雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第三十五話 地区大会決勝戦、開始

「――【竜巻旋風】!!」

 

「よしッ!! いいぞ少林!!」

 

 

 フィールドに突き刺さった鉄骨の撤去も終わり、とうとう始まった地区大会決勝戦。ボールを預けた少林さんは大舞台で初お披露目の必殺技を成功させて、心なしか自慢げです。

 そして彼だけでなく、他の皆さんも調子は悪くありません。様々あっての試合でしたが特に引きずっておらず、むしろ戦意高揚している様子。

 今までを振り返っても一番と言っていいくらいな最高の立ち上がりでした。

 

 しかしそれは影山から解放された帝国も同じことでした。

 そして私は皆さんのその上調子に惑乱されて、寸前まで眼を曇らせてしまっていたのです。

 

 

「よし……! 少林さん!」

 

「はい! 米田先輩!」

 

 

 パスを要求。ゴールにはまだ少し遠いですが、故にディフェンダーとの距離もあります。妨害に遭い辛い、要するに私にとってのベストポジションです。

 【ダブルショット】でまず一点と、ゴールで構える源田さんを見据えながら構えた時、私は一瞬遅れてそれに気付きました。

 

 

「――ッ!?」

 

 

 ある程度攻め込み、マークを出し抜きフリーになったと同時に声を上げたのです。だから周囲には誰もいないはず。

 なのにしかし、私に飛んでくるパスボールに誰かが割り込む気配がありました。

 

 

「っ……鬼道さん……!」

 

「御影じゃないが、その攻撃パターンは予想できたさ!」

 

「おおっと!! 鬼道が見事なパスカット!! 米田の【ダブルショット】は不発!!」

 

 

 慌てて振り返れば、ボールは鬼道さんにカットされていました。

 今回もどこからともなくやってきていた実況の男の子が言っていたように、このシチュエーションはもう私の十八番として認知されてしまっているようです。

 

(もうちょっと自重できちゃってれば、こんなことには――って、後悔してる場合じゃないです……!)

 

 中途半端に前線が伸びた状態でこれはなかなかのピンチ。それをわかっているから鬼道さんもこのタイミングで仕掛けてきたはずで――事実彼は想像通り、勝ち誇ったような声で叫びました。

 

 

「雷門のフォーメーション、スリートップの弱点だ! フォワード三人が攻め込めば、中間の守りは当然、薄くなる!」

 

「くッ……全部計算の内ってことかよ!! 下手打ったなベータ!!」

 

「むぅ……!」

 

「やってる場合か!! 戻るぞ!!」

 

 

 ピンチなのにやたらいい笑顔な染岡さんに思わずグーが出そうになりますが、豪炎寺さんの一喝のおかげで我に返り、ボールを強奪していった鬼道さんを追いかけます。

 しかしたぶん、これも全部鬼道さんの筋書き通り。私たちを十分に引き付けた上でのカウンター攻撃に、もはや私たちは追いつけません。

 

 

「【クイックドロウ】――っあ!?」

 

「無駄だ! 【イリュージョンボール】!!」

 

 

 すれ違いざまボールを奪い返そうとしたマックスさんの必殺技は、鬼道さんの三つに分裂したボールの幻惑を捉えられず、

 

 

「行け!! 寺門ッ!!」

 

 

 既に自陣に攻めんこんでいたフォワードの一人にパスが渡ってしまいました。

 

 風丸さんたちディフェンスを振り切って、そのフォワード、寺門さんは頭上にボールを蹴り上げました。

 

 

「くらえ雷門!! 【百裂ショット】!!」

 

 

 空中で回転させたボールに幾重にも繰り出される蹴り。それが無数のシュートの濁流のような迫力で放たれます。

 がしかし、それはちょうど円堂さんの正面。威力もどうやら危機感を覚えるほどのものでもありません。円堂さんなら問題なく止められるレベルのシュートです。

 

 しかし一瞬後にまた内心が逆転し、凍り付くことになりました。

 

 

「【熱血パンチ】――な……っ!?」

 

「えっ――!?」

 

 

