雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第十話 尾刈斗の呪い

「えー、僕また控え? あれだけ練習頑張ったのに……酷いと思うなぁ」

 

「逃げ出したくせに何言ってるんだか。それにフォワード四人がスタメンってのは、さすがにバランス悪すぎでしょ」

 

「そうですよ。それに控えだって、万一の時には必要になる重要な存在……ですよね、キャプテン!」

 

「ああ、頼むぞ宍戸。目金も、準備だけはしておいてくれよ? なにせ相手は呪われるって噂のチーム……何が起こるかかわからないからな!」

 

 と、控えスタートに文句を言う目金さんを、マックスさんと、同じく控えの宍戸さんと円堂さんが宥めている間に、雷門と尾刈斗の両チームのポジショニングが終わりました。

 前回と違って本来のフォワードポジションで、チームの最前線に私含めて三人、左から順に私、染岡さん、豪炎寺さんで並ぶ陣形。どうせなら隣は豪炎寺さんの方がやりやすかったと思いますが、しかし今更言っても仕方がないことでしょう。

 

 それよりも対峙する相手選手、目の模様の眼帯やらマスクやらお札やらとオカルト感満載の彼らから意味ありげな視線を向けられるせいで、なんとなく気分が落ち着きません。

 

「……もしかして呪いってこういうことだったりしませんよね?」

 

「ああ? 何言ってんだお前」

 

 いえまあもちろんわかってます。それに彼らの見た目や雰囲気がちょっとだけ不気味だろうが、今の皆さんはやる気十分。壁山さんでもビビったりはしないでしょう。

 染岡さんにももはや臆するという感情自体がないようで、私の言葉に怪訝な顔をすると、続いて切り替わり、そこに好戦的な眼光が加わりました。

 

「そんなことより、言ったこと忘れてねぇだろうな? ……完成した俺の必殺シュート、この試合で見せてやる。だから今日のボールは全部俺に回せ!」

 

「はいはいわかってますってば。そんなに心配しなくても今日の試合は譲ってあげちゃいます。うまくいってる限りは、ちゃんとパスしてあげちゃいますから。ね、豪炎寺さん」

 

「……まあ、な」

 

 さっき話していた時と違ってなんとなく歯切れが悪いですが、しかしともかく同意を得た染岡さんは幾らか機嫌がよくなったようです。怒り狂った狂犬みたいなその顔が、闘犬くらいにはマシな感じになりました。

 今日、私と豪炎寺さんの出番が訪れるのは、この顔が負け犬になった時です。自信満々の必殺シュートが如何ほどのものなのかわかるまで、染岡さんに華を持たせてあげるとしましょう。

 そんな思惑と共に、審判が試合開始の笛を吹きました。

 

 ボールは相手側からです。一度ミッドフィールダーにボールを預けてパスを回しつつジリジリ攻める、オーソドックスな立ち上がり。付き合ってこちらもゆっくりしてあげてもいいですが、しかし見やれば染岡さんはもうすでに前へ走って行ってしまっています。

 なら仕方ありません。

 

「ボール、貰っちゃいますね……っと!」

 

「なにっ!?」

 

 軽くダッシュしてパスカット。監督さんが見たという帝国との試合ではあまり走ることもありませんでしたし、私の足の速さは把握していなかったんでしょう。あっさり奪うことに成功し、そのままドリブルで持ち込みます。

 がしかし、それでも尾刈斗が私と、そして豪炎寺さんを警戒しているのは事実。抜いてもすぐにディフェンスが集まって、前を塞がれてしまいます。右を眼をやれば豪炎寺さんもマークされていますし、彼にパスもできません。

 

「まだ試合は始まったばかり……そう簡単にシュートは打たせん……」

 

「そうですか。じゃあ、別にいいです」

 

 しかし私と豪炎寺さんに警戒が集中した分、染岡さんは完全フリー。敵ゴール前までたどり着いた彼へのパスは、私が最初からそれを狙って動いたこともあって簡単に通りました。

 

「いいぞ米田! さあ、ようやくお披露目だぜ!!」

 

「クク……無駄だ、お前程度――!?」

 

