「――ふぅ……今日もみっちり特訓したぜ! イナビカリ修練場、最初の頃はやる度にヘトヘトで動けなくなってたけど、もうだいぶ慣れて来たな! なあ、豪炎寺!」
「そうだな、みんな随分体力が付いた。……元は必殺技養成が目的だったはずなんだがな」
「ああ、そういえばそうだったっけ。伝説のイナズマイレブンも使ってた施設だっていうから期待してたけど、結局そっちのトレーニングはできなかったんだよな。……けどまあ、いいじゃないか。強くなれたことには違いないんだから! 全国一を目指すなら、必殺技よりもまず身体を鍛えろってことなんだよ、きっと!」
「あの修練場の意図はともかくとして……実際、それが道理だ。身体能力が低ければ、必殺技どころかプレーですらボロが出る。スポーツ全般にも言えることだが、強さに直結する重要な要項だ。……俺も帝国では、あの手のトレーニングをよくやった」
「へぇ……! 帝国にも修練場があったのか? サッカーボールのガトリング砲とか、動く床とかレーザーとか?」
「あそこまで奇想天外なものではなかったし、年季も入っていなかったがな。だがまあ、トレーニング効果で言えばイナビカリ修練場も遜色ないだろう。なにしろほんの少し前までただの弱小でしかなかったお前たちが、全国レベルの身体能力を手に入れられるほどなんだから。……いい設備だ」
「だよな! よぉし……! 明日もガンガン特訓して、もっともっとパワーアップしてやるぜっ!」
――と、西日が差す夕暮れの、最終下校時刻が迫る校門前。部活終わりの生徒たちが続々と帰路につく中、円堂さん、豪炎寺さん、鬼道さんの三人が集まって、楽しそうに語り合っています。
いつも通りの、何でもないやり取りです。気心の知れた仲だからこそ交わせる日常の会話。だから言うなれば、その団欒は彼らがお互いを仲間と認めている証でもあるのでしょう。
私はそれを、彼らから少し離れた木陰に隠れてこっそり聞いていました。
別に、話に入るタイミングをうかがっているとかではありません。彼らの話には用事も興味も特になく、ただ他の生徒たちと同様に下校したいだけなのですが――しかし、彼らのことなど気にせず行けばいいはずなのに、どうしても足が木陰から動いてくれないのです。
原因はわかっています。この間の千羽山中との試合のせいです。
あの試合で、私はとうとう私の中の疎外感を無視できなくなってしまいました。戦国伊賀島戦に続いて千羽山戦でも連携必殺技に失敗してしまったせいで、とある一つの
試合の後、勝利を喜ぶ皆さんの後姿に悟ってしまったそれは、私がやっぱり“仲間を信じる”を理解することができない人間なのだという、寒々しい諦念でした。
目前でそれを目にしても、私には最後までわかりませんでした。上司と部下のようだと評された私の“信じる”と彼らの“信じる”の違いも、ずっと同じチームでプレーしてきた私には使えないのに入部したばかりの鬼道さんが【イナズマブレイク】を成功させることができたワケも、何もかもがさっぱり理解不能。
だというのに、見せつけられたのは皆さんそれがさも順当な結果だと言わんばかりに笑い、私一人を除け者にして喜び合っている光景です。私にとってそれは、心を折られるには十分すぎるほどのショックでした。
それ故の、皆さんが理解しているモノを一人だけ理解できない疎外感。チームに一人混ざった異物である感覚が気まずさに変わり、そうして私の足を木陰に縛り付けているのです。
おかげで最近はもう円堂さんたちだけでなく、チームの皆さんともどんな顔をして話せばいいのかもわからなくなりつつあります。
だから今日の修練場での特訓もなるべく一人でこなして誤魔化し、そのまま帰りもこっそり一人で行くつもりだったのですが……しかしそうやってため息を吐いても、ちらりと見やれば校門前を塞ぐ円堂さんたち三人のおしゃべりは未だ途切れる気配もありません。
「……そういえば次の対戦相手の木戸川中、豪炎寺が前に通ってた学校だよな?」
「ああ。だが、だからといって何があるわけでもない。かつての仲間が相手だろうが、俺はいつも通り戦うだけだ」
「そうでないと困る。……知っているか? 今の木戸川は豪炎寺がエースだった去年から随分陣形を変えてきている。今は俺たちと同じスリートップでより攻撃的なチームになっているんだ。三つ子のフォワードはなかなかのコンビネーションを持っている」
