雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第四十三話 “連携”

 霧隠さんの笑みと、元である異様に的確な指示に翻弄される状況は、その後も変わることはありませんでした。

 

 皆さんが何度必殺技を使っても、その度に霧隠さんから飛ぶ指示によってあっけなく攻略されてしまうという、その繰り返し。雷門の必殺技が戦国伊賀島に打ち勝つことは一度もなく、おかげで何本もシュートを打たれることになりました。

 円堂さんの奮闘で未だ無失点に抑えられてはいますが、恐らくそれも時間の問題でしょう。そんな焦燥が前半戦ほどなくして内心に湧いてしまうほどでしたが、とにかく、一度のミスも僅かな間もない霧隠さんの完璧過ぎる(・・・・・)“読み”は、私にその現実を認めさせると共に、一つの不可解を気付かせることになったのです。

 

 

「――霧隠さん、あなた、私たちが使う必殺技がわかっちゃってるんですね」

 

「ん? ああ、そりゃそうだろう。あの帝国に二度も勝ったチームだからな、調査するのは当然じゃないか」

 

 

 相も変わらず攻め込まれている最中、霧隠さんの傍で彼の動きを牽制しながら探りを入れると、すっとぼけた顔と共に返ってきたそんな言葉。

 

 私たちのことは調査済み。それは当然、そうでしょう。彼は私たちが使う必殺技について、明らかに調べて知っています。

 ただ、しかし。

 

 

「それだけじゃないんでしょう? ……ちゃんとわかってますよ」

 

 

 その理解度は、どう考えても『調べて知った』程度では絶対にありえないほど深いのです。

 

 それがどのような必殺技であるかに加えて、発動のタイミングも動きも早さも、全てをまるで実際に体験してきたかのように的確に読み切ることなんて、普通に考えてありえません。

 だから、何かがあるはずなのです。彼が私たちの必殺技を完璧に把握している、そのカラクリ。それがわかれば、きっと現状を打破するきっかけも掴めるはず。

 

 そんな思いで精一杯のカマをかけてみたつもりなのですが、しかしやはり、返ってきたのはあの人をバカにしたようなニヤニヤ笑いだけでした。

 

 

「嘘だな。わかってないだろ、お前」

 

「……あら、どうしてそんなことわかっちゃうのかしら」

 

「わかるさ。なにしろ……俺サマは優秀な忍者だからな!」

 

 

 そんなよくわからないことを胸を張って言った後、霧隠さんのニヤニヤ笑いは私を逸れて前の方向を向きました。つられて見やると、攻め込まれている雷門陣地。必死の抵抗もむなしくディフェンスが破られて、ゴールめがけてシュートが撃ち込まれた、その瞬間でした。

 

 眼帯フォワードさんの【分身シュート】が空を貫き、それを円堂さんの【ゴッドハンド】が迎え撃って受け止める、何度見たかわからない光景が繰り返されています。またゴールを守れたことは良いものの、これでますます円堂さんの疲労が溜まってしまったことになります。

 早くどうにかしなければ。もういっそ“連携”をやめて私がディフェンスに回るべきかと、そんなことを考えた時でした。

 

 

「みんな!! 必殺技が通用しないからって、弱気になるな!! 俺たちは必殺技だけのチームじゃないだろう!? みんなで力を合わせて、チームワークで攻めるんだ!!」

 

 

 きっと私だけでなく皆さんも、必殺技が読まれまくっていることに焦燥感やら絶望感やら感じてしまっていたのでしょう。それを吹き飛ばすような、円堂さんの鼓舞、そして指令の声が私の下まで響きました。

 

 ハッとさせられました。確かにその通り、必殺技が通じないから個人プレーに逃げるなんてお門違いもいいところです。こんな状況だとしても、“連携”を使って取れる手段はまだあります。

 そう気付かされたと同時に円堂さんからボールを託された皆さんも戦意を盛り返し、私はそこに円堂さんの要望通りの指示を出しました。

 

