雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第四十四話 雷門の風見鶏

「――【スピニングアッパー】!!」

 

「うわぁッ!?」

 

 

 後半戦。ようやく使う機会が訪れた私の必殺技は、やはり思った通り、霧隠さんの“読み”の範疇にはないようでした。

 

 回転するボールに巻き込まれ、吹っ飛んでいく鉢がねマスクのディフェンダーさん。皆さんのパスでここまでボールを運んでくるのが大変だっただけに、なんともあっけない有様です。

 こんなことなら皆さんに任せたりせず最初から私一人でドリブルした方がいいような気がしてしまいますが、しかしこれも“連携”、“円堂さんのサッカー”のため。ぐっとこらえて呑み込みます。

 気持ちを切り替え、見やるは前方。ディフェンスを排除して切り開いたシュートチャンスに意識を向けます。腰を落として構える覆面のキーパーさんを視界に入れつつ、少し離れて走る豪炎寺さんへアイコンタクトを送って、同時に私はボールを互いの中央へと蹴り上げました。

 

 

「いきますよ、豪炎寺さん!」

 

「ああ!」

 

 

 お互いボールの落下地点めがけてダッシュ。同じスピード、タイミングで、降ってきたボールを再び蹴り上げて――そして打ち放ちました。

 

 

「「【炎の風見鶏】!!」」

 

 

 やるからには全力でと、そんな思いで放ったそのシュートは、今まででも飛びぬけてうまくいった会心の一発になりました。

 曰く【炎の風見鶏】において重要な、距離、スピード、タイミング、そしてパワー、ありとあらゆる面で完璧です。イナズマイレブンのおじさまたちとの特訓の成果を十全に発揮した、これぞ私が目指した必殺技そのままだと、そう自信を持って言えるほどの出来だったのです。

 

 ――つまり、ただの一度も成功しなかった特訓の延長線上にあるシュート。

 打つなり威力は立ち消えて、そのままあっけなくキーパーさんの腕の中に納まってしまったのでした。

 

 

「……これが、【炎の風見鶏】……?」

 

「はははッ! 百地、だから言っただろう? 雷門の【炎の風見鶏】は警戒するに値しないってな! こうなることは読むまでもなくわかりきってたさ!」

 

「野郎……ッ!!」

 

 

 怪訝な顔でボールを見つめるキーパーさん、百地さんに、霧隠さんはこちらの気持ちを逆撫でするようなことを言いながら笑っています。

 おかげで染岡さんの眼なんかはいよいよ危ない雰囲気を醸し出しつつあるのですが、そんなこともお構いなし。むしろ嗜虐心が刺激されたようで、彼はもはや面と向かって煽り言葉を撒き散らしてきました。

 

 

「あれだけ特訓してこの程度なら、もうどれだけやっても雷門に【炎の風見鶏】は使えないだろう。……全く、あの備流田とかいう鬱陶しい脳筋オヤジもかわいそうだよな。雷門に継承するはずが、今や【炎の風見鶏】は敵である俺たちにしか使えない必殺技になっちまったんだから!」

 

 

 調子に乗るあまり、とうとう宮坂さんに成り代わっていたことを隠そうともしなくなった霧隠れさん。しかしプレーの面は文字通り憎たらしいほど冷静で、急いで下がろうとする私と豪炎寺さんをも置き去りにするディフェンス陣の素早いパス回しを経てボールを受け取ると、その足を生かした高速ドリブルであっという間に雷門陣地へ切り込んでいきました。

 そしてそんな彼に対し、やはり私と豪炎寺さん以外の必殺技は通じません。

 

 

「っ……止めるッ! 【キラースライド】!!」

 

「無駄無駄!! 伊賀島流忍法【残像】!! そんでもって――もう一点だ!! 風魔!!」

 

「承知……!!」

 

 

 立ちはだかった土門さんのスライディングタックルは幻影に惑わされ、またもゴール前で二人が揃ってしまいます。ならばもう、打たれないわけがありません。

 

 

「「【炎の風見鶏】!!」」

 

「入れさせるか!! 【ゴッドハンド】――ぐぅ……っ!?」

 

 

 再び放たれた炎の鳥を、円堂さんの光の手のひらが迎え撃ちます。が、【炎の風見鶏】はイナズマイレブンが誇った最強シュート。霧隠さんたちのそれも、本家と同等に近い威力を秘めていたようです。

 炎の鳥は光の手のひらを打ち砕き、そしてゴールに入ってしまいました。

 

 

「そ、そんな……」

 

「二点目、か……」

 

 

