「――プラスチックの食器があるなら、五人も人手はいらなかったんじゃないか……?」
「……そうですね」
それは目的地たる家庭科室でそれを発見した時から、私も感じていたことでした。
おじさまたちの分も増えて必要数が多くなってしまったものの、しかし所詮はプラスチック製。総重量もたかが知れています。今、鬼道さんの手に重なっているのは男子三人で分担したお皿数枚だけですが、これならば鬼道さん一人だけでもすべてのお皿を運ぶこともできたでしょう。
しかし当初私は、お皿は陶器製だと思い込んでいたのです。故に重たいそれを運ぶのには人手が必要だと思ったのですが……まあ実際はこの通り。
肩を竦める鬼道さんにも反論できず、彼らを招集した張本人ゆえのバツの悪さと勘違いの気恥ずかしさを味わう羽目になっているのでした。
しかし一方。そうやって一人悶々とする私をよそに、他の皆さん、特に円堂さんの頭の中はすっかりカレー一色に染まってしまっているようでした。
「そんなことより、早くみんなのところに戻ろうぜ! 俺、もう腹が減って死んじゃいそうだ!」
「呆れた……。さっきまで『ご飯よりも特訓だー』って感じだったじゃない」
「そうだけど、あの時は俺、なにがなんでも【マジン・ザ・ハンド】を完成させないとって気持ちで頭いっぱいだったからさ。それで一人で悩む必要なんてないんだって気付いたら、ついでに腹減ってたことにも気付いちゃって……」
「何よそれ」
「まあいいじゃないか、それだけあのマシンでの特訓がハードだったってことさ。交代でハンドルを回していただけの俺も、もう随分空腹だ」
お皿を抱えて急かす円堂さんに夏未さんがため息を吐き出すも、もう一方の豪炎寺さんは苦笑気味に擁護しています。
おかげでますます勢い付いて、家庭科室から校舎の昇降口まで戻ってくるや否や、円堂さんは我慢できないと勢いよく上履きを脱ぎ捨てました。
「先に行ってるぞ! カレーだカレーだ!」
「あ、ちょっと! お皿、落としちゃったらダメですよ!」
そのままいつものスパイクに履き替え、彼は外に飛び出していってしまいました。
体育館前を目指し、角に消えていく彼の背中。それを追いかけて声をかけるも、食欲に突き動かされたそのスピードが緩んだ気配はありません。
ガシャガシャと、プラスチック製のお皿じゃなかったら全部粉々になっていたんじゃ、と思えるくらいの騒音が遠ざかっていきます。
その騒がしさはついでに私の頭の中の悶々とした思いも吹き飛ばしてくれたわけですが、やっぱりなんというか、夏未さんの言う通り呆れの方が先に来てしまいます。
ついさっきまであんなにシリアスしていたのに、寒暖差に風邪でもひいてしまいそうです。彼がお腹を鳴らした時から改めてそう痛感し、たぶん同じ想いを抱いたのだろう夏未さんと顔を見合わせて小さく苦笑が漏れました。
そのまま私たちも上履きから履き替えて、彼の後を追いかけます。そして――
――昇降口を出た、その時でした。
ガシャガシャンと、一際大きな騒音が鳴りました。
眼を向ければ、やっぱり立ち止まった円堂さん周囲の地面にお皿が撒き散らされていました。注意したのに案の定、円堂さんはお皿を落としてしまったのです。
呆然としてしまっている彼の背中を、私は大仰なため息を吐きながら小突いてやりました。
「落とさないでって言ったのに、もう。ちゃんと洗ってキレイにしてくださいよ? 円堂さん――」
そして直後、気付きました。
夏未さんも豪炎寺さんも、そして鬼道さんも、ニタリと悪い笑みをたたえた
みんな一様に驚愕で身を凍らせて、そして鬼道さんが導かれるようにして、その名前を口にします。
「――か、影山……ッ!!」
「久しいな、鬼道」
かつて帝国学園の総帥だった男、影山 零治。こんなところにいるはずのない彼が、どういうわけか校舎の壁に背を預けていたのです。
唖然とする私たちをよそに悠然と応えた彼は、やはり変わらない深い奈落のような眼差しを鬼道さんへと向けています。
それを向けられる恐怖心は私も覚えがあるところ。故に呑まれかけている彼を庇い前に出て、睨み返してやりました。
