雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第十一話 本気のサッカー

「帝国戦と同じく、また皆さんヘロヘロになっちゃいましたねぇ。今度は精神的にですけど」

 

「……無理もないわ。だって呪いなんて、どう対処したらいいかわからないもの」

 

 と、秋さんが思わずため息をついてしまうほど、ベンチはどんよりしてしまっていました。

 立て続けの三点、しかもその原因が正体不明の“呪い”とあって、恐怖と無力感が皆さんを襲っているのでしょう。プレー内容で負けたのならまだ奮い立つ余地があるでしょうが、オカルトが相手では対策も何もなく、“どうしようもない”のです。

 手立てがなく、円堂さんですら思い詰めた表情になってしまうほど。しかしとはいえ他の皆さんよりは復活も早く、彼は私が向けた話題にはすぐ食いついてきました。

 

「それで、豪炎寺さん。さっき『確かめたいことがある』って言っちゃってたの、あれ何です?」

 

「っ! そうだよ豪炎寺! なんであの時【ファイアトルネード】を打ちにいかなかったんだ?」

 

「……少し気になることがあったんだ」

 

 いきなり話を振られて少しばかり面食らったようですが、豪炎寺さん神妙なふうに頷き、思考に沈んでいたその眼を私たちへと向けました。

 

「“呪い”が起こり始めたのは、最初に染岡がゴールを決めてからだろう? あの後……ベータ、お前は気付かなかったのか? 尾刈斗の監督がベンチで何かぶつぶつと呟いていた。まるで呪文でも唱えているかのように」

 

「また“ベータ”って……もう。……それでええっと、監督さんですか? 聞こえてたかもしれませんけど、気にしてませんでしたねぇ。ベンチのことなんて普通意識しませんし」

 

「……いや、そういえば聞こえた。『マーレマーレ……』だとかなんとか。そっから先は……どうだったかな、わからないけど」

 

「言われてみれば確かに、俺たちもそんな音聞こえたような……」

 

「へぇ、耳がいいんですね円堂さんも皆さんも」

 

 というか、よく意識できるな、という感じです。よほどの集中力、試合に賭ける思いがなければ、聞こえたとしても認識できはしないでしょう。常に全方位に意識のアンテナを張るなんて、とても疲れることなのですから。少なくとも、私にはそんな疲れることをする気は起こりませんでした。

 

「でも、それってほんとに呪文みたい。いよいよ呪いって感じがしちゃいません?」

 

「うっ……た、確かに」

 

 そうして聞こえたものが呪いの噂に対する補強なのが皮肉ですが、しかし豪炎寺さんの“気付き”はまだあるようで、円堂さんのような気まずげな同意ではなく、さらに私へ向く眼光までもがなぜだか鋭くなっていました。

 

「……他にも、例えば奴らの陣形だ。最初と違ってフォーメーションをやたらと頻繁に変えていただろう。そのせいでディフェンスも中途半端になっていたから、ベータ、お前も突破がしやすかったんじゃないか? ……その様子では、これも気にしていなかったみたいだが」

 

「むぅ……だって、弱い敵がさらに弱くなったって、そんなの気にならないんだもん。どっちにしろ簡単に抜けちゃうんですから、意識なんて向きません。

 っていうか、それを言うなら染岡さんのシュートはどうなんでしょう。最初は入ったのに、どうして入らなくなっちゃったんでしょうね。これも本当に呪いなのか、それとももしかして、一発でもうガス欠しちゃったりしたんですか?」

 

「ああ!? そんなわけあるか!! 全部全力で蹴ったに……くッ……決まってるだろ……!!」

 

 責められているみたいな感じが嫌で染岡さんに受け流すと、噴火した怒りが途中で尻すぼみになってしまいました。全部全力で蹴って、それで止められたと自白させられたのですからそれも当然。

 なら煽り文句は一つだけです。

 

「じゃあやっぱり、染岡さんのシュートは尾刈斗キーパーさんに通用しないってことじゃないですか。……わかっちゃってるなら、もうボール要求したりしないですよね。エースストライカーも引退しちゃいます?」

 

「……ッッ!!」

 

「おいやめろってベータ! 染岡も、落ち着け!」

 

 と円堂さんが止めに入ったその瞬間、審判から後半戦開始の声が届きました。作戦会議も中途半端で終了せざるを得ず、私も腰かけていたベンチから腰を上げます。

 

