雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第四十八話 繰り返す特訓

「――全く……呼ばれて来てみれば、まさか【イナズマブレイク】をやるとはな。【炎の風見鶏】に続いてこっちも継承させようってか? 全く大した入れ込み具合だな、響木も備流田も」

 

「まあそう言うな浮島。……せっかく大介さんから教わった技なんだ、このまま失伝させてしまうのは申し訳がないだろう」

 

「そうそう。それに、他でもない大介さんの孫に伝えるってんだから、むしろこれこそ俺たちが負うべき責任ってもんだろう?」

 

 

 呆れのため息を吐きながらも、しっかり雷門OBユニフォームを着て現れた浮島さん。そしてそんな彼を呼びだした、響木監督と備流田さんの計三人。

 曰く、秘密の倉庫グラウンドに集った彼らこそが、円堂さんのおじいさまである大介さんから直接【イナズマブレイク】の指導を受けたメンバーであるそうです。

 

 つまりありがたいことに、私たちはそんな彼らに特訓を見てもらえるという、これ以上ないバックアップを受けられるわけです。

 【イナズマブレイク】習得に於いて最高の条件と言っても過言ではないでしょう。ただ一つ、環境は最高のものであるとはいえ、そもそも肝心のおじさまたちの【イナズマブレイク】が未完成の代物であるという、小さくない問題がまだ残っているわけですが――

 

 

「くうぅ……っ! イナズマイレブンの【イナズマブレイク】! じいちゃんのチームの最強必殺シュート! 今から見れるんだ……! 俺、ワクワクしてたまらないよ!」

 

 

 と、全く気にしていない円堂さんに倣って、そこは一旦忘れておくことにします。そもそも気にしたって仕方がないことですし、問題だって【炎の風見鶏】の時のようにお手本をそのまま真似る、という手が使えないだけであるのです。

 というかそんなまねっこ特訓をやった結果、私は【炎の風見鶏】を習得できなかったわけで……。そう考えると、むしろ都合がよかったりもするんじゃないでしょうか。

 だから……うん。そういうことにしておくべきです。

 

 そうやって、ちょっと鬱陶しいくらいに興奮しきりの円堂さんと、逆に一言もしゃべらず集中している豪炎寺さんとの間に挟まれながら、なんとか私も内心の緊張を静めることができました。

 

 そしてそうしているうちに、おじさまたちの準備運動も完了したようです。まずは実際に【イナズマブレイク】を打って見せてくれるとのことで、三人は私たちに目配せしてから、ゴール前で構えます。

 

 

「……よし、オーケーだ。円堂、豪炎寺、ベータ! よく見ておけよ!」

 

 

 言い、同時に全員が動き出しました。

 響木監督がボールを蹴り上げ、その左右から彼を追い越していく二人。その間に高く上がったボールは黒雲から落ちる雷のように降ってきて――そして黄色いイナズマとバチバチ響く雷鳴を纏ったそれを中心に、三角形の体勢で三人同時のシュート。

 

 

「「「【イナズマブレイク】!!」」」

 

 

 それがイナズマイレブンの本来の最強シュートでした。

 未完成であるはずですが、そうとは思えないくらいの威力です。ゴールネットに突き刺さり、そして転がってきたそれを手に取れば、ビリビリとイナズマの余韻をも感じられます。

 これは確かに、完成させることができれば私の目的だけでなく、ちゃんとした武器にもなりそうです。

 

 

「……とりあえず、必殺技の全体像は理解できちゃったと思います。あの感じだと……私が響木監督の位置で、豪炎寺さんが浮島さん、円堂さんが備流田さんって感じがいいと思いますけど?」

 

「……そうだな。それでいいと思う」

 

「俺も……えっと、よくわからないけど、それで賛成! それにしても……すっげえシュートだ【イナズマブレイク】! これでまだ完成してないんですよね!?」

 

「ああ。大介さんが言うには、これで本来の威力の十分の一といったところらしい」

 

「へぇ。ということは、完成品はこの十倍の威力になっちゃうわけですか……」

 

 