 炎を纏ったパンチングは、シュートを弾き損ねました。芯を外れて上に跳ね、円堂さんの腕と身体までを飛び越え、そして――

 

 クロスバーに直撃し、ゴールラインのギリギリ手前に落ちました。

 円堂さんが慌てて飛びつきボールを確保。辛うじて失点は防がれます。

 

 不幸中の幸いです。普段であればそう、今度こそ胸をなでおろすところですが――しかし。

 

 その時、胸の奥に生じた何か(・・)のせいで、私は安堵を抱くことができませんでした。

 

(何なんでしょう……これ……)

 

 代わりに、心臓が疼くような感覚があります。そしてそれはあまり心地よいものではありません。

 

 いえ、そんなよくわからない感覚なんて、気にしていても仕方がありません。

 確かに今のは円堂さんのミスですが、ミスなんて誰にでもあり得ること。しかも結果的にはセーブしています。

 だから何も問題ありません。気持ちを切り替えるべきです。

 

 深呼吸で内心に生じたモノを吐き出してから、私は自陣へ走り込みました。

 今なら鬼道さんとも遠い距離。カウンターのカウンターで【ダブルショット】のチャンスです。

 

 

「円堂さん! こっちです!」

 

「あ、ああっ! 頼むぞ、ベータ!!」

 

 

 しかし、

 

 

「――ッあ!?」

 

「えっ……!?」

 

 

 円堂さんが振りかぶり、投げたボールは私から大きく外れ、なんと敵の佐久間さんに渡ってしまったのです。

 

 信じられない大暴投。しかしそれは佐久間さんにしても同様。思いもよらないパスであり、ボールを受けるも一瞬動きが固まってしまいます。

 そこにギリギリ土門さんが間に合いました。

 

 

「き、【キラースライド】ッ!!」

 

「っく……!?」

 

 

 カット成功です。勢い余ってボールを弾き飛ばしてしまい、タッチラインを割ってしまいました。

 ですが結果的にはそれで正解でしょう。相手にスローインを与えてしまいましたが、代わりに息を整える時間が生まれました。それでもとても解消しきれそうにない動揺が、私と皆さんの中に生じてしまってはいるのですが。

 

 

「キャ、キャプテン……その……大丈夫ッスか……?」

 

「……えっ? あ、ああ! 大丈夫、大丈夫!」

 

「……頼むぜ円堂。せっかくここまで勝ち進んできたってのに、腑抜けたミスされちゃ悔やんでも悔やみきれねぇ」

 

「ああ……わ、悪い……」

 

 

 空元気で応えるも、壁山さんの心配には形を保てたようですが、染岡さんの前にあっけなく崩れ去ってしまいました。

 これはいよいよもって重傷かもしれません。

 

 さっきまではそんな様子は微塵もなかったのに、突然の絶不調。それが偶然引き起こされたものでなければ、原因はやはりあの時に影山に何か言われていた件でしょうか。

 しかしその詳細は彼以外の誰にもわからぬ話。故に傍でやり取りを聞いていた風丸さんは一瞬瞑目し、そして円堂さんの代わりに勝気な笑みを浮かべました。

 

 

「……円堂の調子が悪いなら、俺たちでフォローすればいい。だろ、みんな……!」

 

「そうでやんすね……! 特訓の成果の見せどころでやんす!」

 

「助け合いの精神ってやつね! ま、仲間なんだから当然だ!」

 

 

 壁山さんや風丸さんだけでなく、ディフェンス四人全員が頷き合っています。円堂さんが不調に見舞われている以上、そこの穴は彼らで塞いでもらうほかありません。

 がしかし、それでも完全にはいかないでしょう。円堂さんの代わりがあの四人にできるはずがないのです。

 それどころか、皆さんが守備に集中したとしても不可能です。円堂さんの存在はそれほど大きいのですから。

 

 円堂さんの不調分を補えるとすれば、それは私だけ。私だけ(・・・)がフォローできる。そうでしょう。

 

 そのためには――

 

(とにかく得点、ですね……!)