「三つ子……」
だなんて、今度は次の対戦相手の話で盛り上がってしまっています。やはり思うところがあるのか豪炎寺さんの声のトーンが少しだけ落ちたようですが、それでももうしばらく三人のおしゃべりは続くことでしょう。
解散を待っていては最終下校時刻を過ぎてしまいそうです。であればもう、さすがに覚悟を決めるしかありませんでした。
「あ、おーいベータ!」
「……どうも。皆さんお揃いで何お話ししちゃってるんですか?」
下校学生の群れに紛れれば気付かれないかなという淡い期待ももちろん破れ、笑顔で私へと手を振ってくる円堂さん。途端に溢れる気まずさを噛み殺し、社交辞令的にその手招きに応じます。
それだけで中々に精神をすり減らす行いだったのですが、そんなことなど円堂さんは知る由もなく、彼は私を呼び止めるだけに留まらずさらに厄介なことを言いました。
「次の対戦相手、豪炎寺の前の学校に決まっただろ? だから……そうだ! ベータ、明日の練習、俺たちと一緒に【イナズマブレイク】の特訓しないか?」
いつも通りの微笑に保っていた表情が、思わず歪んでしまいそうでした。
反射的な拒絶を抑え込み、一呼吸して動揺を落ち着けてから返事を返します。
「……もうそっちの三人で完成しちゃってるじゃないですか。わざわざまた私を入れて苦労する必要、あります?」
「ある! 木戸川中ってスリートップでかなり攻撃的なチームらしいから、鬼道も守備に回らなきゃいけなくなることが多くなると思うんだよ。そうなったらせっかくの【イナズマブレイク】も打てないだろ?」
「だから私に鬼道さんの代わりをやらせようってことですか」
「代わりってわけじゃないんだけど……ベータだってさ、【イナズマブレイク】使えないままじゃ悔しいだろ? いい機会じゃないか」
『いい機会』。私にまだ連携必殺技への希望が残っていたのなら、もしかしたらそう思えていたかもしれません。
しかし、今の私にそんなものはありません。円堂さんの提案は私の神経を逆なでするものにしかならず、ただ不快感だけがこみ上げてきました。
とはいえ円堂さんの提案から感じるそれは、紛れもなく純度百パーセントの善意。無下にするにはあまりにも後味が悪すぎます。
故に仕方なく、私はため息と共に理屈でそれに返しました。
「……守備が重要な展開になるなら、鬼道さんどうこうの前に円堂さんが前に出てこれないじゃないですか。カウンター狙いにしても、私の【ダブルショット】の方がいいと思いますけど」
私単独で打てますし、その上ロングシュートでもありますし。
「それに円堂さん、あなたはキーパーなんですから、シュートよりもまずは本業の方を頑張るべきじゃありません? 相手の攻撃力が高いならなおのこと、新しい必殺キーパー技でも開発してみちゃったらどうです?」
「あー、それはそうかもだけど……でも大丈夫だって! 【ゴッドハンドW】だってあるんだから、木戸川のシュートがどれだけ強力でも絶対に止めてみせるさ!」
だからそんなこと言わずに【イナズマブレイク】の特訓をしようと、円堂さんはグッと両手のこぶしを握り締めて言いました。
随分と自信満々です。まあ確かに、そうなるのも無理がないくらい、彼の【ゴッドハンドW】は強力な必殺技ではあるのでしょう。
が、しかし――
「……いや、待て円堂。【ゴッドハンドW】は――」
と、恐らく私の代わりに
見知らぬ彼らが私たちの会話を無遠慮に断ち切って、校門を跨いできたのです。
「はぁ? 何言ってんだか」
「あなた程度のキーパーが私たちの必殺シュートを止める?」
「そんなの無理、無理。止められるわけないじゃん、みたいな?」
たらこ唇とサングラスが特徴的な、よく似た顔をした三人組でした。
「っ!? お前たち……!」
「……豪炎寺、知り合いか?」
そしてそんな彼らを前にして、豪炎寺さんは驚きに眼を剥きました。しかも――鈍い円堂さんは気付いていない様子ですが――見つめ合う両者の間に漂う、不穏な空気。明らかに知り合いで、ただならぬ関係です。
それを問いただすことも憚られるくらいのひりついた空気感でしたが、ありがたいことに、それを知っていた鬼道さんが当人たちの代わりに私たちへと教えてくれました。
「さっき木戸川のスリートップの話をしただろう? アレだよ。豪炎寺の代わりに出てきた、件の三つ子フォワードだ」
