「
前半戦と同様、シュートが放たれることはなかった。
纏った炎も気迫も掻き消え、豪炎寺はただ空中で染岡へ返しのパスを蹴る。山なりにふらふらと、それは染岡の下に逆戻りし、手前で弾んで染岡の足元に収まった。
その腑抜けたボールが、とうとう染岡の怒りを起爆した。
「――豪炎寺ッッッ!!!」
「がはッッッ!!?」
【ドラゴンクラッシュ】。足を振り上げた染岡が、力任せに必殺シュートを放った。
豪炎寺めがけて、だ。一切の加減なく放たれたそれは着地直後の豪炎寺を完璧に捉え、吹き飛ばしてからゴールネットの上を越えて外に出る。しかし、それを気にした者など一人もいないだろう。審判でさえ、笛を鳴らすのが一瞬遅れた。
オレだって驚きで声が出ない。他の奴らもそうだろう。味方に故意にシュートをぶち当てて吹き飛ばすなんて、例えイラついたにせよあまりにも予想外だ。
だがシュートを打った張本人、染岡は、反省どころかまだ怒りが収まらない様子。倒れ込み、痛みに顔をしかめる豪炎寺にズンズン詰め寄り、胸倉をつかんで無理矢理奴を起き上がらせた。
「なんでだ……前半戦の時も、今も、どうしてシュートを打たねぇ豪炎寺ッ!! どうしてお前がそんな腑抜けになっちまってんだよッ!!」
そして鼻先同士が当たりそうなほどの至近距離で叫んだ。
前半戦からずっと溜め込んでいたのだろう声。豪炎寺は間近でそれを浴びせられても唇を引く結んでいたが、やがてその眉尻が徐々に下がり始める。
知らん顔が崩れ、そして奴もまた堪えられなくなったようだった。
「……そうするべきだと、思ったんだ。俺よりも、お前たちがシュートを打つべきだと……!」
「そんな場面じゃなかっただろ!? お前にそれがわからないはずがねぇ!! 下らねぇ言い訳なんか――」
「言い訳じゃない!! ……本心だ……! 俺がシュートを打てば、皆から
「活躍の機会、だと……?」
なんだ、それは。
オレと染岡の頭の中が同時に疑問符で埋まり、豪炎寺の胸倉をつかんでいた手が緩む。つまり豪炎寺の高い実力が染岡の存在意義を危うくしまう、という話なのだろうが、しかしそれがどうしたというのだろう。奪われたとして、何の問題があるというのか。
チームが勝てれば、それで別にいいじゃないか。それに……実力の差というものが現実として存在する以上、それはどうしようもないことだ。
しかしそうは思っていないらしい豪炎寺は、俯き加減に尚も零す。
「武方たちと再会して、気付いたんだ。俺は木戸川で、あいつらのサッカーを奪ってしまっていたんだと……。聞いただろう? 俺が『炎のストライカー』なんて呼ばれるようなプレーをしたせいで、去年、あいつらは試合に出ることすらできなかった……!」
絶対的なワントップエースだったが故の結果だ。本来なら誇るべきそれに対して、豪炎寺の顔はまるで悔いるように歪んでいる。
「……武方たちを、木戸川を歪めたのは俺のサッカー……『炎のストライカー』のサッカーだ。……誰かから恨まれ、誰かからサッカーを奪うサッカーを、俺はやりたくない。正しいとも思わない。だから……俺はシュートを打たず、アシストに徹するべきなんだ」
「なんだと……?」
「そうやって、俺だけが活躍するのではなく、みんなの力を合わせて戦うことができれば……それが“雷門のサッカー”、だろう……?」
――『それが“雷門のサッカー”』。その言葉に、オレは唖然と呆けるほかなかった。
一之瀬にとっての“雷門のサッカー”、“信じる”は、つまるところ“信じてほしい”だ。同じ尺度で表すなら、今、豪炎寺が口にしたそれは、“信じたい”なのだろう。
相手から自分への“信じる”を求める一之瀬に対して、自分から相手への“信じる”を求めている豪炎寺。二人の“信じる”は、互いに背を向け完全に正反対の方向を向いている。
「違う。そんなのは、“雷門のサッカー”じゃない……!」
追いついてきたらしい一之瀬が、言わずにはいられないというふうに飛び出した。
「“雷門のサッカー”は、“仲間を信じるサッカー”だ! みんなの“信じる”想い、期待を、誰かが背負って戦わなくちゃならない!」
「………」
「……そして、その
どちらかの“信じる”を手にするためには、もう一方の“信じる”を捨て去らねばならないという、そんな矛盾を二人が口にしたことは、正直に言って驚きだ。
だが、しかし。オレに呆けてしまうほどの衝撃を与えたのは、そこではなく――。
「……俺は以前、それを裏切ってしまった。だから同じことを繰り返す気はないし、みんなにも俺と同じ間違いを犯してほしくない。だから、豪炎寺――」
「俺はッ……!! ……俺は、皆とサッカーがしたいだけだ……」
「ッ……!」
同じなのだ。正反対でもそこだけは――『皆とサッカーがしたい』という、根元にある想いは寸分違わず同じもの。一之瀬も豪炎寺も、そしてオレも。
なのに、どうしてオレたちの“信じる”はこうまでバラバラなのだろう。どうしてオレは、一之瀬の“信じる”にも豪炎寺の“信じる”にも、かつて感じた“楽しいサッカー”を感じることができないのだろう。
どっちの“信じる”が本物なのか。あるいはどっちも本物ではないのか。
なら――
(――なら、“信じる”って何なんでしょう……?)
