もしもザフト水泳部の新米が連合に盗まれずミネルバに加入したら 作:ちゃーらんき
一般にも公開される、新造戦艦ミネルバの進水式とセカンドステージシリーズの門出を翌日に控えたアーモリー1は、その祝宴とザフトの新たなプラントを守護する力を一目見ようと多くの民間人も訪れていた。
そんな中で発生した、アーモリーワン事変。
強奪されたガイアやカオスの攻撃によりモビルスーツ工廠区画は瞬く間に戦場と化し、カオスの飛ばしたドラグーンの攻撃を受けた軍事施設にて有毒ガスが発生したことで、コロニーには緊急事態警報が発せられた。
事変に巻き込まれたプラント最高評議会議長のギルバート・デュランダルの指示により、アーモリー1の全てのシェルターが解放され、民間人の避難が急いで行われることとなった。
しかし、翌日に控えたミネルバの進水式を一目見ようという民間人が多く訪れていたこの日は、普段よりもはるかに多くの人がアーモリー1を訪れている。
平時ならば半分ほどのシェルターで技術スタッフからザフトの軍人、さらにその家族に至るまでコロニーの全ての人員を収容できるのだが、この日のアーモリー1にいた人の数はその許容を遥かに超えていた。
「このシェルターは満員です! 他のシェルターに避難してください!」
「待ってくれ、閉じないでくれ!」
「せめて子供だけでもお願いします!」
「ふざけるなよ! 向こうのシェルターにも満員だって断られたんだぞ!」
例え全てのシェルターを解放しても許容できない数の人間がこの日のアーモリー1におり、加えてコロニー内のいくつかのシェルターは普段使うことはなく使用せずとも平時の人員ならば十二分に許容範囲内だとして定期的な整備などの業務を怠っていたため隔壁の自動開閉装置が故障しており、全てのシェルターが稼働できていなかった。
これによりアーモリー1にはシェルターに避難できない人々が溢れ、大きな混乱が生まれていた。
本来ならば宇宙港からもシャトルや場合によってはザフトの艦船を用いて避難民の脱出を図るのだが、ガーティー・ルーらファントムペインの破壊工作により港はすでに破壊されており、宇宙港を利用した避難民の脱出を実施することができない状況にあった。
2年の平和を突如として破壊した戦端。
平和ボケしたザフトの欠陥が露呈する状況は、彼らが守るべきプラントの民の安全を保全できないという最悪の事態を招きつつある。
宇宙港の管制塔が破壊され、司令官のエヴァンスをはじめとするアーモリー1駐屯軍の指揮官級が多く戦死したこともあり、現場は避難民の安全確保、ガイアとカオスの奪還などの多くの問題に直面して混乱が広がっている。
「港が使えないとはどういうことだ!?」
「詳しい状況がわかりませんが、管制塔と連絡がつかず──」
「軍港も敵襲を受け、出航準備中の艦隊が破壊されたらしい」
「クソッ! このままじゃ全員を収容するなんて不可能だぞ!」
ファントムペインの襲撃を受け、管制塔が崩壊するなど破壊されたことで宇宙船の出航ができなくなった港は使えない。
ひとまず戦闘に巻き込まれない程度の距離がある宇宙船のドック区画にて仮設拠点が設営され、そこでハンガー区画における戦況、軍民に発生している被害状況、民間人の避難状況などの情報が集められ、軍港の崩壊に巻き込まれなかったことで無事だった一部の副官たち──黒服のザフトが現場の指揮をとっていた。
「誰がここの指揮は誰が取っている、奪われた機体はどうした!? とにかく状況を説明してくれ!」
そんな中、側近らとともにミネルバの停泊するドックが並ぶ区画にある急造の仮設拠点までデュランダルは、事態の把握をするためにその仮設拠点を訪れる。
デュランダルの登場にザフトたちが驚く中、まだシェルターに避難していなかったプラントのトップの姿にあわてて仮設拠点で指示を出していた黒服のザフトが駆け寄ってきた。
「議長、ここはまだ危険です! 有毒ガスも発生しています、シェルターにお入りください!」
またデュランダルの耳に入っていなかったが、戦闘の余波により軍事拠点の方で有毒ガスが発生しており、コロニー内に広がりつつある。
戦闘が発生している区画からある程度離れたとはいえ、すでにコロニー内全てが危険地帯になりつつあった。