「三つ子……確かにそっくり! ってことは……こいつらが、豪炎寺の元チームメイト!? ほんとか、豪炎寺!?」
「……ああ」
豪炎寺さんがやけに重苦しい声音で、口ごもりながら肯定しました。するともう一方の当人、三つ子さんも頷いて、
「そうとも! 俺は長男、武方 勝!」
「同じく、次男、友!」
「三男、勉!」
「「「三人合わせて、武方三兄弟っ!!」」」
仲がいいことに、揃ってポーズを決めました。
……ポーズの意味は分かりませんが、しかしなるほど、彼らは木戸川中のフォワード、つまり豪炎寺さんの後釜で、『噂をすればなんとやら』なタイミングでの登場だったわけです。それは驚きもするでしょう。
しかし不穏な空気はまた別の理由。スタスタと何気ない調子で歩み寄ってくる三兄弟から豪炎寺さんへと向けられる、その歩みに反してドロリと重たい眼差しには、はっきりとした負の感情が乗っていました。
「いやぁ、それにしても本当に久しぶりですねぇ、豪炎寺くん?」
「去年のフットボールフロンティア以来だっけ? 元気そうで何よりじゃん」
「そう……お前が決勝戦を逃げ出した時以来だよな……!」
「え……ちょ、ちょっと待てよ!? 『決勝戦を逃げ出した』って……何の話だ!?」
不穏の原因――三兄弟の口から溢れるように滲み出た憎悪の感情に、円堂さんが面食らったように声を上げました。
『決勝戦を逃げ出した』とは、まあ間違いなく豪炎寺さんの妹さん、夕香ちゃんが事故に遭ったあの一件のことでしょう。あのせいで豪炎寺さんは決勝戦に行けなくなってしまったのです。
つまり誰が悪いという話ではないはずなのですが、しかし彼らが宿す負の感情から察するに、どうやら彼らはそのことを知らない様子。円堂さんはともかくチームメイトで当事者だった三兄弟が知らないというのは少々奇妙な話ではありますが、とうとう表情にまで浮かび上がった毒々しい憎しみを見る限り、推察は間違ってはいないでしょう。
三兄弟はそんな明らかな憎悪を以ってして、さらに豪炎寺さんを責め立てます。
「……去年の木戸川清修は、正直に言って豪炎寺一人で成り立ってたチームだった。お前らも知ってるだろう? 『炎のストライカー』の異名」
「ずば抜けた強さでしたよ。認めたくはありませんが、当時、私たちは彼のレギュラーの座を脅かすことすらできなかった。それほどに圧倒的な強さで、彼は私たちを決勝戦まで連れて行ったのです」
「だから俺たちも納得できた……豪炎寺なら優勝の夢を叶えてくれるって、そう信じることができた……! 信じて、託した……それなのに……ッ!」
「「「なのに豪炎寺は、決勝戦に姿を現さなかった!! 俺たちを裏切ったんだ!!」」」
「だ、だからさ、どういう意味なんだよ!? 逃げ出したとか裏切りだとか、そんなこと……豪炎寺に限ってあり得ないだろ!?」
三人そろって豪炎寺さんを睨みつける兄弟さんたちに、円堂さんがさらに詰め寄ります。一度は無視された困惑でしたが、しかし必死に豪炎寺さんを庇うその姿は今度こそ三兄弟の視界に入ることが叶ったようです。
三人の眼が円堂さんへと向けられます。しかしもちろん、それは到底友好的ではありません。憎悪を纏ったまま、彼らは円堂さんへ吐き捨てるように言いました。
「お前がなにを知ってるっていうんだ? 豪炎寺のことも、少なくとも俺たちの方が付き合いも長いっしょ。みたいな」
「否定するのは勝手ですが、豪炎寺が決勝戦に来なかったのは事実ですよ。そっちの鬼道君が証人です」
「………」
去年のフットボールフロンティアの優勝校は帝国学園。つまり決勝戦で木戸川を下したのは鬼道さんたちです。
当然、当時のことは覚えているでしょう。そしてそんな鬼道さんは三兄弟の口に反論することなく、渋面で無言を貫いています。
その無言が肯定の意であることは誰の目にも明らかです。そしてもう一方、裏切りの証もまた、私たちの目の前にあります。
「それにそもそも、どうして豪炎寺は木戸川をやめて雷門なんかにいるんです? 裏切っていないのなら、我々に何も言わずにチームを去ったりはしないはずでしょう?」
「なあそうだろ? お前がよーく知ってる豪炎寺は、そんな不義理な奴じゃないもんなぁ! ……けど、これが現実だ。豪炎寺は俺たちの期待の何もかもを裏切ったんだ」
「あいつは『炎のストライカー』なんかじゃなかった……決勝戦のプレッシャーにビビって逃げ出した、臆病で卑怯な裏切り者だったんだよ……!!」
