雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第五十二話 厚い壁

「帝国時代、敵チームの要注意選手の情報を調べていた時、あの必殺技を耳にしてな。もしやと思ったが、正解だった」

 

「おかげで助かったぜ鬼道! 壁山もな!」

 

「え、えへへ……。結局つっ立ってただけだったんスけどね」

 

「なんにせよだ! 鬼道がいなかったら、たぶん点取られちまってただろうからな。助かったぜ」

 

「ほんと。やっぱすごいんですね、鬼道さんって」

 

 

 と、さっきのセーブ、【シャインドライブ】の目くらましを見抜いた鬼道さんを皆が褒め称えています。マックスさんや少林さんたちも感心せざるを得ないようで、鬼道さんはさぞ気分がいいことでしょう。

 私的には、知っていたなら最初からその目くらましシュートを教えておいてくれと、そう言ってやりたくあるのですが――しかし、たぶん鬼道さんからすれば、そもそもその知識が必要になる事態にはならないはずだったのです。

 

 つまり鬼道さんの指揮の上では、千羽山にシュートの機会を与える予定はなかったのでしょう。だからコーナーキックのあの場面も攻めより守りを優先したのです。

 そしてその思惑を見事に台無しにしてしまったのは私なわけで――。

 

 

「……はぁ」

 

 

 腹立たしいのと情けないのとで頭はぐちゃぐちゃですが、かぶりを振って無理矢理締め出します。そんなことよりも、現在は前半戦が終わって0-0の無得点。であるなら、試合前に主張すると決めたアレを言うべき頃合いなのです。

 そう切り替え、失態の尻拭いをされてしまった私は皆さんに群がられる鬼道さんを引っ張り出して言いました。

 

 

「それで、後半戦ですけど……もう皆さんのシュートは試さなくてもいいですよね? どれもこれも全然【無限の壁】は破れなさそうでしたし」

 

「……何が言いたい」

 

 

 途端に皆さん盛り下がり、特にシュートを打った攻撃陣から眉根の寄った視線が向けられます。

 その一人、比較すれば憤りが薄めな豪炎寺さんが、言わんとすることを察したのかため息を吐くように言いました。が、だからといって怯んでいられません。チームが勝つか負けるかの話ですし、それにこれは、間違いなく確かな事実です。

 

 

「いろんな人からシュートして撹乱するのもいいですけど、そろそろ私に集めちゃってもいいんじゃないですか、って。……だって、もうはっきりしちゃったでしょう? 【無限の壁】を破ることができそうな必殺技、私の【ダブルショット】だけだったじゃないですか。さっき鬼道さんがやったみたいに【無限の壁】のメンバーを引き離すのもいいですけど、それでも【ファイアトルネード】を止めちゃうくらいですし」

 

 

 だからどちらにせよ、私がやった方がいいのです。

 他の人がシュートして下手に止められてしまったら、カウンターでシュートまで持ち込まれるリスクも上がってしまいます。【シャインドライブ】だって、目くらましでも何度も撃たれればいつかは点に繋がってしまうかもしれません。

 前半戦はそれでも撹乱作戦に従っていましたが、その結果が無得点。なら、私の言葉の説得力だって十分になったはず。

 そのはず――なのですが、しかし。

 

 

「……上司と部下、か」

 

「え……?」

 

 

 ふと、豪炎寺さんがそう呟きました。

 

 以前、鬼道さんが皆さんに対する私の想いを例えた言葉です。

 そしてそれは、私には実感することができませんが、“円堂さんのサッカー”とは違う想い。だから今の私の提案も、つまり『仲間を信じられていない』ことに繋がっているのかもしれません。

 そう考えるとひんやり冷たいものに皮膚を撫でられるような心地になってしまいますが、しかし『仲間を信じる』ことに関しては最初からわかっていたことです。今更気にすべきことではありません。

 

 ただ、それでも豪炎寺さんの視線を受け止めることはできなくなってしまいました。

 彼はいったいどんな顔でそれを言ったのか。頭がより重たいものでごちゃつく中、少しばかり遠慮がちな鬼道さんの声が言いました。

 

 

「……ベータにボールを集めさせるというのは、確かに手の一つではある。だが現状、それ一つに集中するのは危険だと、俺は思う」

 

「……と言うと?」

 

 

 億劫だったが聞き返します。眼だけを向けると、鬼道さんは重々しく息を吐きました。

 

 

