一応、そんな宮坂さんでもベンチには入ってもらう予定でした。なにしろ雷門サッカー部の部員は、秋さんたちマネージャーを除いて十五人であり、ベンチはまだまだスカスカなのです。
基本も連携も全くできていなくても、もしもの時の交代要員は必要不可欠。だから当然、彼もいっしょに試合に赴く――はずだったのですが、
「クソ……宮坂のやつ、まだなのか!? もう試合が始まっちまうぞ……!」
「……なあ風丸、ちゃんと宮坂にはベンチ入りの話、言ってあるんだよな? 忘れてた、なんてことじゃないよな……?」
「もちろん。昨日の練習の終わりに確かに伝えたさ。間違いない」
「じゃあどうして……。俺たちも、敵の戦国伊賀島中も、もうみんなグラウンドに揃ってるのに……宮坂だけがどこにもいない……!」
今日の試合の会場、スタジアムのどこにも、宮坂さんの姿がありません。
いつかの壁山さんや円堂さんのように会場をぶらついているというわけでもなく、本当にこの場に来てすらいないのです。
そしてその理由も原因もさっぱり不明。おかげで私たちはお手上げ状態になってしまっているのでした。
「……やっぱり、宮坂も俺たちと一緒に行動させるべきだったんでやんすよ。一緒の電車に乗ってれば、こんなことにはならなかったはずでやんす」
「でも、あいつが言い出したんでしょう? 『俺は一人でスタジアムに向かうから、皆さんは皆さんで先に行ってください』って。……っていうか、そもそもどうしてそんなことを……」
「そりゃあ……何か原因があるとしたら、【炎の風見鶏】くらいしかないだろ。染岡にデカい口叩いたのに結局習得できなかったんだから、気まずかったんじゃないか? それか……風丸と一緒にデビュー戦を飾るつもりが、できなくてヘソ曲げた……とか」
「そ、それじゃあ……このまま待っててもあいつは来ないってこと……!?」
「道に迷ったとかじゃなくて、そもそも
「ンなわけあるか! 気まずかろうがヘソ曲げてようが、あいつが試合をすっぽかすなんてことはありえねぇよ!」
「……染岡がそんなこと言うなんてびっくりだなぁ。いつの間に彼のこと認めたの?」
「認めちゃいねぇ! いねぇが……【炎の風見鶏】を完成させてやろうっていう、あいつの根性はマジだった! ……こん中の何人かは覚えがあるはずだぜ。あいつ、『みんなの必殺技から何かコツを掴めるかもしれない』って、特訓の後も俺たちの必殺技をずっと観察してたじゃねぇか! なあ、そうだろ!」
「……そうだね。あの時の宮坂、すごく真剣にタイミングとか、弱点とかまで質問したりしてて……すごく目立ってた」
「ああ。とにかく、宮坂は本気だったんだ。なのにすっぽかすなんてありえない。……それに俺、今朝も念のために電話で連絡したんだよ。その時も『念押しされなくてもちゃんと行く』って言ってたさ。……なんでかちょっとキレてたけど」
「しつこかったんだろ、たぶん。まあでも来るって言ってたなら、俺たちも待つしかないか……」
「で、その結果が今なわけだけど。彼、いったいどこで道草食っちゃってるんだろうね?」
――と、そんなふうに皆さん総出で頭を回しても、もちろん何が変わるわけでもありません。宮坂さんは相変わらず影も形もありませんし、入場口にも気配は皆無。ただただ時間だけが過ぎ、待ちぼうけを食らっている観客たちから「いったいいつになったら試合は始まるんだ」というざわめきが大きくなっていくだけです。
彼のチームメイトたる私たちに向けられるそれはなかなかのプレッシャーで、理不尽です。だからそれがその要因、試合開始の予定時刻を通り過ぎ、そこに合わせてウォーミングアップで温めた身体が冷えてしまったくらいの大遅刻を現在進行形でしでかしている宮坂さんへの憤りに変わるのは、普通に考えて当然でしょう。
皆さんの言葉の節々、心配の中にも、苛立ちや焦りなんかのそういう思いは確かに存在するのです。が、しかし、それでも彼を見限る声が出ないのは、やはり染岡さんが言う所の“根性”があるからなのでしょうか。
私と、豪炎寺さんも【炎の風見鶏】の特訓に集中していたので知りませんでしたが、曰く皆さんの必殺技の観察なんてことをやっていたらしい彼。他人の必殺技が何の参考になるのか、私的には疑問な行動ではありますが、とにかくそれに熱意と好感を感じてしまった皆さんからすれば、何を言おうとも最初から『待つ』以外の選択肢がないのかもしれません。
であるならこの問題、やはり私が口火を切るべきです。