「まあ、後はなるようになるでしょう。もしかしたら染岡さんのシュートじゃだめでも豪炎寺さんのなら入るかもしれませんし」

 

「ッ!! そんなことは……!!」

 

「……結局、こうなったら試合の中で試すしかないな。シュートも“呪い”も、俺たちの全部でぶつかって答えを見つけ出すんだ! 頼むぞ、ベータも」

 

 歯を噛み砕かんばかりに食いしばって怒声を堪える染岡さんを心配そうに見やりつつ、円堂さんは次いでそれを私へと向けました。

 

 二度目の、その言葉。

 

「……はい、任されちゃいました」

 

 いつかに感じたモヤモヤの感覚が燻ったように感じましたが、呑み込み、私はしっかり頷きました。

 

 

 

 

 

 後半戦の笛が鳴り、今度は私たちのボールからスタート。ずっとしかめっ面な染岡さんから同じようにボールをパスされて、そのまま敵陣へと持っていきます。

 しかし今度のパス先は染岡さんでなく豪炎寺さん。相変わらず立ち上がりすぐには呪いもなく、さらに今までずっと染岡さんがシュートしてきたせいか豪炎寺さんのマークも薄め。これならシュートまでは持っていけるはずです。

 

「ほら、邪魔ですよ……っと!」

 

「くっ……くそ、何度も何度も……!」

 

 悪態をつく尾刈斗選手をまたあっさり追い抜いて、その先は豪炎寺さんの言っていた通り、フォーメーションがごちゃごちゃでした。確かに眼が回ってしまいそうなせわしなさですが、おかげで突破もパスも自由自在。

 

「よし、行きますよ豪炎寺さん!」

 

 目配せもして蹴り出そうとした、その瞬間でした。

 

「おい米田!! 俺に寄こせッ!!」

 

「きゃっ……! 染岡さん!?」

 

 豪炎寺さんへのパスコースを塞ぐように、染岡さんがなんと身体を寄せてきたのです。

 明らかに私からボールを奪おうとする動き。抵抗しつつ、たまらず声を上げます。

 

「ちょっと染岡さん! また“呪い”かけられちゃってますよ! 私は味方です!」

 

「呪いなんてかかってねぇ!! いいから黙ってボールを渡せ!!」

 

「は、はい!?」

 

 訳が分かりません。“呪い”じゃないというのなら、なぜ染岡さんは私を攻撃するんでしょう。状況をわかっていないんでしょうか。

 

「……まさか、まだ自分がシュートを打つとか言っちゃったりしないですよね? 【ドラゴンクラッシュ】じゃあのキーパーさんを破れないことはもうわかったはずでしょ?」

 

「うるせぇッ!! 俺は……俺のシュートが、通用しないはずがねぇんだッ!!」

 

「もう……。変なプライドはいい加減にしちゃってください。染岡さんがストライカーに拘ることに意味なんてないんだって、いつになったら理解してくれちゃうんです?」

 

 だからそうやって馬鹿みたいに必死になるのをやめて、私に任せていればいい。改めてそう言うも、しかしそれでも染岡さんは妨害をやめようとはしませんでした。むしろより苛烈になって、もうほとんど“呪い”の時と同じタックルです。

 

「意味、がッ……!! ぐ、うおおおォォォッッ!!」

 

「きゃあっ!」

 

 味方相手に激しく競り合うわけにもいかず、とうとう突き飛ばされてボールを奪われてしまいました。

 そしてそのままゴール前。馬鹿の一つ覚えみたいに大きく足を振り上げて、打ちました。

 

「【ドラゴンクラッシュ】ッッ!!」

 

「何度やっても無駄だ……! 【ゆがむ空間】!!」

 

 そしてやっぱりキーパーさんの手の中に吸い込まれ、止められてしまいました。

 自明の理、わかりきっていた結果。信じられないと言わんばかりにがっくり膝を突く染岡さん、思わずため息が出てしまいます。

 

「ほら、言わんこっちゃない……。シュートが通じなくて悔しいのはわかりますけど、もうそろそろ諦めてくれないと困っちゃいます。このままじゃ勝てなくなっちゃいますよ?」

 

「く……だが、俺はゴールを決めるために必殺シュートを完成させたんだ……! お前なんかに任せて、諦められるか……!」

 

「もう、だから――」

 

 と、もう駄々っ子みたいになってしまった染岡さんに呆れかえって首を振った、その時でした。

 

「その通りだ」

 