黒服はすぐにデュランダルへまだ開いているシェルターへの避難を促したが、それならばなおのこと事件の全容すら把握できていない状況、民間人の避難も終わっていない中で自分だけシェルターに避難することなどできないとデュランダルは拒否する。
「そんなことができるか! 事態すらまだよくわからんのに」
「しかし……ならばせめて、ミネルバへ!」
「……ええい!」
だが、民間人が多くいる区画はまだ距離があるが、この辺りは有毒ガスが間も無く広がってくるだろう危険地帯である。
シェルターが無理ならばせめてミネルバに退避してほしいという黒服からの提言に、周りの側近たちからも促され、デュランダルは温厚で冷静な彼にしては珍しく苛立ちを隠せない様子を見せながらもミネルバに入った。
一方、ハンガーが並ぶ区画の方ではレイとルナマリアのザクを埋めた瓦礫の撤去が行われていた。
現状、新型機の強奪犯たちの対応にはインパルスやアビスの他には殆どがディンやジンといった旧型のモビルスーツが当たっており、VPS装甲を有する敵に対抗するためにザクなどのモビルスーツが1機でも多く必要だった。
「早く! 入れるだけ空けばいい!」
「ダメだ、ルナマリア! 鉄骨が邪魔で……」
ルナマリアの赤いザクの方はコクピットハッチの上に鉄骨が落ちたため完全にコクピットが塞がれており、人力での撤去が困難な状況となっている。
一方、レイのザクファントムの方は幸い人力で撤去できる瓦礫が多かったことでコクピットに人が入れる隙間を作ることができた。
「レイ、空いたぞ!」
工兵の呼び声に頷き、すぐさまザクファントムの上に上がってきたレイがコクピットに滑り込む。
パイロットスーツを着ていないが、ことは一刻を争う事態のため着替えている暇などない。
制服のままコクピットに乗り込みザクファントムを起動させたレイに、ベテランの整備兵が人が乗れるようにしただけでどんな不調があるかまではわかっていないことを伝える。
「中の損傷はわからない、いつも通り動けるとは限らないぞ! 無理だと思ったらすぐに下がれ!」
「戦場で万全なコンディションなど望めるものではないさ。システムが動くだけでも十分」
「それもそうだな!」
ザクファントムのコクピットハッチが閉じられ、工兵たちが降りる。
機体の上から人員が撤退したことを確認したレイは、ザクを起こすと隣の赤いザクの上で作業している者たちに退くように指示を出す。
「退け、ルナマリア」
ルナマリアたちがコクピットの上から退避し、安全を確保したことを確認したレイがザクファントムにて赤いザクウォーリアのコクピットを塞ぐ人力では撤去も動かすことも困難だった鉄骨を掴み上げ、ザクのコクピットに入れる空間を確保した。
「ナイスよ、レイ!」
すかさずルナマリアもザクに乗り込む。
ルナマリア専用機のザクの方にはコクピットを塞いでいた鉄骨のほか、特に大きく重い瓦礫に潰されていたためシステムなどに異常が発生している可能性はレイのザクファントムよりも高い。
「どうだ? 行けるか?」
「システム戦闘ステータスで起動……オーケー、こっちも行けるわ」
「分かってるとは思うが──」
「いつも通り動くとは限らない、でしょ。分かってる」
「ならいいさ」
ザクを起動し、ひとまず問題なく動かせることは可能なことを確認。
工兵たちが機体や瓦礫から降りたのち、ザクを操縦して機体を埋めている瓦礫をどかして立ち上がる。
「ウィザードシステムはハンガーがこの状態だ、悪いが武装はビーム突撃銃しかないと思え」
「了解した。行くぞ、ルナマリア」
本来ならば、ウィザードシステムによる戦況に応じた換装装備を取り付けてようやくザクの戦闘準備は整うのだが、今回はハンガーが中の設備に至るまで盛大に破壊されている。
ミネルバに戻る時間もなければ、換装するのに必要な時間も設備もないため、通常装備のビーム突撃銃とビームトマホークくらいしか武装がない状況である。
白と赤の専用のカラーリングを施されたザクは、各々最低限の武装を手にとるとスラスターを噴射して戦場となっているハンガー区画に急行した。
「強奪されたのはカオスとガイア、そしてザクウォーリアの3機だ。アビスは偶然ユノが搭乗しており強奪を免れ、現在カオスと交戦中。ミネルバにも救援要請が出されインパルスが出撃、こちらはガイアと奪われたザクの2機に対応している。数ではこちらが圧倒的に優勢だが、大半がジンやシグー、ディンといった旧型機だ。新型には機体性能で圧倒的に劣っており、ほとんどが到着した順に落とされているらしい」