「想定以上に千羽山を警戒させてしまった。コーナーキックの時、ベータ一人に三人も張り付けたことからしても明らかだ」

 

「確かに。豪炎寺さんや染岡さん、鬼道さんに……それに、俺たちもいたのに、そっちはほとんど無視でしたもんね……」

 

「ああ。あんなシュートを……次は防げるかわからないと思えるくらいのシュートを撃たれたんだからな。恐らく、後半戦は徹底的にベータを抑えに来るだろう。ボールを集めるだけじゃなく、せめてペナルティエリアまで近づかなければいけないことを考えると……あまりに無謀だ」

 

「……じゃあ、どうするんです? 私の【ダブルショット】以外に【無限の壁】を破れる必殺シュートなんてないじゃないですか」

 

「うぅん……【イナズマブレイク】があればなぁ……」

 

「馬鹿。使えたとして、あれを打つにはベータの力が必要なんだ。どっちみち無理じゃねぇか」

 

「それはそうなんだけど、こう……なんていうかな……」

 

 

 しれっと私の心を抉ってくる円堂さん。本人にその気はないようですが、ともかくないものねだりは解決策ではありません。

 

 呆れる染岡さんに心の中で同調していると、しばし口をつぐんだ鬼道さんが、しかし碌な作戦が思いつけなかったようで、大きく息を吐き出しました。

 

 

「……もう一度、どうにかして千羽山の意表を突く。それしかないだろう」

 

「そうだな……! よし! みんな、ゴールは俺が絶対に守り切るから、安心してガンガン攻めて行ってくれ! 後半戦、行くぞ!!」

 

 

 豪炎寺さんのおかげで鬼道さんの指摘に大した反論もできず、結局主導権は鬼道さんの手に。

 一度そうなってしまえばもう私もどうにもできず、夢想から脱した円堂さんも同じく諦め、結果的に前半戦と変わらない陣形で、私たちは後半戦に臨むことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 鬼道さんの指摘通り、私への警戒は目に見えるほどに上がっていました。

 

 

「【かごめかごめ】じゃ!! くらうべッ!!」

 

「きゃっ……!!」

 

 

 これ何度目でしょうか。パスをもらって数秒もしないうちに周囲を囲まれ、繰り出される必殺技に、私はまたもボールを奪われてしまいます。

 後半戦が始まって、私にボールが回ってくる度にこれです。ゴールもまだ遠いのに、(ベータ)へのパスだと見るや否や、一瞬でディフェンスラインを上げて対応してくるのです。

 

 何をおいても最速で(ベータ)を抑えてやるという意識がありありと感じられるプレー。尾刈斗や野生のようなぴったりくっつくマンマークではありませんが、彼らのチームワークを考えればそれとほぼ同義です。

 そんな守備を乗り越えペナルティエリアに踏み込むなんてこと、できるはずがありません。少なくとも、私一人では得点など夢のまた夢。不可能であると、理解せざるを得ませんでした。

 

 だからやはり、鬼道さんの指揮に託す以外に得点のチャンスはないのでしょう。

 

 

「栗松、詰めてくる10番を抑えろ!! 土門と壁山は11番から眼を離すな!! 宍戸は下がれ!! もっと左だ!!」

 

 

 ボールがミッドフィールダーに渡ると、瞬時に走る鬼道さんの指示の声。やはりそれは的確で、皆さんが従い動くと同時、ドリブルで突き進むミッドフィールダーの進みはたちまち鈍ってしまいます。

 土門さんたちが見張っているおかげでパスも出せず、となればカウンター主体の千羽山はこれ以上動けません。止まったそこに、敵陣から戻ってきた宍戸さんがあっさりボールを奪い取りました。

 そうして一転、今度は攻撃のための指揮が下ります。

 

 

「宍戸、半田、俺と一緒に来い!! 豪炎寺と染岡は右から攻めろ!! ベータは――ゴールまで突っ込め!!」

 

「っ……!!」

 

 

 一瞬驚くも、その意図はすぐにわかりました。要するに以前の鬼道さんと同じように、ダイアゴナルランの囮になれということ。

 ちょっと癪ですが、だからといって今更反発することもできません。皆さんも、天才ゲームメーカーの名に相応しい活躍を続ける鬼道さんの指示にもはや疑念の一つもないようで、即座に動き出しています。

 一歩遅れて私もそれに従って、ゴールの方へと身体を向けました。そして全力ダッシュ。身一つで敵陣へと切り込めば狙い通りディフェンスの注目は一纏めに集まって、そのまま左サイドまで持っていくことができました。