「話には聞いてましたけど、ほんとに脱獄しちゃってたんですね影山さん。びっくりです」
「脱獄? 酷い誤解だな。私は釈放されたのだよ、証拠不十分でね。まあ元より無実の身なのだから当然の話だが」
「……どうだか」
無実だなんて、それこそあり得ない話です。何か汚い手段を使ったに決まっています。
しかし大人の権力に何を言っても無駄なこと。精々、不満露に鼻を鳴らしてやるくらいで精一杯で、そんな抵抗とも取れないような抵抗はもちろん一蹴されてしまいます。
庇う私を無視で押し退けて、彼は再び鬼道さんへと続けました。
「それにしても鬼道、私は驚いたよ。まさかお前が雷門に転校してしまうとはな。もっとも、もはや帝国など私にとってはどうでもいいが……弱者を切り捨て勝利を欲するなどということは、君たちにとって忌むべき行いではなかったのかね?」
「っ……」
「多少なりとも私の考えを理解してくれた、と取っても良いのかな? であれば一つ、和解の印に握手でもしようじゃないか」
「……お、俺は……」
影山が差し出した手。鬼道さんの眼はそれに縫い付けられながら、しかしその手を取るでも払うでもなく固まってしまっています。
影山が口にしたのは、所詮、鬼道さんを嘲弄するためだけの言葉です。自分を貶めた彼への意趣返しでしかないのは、その悪意に塗れた眼差しからして明らかでした。
がしかし、それでも鬼道さんは苦悶せざるを得なかったのでしょう。影山の言うような悪意なんかはあり得ませんが、帝国が敗北した故に雷門に乗り換えたという、それは確かな事実なのです。
影山が放つ邪悪な圧力と相俟って、その事実は鬼道さんを苦しめてしまっているようでした。
故に、影山も調子に乗ったのでしょう。浮かべる笑みがさらに醜く深くなり、握手を求めるその足が鬼道さんへと動きます。
「それ以上、近づかないで」
しかしその一歩目が踏み出される直前、夏未さんの鋭い声が私たちと彼との間を貫きました。
進み出た彼女は鬼道さんと、さらに円堂さんや豪炎寺さんをも庇うように私の隣で立ちふさがり、より強い警戒心――それからおそらく憎悪を以って、影山をにらみつけています。
もはや敵意も同然なそれに、影山が低く笑いました。
「ククク……これはまた、随分と嫌われたものだな。しかしだね、君が何を以って私を嫌っているのかは知らないが、それは誤解でしかないのだよ。私にかけられたすべての嫌疑に証拠はない。先ほども言ったが、私は証拠不十分で――」
「よくも……よくもそんな事が言えるわね……! 理事長を……パパを、あんな目に遭わせたくせに……ッ!」
影山の軽薄な台詞を断ち切り、目に涙すら浮かべながら叫んだ夏未さんのその言葉。当時、意識不明に陥った理事長さんの前で抑え込むしかなかった怒りと悲しみが、まっすぐ影山に叩きつけられました。
しかし彼はそれすら意に介さず、変わらぬ調子で嘲笑い続けます。
「ああ……そういえば、彼は交通事故に遭われたんだとか。実に痛ましいことだ。ご愁傷さま、とでも言っておこうか」
「っ――! ご生憎、父は生きています! 生き延びて……そして、あなたの不正の数々を暴いたことを、私に教えてくれたわ!」
「それはそれは、ますますもって残念だ。どうやら雷門氏は事故のショックで頭を悪くしてしまったらしい」
暴かれた不正の数々。致命的であるはずのそれを告げられても尚、影山の顔色は変わりません。下劣極まりない笑みを浮かべるばかりの彼にはきっと、何を告発されようと今のように“証拠不十分”にしてしまえる自信があるのでしょう。
そして実際、帝国学園では“鉄骨落とし”なんていうとんでもないことをしでかしておきながら、彼はその罪と糾弾から逃げおおせてしまっています。つまり、その自信は決して虚勢ではありえません。
それは夏未さんにもわかっています。だから彼女はますます顔を歪め、歯を食いしばり――そしてその隙間から、堪えきれずといったふうにこぼれ出ました。
「……それでも、あなたが過去に犯した罪が消えるわけじゃない……! わかっているのよ! 例えばあなたが豪炎寺君の妹さん、
「え……!? な、夏未さん、それ、本当に……!?」
