雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第四十七話 不信の仲間と最強の必殺シュート

「――というわけで、今日から雷門サッカー部の仲間になった……」

 

「鬼道 有人だ。よろしく頼む」

 

 

 翌日、さっそく諸々の手続きを済ませたらしく、円堂さんに連れられて倉庫の秘密グラウンドでの練習に合流してきた鬼道さん。

 挨拶と共に頭を下げた彼に対する皆さんの反応は、やはり凡そ二通りに分かれました。

 

 

「き、鬼道さんがウチに!? すごいでやんす!」

 

「天才ゲームメーカーが加わってくれるなら頼もしいな。何はともあれ、俺としては大歓迎だ!」

 

 

 といった、ディフェンス陣の歓迎ムード。

 

 

「キャプテン、本気なんですか? ……そりゃあ、頼もしいのはそうなんでしょうけど……」

 

「このタイミングでって、ねぇ……? ちょっと胡散臭くない?」

 

「帝国が敗退したから、代わりに俺たちを利用してやろうってことなんじゃないのか……?」

 

 

 そして主にミッドフィールダーたちの煮え切らない眼差しです。

 

 要するに、超優秀な鬼道さんにポジションを脅かされている、という危機感による反発です。ニセ宮坂さんの時、染岡さんが不機嫌になったのと同じアレ。

 しかもあの時とは違い、鬼道さんはどこからどう見てもベンチに置いておくには惜しい実力者であり、現ミッドフィールダーの誰かと入れ替わりでスタメンになるのはほとんど確定的な選手です。だから皆さん、その内に渦巻く不安を口にするしかなかったのでしょう。

 そしてその不安は、一朝一夕に拭えるものでもありません。

 

 

「胡散臭いことなんて何もない! 鬼道が妙なことを企んでいたなら、俺もスカウトなんてしなかったさ!」

 

「今のお兄ちゃんに皆さんを騙そうとする意思なんてありません! ……そりゃあ、スパイとかいろんなことしてましたけど、けど……!」

 

 

 円堂さんの今一つ芯を捉えきれていない説得や、すっかりお兄さん思いになった音無さんの擁護でも、それは変わらず。少林さんとマックスさんと半田さん、それに宍戸さんも、その表情は怪訝なままです。

 

 その様子に、鬼道さんもこれはダメだと思ったのでしょう。彼は自身を守ろうとする二人を遮り、前に出て言いました。

 

 

「もういい、円堂、春菜。……実際、利用しようとしていると言えば、その通りなわけだしな」

 

「鬼道っ!」

 

「俺が雷門に入るのは、あくまで世宇子にリベンジするためだ。お前たちのように仲良しこよしがしたいわけじゃない。だからそっちもそのつもりで、俺を利用する気でいればいい」

 

「利用、ねぇ……」

 

 

 それは当然、同じチームで戦う者同士の関係としてよろしくありません。しかしそのあたりがきっと妥協点なのでしょう。

 持ちつ持たれつの利害関係。半田さんたちから反感が消えない以上、無理に仲間だなんだとやって無用な不和を招くよりはずっとマシです。

 

 とはいえそれでも最低限の関係は必要です。でなければ大会を勝ち進むことはもちろん、鬼道さんが望む世宇子へのリベンジも叶いません。

 

 

「そのためにも、価値ある情報を一つ提示しよう。……次の雷門の対戦相手、千羽山中についてだ」

 

 

 当然鬼道さんも口だけになることはなく、互いに益あるチームメイトとして続けました。

 

 

「――千羽山は、なんといってもディフェンス能力の高さが特徴のチームだ。攻撃面はそれなりだが、それを補って余りあるほど守備の連係が見事らしい。……恐らく、その点だけは帝国をも上回るだろう」

 

「帝国以上の守備ッスか!? ちょっと信じられないッス……」

 

「事実だ。特にディフェンス二人とのキーパー技、【無限の壁】は鉄壁の守りを誇ることで有名だ。この大会中、未だ無失点を守っている」

 

「無失点……そりゃまたすごい。相当厳しいんでしょうね、鉄壁ってことは」

 

「ああ。フィールドプレイヤーの力もあってのことだろうが、やはり最も厄介になるのはそれだろう。【無限の壁】の強固さは、調べた限りでは源田の【フルパワーシールド V2】並みか、あるいはそれ以上だ」

 

「っ……」

 

 

 源田さんの名前が出て、脳裏をよぎる当時の光景。思い出してしまった敗北感に思わず喉が鳴ってしまいそうになりますが、しかし肝心要はその思い出ではありません。

 【フルパワーシールド V2】。私の【ダブルショット】を正面から止めてしまったあの必殺技以上の評価。それすなわち――

 

