雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第七話 受難の雷門サッカー部

「というわけで改めて、円堂さんは“ベータ”だなんて呼んじゃってますけど、私の名前は米田 佳。ポジションはフォワードです。助っ人じゃなくてちゃんと入部することにしちゃったので、皆さん、これからよろしくお願いしますね」

 

 帝国との試合の翌日、善は急げと早速入部届に名前を書き、晴れて私は雷門サッカー部の一員になりました。

 そのご挨拶としてにっこり笑顔で頭を下げて、ついでに円堂さんにも釘を刺しておきます。まあ彼のことですしこれでベータ呼びが解決するとは正直思いませんが、しかしとにかく私の意向ははっきり皆さんに伝わったでしょう。部員と秋さんの十三人で少々窮屈なボロの部室に、歓迎の声が響きました。

 

「米田さんが俺たちの部に……嬉しいッス! 心強いッス!」

 

「米田先輩のシュートがあれば、もしかして本当にフットボールフロンティアもいけちゃうんじゃないかな!?」

 

「ああ。あの帝国にだって通用したんだし、優勝だって夢じゃないぜ! ……まあそもそも、大会へのエントリー自体ができてないわけなんだけど」

 

「学校の許可と……お金もかかるんでやんしょ? どっちもあのお嬢様が牛耳ってるなら……ううん、どうでやんすかねぇ……」

 

「これで豪炎寺も入部してくれたら、乗り気になってくれたかもな。帝国のゴールは実際には豪炎寺と米田の二人がかりで破ったわけだし。それにほら、豪炎寺ってたしか前回の大会で準優勝したチームだったんだろ? なあ円堂、やっぱりあいつも誘えないのか?」

 

 と思い思いに私に期待して、皆さん貪欲にそこへ着地したようです。

 豪炎寺さん。準優勝の実績もある彼がいれば、確かに諸々が早く進んだでしょう。入部してくれたなら、弱小部という評価を払拭するこの上ない証明になったはずです。

 そうなっていればいかに雷門さんでも、フットボールフロンティアの参加手続き然り、サッカー部の要望をないがしろにはできない空気が作れたはずです――が、しかし生憎、そのどれもが今は絵に描いた餅です。

 

「うん、俺……やっぱりもう豪炎寺を誘おうとは思わない。なんて言うか……俺たちが無理に誘っちゃ駄目な気がするんだ。だから今のメンバーで強くなれたらって思ってさ」

 

「そうだぞお前ら! 豪炎寺豪炎寺って……あいつはもうサッカーはやらないって言ってただろ!? あいつのことなんて考えるだけ無駄だ!」

 

 豪炎寺さん本人の意思に加え、キャプテンたる円堂さんももう豪炎寺さんにちょっかいをかける気はないのです。

 加えて染岡さんも、歓迎とは程遠い敵対心を剥き出しにしています。きっと彼は豪炎寺さんの加入によって雷門のストライカーを自称する自身の立場が危うくなると感じたのでしょう。

 

 その危機感は、まあ間違いなく正しいものです。染岡さんのストライカーとしての実力は、確実に豪炎寺さんよりも下。

 そして、私よりも下なのです。

 

「それに……ベータ! お前も調子に乗るんじゃねぇぞ! 結局帝国との試合、勝ちはしたが実際のところは負けたも同然……! 21対1の完敗じゃねぇか!」

 

「……だから一点も運が良かっただけ、なんて言っちゃうつもりですか? 失礼な人ですね、ちゃんと実力です」

 

「うるせぇ! 運じゃねぇにしても、事実、条件が良かっただけじゃねぇか!」

 

「お、おい、染岡……」

 

 円堂さんも若干引き気味になるほどの、半分以上は当てつけみたいな恫喝でしたが、しかし一利ないこともありません。染岡さんが言う条件、“帝国のラフプレーを受けずに体力を温存できていたから米田はあんなプレーができたのだ”という主張は、確かに的を得ています。もしもあの時、私が染岡さんたちのように消耗してしまっていたら、帝国のディフェンダーを抜くことはできなかったかもしれません。