 なおのこと頼もしいです。

 本当に十倍になるのなら、それはたぶん私の【ダブルショット】をも凌ぐ威力になるのではないでしょうか。

 ともかく、このままいけば“雷門の最強シュート”の座は譲り渡すことになりそうです。心情的にはちょっと複雑ですし、【ダブルショット】にだってまだまだ成長の余地はあるのだと主張したくはあるのですが、まあ完成させられれば【イナズマブレイク】も私のシュート技ですし、いいでしょう。気にしないことにします。

 

 “力を合わせるサッカー”で点まで取れるなら、これほど楽しいこともないはずですし。

 

 

「……そんじゃ、次はお前たちの番だ。期待してるぜ?」

 

「もちろん! じいちゃんの必殺技、必ずものにしてみせるぞ!」

 

「ああ……!」

 

 

 円堂さんに続いて豪炎寺さんも頷いて、そうしてとうとう特訓本番です。

 さっき響木監督たちがそうしていたように、三人でゴール前に構えます。ボールを目の前にセットして、準備完了。深呼吸をして周囲のギャラリー――自分たちの練習をしながらもこちらが気になって仕方ないらしい雷門メンバーからの注目を締め出しました。

 以前の【頬の風見鶏】の失敗、『私には連携シュートはできないんじゃないか』というトラウマ染みた恐れは左右の二人、円堂さんと豪炎寺さんの存在でどうにかこうにか蓋をして、私は大きく足を振りかぶりました。

 

 チカラを込めて蹴り出し、高く上がるボール。円堂さんと豪炎寺さんが同時に私の脇を駆け抜けて、直後、宙で停滞していたチカラがイナズマに変わって落ちてきます。

 そしてそれめがけ、三人そろって同時にシュート。そこまではうまくいっていたと思います。

 

 

「あっ……!」

 

 

 シュートの、その瞬間。つまりインパクトのタイミングが、私たち全員バラバラになってしまったのです。

 となれば当然、必殺技は成功しません。記念すべき最初の【イナズマブレイク】はおじさまたちほどの威力すら出ず、途中でチカラを霧散させてしまいます。挙句にゴールの枠外、見当違いの方向へ飛んで行ってしまうのでした。

 

 

「……まあ、最初からうまくいくはずもねぇわな」

 

「そりゃあそうだ。そんなあっさり完成させられたら、俺たちの立つ瀬がない」

 

 

 精度も威力もあらゆる面でお些末な失敗に、しかし想定通りだと備流田さんと浮島さんが肩をすくめます。

 

 それはもちろん、その通りでしょう。私だって一発成功できるとは思ってません。

 けれどそれでも、【炎の風見鶏】のようにはならないと自分を説き伏せた後のこの結果は、なかなかにショックなものでした。

 

 

「【炎の風見鶏】でも、ゴールに入れることくらいはできちゃってたのに……」

 

「それだけ【イナズマブレイク】が難しくてすげー必殺技だってことさ! なにしろ俺たちでも初めての、三人の力を合わせる必殺技なんだから!」

 

「そう考えれば、シュートまで持ち込めただけでも上出来だろう。……とにかく、まだ一度失敗しただけだ。諦めるには早すぎる」

 

「……そうですね」

 

 

 豪炎寺さんの硬い励ましに頷きながら、私は円堂さんが持ってきてくれた新しいボールを受け取りました。手にしたそれはずっしり重くなったように感じられてなりませんが、無理矢理振り払い、再び目の前にセットします。

 そして今度はタイミングを集中すべしと己に言い聞かせて、二発目を蹴りました。

 

 

 そして三発目、四発目と、その後も何度も特訓重ねた、その結果――

 

 

「……やっぱり、どんどん下手になっちゃってますよね、これ……」

 

 

 タイミングが合うどころか、むしろそのズレは当初よりも明らかに大きくなってしまっていました。

 

 正そうと意識すればするほど、逆に悪化していくのです。【炎の風見鶏】の時も碌に前進できず始終停滞していましたが、今回はあの時以上。【イナズマブレイク】に挑戦するたびに完成から遠ざかっていくのがはっきり実感できてしまいます。

 

 ただし同時に、その原因もなんとなく理解することができました。とはいえそれは事態の好転には全く役に立たず、【イナズマブレイク】は三人の力を合わせなければならない必殺技であるという、どうしようもない現実を再認識させられただけであるのですが――。

 

