雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第六十一話 信頼できる仲間たち

「――くっ……友……ッ!!」

 

 

 木戸川全体が奮起した一方、武方さんたちはまだ踏ん切りがつかないようでした。

 試合再開し、キックオフのボールは迷った末にいつも通りの兄弟内。友さんが受け取って、三角形のフォーメーションでこちらに攻め込んできます。

 

 ただし迷いが拭えないそのプレーは、明らかに精彩を欠いています。完璧なコンビネーションが嘘のような注意散漫っぷりで、ドリブルのスピードもパスのキレもありません。

 そんな状態であれば、私でなくても止めることは簡単です。豪炎寺さんが前に出て立ち塞がり、それだけで彼らの足は止まりました。

 

 右往左往して思考まで止まってしまったかのように、ピタリと固まってしまう三兄弟。そんな彼らにまた罪悪感を刺激でもされたのか、対峙しながら豪炎寺さんが口を開きます。

 

 

「武方……今まで不甲斐ない姿を見せてしまったこと、すまなかった」

 

「「「豪炎寺……!!」」」

 

「お前たちの期待を裏切ってしまったことは、本当に悪いと思っている。だが……それでも、俺はかつての、木戸川の『炎のストライカー』だった自分には戻らない……! 今の俺は、雷門の豪炎寺 修也なんだ!!」

 

「ぐ、うぅッ……!!」

 

 

 決別のような鼓舞のような、そんな調子で堂々と言い放ってから、豪炎寺さんが友さんに襲い掛かりました。迷いに加えてさらに心を揺さぶられることになった友さんにそれに抗する力などあるわけもなく、押し退けられて、ボールは豪炎寺さんのものに。

 

 

「つ、勉っ!! 止めろッ!!」

 

「お、おう……ッ!!」

 

 

 慌てて勉さんがフォローに入るも、

 

 

「鬼道ッ!!」

 

 

 動き出した時には既に、ボールは下がって鬼道さんへと渡っています。

 

 オフェンスを託し、振り返ることなくフィールドを駆け上がっていく豪炎寺さんと、それに応えてボールを持ちこむ鬼道さんや少林さんたち。武方さんたちは呆然と、それを眼で追うことしかできていません。

 眼差しに滲む悔しげな表情は、もうサングラス越しでもはっきりわかってしまうくらいでした。

 

 が、しかし――

 

 

「大丈夫だ!! 止めてみせるッ!!」

 

「ッ!? む、無理じゃん女川! 鬼道が相手だぞ!? お前一人じゃ――」

 

 

 ドリブルで突き進む鬼道さんの前に、決意の顔で飛び出してきたディフェンダー、女川さん。それに対して勝さんが無謀を叫び、そしてその声を遮るように、さらに人影が二人分。

 

 

「確かに、一人じゃ無理かもしれない!!」

 

「でも二人、三人の連携なら……ッ!!」

 

「ッ!! これは……!!」

 

 

 飛び出し、自身の周囲を回り始めた三人に、その予兆(・・・・)を感じ取った鬼道さんが声をあげました。すぐさまその囲いを抜け出そうとしましたが、しかしすでに手遅れです。

 生じる竜巻が鬼道さんを閉じ込め、そして身動きが取れなくなった彼へと、三人の連続スライディングタックルが次々に炸裂しました。

 

 

「「「【ハリケーンアロー】!!」」」

 

「ぐあぁッ!!」

 

 

 鬼道さんは成す術なく吹き飛ばされてしまいます。ボールも女川さんたちへ渡ってしまい、しかし周囲の染岡さんたちも黙ってそれを見ているわけもありません。

 

 

「チッ、やりやがる……!! だが、試合時間もそうねぇんだ!! それ以上はやらせねぇ!!」

 

「ッ!! 跳山ッ!!」

 

 

 すかさず染岡さんがフォローに入り、それに焦った女川さんが前へパス。ボールは無事に渡ったものの、すぐに少林さんが駆け付けました。さらに抜け目なく、三兄弟へつながるパスコースは前に出てきた風丸さんと土門さんで封鎖済みです。

 

 跳山さんからすれば正面突破以外にない状況。しかし普通にやっては、パスを受けたばかりで体勢が整っていない彼にとって不利な場面だったでしょう。

 故に再び、彼はちょうど傍に位置取っていたもう一人のミッドフィールダーさんに目配せし、そしてそのミッドフィールダーさんは一つ頷くと、跳山さんの腕を掴みました。

 そして掴んだその身を、空に向かって放り投げます。

 

 

「えぇっ……!? な、なんですか、それッ!?」

 

