雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第三十八話 祝勝会

 帝国戦から一夜明けた今日。当日の小さな表彰式では物足りなかった皆さんは、響木監督のお店で祝勝会に明け暮れていました。

 

 

「――俺たちは、優勝したぞーーっ!!」

 

「「「「「優勝したぞーーっ!!」」」」」」

 

 

 なんて、興奮しきった円堂さんと彼に続く皆さんの勝鬨は、もう何度聞いたかもわかりません。いい加減耳が痛くなってくるほどでしたが、バカ騒ぎに飽き飽きしているのはたぶん私だけなのでしょう。勝利の喜びに沸き続ける皆さんの興奮度合いは、治まるどころかむしろ高まっていく一方です。

 そしてそれは、この場で唯一の大人である響木監督も同じ。普通であればこんなバカ騒ぎはいの一番に止めるべき立場であるというのにそれをせず、それどころか「今日は遠慮なく好きなだけ食ってけよ!」と率先して無礼講の音頭を取っている始末。

 もう呆れるばかりです。だから私も静かな食事を諦めて、おとなしく彼らのおかしなテンションを眺めながら、初めて食べる響木監督の中華料理に舌鼓を打っているのでした。

 

 ――もとい、舌鼓を打っていました(・・・・)。そのおいしさに、「しばらく通ってみちゃおうかしら」なんて考えをカロリーとの天秤にかけつつ餃子をつついていたのですが、その時ふと、視界にその姿が飛び込んできたのです。

 

 秋さんでした。しかし皆さんのようにはしゃいでいるでも、私のように観賞しているでもなく、ただ虚空を見つめてボーっとしています。握ったお箸は手元のお皿を突いたまま動かず、視線の先にはメニュー表すらありません。

 しかも呆けているだけでなく、その眼はこんな賑やかな祝勝会にあるにもかかわらず、どうにも落ち込んでいる様子。となれば放ってもおけず、ついでに元来の悪戯心も刺激された私は身体の赴くまま、こっそり静かに秋さんの隣に席を移動しました。

 

 改めて隣に座っても、彼女は気付いた様子もありませんでした。変わらずボンヤリしたまま、「ハァ……」と小さなため息を漏らしています。耳を澄まさなければ聞こえないほどのそれが断続的に続いているために、口はポカンと開きっぱなしです。

 

 それを目にして、私の悪戯心が思いつきました。

 少し前に興味本位で注文した激辛麻婆豆腐。一口目で後悔してそのままになっていたレンゲを手繰り寄せ、半開きになっているお口の中へずぽっと突っ込んであげたのです。

 

 その結果。

 

 

「むぐ――ひゃあっ!!? か、辛いっ! お水、お水っ!」

 

「わぁっ! ど、どうしたんですか先輩!? 大丈夫ですか!? お、お水ならここに……」

 

「うふふ……辛さを抑えるなら、お水よりも油分の多いスープとかがいいらしいですよ? ほら、どうぞ」

 

 

 秋さんは口を押えて跳び上がり、ついでに秋さんを挟んで向こう側の音無さんも大慌て。わけもわからず言われるままにコップにお水を注いでいました。

 が、お水では辛み成分を拡散させてしまって逆効果であるのです。それは他でもない私自身の身体で実証済み。故に、口をつぐんでもうひと悶着見守りたい考えには同情と善性が首を振り、秋さんへとお薬代わりのスープを差し出します。

 効果のほどはこれも私の身体のお墨付きで、ひったくるように器を受け取り呷った秋さんも、口の痛みは随分治まった事でしょう。

 

 ただそれでも、これは明らかなマッチポンプであるわけで……恩人である私へと向く眼は、涙を滲ませ、ぷくっと頬を膨らませてしまっていました。

 

 

「口の中、すっごい痛い……。もうっ、いきなり酷いよ佳ちゃん!」

 

「ふふ……ごめんなさい。でもだって、秋さんいかにも“イタズラしてください”って感じでボーっとしちゃってるんですもん。あんなの我慢できるわけないじゃないですか」

 

「が、我慢してよ! イタズラしてくださいって感じって、なにそれ!」

 

「イタズラはともかくとして……呆けてたのはアレ(・・)でしょう? 木野さん、帝国戦の時のこと、まだ気にしてるのね」

 