 要するに、三人技の場合は【炎の風見鶏】や壁山さんとの【イナズマ落とし】のような二人技の場合と異なり、私がパートナーに合わせてあげるということが物理的にできないのです。

 円堂さんのタイミングに合わせれば豪炎寺さんとのタイミングが合いませんし、豪炎寺さんのタイミングに合わせれば円堂さんとのタイミングが合いません。

 これでは当然、力を合わせるだなんて夢のまた夢です。

 

 つまりそんな至極単純な原因だったのですが、しかし問題なのは、【イナズマブレイク】はそんな堂々巡りな状況を乗り越えて初めて使える必殺技であるということ。なんとかここを解決しない限り、私たちは一生完成にたどり着けません。

 ならば、どうするか。しばらく考えて、もはやイナズマも纏わず転がっていくボールを見つめる豪炎寺さんにそれを言いました。

 

 

「一度、二人で円堂さんに合わせてみちゃいません?」

 

「……なに?」

 

「だから……私と豪炎寺さんが、円堂さんの動きとかチカラとかをマネして、一緒の水準に合わせちゃったらどうか、って。……私、そんなに難しいこと言っちゃってます?」

 

 

 それとも円堂さんに合わせる自信がないのでしょうか。豪炎寺さんは眉を寄せ、難しい顔になってしまいます。

 しかし今のところこれくらいしか思いつきませんし、自信がなくてもやってもらわねば困ります。ともかくタイミングを統一しないことには何も前に進まないのです。

 

 あるいはそれとも、円堂さんと一緒に豪炎寺さんに合わせるべきなのでしょうか。サッカーの技術力的にそっちの方が成功率は下がってしまいそうですが、豪炎寺さんの表情は硬いまま変わりませんし、ならしかたがないのかもしれません。

 そう諦め、私は円堂さんのほうに眼をやったのですが、しかし。

 彼は彼で、どうやら私の意図することがわかっていないようでした。

 

 

「うーん? でもそれって、ベータと豪炎寺のチカラを抑え込むってことだろ? 意味あるのかなぁ……?」

 

「あるに決まっちゃってるじゃないですか」

 

 

 そうしないと力を合わせることなんて不可能でしょう。なにを言っているんだか。

 

 もしかしたら今までの失敗は、彼らがこんな有様だったからなのかも。そんなふうにすら思い始めた、その時でした。

 

 

「どうだろうな。ベータの場合、そういう次元の問題ではないと思うが」

 

 

 外側からのおじさまたちでない声に振り向けば、彼らと一緒に壁際で腕を組んでる鬼道さんの姿。

 そして私へ向けたその言葉が聞こえてきました。あなたもかと、返す言葉に少々トゲが混じってしまいます。

 

 

「……もしかして、ずっと私たちのこと見てたりしちゃってました? 暇なんです?」

 

「もちろん違う。観察していたんだ、お前たちだけでなく、チーム全体を。……俺の能力(ゲームメーカー)を有効活用するためにも、新しいチームの能力やポテンシャルは正しく把握しておくべきだろう?」

 

「確かに……! 鬼道、色々考えてくれてるんだな。さすが天才ゲームメーカーだ!」

 

「……そこに天才ゲームメーカーは関係あるのか?」

 

 

 ないと思いますが、とにもかくにも鬼道さんの言っていることは正論です。難癖をつけてやりたくても、特に何も出てこないくらいには真っ当な理由。

 故に私も憎まれ口はひとまずしまい込むしかなく、言葉のトゲをため息に変え、話を戻します。

 

 

「それで……『ベータ()の場合、そういう次元の問題ではない』って、どういう意味なんです? 【イナズマブレイク】完成のためにも、意見があるならぜひとも聞かせちゃってほしいんですけど」

 

 

 これで円堂さんみたいに何もわかっていないんだったら今度から彼のことシスコンゴーグルと呼んでやる。という、反骨心はそのままに。

 

 そんな半分投げやりな私に、鬼道さんは少しの間だけ顎を引き考え込むそぶりを見せて、それからゆっくりと私の眼を見て言いました。

 

 

「そうだな……これは以前の試合から気になっていたんだが、雷門の中でベータがただ一人浮いてる。チームの中でお前だけが噛み合っていない」

 

「……いきなり言ってくれちゃいますね」

 