「陸が塞がれているなら、空を行くだけさ!!」

 

 

 慄く少林さん。飛んだ跳山さんが頭上で器用にボールを保持したまま言い放ちました。そしてさらにもう一人、彼を追いかけジャンプしたミッドフィールダーさんが宙で彼の身体を掴み、投げ飛ばしてさらに加速させます。

 

 

「「「【ブーストグライダー】!!」」」

 

「うわッ!!」

 

「くっ……!! しまった!!」

 

 

 まるで飛行機のプロペラのように回転して飛ぶその必殺技の前には、風丸さんと土門さんのディフェンスも無意味です。突破され、最前線。

 三人揃って待っていた武方さんたちへ、跳山さんはボールを託します。

 

 

「後は頼んだぞ――!!」

 

「「「「「武方ッ!!」」」」」

 

 

 彼と、そしてそこまでボールを繋いだ全員の声、想い。それを胸で受け止めて、その瞬間です。

 

 

「「「――任せろッ!!」」」

 

 

 三兄弟は、楽しそうに笑いました。

 

 勝さんが蹴り出し、友さんが蹴り上げ、勉さんがそれを追いかけ大ジャンプ。コンビネーションは、今度こそ完璧です。勉さんのキックはボールの中心を寸分違わず捉え、そして今までにないほどの威力を生み出し、放たれました。

 

 

「俺たち木戸川清修の、全力――ッ!!」

 

「「「【トライアングルZ】!!」」」

 

「ッく……!! 【ゴッドハンド】……ッ!!」

 

 

 迫りくるシュート。その威力が前の比ではないことは、円堂さんにもわかったでしょう。【ゴッドハンドW】で消耗しきった身体から絞り出した光の手のひら越しに、苦悶に歪む汗まみれの彼の顔が見えています。

 元より【ゴッドハンドW】でも止めきれなかった必殺技です。相手がパワーアップし、そしてこちらがパワーダウンしている状況で勝ち目があるはずもなく、やはり次の瞬間、シュートの威力を受け止め切れない光の手のひらが粉々に砕け散りました。

 

 しかし最後の意地か偶然か、円堂さんの生身の両手がチカラを迸らせ続けるボールを捉えました。掴み、押し留め――それでもやはり押し込まれ、徐々にゴールラインへの距離が縮まっていきます。

 

 

「ぐぅっ……!! ま、まだだッ……!! 今度は……今度、こそッ……!! 負けて、たまるかぁッ……!!」

 

 

 力を、意思を、全てを振り絞って吠え、それでもそのシュートの威力と、そして円堂さんの消耗した身体の現実は変わりません。

 後退は止まらず、徐々に徐々に、迫る失点の時。

 

 

「く……そぉ……ッ!」

 

 

 とうとう円堂さんの口からも漏れ出し、ギュッと目が閉ざされました。

 

 そして、その時です。

 

 

「「キャプテンッ!!」」

 

「っ!? 壁山、栗松……!!」

 

 

 二人が円堂さんの下に現れて、その背に手を突き支え始めたのです。

 焼け石に水でしかないはずのその行為。いまさら二人分の力が加わったところで何も変わらないはずの“それ”が、

 

 

「――う、おおおォォォッッッ!!!」

 

 

 またしてもありえないはずのチカラを発揮しました。

 

 

「「「――そ、そんなバカな……っ!!」」」

 

 

 止まりました。円堂さんが突き出した両手の中、ゴールラインギリギリでのセーブ。

 

 奇跡的な光景に、一拍を置いて理解の追いついた観衆がわぁっと大盛り上がりの歓声を吐き出します。実況さんも、たぶん何か興奮しながら叫んでいたでしょう。しかしそれらは全て、私たちの耳には入りません。

 

 

「キャプテン、ボールを!! 風丸さんがフリーっス!!」

 

「ああ……っ!!」

 

 

 あるのは一つ、ただ全力でプレーするという、それだけ。試合時間が残りもう僅かになっていることも、その時は頭から抜けてしまっていました。

 それくらいのみんなの全力がこもったボールが、円堂さんから壁山さん、そして風丸さんへと回されていきます。

 

 

「この……行かせるかッ!! みんな、もう一度【ハリケーンアロー】を――」

 

「悪いが、通してもらう……!! 【疾風ダッシュ】!! ――ベータ!!」

 

「風丸さん……!」

 

 

 すぐに反応して風丸さんを取り囲み、またあの竜巻を生じさせようとする三人の間を素早いドリブルがかいくぐり、ボールはやがて私へと繋がりました。

 