 

「……ベータも通用しないって言いたいのかよ、その【無限の壁】とやらには」

 

 

 そういうことになるでしょう。

 

 もちろん確定事項なんかではありません。

 例えばあの時も、【フルパワーシールド V2】を破れなかったのは距離が離れすぎていたりスタミナが尽きていたりと、私の【ダブルショット】の百パーセントを発揮できていなかったことが原因です。もしも完璧な状況――ペナルティエリア内から万全の状態で打てていれば、きっと破れていたはずです。

 

 ならばそれより少し硬いくらいの【無限の壁】も、破れない道理はありません。

 ……ありませんがしかしたぶん、帝国以上の守備能力の前では、そんな完璧な状況を作りだすことこそが難しいのでしょう。

 

 

「ああ、そもそも【ダブルショット】を打てるかどうかも怪しいところだ。ロングレンジで打っても強力なシュートだと知れ渡っているのだから、なおさらな。かといって他のシュート技……例えば、【炎の風見鶏】だったか、あれでも恐らく不可能だろう。絶対的に火力が足りていない」

 

「なら……イナビカリ修練場で特訓でやんす! 特訓してパワーアップすれば、きっと――」

 

「無理だ。多少の能力強化で突破できるものじゃない。例え試合までの時間を全て注ぎ込んだとしても、だ」

 

「そ、そんな相手、どうやって勝てば……」

 

「もっと強力な必殺シュートを考えればいい! 【炎の風見鶏】や【ダブルショット】よりも強力な、新必殺技だ!」

 

 

 そして私を含めて皆さん難しい顔になってしまう中、そういうことを簡単に言ってしまうのが円堂さん。

 彼は不信の皆にちょっとだけ不満そうな表情を残したまま、鬼道さんに肩をすくめて言いました。

 

 

「鬼道はそう言いたいんだろ? ヘンに利用しろとか言わないで、最初からそう言えばよかったんだよ!」

 

「あ、ああ、悪い……。まあ、そういうことだ」

 

 

 多少のパワーアップで足りないのなら、多少じゃないパワーアップをすればいい。そんな単純な解決方法を提示され、鬼道さんがたじろぎつつも頷きます。

 彼がそんな反応をするのも当然な、小学生が考えたみたいな頭の悪い方法。ですがしかし、実際に雷門サッカー部はそんなバカげたやり方で奇跡を起こし、ここまで戦ってきたのです。

 

 故に、今回もそれは効力を発揮したようでした。

 

 

「でも……【炎の風見鶏】よりも強力な必殺技とは言うけどさ、【炎の風見鶏】自体、イナズマイレブンの最強必殺技なんだぜ? これより強力な必殺技なんて、いったいどこに――」

 

「あるぜ! 大介さんが残した真の最強必殺シュートが! その名も、【イナズマブレイク】!!」

 

 

 皆さんが思い浮かべる一番の懸念点に、すっかりコーチ役が板についてきた備流田さんが声を上げました。円堂さんが鬼道さんに口だけのおバカと思われなくて何よりです。

 

 がしかし、純粋に喜ぶには少々気になる部分が一つか二つ。

 

 

「“真の”……? なんかかっこいいけど、それってどういう……?」

 

「【炎の風見鶏】が最強の必殺シュートじゃなかったんですか?」

 

 

 やっぱり誰しもそこが引っ掛かってしまいます。円堂さんも首を傾げました。

 

 

「じいちゃんの秘伝書にも、【イナズマブレイク】なんて載ってなかったと思うけど……。もしかして俺、そんなすっごい必殺技を見逃しちゃってたのか!?」

 

 

 などと慌てて、円堂さんはいつも鞄に入れているおじいさまのノートを取りに行ってしまいます。

 それはいいのですが、しかし円堂さん。慌てているということはつまり、さっきの新必殺技の啖呵は全くの無根拠だったということなのでしょうか。

 ……まあいつものことですし、別に構いはしませんが。それよりとにかく詳細をと、私はもちろん皆さんの眼も備流田さんへと向きました。

 

 しかし、てっきりまた自信満々に答えてくれると思っていた彼は、なぜだか途端に気まずそうになってしまいました。

 

 

「あー……その、なんだ。それはだな……」

 

「俺たちがその必殺シュートを完成させられなかったんだ。キーパーと後二人、三人の連携シュートなんだが……そのせいで中々難易度が高くてな」

 

 

 言い淀む備流田さんに代わって、響木監督が息を吐きました。

 