そう、空を見上げて途方に暮れるしかありませんでした。
「……ふざけんなよ」
私も一之瀬さんも豪炎寺さんも、みんな相手の想いを感じ取り、言葉を継げなくなってしまった中、ふと小さな声が鳴りました。
染岡さんです。傍の誰もが口をつぐんでやっと聞こえるくらいの小さな呟き。そしてその直後、緩んだ手が再び豪炎寺さんの胸倉を締め上げ、そして同時、染岡さんの表情が露になります。
純粋な怒りのみが、そこにありました。滲んだ困惑は消し飛ばされて、真っ赤に染まった顔が歯を食いしばり、必死に己を律しようと握り締めた拳を震わせています。
しかしもちろん、染岡さんの理性がまともに働くはずもありません。彼ら叱らぬ弱々しげな面持ちでそれを見つめる豪炎寺さんの様子に、あっという間に怒りが臨界点を突破したよう。ギリギリと食いしばった歯をこじ開け、怒声のための息を吸い込み、そして――
「「「いい加減にしやがれ、豪炎寺ッッッ!!!」」」
「武方……!?」
吐き出す寸前にあった染岡さんの怒声を遮り、武方三兄弟の憤怒が辺りに響き渡りました。
三人とも、染岡さんに負けず劣らずな激情に肩を怒らせています。それによってみんなの視線を吸い寄せた彼らはしかし、そんなものなど気にも留めずにズンズン豪炎寺さんの下まで歩みを進めてきました。
予想外な割り込みに虚を突かれた染岡さんまでもを押し退けて、胸倉の締め上げから解放された拍子に後退った豪炎寺へと詰め寄り、それを吐き出します。
「黙って聞いてりゃ『活躍の機会を奪ってしまう』だの『サッカーを奪ってしまう』だの『アシストに徹するべき』だの……!! もう我慢も限界だ……ッ!!」
「それがあなたが腑抜けた理由だというのなら、アレですか!? 去年の我々への裏切りも、我々へレギュラーの座を明け渡すためだったとでも言うつもりですか!?」
「っ……」
違います。豪炎寺さんが去年、大会の決勝戦へ行くことができなかったのは、妹の夕香ちゃんの件があったからです。
ですがしかし、心のどこかにはそんな気持ちもあったのかもしれません。少なくとも豪炎寺さんはそう思えた様子。視線は気まずそうに武方さんたちから逸らされて、おかげで加速したすれ違いが、勝さんからさらなる怒りを引き出してしまいます。
「お情けで活躍させてもらって俺たちが喜ぶと、本気で思ってんのかよッ!!」
「っ! それは……」
詰め寄り、無理矢理己を向かせて至近距離で射貫く勝さんの眼に、豪炎寺さんはその身を跳ねさせました。
無体な行いへの反応ではなく、言葉が胸に突き刺さったような強張り方でした。何かしらの衝撃を受けたらしい彼に、さらに言葉は続きます。
「雷門中でも言ったじゃん……!! ザコに成り下がった豪炎寺なんかに用はない……シュートも打たない豪炎寺に勝ったって、なんにも面白くないんだよ!!」
「あんなお前じゃない、『炎のストライカー』の豪炎寺に……俺たちは、勝ちたかったのに……ッ!!」
「なのに……言うに事欠いて『皆とサッカーがしたいだけ』……? ふざけないでいただきたい!!」
「「「サッカーがしたいなら、まずお前が自分のサッカーをしてみせろよ!!!」」」
「「ッッ……!!」」
三兄弟が吠え、そして豪炎寺さんと、さらに一之瀬さんまでもがハッと息を呑みました。
二人とも、その顔からはさっきまでの苦悩が跡形もなく消えています。まるでちょうど今、目が覚めたとでもいうような、どこか夢うつつが残った表情。
三兄弟の言葉が、苦悩の悪夢を吹き飛ばしてしまったかのようでした。
「……チッ。言いたかったこと、全部言われちまったぜ。ウチにカチコミしてくるようなやつらだってのに、案外マトモなこと考えてたんじゃねぇか」
「あ゛? 『