 皆さんの全力が、“信じる”が詰まったボール。受けた足を通じてそんな想いの数々が感じられるような気がします。

 だから私の心臓は、否応なく期待で大きく弾みました。豪炎寺さんに武方さんたち、私と同じだった彼らが――そう、このボールで“仲間に自分の全てを託す覚悟”をすることができたのなら。

 

 それはきっと、私にもできるはず。

 

 ――私の全力にも、きっとみんなは応えてくれます。

 

 

「――土門さん――っ!!」

 

 

 視界の正面、迫る木戸川ディフェンダーさんと、端を全力ダッシュで駆け上がってくる土門さんの姿。それらを認めた瞬間に、私はボールを蹴りました。

 

 取りやすいボールを蹴ってあげるような、いつもの配慮なんて欠片もない、勝つための全力。土門さんでは取れないだろうと、普段の私では絶対に打たないようなパスです。

 土門さんがこちらに振り向き、私の眼と、そしてボールを同時に捉えました。それから彼は一瞬だけニヤッといつもの軽薄そうな笑みを浮かべ、そして――

 

 

「うおりゃあああぁぁぁッッ!!」

 

 

 全力ダッシュをさらに加速させ、ギリギリのところではあるものの、ボールを取りました。

 

(繋がった――っ!!)

 

 彼は私の全力に、“信じる”に、応えてくれました。――応えて、くれたのです。

 

(ああ……!)

 

 胸の内に生まれる温かな気持ち。弾む心。ようやく、わかりました。

 

(これが、雷門のサッカー……!)

 

 あの時、私の中のサッカーを蘇らせた“円堂さんのサッカー”。“楽しいサッカー”。それが、これなのです。

 

 ――ようやく、

 

(ようやく、これで――)

 

 

「ベータ! 俺もようやくわかったよ、雷門のサッカーが! 仲間を信じるってことが……! 今なら、きっと行ける……!!」

 

「――ああ、行くぞ一之瀬、土門!! 【トライペガサス】ッ……!!」

 

「おうッ!!」

 

 

 ボールが一之瀬に渡り、オレたち三人の動きが揃う。横一列に広がって木戸川ディフェンスラインへ切り込んで、シュート体勢を取る。そして当然、その必殺シュートの脅威を知る奴が前に立ちはだかった。

 

 

「打たせないぞ……!! みんなの想いに応えるために、俺がここで、お前たちを止めてみせるッ!! 【スピニングカット】!!」

 

 

 西垣が足を薙ぎ払い、正面に生まれるチカラの障壁。それが、ちょうどピッタリ【トライペガサス】の交錯地点を塞いでいる。

 

 

「【トライペガサス】の交差のタイミングはわかってる!! そこを塞げば技が破綻することも実証済みだ!!」

 

 

 アメリカ時代の教訓か何かなのだろう。事実、【トライペガサス】に於いて最も難しい交差のタイミングを狙われれば、さらに必殺技の発動は困難だ。

 

 さっきまでの【トライペガサス】であれば、だが。

 

 

「土門、ベータ……信じてるよ!!」

 

「ああ!! オレも信じてる……!!」

 

「同じく!!」

 

 

 これは一之瀬、土門、西垣が使った過去の【トライペガサス】の再現ではない。オレが西垣の代わりをするわけでもない。

 

 “信じて”“信じさせて”ではなく、ただ信じて全力を叩きつける。今の俺たちには、それができるのだ。

 

 

「な――っ!?」

 

 

 障壁を突き抜け、オレたち三人が三角形を切るのではなく、一点で交差する。より強く、圧縮されたチカラがボールに宿って羽ばたき、そして真っ赤な炎(・・・・・)を溢れさせた。

 

 

「――ペガサスが、フェニックスに……!!」

 

 

 それを、三人で踏みつけるように打ち放つ。

 

 

「「「いっけえええぇぇぇッッッ!!!」」」

 

 

「っか、【カウンターストライク】ッ……!! ぐ、わああぁぁぁッ!!」

 

 

 軟山は新たな必殺技、どっしりと腰の入ったパンチングで迎え撃ったが、拮抗することすらない。燃えるフェニックスはいともたやすく拳を弾き飛ばし、そしてそのままゴールネットを貫いたのだった。

 

 ――そして直後、大音量の歓声に紛れてうっすらと試合終了を告げる笛が鳴り響きました。

 最終スコアは10-9。取って取られてを繰り返してすごいことになってしまいましたが、なんとか勝利です。

 

 

「「「「「やったあぁぁッッ!! 勝ったぞぉっ!!」」」」」

 

「わぁっ!」

 

 