 なるほどです。だから“真の最強必殺シュート”なのでしょう。それを隠して【炎の風見鶏】を最強だとか言っていたことにはちょっと幻滅してしましたが、しかし疑問は氷解しました。

 そして同時に、その“真の最強必殺シュート”が俄然気になってきます。

 三人の連携シュート。それも、最強云々はともかくとして【炎の風見鶏】よりも強力なシュートであるというのなら、私が意識しないわけにはいきません。

 

 私が求める“円堂さんのサッカー”――“力を合わせるサッカー”において、“連携”シュートは特に重要な要素であるはずなのです。

 

 

「だからまあ……そういうことだ。……ああ、懐かしいなぁ。響木がとろくさいもんだから、全然うまくいかなくて監督も苦笑いになってたっけか」

 

「馬鹿を言え。うまくいかなかったのはお前が頑固すぎたからだ。三人の心を一つにせねば使えない必殺技だというのに、お前ときたらいつもいつも自分勝手に……」

 

「監督たちの昔なんてどうでもいいですけど……完成してない上に秘伝書も残ってないのなら、【イナズマブレイク】そもそも私たちに覚えられちゃうものなんです?」

 

「安心しろ! 四十年前だが、大介さんの指導は一から十までしっかり頭に残ってる!」

 

「覚えてるというか、完成させられなかったことが無念すぎて忘れられなかった、の方が正しいか。いずれにせよ教える分には問題ない。……あとはお前たちにその気があるかどうかだが――」

 

「もちろん、あるよその気!! 【イナズマブレイク】、俺たちに教えてください!!」

 

 

 益体のないおじさまの昔話の中、抱いた最後の懸念もきれいに潰され、今度こそ期待通りの笑顔を見せてくれた備流田さん。円堂さんも引っ張り出して来たらしいボロノートを腕に抱き、頭を下げました。

 おじさま二人は、もちろんそれに力強く頷き返して応えます。

 

 

「任せろ!! 俺たちじゃ無理だったが……円堂、大介さんの孫であるお前なら、きっとやれる!!」

 

「ただし、なにせ超高難易度の必殺技だ。特訓も今までにないほど厳しいものになるだろう。覚悟はいいな?」

 

「はいッ!!」

 

 

 そう一際気合を迸らせて、円堂さんが返事を叫びました。【イナズマブレイク】はキーパーとその他二人による必殺技であるのですから、チーム唯一のキーパーである円堂さんは必要不可欠。やる気爆発も当然です。

 そして残る二人、高いキック力を要求されるだろうパートナーは――やはり、自惚れ抜きで私たち以外にあり得ないでしょう。

 

 

「じゃあ、後の面子は――」

 

「私と豪炎寺さん、ですよね」

 

 

 備流田さんに先んじて言い切ります。

 

 すると――その備流田さん。言葉を取られたせいか、それとも【炎の風見鶏】での失敗を心配されているのかもしれません。何とも言えない視線が返ってきました。

 失敗を否定できるはずもないので気まずいですが、しかしだからといって引き下がれるはずもありません。どのみち、私の決心は変わらないのです。

 

 

「……今度こそ、うまくやってみせちゃいます……!」

 

 

 【炎の風見鶏】は、諦めました。あれは私には使えません。

 ……きっと、相性が悪かったんでしょう。しかし【イナズマブレイク】という別の連携シュートが登場した今、円堂さんの“力を合わせるサッカー”まで諦める必要はありません。

 “連携”を知り、“円堂さんのサッカー”を知り――そして円堂さんと心置きなくサッカーをするために。皆さんのように一緒にサッカーを楽しむために、挑まないわけにはいかないのです。

 

 

「そうだな。円堂、豪炎寺、そして……ベータの三人。最強シュートのメンバーとしては妥当だろう」

 

「……まあ、そうだな」

 

 

 備流田さんは私の決意を聞いてもなお心配そうな様子でしたが、頷く鬼道さんの姿にようやく納得してくれたようです。ため息と一緒に吐き出すようにそう言って、ぶるりと首を振りました。

 

 そして円堂さん。豪炎寺さんと、それから私の手を捕まえて、こちらもまたやる気十分につき上げます。

 

 

「よぉし、早速特訓するぞ!! 【イナズマブレイク】のダイヤモンドの攻めで、千羽山の鉄壁を突き崩すんだ!!」

 

 

 相も変わらず一部意味が分かりませんが、熱意があるのはいいことです。

 今度こそ彼のサッカーを知るために。そしてこの場にいない理事長さんと、雷門さんのためにも、私は円堂さんのやる気と共に、気合を入れ直すのでした。

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