「ザクも強奪されたの!? 先にシンの加勢に向かった方がいいわね」
「同感だ」
瓦礫を撤去する作業が行われている傍らでミネルバともやり取りをして事態を把握していたレイから状況を聞いたルナマリアは、そこでセカンドステージシリーズの2機だけでなくどさくさに紛れてザクまで奪われていたことを初めて知る。
カオスにはアビスが、ガイアにはインパルスが当たっている現状、カオス1機と戦っているだろうアビスの方は抑えられるだろうが、ザクが加勢しているとなるとインパルスの方はかなり厳しい戦況のはず。
ましてシンは訓練の成績は優秀でも──レイたちも同じだが──命を懸けた実戦は今回が初めてである。
加勢が必要なのはインパルスの方だと2人の意見が一致し、2機のザクはインパルスとガイアが戦闘している場所に向けてスラスターを駆使し飛行していく。
そんな中、突如として巨大な衝撃がアーモリー1を走り抜けた。
「なんだ!?」
「今のは──」
「「「────ッ!?」」」
ミネルバやハンガーで戦闘を繰り広げるシンたち、ミネルバに移動するデュランダルらもその衝撃に驚き、思わず戦闘の手も止まってしまう。
コロニーの外壁がそこから攻撃を受けている。
大地のないはずのコロニーに走る地震のような衝撃が走り抜けた直後、アーモリー1の外壁に巨大な爆発音が響きさらに大きな穴が開いたのである。
「コロニーが……!」
おそらくコロニー内の戦闘に注目が割かれているうちに外壁に外側からビーム刀のような武器で亀裂を作り、その上で爆破を仕掛けたのだろう。
空に綺麗な円を描くように作られた大穴。
その先には宇宙が無限に広がっている。
コロニーの外壁を破壊する大きな衝撃は、モビルスーツ工廠で発生している戦闘中のものたちも思わず手を止めるほどの驚愕と注目をもたらす。
その中で、コロニー内部の空気が宇宙に向かって放出されるなか、開いた穴の外側から1機のモビルスーツがアーモリー1の内部に侵入してきた。
「あれは、まさか……!? いやしかし、そんなはずが──」
その新たなモビルスーツは状況を鑑みれば明らかにコロニーの外壁を破壊した敵機である。
だが、そのモビルスーツの姿は多少改造が加えられていたとしてもそのモビルスーツを知る者にとってはあり得ないと驚く機体だった。
「あれは……テスタメント!?」
アーモリー1の外壁を破壊して降り立ったモビルスーツ。
それはかつてザフトにて開発された現在はユニウス条約により全面的に軍事利用を禁止されているニュートロンジャマーキャンセラーを搭載し核動力にて稼働していたガンダム“ファーストステージシリーズ”の1機として完成し、かつての大戦ではヤキン戦役に投入されたモビルスーツ。
そのヤキン・ドゥーエの戦いにて地球連合との戦闘により破壊、放棄されたはずの核動力モビルスーツ“ ZGMF-X12Aテスタメント”と同じ──否、テスタメントそのものの姿を有する機体だった。
何故、テスタメントが正体不明のテロリストに与するのか。
そもそも連中はどうやってテスタメントを手に入れたのか。
この新たな敵の登場に、より一層現場は混乱することとなる。
そして、コロニーの外壁を破壊して乱入してきたテスタメントの登場に、ザフト側が混乱する中スティング達襲撃犯がいち早く反応した。
「援軍のご到着か。名残惜しいが、貴様との決着はお預けだ」
アビスとの戦闘に集中していたスティングだが、コロニーの外壁が崩壊するという事態に対峙するアビスともども気を取られ戦闘が中断されたことにより、冷静さを取り戻していた。
既に彼らに向けて強奪した機体を持ったコロニーより撤退を開始する合図となる軍港の爆発は発生している。
アビスの強奪に失敗し、インパルスという情報にないイレギュラーの登場により、追撃を振り切るためにも戦闘を続けていたが、その殿を任せる援軍が来た以上はこの場で戦う必要はもはやほとんどなくなりつつあった。
「スティング、遅れてる。バスいっちまうぜ?」
「うるさい、分かっている! あとは奴らに任せ今のうちに奪った機体を持ち帰るぞ! ステラを頼む!」
「はいよ。呼びつけておいて正解だったな」