 ゴールを告げる実況の声と観客の完成がごうごうと響く中、少林さんと半田さんが呆然とゴールを見つめて呟きました。

 他の皆さんも似たような状態です。私たちの【炎の風見鶏】の失敗に加えてダメ押しの追加点も決められて、皆さん目に見えて戦意が陰ってしまっています。

 そしてそんな空気を作りだした霧隠さんは、高笑いしながら尚も嫌味な口を開いたのでした。

 

 

「ハッハッハァ!! どうだ見たか雷門中!! これが俺たち戦国伊賀島の強さだ!! 秘伝の忍術で鍛えた能力とコンビネーション、そこに今や、雷門の最強必殺シュートも加わった!! 今の俺たちに死角なし!! 無敵だぁッ!!」

 

「く……っ!」

 

 

 無敵。今の戦況からしてそれを戯言と否定できないところが特に、全くもって質の悪い台詞です。

 【炎の風見鶏】なんてその最たるものでしょう。経緯には物申したくあるものの、その完成度は間違いなく完璧。私たちと違ってイナズマイレブンの必殺技を見事に継承してのけたと、そう言えてしまうほどなのですから。

 

 だから私も、そこは認めるほかありません。その他の、身体能力やサッカー技術、コンビネーションも、まあ認めてもいいでしょう

 が、しかし。

 

 

「……『雷門最強の必殺シュート』、ねぇ」

 

 

 そこにだけは頷いてやれません。

 あの程度で『最強』だなんて、ちょっと片腹痛すぎます。そもそも【炎の風見鶏】は、あくまでイナズマイレブンの最強必殺シュート。雷門の(・・・)ではありません。

 霧隠さんが最強のシュート技を求めて雷門サッカー部に潜入してきたのなら、彼は私の【ダブルショット】こそを盗むべきだったのです。

 

 点差を二点まで広げられていよいよ後がなくなってしまった今、どうせなら――

 

 

「――思い知らせてやる……!」

 

 

 大義名分も手に入れたオレは、霧隠の伸びた鼻を叩き折ってやるべくそう心に決めたのだった。

 

 そうして試合再開のキックオフ。それまでのようにボールを後ろに託すのはやめ、オレは自らドリブルで突っ込んだ。

 

 

「どけ!! 邪魔だッ!!」

 

「ぐおっ……!? む、無念……!」

 

「なんという膂力……! こ奴、さっきまでとは別人だ!」

 

 

 敵を力づくで撥ね飛ばしながら突き進む。そうやって敵陣地の半分ほどを駆け抜けると、さすがに皆もオレがパスを出すそぶりも見せないことを訝り始めたようだった。並走する豪炎寺が、眉を顰めながらそれを口にする。

 

 

「おい、ベータ! いい加減、誰かにボールを回せ! 持ちすぎると狙われるぞ!」

 

「霧隠に必殺技を教えちまった誰か(・・)に預けるよりは、狙われてでもオレが運んだ方がマシだろ!! ……“連携”に拘り過ぎてると、勝てるものも勝てなくなるぞ!!」

 

 

 “連携”は重要だ。なぜならそれは“円堂のサッカー”の根幹を成すものだから。

 だがもうそんな贅沢を言っていられる場合ではないのだ。そういう所にまで事態は進んでしまっているのだと、彼はどうやらわかっていないらしい。いくら重要でも、負けたら何にもならないだろうに。

 

 若干呆れつつそう言い返し、であればこれもしっかり伝えておくべきなのかと、オレはさらに言葉を続けた。

 

 

「もう、【炎の風見鶏】にかまけてる暇もねぇんだ……! ここからは【ダブルショット】で点を取りに行く! 何ならお前の【ファイアトルネード】でもいい! とにかく今この状況でまともにプレーできるのはオレたちだけなんだから、二人だけでやるんだよ! それに……“皆と”じゃないにしろ、それだって“連携”だろう!?」

 

 

 機能不全な皆の分まで戦うのだ。ある意味それも“力を合わせるサッカー”だろう。

 だから――と、差し出した視線は、しかし。

 

 

「ベータ……! 違う、そうじゃない……! それは――」

 

「ハッ! なんだ、【炎の風見鶏】はもう見せちゃくれねぇのか? 無様すぎて面白かったのにさ!」

 

 

 霧隠に遮られた。

 

 その時一瞬、どこか悲しげに歪んだ豪炎寺の顔が見えた気がしたが、しかしそれも突然その間に飛び出して来た嘲弄の顔に取って代わられた。挙句そのままショルダーチャージまで仕掛けられれば、オレもそっちに意識を向けざるを得ない。