宮坂さんのことは諦めて試合を始めるのだと、そう言ってあげるべきでしょう。どのみち時間的に余裕がないことは明らかですし、あれこれと心配や苛立ち、焦りを口にしている皆さんも内心ではちゃんとわかっているはずです。
必要なのはあと一歩。仲間を見捨てるようなことが言えないのなら、私が背中を押してあげる他ありません。嫌われ役を演じることにはなりますが、これ以上問題がこじれてしまうよりはいくらかマシでしょう。
そう、私は皆さんの難しい顔を眺めながら決心し、いざ説得をと立ち上がった――のですがしかし。
決断は、ほんの少し遅かったようでした。
「おい雷門、いったいいつになったら試合を始める気なんだ」
戦国伊賀島中の選手さんです。もめる前にと思っていたのに、当人が苦情を言いに来てしまいました。
しかも腕に巻かれた腕章を見るに、丸眉の彼はキャプテンである模様。そのいかにも不機嫌そうな眼が、ちょうど席を立ったばかりに私へと向けられてしまっています。
「……だそうですよ、円堂さん」
チームを代表するキャプテンからの苦情なのですから、同じくキャプテンたる円堂さんが対応するべきです。
故に素早く視線を受け流してやると――恐らく、皆さんの会話の中で一際難しい顔をしながら考え込んでいた彼は、丸眉さんの存在に気付いていなかったのでしょう。自分に移った視線にびくりとなって、慌ただしく丸眉さんに聞き返しました。
「ああ! その……えっと、ごめん。聞いてなかったんだけど……なんだって?」
「……だから、どうして試合を始めようとしないのかと聞いてるんだ。予定の時間からいったい何分過ぎたと思ってる? こっちはもう、いい加減に待ちくたびれたぞ」
「あー……それはほんとにごめん。でも、もうちょっとだけ待ってくれ。まだ一人、来てないんだ」
「……? 雷門は全部で十四人のチームだろう? ちゃんと十四人いるように見えるが」
「最近新入部員が入ったんだよ。宮坂 了っていう一年なんだけど……理由はわからないんだけど、遅れてて……」
「宮坂? ……ははっ。それ、マジで言ってるのか?」
雷門のチーム構成を知っていたらしい丸眉さんはベンチに揃った私たちの人数を数えてキョトンとしていましたが、しかし宮坂さんの名前が出た途端、突然クツクツと笑い始めてしまいました。
どうせこの期に及んでまだ宮坂さんを待つ選択をする円堂さんのことを、滑稽だとでも思ったのでしょう。
私も、待つことが無駄だというのには同意見です。しかし丸眉さんが口にしたそれは私よりもずいぶん嘲弄の響きが強く、当然皆さんから――特に沸点の低い染岡さんから怒りの感情を向けられることになりました。
「相変わらず、バカみたいにお人よしなんだなぁ雷門中。だが、残念ながら宮坂は来ないよ。いくら待っても無駄、無駄。……わかったら、さっさと試合を始めようぜ?」
「……おちょくってんのかテメェ……!! 宮坂は来ないだのなんだの、テメェに何でわかる!! 適当なこと抜かしてんじゃねぇよ!!」
「わかるさ。お前よりはよっぽどな」
「野郎……ッ!!」
しかし歯を剥く染岡さんの威嚇も、丸眉さんには全く効果が見られません。彼はにやにや笑いを浮かべたまま、悠然とそう返してきました。
そしてその物言いは奇妙なくらいに自信満々。丸眉さんは完全なる部外者であるはずなのに、それこそまるで自分のことを語るかのような調子です。
あまりに疑いのない断言はむしろ怪しく見えてしまうくらいなのですが、しかしまあ、おかしいということもないでしょう。怒られて済むレベルでない大遅刻っぷりからバックレを確信するのは当然でしょうし、道理です。
それにもしハッタリだとしても、もうこの際関係ありません。どうであれ、宮坂さんは試合に来ない、という結論には変わりなく、そしてそれは私と丸眉さんの共通認識なのです。
だからこそ、言い争いは時間の無駄。狂犬みたいに吠え立てる染岡さんは“おすわり”させて、とにかくこの話を先に進めてしまいましょう。
染岡さんを制して下がらせて、そう、今度こそ切り出そうとしたのですが、しかし。
今度はお年を召したおじいさまの声が、割って入って邪魔してしまったのでした。
「これ、霧隠。いつまで話し込んでおる」
「! 監督……いえ、こいつらが『宮坂がまだだからもう少し待ってくれ』なんて言ってるもので」
おじいさま、戦国伊賀島の監督さんです。
いつの間にそこにいたのか、霧隠なる名前であるらしい丸眉さんの背から肩に手を置いた彼。その霧隠さんは監督さんの叱責にイタズラが成功した子供みたいな顔をしたまま答えますが、しかしそもそも然る気なんてなかったのか監督さんは僅かに微笑んだだけで済ませ、次いでベンチの響木監督へと言いました。