 

「土門さん、風丸さんにパスです! 風丸さんを中心に、足でボールを運んじゃって!」

 

「オッケー! 風丸!」

 

「ああ、任せろ!」

 

 

 風丸さんの足の速さを使った作戦。必殺技がどうこうという事態になる前に速さで置き去りにしてやろうという、そんな気迫のドリブルは、今まで以上の速度を引き出すことができたようでした。

 

 風丸さんはすさまじい速さでフィールドを駆け抜けていきました。攻め込んでいたフォワードとミッドフィールダーさんたちは、誰一人として彼に追いつくことができません。なんて速さだと驚愕に眼を剥くばかりで、風丸さんの背を追うではなく正面から立ち向かえたのは、私が中央で抑えていた霧隠さんだけでした。

 しかしその彼も風丸さんなら振り払えるでしょう――と、風丸さんの思いもよらぬ速さを見て、私は思ったのですが、残念ながらそこまでうまくはいきません。

 

 

「相変わらず速いな! だが俺ほどじゃねぇ!!」

 

「っ!? こいつ……!!」

 

「今の風丸のスピードについて行ってやがるのか!?」

 

 

 私としても予想外。霧隠さんの足は風丸さんに迫るほどのものだったのです。染岡さんも驚きのようで、思わずといった声が上がっています。

 

 そして『相変わらず』だとか、またも実際に体験していたかのように言う霧隠さんは、いかにも余裕そうに口角を上げていました。その内側はどうせ変わらないニヤニヤなのでしょうが、それでも風丸さんの意地に火を付けるのは十分です。

 

 

「くっ……なら、これでどうだッ!!」

 

「おっ! やるねぇ、まだギアを上げられるのか! 確かにこれはちょっと、追いつくのは厳しくなってきたかもな」

 

 

 風丸さんのドリブル速度がさらに上がり、徐々にではあるものの、霧隠さんを引き剥がし始めました。

 が、その時。

 

 

「だが覚えときな……サッカーは“速さ”だけじゃないんだぜ! ――藤林!」

 

「ッ!! 風丸、後ろだッ!!」

 

「!?」

 

 

 半田さんが気付いて叫ぶも、もう手遅れ。声の通りに振り向いた風丸さんは、戦慄を浮かべながらそれ(・・)を見ていることしかできません。

 霧隠さんと接戦を演じながら、気付くことなく追い抜いていたのだろう敵の一人。前に出てきていた小柄なディフェンダーさん、藤林さんが、その瞬間、またも印を結んで必殺技を発動させました。

 

 

「伊賀島流忍法【影縫い】!!」

 

「ぐっ――うわぁっ!!」

 

「全く、サイドバックのくせに視野が狭いなァ風丸さんは! もらったぜ!!」

 

 

 藤林さんの【影縫い】、不意を突いて伸びてくる影を、冷静さを削がれた状態で躱せるはずもありません。風丸さんはなす術なく転ばされてしまいます。

 そんな彼を散々煽って注意を逸らしてのけた霧隠さんがしてやったりとほくそ笑んで切り返し、身体を反転。そして影に止められ、ポツンとその場に置き去りにされたボールを――

 

 ずっとそんな事態になるのを待ち構えていた私が、かすめ取りました。

 

 

「なっ――お前、まさか藤林の必殺技を読んでたのか!?」

 

 

 普通に考えて、必殺技の発動を見てから動くのでは絶対に間に合わないタイミングだったのです。霧隠さんが『あり得ない』と息を呑むのも当然でしょう。

 今までずっとイニシアチブを取られていた相手にそんな表情をさせられたのは実に爽快なのですが、しかし残念なことに、私は別に霧隠さん並みの予知染みた“読み”に覚醒したわけではありません。

 

 

「【影縫い】が来るってわかってたわけじゃないですよ! ただ、風丸さんのドリブルもいずれどこかで止められちゃうってことはわかってましたから! それを利用して“連携”したまでです!」