 細身なくせに壁山かと思うくらいの体幹で押してくる奴の攻撃をどうにかいなしつつ、吐き捨てた。

 

 

「チッ……ウゼェなお前……!! フォワードはフォワードらしく、前でつっ立ってればいいものを……!!」

 

「それをお前が言うのか? さっきから一人で爆走してるくせに! ……だがまあ、その足の速さは褒めてやるよ! まさか俺や風丸の他にも、ここまで走れるやつがいるとは思わなかった!」

 

「そうかよ! 宮坂のやつの前で走ってなくてよかったぜ!!」

 

「へっ……!」

 

 

 オレの台詞に、奴はかつて宮坂として染岡に実力を見せつけた時と同じ笑みを浮かべた。

 しかしもちろん、オレが染岡のように打ち負かされるはずがない。奴の足のギアが上がり、それに追い抜かれないように必死にならざるを得ないような状況だが、だとしてもこのボールの奪い合い、勝つのはオレだ。

 なぜなら、奴もそう言った通り、

 

 

「サッカーは足だけじゃねぇんだよ!!」

 

「ッ!」

 

 

 奴の足に食い下がりつつ、仕掛けたフェイントが見事に決まった。惑わされた奴の足はオレの進行方向と反対を向く。そしてそのまま、振り切った。

 

 そうしてオレが勝ち取り、霧隠がムダにしたのは一歩分の間。普通であればごく小さなアドバンテージだが、互いの速さが相俟って、生まれた彼我の距離はずっと大きなものとなる。少なくとも、オレがゴールにたどり着く前に霧隠が追い付くことはないだろう。

 厄介なスプリンターはこれで排除できた。後はディフェンスを破るのみだ。他の面子なら必殺技を対策されて終わりだが、オレの【スピニングアッパー】相手にそれはできない。

 故に得点を幻視した――その時でした。

 

 

「――ベータッ!! お前囲まれてるぞ!!」

 

「え――っ!?」

 

 

 切迫した染岡さんの声。そのあまりに言われるがまま左右を見やって、すぐに気付きました。

 

 どうやら私は霧隠さんの相手に夢中になり過ぎてしまっていたようです。

 前半戦に見た【偃月の陣】、その上下反転したV字型の陣形が、いつの間にか私の周囲を取り囲んでいます。脱出はもちろん、人の壁のせいで誰かにパスを出すこともできそうにありません。誘導されいるとわかっていても、ドリブルを続ける他ない状況。

 

 

「『サッカーは足だけじゃない』。自分の言葉を俺が忘れると思ったか? ……お前はもう、【鶴翼の陣】の術中だ!」

 

 

 霧隠さんは最初から、これを狙っていたのでしょう。陣形の末端に加わっていた彼は変わらず得意げに宣言し、そしてその言葉の通り、私はもはやされるがままになるしかありませんでした。

 

 そうしてたどり着いたのは、巨漢のディフェンダー二人組の正面。彼らの足は私を認めるなり振り上げられて、そしてそのまま力強く地面を踏みつけました。

 

 

「「伊賀島流忍法【四股踏み】!!」」

 

「うっ……きゃあっ!」

 

 

 撒き散らされた衝撃波に、私はその場に踏み止まることができません。あえなく吹き飛ばされてしまい、そして同様に吹き飛んだボールは、腹立たしくも霧隠さんの下へ。彼はそれを足元に収めると、倒された私を見下ろしながら嘲るように鼻を鳴らしました。

 

 

「たった一人で俺たちを相手しようとか、片腹痛いんだよ。わかったら、お前はそこで黙って見てればいい。俺たちがまたお前たちのゴールをたたき割るさまをなぁ!」

 

「この……ッ!! させるかよ!!」

 

 

 言い捨て、霧隠さんがドリブルで走り出しました。染岡さんが「行かせるものか」と追いかけますが、足的にも技術的にもやはり劣勢。

 

 

「ふざけやがって……ッ!! 人の必殺技をパクっただけの分際で、調子に乗ってんじゃねぇぞッ……!!」

 

「言ってくれるなァ、染岡さん? じゃ、またその期待に応えてやるよ! 【炎の風見鶏】じゃない、俺本来の必殺シュートを見せてやる! ……だからあんたもすっこんでろ! 伊賀島流蹴球戦術【偃月の陣】!!」

 

「なっ……クソ、また……ッ!!」

 

 

 意図したものなのかはともかく重ねられた挑発も霧隠さんを勢い付かせるだけにしかななず、挙句、私を止めた【鶴翼の陣】がそのまま転じ、再び生まれた砂塵の槍が染岡さんを弾き飛ばしました。