 

 帝国にどれだけ点を入れられても、それを上回る点を私か稼げれば問題なしです。

 なんとしても先取点を取る。私はそう心に決めて、回収され、スローインでフィールドに投げ入れられるボールを見つめていました。

 

 

 少林さんくらい小柄な帝国選手のスローインは、予想通り、やはりゴール前のフォワード狙いでした。

 だから彼がボールを投げると同時に、そのボールをカットするため私も動いたのですが――しかし、私がそう動くこともどうやら鬼道さんに読まれていたようで、一歩踏み出したその瞬間、佐久間さんに前を遮られてしまいます。

 

 

「鬼道さんの言う通り、やっぱりお前は一番危険だな……! 行かせないぞ……!」

 

「っ……! もう! 邪魔、ですッ!!」

 

「こ、の……ッ!! ぐあッ!!」

 

 

 やむなく肩で力任せに押し退けます。笛が鳴らなかったことに安堵しつつ、どうにか空中にあったボールを奪取。

 が、稀代の天才ゲームメーカーはそこまで織り込み済みであったようです。着地した時には、既に周囲を帝国選手たちに囲まれてしまっていました。

 

 やっぱり試合のコントロール能力に関しては、彼の方が一枚も二枚も上手です。こうまで見事に対応されてしまうと、嫌でも鬼道さんの手のひらの上で弄ばれているように感じてしまいます。

 息苦しくてたまりません。

 

 徐々に焦燥と――苛立ちが、オレの心を侵し始めるのがはっきりと知覚できるほどだった。

 

 

「ベータ!! こっちだ!! パス、パス!!」

 

「――ッ!! 半田!! お前は前に走っとけ!! そこに居られても邪魔だ!! いいからオレに……任せてろッ!!」

 

 

 半田が上げる声が、それら負の感情の増大をさらに加速させた。あいつは自分の立ち位置が、自陣にも帝国選手にも近すぎることをわかっていないのだろうか。いま半田にパスしても、それは帝国選手にボールを献上するのと同じことだ。

 せめてもう少し前、声など上げずにひっそり駆け上がっていたら使ってやることもできたのだが、自らその機会を潰しているのでは世話もない。

 

 やはり仲間は役に立たない。オレがどうにか、この包囲網を単身突破するしかないのだ。

 

 

「……やはり、か」

 

「っ……? 鬼道さん?」

 

 

 舌打ちしそうになるのを堪えつつ覚悟を決めると、ふと、包囲網の外でオレを観察していた鬼道の声が耳に入った。

 何が『やはり』なのかと、身を起こす佐久間とは違って警戒心を掻き立てられたが、しかし直後、奴を意識する余裕はなくなった。

 

 

「今だ……ッ! 【キラースライド】!!」

 

「ッ!! 待て、辺見!!」

 

 

 オレを囲んでいた帝国の一人が、しびれを切らしたのか仕掛けてきた。

 鬼道たちに気を取られていたのを隙と捉えたのだろうが、それはオレにとって紛れもない光明だ。

 一瞬遅れて結末を予測したらしい鬼道が声を上げるが、もう遅い。

 

 

「その必殺技、土門のでもう見慣れてんだよ!!」

 

「なッ――!?」

 

 

 初見だったら対応できなかったかもしれないが、散々目にして体験した今となってはただのスライディングタックルよりも対処は簡単だ。ジャンプして悠々躱す。 

 そしてそのまま包囲網に開いた穴から飛び出したオレに、鬼道が焦りながらも冷静に指示を飛ばした。

 

 

「くっ……戻れみんな!! ディフェンスは圧をかけろ!!」

 

「了解!!」

 

「ハッ!! もう遅せぇんだよ!!」

 

 

 自陣に攻め込んで来ていた奴らが今更オレに追いつけるはずもないし、一人や二人のディフェンスなら十分突破できる。

 そうしたら後は【ダブルショット】で一点決めるだけだ。

 

 

「いいぞ!! ベータ、パスだ――って、おい!?」

 

「米田!! 一人で突っ込み過ぎだ!!」

 

 

