雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第五十七話 不調な試合、開幕

「――おい……おいッ!! ベータ、ボールそっちに行ったぞ!!」

 

「えっ――あっ……!」

 

 

 染岡さんが張り上げた声で、私は我に返りました。

 

 今はフットボールフロンティアの準決勝、木戸川清修との試合の真っ只中です。そんな大事な時間にぼんやり気を散らしてしまっていた自分に愕然としつつ、同時に染岡さんの大声の理由、勢いよく私へと迫るボールの存在を視界内に収めます。

 ほとんど反射で身体が動き、ボールを受けるために足が伸びます。がしかし、咄嗟のことであったこととボールに僅かな回転がかかっていたせいで目測が狂い、結果、大きく弾いてしまいました。

 

 弧を描いて私の頭上を越えてゆき、そしてそのままタッチラインを悠々跨いでしまいます。

 ピィーッと鋭く審判さんの笛が鳴り、試合が中断。するとたちまちその原因である私へと、染岡さんの怒声が響き渡ることになってしまったのでした。

 

 

「この野郎……ッ!! 何をボーっとしてやがるんだベータ!! 試合中だぞ!?」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 いつもであれば憎まれ口の一つでも返してやるところですが、さすがに今はその道理もありません。どう考えても悪いのは呆けていた私です。ついでにそもそも口喧嘩する元気自体が残っておらず、素直に頭を下げました。

 

 がしかし、ちらりと眼を上げ様子を伺えば、染岡さんの怒りは静まるどころかむしろ普段以上に燃え上がってしまっていました。

 私が謝罪で怒りの発散を断ち切ってしまったために、逆にフラストレーションを溜めさせてしまったのかもしれません。ともかく私を罵る言葉一つでは満足できなかったらしい彼は、次いでその八つ当たりの矛先を豪炎寺さんへと向けました。

 

 

「クソッ……!! おい豪炎寺、お前もいい加減にしろよ!? あの場面、後ろにボールを戻す必要なんかなかったろ!! 自分でシュートを打てたはずだ!!」

 

「すまない、俺のミスだ。……だが、そうするべきだと思ったんだ」

 

「ッ――!! ふざけんなッ!! 二人そろって気の抜けたプレーしやがって……ッ!! 舐めてんのかッ!?」

 

 

 どうやら完全な八つ当たりでもなかった様子。私が弾いてしまったパスは豪炎寺さんからのものだったようです。忘我の只中にあったおかげで全く気付いていませんでしたが、無茶なパスだったのでしょう。

 

 ならそれを取れなかったからといって、私に怒りを向けるのはいかがなものか。理不尽を感じてしまうとさすがに反骨心を刺激されてしまいます。

 が、それが面に出て来る前に少林さんが口を挟んできました。

 

 

「ま、まあまあ染岡さん、失敗なんて誰にでもありますから……ね?」

 

 

 染岡さんの激怒っぷりにさすがにあんまりだと思ったのか、仲裁に入ってくれました。しかしおっかなびっくりなその態度。いつにもまして沸点が低い染岡さんの剣幕と相対してしまえば、そんな脆い正義感は数秒と持ちません。

 

 

「あ゛ぁ゛!? なんか言ったか、少林!?」

 

「い、いや、その……そ、そういえばベータさんも豪炎寺さんも、最近の練習ではちょっと調子悪そうだったなーって……。あの……大丈夫ですか……?」

 

 

 少林さんの意思は容易く吹き飛んで、染岡さんの怒りから逃げるように私たちへと話を向けてきました。

 

 『大丈夫ですか』。それに対する返答なんて一つだけです。

 いつも通りの微笑みを浮かべ、答えます。

 

 

「大丈夫ですよ。心配しないでください」

 

 

 疎外感など、誤魔化す以外に選択肢はありませんでした。

 素直に言えるわけがないのです。「サッカーがすごくつまらなくなってしまった」だなんて。

 