アウルからも促され、スティングは撤退を指示。
アウルには殿を援軍に任せてステラの撤退を援護するように伝え、自身もカオスを確実にガーティー・ルーへ撤退させるためにテスタメントの開いた穴から離脱するために動く。
補助の推進器としても使うドラグーンを本体に戻し、テスタメントの襲来とコロニーの外壁の崩壊という非常事態を受け動きが止まってしまっているアビスの隙をつき、モビルアーマー形態に変形してコロニーの空に飛び上がった。
「なっ──!? 逃がさないって、言ったでしょうが!」
コロニーの外壁が崩壊するという事態に思わず驚きから止まってしまっていたユノだったが、スティングがその穴を使ってカオスを離脱させる動きを見せたのにすぐに気づいてアビスのビームランスを振り回す。
しかしモビルアーマー形態に既に変形し飛び立ったカオスに一歩間に合わず、ランスは空を切るだけで終わった。
「落ちろ!」
「当たるかそんなもの!」
アビスの方にもカオスの捕獲命令は出ていたが、頭に血が昇っているユノは逃すものかと撃墜も厭わない胸部のカリドゥスをカオスの背中に向けて発射する。
だがもちろんスティングもその程度想定しており、機動力に優れるカオスを駆使してカリドゥスを回避する。
カオスを撃墜するつもりで放たれたカリドゥスはそのままテスタメントの開いた穴から宇宙に飛び出して行った。
「落ちろじゃねえよこのバカ! カオスは捕獲しろって──」
「絶対に落とす!」
「落とすなバカ!」
そして離脱しようとするカオスに対し、逃すかとアビスもモビルアーマー形態に変形して追撃するように飛び立つ。
落ちろだのといったカオスを撃墜する気満々の殺意をむき出しにしている様子にカオスは壊すなと落ち着かせようとする通信が隣のゲイツから出されるが、聞こえていないユノはモビルアーマー形態でも使用可能な背中の2連装ビーム砲“バラエーナ改”を撃ちながらカオスを追撃する。
「あいつ1人に任せたらカオスがスクラップにされかねない。俺たちも追撃するぞ!」
あの様子ではユノに任せるとカオスを破壊しかねないと判断し、周囲のゲイツやシグーといったモビルスーツもカオスを追撃するために飛び立つ。
一方、テスタメントによりコロニーの外壁が破壊された際にこちらでも一時戦闘が停止していたガイアとインパルスの方も、アウルがステラに呼びかけて撤退を促していた。
「帰るぞステラ! ネオの合図、あの道通ってその機体持っていくんだよ。あいつは俺が抑えておくから」
「ネオ……うん、分かった」
先程までインパルスとの戦闘でこちらも頭に血が昇っていたステラだったが、コロニーの外壁の崩壊の衝撃で冷静さを取り戻しており、アウルの言葉に任務を思い出しガイアを持ち帰るためにコロニーに空いた穴に向かってスラスターを駆使して飛び立つ。
「あいつら、待て!」
そしてガイアが飛び立った事でようやくあの穴が誰の手によって何のために開けられたのかを理解し、ガイアとカオスを外に持ち出そうとしていることに気づいたシンがさせるかとエクスカリバーで追撃を仕掛けようとする。
だが、そこにビーム突撃銃の光線が放たれガイアの背中を追う進路を妨害してきた。
「そんなに遊びたいなら俺が相手になってやるよ」
「クソッ! ザクが邪魔を……そこを退け!」
アウルのザクがガイアを追撃する道を塞ぐように立ちはだかる。
ビームブーメランを飛ばして牽制しその隙に抜けようとするも、アウルはすかさず肩に装備しているザクの対ビームシールドでブーメランを防ぐと、バランスを崩しながらもインパルスがその隙に抜けることを予測しておりビーム突撃銃で背中に狙いを定めて撃ってきた。
「だから行かせないっての!」
「しまった──」
ビームブーメランを受けた際、ザクはその衝撃でバランスを崩して一度はやられたかのように大きく横に動いて行った。
しかしそれはアウルの仕掛けた罠。
ビームブーメランの牽制が効いたとシンに思い込ませるように動きつつも、ビーム突撃銃の銃口をインパルスに向けながらビームブーメランで吹き飛ばされたかのように見せて動いていただけである。
ガイアの追撃を確実に阻止してインパルスの注意をザクから逸らすための演技に、ガイアの離脱を阻止しなければという焦りのあったシンは騙されて、ザクに背中を晒してしまっていた。