「うぐ……」

 

「ああ、せっかく言わなかったのに……」

 

 

 横から雷門さんが言ってしまいました。

 帝国戦の後半戦で私がベンチに押し込められたあの一件。秋さんが沈んでいたのは雷門さんが言うように、あの時に色々とあったせいです。だから元気付けるためにも意識させたくなかったのですが、台無しにされてしまいました。

 しかしそれでも雷門さんは悪意から口走ってしまったわけではないようで、見れば料理を口に運んでいた手が止まっていいます。表情も若干気まずそうに歪み、彼女はそのまま、秋さんへ静かに頭を下げました。

 

 

「その……私も、あの時はちょっと考えなしだったわ。今思えば、木野さんの気持ちをないがしろにし過ぎていたわよね。謝るわ、ごめんなさい。……だからそろそろ機嫌を直してほしいのだけど……」

 

「き、機嫌も何も、私、フツーだよフツー。怒っても落ち込んでもないってば!」

 

「……そうなの? 帝国戦が終わってから今日まで、ずっと沈んだ様子だったように思うのだけど……ねえ、音無さん?」

 

「えっ!? ええっと、その……は、はい……。私も、帝国戦のこと気にしてるんだろうなーとは思ってましたけど……」

 

 

 明らかな空元気を絞り出す秋さんに、「違うの?」と不思議そうに、音無さんまで巻き込む雷門さん。先輩二人の間に引きずり込まれて、音無さんが助けを求めるような眼を私に向けてきます。

 三者三様なリアクションは見ている分には面白いのですが、私とて当事者なのだからただ見守っているわけにもいきません。故に大仰にため息を吐き、呆れたふうに言いました。

 

 

「それを言うなら、音無さんだって気にしてるんじゃありません? 帝国戦、ほとんどマネージャーのお仕事できなくなっちゃってましたもん」

 

「はうっ……そ、その節は本当に申し訳なく……。あの、私は全然気付いてなかったんですけど、雷門先輩が代わりに雑用を片付けてくださったそうで……その……あ、ありがとうございます……。ご迷惑をおかけしました……」

 

「まあ私は別にいいと思いますけどね、雑用くらい。雷門さん、イヤイヤ言いながら実質もうウチのマネージャーみたいなものなんですから。ね? 許してあげちゃってくださいよ」

 

「許すも何も、そもそも怒ってないわよ私だって! 音無さんにも事情があったことくらいわかってます!」

 

「あら、そうなんです? 『理事長の娘たる私に雑用をやらせるなんて何事か!』とはならないんですね」

 

「私をなんだと思ってるのよ!」

 

「それに、秋さん。秋さんは自分が間違ってたなんて言っちゃってましたけど、私からすればあの時、秋さんが私の気持ちを認めてくれたこと、すごく嬉しくて頼もしかったんですよ? これで秋さんにまで雷門さんみたいにずけずけ言われちゃってたら、ほんとにどうにかなっちゃってたかもしれませんもん」

 

「だからっ……もうっ!」

 

「あはは……ありがとう、佳ちゃん」

 

 

 そうして半分とはいえ本音をそのまましゃべったおかげか、皆さんのやり取りに一段落を付けることができました。

 雷門さんはムスっと膨れ、その様子に堪えきれなかった音無さんが噴き出しています。肝心の秋さんの笑顔はまだちょっと空元気感がありますが、まあこれは時間が解決してくれるでしょう。

 空元気の原因――自分(秋さん)の行動が、佳ちゃん()が雷門サッカー部に馴む邪魔になっていた、という負い目を、当人たる私が全く気にしていないのですから。

 

 それに実際、秋さんがそういうスタンスであったからこそ、私は雷門さんたちの言葉と併せてより強く、自分と円堂さんたちとの間にある“サッカー”の違いを感じることができたのです。

 そしてそれ故に、帝国戦を通じてその一端くらいは掴むことができたように思います。

 

 “円堂さんのサッカー”、“雷門のサッカー”とはつまり、“力を合わせるサッカー”なのではないでしょうか。

 

 パスを重要視しがちな所や、かつて私に連携シュートである【イナズマ落とし】を習得するようにしつこく迫ってきた事も、その根本はきっと、それが他人と一緒に物事を成すことに――“力を合わせる”ことに繋がるから。たぶん間違ってはいないと思います。