 戦国伊賀島戦と千羽山戦で、私は立て続けに“円堂さんのサッカー”の要である“信じる”を理解できない人間なのだと思い知らされました。

 

 それだけなら、まだいつかきっと理解できる時が来るはずと、そう自分に言い聞かせて頑張れていたかもしれません。

 がしかし非情なことに、一之瀬さんたちとの【トライペガサス】の特訓で、曰く“仲間を信じる”とは“仲間に自分の全てを託す覚悟”なのだと――それこそが、一度は飽きてしまったはずのサッカーをまたやりたいと思えた“円堂さんのサッカー”なのだと、私はそう諭されました。

 

 秋さんにとっても土門さんにとっても一之瀬さんにとっても、それが正しい事実です。だからこそ【トライペガサス】も成功したのだと、みんなそう言っています。

 しかし私にはそれが受け入れられません。私はそれに、ずっと求めてきた“楽しいサッカー”を見出すことができないのです。

 

 “円堂さんのサッカー”に“楽しいサッカー”がないのなら、私がサッカーを続ける理由は何でしょう。チームの中でただ一人、異端な異物であることを自覚しながら、それでももがくその理由。

 そんなものはありません。であれば、モチベーションだって上がりようがありません。試合に集中することも、できるはずがありません。

 

 とはいえしかし、です。

 

 

「……大丈夫だってんなら、真面目にプレーしてみせろってんだ!! フォワード二人そろって腑抜けられたら、マジで負けちまうぞ……!?」

 

 

 やる気は出なくとも、負けを受け入れる気にはなれません。

 

 舌打ちを噛み潰したような面持ちで口にした染岡さんに言われるまでもなく、負けるのは嫌です。しかもそれが“私のせいで”と付くものであれば尚のこと。サッカーへの熱意は無くなってしまっても、プライド的に許せるはずもありません。

 

 それに、皆さんに対してもあまりに不義理です。雷門のフットボールフロンティアへの挑戦をそんな形で終わらせてしまったならば、私はきっと死にたくなってしまうくらいに後悔するでしょう。

 だからこそ、私はなけなしの気力を振り絞らねばなりません。義務感を以ってして頭の中から『つまらない』を押し退けて、深呼吸で気持ちを切り替えます。そうして、忌々しげに肩を怒らせながら背を向けた染岡さんに続き、私も試合へと気持ちを戻すのでした。

 

 

 木戸川からのフリースローで再開したボールは、ロングパスで私たちを越え、一息に鬼道さんたちが守る中盤の層へと運ばれてしまいました。

 その光景に早速気力を削られる心地を味わいながら、私たちの陣地へ攻め込んでいくミッドフィールダーさんたちを追いかけます。敵の数は三人、対して迎え撃つこちらも少林さんと鬼道さん、そしてもちろん入部しレギュラーの座を勝ち取った一之瀬さんの三人です。

 

 十分敵の進撃を止められる布陣ですが、しかし敵もオフェンス力に定評のあるチーム。足止めはできても、ボールの奪取はそう簡単ではないでしょう。

 

 なら、私の出番です。呆けてた分を挽回するためにもと、奪われまいと懸命にボールを守る木戸川ミッドフィールダーさんたちにバレないように、大きく回り込みます。

 その途中、鬼道さんに目配せをして、そして見事に意をくみ取ってくれた彼が、直後少林さんと一之瀬さんを動かしました。

 

 

「よし……! 少林、一之瀬、二人とも前へ! 圧をかけろ!」

 

「はい!」

 

「あ、ああ!」

 

 

 鬼道さんの指揮にまだ慣れていないせいか、一之瀬さんの反応にはワンテンポ間がありましたが、ともかく従い、それぞれミッドフィールダーさんとの距離を詰めます。あとの一人はボールを保持する小柄な男の子。一瞬にしてミッドフィールダー間でのパス回しの手段を失ってしまった彼へ、鬼道さんが襲い掛かります。

 ただしもちろん、そんな程度でボールが取れるはずがありません。

 