自分のそれと同じくらいに激しい怒りに先を越され、肩透かしを食らったせいでしょう。随分クールダウンした染岡さんが鼻を鳴らし、それに対して未だ燃焼中の勉さんが咬みつきました。
しかし頭が冷えた染岡さんは意に介さず、豪炎寺さんを見つめて言います。
「いいか、豪炎寺。一度しか言わねぇから、忘れんな。……俺たちにとってのお前は、活躍を奪う邪魔な存在なんかじゃねぇ。お前は……憧れなんだ。俺たちがすげぇ奴だって認めた、最高のストライカーなんだよ。……だからもう、俺たちの
「「「ふんっ……!」」」
染岡さんと、そして三兄弟もが面白くなさそうに、明らかな照れ隠しでそっぽを向きました。
豪炎寺さんはもちろん一之瀬さんも、彼らのそれを正しく受け取れたのでしょう。呆けて開いていた口が閉じ、今度は俯くことなくまっすぐに、豪炎寺さんは言いました。
「……信じて、いいんだな?」
「まだ独りよがりかよ馬鹿。“信じる”ってのは、欲しいなんて言うだけで手に入るもんじゃねぇだろうが。――仲間の全力プレーに全力で応える。そうやって積み重ねて、
「だから……俺たち全員、やることは一つだけだ。――全員、本気の全力でサッカーしろ!! 雷門は、
「染岡……!」
続々と顔が上がっていきます。染岡さんの言葉に奮起し、豪炎寺さんや一之瀬さんたちに続いてそれを――“信じる”を理解した彼ら。
そして私は、また傍からそれを見ていることしかできません。
皆さんを奮起させた染岡さんの言葉に、やっぱり私だけが何も感じることができません。輪には入れず、蚊帳の外。染岡さんたちが私たちの全力についていけるだなんて、どうしてそんなことが信じられるでしょう。
――でも、しかし。
あるいは本当に、皆さんが応えてくれるなら――
(それは確かに、確固たる証拠になってくれるのかも……)
私のこの“諦め”を、否定してくれるのかも。
――今度こそ。
かつて初めて【トライペガサス】を成功させた時、止まりかけた私の足を動かした、あの感覚が蘇ってきます。
【炎の風見鶏】然り【イナズマブレイク】怒り、今まで散々打ちのめされてきた私がまたそう思うことができたのは、きっと『皆とサッカーがしたい』という私と同じ想いを抱える豪炎寺さんたち――今までのように一人ぼっちではなく、仲間が、一緒に立ち向かってくれているからなのでしょう。
「……ああ、そうだな……!」
豪炎寺さんは、すっかりいつも通りの引き締まった表情で、染岡さんと皆さんに頷いていました。
「――多少はマシな目つきになったみたいじゃん。なら今度こそ、それごとお前の“仲間を信じるサッカー”とやらも叩き潰してやる……!! 軟山!!」
「う、うんっ!」
ゴールキックで試合が再開されると同時、喜ばしげと忌々しげを半々にしたような表情で叫んだ勝さんへ、ボールは蹴り出されました。
最初から三兄弟のコンビネーションで貫くつもりなようで、ディフェンダーもミッドフィールダーも寄せ付けず、三人だけの陣形で突き進んできます。
相変わらず味方との“連携”は終わっちゃっていますが、しかしそれでも三兄弟間のコンビネーションの巧さは健在です。アレからボールを奪えるのは、後半戦の間そうだったように、私くらいなものでしょう。
だから自然、私の身体は彼らの後を追いかけました。――もとい、追いかけようと身体を向けたのですが、しかし。
「構うな! オフェンスは前で待っていろ! 三兄弟は、俺たちで止める……!」
鬼道さんの指示に、足が止まりました。
止まって、しかし一瞬後に気付きます。無謀です。確かに鬼道さんが優れたプレイヤーであることは認めますが、彼では三兄弟のコンビネーションは破れません。
私がどうにか対抗できているのは、後半戦で積み重ねた彼らの動きの観察と、そしてチーム一の瞬発力のおかげです。そしてそれらを以ってしても、毎回ボールを奪い返せるわけではありません。