思いもよらない名前が出てきて、思わず尋ねてしまいました。
そして思い出します。夕香ちゃんが事故に遭った当時、豪炎寺さんは木戸川清修のエースとして帝国学園とフットボールフロンティア決勝を戦うはずだったのですが、しかし事故のせいで豪炎寺さんは試合に行けず、チームの要を失った木戸川は敗北。帝国の優勝となりました。
当時影山のものだった、帝国学園が優勝しているのです。辻褄は合っています。
という所まで、豪炎寺さんも思い至ったのでしょう。心配で一瞬だけ目を向けてみれば、彼は驚愕に眼を見開いて硬直してしまっていました。
それほどの、衝撃的な話。しかしそれでも影山の表情は動かず、そのせいか夏未さんも止まれずに、また再び口が開かれます。
「それだけじゃない……四十年前のイナズマイレブンの事故と棄権、そしてその監督だった
「ッ――!?」
そして飛び出てきたのは驚くべきことに、夕香さんの件並みの特大爆弾でした。
立て続けの衝撃的な発言に、もはや声も出てきません。絶句です。
あの“イナズマイレブンの悲劇”が影山の手によるものだった、ということも驚きですが、それだけでなく、あの大介さんまで手にかけていたかもしれないという証言はあまりにもインパクトが大きすぎます。
それになにより、大介さんは円堂さんのおじいさまです。おじいさまが残した“秘伝書”や“特訓ノート”を大切にしていることからもわかるように、彼はおじいさまを敬愛しています。
そんな人を殺めたかもしれない相手が目の前にいるとなれば、果たしてその心中はどれほどのものとなるでしょう。
もはやこの場の全てが一触即発です。私の眼は恐る恐るに、今度は円堂さんの方を窺い見やり――そしてそんな私たちをよそに、夏未さんと影山のやり取りが続けられます。
「それはまた、あまりに荒唐無稽な話だな。四十年前となれば、当時の私は君たちと同じ中学生だったはずだが……それでどうやってそのような陰謀を企てられるというのかね。……雷門氏からそう聞かされたというが、これだけでも彼の言うことに信憑性などないことは明らかだと思うが」
「……情報源はパパだけじゃないわ。鬼瓦刑事もずっとあなたを追っているのよ。……あなたが汚い手段を使って罪から逃れた後も、ずっとね……!」
「何度も言っているが、そもそも私に罪などないよ。君が言う私の罪のどれもが単なる憶測に過ぎないものだ。証拠の一つもありはしないのだからね」
「……確かにそうだけれど、けれど今だけよ。直に確かな証拠だって見つけ出してみせる……!」
「ならばその証拠とやらを見つけ出してから口を開きたまえ。……子供には難しい話だったようだが、証拠なき糾弾はただの侮辱だ。名誉棄損として法に問われる場合もある。罪だなんだというのならまずは己の身を慎むべきだと、一応忠告しておこう」
「っ……!」
始終ニタニタと嘲弄の笑みを浮かべたまま、影山は追及の全てを切って捨ててしまいました。夏未さんはそれに対して、怒りと悔しさが混ざった表情で歯噛みする他ありません。
腹立たしくても影山の言う通り、証拠がなければ罪に問うこともできないのです。少なくとも今は彼の言い分を否定することなどできるはずもなく、故に彼女も私たちも、それ以上の言葉を紡げなくなっていました。
憎悪も嫌悪も、今は胸の内にしまい込んでおくことしかなく、そして実際、そんな激情に豪炎寺さんは身を震わせています。
眼は影山を射殺さんばかりの鋭さで睨め付けながら、下げた拳は硬く固く握りしめられたままです。
そして円堂さんは――どうなのでしょう。私の心配とは裏腹に、横目に見やる彼の表情はどういうわけか、いやに静かに凪いでいます。実感が湧かない、とでもいうように。
まあ、いきなり『こいつが大好きなおじいさまを殺めた人間だ』なんて言われても、そう簡単には呑み込めないのが当然です。そう考えれば当たり前の反応なのですが、しかしそれにしてはなんだか雰囲気が違うような違わないような。
それにもしそうだとしても、だからこそ心配です。気持ちが追い付かないほどの巨大なショックがもし実感に至ってしまったら、それはどれだけ大きな激情になってしまうのでしょう。