 自分がシュートするはずだったボールを奪われ怒り心頭の豪炎寺さん――ではなく、

 

「ベータ、お前、そろそろ本気でプレーしたらどうだ」

 

「ええ……?」

 

 なぜだか私に怒っている豪炎寺さんがそこにいました。

 

「そこは染岡さんに怒るとこだと思うんですけど。私のヘマじゃなくって、無理矢理ボール奪ってきちゃったのは染岡さんですよ?」

 

「なぜ染岡がそんなことをしたのか、わかっているのかと聞いているんだ」

 

「“なぜ”? そんなの、意地張っちゃって自分が役立たずだってことを認められていない意外に何かあります? ねえ、染岡さん?」

 

「やく、たたず……だと……!?」

 

 ああいけない、豪炎寺さんに理不尽に怒られたせいで思わずオブラートが抜けてしまいました。

 申し訳ないとは思いましたが、しかしこうなればもう止まれません。ため息交じりに、私は染岡さんへと言いました。

 

「染岡さん、いい機会だからはっきり言っちゃいますけど、私と、それから豪炎寺さんはあなたよりもずっと強いんです。必殺技を習得したのはすごいとは思いますけど、だからといって私たちと同じくらい強くなれたってことじゃない。その程度で縮まる()じゃないんです」

 

「……だから……なんだってんだ……ッ!」

 

「『なんだってんだ』って……それ、こっちのセリフです。()が理解できているのなら、どうしてそれを認めようとしないんです? どうして私に任せてくれないんです? (米田)に任せれば、少なくとも染岡さん(自分)がやるよりは勝てるかもしれないってわかってるんでしょう? ならどうしてそうしないんですか?」

 

 純粋に理解ができない部分が、それです。そしてそれは、豪炎寺さんの言う“本気ではないプレー”なのではないでしょうか。何しろ彼は悪戯に、勝利の可能性を潰しているのですから。

 

 確かに、最初にそれを許したのは私です。この試合、やる気満々な染岡さんに花を持たせてあげると言いはしましたが、しかしそれだって“うまくいってる限り”の制限付き。実際、負け越した時点で私は染岡さんに試合を任せるのをやめました。

 チームの皆さんを勝たせてあげるために、ちゃんと勝とうとしたのです。そしてそれを潰したのは、染岡さん。誰が怒られるべきなのか、“本気でプレーしてない”のは誰なのかなんて、そんなの一目瞭然でしょう。

 

「染岡さんが我が儘ばっかりしてるから、今わたしたち、負けちゃってるんです。私、何かおかしなこと言っちゃってますか?」

 

 言っていないはずです。しかし、豪炎寺さんは私の視線をまっすぐ受け止め、言いました。

 

「あの時、お前が俺に見せてくれたサッカーはそうじゃないだろう」

 

 否定の言葉。そして『あの時』とは、たぶん帝国戦の時の最後のプレーのことです。

 あのプレーが、いったいなんだというんでしょう。理解できない豪炎寺さんの迫力に、思わず一歩後ずさってしまいます。

 しかし豪炎寺さんの視線は私を捉えたまま逃がす気はなく、言葉を続けました。

 

「この試合のお前は、あの時のお前とまるで違う。だから染岡もお前にボールを託すことができないんだ。……尾刈斗の奴らの動きや呪文に気付かなかったのもそうだ。ベータ、お前はこの試合、“本気”でプレーしていない。戦略の話ではなく、心意気の話だ」

 

「……心意気? 私が試合に勝とうとしていないとでも言っちゃいたいんですか? さっきも言ったように、染岡さんさえ邪魔しなければ――」

 

「違う。お前がこの試合をどう捉えているかということだ。みんなにとってこの試合は、己の全てを出し尽くさなければ勝利できない、全身全霊をかけた戦い(・・)だが、しかしお前にとってはどうだ?」

 

「『どう』って……」

 

「遊びも同然なんじゃないのか? いざとなれば自分一人の力でも勝利できる、そんな自信があるんだからな」

 

「……まあ、そうですけど」

 

 公にされてしまった本心は、頷かないわけにはいきません。だって、それこそが私が染岡さんへ語った事実です。

 事実、なのですから、

 

「でも、ちゃんと皆さんを勝たせてあげようとしてるじゃないですか。私、勝つために戦ってます。なのにそれでも遊び(・・)だって言っちゃうんですか?」

 

 これだって事実であるはずです。しかし、豪炎寺さんは微塵も言葉に詰まることなく、言いました。

 