インパルスのソードシルエットに装備されているスラスターにザクのビーム突撃銃が当たり、インパルスがバランスを崩す。
そこへガイアの後を追うようにコロニーに開いた穴を目指して飛んできたモビルアーマー形態のカオスが接近してきた。
「地獄行きだな、ザフトのガンダム!」
「カオス──!?」
それはアビスと交戦中だったはずのカオス。
モビルアーマー形態にて使用可能なカオスの最強の装備であるカリドゥス改を既にインパルスに対してロックオンしている状態であり、アウルの攻撃に合わせてインパルスに立て直す暇を与えずに発射してきた。
アビスのカリドゥスと比較して消費エネルギーが抑えられており連射性と速射性において優っている複相ビーム砲“カリドゥス改”。
その攻撃はインパルスのソードシルエットと頭部を貫き破壊、最も出力の高いスラスターとメインカメラを破壊されたことにより、インパルスは制御が失われてアーモリー1に落ちて行った。
「カメラがやられた! 背部のメインスラスターも損傷が激しくて──!」
やむを得ず、シンは破損したシルエットモジュールの付いているチェストフライヤーを分離して放棄。
直後に破損し分離されたインパルスの上半身部分は爆発を起こしてコアスプレンダーを黒煙の中に飲み込んだ。
モビルスーツはスラスターなどが破損した際、コクピットが被弾した時は無事でも直後にスラスターの暴走などにより爆発を起こしてパイロットを死なせてしまうという事態があった。
インパルスの分離・合体機構は、テスタメントと同時期に開発されロールアウトしたファーストステージシリーズの1機としてかつてザフトが保有していた核動力モビルスーツ“リジェネレイト”の技術が応用されており、こうした事故の際にコアスプレンダーとして合体だけでなく破損した機体から分離することにより、パイロットの生存率を上げている。
ギリギリなところで最悪の事態を回避したシンは、そのままレッグフライヤーとコアスプレンダーの状態で飛行し煙を抜ける。
メイリンへ破損し分離したパーツの予備を要請しつつ、カオスとガイアの追撃に飛ぶ。
「逃がすか! ミネルバ、フォースシルエットとチェストフライヤーをお願いします!」
「了解! シルエットフライヤー及びチェストフライヤーを射出します!」
一方、インパルスの被弾の爆発の光景に落としたと思っていたスティングとアウルは、煙の中から飛び出してきたモビルスーツの下半身を見て驚く。
「はあ!? あいつ、真っ二つになっても飛べるのかよ!?」
「合体した部位のうち破損した箇所を切り離して生き残ったのか……! ならば、残りの箇所も潰すまでだ!」
インパルスの合体機構を見て分離する機構もあると見抜いたスティングが、驚かされながらもならば残る場所も潰して仕舞えばいいと、カオス本体はコロニーの外に向かって飛びつつもドラグーンを飛ばしてインパルスのコアスプレンダーに向けたビーム砲を発射する。
「マズイ──」
「させるか!」
しかし、そこに飛んできたアビスが巨大なビームシールドを駆使してインパルスを狙うカオスのドラグーンからの攻撃を防いだ。
「姉さん!」
「シン! 遅くなってごめん、よく頑張ったねえらいぞ!」
間一髪のところでインパルスを守ったアビスは、すぐさまモビルアーマー形態に戻り再びカオスを追撃していく。
バラエーナ改を駆使してなおもコアスプレンダーを狙うドラグーンを追い払い、追随するゲイツなどの友軍機とともにドラグーンを飛ばしたことで速度が低下しているカオスに向けて猛追を仕掛ける。
「さてと、よくも僕の弟に! その機体共々八つ裂きにしてやる!」
「だから落とすな!」
マーレだけでなく、シンまで傷つけられそうになったことに、ユノは怒りを顕にしてカオスを追撃する。
宇宙空間における機動性能はカオスの方が本来は上だが、補助推進器の役割を担うドラグーンがないため普段よりも速度が低下しており、追撃するアビスにこのままでは追いつかれかねなかった。
「スティング! このままじゃ──」
「いや、問題ない」
このままでは追いつかれる。
どうするんだと尋ねるアウルに、スティングは落ち着いた声で問題ないと伝える。
ガイアとカオスが離脱しようとする動きを見せたことで忘れられていたが、このコロニーには既に殿を務める彼らの仲間のモビルスーツが入っている。