 私と豪炎寺さん以外に大した選手はいないと余裕綽々であった監督さん。その指揮を受けたホッケーマスクのキーパーさんも、相対した染岡さんに対して全く歯牙にもかけずといったふうでしたが、しかしそれ一瞬のこと。

 染岡さんが高く足を振り上げ、同時に高まる“力”を正面から浴びた彼の顔からは、マスク越しにもかかわらず明らかな驚愕が見えていました。

 

「くらえぇッ!! 【ドラゴンクラッシュ】!!」

 

 青いドラゴンの突進。染岡さんの必殺シュートはその威力をいかんなく発揮して、キーパーさんを弾き飛ばしてゴールに突き刺さりました。

 

 得点の笛が鳴り、スコアボードに記録される先制点。試合開始から僅かな間での出来事に、尾刈斗からは驚愕と戦慄、そして雷門からは大きな歓声が沸きました。

 

「やった……やったな染岡!! あれがお前のシュートなのか!!」

 

「【ドラゴンクラッシュ】……すごいシュートじゃないか、染岡!!」

 

「まさかこんなに早く先制できるなんて、夢みたいです!!」

 

 半田さんを始め、風丸さんや少林さん、皆さん集まってきました。四方から褒め称えられて染岡さんも鼻高々であるらしく、珍しい笑顔までが浮かんでいます。

 と思えばその笑顔はすぐ得意げを残して消えて、さらに私と豪炎寺さんへと向きました。

 

「見たか! 米田、豪炎寺!! これが俺の必殺シュート、【ドラゴンクラッシュ】だ!!」

 

「まあ、思ってたよりはいいシュートだと思いますよ。うん、すごいすごい」

 

「へっ、これで俺はお前らなんかに負けてねぇストライカーに……いや、俺こそが雷門のエースストライカーだッ!!」

 

「……ああ、そうだな」

 

 適当なおだてでも満足するくらいにはテンションが上がってしまっているらしく、さすがの豪炎寺さんもこれには何とも言えなさそうな表情。しかし実際、どうであれ称賛に値するシュートではあるでしょう。数日でものにしたにしては素晴らしい威力です。

 

「よくやったぞ染岡!! 練習の成果、バッチリ出てたぜ!!」

 

 と、遅れて円堂さんまでもが喜びの輪に加わって、次いで拳を高らかに突き上げ、

 

「さあみんな、この調子でガンガン点取ってくぞ!!」

 

 皆さんも、ほとんど勝鬨のようにそれに応じて拳を上げました。

 私も豪炎寺さんも、それに続きました。皆さんのように楽観的ではありませんが、しかし確かに今の攻撃で測れる相手の実力からすれば、負ける要素はないように思えたのです。

 同時に私たちの出番はないだろうという、ほとんど確信。皆さんの動きが士気向上で悪くないのも鑑みて、この試合は染岡さんたちだけでも勝てるだろうと、そう思ったのでした。

 が、しかし。

 

「……なるほど確かに、どうやら私たちは雷門サッカー部を少しばかり甘く見過ぎていたようですねぇ。口だけだと思っていましたが、まさか豪炎寺くんと米田くん以外にあんなストライカーがいるとは」

 

「監督……では、もう始めるんですか?」

 

「ええ、少しばかり早いですが――てめぇら!! 奴らに地獄を見せてやれ!!」

 

 眼帯の、恐らくキャプテンであろう尾刈斗選手に応え、試合再開と同時、温和な雰囲気から唐突に豹変した監督さんの一声によって試合の展開が変わり始めました。

 

 ボールが蹴り出され、再び後ろへ。また同じ作戦かと思い追いかけますが、ボールはさらに下がって相手のディフェンスライン。そこで無駄にボールを動かし、まるで時間稼ぎか、あるいは何かのタイミングでも見極めようとしているかのようなプレーを始めます。

 

「なんだあいつら……? 監督も米田みたいに性格変わりやがったし……まさかイカレちまったんじゃないだろうな?」

 

「私みたいにって、ちょっと酷いです。私はあんな品のない感じじゃないですし、おかしくなったりもしてませんもん。それより……マックスさん、半田さん、少林さん、上がって圧かけちゃって!」

 

 染岡さんの不審がどうであれ、下がるのなら攻めるチャンスです。指示を出し、前線を上げさせます。

 その結果、想像通りに敵はディフェンス間で細かなパスを繰り返す以外に身動きが取れず、そこに染岡さんが突っ込むこととなりました。

 