 またもパス要求してくる染岡と、声を張り上げる豪炎寺は無視して突き進む。どちらにも今更ボールを預ける理由は皆無だ。

 逆に誰かに預けていたらディフェンダーで止められていただろう。だが――

 

 

「オレには通用しねぇぜ!! 【スピニングアッパー】!!」

 

「う……ぐわぁあッ!!」

 

 

 巨漢のディフェンダーを吹き飛ばす。ペナルティエリアの手前で、ゴールまでの障害はあとキーパー一人のみ。

 まだ少し距離があるが、ここらあたりで十分だろう。源田を見据え、高く足を振り上げた。

 

 一番最初の帝国戦。あの時は豪炎寺の【ファイアトルネード】に重ねる形で源田の【パワーシールド】を突破した。あの頃のオレはサッカーを再開した直後でブランクが酷く、恐らく一人ではあの衝撃波の壁を破ることはできなかっただろう。

 しかし今は違う。今日までの練習で、ブランクはもうすっかり抜けている。今のオレなら一人でだって貫ける。

 

 

「あの時みたいにブチ抜いてやるッ!! 【ダブルショット】!!」

 

 

 ボールを踏みつけ、分裂したそれを追って跳び、両足でシュートを放つ。狙いはぴったりで威力も万全、ミスはなく、得点を確信できる一撃だった。

 

 が、しかし――

 

 

「やるな、明らかに前よりもパワーアップしている……だが!! 強くなったのはお前だけじゃないッ!!」

 

 

 迫りくるシュートをまっすぐ見据えた源田の両手には、明らかに以前に見たものよりも強いチカラが集っていた。

 

 

「これが俺の最強のキーパー技――その、進化した姿だッ!! 【フルパワーシールド V2】!!」

 

「なっ……!?」

 

 

 大きく跳び、チカラを集中させた拳を地面に叩きつけることによって生まれる壁。【パワーシールド】よりもはるかに大きく、そして比べ物にならないほどの輝きを放つ障壁に、次の瞬間【ダブルショット】が激突した。

 

 せめぎ合うシュートと障壁の拮抗は、やがてシュートの方に傾き始めた。徐々にボールが衝撃波の壁に食い込み始める。

 亀裂も走り、シュートの威力と回転が少しずつ、少しずつ障壁を削り取り――そして穿った。

 

 破りはしたのだ。源田の、【パワーシールド】を上回る奥の手の必殺技を。

 だがそのチカラは、あまりに伯仲しすぎていたようだった。

 

 

「ぐぅッ……まだ、だあああぁぁぁッッ!!!」

 

 

 障壁を貫いたボールを両手で受け、威力に押されて芝の上を滑りながら、しかし源田の足は、やがてゴールラインの僅かに手前で止まった。

 

 ――私の【ダブルショット】は、止められてしまったのです。

 

 

「……ふ、防いだァッ!! 帝国キーパー源田、米田の【ダブルショット】を辛うじてセーブ!! キング・オブ・ゴールキーパーの意地を見せつけたァッ!!」

 

 

 実況さんが大盛り上がり。対して私はあまりの衝撃に声も出せませんでした。

 

 確かに、【ダブルショット】を打って点が決まらなかったのは初めてではありません。

 一度、御影専農に止められたことがありますが、しかしあれはディフェンダーとゴールキーパーの二人がかりで、しかも距離のあるロングシュートを辛うじてゴール外に逸らしただけです。

 

 目の前で起きた光景のように、一人に真正面から受け止められたのは初めてのこと。

 そして私にとっては想像することもなかった、あまりに現実味のない事態でした。

 

 

「……今度こそ、俺の勝ちだ……!! 後は頼むぞ、鬼道ッ!!」

 

「っ……!!」

 

 

 勝ち誇った顔の源田さんが大きく振りかぶってロングパスを抛り、そこでようやく私は我に返りました。

 とはいえ今度のパスは止めようもなく、私を追って帝国陣地に戻って来ていた鬼道さんにボールが渡ってしまいます。

 

 また同じ展開。皆さんの能力では鬼道さんは止められません。

 そして円堂さんも……今の彼は、きっとシュートを止められない。

 