 実際、円堂さんは【イナズマ落とし】の特訓をしていた私を楽しそうだと羨んでいたことがありました。当時も今もその心情にはいまいち共感できないのですが、きっと共感できるようになれば、その時彼が感じていた気持ち、“力を合わせるサッカー”の楽しさを知ることもできるのでしょう。

 

 そしてそれこそが、私がやりたいサッカーであるはずです。

 大昔にやめてしまったサッカーを再開させてしまうほどの魅力を秘めた、円堂さんのサッカー。今も以前も、それを捨てる選択肢など私にはありません。ならば“力を合わせるサッカー”も、絶対に理解しなければならない重要事項。

 となれば、そのためには――

 

(……とりあえず、次の練習は壁山さんに時間もらっちゃおうかしら)

 

 そして力を合わせる連携シュートである【イナズマ落とし】を今一度特訓し直してみるというのが、ぱっと思いつく方法です。以前はやる気半分でしか練習していなかったのですから、もしかしたら本気で取り組めば何か見えてくるかもしれません。

 

 という、そんな思考の結論を頭の隅に書き留めつつ、しかし今は祝勝会の最中。明日のことは明日考えようと思い直して、私はお箸を握り直しました。

 そして食べかけの餃子に伸ばし――たのですがしかし、お箸がカツンと硬い感触を捉えたと同時、気付きます。お皿には何も残っておらず、空っぽです。

 次いで口の中に、やたらと強く餃子の味が残っていることにも気が付きました。これはたぶん……考え事の内に自分が勝手に食べてしまった、ということなのでしょう。なんだか自分が間抜けに思えてきてしまいますが、認める他ないようです。

 

 ですが食べた感覚がないのと口に残るおいしい餃子の味のせいで、これでごちそうさまとする気にはなれませんでした。お腹はもう八分目。カロリー的にもニンニク的にもこれ以上は後々気になってしまいそうですが、やむをえません。

 

 

「あの、響木監督。餃子のおかわり、いただけちゃいますか?」

 

 

 追加注文をしました。がしかし、中華鍋を振るっていた響木監督からは、申し訳なさそうな顔が返ってきます

 

 

「悪いなベータ。餃子はついさっき、最後の分を出しちまった。売り切れだ」

 

「そうですか……残念です」

 

 

 本当に、なんとも実に残念です。餃子がおいしいからリピーターになることを考えたくらいだったのに。

 思わずため息が出てしまいます。しかしないものは仕方がありません。代わりに別の料理でも、と反射的に壁のメニュー表に眼が向きましたが、そもそもカロリー諸々を押してまで食べたかったのはあくまで餃子。ないなら代わりなんて注文する必要はありません。

 

 気付くとますますやるせない感覚に襲われて、そのせいか、気付けば私は腹いせ混じりに、今までは隔意から黙殺していたそれ(・・)を口にしていました。

 

 

「……ていうか今更ですけど、どうして響木監督まで私のこと、“ベータ”呼びしちゃってるんです? 初対面の時からずっとですよね?」

 

「ん……まあその、なんだ、意識はしてなかったんだが……。円堂の呼び方が移ったんだろうな」

 

「ふぅーん?」

 

 

 それはもちろん、感染経路はそこでしょう。私が言いたいのは、なぜ今尚それを改める気がないのか、ということです。

 そんな言外の言葉は、じーっと視線を向け続ければきちんと伝わったようでした。

 

 

「……嫌だったのなら、すまん。次からは名前で呼ぶようにするが……」

 

「あら、米田さんはあだ名呼びが気に食わないの? “ベータ”って、なかなか個性的でかわいらしいと思うのだけど」

 

 

 伝わりはしたものの、余計な人にまで聞こえてしまっていたようでした。野次馬根性丸出しな雷門さんが、頬杖をついてニヤニヤと笑っています。

 

 ここぞとばかりにさっきの仕返しに来た彼女。そっちがそのつもりであるなら是非もありません。自然と持ち上がる唇の端を以てして、私も言い返しました。

 

 

