雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第二十三話 対決、御影専農

 日付が変わり、御影専農との試合当日。私たちは試合会場である御影専農中学校へと赴きました。

 前日の騒動のことは皆さんに心配をかけるだけだと秘密にしたまま、されどもこっそり警戒しつつの訪問だったのですが、拍子抜けなことに特に何もありません。更衣室への道すがらにすれ違った御影専農の選手たちとバチバチ火花を散らしたり――杉森さんや下鶴さんだけでなく他の選手たちもロボットみたいに感情が薄く、こちらが一方的に戦意を滾らせただけですが――などはありましたが、前日のような襲撃や妨害の類は一切起こらずです。

 強いて気になったことを挙げるとすれば、サッカーグラウンドの周囲に立ち並ぶ巨大なアンテナと、鬼瓦さんが言っていたモノであろうデバイスが、御影選手たちのこめかみに電極を伸ばして装着されていたことくらいなものでした。

 

 試合自体は実に健全。むしろそれは御影専農の戦術と相俟って、私には今までの戦いよりもずっと気持ちよく感じられたほどだったのです。

 

 

「――ほんとに、マークされてないって……自由に動けちゃうって、素晴らしいですね染岡さん!」

 

「あ!? 何言ってんだお前!?」

 

「何ってほら! 私、今日は誰にもマークされちゃってないんです! 帝国も尾刈斗も野生も、今までは誰かしらにずっと張り付かれちゃってたのに、今日はそれがないんです! ようやくまともにサッカーできちゃってますよ、私!」

 

 

 これまで戦ってきた学校の悉くが私を警戒しまくっていたのに対し、御影専農はそれをしてこなかったのです。散々に邪魔されてきた私にとってはそれだけで感激もの。これまでに何もなかったのもあって、心に留めておかねばならないはずの警戒心も忘れてしまえそうなくらいでした。

 が、そんな心は、窮屈なマンマークを知らない染岡さんには理解できないものだったようです。彼はしかめっ面で、吐き捨てるように鼻を鳴らしました。

 

 

「ふんっ! どうでもいいが、ベータお前、調子に乗って油断だけはするんじゃねえぞ! こいつらのサッカーの実力、噂通りに帝国並みだ!」

 

「……そんなことくらいわかってます! もう随分な間、戦っちゃってますから!」

 

 

 解放感に賛同してもらえなかったことはさておいて、染岡さんの言う通りです。私にマークを付けていないということは、それすなわちマンマークに頼らずとも私を止める算段があるということ。その算段に自信があるということに他なりません。

 

 そして実際、それは驕りでも何でもなく、試合開始から数十分の今現在で点数は0-0のまま。私は未だに一本もシュートを打てていません。

 データが云々というだけあって、まるでこちらの動きを見透かしているかのような攻撃と守備。御影専農の強さは、確かなものなのです。

 

 

「だからって、隙がないわけじゃありませんけど……っ!」

 

「なっ――うわぁッ!?」

 

 

 円堂さんも言っていたことですが、所詮データはデータ。本物とは違います。加えてデータでわかっていても対応できるかは別問題であり、とうとうその時、気を伺って仕掛けた私のスライディングタックルが相手のボールを奪い取りました。

 そしてこれまた狙い通り、奪取した位置は、少々距離があるもののゴールの真正面。周囲にはもう私を妨害できるディフェンスは一人もおらず、であれば当然、狙うは一つ。

 

 

「こっ、この状況! これは、米田の十八番が出るかァっ!?」

 

 

 今日もやっぱり叫んでいた実況さん曰く私の代名詞、ボールを踏みつけ、分裂させ、オーバーヘッドで蹴り抜く、ロングシュートを打ち放ちました。

 

 

「【ダブルショット】ッ!!」

 

「よっしゃいいぞ! これで一点頂きだ!」

 

 

 背後で早くも喜びの声を上げる半田さんですが、得点を確信するのも当然のこと。なにせ【ダブルショット】は今の今まで得点率百パーセントです。

 そして私としても、現時点では十分な手応えを、ボールを蹴り抜いた瞬間に感じました。待ちに待ったチャンスを生かし、決めてやったと、そう思ったのですが――

 

 

「――ディフェンスフォーメーション、ベータワン、発動!」

 

「了解。【ジャイアントスピン】!」

 

 

 キーパーの杉森さんが何やら引っ掛かる台詞を叫んだ直後、巨漢のディフェンダーがクルクルと回転しながらシュートの前に飛び込んできました。ブロックする気かと一瞬思いましたが、しかしそうではなく、ディフェンダーはそのまま宙を突き破るボールのすぐ隣を通過。そして巻き起こった回転の風圧によって、僅かではあるものの軌道を逸らしてみせたのです。