 

 そしてその瞬間、鬼道さんから鋭いパスが逆サイド、豪炎寺さんと染岡さんへと放たれます。

 

 

「やれッ!! 豪炎寺、染岡!!」

 

「「【ドラゴントルネード】!!」」

 

 

 しかし、

 

 

「【無限の壁】!!」

 

「ふんっ。ダイアゴナルランだか何だか知らねぇけども、そんなだまし討ち、何度も食らうわけねけネェべ! なあ、塩谷」

 

「ああ! オラたちはもう絶対ゴール前から動かネェっぺよ!」

 

「くッ……!!」

 

 

 引き離したかった【無限の壁】のパートナー、ディフェンダーの二人はどちらも私を追いかけてはおらず、ゴール前に張り付いたままでした。

 

 ハーフタイムの内に気を引き締め直したのでしょう。動かないと決心されてしまっては、さすがにもうこの作戦は役に立ちません。

 

 

「――ならば、こうだ……っ!!」

 

 

 と、またも取って取られてを繰り返し、見出した次なるチャンス。鬼道さんは一人ドリブルで千羽山のディフェンスラインへ切り込みました。

 ボールも持ち込んで、明らかにさっきのような囮ではないプレーに、もちろんディフェンスさんたちが動かないわけはありません。彼らはすぐさま【かごめかごめ】の体勢に入ろうとして――その瞬間、鬼道さんは最小限のモーションで、後ろを見もせずバックパスしました。

 

 

「半田、宍戸!!」

 

「おう!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 ボールを託したのは【火縄バレット】の二人。そしてパスを受けるや否や、それは放たれました。

 

 

「「【火縄バレット】!!」」

 

「「「っ!!」」」

 

 

 【かごめかごめ】で鬼道さんを止めることに意識が行っていたディフェンス三人は、自分たちの間を貫くボールの弾丸に対応できません。シュートは誰に邪魔されることもなく、まっすぐ一直線にゴールへと突き進みます。

 がしかし、【火縄バレット】にロングシュートの適性はあれど、あまりに距離があり過ぎました。ゴールへたどり着く頃にはかなりの威力が、それこそ【無限の壁】より数段劣るであろう一人技、【まき割りチョップ】でも十分に止められるくらいに削げ落ちてしまうのはどうしようもありません。

 

 故に、鬼道さんはそこに飛び込みました。

 

 

「【ダークトルネード】ッ!!」

 

 

 バックパスの後、そのまま止まることなく敵陣内に走り込んでいた彼は、シュートを見送るディフェンダーさんたちの背から飛び出し、弱った炎の弾丸にさらなるチカラを叩きつけました。

 

 余裕から来る油断を突かんとした、シュートチェイン。そんな二の矢、鬼道さんの作戦でしたが――しかし結果は“やはり”なものでしかありませんでした。

 

 

「【無限の壁】!!」

 

 

 余裕も油断も、彼らにはなかったのです。発動された強固な壁に、シュートはあっけなく止められてしまいました。

 

 

「く……これも、駄目か……っ!」

 

「へっ、バカにするでねぇズラ。スコアボードくらい見れてる! ……原野ッ!!」

 

 

 私たちも千羽山も、後半戦も半ばに差し掛かる時間帯で無得点。故に万が一の得点も許すわけにいかないキーパーさんは、シュートを止めるとすぐさまボールを助走をつけて蹴り飛ばしました。

 

 一刻も早く勝ち越し点を上げるためのカウンター。私たちの頭上を越える大胆な長距離ロングシュートは、鬼道さんと半田さんたちも前線に上がってきてしまっている今、効果てきめんです。

本来ミッドフィールダーが守るべき中間はスルーパスで、坊主頭の原野さんなるミッドフィールダーは、ロングパスから直接ディフェンスラインまで乗り込んできました。おまけに鬼道さんの指示も遅れ、進撃を止めんと単身立ち向かった風丸さんはあっさりと抜かれてしまいます。

 

 

「くそっ!! こいつ、また……ッ!!」

 

「【ランボールラン】!! オラたちのディフェンスに比べたら屁でもネェべ!! 行け、田主丸!!」

 

 

 そしてフォワードの田主丸さんまでボールが通ってしまいました。もはや彼のシュート、【シャインドライブ】が放たれるのは避けられません。

 だから田主丸さんが足を振り上げるのと同時、土門さんと壁山さんが飛び出し円堂さんの前を塞いだのは正しい判断だったでしょう。必殺技の閃光に眼をやられてしまえば、いかに円堂さんでもシュートを止められないのです。