「もしかして、私だけあだ名呼びされてるのが羨ましかったりしちゃうんですか? なら、私がいい感じのを考えてあげちゃってもいいですよ。前の土雷門(どら〇もん)みたいなのを」

 

「ぶっほぁッ!? おっ、おま、ちょっとベータぁ!?」

 

「遠慮しておくわ。この際だから言ってしまうけれど、あなたのネーミングセンス、土雷門(どら〇もん)って中々酷いわよ。実際、全く定着もしなかったじゃない」

 

「ら、雷門まで! あだ名でも何でも好きに付け合えばいいけどさ、二人ともそのヤバい名前を連呼するのやめてくれない!?」

 

 

 むせつつ声を潜めながら必死に叫ぶという、器用なことをしてみせた土門さんですが、しかし彼もまた“ベータ”呼びが治らない一人。遠慮してあげる気にはなれません。

 だから放って雷門さんとの口喧嘩に花を咲かせようとしたのですが、残念ながらそれは妨げられてしまいます。その時ちょうど、円堂さんの下で上がり続けた勝利の雄叫びが一段落ついていたようで、土門さんだけでなく皆さんも、そのあだ名に反応してきたのです。

 

 

土雷門(どら〇もん)……そういえば、そんなのもあったっけ! でも土門が言うほどヤバいかなぁ? 俺は結構好きだぜ、ベータのあのセンス!」

 

「いやまあ、ヤバくはあるだろ、色々と。だがあだ名呼び自体は悪いことじゃねぇさ。仲間意識も強くなるしな。……だろ? ベータ」

 

「……そこで私に同意求めちゃうんですか。ていうか染岡さんのベータ呼び、私ずっとバカにされてるんだと思ってました。びっくりですねぇ」

 

 

 円堂さんに続いてそんなことを言う染岡さん。白々しいことこの上ないです。

 が、意外なことに染岡さん、それは案外本気の言葉だったのかもしれません。鼻で笑う私に、面白くなさそうな顔になってしまいました。

 ほんとにびっくりして言葉に詰まっていると、そこに今度は豪炎寺さんが口を挟んできます。

 

 

「仲間をバカにするようなヤツは、ここにはいない。ベータ、お前だってそうだろう?」

 

土雷門(どら〇もん)だって、ヤバいことを除けばうまく嵌ってますもんね。雷門の土門さん、ですもん。俺も、その……アリだと思います! ベータさん……!」

 

「でもその土門は気に入らないんだろ? 土雷門(どら〇もん)。本人が嫌だって言うならしょうがないし……そうだ! せっかくだし、今ベータに新しいの考えてもらおうか!」

 

「いいッスね、それ! ベータさん、土雷門(どら〇もん)みたいないかしたヤツ、一つお願いするッス!」

 

「いや、だからっ! 土雷門(どら〇もん)土雷門(どら〇もん)って連呼するのやめてって言ってんだけど!? ていうか呼び方なんて普通に“土門”でいいって!」

 

 

 さらには宍戸さんに半田さんに壁山さんにと、勝鬨のテンションを漂わせた声が次々と重なってきます。土門さんと雷門さんには不評だった土雷門(どら〇もん)は、どうやら二人以外の皆さんには好評なようです。

 

 雷門さんの『ネーミングセンスない』が実はそこそこ効いていたので嬉しくはあるのですが、しかし。

 染岡さんのことと合わせて、彼らのその台詞はやっぱり素直には受け取れません。

 どうしたって引っ掛かってしまいます。

 

 

「……私のこと“ベータ”呼びする人、なんで一気に増えちゃってるんです?」

 

 

 宍戸さんも半田さんも壁山さんも、ちゃんと“米田”って呼んでくれてたじゃないですか。

 

 という、単純な驚きや困惑だったのですが、ずっと前に色々と言ってしまったせいか、私のそれは威嚇か何かに聞こえてしまったみたいです。三人とも一斉に口が閉ざされて、目線はあらぬ方向へと泳ぎ出してしまいました、

 加えて、彼らだけでなく他の皆さん全員も。これはもしや、全員後ろ暗いところがあるということなのでしょうか。

 

 

「もちろん、染岡が言ってたみたいに仲間意識を強めるためさ!」

 

 

 しかし、やっぱり円堂さんだけは、まっすぐ私を見ていました。

 