 

「へっ、バカめ……! 跳山、こっちだ! ボール寄こせ!」

 

「ああ……っ! 勉!」

 

 

 一之瀬さんと少林さんが前に出たために開いた、前線への穴。その奥の勉さんの声もあり、小柄なミッドフィールダーさん、跳山さんはそっちへパスを出しました。

 

 勉さんがでしゃばってきたことは予想外でしたが、同時に好都合。二重に急かされた彼の眼に、死角から迫る私の姿は見えていません。

 スプリントで死角から飛び出し、勉さんへのパスをカットするのは、思っていた以上に簡単でした。

 

 

「悪いけど、頂いちゃいますね……!」

 

「なっ……!?」

 

 

 ボールをかすめ取り、目を丸くする跳山さんを置き去りにしてそのままドリブル。

 

 

「クソ……何やってんだ跳山ッ!! せっかくのチャンスをふいにしやがって……ッ!!」

 

「わ、悪い……」

 

 

 なんていう染岡さんもかくやといった沸点低めなやり取りに若干の罪悪感を覚えながら、一人でフィールドを駆け上がります。

 

 ミッドフィールダー三人を抑えてボールを奪うことに成功したおかげで、正面に残るはディフェンダー四人のみです。その四人も染岡さんと、やはり元チームメイトで強さをよく知る豪炎寺さんを特に警戒しているようでばらけており、そして最後の砦たるキーパーさんも、どうやら中々にビビリなようで私を見つめて震えており、とても強そうには見えません。

 

 見立て通りなら、彼らは私の敵ではないでしょう。ゴールの障害にはなり得ません。つまり現状は、そのまま抜き去るでも【ダブルショット】で貫くでもよしな、絶好のチャンス。

 ならば先取点はもう頂いたも同然です――と、油断していたわけではありませんが、直後、背後から襲い掛かってきた彼らの存在に、私はギリギリまで気付くことができませんでした。

 

 

「――そう好き勝手はさせませんよ!!」

 

「お前なんかに先制されてたまるか!! みたいなッ!!」

 

「きゃ――っうぐ……!!」

 

 

 背後からのスライディングタックル。危険極まりないプレーを辛うじて寸前に察知し跳んで躱すと、その直後にもう一人から肘打ちみたいなショルダーチャージが飛んできました。

 勝さんと友さんによるラフプレーの連撃です。私が勉さんを出し抜いたからでしょうか、やたらと怒りのこもった遠慮のない攻撃は、不意を突かれてしまったこともあって抗し切ることができませんでした。体幹が揺らされて、たたらを踏んだ足元からはボールが零れ落ちる寸前です。

 

 

「ベータ、豪炎寺にパスだ!!」

 

 

 その時、鬼道さんの声が響きました。

 条件反射的に反感が湧いてきましたが、しかし実際、今の私に二兄弟を跳ね退けることはできません。それに私よりも、後方の彼の方がずっと視界は広いはず。なら、正しい判断ができるのも彼でしょう。

 そんなほんの一瞬の逡巡の後、私は無理矢理前に踏み出し、指示の通りにボールを蹴り飛ばしました。

 

 

「豪炎寺さんっ!!」

 

「っ……!」

 

 

 その瞬間に、初めて彼と眼が合いました。

 三兄弟に襲われる直前の光景を頼りに放ったパスです。目測と鬼道さんが指定した通り、警戒するディフェンダーさんたちに囲まれていた彼はそこからの脱出に成功しており、位置取り的には十分ゴールを狙える好状況にありました。

 

 ただその眼だけが、まるでパスを拒むようにキュッと歪んでいたのです。

 

 思ってもみなかった感情。そんなものに見つめられて困惑のあまり身体が固まってしまいましたが、もうパスボールは蹴った後です。勝さんと友さんから逃がすために勢いよく放ったパスは、一直線にグラウンドを貫き、豪炎寺さんへと飛んでいきました。

 