「行け、染岡!!」

 

「言われるまでもねぇ!! ボール奪って、もう一点だ!!」

 

 豪炎寺さんの声にも応え、染岡さんが強烈なタックルを相手にくらわせる。そしてその後の得点まで問題なく決まるだろうと、抱いた確信からもそう思った、その瞬間でした。

 

「うおおおォォッ!!」

 

「えっ――!!?」

 

 敵ディフェンダーへ向かって行った染岡さんが、突然急カーブして私めがけてタックルしてきたのです。

 意味不明、且つ突然のことだったので私も反応が間に合わず、避けきれませんでした。

 

「きゃぁっ!!」

 

「うお――!!?」

 

 激突し、押し倒されてしまいました。寸前染岡さんも私に気付いたのか身を捻ってくれたおかげもあり、お互いに怪我はありませんでしたがしかし、あまりにびっくりです。

 そしてそれは、染岡さんの方も同じであるようでした。

 

「もう! なんなんですかいきなり! 味方に体当たりって、頭がどうかしちゃったの!?」

 

「はぁ!? 何言ってやがる、お前が俺にタックルかましてきたんだろ!? そっちこそどういうつもりだ!?」

 

 言い合って、一瞬後に熱が引き、お互いの頭に浮かぶハテナマーク。何か色々とかみ合っていない気がします。

 私の視点では染岡さんがUターンしてきて、染岡さんの視点では私が一直線に体当たり。普通に考えれば染岡さんが減刑のために嘘八百を並べていると考える場面ですが、しかしさすがにそんなセコい真似をする人ではないはずです。

 

「落ち着け二人とも! 俺の目には二人とも様子がおかしかったように見えた。 尾刈斗の奴ら、何か妙だぞ……!」

 

「妙、だと……?」

 

 眉を寄せる染岡さんに豪炎寺さんが黙って視線を動かして、そして私たちもそれを追うと、そこには彼の言った通りの光景がありました。

 

「な、何やってるのさ、半田、少林!?」

 

「あ、あれ!?」

 

「なんで……!?」

 

 驚愕するマックスさんの目の前で、敵オフェンスのマークをしているはずの半田さんと少林さんが、お互いにお互いを妨害し合っていたのです。そして寸前まで、彼らは自分のしていることに気付いていなかったようでした。豪炎寺さんが見たという、私と染岡さんのように。

 そしていつの間にかボールは雷門陣地側。仲間割れ状態となったその守備はもちろん易々突破されていて、ドリブルする尾刈斗選手たちはちょうどその時、以前の私の指示で癖でも付いたのか、少しばかり前に出ていたディフェンスの壁山さんの前でした。

 

「とっ、ととと、通さないッスよぉ!」

 

「クク……通すことになるさ。なにせお前は……もう呪われている!」

 

「ひ、ひぃっ! 呪い――って、え……?」

 

 尾刈斗選手は壁山さんに、なんとボールを抛りました。帝国のような攻撃でもなく、単なる敵へのパス。私たちの行動のせいかすっかり元のビビリに戻ってしまった壁山さんでしたが、しかしこの理解不能な行為に恐怖ごと思考が止まってしまったようです。

 しかし円堂さんの一声が響き、彼を再び動かします。

 

「壁山!! よくわからないけどチャンスだ!! 風丸にボールを回せ!!」

 

「こっちだ壁山!」

 

「きゃ、キャプテン、風丸さん……! は、はい――ッス……?」

 

 が、風丸さんの方を向いたところで足を動かすこともなくまたもその動きが固まって、直後、

 

「ぎ、ぎゃあああぁぁぁっっ!! お、俺が、もう一人――ひゅぅ……」

 

 絶叫し、そのまま気を失って倒れてしまいました。

 

「か、壁山!?」

 

「ど、どうなってんだよ、おい……!」

 

「ふふふ……【ドッペルゲンガー】、見たのかな……?」

 

 ドッペルゲンガー。確か自身と同じ姿をしていて、それを見てしまった人は死んでしまうとかいう怪談であったはずです。まさか壁山さんが本当に死んでしまったとは思いませんが、あり得ない状況であることには違いありません。