 

 

 奇しくも霧隠さんが言っていた通り、サッカーは速さだけではありません。だから風丸さんの足を使ったドリブル作戦もどこかで破綻することは目に見えており、故に私はずっとそれに備えて準備していたという、ただそれだけのことです。

 

 付かず離れず二人の速さに付いて行きつつ、思惑がバレないようにギリギリの距離を保つのは中々に大変でしたが、その成果はありました。ミッドフィールダーに続いてディフェンダーの一人も風丸さんが引きつけてくれた今、前方に残るディフェンスは三人だけ。それさえ抜けば、後はもうキーパーだけです。

 そう、転んだ風丸さんと唖然とする霧隠さんを追い抜かしたのですが、やはりというか、霧隠さんはすぐに我を取り戻して私の後を追ってきました。衝撃を引きずった冷や汗交じりの声色が、背中に強がりを吐きかけてきます。

 

 

「はっ……利用(・・)だあ? 酷いこと考えてるんだな、お前……! そんなもん、風丸を囮にしたも同然じゃねぇか……!」

 

「囮じゃなくって、“連携”です! 滅多なこと言わないでほしいんですけど!」

 

「そっちこそ、よく言う……!」

 

 

 そしてその強がりは、徐々にその距離を詰めてきました。これもやはり、風丸さんとの走りでエンジンがかかった霧隠さんの足は私を上回るものである様子。追いつかれるのは時間の問題でしょう。

 

 霧隠さんの“読み”のカラクリがわかっていない以上、接触は厳禁です。このまま自分でシュートを決めたいところですが、致し方なし。視線を振って、逆サイドの豪炎寺さんと染岡さんにアイコンタクトを送ります。

 シュートが決まるかどうかはわかりませんが、彼らに打ってもらうしかありません。霧隠さんの強がりの相手をしながら、追いつかれるその寸前、私はパスをしようとして――

 

 ちょうどその瞬間でした。

 

 

「そんなんだから、【炎の風見鶏】も完成させられなかったんじゃねぇの?」

 

「え――!!?」

 

 

 霧隠さんの、そんな言葉。耳元ではっきりと聞こえたそれに、私は動揺せざるを得ませんでした。

 

 霧隠さんが私たちの必殺技を把握しているのは、まあ百歩譲っていいでしょう。理解度の高さは不気味ですが、彼の考察能力がすさまじく高かったとか、そういう感じに無理矢理納得することもできます。

 ただし【炎の風見鶏】は別。秘密の倉庫グラウンドで特訓したその存在は、雷門メンバー以外には知り得ない情報であるはずなのです。

 

 『完成させられなかった』というのもそう。霧隠さんが知っているはずがない情報を、なぜか彼が持っている。意味不明で理解不能。そんな言葉がいきなり耳に叩きつけられて、思わず一瞬、私の身体は固まってしまいました。

 

 そしてその一瞬を、霧隠さんが見逃さないはずがありません。彼は私に追いつき、パスされる直前だったボールを易々と奪うとそのまま反転。勝ち誇るように言いました。

 

 

「ハハッ! ざまぁないなぁベータさん? そのマヌケさに敬意を表して……本物(・・)を見せてやるよ! ――伊賀島流蹴球戦術【偃月の陣】!!」

 

 

 その声と共に、戦国伊賀島の選手たちが陣形を変えました。霧隠さんを中心にした逆V字。槍のようなフォーメーションを取ったかと思えば、巻き上がった砂塵でそれを覆いながらそのまま突進していったのです。

 慌てて止めに行こうとする雷門メンバーですが、砂塵に弾かれ誰もその進撃を止めることができません。あっという間にゴール近くまで攻め入られ、砂塵から飛び出した霧隠さん。

 

 

「見たか! これが本物の連携だ! そして――」

 

 

 そして、跳び出てきたもう一人。鉢巻の風魔さん。

 

 

「これが本物の、イナズマイレブンの最強必殺シュートだッ!!」

 