 なのでそういう意味で、染岡さんは私に活躍の機会を奪われたとも言えそうです。が、やっぱりそれは難癖です。

 

「へえ? じゃあ染岡さんはあの状況で決められちゃうんですか? 万全の状態だったら、帝国相手に勝てるんです?」

 

「当たり前だ! あの場面で、フィールドに立ててたのがお前じゃなく、俺だったら……!」

 

「『俺だったら』? どうなんです?」

 

「お、俺、だったら……」

 

 確実に、活躍なんてできなかったでしょう。万全の染岡さんの能力が帝国相手に通用するのなら、そもそも一番最初に打ったシュートは止められていないはずです。

 頭に血が上った染岡さんも、さすがにそのことを思い出したようでした。ぎゃんぎゃんわめいていた怒りの表情が、どんどん曇って萎んでいきます。

 そして存分に傷付けられた彼のプライドは、周囲の空気、あまりの剣幕に引き気味なチームメイトの皆さんの顔を見て、耐えられる限界を超えてしまったようでした。

 

「く……ッ!!」

 

「あっ、おい、染岡!?」

 

 慌てて止めようとする円堂さんを振り切って、部室を飛び出していってしまいました。

 

 あるいはこの場に私がいなかったら飛び出すことも、そもそも皆さんが引いてしまうほどの怒りを露にしてしまうこともなかったかもしれません。しかし豪炎寺さんはおらずとも私がいる現状、自分より優れたストライカーを実際に目の前にしてしまったせいで、たぶんたまらなくなってしまったんでしょう。

 高いプライドのせいで、自分よりも私や豪炎寺さんの方が優れているとを認められない状態です。

 

「なんだかバカみたいです。わかってるくせに」

 

 実力差、あるいは才能の差がはっきりと理解できているからこそ、彼はこの場を逃げ出したのです。であれば素直に認めて、そのストライカーへの執着も忘れてしまえばいいのに。

 そう、呆れずにはいられません。そして口にまで出てしまったそれは秋さんに聞こえてしまったようで、若干咎めるような口調が私に言います。

 

「……簡単に諦められるタイプじゃないのよ、染岡くんは」

 

「まあ、そうだなぁあいつは。それにあれだけ米田はすごいだの豪炎寺がいればだの言ってれば、そりゃ怒りもするよ」

 

 半田さんが肩をすくめ、そして円堂さんへと尋ねました。

 

「それで、どうする円堂? 米田の歓迎会どころか自己紹介だけでミーティングが終わっちまったけど」

 

「う、ううん、そうだな……俺は染岡の様子を見てくるよ。だからみんなは、今日は各自で自主練しててくれ! 帝国戦でわかった問題点とか、みんな色々あるだろ? じゃ、あと頼んだ!」

 

 そういえば半田さんと円堂さん、そして染岡さんは一年生が入部する前、部ができた当初からの部員だったと聞いたことがあります。だから同期の絆みたいなものがあるんでしょう。円堂さんは半田さんに頷いて、染岡さんを追いかけていきました。

 

 そうして部室から二人が消えて、その頃になってようやく一年生たちも半田さんの言う染岡さんの気持ちを理解したようです。気まずそうにお互い見やっています。

 

「……俺たち、後で染岡さんに謝っておいた方がいいでやんすかね……?」

 

「……かもッス。でも、大丈夫ッスかね、染岡さん。あんなに米田さんのこと目の敵にしてたら、これからのウチのチーム……」

 

「二人しかいないフォワードなのに、あんな感じじゃ……ねえ?」

 

 連携ができないならまだしも、あの様子では私と彼とでボールの奪い合いになってしまうのは目に見えています。そんな、栗松さん壁山さん、そして少林さんの心に芽生えた不安。

 ですがまあ、ぶっちゃけそこに関しては無用の心配でしょう。

 

「大丈夫です。染岡さんが協力的じゃなくっても、何なら退部しちゃっても、私のワントップで十分だと思いますよ。十分、皆さんを勝たせてあげられちゃいますから」

 