 相変わらず、私たちにそれに抗う術はありません。染岡さんに続いて立ち向かったミッドフィールダー陣も一蹴されて、以前と同じようにあっという間に自陣にまで入り込まれてしまいます。

 

 それはもう止めようがなく、故にディフェンスの皆さんはその後に照準を絞っていたようでした。

 つまり敵がシュートを撃つため砂塵から出てくるその瞬間、そこで仕掛けてボールを止めようとしているのです。

 そのために皆さんゴール前に集まって身構えていましたが、しかし、そんな誰でも思いつくような【偃月の陣】への対策を、霧隠さんたち戦国伊賀島が想定していないはずがありません。

 

 

「風魔!」

 

「承知! 伊賀島流忍法【くもの糸】!!」

 

「うわっ!? な、なんだ!?」

 

「足が……っ!」

 

「ベトベトして、動けないでやんす!?」

 

 

 砂塵から飛び出してきたのは霧隠さんではなく風魔さん。皆さんの正面に飛び出して来た彼が手のひらを地面に突いた途端、放射線状に広がった“クモの巣”が途端に皆さんの足を絡め取ってしまいました。

 

 そうして今度こそ砂塵が解けて消え、ボールを持った霧隠さんが姿を現すも、皆さんもうその場から動けません。

 ただし一人、その制限の範囲外。風丸さんがその足でギリギリ広がる蜘蛛の巣から逃げ切ったようではありますが、

 

 

「さすがだな、風丸。【くもの糸】から逃れるとは思わなかった。だが……そこまで離れてしまえば、どのみちもう俺の邪魔はできねぇ!」

 

「くっ……!!」

 

 

 【くもの糸】から逃げ切ったということは、それすなわち霧隠さんたちが立つゴール前から遠ざかってしまったということ。シュートの瞬間を叩くという当初の作戦が瓦解してしまったことに違いはありません。

 故に、残るゴールの守り手は円堂さんのみ。その背後のゴールめがけて、霧隠さんは悠々とシュートを打ちました。

 

 

「さあ……お望み通り、これが俺の必殺シュートだ!! 伊賀島流忍法【つちだるま】!!」

 

 

 それは一見すれば地面を転がるグラウンダーシュートのようなものでしたが、しかしもちろん違います。力強い回転がやがてグラウンドの芝生と土まで巻き込んで、そして霧隠さんが腕を振るうと同時、その土砂の殻からチカラを蓄えたボールが飛び出し円堂さんに襲い掛かったのです。

 

 自信満々に打つだけあって、かなりの威力を秘めたシュートでした。あるいはこれも【炎の風見鶏】と同様に円堂さんの【ゴッドハンド】を破ってしまうんじゃないかと、そんな予感がするくらい。

 円堂さん当人も、迫るシュートにそう感じるほどの圧力を見たようで、遠目からでもわかるくらいにその顔が険しくなりました。それでも彼は覚悟を決め、構え、【ゴッドハンド】で迎え撃とうと――した、その時。

 

 

「え……!?」

 

「な、なにッ!?」

 

 

 突然横合いから飛来した風の弾丸(・・・・)が、ゴールに迫るシュートを撃ち抜いたのです。

 

 それはシュートを完全に止めることこそできませんでしたが、それでもその威力の大半を削り取ったようでした。

 それでは【ゴッドハンド】はおろか、円堂さんの普通のキャッチすらをも破れません。ボールはそのまま円堂さんの手に捕まって、そして止まってしまいます。

 

 驚きです。風の弾丸が実質的にシュートを止めてしまったことはもちろんですが、何よりそれは、私も円堂さんも霧隠さんも、みんながよく知る彼の必殺技であったのです。

 

 

「すっげぇ……!! いいぞ、風丸!!」

 

「今のは、【エアーバレット】……!? バカな!? シュートに直接ぶつけるなんて、そんな使い方、聞いてないぞ!?」

 

「当然だろ。だって今、初めて試したんだからな! ……宮坂、いや、霧隠! お前が俺たちの必殺技を把握しているっていうのなら、俺たちはそのさらに上を行くだけだ! 俺たちの必殺技は読めても、進化までは読めないだろう!」

 

 

 それはそうでしょう。進化だなんて、そんなもの読めるはずがありません。私だって予想外なのです。

 

 しかし驚いてばかりはいられません。ボールを取り戻したなら、今度はこっちの攻撃ターン。早いところ得点を決めないと。そろそろ後半戦の残り時間も心もとなくなってきているのです。

 故に頭を振って驚きの余韻を振り払うと、私はすぐに指示を叫びました。

 

 