 私の力が及ばないせいで起きる未来が頭に浮かび――そしてオレはまたしても、浮かぶ焦りを怒りで以ってしてそれを吹き飛ばした。

 

 

「ふ――ざけるんじゃねぇッ!!」

 

 

 衝動に任せて追いかける。普段であればスタミナ配分も考えるが、もはやそんなことすら意識に無かった。

 またも豪炎寺から鋭い声が響いた。

 

 

「落ち着けベータ!! 一人で突っ込むな!! 仲間を信じて、次の攻撃のために体力を温存しろ!!」

 

「『仲間を信じて』!? 信じてるからこうやって必死になってるんだろうが!! あいつらの実力じゃ鬼道は止められねぇんだよ!!」

 

 

 無理難題を押し付けるのは“信じている”とは違うだろう。

 豪炎寺とは違ってオレは、仲間の実力を理解して(・・・・)、奴らでは鬼道を止められないと信じている(・・・・・)のだ。

 

 いつものように、皆の手に負えない事態ならオレがどうにかするしかない。ならば今の状況では、こうする以外に方法などないはずだ。

 

 

「いいから、黙って見てろッ!!」

 

「ベータッ!! 帝国は、一人でどうにかできる相手じゃない!!」

 

 

 そんなことあるものか。

 豪炎寺はオレのシュートが止められてしまったことで弱気になってしまっているのかもしれないが、あんなギリギリのセーブは一度だけ。もっと近く、もっと強くシュートを放てば二度はない。

 それはディフェンスも同じこと。もはや油断や慢心の余地は消え、端から本気。であれば鬼道といえど競り負けはしない。

 

 

「もらったッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 全力のダッシュで、瞬きほどの間で鬼道に追いついた。奴にしても想定外の速さだったようで、一瞬背後を振り向いたゴーグル越しの目が明らかな驚愕で見開かれる。

 おかげでほんの一瞬、身体が硬直したその隙に、オレは背中にぶち当たるようにボールを奪いにかかった。

 

 しかし接触のその直前。

 

 

「――成神ッ!!」

 

 

 鬼道が寸前に他の選手へパスを出してしまった。

 

 

「なっ――クソ……ッ!!」

 

 

 さすがは帝国でキャプテンを任ぜられるだけあると言うべきか、反射的なプレーなのだろうが忌々しいほどの正確さだ。パスボールは成神なる帝国選手の足元にピタリと収まってしまう。

 しかもそれだけではなく、オレに捕捉されていると理解した途端、ゲームメーカーとしての腕前も光り出した。

 

 

「辺見、佐久間、前へ出ろ! 寺門はもっと左、ディフェンスの抑えだ! 洞面、五条は俺と来い! 広めに距離を取れ!」

 

 

 的確な指示。常に一定の距離を保つ鬼道たち三人の間でそれぞれパスが回り出し、一気にボール奪取のチャンスが消える。一度痛い目を見たからかその動きは慎重で隙が無く、しかも前に出てきたフォワードたちによって徐々に盤面を抑え込まれていった。

 

 奴らは万難を排した上で確実に点を取ろうとしているのだ。円堂の不調に奮起していた皆を恐れてか、一人残った円堂だけを狙い撃ちにするつもりらしい。

 そして、そうして放たれるシュートは、もはや防ぎようがないだろう。

 打たれる前にオレが止めるしかないが、しかしボールを奪おうにもパス回しで躱されるばかりで、焦りと疲労だけが募っていく。こちらも指示を出すも鬼道のゲームメイクの前にはその歩みを止めることができず、やがて、その時がやってきた。

 

 

「――よしッ、行け辺見!!」

 

 

 とうとう雷門の正面の守りが押し退けられてしまった。一直線に円堂まで届いた守備の穴。そこに一人走り込んでくる。

 オレがそれに反応できたのは、半分偶然だった。

 

 

「はァ……させ、るか……!!」

 

「なにッ!?」

 

 

 パス回しに走らされすぎたせいで息は切れかけだが、辛うじてパスコースを塞ぐのは間に合った。これでこいつにシュートは打てない。

 がしかし、それも焼け石に水。シュートを打てるのはこいつだけじゃない。

 