 

 長距離を飛ぶ私のシュートは、その分だけ軌道のずれを大きく広げることとなり、威力はそのままなれどゴールネットの端へと流されてしまいます。

 

 

「【ロケットこぶし】!」

 

 

 そして最後は杉森さんが生み出した【ゴッドハンド】にも似たエネルギーのパンチが横殴り気味にボールに命中し、完全にゴール外へ弾いてしまいました。

 

 

「う、嘘でしょ……!? 【ダブルショット】が防がれちゃうなんて……」

 

「……【ダブルショット】は、確かに我々の脅威になり得る必殺シュートだ。だがいかに強力なシュートでも、ゴールに入らなければ意味はない」

 

 

 慄くマックスさんに、背後に飛んでいくボールを眼で追いながら杉森さんが淡々と口にします。やがて相変わらず無表情な顔が戻ってくると、杉森さんはそのまま、おそらく自覚なきまま言いました。

 

 

「そして【ジャイアントスピン】は、君たちの必殺技特訓のデータを基に編みだした必殺技だ。我々の戦力強化に感謝する」

 

「こっ……この野郎……ッ!!」

 

「染岡さん、どうどう。もう【ダブルショット】をコピーされちゃってるんだから、今更でしょう?」

 

 

 宥めつつ、そういえばと、野生戦前の時に壁山さんが新必殺技の特訓と称してクルクル回っていたことを思い出します。【ジャイアントスピン】の基はたぶんあれなのでしょう。

 まさかあんなのが厄介な必殺技に化けるとは、驚きです。しかしとはいえ、致命傷というわけではありません。

 

 

「じゃあ、今度はもっと近くから打ってあげちゃいますね?」

 

 

 そうすれば、多少軌道がズレようが問題ないはずです。図星であるらしく、杉森さんが僅かに眉間に皺を寄せたのが見えました。

 

 と、そうしている間に御影専農のボールで試合再開。煽ったせいで警戒されたのか、ボールが送られたのは私の逆サイドです。

 

 

「少林さん、右から当たっちゃって! 半田さんはそのカバー! 栗松さんはフォワードにマークついて、土門さんと壁山さんは正面を塞いじゃってください!」

 

 

 急いで追いかけつつ指示も出しはしましたが、プレーに対して拙いこっち(ゲームメイク)は読まれていた、もといデータで予測されていたみたいです。味方も奮戦はしたものの、敵の進軍を止めることはできず、ボールは結局フォワードの下鶴さんに渡ってしまいました。

 

 そして彼はヒールリフトから、螺旋を描く火炎のシュートを打ち放ちました。

 

 

「【ファイアトルネード】!」

 

「なっ……!? あいつ、【ダブルショット】だけじゃなく【ファイアトルネード】までコピーを!?」

 

「【ジャイアントスピン】とか、どこまで俺たちのこと解析してるんでやんすか!?」

 

 

 炎を撒き散らすそのシュートは、確かに【ファイアトルネード】。合わせて三つもの必殺技を――うち一つは必殺技ではありませんでしたが発展までされて――コピーされたということは、皆さんにとって大きな衝撃なのでしょう。

 しかし畏れは、円堂さんまでは及びません。

 

 

「間違いなく【ファイアトルネード】……でも、豪炎寺の【ファイアトルネード】に比べたら、なんてことないっ!!」

 

 

 必殺技をコピーするのは簡単でも、その習熟度、向き不向きは別問題。いつかに私が言ったことをしっかり覚えていたらしい彼は、迫るボールを真正面から睨みつけ、

 

 

「【ゴッドハンド】ッ!!」

 

 

 必殺技でしっかりと受け止めました。

 と同時になるホイッスル。前半戦が終わり、皆さん気を抜けないまま、私たちはベンチへ引き上げることとなりました。

 

 

 

 

 

「……で? せっかく特訓場を整備してあげたっていうのに、どうしてあなたたち、ぜんぜん必殺技を使わないのよ?」

 

 

 0-0で一進一退な戦況、各々難しい顔で給水していると、それを上回るくらいの渋面を作った雷門さんが、ベンチから不機嫌そうに鼻を鳴らして言いました。

 すぐそばで秋さんと音無さんがあれこれと働いているのに、そんなこと我関せずな態度です。腕組みしてふんぞり返るほどですが、しかし無視するのもかわいそうでしょう。適当に言葉を紡いで返します。

 

 

「残念ながら、あそこは必殺技の特訓にはあんまり役立たなかったんです。ヘンテコなトレーニング設備でいっぱいでしたから」

 