 

 そこを、田主丸さんは突いてきました。シュートを放つ直前、彼は足に込めたチカラの光を瞬時に収め、代わりに横に鋭いパスを放ったのです。

 

 

「あっ!!」

 

「や、やばッ!! 円堂、右だッ!!」

 

 

 土門さんが声を上げるも、しかしそのパスは円堂さんには見えていません。壁山さんとで前への視界が塞がれてしまっています。

 だから円堂さんがそれに気付いたのは、たぶん、サイドを駆け上がってきた別のミッドフィールダーさんが、ダイレクトでシュートを放った直後だったはずです。

 

 要するに、それは半ば奇跡的なセーブでした。

 

 

「もらった!!」

 

「くっ! させるかぁッ!!」

 

 

 奇跡的な反射神経でシュートに飛び込み伸ばした円堂さんの手は、その指先がギリギリのところでボールを捉えました。止められはせずとも軌道を逸らし、結果、シュートはゴールポストに直撃して弾かれます。

 シュートしたミッドフィールダーさんのほうに零れ、ヒヤッとしましたが、幸いなことに円堂さんが先に間に合い、ボールに覆いかぶさるようにしてボールを確保。無事ゴールは守り切れたようでした。

 

 

「……っはぁ! 危ねぇ……一瞬、入れられちまったって思ったぜ……」

 

「俺、心臓バクバクですよ……」

 

 

 遠い自陣での出来事を見守るしかなかった染岡さんたちが安堵の息をつきました。

 しかし胸をなでおろした宍戸さんはもちろん、彼を含めた雷門全員、安心するだけではいられません。なにせ敵の作戦が成就しかけた一方、私たちの作戦は頓挫の一歩手前まで追い詰められてしまっていることが、この攻防で明らかになってしまったのです。

 

 きっともう、どれだけ撹乱作戦を繰り返しても、点を取ることはできません。半田さんが不安そうに言いました。

 

 

「鬼道……次の作戦はどうするんだ? 早く点を決めないとまずいぞ。何度もあんなカウンターやられたら、いつかは点を決められる」

 

「………」

 

 

 代案は必要です。しかし鬼道さんは俯き気味に考え込んだまま、その口は食いしばられた歯でぴたりと閉じて、開きそうにありません。

 

 それも当然。【無限の壁】を避けて点を取ることが勝利のための唯一の道筋だと考えていた鬼道さんが、その唯一の道筋を断ち切られた今、そう簡単に次の作戦なんてものを思いつけるはずがないのです。

 というか、作戦なんてものは立てようがないでしょう。もはや得点するには【無限の壁】を真正面から破るしかなく、そしてそのための手段はただ一つだけ。

 

 

「……私の出番、でいいですよね」

 

 

 私の【ダブルショット】以外にありません。

 私だけが、皆さんを勝たせてあげられます。いつも通り、皆さんの手に負えない事柄に私がケリをつけるのです。

 それが“円堂さんのサッカー”とは異なる“上司と部下”の考え方なのだとしても、それでも今は勝つためにそうするべきなのです。

 

 とにかく点を取って勝たないと“円堂さんのサッカー”どころか私たちの大会そのものが終わってしまいます。彼とサッカーを続けるためにも、それだけは譲るわけにはいきませんでした。

 

 

「……そう、だな。やむを得ない。……ベータ、頼む」

 

「………」

 

 

 そんな私の思いを、鬼道さんと、そして皆さんも理解してくれたようでした。

 渋々ではあれど期待の視線が集まって、それぞれ私に頷いてくれたのです。

 

 故にここからの試合は鬼道さんに代わり、私主導で満場一致――と言うにはしかし、期待ではなく憐れみのような何かを視線に滲ませている豪炎寺さんの支持がちょっと足りていない気がしますが、まあたった一人を気にしていても仕方がありません。

 たぶんずっと以前から、この“上司と部下”な私の考えに思うところがあったのだろう彼ですが、しかし今度もやっぱり何を言うでもないのだからなおのこと。それに他の作戦だって、彼に思いつけるはずがありません。

 

 そうして円堂さんから風丸さんへのパスで再びボールが動き出すと同時、皆さん今までとは一転して私一人にボールを集めるべく、プレーを再開したのでした。

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