 そうして瞬きほどの間で豪炎寺さんの下までたどり着き、足でそれを受け止める彼。ピタリとパスの勢いを止め、足元に収めたボールを、

 

 

「――染岡……!」

 

 

 彼は一瞬の苦悩の表情の後、そのまま中央の染岡さんへとパスを回してしまいました。

 

 

「ッ――!! この、バカ野郎ッ!!」

 

 

 センタリング先に指定された染岡さんがまたも怒りに任せて吐き捨てました。しかし今回ばかりはそれも当然でしょう。今の豪炎寺さんのパスは、キーパーさんとの完全なる一対一という絶好のシュートチャンスを投げ捨てたも同然ですし、何よりパスを出した染岡さんは、豪炎寺さんと違ってディフェンダーさんたちのマークから抜け出せていないのです。

 

 豪炎寺さんがパスの前に見せた逡巡は、きっとそれを認識したから。だというのに強行した彼に怒りが湧いてしまうのは、何らおかしくはありません。

 

 とはいえしかし、罵声を上げてもセンタリングが上げられた事実は変わりません。染岡さんもそれ以上の罵声は噛み潰し、前を塞ぐ大柄なディフェンダーさんを無理矢理かき分け、前に出ます。

 

 

「クソ……がッ……!!」

 

 

 そしてその先、ボールの落下地点へ必死に足を伸ばし、辛うじてそれを捉えました。が、それでも放てたのはシュートと言うにはあまりに弱々しいもの。方向を修正した程度にしかならず、挙句キーパーさんの正面。

 得点の可能性は微塵もなく、そのままキャッチされてしまいました。

 

 

「うふぅ……。ああ、びっくりしたぁ。そっちから来るなんて思わなかったよ。でも……よくわからないけど、失敗だったみたいだね。……豪炎寺、武方たちの言う通り、やっぱり弱く……っ!?」

 

「チッ……!!」

 

 

 額に汗をかいたキーパーさんが、それを拭いながら安堵に息を吐いています。あのくらいのシュートに緊張するなんて、キーパーに向いていないんじゃないでしょうか。

 

 という益体もない心配はともかくとして、染岡さんが吐いた舌打ちは、そんなビビリのキーパーさんをたちまち黙らせてしまうほどの憤怒が秘められていました。

 彼はそれほどの怒りで肩を震わせ、キーパーさんには一瞥もくれないまま、まっすぐ豪炎寺さんへその矛先を向けました。怒りのままにズンズン突き進み、やがて彼は申し訳なさそうに目を伏せている豪炎寺さんの胸倉に手を伸ばし、殴りつけるように締め上げます。

 

 

「……真面目にプレーしろって、言ったよな、豪炎寺……!!」

 

「……すまない……」

 

「『すまない』……? ……すまないってなんだよ。立て続けの二度目だぞ!? ほんとにお前、何考えてんだ……!?」

 

 

 たぶん、さっき私が弾いてしまった豪炎寺さんからのパスも、同じような状況から抛られたものだったのでしょう。

 同じようなミスの繰り返し。さっきの、パスを拒否するどこか情けない表情然り、確かに豪炎寺さんらしくありません。

 

 

「元いたチームが相手でやっぱりやる気が出ないってか!? ふざけんなよ!? 俺たちはフットボールフロンティア優勝のために、今までも今も必至に戦ってんだ!! 情でその気持ちを忘れちまったってんなら、いっそのこと武方の奴らが言ってたようにベンチにすっこんでろよ!!」

 

「――全くだぜ……! 案の定、なっさけない姿みせやがってさぁ!」

 

 

 胸倉を引き寄せた至近距離で吐き捨てた染岡さんに続いた声は、いつの間にか私を追い越し前に出ていた勉さんのものでした。

 以前カチコミに来た時と同じ調子の憎まれ口です。しかしため息を呑み込むような間の後、続けて吐かれた台詞では様子が少し変わります。もちろん、よくはない方向に。

 