観察眼はともかく瞬発力の方を持たない鬼道さんには、尚のこと不可能。そして俺
私の目算、“諦め”では、そうでした。しかし――
「行けるな、少林!」
「もちろん!! やってやります……全力プレーッ!!」
皆さんと同様、さっきまで迷子のようにおろおろしていたことなどまるで感じさせないくらいに気力を迸らせた少林さんが、鬼道さんに呼ばれるや否や、勢いよく飛び出しました。
ダッシュの先はもちろん武方三兄弟。まっすぐ突っ込んでくる小さな彼に、勝さんは余裕たっぷりな笑みを浮かべます。
「ふんっ! お前程度、コンビネーションを使うまでもない! みたいな……ッ!?」
体格差で撥ね飛ばそうとしたのでしょう。実際普通に考えれば、小柄な少林さんとのパワー勝負がどうなるかなんて、想像するまでもなく明らかです。
勝さんの圧勝――のはずでしたが、しかし接触のその直後、彼の顔から余裕の笑みが掻き消えます。
「負ける、もんか……ッ!!」
「な……!?」
ボールを挟んでぶつかり合うお互いの足。あっけなく蹴り飛ばされてしまうはずの少林さんが、勝さんと拮抗しています。
いえ、辛うじて持ちこたえているだけでしょう。続ければ、たぶんいずれは勝さんに軍配が上がっていたはずです。
しかしそれもあくまで
「ッ……勉!!」
無理矢理身体を入れ替え、パスが出ます。がしかし、少林さんとの勝負で時間を使ってしまった故に、蹴り出した時にはもう鬼道さんも動いていました。
パス先の勉さんのほど近くまで、彼は既に迫っていました。それでもボールの方が僅かに早く、勉さんへと届いたのですが、
「ッ!! と、友ッ!!」
「させるかッ……!!」
焦ったのでしょう。勉さんがダイレクトで、今度は友さんへと回そうとしたパスに、鬼道さんが伸ばした足がギリギリ届きました。
しかしボールを奪い取ることはできませんでした。ボールは跳ね、友さんからも逸れて誰もいない無人の空間へ飛んでいきます。
そのままタッチラインを越え、結局は木戸川のボールで再開する。――そうなるはずなのに、
「少林と鬼道の全力……絶対に、繋いでみせる!! うおおおぉぉッッ!!」
「風丸……!!」
無人の空間に、風丸さんが飛び込んできました。普通に考えて、彼の足がどれだけ早くても間に合うわけがありませんでした。これは前線での攻防で、彼はサイドバックとはいえディフェンダー。少なくとも、ボールが跳ねるのを見てから走り出して間に合った、なんてことはあり得ません。
だからつまり、彼はこうなると予想していた……あるいは、“信じて”いたのかも。
そう私が思ってしまったのは、今のチームの空気に当てられているからなのでしょうか。わかりません。わかりませんが、ともかくギリギリのところでボールを捕らえた風丸さんは、直後すぐさま前線へと鋭くパスを放ちました。
「豪炎寺ッ!!」
「ああ……ッ!!」
速攻のカウンター。風丸さんのパスは敵ミッドフィールダーさんたちの頭上を越えて浮き上がるように上昇し、豪炎寺さんはそれを追って炎と回転を纏います。
シュートチャンスまで、とうとう繋がってしまいました。しかし今まで散々私のシュートに立ち向かってきたディフェンス陣の動きは機敏。息つく間もない早業のセンタリングだったにもかかわらず、それよりもさらに早く、豪炎寺さんとゴールとの間にがっちり壁を作ってしまいました。
私の【ダブルショット】なら軽く吹き飛ばせますが、豪炎寺さんの【ファイアトルネード】では無理でしょう。ならば、どうするか。
「――染岡!!」
豪炎寺さんは【ファイアトルネード】を、ゴールではなく横方向へ打ち放ちました。