「っ……!」
理解できる憤りです。
何も知らない彼らからしてみれば何の脈絡もない離反なのです。騙されたと、裏切られたと憤るのも当然のことでしょう。
ですが私はその“脈絡”を知っています。真相は、誰も悪くないただの事故。なのに一方的に悪し様に言われる豪炎寺さんは、さすがにかわいそうに思えてなりません。
だというのに、夕香ちゃんのことを知らない円堂さんはもちろんのこと、豪炎寺さんも、自分が釈明しても言い訳にしか聞こえないだろうと思っているのでしょう。唇を引き結び、浴びせかけられる罵声を黙って受け入れるばかり。
そんな姿に、私ももう我慢ができませんでした。
「あの……ちょっといいですか? そのお話ですけど――」
と、その行き違いを解いてあげようと親切心を働かせ、口火を切ったのですが、しかし。
「――豪炎寺さん……?」
「いいんだ、ベータ」
さっと私の口の前に伸びてきた手のひら。他でもない豪炎寺さん当人が、私の親切心を制してきたのです。
しかも彼はそのまま、武方さんたちに深く頭を下げました。
「俺が武方たちを……木戸川のみんなを裏切ったのは、事実だ。誤魔化すつもりはない。……すまなかった」
「ご、豪炎寺……」
まさか当人が裏切りを認めるなんて思いもしなかったのでしょう。円堂さんが困惑気にたじろいでいます。
そして私も、動揺するほどではありませんが、困惑に息を呑まざるを得ませんでした。なぜ事故のことを話してあげないのでしょう。言い訳がましくなるのが嫌なのなら、尚のこと勝手に庇う私を止める必要なんてないでしょうに。
彼の気持ちがさっぱりわかりませんでした。しかし当人が話すなと言うのなら、私がそれを無視するわけにもいきません。
おとなしく一歩引き、呆れのため息を吐き出します。もう好きなように気のすむまで罵倒を堪能しちゃってくださいと、彼らの確執の観客に徹することを決め、傍の花壇の淵に腰を下ろしました。
別にそれがきっかけになったわけではないでしょう。ですが、同時。
「……ま、色々言いはしたけどさ、裏切りに関してはぶっちゃけもういいんだよ。気にしてない、みたいな?」
「え……?」
三兄弟の顔から、憎悪と憤怒が消えました。
代わりに彼らが宿したのは、酷く冷めた、冷たい眼差し。下げられた豪炎寺さんの頭を見下ろす彼らは、豪炎寺さんを鼻で笑い、続けます。
「謝る必要もありません。そんなもの、我々は求めていないので」
「今の豪炎寺なんて恨む価値もないってこと。すっかりザコに成り下がっちまってさァ」
「ザコ、だって……!?」
反対に円堂さんの眼に怒りが宿りました。しかし兄弟は構うことなく「ああ」と頷きます。
「去年の豪炎寺は確かにすごかった。実質あいつ一人で決勝まで行ったんだからな」
「どんな相手もたった一人で打ち破り、軽々と勝利を積み重ねるあの姿……。本気の豪炎寺に勝る選手など一人もいない、まさに無敵と言って差し支えない強さでした」
「なのに……今はどうだ。代名詞の【ファイアトルネード】すらまともに点を決められてない。運んでもらったボールを、味方頼りの連携シュートで押し込むのが精一杯な有様じゃん」
「そんなだから、米田とかいうぽっと出の無名にストライカーの座を奪われたりするんだよ。弱小チームの雷門でプレーしてるってのに、聞こえてくるのはそいつの名前ばっかりだ」
「一人で活躍しまくって俺たちを決勝まで連れていった、あの圧倒的な強さはどこに行ったんだ、豪炎寺。今のお前には、無敵の“む”の字もありゃしない。失望するなって方が無理な話だ。……『炎のストライカー』の名が泣くな。みたいな……!」
なんだか私のことをバカにするような言葉も聞こえた気がしましたが、ともかくそれほどの失望感。紛れもない弱小チームだった雷門に於いて豪炎寺さんの強さは一際目立つはずなのに、それがなかったという事実は、彼らには豪炎寺さんの弱体化に見えてしまうのでしょう。
実際はまあ、彼らの勘定に私の強さが抜けてしまっているのが主な要因なのでしょうが、観客に徹すると決めた以上、私に口を開く気はありません。
最も、その気があってもさすがにこの場で自分の実力を喧伝する勇気なんて持てなかったでしょうが――ともかく、そんな理不尽な失望を浴びせかけられても、豪炎寺さんは一言たりとも言い返すことも、身じろぎすることもなく、頭を下げ続けていました。