そのモビルスーツの備える機能もあり、ユノ達はその存在に対して無防備な状態でカオスを追撃していた。
「逃がすか!」
「このままいけば追いつける──」
「ダメだ姉さん!」
戦場を飛ぶ亡霊の存在に、ユノ達は気づいていない。
存在は把握しているが、スティングやアウルからもその姿は見えない。
またミネルバや戦場に立つモビルスーツのパイロット達も、亡霊の姿は見えておらず、コロニーの外壁の崩壊が敵の攻撃であることは理解していたがその犯人の姿は見えていなかった。
その中でコアスプレンダーのコクピットの窓から戦場を見ていたシンにだけは、カオスを追撃する友軍機を狙うその亡霊の姿が肉眼だからこそ見えていた。
「え──?」
シンの叫び声にユノが反応した直後。
カオスを追撃するザフト側のモビルスーツが敵などいないはずの後方から飛んできたビームに次々と貫かれ、瞬く間にゲイツ3機が撃墜されたのである。
「敵襲!? どこから──!?」
突然の敵襲を受け、カオスとガイアを追撃していたユノ達の意識がその攻撃を仕掛けてきた方向に向く。
しかしそこには敵影などなく、ただ荒廃したハンガーの破壊の跡地があるだけ。
原因不明の攻撃に困惑するユノ達が止まったその隙を突いて、アウルのザクがユノ達に向けてビーム突撃銃を発射する。
「よそ見してる場合かよ!」
「邪魔するな!」
アウルからの攻撃に、被弾したゲイツが正体不明の攻撃よりもこちらの対応を先にする必要があると判断。
バーニアを駆使して加速し、ビームクロウをアウルのザクに届かせようとするが──
「何!?」
避けようともしないアウルのザクにビームクロウが突き刺さる直前、突如としてそのゲイツが真っ二つに割れて墜落した。
「バカな……一体何が起きているんだ!?」
ミラージュ・コロイドを駆使する機体があったとしても、こんな奇襲なんてできるはずがない。何かしらの予兆があるはず。
だが、ユノ達からは、スティング達からも、その機体は見えない。
混乱するユノ達はもはやガイアとカオスの追撃どころではなく、そうこうしているうちにガイアがアーモリー1の外へと離脱して行った。
「何がどうなっているんだよ──ぎゃあああぁぁぁ!?」
「オルコット! 何なんだよ、何がどうなっているんだ──ぐあああぁぁぁ!?」
何もいないのに、友軍機が次々に落とされていく。
その異常事態に追撃部隊は混乱し、各々逃げるように散っていく。
そして、その味方の混乱ぶりをコアスプレンダーの窓を通して見ていたシンは、困惑していた。
「何で……まさか、みんなあの機体が見えてないのか!?」
シンの目には、コロニーの外壁を破壊した犯人であるファントムペインの援軍であるモビルスーツ、核動力機であるファーストステージシリーズの1機“テスタメント”が地上からトリケロス改のビーム砲を駆使してゲイツを落としてから、混乱する追撃部隊に向かってミラージュ・コロイドを使っていたとしてもバレるだろうバーニアを駆使して飛行し接近、見えていないかのように明後日の方向を警戒するザフトに接近してアウルのザクを落とそうとしたゲイツをビームサーベルにて両断した光景が映っていた。
しかし、明らかにザフトのモビルスーツはテスタメントが見えていないかのような混乱ぶりを見せている。
その様子に、シンは直感でモビルスーツのカメラやレーダーなどの探知網に引っかからない機体なのではないかとテスタメントのカラクリに勘付いた。
ならば、インパルスに合体してしまえば自分も見失ってしまうかもしれない。
幸い、新手の敵はインパルスを撃墜したと思い込んでいるらしくコアスプレンダーが無視されている。
「姉さん──!」
テスタメントにコアスプレンダーで立ち向かうことを決意したシンは、レッグフライヤーを切り離すとコアスプレンダーを飛ばし、見えない敵に無防備な背中を晒しているアビスを背後からビームサーベルで切り裂こうとしていたテスタメントにミサイルを発射した。
「させるもんか!」
「──!?」
テスタメントの方も、インパルスは既に落としたものと思い込んでいた。
そもそもテスタメントはインパルスの合体機構を知らない。爆炎に飲まれる姿を見た時、落ちたものだと勝手に思い込んでいたとしても仕方のないこと。