 他のディフェンスの皆さんも完全に委縮してしまったようですが、そんな彼らにも“呪い”は牙を剥きました。

 

「次はお前たちだ。【ゴーストロック】!!」

 

「うわっ、こ、今度は何だ!?」

 

「足が……!」

 

「う、動かないでやんす……!?」

 

 なんと今度は皆さん動けなくなってしまった様子。そんな状態ではもちろんディフェンスなどできるはずもなく、

 

「とどめだ! 【ファントムシュート】!!」

 

「く、くそぉ……!!」

 

 円堂さんも、せっかくマスターした【ゴッドハンド】を使うこともできません。ヒールリフトからのボレーシュートでいくつもの影に分身したボールが、あっけなくゴールに入ってしまいました。

 

「……ほんとに、おかしなことになっちゃってますねぇ」

 

 得点を知らせる審判と、今回もいる実況の方の声の中、半ば呆然と呟きます。我が身にも起こったことながら、傍から見てもさっぱり理屈がわかりません。必殺技の域すら超えている気がします。

 未知、それ故の困惑と恐怖。対抗できなかったことでさらに動揺は強まって、皆さんを呑み込んでしまったようでした。

 

「い、いったい何が起きたんですか……? まさか、これが噂の呪い……!?」

 

「バカ言ってんじゃねぇ! あるかよそんなオカルト話!」

 

 怯える少林さんに吠えるような否定を言う染岡さんですが、しかし動揺は隠しきれていません。無駄に大声なのがその証拠です。

 気絶してしまった壁山さんのこともあって不安が皆さんに伝播していき、重くなってしまう空気。ですがその壁山さんの巨体を苦労してベンチへと運んでいった円堂さんが、さっそく出番となった宍戸さんと共に出てきて、皆さんの士気を取り戻そうと声を上げました。

 

「染岡の言う通りだ。みんな何をビビってるんだよ、呪いなんてあるわけないだろ? ……さっきのだってきっと、何か仕掛けがあるんだ。まずは相手の動きをよく見て、落ち着いて対処していこう!」

 

「……ああ、その通りだ! たかが一点入れられただけ……俺が二点目入れりゃあ全部帳消しだ! 行くぞお前ら!」

 

 円堂さんが特別なのか、それとも染岡さんがチョロいのか。少なくともこの場合は後者でしょうが、とにかく元気を取り戻した染岡さんはフォワードポジションへと戻っていきました。他の皆さんも試合中にこれ以上駄弁るわけにもいかず、若干不安を引きずったまま各々のポジションへ。私と豪炎寺さんも、染岡さんの後に続きました。

 

 そうして再び笛が鳴り、私へボールが回ってきます。よこした染岡さんの眼はさっきと同様のタイミングでのパスを求めてギラついており、たぶん無視したらさっきの倍の怒声が私へ向いてしまうでしょう。

 やかましいのは勘弁です。“呪い”のせいで少しばかり嫌な予感はありましたが、呑み込んでもう一度同じように敵陣を突破して、染岡さんへとパスを送りました。

 特に何もなく繋がり、染岡さんの宣言通り追加点かと思われたのですが、

 

「行けッ!! 【ドラゴンクラッシュ】!!」

 

 しかしやっぱり、私の嫌な予感は的中しました。

 

「ククク……【ゆがむ空間】……!!」

 

「なッ……!?」

 

 打ち放った染岡さんの必殺シュートは、何やらうにょうにょと、これまた変な動きで動かす敵キーパーの手の中に、まるで吸い込まれるようにして収まってしまったのです。

 染岡さんが驚くのも当然でしょう。とても【ドラゴンクラッシュ】の威力に対抗なんてできなさそうなキャッチングでした。がしかし、事実としてシュートは、しかもあっさりと止められています。

 理屈に合いません。つまり――

 

「“呪い”、か……!!」

 

 歯を噛む豪炎寺さんの呟きと共に、やはりまた尾刈斗の攻勢が始まりました。しかも今度は最初から、

 

「【ゴーストロック】!!」

 

「うおっ!? こ、これは……!?」

 

 私たち全員へ、一度に“呪い”が振り撒かれてしまったようです。

 