「久しいのう、響木。四十年ぶりか?」
「……ああ。元気そうで何よりだ」
二人とも知り合いであったようです。四十年ぶりということは、響木監督がイナズマイレブンだった時の関係なのでしょうか。
しかし二人ともそれを懐かしむつもりはないようで、戦国伊賀島の監督さんはすぐに顔から好々爺然とした雰囲気を消し去り、ちらりと一瞬、視線を背後へ。なかなか試合を始められないせいで若干イラついているらしい審判さんを示し、続けました。
「……あと三分以内にフィールドに出なければ大会規則により試合放棄と見做す、だそうじゃ。響木、試合を始める準備をせい。でなければ棄権するか? いつかの帝国学園との試合のように」
「言ってくれるじゃないか……!」
どうやらあまり仲はよろしくないようです。響木監督も素直に頷きたくはないのでしょうが、しかし試合放棄をちらつかせられてしまってはどうしようもありません。
おかげでとうとう決心してくれたようで、私としては喜ばしいことに、苦々しげながらも私たちへと告げました。
「……やむを得ん。お前たち、このメンバーで出るぞ。宮坂の分まで、思いっきり戦って来い!」
「「「「「はい……!」」」」」
「それでよい。不戦勝など勝ったうちに入らんからのう、なによりじゃ。……ゆくぞ、霧隠」
響木さんの号令に円堂さんたち皆さんが続き、それに満足したらしい戦国伊賀島の監督さんが好戦的な笑みを浮かべます。そして霧隠さんに声をかけると――次の瞬間、ポンッと一瞬にしてその姿を消してしまいました。
そういえば、戦国伊賀島中は忍者サッカーなるもので有名であるそうです。つまり、これが忍術であるのでしょうか。
そんなふうに慄く中、霧隠さんもまた、意地の悪そうな笑みを浮かべて言いました。
そして――
「……じゃ。試合、お互いに頑張ろうぜ――風丸さん?」
「なに……?」
霧隠さんは風丸さんをじっと見やり、そう名前を呼びました。
それだけなら何ということはない挨拶です。詰め寄る染岡さんでも円堂さんでもなく、わざわざ風丸さんにフォーカスしたことは不思議ではありますが、とはいえそれくらい。
そのはずなのですが、しかし私と、恐らく風丸さんも、同じように眉を顰めることになりました。
奇妙な既視感。風丸さんの名を呼ぶ霧隠さんの声調に、なぜか聞き覚えがあるような気がしてしまったのです。
ですがそれを確かめる間もなく、霧隠さんは監督さんと同じように一瞬にして姿を消してしまったのでした。
不可解な既視感は気になりますが、関係ないそれを試合に持ち込むわけにはいきません。私はそう切り替えて、フィールドに出るなり鳴り響いたキックオフの笛を聞くことになりました。
こちらのボールから始まって、染岡さんから私に渡るパス。そのまま単身ドリブルで切り込んでいく――というのがいつもの動き出しですが、“円堂さんのサッカー”、その要を知った今回はそれをやる気はありません。
円堂さんの、“力を合わせるサッカー”の要は“連携”。そのための【炎の風見鶏】は完成させることができませんでしたが、しかし、ならば普通のプレーでそれを成せばいいだけなのです。
そうしない選択肢からして皆無。故に正面、中央を大胆に開けた戦国伊賀島のフォーメーションの底まで進み、鉢巻を巻いたミッドフィールダーさんと相対したその瞬間、私は一瞬、視線を背後へと向けました。
眼が合うのは半田さん。意図を察して驚く彼に、私は身体を反転させてパスを蹴り出します。
「半田さん、それを持って上がっちゃってください! マックスさんと少林さんも続いて!」
「あ、ああ!」
困惑しながらも頷き、指示した通りに前に詰める半田さんと、同じく続くマックスさんと少林さんのミッドフィールダー三人。普段であれば来ない内容のパスと指示に面食らってはいたものの、皆さんその動揺をすぐに収めることができたようです。
そうして始まった私たち四人の攻撃は、想像していた以上にうまく機能しました。
それは今までのような仕方なしの“連携”ではなく、やるべくしてやった“連携”だったからなのかもしれません。ともかく三人は私の指示の下、敵選手を次々躱して抜き去って、あっという間にフィールドを駆けあがっていきました。
そしてたどり着いた最前線。残す障害もディフェンダーだけとなり、これならあと二度か三度の“連携”で、開始数分での先制点を決めることができるかも――と、そんなことを思った時でした。
「……! よし、行け染岡!!」
「おう、任せろッ!!