私たちのためにも何より円堂さんのためにも、そうなる前に影山を追い出してしまうのが一番良いように思えてきます。
そんなことを、私は心配で満ちる頭の中で考えて――その時でした。
「――『プロジェクトZ』」
「……!」
ふと鬼道さんが呟いた詳細不明の単語。それを耳にした途端、それまでどれだけの悪事を告発されても揺るがなかった影山の嘲弄の笑みが、不意にすぅっと落ちるように消えました。
何か、彼にとって重要なものだったに違いありません。しかし鬼道さんにしてもその計画らしきものの名前以上のことは知らないようでした。言葉を切り、それから静かに続けます。
「……また新たな悪巧みなんだろう。何をするつもりなのかは知らないが、表に出れば、今度こそお前は終わりだ」
「……何のことだかさっぱりだ」
とぼける姿はさっきまでよりも固く、口角は難しげに下を向いたまま。けれどもまた以前の鉄骨落としのようにうやむやにできる自信だけは健在なようで、その表情も徐々に戻っていきました。
そして元に戻った彼は話題を変えようとでも思ったのか、今度はそのまま私へと、その邪悪な眼差しを向けて言いました。
「そういえば、いつかアフロディが君たちの下に遊びに行ったそうだな。そして米田くん、聞いた話では君は奴からの勧誘を蹴ってしまったそうだが……本当かね?」
「……そうですけど、なんですか。まさかそれを確認するためにわざわざ雷門中の敷地に侵入した、なんてことはありませんよね?」
つい声が堅くなってしまいます。
勧誘と聞いて思い出すのはこの間のアフロディさんのあの件と、そして二度目の帝国戦の前、影山の悪意に呑まれかけてしまったあの出来事。
もしもまたああやって私を取り込もうとしているのなら、ちょっとあまりに侮辱的です。
「どちらにせよ、私の答えは決まっちゃってます。……私、雷門をやめる気なんてありません。もし要件がそれだけなら、それ以上に言うことなんてありませんから」
アフロディさんから伝わっていないのか、それとも自分ならば丸め込めると思ったのか。実際のところはどうだかわかりませんが、とにかく私の意思にはもう、以前までの揺らぎなど一かけらたりともありません。
影山の悪意がどれだけ強大なものだろうと、私が惑わされることなどもうあり得はしないのです。
この決心、想いを、あまり見くびらないでほしいものです。
「……雷門と心中するというのか。本当にそれでいいのかね? 言っておくが、これが最後のチャンス――」
「しつこいですね。アフロさんの分も含めたら三回、全部キッパリ断ってあげちゃったのに。だったら何度だって言ってあげます。私は、何を言われても、どんなことをされても、あなたの手駒になんてなりません」
「………」
「わかったら、さっさとここから出ていっちゃってください。――私は、雷門サッカー部のベータなんです」
だからまっすぐ睨め付け、全てひっくるめて言葉に乗せて、そう言ってやりました。
影山だけでなく円堂さんや豪炎寺さん、鬼道さんに夏未さんに、今この場にはいない皆さんにも向けて宣言したその一言。決意表明というかなんというか、ともかく自分を含めた全員に言い聞かせた言葉でした。
それを影山が正しく捉えたかどうかは、わかりません。けれど私が彼の手元に落ちて来ることは決してないのだということは、理解させることができたようです。
「……そうか。実に残念だ」
彼はフンと、小さく鼻を鳴らしました。そしてそれは、今まで彼が口にした言葉の中で、たぶん唯一の本心だったのでしょう。
次いで、忌々しげな声が吐き捨てられました。
「ならば望み通り、雷門共々世宇子に踏みつぶされるがいい。……世宇子は正に、神の如きチカラを宿した兵士たちのチーム。例え君がどれほど強かろうが、神の進撃の前では個人の強さなど、吹けば飛ぶ程度のものでしかないのだからな」
「だとしても、俺たちは負けない」
そう返したのは円堂さんでした。突然割って入ってきた彼の毅然とした表情に、影山が一瞬、ほんの僅かに目を見張ります。
怒りも恨みも何もなく、ただ純粋に戦意だけを燃やす円堂さんの眼が、私たちの前に進み出ながら言いました。