 

 その称号と共に、二人がシュート体勢を取りました。

 高く上げたボールに左右から駆け込み、同時に蹴り上げるその動作。それは明らかに、私たちがイナズマイレブンのおじさまたちから学んだ必殺技そのものです。

 そして、その中でも霧隠さんのその動き。それが風丸さんと特訓をしていた宮坂さんのそれとピッタリ重なって、それで私はようやく今までの疑問、カラクリに確信を抱くことができました。

 とはいえそれで放たれるシュートを止められるはずもなく、

 

 

「「【炎の風見鶏】!!」」

 

「な――ぐっ……うわぁッ!!」

 

 

 円堂さんも衝撃のあまり技を出すこともできず、炎の鳥はゴールを貫いてしまったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、攻め続けられながらもどうにか点差は一点のままで抑えたものの、前半戦の間に皆さんの中から【炎の風見鶏】の衝撃が抜けることはありませんでした。

 

 無理もないことでしょう。霧隠さんのその“カラクリ”を理解した私でさえ、信じられない思いでいっぱいなのです。それをまだ理解できていない皆さんにとっては、尚のこと受け入れ難い状況であるに違いありません。

 その証拠に、ハーフタイム中のベンチは張り詰めたように静まり返っていました。

 

 

「……戦国伊賀島のやつら、なぜ【炎の風見鶏】が使えるんだ……?」

 

 

 そんな中、ショックの静寂に耐えかねたようにぽつりと漏れる、染岡さんの心底の疑問の声。それに答えたのは、私以外で恐らく唯一、霧隠さんの違和感に気付けた風丸さんでした。

 彼はすうっと息を吸い込み、絞り出すようにその名前を言いました。

 

 

「……宮坂だ」

 

「宮坂……? ああ、そういえばあいつ、前半戦が終わっても結局、来なかったな。あいつがどうかしたのか?」

 

「っ……」

 

その宮坂さんが(・・・・・・・)霧隠さんだった(・・・・・・・)ってことです。化けてたんですよ。きっと、残像とか分身とかができちゃう忍者サッカーを使って」

 

 

 ギリと悔しげに歯を食いしばってしまった風丸さんに代わり、付け加えました。

 

 つまり、私たちは敵である霧隠さんを宮坂さんだと信じ込み、雷門サッカー部の一員に加えてしまっていたのです。

 風丸さんに『陸上部に戻ってくれ』と迫っていたのは本物の宮坂さんですが、そんなことなど忘れて人が変わったように意欲的に練習をしていたのは偽物の宮坂さん――もとい、霧隠さんだったということ。皆さんが遅刻だと信じて待っていたのも、実のところ宮坂さんではなく霧隠さんだったのだから、それは彼も自信を持ってニヤニヤ笑いするでしょう。

 わかってしまえば反証もありません。宮坂さんの変わりようも、まるで(・・・)どころか実際に人が入れ替わっていたわけですし、【炎の風見鶏】の特訓で彼と風丸さんと息が合わなかったことだって頷けます。そうやって彼、宮坂さんに化けた霧隠さんは、イナズマイレブンからの【炎の風見鶏】の特訓の経験を盗み出し、自分の本来のチームに持ち帰って完成させてのけたのです。

 

 そしてそこまで明らかになれば、もう一つの疑問のほうも解消するのは簡単です。実際、事実を伝えてあげるなり皆さんハッとなって騒めき始め、やがてそれにたどり着きました。

 

 

「宮坂が……ニセモノだった……!? ってことは……」

 

「もしかして、俺たちの必殺技があいつに筒抜けなのも……?」

 

「俺たちが宮坂に……霧隠のやつに頼まれて、必殺技を見せちゃったからか……!」

 

「必殺技そのものどころか、その弱点まで自分から教えちゃったんでしょう? むべなるかなって感じです」

 

「そ、そんな……」

 

 