 

「くっ……ならば、佐久間ッ!!」

 

「はい!!」

 

 

 最前線でディフェンスを抑え込んでいた佐久間を呼び寄せ、ジャンプしたそいつにボールを上げる。合わせて俺もまたシュートコースを塞ごうと動いたのだが、予測に反して佐久間はシュートを打つのではなく、ヘディングでそのままボールを下に落とした。

 必殺シュートを放ったのは、そこにダイレクトで飛び込んできた鬼道だった。

 

 

「「【ツインブースト】!!」」

 

「っ……決められる……!!」

 

 

 ヘディングの威力を上乗せしたボレーシュート。威力は当然、今の円堂を破るには十分すぎるほど。

 そしてもはやオレは壁になることすらできず、余裕なくシュートを凝視する円堂が吹き飛ばされるのを覚悟する以外になかった。

 

 しかしその時、ぽっかりと開けられたゴール前の空間に、飛び出してくる大きな影が一つ。

 

 

「い、入れさせないッス!! みんなで守るって、約束したんッスから!!」

 

「か、壁山――!?」

 

 

 円堂が声を上げた。こっちの守備陣は封殺されていたはずだが、佐久間がシュートに加わったおかげで壁山だけマークが外れたのだろう。

 

 ともかく壁山はその巨体を盾にした。が、もちろんそれで止まるなら苦労しない。

 いかに身体が大きく重いとしても、帝国の必殺シュートの威力に敵うはずもない。自身と円堂もろともゴールに叩き込まれるのがオチだ。

 

 そう思ったのだが、その時後ろから、染岡の声が轟いた。

 

 

「壁山、気合だ!! あの時、俺の【ドラゴンクラッシュ】を弾いてみせた気迫を思い出せッ!!」

 

「あ、あの時の、気迫……!!」

 

 

 直後、シュートが壁山に直撃する。そしてその身体は、今度こそはっきりと、まるで大きな壁のような威容を発し、

 

 

「だあああぁぁぁッッ!!」

 

 

 なんとシュートを弾き返してしまったのだった。

 

 

「な、なんだと……ッ!?」

 

「すげー……すげーぞ壁山!!」

 

 

 驚愕する帝国と喜ぶ雷門。シュートを防いだうえにこの土壇場で新たな必殺技が誕生したのだから、どちらももっともな反応だ。

 しかし、驚いてる暇も喜んでいる暇も今はない。

 

 

「壁山、ボールをよこせッ!! 今度こそ決めてやるッ!!」

 

「――よ、米田さん……!」

 

 

 ゴールは守れても得点しなければ試合には勝てない。もう四十五分の終わりも近く、これが前半戦、先取点の最後のチャンスだ。

 しかし直後、必殺技の誕生に一役買って調子に乗った、もう一つの声。

 

 

「俺に寄こせ壁山!! 次は俺の必殺シュートの番だ!!」

 

 

 染岡だ。身の程知らずにもオレを差し置いてゴールを決めるつもりらしい。源田相手にあいつのシュートが通用するはずがないのに。

 

 だが皆、壁山の奇跡的なプレーに気が緩んでしまっていたらしい。

 あるいはオレが守備に回っていたせいで染岡の方が帝国ゴールに近かったからか、壁山はオレと染岡二人のパス要求を見比べて、最終的に染岡の方へロングパスを飛ばしてしまった。

 

 

「――クソッ!!」

 

「ひぅっ!」

 

 

 オレの悪態に背を跳ねさせ、もじもじし始める壁山は放置し、走り出す。ボールは染岡に渡ってしまったが、なら再び取り戻せばいいだけの話なのだ。

 

 疲労を押して、我ながらな速度であっという間に染岡に追いついた。

 マジかよとでも言いたげな眼をオレに向けてくる奴に、弾む息を噛み潰して叩きつけるように言う。

 

 

「はぁッ……!! 染岡、ボールをよこせッ!! お前のシュートで、源田が破れるわけねぇだろ……ッ!!」

 