たぶん、事がうまく運び過ぎたせいなのでしょう。成功体験に調子に乗ってしまったらしい半田さんは、その時、私の指示を待つことなく勝手に染岡さんへパスを出してしまったのです。
そして当の染岡さんも、蹴り出されたボールを追って背後を向いたその顔にあったのは、あからさまな得意満面。どうやら彼らには今が絶好のシュートチャンスに見えたようです。
故にそれを逃すまいとパスを出し、しかもそれが通ると確信している様子なのですが、しかし。
残念なことにそれは早とちりです。
「ふっ……もらった!」
「あっ……! しまった!」
半田さんの背後から飛び出して来た緑髪のミッドフィールダーさんが、パスに割り込みボールを奪ってしまいました。
それは私からすれば予想の範疇、見えていた妨害だったのですが、チャンスに浮足立った二人の眼には入っていなかったのでしょう。
私の指示なしで動くからそうなるのです。
「せっかく“連携”しちゃってるのに、勝手しないでくださいよ……っ!」
「なっ!?」
瞬時に追いかけ、パスカットした緑髪さんから再びボールを奪い返しました。
正直こんなフォロー、というか尻拭いをさせられて、もうこのまま一人で攻め込みたい気分ではありますが、しかし今回は“連携”に徹すると決めています。確保したボールを、気まずそうにしている染岡さんへとパスします。
「ほら、染岡さん! ちゃんと決めちゃってくださいね!」
「チッ……ああ、わかってるよ!!」
照れ隠しみたいにそう吐き捨て、染岡さんは敵陣へと切り込んでいきました。
その陣形は、すぐにボールを奪い返したことが奇襲のような感じになったのか、乱れ気味。おかげでディフェンダーさんたちは全員染岡さんの前に立ちふさがることもできず、望み通りシュートチャンスを得た彼はすぐにシュート体勢を取りました。
が、しかし。
「させん! 伊賀島流忍法【影縫い】!!」
「おわっ!? な、なんだ!?」
抜き去ったはずの目隠れの選手が何やら印のようなものを結んだ瞬間、背を向け立ち止まったままの彼の影だけが伸び、どういう原理か染岡さんの足を掬ってしまったようでした。
転び、零れたボールはそのまま目隠れさんに回収されて、それでおしまい。もしかしたらとちょっとだけ期待して与えた染岡さんのチャンスは、あっけなく潰えてしまったのです。
残念ですが、しかしまあ、そもそも『もしかしたら』程度の期待です。驚きはありません。仮にもフットボールフロンティア本戦に出てくるようなチーム、染岡さん一人で点を取れるほど甘くないのだと、実証が得られただけ十分でしょう。
そしてボール奪取とほとんど同時に動き出した攻めのプレーを見るに、ディフェンスだけでなくオフェンスの面もさすがのレベルであるようでした。
染岡さんと一緒に前に出ていた豪炎寺さんと少林さん、ドリブルする目隠れさん相手に詰めに行った二人ですが、しかしあっけなくゴボウ抜き。簡単に抜き去ってしまった上に、続いて私と対決すると見せかけてその手前、相対するギリギリまで引き付けてから、反対サイドにパスを出してしまったのです。
能力に加えて判断能力も高い、その証拠。攻守合わせて私の警戒度を上げるには十分すぎる光景でした。
「ディフェンス、全員前へ! それぞれ敵のマークに付いて! マックスさんはボールに対応! 必殺技、使っていいですから、確実に止めちゃってください!」
「りょーかい! 任せて!」
「! ちッ……!」
彼ら戦国伊賀島に私の手の届かないところで勝手されるのはあまりに危険です。ならば多少強引にでも、この場で止めてしまうべきでしょう。
瞬時にそう決め、出した指示。ディフェンスの皆さんも総動員して攻撃陣へのパスコースを塞がせて、その上でマックスさんをけしかけてやれば、ボールを保持する鉢巻のミッドフィールダーさんは目論見通りにその足を止めてくれました。