そしてテスタメントが装備するこの機体の最大の武器である“量子コンピュータウイルス送信システム”を駆使してアーモリー1全ての機器の有する機械の目から機体の姿をくらましていたテスタメントにとって、敵に見つかっており攻撃を受けるというのは想定外の奇襲となって襲いかかった。
「シン──?」
突如としてコアスプレンダーがアビスに向けてミサイルを撃ってきたことに驚くユノがアビスを振り向かせた先で、何もない場所で突如として発生する爆発。
一体何が起きているのかと混乱するユノに、シンが通信でテスタメントの存在を伝える。
「姉さん、見えないのか!? そこにモビルスーツがいる、機械の目に頼っちゃダメだ!」
「──信じる!」
「…………っ!?」
シンの言葉に、ユノは躊躇うことなく弟の言葉を受け入れ、ミサイルが爆発した何もない空間にビームランスを振り回す。
それはコアスプレンダーの攻撃に驚きアビスから意識を逸らしていたテスタメントの背中に直撃し、トリケロス改を装備していない方、先ほどアビスのコクピットを切り裂こうとしていたビームサーベルを握っていた方の腕を切り落とした。
「こいつら……!」
「手応えあり──そこか!」
「チッ……!」
テスタメントにランスが当たったことに、手応えを感じたユノが敵モビルスーツの存在を確信しビームランスを突き出す。
しかしそれはテスタメントが回避し、再び背後を取ろうと移動する。
「後ろに回り込もうとしている! レッド1チャーリー!」
「そこか!」
「何だと!?」
今度こそアビスを仕留めようとしたテスタメントだが、シンがその軌道をユノに伝え、弟からの言葉にすぐに反応したアビスが見えないはずのテスタメントを捉えビームランスを振り回し左足を切り落とした。
「ぐっ……! 予備のパーツ……クライン……ジャンク屋……! チ、チガウ!」
本来狙われることのないテスタメント。
亡霊のモビルスーツを捉える姉弟の連携に、機体を傷つけられたことで、スカウト0984の中に既に存在を抹消されたはずの記憶が過り、激しい頭痛が襲いかかった。
「ガイ……ヤツを……! ……カオスも、離脱、確認。撤収開始、援護を要請」
既にカオスとアウルのザクもこの混乱に乗じてコロニーの外へと逃げ出して行った。
そのことを確認したことで殿の任務を達成したことを確認したテスタメントは、アビスの破壊を諦め踵を返して離脱をはかる。
「逃がすか!」
「────ッ!」
テスタメントが離脱しようとする光景に、シンはすぐに追撃を仕掛けようとするが、すでにコアスプレンダーのミサイルの残弾はゼロ。
さらにコアスプレンダーが追ってこようとしてきた姿に、姿の見えないはずのアビスがテスタメントを捉えたカラクリを察したスカウト0984がトリケロス改のビーム砲をコアスプレンダーに向けてきた。
「しまっ──」
「シン!」
シンの言葉とコアスプレンダーの動きから、見えない敵が撤退しようとしてそれをシンがコアスプレンダーで追撃しようとしていることを察知したユノが、すぐにアビスでコアスプレンダーの前に出てテスタメントの攻撃を防ぐ。
「姉さん!」
「僕の弟に傷をつけようとはどういう了見だ!」
アビスが庇ったおかげで命拾いしたシンだが、そのアビスが盾としてでてきてコアスプレンダーの視界を一瞬遮った隙にテスタメントは離脱しており、コロニーの外に通じる穴に向かって飛行している。
一方、カオスに代わるようにコロニー内に入ってきたモビルスーツがテスタメントに入れ替わりコアスプレンダーに向けて攻盾システム“シルトゲヴェール”のビームを撃ちながら襲来してきた。
「姉さん、ヤツが──」
「下がってシン! あいつ、コアスプレンダーを狙ってる!」
新手として降りてきたザフトにとって未知のモビルスーツであるNダガーNは、アビスの目となりテスタメントを追うコアスプレンダーに狙いを定めている。
このままではガイアとカオスだけでなくテスタメントも逃してしまうと、NダガーNの攻撃を掻い潜り追撃しようとしたシンだが、NダガーNは執拗にコアスプレンダーを狙って攻撃を仕掛けてきた。
そうはいくかとアビスのビームシールドを駆使してNダガーNの攻撃からコアスプレンダーを守るユノ。
ミサイルも尽きたコアスプレンダーでは厳しいと、ユノはシンに下がるように言うが、テスタメントだけは逃がすわけにはいかないとシンは離脱しようとする亡霊のモビルスーツに向かって加速した。