「お前自身はどうなんだ、ベータ。フットボールフロンティアや俺たちのことは抜きにして、お前自身は試合に……いや、勝負に勝ちたいと思っているのか(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 そしてその言葉は、私に深く突き刺さりました。

 胸の内にあったモヤモヤ、疎外感。つまり、試合に対する熱量の違い。

 私はこの試合を、フットボールフロンティアに行くための重要な試合としか捉えていませんでした。しかし染岡さんや豪炎寺さん、円堂さんたちはみんな、重要な試合であると同時に、自信の努力の成果を発揮できる、一つのサッカーの試合でもあったのです。

 

 私のそれが一つ足りていなかったから、染岡さんのような“勝つ”より先の熱意が存在していなかったのです。

 そのことに、気が付きました。

 

「“チームのために勝つ”。悪いことじゃない。だがお前のサッカーはそれだけじゃないだろう? 今日の日のために特訓だってしてきたはずだ。夕香の前でお前が言ったように、肝心なのは自分自身の想いなんだから。さあ、ベータ。この試合、どうする?」

 

 全く回りくどいですが、豪炎寺さんがこれ見よがしに戦意を燃やして言いました。対して私は一つ息を吐き、口にする答えは一つだけです。

 

「……はあ、わかりました」

 

 お説教に丸め込まれちゃったみたいで、ちょっぴり悔しくはありますが。

 

「そこまで言うのなら私の本気のプレー、見せてあげちゃいます」

 

 それに、確かに練習試合として戦うほうが楽しそうです。私はそう、決めました。

 

「染岡さんの心が折れちゃうかもしれませんけどね」

 

「はッ……上等だ。折れるもんなら折ってみやがれ……! ……確かにお前の言う通り、俺はお前たちよりも弱い。けど“今は”だ! 折れることも諦めることも、絶対にねぇ!!」

 

「その意気だ、染岡。ベータもな……!」

 

 ついでに煽り半分に染岡さんに付け加え、私と豪炎寺さんの言い合いの間に頭が冷えたのか、染岡さんが好戦的な笑みで応えてきました。

 そして一件落着にさわやかな笑みが戻る豪炎寺さん。しかしそれは一瞬ですぐに試合の真剣なそれへと戻り、視線が敵キーパーたちの方へ。

 

「……それで、お前たちはいつまでそうしているんだ?」

 

 さらに彼らが未だそこで維持する、ボールへと向きました。

 キーパーが染岡さんのシュートを止めてからそれなりに経っているにもかかわらず、ボールが前に出ていないのです。だから私たちもずっと言い合っていられたわけですが、普通に考えればそれは異様。まさか私たちのことを思って待っていてくれた、なんてわけではないでしょう。

 そして実際その通りで、パスを受けたキーパーは優しさなど欠片もないふうに低く笑って言いました。

 

「別に……俺たちにとっても願ったりだっただけだ……。おかげで、準備は整った……!」

 

「準備、だと……?」

 

 豪炎寺さんが眉を寄せ、私も何かが胸のうちで引っかかった、その時です。ようやくボールが動きました。

 

「いけ、幽谷……!」

 

「ああ! 【ゴーストロック】!!」

 

 ロングパスが放たれ、同時にまたあの“呪い”が皆さんを襲ったようです。途端にその足が止まってしまって、その中を敵キャプテンが悠々と走っていきます。

 着々とゴールに迫りくるボール。動けない円堂さんはそれを見つめて、しかしにやりと笑います。

 

「……? どうした、止められないからと開き直りでもしたのか?

 

「いいや、やっぱあいつはすげーなって思っただけさ」

 

「なに……?」

 

 首をかしげる敵キャプテンは、

 

「後ろだ、幽谷ッ!!」

 

 味方からの驚愕の声がかかった瞬間に振り返り、同時に奴のほど近くまで来ていたオレ(・・)と眼が合い、息を呑む羽目になったのだった。

 

「なっ……!! い、いつの間に!?」

 

「てめぇが呑気に歩いてる間にだよ!! オレを舐めてんじゃねぇ!!」

 

 【ゴーストロック】とかいう“呪い”は、最初に使った時もそうだったが効果範囲が前方限定。つまり攻め込む奴の後方にいたオレたちには届かない。ならば走れば追いつけるという、それだけだ。奴は間に合うはずがないがないと高を括っていたようだが、あまりに甘い。