「なによそれ……! じゃああの投資は無駄だったってこと?」

 

「そんなことはないと思いますよ? 基礎能力を鍛える分には十分使えちゃいましたもの」

 

「でも、肝心要の必殺技の特訓はできなかったんでしょう!? なら無駄よ無駄! ……はあ。全く、骨折り損だわ。どうして何もかもこうなっちゃうのかしらね!」

 

 

 怒った挙句にいじけてしまいました。全くもってめんどくさい。やっぱり無視してしまったほうがよかったかもしれません。

 が、もはや後の祭りです。仕方なく、ムスッとしながら頬杖を突く彼女に、次なる話題を差し向けます。

 

 

「……ところで、そもそもどうして雷門さんがベンチに陣取っちゃってるんです? 関係者以外立ち入り禁止なはずなんですけど。……もしかして、ついにマネージャーやる気になっちゃいました?」

 

「なってないわよ! ただ、特訓場の成果を近くで確かめたかっただけ。……無駄だったけれど」

 

「ま、まあまあ、夏未お嬢様……。無駄などではなかったと、米田さんも言っているじゃありませんか。お嬢様のご厚意は、サッカー部一同、心より感謝しておりますので……はい……」

 

 

 適当におしゃべりに興じるつもりで口にした意地悪に、撒き散らされる負のオーラ。どうやら冬海先生は静観していられなくなったようで、慌てて慰めの言葉を並べてくれました。

 つまり、選手交代です。究極の放任主義である先生がサッカー部一同を自称したのはそれでチャラにしてあげることにして、めんどくさくなってしまった雷門さんを先生にお任せします。

 

 そうしてため息の諸々はドリンクと一緒に呑み込んだ、その直後でした。

 

 

「なので……ここはやはり、米田さんに頑張ってもらうというのはいかがでしょう?」

 

「……え? 何のお話です?」

 

 

 いきなり先生が私を引っ張り戻してきました。聞き返しましたが、先生はこちらを全く向くことなく続けます。

 

 

「何を言おうが実際のところ0-0。夏未お嬢様のご心配ももっともなことと、私、十分に理解しております。このような不甲斐ない戦況は、必殺技の習得が叶わなかったせいだと」

 

「……? ええ、そうね……?」

 

「ですがそうではないと、米田さんならば証明できます。秘密特訓場で成した基礎能力の強化の成果、彼女ならば活躍という形で示してくれるはずです!」

 

 

 いつもであれば権力にペコペコへりくだるだけな冬海先生がなぜだかやけに饒舌です。雷門さんもそっちに眉をしかめ、ついでに周囲の皆さんも怪訝な顔になってしまうほどですが、しかしそのことを気にするそぶりもなく、先生は皆さん全員の方に向き直ります。

 

 

「というわけで皆さん、後半戦は米田さんにボールを集めるように! いいですね?」

 

 

 珍しくも、というか初めての監督らしい指示を、彼は言いました。

 

 これで「今度こそ先生に監督としての自覚が……!」なんて尊敬の念を送れる人は、さすがに我がチーム内にはいませんでした。頭でも打ったのかと思えるような変貌はむしろ周囲の困惑をより深くして、集うそんな視線に、さしもの先生の上調子も萎みつつあるようです。

 しかし、指示の内容としては間違っていないでしょう。チーム内で最も強力なシュートが私の【ダブルショット】であることは疑いようのない事実ですし、一度止められはしたものの、それだってかなりの距離から打ったロングシュートであったから。近距離で打てば今度こそ確実に得点できます。

 豪炎寺さんや、もしかしたら染岡さんでも得点することはできるでしょうが、一番確実なのは私。そういう意味で、先生の言うことには特別反論すべき点もありません。

 

 故に私も先生の奇行に困惑しつつも頷いて、それを認めた先生が調子を取り戻し、おそらく何か激励の言葉でも吐こうとしたのかにやりと笑いました。が、言葉が出ることはなく、その前に先生の携帯の着信音と、審判が後半戦の開始を告げる声が同時に響いて遮ってしまいました。

 

 

「あっ……! い、いいですか皆さん! とにかく米田さんにボールを集めるんですよ!? いいですね!?」

 

 

 偉い人からの着信だったのか、先生はびっくりするほどの速さで携帯を開くと、慌てた様子で念押しだけを言いました。そしてそのままコソコソと、屋内へと引っ込んでいってしまいます。

 

 結局、垣間見せたあの熱意はいったい何だったのでしょう。釈然としないながら、私たちもそれ以上考えているわけにもいかず、フィールドへと戻りました。

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