舌打ちをして、ちゃんと警戒してくれているようです。なまじ基礎の部分で勝っているだけに、唯一の不確定要素である必殺技が際立って見えるのでしょう。
であれば、後はもうどちらに転んでも問題なしです。マックスさんがボールを奪えればそれでよし。できなくても、鉢巻さんの警戒心で私のフォローが間に合うだけの時間稼ぎができれば問題はありません。
彼らの下に駆けながら、私はそんな思惑を頭に描いていたのです。がしかし、鉢巻さんの足が止まって数舜後。
「そのまま行け、風魔!! 【残像】で問題ない!!」
風丸さんにマークされている霧隠さんの大声が響きました。
それは普通に考えれば、警戒するあまり前に踏み出せない鉢巻さん――風魔さんへの鼓舞でしょう。『問題ない』なんて言いながら特に根拠も何もない、円堂さんがよく言うような類の言葉です。
しかし、そうであるはずなのに……なぜなのでしょう。霧隠さんの声はどうしてか、少しばかり自信に満ち溢れすぎているような気がします。
さっきの、宮坂さんの件での断言とほとんど同じ、“確信”です。そしてそのせいで、せっかく止まった風魔さんの足は、すぐにまた動き出してしまいました。
「承知……! 伊賀島流忍法【残像】!!」
「言ってくれるじゃん……! 【クイックドロウ】!!」
霧隠さんの鼓舞――いえ、指示に一切の疑問なく従い、前に踏み出て印を結ぶ風魔さん。それに応じてマックスさんが必殺技でしかけました。
が、結果は霧隠さんが断言した通り。すれ違いざまにボールをかすめ取ろうと動いたマックスさんの足は、なんと風魔さんをすり抜けてしまったのです。
「えっ!? な、なにこれ!? どういうこと!?」
「う、後ろだマックス! すり抜けたのは本人じゃない!」
どうやら【残像】とはその名の通り、幻のようなものを生み出す必殺技だったようです。看破した半田さんの声にマックスさんが驚愕の表情を浮かべたその時にはもう、本物の風魔さんは悠々と彼を抜き去っていました。
そして、またも響く霧隠さんの声。
「風魔、次は甲賀だ! あいつなら行ける!」
「委細承知!」
今度は自信たっぷりに加えてニヤリと笑った霧隠さんに従って、風魔さんがボールを蹴り出します。その行く先は、額に手裏剣の飾りを付けた小柄なミッドフィールダー、甲賀さん。壁山さんがマークしている相手です。
巨躯と矮躯。マークしている者とされている者。普通に考えて、そんな状況でパスなんて通るはずがありません。まして壁山さんには【ザ・ウォール】という必殺技もあるのだから、尚のこと。
しかし、果たして。
「ぐっ……ぜ、絶対に取らせないッスよ! 【ザ・ウォール】!!」
「笑止、その程度の壁など……! 伊賀島流忍法【分身フェイント】!!」
「ああっ!?」
“またも”な忍法で幻どころか三人に分身した甲賀さんは、自分で自分を踏み台にして大ジャンプ。山なりに飛んできたボールを捕まえ、そのまま壁山さんの巨体をピッタリ飛び越えてしまいました。
そのまま流れは止まらず、動揺する守備陣の隙をついてマークから逃げ出してしまったらしい眼帯のフォワードさんにパスを通されてしまいます。あっという間にゴール前まで侵入されて、そしてまた、印が結ばれました。
「伊賀島流忍法【分身シュート】!!」
【分身フェイント】同様に三人に分身し、全員でそのチカラを一つのボールに叩きつける必殺シュート。そこまでの威力は感じられませんでしたが、しかし今までのプレーで円堂さんも警戒心を掻き立てられていたのでしょう。僅かに冷や汗を浮かべながら構え、光の手のひらを繰り出します。
「【ゴッドハンド】ッ……!!」
対決は、もちろん円堂さんの勝ち。シュートは止まり、円堂さんの手の中に納まります。
安堵すべき場面です。しかし――
「残念。【爆裂パンチ】か【熱血パンチ】だったらさらに繋げられたんだがなぁ」
霧隠さんは変わらず、ニヤニヤと笑っていたのでした。