 自業自得。要するに、それが霧隠さんに必殺技を悉く読まれてしまった原因です。その事実は、今まで共に練習を重ねてきた宮坂さんが自分たちを騙していたという、そんなショックも手伝って、ますます肩を落とす結果となってしまったようでした。

 

 とはいえしかし、そうだと知れて喜ぶべきことも一つあります。

 

 

「おかげで後半戦の戦略が立てられちゃったじゃないですか。だからほら、皆さんそんなに落ち込まないで」

 

「……? 戦略って?」

 

「簡単です。霧隠さんの“読み”が皆さんから教えてもらって得たものなら、彼に必殺技を見せてない私と豪炎寺さんはセーフってことでしょう?」

 

「……あ、そうか!」

 

 

 そうなのです。皆さんに加えて、宮坂さんとパートナーで特訓をしていた風丸さんの必殺技は手遅れでしょうが、ずっと【炎の風見鶏】に集中していた私と豪炎寺さんの必殺技は、きっと霧隠さんには読めません。

 だから後半戦、必殺技が通用する私たちを中心にプレーすればいいのです。

 

 

「序盤と中盤はパス回しで何とか乗り切って、終盤、ディフェンス陣は私と豪炎寺さんで攻め切ります」

 

 

 そして最後は【ファイアトルネード】か、可能ならば私の【ダブルショット】を打って得点してやりましょう。

 そう、続けようとした矢先でした。

 

 

「で、こっちも【炎の風見鶏】をぶち込んでやったら完璧だな。だろ?」

 

「……はい?」

 

 

 思わず疑問符が口から出てきてしまいました。

 だってそうです。『こっちも』だなんて言っていますが、そもそも私たちの【炎の風見鶏】は未完成。『ぶち込む』も何もそもそも打てもしないのです。

 

 がしかし、【炎の風見鶏】を打つ発想すらなかった私の反応は、さも当然といったふうに同意を求めてきた染岡さんには気に食わないものでした。彼はたちまち眉間に皺を寄せ、唸るように言いました。

 

 

「お前……悔しくねぇのかよ。……【炎の風見鶏】は本来、俺たちがイナズマイレブンから託されたものだ。あいつらはそれを盗んだにすぎねぇ。なのに……っ!! あいつらだけしかわざを使えねぇんじゃ、どっちが託されたかわからねぇじゃねぇか!! そんなの……俺は我慢できねぇ!!」

 

 

 押し込められていた煮えたぎる思いが噴き出しました。そして程度はどうであれ、そんな悔しさ、対抗心は皆さんの中にもあった様子。周囲から同意の圧迫感を感じます。

 

 まあ、私もその想いがわからないわけではないのですが、

 

 

「確かに、イラっとはしちゃいますけど……でも、使えないものはどうしようもないじゃないですか」

 

 

 結局のところ、それ。【炎の風見鶏】を使えというのなら、そこをどうにかする案なりなんなり出してほしいところです。

 そうため息を吐いた直後。

 

 

「なら今、完成させればいいんだよ! 野生中の時の【イナズマ落とし】みたいにさ!」

 

 

 円堂さんが相変わらずな元気のいい声で言いました。それで調子に乗った染岡さんが続きます。

 

 

「そうだ!! あいつらがイナズマイレブンの特訓を元に必殺技を完成させたなら、お前たちに同じことができないはずがねぇ!!」

 

「ああ! 雷門の底力、見せてやろうぜ!」

 

「いや、そう言われても……。【イナズマ落とし】とは全然状況が違うんですから」

 

 

 【イナズマ落とし】は、言ってしまえばただの二段ジャンプ。壁山さんが動きさえしなければうまくいく必殺技でした。それと【炎の風見鶏】を並べるのは間違っているような気がしてなりません。

 そう思うも、しかしその時、二人に続いて三人目。

 

 

「どうだろうな。根本的な問題は同じだろう」

 

 

 豪炎寺さんまでもが同調の言葉を放ってきました

 

 

