に新規パーツの申請は行わず、現状の武装でアビスの鹵獲または破壊を試みるべく、再び様子見の構えを見せようとしたアビスへと仕掛けていった。
「──ったく、ユニウスセブンでは贅沢に使い倒してたくせに、こういう時にケチになるとかデザインだけじゃなくて性格も悪いんじゃないかな!?」
ユニウスセブンでやり合った時とは違い予備パーツを渋る姿勢を見せるリジェネレイトに対し、舌打ちをするユノ。
苛立ちを見せながも、一方で頭の中は冷静であり、このリジェネレイトの姿勢を見て予備パーツの換装を誘っていることを見抜かれているのではないかという疑念を抱いていた。
「けどまあこっちもバッテリーには限りがあるし、嫌でも換装しなきゃいけないようにしてやるよ!」
バズーカの砲弾をシールドで防ぎ、レールガンを回避して、アームの半分を失い近接戦闘能力が落ちているリジェネレイトとの距離を詰めるべくアビスを突撃させるユノ。
様子見を捨てて距離を詰めてきたアビスに対し、ラルフもレールガンを迎撃に使用しつつ、失ったクロー装備の近接戦闘用攻撃アームの代わりに、シールドを搭載している防御用サブアームを展開し迎撃体制を取った。
「ランサーダート──!」
脚部のクローも展開し、距離を詰めてきたアビスに対してランサーダートを仕掛けるリジェネレイト。
「当たるかそんなもの!」
それをランスで弾き落とし、クローを潜り抜けてきたアビスが、今度はランスをリジェネレイトの胴体に向かって突き出す。
「バブルボム起動──」
フォノンメーザーの発射口を狙うランスに対し、ラルフはサブアームを駆使して盾を滑り込ませその刺突を防ぎ、同時にこの盾に仕込まれているギミックであるバブルボムを爆発させた。
「────ッ!」
ランスを防いだ盾から生じた大量の気泡がアビスのカメラの視界を塞ぐ。
同時にボムの爆風によってアビスを押し返し、機体の制御を一瞬失うこととなる。
すぐにユノはアビスを立て直すが、その一瞬の隙を作れれば十分である。
すかさず伸ばしたクローがアビスを左右から挟み込みそのためでがっしりと捕まえ、反撃行動に当たる暇も与えずにランサーダートを発射した。
「──舐めるな!」
捕まればそこで終了の筈である。
至近距離で発射されるランサーダートに機体を貫かれてコクピットが潰され機体は捕獲という結末になるところだが──しかしそれを覆すのがザフトレッド、エースクラスのMSパイロットである。
「────ッ!?」
仕留めたと思った直後にアビスを捕まえたはずの2本のクローが砕け散り、そこからクローの残骸を手にしたアビスが突撃してきてフォノンメーザーの発射口にその残骸を突き刺してきた。
クローに捕まったアビスだが、ユノは迷うことなく咄嗟の判断でその窮地を脱する。
クローに捕まえられてしまう最悪の事態も彼女は当然想定しており、その時の対処法としてゼロ距離でアビスの最強の武装であるカリドゥスを発射してクローを破壊するという対処法を用意していたのである。
しかし、これは当然自機にも余波が来る危険な行為。
クローに捕まえられるという状況はVPS装甲を著しく消耗している状況であるし、ゼロ距離でカリドゥスを撃とうものなら破壊の余波でフェイズシフトダウンや最悪の場合にはコクピットが潰れる可能性すらある行いだった。
それを捕まり流れるように撃ち込まれてきた止めのランサーダートにやられるよりも早く判断し実行する。
幾度も死線をくぐり抜けてきた兵士としての経験が豊富な彼女だからこそ迷いなくできる決断だった。
結果、カリドゥスの攻撃にクローは破壊。
挟み撃ちにしたもう片方には咄嗟にランスを掌部に突っ込んでランサーダートを暴発させて内部から破壊し、2つのクローによる拘束から抜け出すことに成功したのである。
これにより残る2本の近接戦闘用攻撃アームだけでなく、主砲となる大型フォノンメーザーも失う形となったリジェネレイト。
勝利を確信した直後にそれを容易く覆してきたアビスに驚くラルフは咄嗟にサブアームのシールドに搭載されているバブルボムを駆使しつつリジェネレイトを後退させようとするが、それを許さないユノがサブアームの盾よりも早く至近距離に詰めてきてカリドゥスをリジェネレイトの頭部に撃ち込みその視界を司っている機能を破壊した。
「2度も同じ手が通用すると思うな!」
さらに遅れて伸びてきたサブアームには、連装砲を関節部分に発射しこれを破壊。
アームの半ばから落とされたシールドはバブルボムを起爆できないまま鉄屑と化し、そのまま海に攫われていった。
「予備パーツ申請──」
流石にこの状況ではケチってなどいられない。
ラルフは母艦に新規パーツの手配を申請し、それに応じた母艦より予備パーツが射出された。
「──見つけた!」
そして、それをユノは戦闘中であっても見落とさなかった。
身を隠していた母艦のジルガランであったが、南太平洋の海を知っているユノがリジェネレイトのパーツを運用する規模の潜水艦が隠れられる場所に予想を立てていたことで、一度の予備パーツの射出だけでその隠れた位置を完璧に把握されてしまうこととなる。
すでに大西洋連邦の艦隊が逃げたこともあり、近海の通信妨害は解かれている。
カーペンタリアからの援軍はユノも把握しており、そのボズゴロフ級2隻からなる友軍に向かって見つけた敵母艦の位置を送り、攻撃を要請した。
要請を受けたザフトの増援が、グーンを繰り出す。
「敵増援接近!」
「おのれ、まさか一度のパーツの射出で見抜かれるとは! あの新型、最初からこれが狙いだったのか!」
ザフトの新手の接近と、その敵増援がジルガランを狙う動きをとっていること。
ことここに至って、ユノの狙いが母艦であることに気づいたクダバ。
「くっ──ラルフにすぐ戻るよう指示しろ」
「母艦ジルガランよりリジェネレイト! 敵増援を迎撃せよ!」
「了解」
すぐにリジェネレイトに増援を迎撃するように指示を飛ばす。
ラルフも命令を受けジルガランの防衛に向かおうとするも、それをアビスが許さなかった。
「行かせるか!」
レールガンと魚雷を撃ち、もう一つのサブアームを盾にして失いながらもなんとか予備パーツへの換装を成功させたリジェネレイトであったが、母艦の防衛には向かわせないとアビスがクローの残骸を投げつけるなどして妨害してきた。
「MA形態に移行」
「クソッ!」
しかし、それを背中に搭載されたレールガンで迎撃するとともにMA形態に移行。
そのまま母艦の方へ全速で向かって行き、増援のグーンが射程に捉える前にその前に展開した。
リジェネレイトを追撃するアビス。
母艦を狙うグーンの部隊。
(姉さん……! お願いだ、どうか無事で……!)
そして、戦場に向かう家族を想う戦士が駆使するインパルス。
これらザフトのモビルスーツから母艦を防衛するために立ち塞がるのは、連合にて新たに海の戦場に適した形を与えられたリジェネレイト。
カーペンタリアに向かうミネルバとそれを阻止せんとする連合の海戦は、母艦を狙うザフトと母艦を守るべく立ち塞がるリジェネレイトという新たな戦局へと移ることとなる。
次回はリジェネレイト相手のレイド戦になります