 

 つまり私が“円堂さんたちのサッカー”をやれていないということです。

 

 そんな、嫌というほど思い知らされてきた事実。今更言われてショックもありませんが、それでもやっぱりチームの内側だけでなく外側でも同じ感想を抱かれている現実には少しだけ心が沈んでしまいます。

 

 

「ちゃんとみんなと力を合わせてるつもりなんですけどねぇ……」

 

「……そうか」

 

 

 鬼道さんはまた少しだけ悩みの間を置き、そして続けました。

 

 

「確かに、そうなんだろう。個人プレーに偏重しがちな傾向はあるが、それでもチームワークができていないわけじゃない。基本的には協力すべき時に協力し、フォローも素早くできている。帝国時代に収集した情報からも、それは明らかだ。ただ……」

 

「……ただ?」

 

 

 いったいなんだというのでしょうか。

 言い淀む鬼道さんに、ほんの僅かに感じる不穏。身体が強張るのを自覚しながら訊き返すと、鬼道さんはゴーグルの向こうで一度瞑目し、それから再び私を見つめ、言いました。

 

 

「ベータの“それ”は仲間というより……なんというか、部下に対するものに見える。上司であるベータが部下であるチームメイトをサポートし、あるいは引っ張っているといった印象だ」

 

「上司と部下、ですか……。ええっと……今一つピンとこないんですけど……」

 

「そうだな……味方がミスすることを前提に動いている、と言ったほうがわかりやすいか。だから、例えば指示を出して味方にボールを任せている時も、常にそれをフォローできるように立ち回ろうとしているんだ。故に、噛み合っていない」

 

 

 常にフォローできるように立ち回ろうとしている。それはそうかもしれません。今までの試合でも、味方に任せてそれっきりにしたことはないはずです。

 そういうふうに試合をコントロールしようとしてきました。しかし、それは当然のことなのではないでしょうか。

 

 もちろん帝国戦のスタンドプレーを肯定するわけじゃありません。あの時は致命的に方向を間違えていたことは認めます。

 それでも、その本質は正しいはず。

 

 

「……私は他の皆さんよりサッカーが上手いんだから、どうしようもない時は私が頑張っちゃうしかないでしょう……?」

 

 

 要するに適材適所。それこそがチームワークです。

 

 

「……そうなんだろう。だが、ベータのそれ(・・)は違う。それは――」

 

「――仲間を信じられていない。信頼できていない(・・・・・・・・)んだ。……そうだろう、鬼道」

 

「っ……!」

 

 

 鬼道さんが言う前に、豪炎寺さんがそう眉を寄せて言いました。

 

 悩み抜いた果てのような苦渋の表情が、私へと向けられています。その言葉を口にするのに相当の葛藤があった、というような顔。

 そうやって絞り出された言葉は、いくら荒唐無稽でも即座に否定できるほど軽くありませんでした。

 

 

「まあ、そういうことだ。技のパートナーすら信頼していない、いや、できないような状態では、動きもチカラも合わせようがない。連携技など夢のまた夢だ」

 

「……じゃあ、まずは俺たちがベータに信頼してもらえるようにならないと、ってことか……! 頑張らないとな、豪炎寺!」

 

「……ああ」

 

 

 ――でも、それでも、それは私が本気でサッカーをしているが故なのです。勝ちたいから、円堂さんたちと一緒にサッカーをしたいから、そうする他ないのです。

 だというのに、皆さんの“力を合わせるサッカー”に於いてはそうではない様子。皆さんの言う通り、きっと私はこのままでは【炎の風見鶏】の二の舞。【イナズマブレイク】は完成させられないのでしょう。

 

 しかしならば、どうすればいいというのでしょうか。

 

 

「ま、存分に悩めばいいさ。時間はまだまだあるんだからよ」

 

 

 私の気持ちなどお構いなしな軽い口調でそう言う備流田さん。普段であればイラっとしたでしょうが、今はむしろありがたくあります。

 倣って私も平然と言いました。

 

 

「それじゃあ、特訓続けちゃいましょうか」

 

 

 そうして私たちは【イナズマブレイク】の特訓を再開。倉庫の窓から覗く空色が練習終わりの色に染まるまで、ずっと必殺技に挑み続けたのでした。

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