グラウンドの端、コーナー狙い。敵も味方もいない空白地帯です。当然、そこに染岡さんはそこにはおらず、彼はもっと後方に位置取っています。
豪炎寺さんにそれが見えていないはずがありません。にもかかわらず、呼んだ名前。放った加減なしの必殺技。どれも私には選ぶことができない選択肢です。
つまりはそれが、“仲間を信じる”ということ。そして――
「見てやがれ――これが俺の、全力だああぁぁぁッッ!!!」
染岡さんは、それに応えてみせました。
届かないはずのボールに身を投げ出し、シュート体勢。ただしいつもの彼の【ドラゴンクラッシュ】なんかでは、どうやったってボールに届きはしなかったでしょう。
だからそのシュート体勢は、飛び蹴りのような恰好です。振り上げるのではなく引き絞った足にチカラを溜め、先行する【ファイアトルネード】へ叩きつけました。
「うおおおォォォッッ!!!」
「ッ!? た、タフネスブロッ――うわあぁッ!!」
二つの技が合体し、変則的な【ドラゴントルネード】のようになったそのシュート。赤いドラゴンはまっすぐゴールへと突っ込んで、反応できなかったキーパーさんの守りを越えてゴールネットに突き刺さったのでした。
――観客席から、そして何よりフィールドから、仲間の歓声が響いてきました。遠くベンチで、「まさに竜の砲撃……【ドラゴンキャノン】と名付けましょう!」とメガネさんがさっきの染岡さんの必殺技に命名する声も聞こえてきます。
そうやって受け入れ、喜び合う皆さんの姿は、私からすればあり得ない光景です。戦国伊賀島との試合の時も、千羽山との試合の時も感じた、理解不能の困惑。どうして私だけ“
今もそうです。まだ、“信じる”はわかりません。けれどしかし、染岡さん曰くそれが当然。
なぜなら“信じる”とは言葉ではなく、プレーの中で伝わるものなのだから。
そして今、豪炎寺さんがそれを目の前で証明してくれました。だから今の私の内を満たすのは、今までになかった期待感。もしかしたらとまだ淡くではあるものの、心が浮き立ち始めています。
「同点……チッ、大喜びしやがって。結局は連携シュートかよ……」
がしかし、三兄弟にはその変化が感じ取れなかった様子です。……いえ、たぶんそうではなく、彼らはそれを認めたくないだけなのではないでしょうか。
本人たちが気付いているかはともかくとして、きっとそう。豪炎寺さんがいなくなってからの一年間、彼らが目標としてきたのは当時の『炎のストライカー』としての豪炎寺さんなのです。いまさらそれを曲げるのは簡単ではないのでしょう。
「俺たちが見たいのはそんなじゃない……! あの時の豪炎寺は、もっと――」
「武方、眼を逸らすな」
ですが彼らとは違い、西垣さんにははっきりと見えています。失望のため息を吐く勝さんに鋭く言い放ち、私たちを、雷門を示して続けました。
「これが雷門の……今の豪炎寺の強さなんだ。そろそろ認めろよ。でないと、このままじゃ本当に負けちまうぞ」
「お前まで何言ってんだ、西垣……! 認めろだって!? 仲間なんかを!? ……馬鹿らしい。そんなの――」
「染岡の言う通り、口でお前たちの考えを変えられるとは思ってない。……だから、俺たちがお前たちにとって信じるに値するか、お前たちもプレーで判断してくれ。俺たちを使うくらいに思っていればいい」
「「「っ……!」」」
西垣さんの眼はまっすぐで、真剣そのもの。やはり三兄弟も心の深くでは理解していたのか、嘲りの口はすぐに閉じました。
そしてそれだけ見れば、西垣さん的には十分だったのでしょう。薄く笑みを浮かべ、そして他のチームメイトにもそれを向けます。
「……行くぞ、みんな! 武方たちに俺たちの全力を見せてやるんだ!!」
チームメイトさんたちは硬い表情をしながらも、しっかりそれに頷きました。