「わあ、ほんとに動けなくなっちゃってますよ。すごいですね、これ」

 

「呑気に言ってる場合かよッ! くそ、これじゃどうしようも……!」

 

 足が地面にぴったりくっついてしまったみたいな新感覚でちょっとだけ感動してしまいましたが、しかし半田さんの言う通り、これではどうしようもありません。攻めるも守るもできず、ただ悠然とドリブルで進む尾刈斗選手たちを見送ることしかできません。

 ディフェンスもそれは同様。つまり予期した通りさっきと同じ展開で、やっぱりその後、審判と実況の方のゴール宣言が響き渡りました。

 逆転されて1-2。鳴り響く笛と実況の大声。同時に“呪い”も消えたようで足が自由になりますが、皆さんもはや膝を突くことしかできない様子。一気にいつかの帝国戦のような絶望感が漂い始めます。

 

「やっぱり呪いだ……俺たち呪われちゃったんですよ……!」

 

「ど、どうしよう……お祓いとか行ったほうが……」

 

「ふざけんなよ……俺は、俺のシュートが、決まらないはずはねぇんだ!!」

 

 しかし今回の場合、染岡さんの怒声がそれを押し流してしまいました。

 怒りの矛先は不甲斐ない自分でしょう。まるで言い聞かせるように叫びます。

 

「次は……次は必ず決める!! 米田、もう一回だ!!」

 

「……もう、ムキになっちゃって」

 

 あまりの気迫は皆さん黙りこんでしまうほどで、二重の意味で呆れてしまいます。皆さんを委縮させてしまう染岡さんもそうですが、なによりそれで委縮してしまう皆さんに。

 

「ああ……そうだな! 俺も次は、絶対止めてみせる!」

 

 円堂さんだけは平常運転ですが、その声もやはり無理矢理引き出した空元気にしか聞こえません。いずれにせよ、同じことを繰り返しても事態は良くならないでしょう。

 故に私は再びのキックオフでボールを受け取ると、やはり不気味なほどおかしな動きしかしてこないディフェンスを抜き、そこで方針を変えました。

 

「お手並み拝見です。豪炎寺さん!」

 

「っ……!」

 

 染岡さんではなく、豪炎寺さんにパスを出しました。

 

「なッ……!? 米田! 俺に寄こす約束だろ!?」

 

「染岡さんのシュートが通用する内は、ですよ! 止められちゃったなら選手交代です!」

 

 それにこれくらいのディフェンスであるなら、警戒されていても豪炎寺さんなら突破も可能でしょう。そう思った故のパスで、実際思った通り豪炎寺さんは見事に尾刈斗選手を抜き去って、キーパーの正面までたどり着きました。

 

「よし、行け豪炎寺!! 【ファイアトルネード】だ!!」

 

「そうだ、豪炎寺さんなら……!」

 

 遥か後ろから円堂さんの声援までが聞こえてきました。他の皆さんも期待するところは同じでしょう。染岡さんのシュートはダメでも豪炎寺さんなら、という。

 現金な限りですが順当な想いです。しかし――

 

「……豪炎寺さん……?」

 

 ボールを持ってキーパーの正面に立ったまま、豪炎寺さんはなぜかシュートを打とうとしませんでした。また同じように手を動かし構えているキーパーをじっと見つめるばかりです。

 その明らかな“呪い”を観察しているのでしょうか。しかしそんなことには気付けないほど、染岡さんは頭に血を上らせていました。

 

「寄こせ豪炎寺!! 打たないのなら、俺が打つ!!」

 

「っく……! やめろ染岡!! 確かめたいことがあるんだ!!」

 

「うるせぇッ!!」

 

 必死に奪われまいとした豪炎寺さんですが、しかしもはや豪炎寺さんも敵とみてしまっている様子な染岡さんは止まらず、ボールを奪い、三度足を大きく振り上げました。

 

「【ドラゴンクラッシュ】ッ!!」

 

 その末路は想像通り。

 

「【ゆがむ空間】……!! ククク……何度打っても、そのシュートは俺には無力……!」

 

「そん、な……っ!」

 

 止められてしまって、そこからの展開すら全く同じ。“呪い”で足を止められて、三点目を入れられると共に前半終了の笛が鳴りました。

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