「待て!」
「ダメ、シン! もう1機いる!」
「!?」
テスタメントを追おうとするシンだが、姿を見せてコロニーに入ってきたNダガーNとともにミラージュコロイド・ステルスで姿を隠しつつ侵入してきたもう1機がいた。
テスタメントを追撃してくるコアスプレンダーを落とすため、先に侵入したNダガーNがアビスを抑える間に追撃してくるコアスプレンダーを狙っている姿が、わずかに揺らぐ空の様子を見ていたユノがその存在を察知していた。
ユノの言葉に、シンは咄嗟にコアスプレンダーを旋回させる。
直後、直進した場合は確実に直撃していただろうコースにシルトゲヴェールのビームが走った。
「クソッ、もう1機……!」
ミラージュコロイド・ステルスを解除して姿を現したNダガーNに、ミサイルの残弾も無くなっているシンはテスタメントの追撃を切り上げ逃げるしかない。
コアスプレンダーを追うNダガーNが、ビームを発射してくる。
すると今度はコアスプレンダーを守るようにNダガーNの背後からさらにビームが飛んできた。
「シン!」
「レイ! ルナも!」
「よくも舐めた真似を!」
援軍に来た2機のザク。
シンの同期であるレイとルナマリアの赤と白のザクである。
さらにミネルバから飛ばされたシルエットフライヤーとチェストフライヤー、一度分離したレッグフライヤーも到着し、シンはインパルスに合体するべく一度コアスプレンダーを離脱させた。
「レイ、ルナ、姉さん、そっちは任せた! 俺は盗まれた機体を──!」
「待てシン、単独で動くな!」
各部のパーツを合体させ、機動性に優れるフォースインパルスを形成。
再びインパルスに合体した機体にて、シンはレイ達にNダガーNの対応を任せると、カオスやテスタメントを追うべく破壊された外壁の穴へと飛んでいく。
レイが呼び止めるも、シンは単機で打って出て行った。
「シン! ルナマリア、シンを追うぞ」
「でもこいつは──」
「それはこちらに任せておけ!」
フォースインパルスで単独の追撃を敢行しようとするシンを1人にするのは危険すぎると判断し、レイはルナマリアとともにインパルスに追随する。
ルナマリアはNダガーNはどうするのかとレイに訊くと、2機のザクを追いかけようとするそのNダガーNに多数のミサイルが直撃した。
「この機体は宇宙までいかないからな、頼むぞ!」
レイ達を撃とうとしたNダガーNに、さらに増援として駆けつけたガズウートやディンなどからなる部隊が数の優勢を持って攻撃を仕掛ける。
それに抑えられ、NダガーNはレイ達の追撃を中止せざるを得なくなり、背中を狙う敵がなくなった。
「こいつらはこっちで受け持つ! 2人はシンについてあげて!」
もう1機のNダガーNと戦闘を繰り広げるアビスの方からも、2人にシンについてほしいとユノから通信が入る。
目的は新型機の強奪の阻止。カオスとガイアを奪還するのが目的だが、敵が待ち伏せなどを仕掛けていればインパルスまでやられる危険が高くなる。
「お願いします。行くぞ」
「ええ!」
レイとルナマリアは他の部隊にNダガーNを任せると、セカンドステージシリーズとも十分に対抗可能なニューミレニアムシリーズの機体を駆使して、インパルスを追ってコロニーの外壁の穴に向かって飛んでいく。
だが、その途中でルナマリアのザクが先ほど瓦礫に潰された時に故障したのか、突然メインスラスターが停止して推力を失い、高度が落ちていった。
「……ええ!?」
仲間達に託されておきながらこれはないだろうと、突然の故障に困惑しながら降りていくしかなくなるルナマリア。
その姿にこれは何をいっても慰めにならないだろうと何も言えなくなったレイは、自分だけでもシンの元に向かおうとルナマリアを置いてザクを宇宙へと飛び出させた。
一方、テスタメントの援護によりカオスとガイアの離脱を許したミネルバでは、進水式を翌日に控えているがガイアとカオス奪還及び敵母艦の撃破のためにドックから出撃することをタリアが決断し出航準備に取り掛かっている。
その最中、ミネルバに乗艦したデュランダルの姿を見てこの艦が安全と判断したアレックスにより、片腕を喪失したザクがその甲板に降りてきていた。
次回の投稿ですが、5月下旬を予定しています。