「ンなこと、やってみなきゃわからねえだろ!!」

 

 

 わかっていたが反発してくる。そしてそれは滅多なことでは折れないだろう。奴の反骨心の強さが尋常でないことは、同じチームで戦ってきたオレにはよくわかる。

 文字通り嫌というほどの体験談。しかし今回に限ってはそれだけに留まらなかった。

 

 

「――お前こそ、そんなヘロヘロな有様でシュートなんて打てんのか!? ……お前こそ俺たちに任せて、おとなしくスタミナでも回復させてろ……!!」

 

「ッッ……!!」

 

 

 その労わるような台詞が鼓膜に触れた瞬間に、染岡をどう説き伏せようかという考えは頭から弾け飛んだ。

 

 

「ぐおッ……!? な、何しやがる、ベータッ!!」

 

「いいから、よこせッ!!」

 

 

 染岡にショルダーチャージをぶちかまし、無理矢理ボールを奪い取る。非難の声が聞こえてくるが、もはや知ったことではない。

 

 労わる。下に見られている。つまり――オレが雷門の足枷になってしまっている。

 

 

「そんなの……あってたまるか……ッ!!!」

 

「ッ!! ベータッ!!」

 

 

 豪炎寺の声が飛んでくる。しかしなればこそもう止まれない。

 だって雷門を壊したりしないと、そう約束したのだから。

 

 

「オレが……みんな勝たせてやる……ッ!!」

 

 

 負けることはおろか、敗因になるわけにはいかない。そうなった時、オレは本当に響木が言ったような存在になってしまう。

 ここでサッカーできなくなるのは、嫌なのだ。

 

 

「ブチ抜け……ッ!! 【ダブルショット】ッ!!」

 

 

 さっきよりも少しゴールに近い位置。必死にそこまで距離を詰め、オレは全力の【ダブルショット】を打ち放った。

 

 しかし敵ディフェンダーその射線内。オレ本体への妨害を諦めた代わりに是が非でもシュートをブロックする腹積もりであるらしい。

 そうやって立ちふさがった巨漢ディフェンダーの二人を、

 

 

「いい! 任せろ!」

 

 

 さっきのように右手にチカラの稲妻を走らせた源田が退けさせる。そして、跳んだ。

 

 

「【フルパワーシールド V2】!!」

 

 

 再びオレのシュートと障壁が激突する。

 だがその結果は、以前のそれよりも酷いものだった。

 

 

「――そん、な……っ!」

 

 

 ――弾かれてしまいました。【ダブルショット】は障壁を破れず、それどころかヒビすら入れることはなく、あっけなく防がれてしまったのです。

 スタミナを消耗しすぎたことが原因。そうわかっていても、ショックは免れ得ないものでした。

 

 

「お前のシュートは、もう俺には通用しない。……万丈、持って行け!」

 

 

 源田さんからのパスを受けたのは、さっきのディフェンダーの一人。カウンターに備えて距離を取っていたようで、ボールは悠々運ばれていきます。

 

 ショックで怯む身体にかぶりを振ってどうにか動かし、少し遅れて私もボールを追いかけます。

 が、もともとスタミナ切れに近かったところをさっきの攻めで使い果たしてしまったらしく、早歩きくらいの速度で精一杯。間に合うはずもなく、そしてディフェンス陣の皆さんが帝国の攻撃に抗えるはずもなく、いっそ面白いくらいに裏をかかれて全員抜き去られてしまいました。

 

 そして円堂さんと一対一。もとい、一対三。

 

 

「いくぞ円堂……!! 【ゴッドハンド】を破るために編み出した必殺技だ!!」

 

 

 鬼道さんの口笛で現れたペンギンたちがボールと共に蹴り出され、それをさらに、佐久間さんと辺見さんの二人が両側からボレーシュート。

 

 

「「「【皇帝ペンギン2号】!!」」」

 

 

 はるか遠くで放たれたその必殺シュートは、応じて円堂さんが繰り出した【ゴッドハンド】を食い破り、ゴールに突き刺さってしまうのでした。

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