「……奴らの【炎の風見鶏】を見る限り、やはりボールを蹴り上げるまでは問題ない。距離、スピード、タイミング、どれもミスはないだろう。だから俺たちの【炎の風見鶏】の問題は、シュートの瞬間……俺とお前のキックを合わせる瞬間にあるのだと思う」

 

「まあ、そうでしょうね。そこまではイナズマイレブンのおじさまたちのお墨付きですし」

 

「ああ。だから……改めて聞くが、ベータ。お前……本当に俺と、力を合わせられているか……?」

 

 

 今までの特訓のおさらいのようなことを並べ立て、挙句に続いたそんな質問。真剣な表情をしながら縋るような眼で私を見つめてくる彼は、いったい何を恐れているのでしょう。

 どちらもさっぱりです。特に“連携”とは何かわかっているのか、とでも言わんばかりのその質問。今更そんなことを疑われるとは予想外にもほどがあります。

 基礎すらおぼつかないやつだと思われていることにムカッとしつつ、それを言外に大きなため息で表しながら、私は彼に当然の答えを返しました。

 

 

「一緒に特訓もしてたのに、豪炎寺さんったらそんなこともわかってくれてなかったんですね。がっかりです。……もちろん、できてるに決まってるじゃないですか。これまではともかく、今は私も“力を合わせるサッカー”をしようとしちゃってるんですから」

 

 

 だからこの試合だって“連携”に徹しています。頑張っていたのに、ミスらしいミスも犯した覚えはないのに、認められなかったみたいで悲しくなってきました。

 必殺技に関してもそうです。“連携”を疑われるほど非協力的だったわけでもなく、特訓だって意欲的にやってきたはずなのに、この言われよう。それに帝国戦の時、豪炎寺さんと染岡さんとで“力を合わせて”得点をしたこともあるはずなのですが、もしかして豪炎寺さんはあれを忘れてしまったのでしょうか。

 

 “連携”とは、誰かと一緒に何かを成すことです。手を貸し、あるいは後押しし、それができるように導いてあげること(・・・・・・・・)。私がそれをできていないと思うなら、彼こそが“連携”を理解できていないのです。

 

 

「……そうか」

 

 

 だからはっきり真正面から言い返してあげたのですが――すると一転、豪炎寺さんは悩ましげに眉尻を下げ、その厳めしいお顔までもがしゅんと萎んでしまったのです。

 

 意外なことに、私の言葉は彼を随分落ち込ませてしまったようでした。何がそこまでショックだったのかはわかりませんが、ともかく、そんな彼の姿に私の苛立ちもスッと引いてしまいます。

 たぶん豪炎寺さんも、彼なりに必死に私たちの【炎の風見鶏】が上手くいかない原因を考えてくれていたのでしょう。それを切り捨て「はい終わり」とするのは、彼の頑張りに対してちょっと不義理であるような気がしてきます。

 それに……そうです。“連携”のためにも、【炎の風見鶏】を捨て去ってしまうのはあまり良いことではないでしょう。

 罪悪感に続いてそんな言い訳まで見つけてしまえば、もうお手上げです。気付けば私の心情は「やめておけ」と諫める理性に反し、【炎の風見鶏】強行派に白旗を上げてしまっていたのでした。

 

 

「ああもう。……わかりました。成功させられるのならそれに越したことはないわけですし、やるだけやってみちゃいますよ、【炎の風見鶏】」

 

 

 正直、失敗して恥をかくだけな気しかしませんが。

 そんな思いが滲み出た渋々の了承だったのですが、しかしギリギリ及第点を得ることができたようです。染岡さんがムスッとした表情のままながら頷いて、そして円堂さんも万事解決とでも言わんばかりに「よおしっ!」と続けて言いました。

 

 

「頼んだぞ、ベータ、豪炎寺! ボールは俺たちが必ず繋いでみせるから、イナズマイレブンから受け継いだ雷門の【炎の風見鶏】、戦国伊賀島に見せつけてやってくれよな!」

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