 彼はあの時以上に呆れと嘲りをひけらかしたような哄笑と共に、罵るように言いました。

 

 

「ざまあねぇなぁ豪炎寺!! 雷門のサッカーだか何だか知らねぇけど、それ(・・)は当然の報いってもんだぜ? 本当のサッカーを捨てて『炎のストライカー』じゃなくなったお前にはお似合いの有様だ!!」

 

 

 以前『情けない姿を見たくない』などと言った薄ら笑いとは対照的な、叩きつけるような大笑い。しかし当の豪炎寺さんは目を伏せたまま、なにも反応を見せません。

 

 それに何を思ったのかは、わかりません。しかし彼は無反応を悟った途端、その大笑を一瞬のうちに消し去って、舌打ちを一つしました。

 

 

「……チッ、腑抜け野郎め。なら、見せてやるよ。俺たちの本当のサッカーを……! 軟山!!」

 

「う、うん……!」

 

 

 染岡さんに加えて勉さんの分もあってビビりまくりのキーパーさん、軟山さんは、オドオドしながらも要求された通りにロングパスを放ちました。

 

 山なりに、正確に勉さんの元へと飛んでいくボール。もちろん、こちらもそれを黙って見ている道理はありません。

 

 

「通させませんよ……! 今の豪炎寺さんで私たちのレベルを図られちゃったらたまらないので……!」

 

「米田……ッ!」

 

 

 パスを奪い取ってやるべく、勉さんの前に身体をねじ込みます。それに対する勉さんの抵抗は、なんだかやけに怒りに満ちているような力任せな身体の押し合い。

 さっきも彼へのパスをカットしてしまったせいでしょう。二度はやられまいと息巻いているに違いありません。

 

 フィジカルも拮抗している現状で、そこを突かない理由はありませんでした。

 

 

「それにしても、武方さんたちってほんとに豪炎寺さんのこと嫌っちゃってるんですね! キーパーさんとかはそこまででもないっぽいのに……!」

 

「こんな時におしゃべりな奴だな! ……何が言いたい……!」

 

「いえ別に! ちょっと思っただけですよ……! ……さっき私にパスカットされちゃったくせに『本当のサッカーを見せてやる』なんて言っちゃえるのは、やっぱりそこなのかななんて――っ!?」

 

 

 ――と、動揺を誘えれば御の字くらいの気持ちで放った煽り言葉は、どうやら思っていた以上に勉さんの怒りを誘ってしまったようでした。

 

 瞬間、倍増する勉さんの膂力。競り合いの均衡が突如として崩れ、さらにタイミングの悪いことにちょうどボールが降ってきます。

 もちろんそれは勉さんの足元に。慌てて踏ん張り体勢を立て直し、奪い返そうとするも、その時にはもう手遅れになってしまっていました。

 

 

「……さっきのは跳山のせいだ。お前こそ、あいつで俺たち(・・・)のレベルを図ってんじゃねぇ……!! 勝ッ!!」

 

「ああ!! 見せてやるぜ……俺たち兄弟のコンビネーション!!」

 

 

 私のブロックは間に合わず、勝さんへとボールが渡ってしまいます。そして彼ら、三兄弟は三人同時に猛然とダッシュを開始。三人息を合わせたようにピッタリと三角形の陣形、トライアングルを組み、私たちの陣地へと攻め入っていきました。

 

 

「くっ……少林、一之瀬、止めろッ!」

 

「はい! 任せてください、これくらい――っあ!」

 

 

 鬼道さんの指揮の下、三兄弟に対してこちらのミッドフィールダー三人が壁になって立ちはだかります。がしかし、三兄弟のお手本のようにきれいで完璧なトライアングルフォーメーションを前にして彼らはボールに触れることすらできません。

 一瞬たりとも止まることのないドリブルとパスワークで躱されて、ほとんど素通り同然に抜けられてしまいます。

 

 

「ッ! なんて洗練されたコンビネーション……!」

 