「ベータ一人じゃ敵わないなら、チーム全員で戦うだけだ。たとえ相手が神様だとしても、諦めなければ必ず勝機はある。俺はそう――チームのみんなを、信じてる……!」
なぜならそれこそが円堂さんの、雷門のサッカーなのだから。
傍から見れば無茶苦茶それ。嘲笑うのにうってつけな宣言だったはずですが、しかし円堂さんの気迫の賜物か、影山の表情はそれ以上動くことはありませんでした。
口は閉ざされたまま何も返さず、彼はそのまま私たちに背を向けます。
彼とはきっと、世宇子戦でまた直接対峙することになるでしょう。謎の『プロジェクトZ』とやらが実行されるのも、きっとその時。
だからそこが真の決戦です。豪炎寺さん、鬼道さん、円堂さんに夏未さん。全てのことに決着がつく、運命の日。絶対に、負けられない試合。
円堂さんの声で、私のその想いもより強くなりました。
だから私も、全身全霊を以てして――
(――雷門の一員として、最後まで戦い抜く)
そして勝ってみせる。みんなの――いえ、私たちのために。
――と、そう意気込んだ時でした。
私はその時、初めて、“私”を取り巻く運命の一つと邂逅を果たすことになったのです。
「――誰かね? 君は」
閉ざされていた影山の口から、不意にそんな言葉が飛び出ました。
もちろん彼は私たちに背を向けたままで、それは私たちに向けられた質問ではありません。そして、戻りの遅い私たちを心配して探しに来た秋さんたちへ、というわけでもありませんでした。
彼の行く手を塞ぐように、いつの間にか人影がそこに佇んでいたのです。
全身すっぽり覆うローブのようなものを身に纏い、おまけに目深にフードまでかぶっているせいで姿は全く分かりません。精々背格好的に私たちと同じくらいの子供でしょうかと想像ができるくらいです。
「あなた、は……」
『『雷門サッカー部のベータ』、ですか。……やはり“修正”が必要ですね』
答えることなく呟いたその声すら、ボイスチャンジャ―でも使っているのか男とも女とも取れない無機質な声でした。
影山の様子からして彼の手先とかそういうわけでもなさそうですし、本当にいったい何者なのでしょう。
知りようのない、正体不明なその人物は、そんな私たちの困惑など気にも留めることなく、懐から何か薄い板のようなものを取り出しました。
そしてそれは、またなんとも不可解なことにCGか何かのように滑らかに広がって変形し、あっという間にサッカーボールを形作ってしまいます。
もうこの時点で私たちは驚愕のあまり声も出ないほどでしたが、次の瞬間、さらなる驚きが起こりました。出現したサッカーボールが謎の人物の手からふわりと、これまた非現実的な動作で浮遊。
そして直後、さっきの謎の人物の無機質な声よりもなお無機質な、それ故に不気味な合成音声の声が、辺りに響き渡ることになったのです。
『――マインドコントロールモード』
眩いほどの光が、世界全てに広がっていきました。
「――雷門か。話は色々と聞くが……それで、実際どうだったんだ? 見に行ったんだろう? アフロディ」
「そうだね……まあ、特筆すべきことはなかったかな。我々が今まで倒してきたチームと大して変わらない。神のチカラの前に首を垂れることしかできない、只人の集まりさ」
「それはそうでしょうとも。神たる我々に敵う者などいるはずもない。ただ……雷門には総帥が気にしていらした選手が何人かいるでしょう?」
「豪炎寺 修也、鬼道 有人、それに……円堂 守」
「それに雷門中自体に何やら思うところがある様子だった。……ただ勝つだけでは不足。敗北にも醜い勝利にも価値などない。そして、総帥はいつも以上に完璧な勝利を求めておいでだ。もし万が一のことがあれば――」
「『万が一』? 万が一、何があるというんだい? ……心配せずともいい。我々に瑕などありえない。神から授かったこのチカラ、“神のアクア”とそして――」
「――我らがキャプテン、ベータ。君の力があれば、恐れるものなど何もない。そうだろう?」
「――ええ、もちろん。世宇子に歯向かったおバカさんたちに、思い知らせてあげちゃいましょう。……“