 ほぅっと、勝利と連携技成功の余韻を吐き出して、直後、背中からそんな喜びの声が飛びついてきました。思わず声をあげてしまって振り返ると、そこには満面の笑みの皆さんの姿。一之瀬さんと土門さんも一緒に担ぎ上げられており、周りから口々に「よくやった」とか「ナイスシュート」だとか、私たちを褒めちぎる声が聞こえてきます。

 

 千羽山戦まで、私はそれを外側から眺めるだけでした。しかしもうあんな疎外感はありません。みんなの輪に、チームの仲間に入れてもらえた私は、ようやく雷門サッカー部の一員になれたのだと、そんな実感がとめどなく溢れてきます。

 

 

「……ふん。悪くねぇ威力のシュートだったな。やるじゃねぇか、ベータ」

 

 

 だから私は、珍しく素直な称賛を送ってきた染岡さんに、

 

 

「そういう染岡さんのはもうちょっと頑張っちゃわないとですね。あの体勢でのシュート、慣れてないから威力全然引き出せてないっぽいですし」

 

 

 そう、混じりけない笑顔で返すことができたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「――負け、か……。強いなぁ、雷門。みたいな……」

 

「! 勝……」

 

 

 私の一言でやっぱりキレちゃった染岡さんを他の皆さんに押さえさせて揶揄っていると、ふと私たちの祝勝ムードの中に勝さんがやって来ました。

 

 その顔と声色は、力なく笑っていました。仲間のチカラに手ごたえを感じながら、しかし負けてしまったことがなかなかのショックであったようで、見る限りすっかり燃え尽き状態です。後に続く友さんと勉さんにも今までのように憎まれ口を言う元気はないようで、三兄弟は揃って項垂れ、失意の弱音ばかりを零します。

 

 

「この一年、豪炎寺を超えるために頑張ってきて……しかし、それでも届かなかった。それもこれも、私たちが今日の今日まで“仲間を信じること”の強さがわかっていなかったから、なんでしょうね……」

 

「俺たちは勝手に豪炎寺に託しただけで、信じちゃいなかったってわけだ。……豪炎寺が俺たちを見限るのも、当然だよな……」

 

「それはッ――。……」

 

 

 思わずといったふうに、豪炎寺さんが声をあげました。しかしそれも一瞬のこと、跳ね上がった顔はすぐに俯いてしまいます。

 『見限ってなどいない』、そう言いたいのでしょうが、となれば件の裏切り、彼が言うところの『ただの言い訳』を口にしないわけにはいきません。それがまたも、彼の口を重くしてしまっているのでしょう。

 

 ですがその負い目は、もう感じなくていいはずです。遺残までの武方さんたちならいざ知らず、今の彼らなら事実を受け止められないわけがありません。

 そういう意味を込めて、私は豪炎寺さんの背中を強めに小突いてやりました。俯く豪炎寺さんがハッとなって私に振り向いて、そして観念したように頷きました。

 

 

「……武方、実は――」

 

 

 と、とうとう武方さんたちに、裏切りの経緯が武方さんたちに語られました。話し終え、豪炎寺さんは謗られることを覚悟してか身体を固くしていましたが、もちろんそんなことは起こりません。

 

 

「……なんだよ。それじゃあ、裏切者とか臆病者とか罵った俺たちがバカみたいじゃん……!」

 

「なぜ言ってくれなかったのです? そうしたら、我々は……」

 

「……なんかちょっとムカついてきたな。俺たち、そんな大変な時でも試合に出ろって言うようなクズ野郎みたいに思われてたってことか……?」

 

「違う! 違うが……その……すまない……」

 

 

 最終的に豪炎寺さんが頭を下げることにこそなりましたが、それも元チームメイト同士のじゃれ合いのようなものでしょう。故に現チームメイト、西垣さんが、まあまあとそれを宥め、言います。

 

 

「俺は今年からの入部だからお前たちの確執はあんまりピンとこなかったんだけど……とにかく、よかったじゃないか。最後はこんないい試合ができたんだから」

 

「まあ、確かに」

 

「これまでの試合の中でも一番熱くて、楽しい戦いでした」

 

「それは認めるところだが」

 

 

 そして、彼らは私たちと、それから一之瀬さんや土門さん、雷門全員にも眼をやって、言いました。

 

 

「「「「俺たちに勝ったんだ! 決勝戦、世宇子にも、きっと勝てよ……!」」」」

 

 

 私たち全員、それにはっきりと首肯で応えました。




円堂くんには申し訳ないけれど【トライペガサス】改め【ザ・フェニックス】はどうしてもベータちゃんに使わせたかった。関係的にも展開的にも。
感想ください。
そして誤字報告ありがとうございました。
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