「円堂さん、早く私にパスしちゃってください! 今ならほとんどフリーです!」

 

「ッ!! しまった……!!」

 

 

 何しろ【偃月の陣】、八人も並んでゴールを攻めた直後です。フィールドはからっぽで、私の前にはディフェンス二人と、後はキーパーさんが立ちふさがるのみ。さっきボールを奪われた【鶴翼の陣】の心配もありませんし、間違いなく今は特大の大チャンスなのです。

 

 

「ああ!! 頼んだぞ、ベータ!!」

 

 

 霧隠れさんたちの頭上を飛び越えたボールが、直接私の下まで届きます。振り返りざまトラップしてそれを受け止め、そのままゴールめがけてドリブルを開始。誰にも邪魔されることのないがら空きのフィールドを駆け抜けて、「止めろッ!!」と半ば裏返った霧隠れさんの指示に意を決した表情で飛び出してきたディフェンダーさん二人を、【スピニングアッパー】で抜き去りました。

 そうして残る障害は、キーパーさんただ一人。覆面ながら冷や汗をかいているのが見て取れるほど怯える彼。その姿を、【ダブルショット】の射程に捉えた――その時です。

 

 

「ベータ……!! 【炎の風見鶏】だ!!」

 

「っ……またその話ですか!? あれだけ言ってあげちゃったのに、ちょっとしつこすぎですよ豪炎寺さん!!」

 

 

 豪炎寺さんが、そう叫んで私を追いかけてきました。

 ついさっきそれ(【炎の風見鶏】)はダメだと説明したばかりだというのに、今日の豪炎寺さんは物忘れが激しいようです。

 

 キーパーさんと一対一の状況。これほどの大チャンス、【ダブルショット】を撃てばそれだけで得点できるような場面で、どうして【炎の風見鶏】を撃つギャンブルをしなければならないのでしょう。

 いえ、今まで一度も成功していないのだから、それはもうギャンブルですらありません。チャンスの散財です。豪炎寺さんはそんなことをやれと言っているのです。

 

 

「私たちの【炎の風見鶏】は失敗作なんです……!! 【イナズマ落とし】の時みたいに土壇場で完成する、なんてことは起こらないんですよ!!」

 

「そんなことはない!!」

 

 

 どう考えても今更成功なんてありえません。なのに見つめ返した豪炎寺さんの眼は本気も本気。であればもう無視するしかなく、視線を切り、私は【ダブルショット】のシュート体勢に入りました。

 しかし。キーパーさんを見据えてシュートを打つための一歩を踏みしめたのですが、

 

 

「ベータ、【炎の風見鶏】を使えないお前が、どうして失敗作だと断じられる!? ……お前はそれを知っているわけじゃない、ただ失敗することを恐れている(・・・・・・・・・・・・)だけだ!!」

 

「っ……!!」

 

 

 そんなことを大声で言われては、シュートの意思も止まらざるを得ませんでした。

 

 『恐れている』、ええ、そうです。認めましょう。打ってもムダだとかそれ以前に、私はもうこれ以上失敗したくないのです。

 ストライカーとして、何度もゴールに失敗するさまを皆さんに見られたくありません。点を取って皆さんを勝たせることこそが、私の、ストライカーの役割ですから。

 【炎の風見鶏】の件で皆さんを裏切った挙句、点すら取れずに皆さんを負けさせてしまったとなれば――円堂さんたちは、果たしてそんな私のことをどう思うでしょう。私はそれが怖いのです。

 

 ――でもしかし、やっぱり。私は円堂さんと、彼と同じ場所でサッカーがしたい。進歩のない特訓の日々に心の底へと沈め、そして今、豪炎寺さんによって無理矢理引きずり出されたその気持ちを再び抑え込むことは、私にはできませんでした。

 

 

「……ああもうっ!! わかりました!! いきますよ、豪炎寺さんっ!!」

 

「! ああ!!」

 

 

 やけくそに言い放ち、私は私と豪炎寺さんの中間にボールを蹴り上げました。

 そうして始まる、【炎の風見鶏】の前動作。落下地点に走り込み、豪炎寺さんと同時に再び蹴り上げたボールを僅かな揺らぎも見逃さないよう見つめながら、ずっと続けた特訓の毎日を思い出します。

 

 何度も試み失敗し、その度に「次こそは」と決意した、あの想い。

 

(――今日こそ、今度こそ……ッ!!)

 

 より一層強くして、打ちました。

 

 

「「【炎の風見鶏】ッッ!!」」

 

 

 放たれ、羽ばたく炎の鳥。飛翔したそれはゴールめがけて飛んでいき、そして――

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