 

「帝国戦であんなことがあっただろ? あれから俺、考えてさ、今の俺たちにはこういうの(・・・・・)が必要だと思って、みんなに話したんだ。もちろん、ベータが嫌だって言うなら、やめるけど……」

 

 

 円堂さんの首がちょっと傾きます。私の顔色を窺っているようですが、正直、それは無用の心配。円堂さんの言葉を拒否することは、私にはちょっと難しすぎるのです。

 とはいえすぐに「いいですよ」と言ってしまうのも、それはそれでどうなんだかって感じです。だから難しい顔になったまましばらく黙り込むしかなかったのですが、その時、そこを雷門さんに突かれてしまいました。

 

 

「米田さん、そこまで“ベータ”と呼ばれたくないの? なら、“ちゃん”も付けるのはどうかしら。“ベータちゃん”って。これなら少しはマシ(・・)になるんじゃないかしら?」

 

「マシって……。『“ベータ”は個性的でかわいらしい』とか言っちゃってませんでした?」

 

「言ったわね。けど、言葉の綾よ」

 

「どっちが“綾”なんだか。でも、それを言うなら雷門さんだって“ちゃん”付けでいいですよね? “夏未ちゃん”なら、土雷門(どら〇もん)みたく『ネーミングセンスがない』だなんて文句はないでしょう?」

 

「もう勘弁してくれって……」

 

 

 そろそろ元気がなくなってきた土門さんはさておいて、私はてっきりここからまた雷門さんとの応酬が始まるものだと思っていました。あのお嬢様らしく上品な雷門さんが名前の“ちゃん”付けなんて受け入れるはずがないと思っていたのです。

 だから彼女の顔にしてやったりな笑みが浮かんだのは、そこそこ大きな衝撃でした。

 

 

「いいわよ? 悪くないじゃない、“夏未ちゃん”」

 

「……あら、いいんですか。これからほんとに呼んじゃいますよ? 夏未ちゃんって」

 

「ええ。お好きになさって」

 

 

 驚いているうちに、「ただし」とさらに付け加えられます。

 

 

「敬意をもって呼ぶのなら、ですけどね。皆さんもわかってらして? 今更言うことでもないだろうけど、私は理事長の娘。私の言葉は理事長の言葉なのだから、私へ向ける言葉もまた、理事長に向けたものと意識しなさい」

 

 

 一拍置いて、してやったりな笑みが私へ、さらにニヤリと。

 

 

「それに、今日からはそこにマネージャーとしての立場も加わるのだから」

 

 

 言いました。

 ですがそれは円堂さんたちにも通っていない決定だったようで、さらに一拍の後、「ええっ!?」と驚きの声が上がりました。

 

 

「ら、雷門がマネージャー……!? あんなに嫌がってたのに、どうして!?」

 

「だって米田さんがマネージャーになれなれとうるさいんだもの。なら本当になってしまえば、そういうイジりはもう使えないじゃない? ……これからは木野さんがフィジカル面、音無さんが情報、私がデータ処理を担当するので、よろしくお願いするわ」

 

「ほ、ほんとに急ですね先輩……。でも、人手が増えるのは大歓迎です!」

 

「うん。今までも雷門さんにはいっぱいお世話になったもん。仲間になってくれるのならうれしいわ」

 

 

 そのマネージャーである音無さんと秋さんからは、おおむね好意的な反応。フットボールフロンティア本戦でこれから忙しくなるでしょうし、確かにちょうどよかったのかもしれません。

 となればやはり、雷門さんからはさらなる視線が飛んできます。

 

 

「そういうわけだから、改めて今後もよろしくね、ベータさん?」

 

 

 これはもう、本格的に嫌と言えそうにありません。

 円堂さんを初めにこうまで外堀を埋められてしまえば、きっともう何を言っても“ベータ”呼びの流れは止まることがないのでしょう。

 

 でもまあ、しかし。

 

 

「……いいですけどね」

 

 

 それが仲間の証であるのなら、悪い気もしません。そうして長らくの確執も捨て去って、祝勝会は続いていくのでした。




お正月に合わせて投稿したと思うでしょ?
偶然なんです。

そして誤字報告をありがとうございました。またひとつかしこくなれました。
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