三兄弟の罵りは、それでも微塵も緩みません。
「きっと雷門の弱小っぷりが豪炎寺に移ってしまったんでしょうねぇ。かわいそうに。……あるいは、決勝戦で臆病風に吹かれたのを引きずってたりするんでしょうか?」
「どっちにせよ自業自得な末路だがな。……ま、そうだな。かわいそうだ。憐れんでやるよ豪炎寺。お前が弱くなっちまって、本当に残念だ」
「だからさぁ、豪炎寺。お前に頼みがあるんだよ」
「「「今度の試合、弱くなったお前のサッカーを俺たちに見せないでくれ」」」
「っ……!」
「……それは、試合に出るなということか……?」
三人揃ってのその声音は、円堂さんにもわかるくらいにはっきり侮蔑を帯びていました。おかげで彼は息を呑み、豪炎寺さんもとうとう顔を上げ、尋ね返します。
三兄弟はそれに対し、人をバカにするような薄ら笑いで答えました。
「……そうそう。なんつーか、俺たちさ、お前が
「豪炎寺がいなくなった後、あなたがおらずとも我々は戦えると……あなたを超えるのだと、特訓を繰り返してきたのです」
「おかげで兄弟のコンビネーションはより磨きがかかったし、【ファイアトルネード】を超える必殺技も手に入れた! ……なのに、超えたかった当の豪炎寺はザコ同然。そんな奴に勝ってもなんの証明にもなりゃしねぇ」
「それどころか、今まで頑張ってきたのがバカみたいになっちゃうじゃん? さすがにそれはご勘弁、みたいな」
「だからあなたにはベンチでおとなしくしていてもらいたいのです。そうすれば……去年、あなたに夢を託した自分たちを、これ以上みじめに思わずに済む」
「安心して、俺たちが雷門を叩き潰すさまを見守っていてくれ。……今日はそれだけ言いに来た。それじゃ、目的は果たしたし、俺たちはこの辺で」
そう最後に締めくくり、三兄弟は酷くあっさりと私たちに手を振りました。
言うだけ言って、その態度。滅茶苦茶なことを言い捨てられた憤りは、もちろん私の中にも湧き出ていました。
が、兄弟のそれに反論するには、どうしても夕香ちゃんの件を切り出さねばなりません。そしてそれは、どういう理由か豪炎寺さんの望むところではない。となれば私は、去り行く彼らの背中を黙って見送るほかありません。
がしかし。そんな私と違って円堂さんは、仲間をバカにされて黙っていられる質ではないのです。
「待てよ……!!」
「あ……?」
今まで無視され続けてきた怒りがそのまま鎮火するはずもなく、彼は去る勝さんの肩を捕まえました。その声色は、爆発寸前の如く煮えたぎっています。
その火傷してしまいそうなほどの憤怒には、きっと夕香ちゃんの件を知らないために反論の理屈が持てないストレスも燃料としてつぎ込まれているのでしょう。
それらが必要以上の怒りを呼び込んでいる状況です。
あなたが口をつぐんだせいですよと、横目で豪炎寺さんを責めるも、彼は陰鬱な感じに目を逸らすばかり。円堂さんのそれを消火する者は誰もおらず、やがてそのまま、爆発してしまいました。
「豪炎寺は、弱くなってなんかいない!! ただ新しいチカラを……俺たち雷門の仲間と力を合わせるサッカーを手に入れただけだ!! ……お前たちは、それが怖いんだろう……!? だから豪炎寺に試合に出るななんて言ってるんだ……ッ!!」
「……ハァ? 俺たちが怖がってる? お前、何わけわかんないこと言っちゃってんの? みたいな」
豪炎寺さんの裏切りを否定する言葉がないために、円堂さんが口にしたそれは、ほとんど言いがかりに近い挑発染みたものになってしまっていました。
しかし、それでも内の怒り、豪炎寺さんを思う気持ちは確かに本物です。故に勝さんたちは、呆れたように肩を竦めました。
「それに『新しいチカラ』とか……ハッ、笑わせてくれるじゃん?」
「笑わせてもらったお礼に、お前にも教えてやるよボキャ貧キャプテン。……仲間ってのは、信じても裏切ってくるもんだ。俺たちはそれを、豪炎寺に教わった……! 俺たちを煽るにしても、まずはそこをお勉強しなくちゃなぁ」
「ですがまあ、乗ってあげましょうその無様な挑発に。豪炎寺も口だけでは納得できないでしょうし、今の私たちの実力を見せつけて差し上げるのも一興です」
「ああ、思い知らせてやる……! 豪炎寺が手に入れた雷門のサッカーなんて、俺たちのサッカーに比べればゴミ同然だってことをな!」