 その甘さと突然のことによる身体の硬直も相俟って、ボールを奪うのすら簡単だ。ボールに足を出して勢いのまま押し退けると、あっけなく奴は倒れてしまった。だがさすがにキャプテンというだけあるのか、動揺は引きずったままの声だが後ろから、味方に向かって指示を飛ばしてくる。

 

「ぐわっ……! だ、だが、呪いはまだこのフィールドに残っている! お前たち、【ゴーストロック】で24番(ベータ)を止めろッ!!」

 

 そう、随分ネタが割れてきたとはいえ、未だ“呪い”は攻略できていない。ボールを奪っても、ゴールまで運ぼうとすれば何人もの敵選手に時間を取られ、“呪い”の餌食にされてしまうだろう。

 なら、それに対する正解は単純だ。

 

「“呪い”が発動する前にシュートすりゃあいいだけだ!!」

 

 ボールを踏みつけ、練習よりもずっと高くに跳んだ“本気”のシュート。

 

「【ダブルショット】!!」

 

 一直線にゴールへと飛んでいった。

 が――

 

「クク……無駄、無駄……!」

 

 こればかりは舐めているのではなく、誰しもが思うことだろう。ただの苦し紛れのシュートだと。

 なにせ、オレがボールを奪ってシュートを打ったのは自陣側の、しかもゴール近く。あまりに距離がありすぎる。

 

「そんな遠距離からシュートを打てば、その威力は削がれてカス同然……! 【ゆがむ空間】を使うどころか、届くことすら――!!?」

 

「『普通はあり得ない』ってか? 生憎、オレのシュートは“普通”じゃねぇんだよ」

 

 【ダブルショット】は、ロングシュートとして編み出した必殺シュートだ。だから遠距離から打とうが近距離から打とうが、その威力は大して変わらない。

 そのことを敵キーパーはようやく悟ったようだが、しかしそれは余りに遅すぎ、そしてそもそも意味のないことだ。奴を吹き飛ばし、いつかの帝国が打ったロングシュートをしのぐ威力で、オレのシュートはゴールネットを揺らしたのだった。

 

「ぐ、ぐわあぁぁッ!!?」

 

「ご、ゴオオォォーーールッ!! なんと米田!! 自陣から見事にゴールを叩き込みましたあぁッ!! 超ロングシュート炸裂ゥゥッッ!!」

 

「よっしゃぁ!! やっぱりすげーぜベータ!! まさかあそこからシュートできるなんてな!!」

 

「すごすぎでやんすよ米田さん!! いけるでやんすよこの試合……!! 俺たちまだ勝てるでやんす!!」

 

「もちろんです。こうなったからには絶対に勝たせちゃいます」

 

 ――と、実況の方の声と共に、円堂さんや栗松さん、チームの皆さんがみんな集まって喜びを爆発させるのに応えました。が、一部はちゃんとわかっているようで、ちゃんと深刻そうな顔になっていました。

 

「だが点数はまだ2-3。あと二点取らなきゃいけない」

 

「あと二点くらいなら米田先輩のシュートで余裕じゃないですか! 後半戦も始まったばっかりで時間もあるし! ……あれ? 皆さん何か気になることでもあるんですか?」

 

「わからないのか宍戸? 次のボールは尾刈斗からだ。いくら米田がどこからでもシュートを打てるとはいえ、まず奴らからボールを奪わなきゃならないんだぞ?」

 

 そう風丸さんが言う通り、そこが一番の問題でしょう。私に対する油断はもう一切がなくなってしまったでしょうし、ボールを持った彼らは今度こそ間違いなく、私を含めた全員に“呪い”、つまり【ゴーストロック】を仕掛けてくるでしょう。

 発動されればそれだけでもう終わり。そこはまだ全く変わっていないのです。こちらのボールになって交互に点を入れるのを繰り返すだけでは、逆転などできません。

 しかし、今ならば幾らかの対策ができます。

 

「大丈夫……と言い切れちゃうまでではさすがにないですけど、安心してください。作戦、思いついちゃったので」

 

「作戦!? どんなのだ!?」

 

 一気に食いついてくる円堂さん。私は、私と同じく気付いて、作戦も思いついているだろう豪炎寺さんに目配せをして、言いました。

 

「“準備”とやらをさせなければいいんです。ですよね、豪炎寺さん」

 

「ああ」

 

 私と彼の二人が同意見だということもあって、その作戦は皆さんに問題なく了承されました。

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