「威張ってただけあるってことか……!」

 

「ふんッ……!! 当然です!! 以前お邪魔した時はシュートしか見せられませんでしたが、同じくらいに我々は我々兄弟の連携力を鍛え続けてきたのです!! ……どこぞのお方に教訓を頂いたものでしてね!!」

 

 

 豪炎寺さんの裏切り。その怒りや憎しみをエネルギーに変えたプレー。私からすればただの思い違いにしか思えないものではあるものの、彼らの内のその熱量は確かなものです。

 そして同じ憎悪を燃やしている故に、コンビネーションはより精度を増しているのでしょう。三つ子の兄弟にしても(・・・・)なくらい、テレパシーでも使っているんじゃないかと思わず思ってしまうほどの“連携”で、彼らはゴールへと突き進んでいきます。

 

 一部の隙もありませんでした。

 ただし、それは三兄弟だけに言えること。

 

 

「よし! いいぞ武方! そろそろ俺たちにボールを回して、先に前に――って、おい!?」

 

「パスカットされたマヌケは引っ込んでろ!! ……さっき言ったろ!! 俺たち、武方三兄弟のコンビネーションをあいつに見せつけてやるんだよ!!」

 

「裏切者は豪炎寺一人で手いっぱいなんだ!! 邪魔するな、みたいな!!」

 

 

 パスを要求した跳山さんを撥ね飛ばすように押し退けて、武方さんたちはそのまま三人だけで雷門ディフェンスへと突っ込んでいきます。

 『仲間を信じても裏切られる』。三兄弟が得たという教訓そのままの戦法です。

 

 それが作りだした隙を、鬼道さんが見逃すはずもありません。

 

 

「よし……! 風丸、栗松! 10番()11番()に張り付け! 壁山と土門は正面を抑えろ!」

 

「「「「おうッ!」」」」

 

「チッ……!! こいつら……!!」

 

 

 ディフェンダー四人が一斉に動き、数でそれぞれを塞ぐ作戦。こうなれば三人だけの武方さんたちはそのコンビネーションを発揮できません。

 

 単純ですが効果的です。彼らが兄弟だけ(・・)でのコンビネーションに拘っているなら尚のこと。彼らの足が、ようやく進撃をやめて止まります。

 しかし。

 

 

「この……ッ!! この程度で、俺たちを止められると思うな!! みたいな!!」

 

「ぐ……うわぁッ!?」

 

「ぐはッ!? こ、こいつ……! 無茶苦茶しやがるっ……!」

 

 

 壁山さんと土門さんに前を塞がれ、ボールを保持しながら立ち止まる他なかった勝さんでしたが、突如意を決したように二人の壁へと突っ込んでいきました。

 

 どうやら彼の内で燃える憎悪はそんな行き止まりの状況でもなお、得点を諦めることも他の味方に妥協することもできなかったようです。乱暴に、無理矢理二人をかき分けるようにして押し退けて、飛び出したのは円堂さんの真正面。

 

 

「くらえ雷門ッ!! 【バックトルネード】!!」

 

「そいつは通用しないぜ……!! 【ゴッドハンド】!!」

 

 

 そうして放たれた青い炎の竜巻は、確かに強力ではあるものの、以前の対決で円堂さんの【ゴッドハンド】に止められたシュートです。故に円堂さんも自信をもって迎え撃ち――

 

 

「――ッ!? ま、前よりも、パワーが……ッ!?」

 

 

 光の手のひらに包まれてもなお衰えない竜巻の威力に、息を呑むこととなりました。

 

 

「雷門なんかに俺たちのシュートが負けるわけないんだ……!! ぶち抜けぇッ!!」

 

 

 と、そんな勝さんの気合、あるいは怒りがシュートを後押ししていたのでしょう。円堂さんはそれを抑え切ることができず、押し込まれたシュートは光の手のひらを突き抜け粉砕。

 そのままゴールネットをも貫いてしまったのです。

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