「そ、染岡さんが退部……そんなこと言えるのは頼もしいけど、考えたくないですね」

 

 ワントップ、フォワードは私一人で十分というのは半分以上は本気で言ったことだったのですが、どうやら冗談として受け止められたようです。宍戸さんが苦笑いでそう言って、それから若干私の本気具合をわかっている風な秋さんが、“染岡さんの退部”から変に話が繋がってしまう前にと、そんな様子で慌てて話題を変えに声を上げました。

 

「そ、それよりほら、早く練習を始めましょう? ……といっても、相変わらずグラウンドは借りられてないんだけど……」

 

「まあそれでもやれることはあるさ。それに帝国戦でわかった問題点といえば、まず真っ先に基礎体力のなさだろ? 走り込みにグラウンドは必要ない!」

 

 まだ入部はせずに助っ人という形ですが、風丸さんが陸上部らしく提案しました。試合で負った怪我ももう大したことはないようで、走る気満々に拳を握っています。

 そして言い示したのは学校周辺のマラソン。皆さん“うへー”という感じの顔になってしまいますが、しかしこれに関しては私も風丸さんに賛成です。

 

「そうですね、皆さん帝国戦ではそのせいで後半戦前にバテバテでしたし。それにずっとサボちゃってたんだから、やっぱり初めは基礎からでしょう」

 

「それに俺たちもサッカー始めたてだから、まず身体を作らないとね……」

 

「うん、賛成ー」

 

 円堂さんの勧誘で部員となった影野さんとマックスさん。そして私も、サッカー云々の前にまずは鈍った身体をどうにかしないといけません。

 思うに今の私の能力、体力的にもたぶんサッカーをしていた幼少期未満なのです。【ダブルショット】も昔のほうがずっと威力があった気がします。あの場面、帝国ゴールに一点ねじ込んだ時でも、【ファイアトルネード】で入れた亀裂がなければ、きっと【パワーシールド】は破れなかったでしょう。

 なので私にとって基礎の強化は急務。せめて当時の能力は取り戻さねばなりません。例え嫌だと言われても、もはや今日の、というか当分の走り込み練習は決定事項。

 

「それじゃ、早速行っちゃいましょう。とりあえず学校の周りを十周くらい。……ほら、目金さんも控えとはいえレギュラーなんですから」

 

「えっあっいや、ぼ、僕はほら、秘密兵器的な感じで、無暗に外に出すのは……!」

 

 なんてよくわからないことを言ってサボろうとする目金さんも引き連れて、日の傾き始めた外に走り出しました。

 

 

 

 

 

 宣言通りの学校周囲の十周ランニングを終えた時、空はすっかり赤く染まっていました。日が落ちる前には終えられると思っていたのですが、ちょっとペースが遅かったようです。おかげであまり疲れもなく、トレーニングになった気がしません。

 しかしそんなノロノロペースでも、おサボりサッカー部には結構ハードであったようです。

 

「ひぃ、ひぃ……き、きつかったッス……もう走れない……」

 

「は、走り込みだけで、こんなに疲れるなんて……。ほんとに俺たち、体力ない……」

 

「………」

 

「全く、情けないぞお前たち。こんなの、陸上部じゃちょっとした準備運動だぜ」

 

 汗だくで大の字に地面に横たわる壁山さんと、そして少林さん。目金さんなんて倒れて動かず、もはや死人みたいです。

 体力のなさを自覚する彼らに呆れ顔をするのは、さすが陸上部というだけあって軽く息を切らせるだけに留まった風丸さんと、そしてそれに同意するように、こちらも比較的平気そうなマックスさん。

 

「うーん……やっぱりこれが一番の課題だね。しばらくはずっと走り込みかな。……しかしそれにしても、意外だな。米田、結構平気そうじゃない」

 

 各々疲れ切った様子でへたり込んでいる皆さんから、視線が私へと向きました。

 

「そうそう、俺も思った。俺やマックスと違って、運動部に入ってたわけでもないんだろ? なのに結構走れるんだな」

 

 と、続く風丸さん。他の皆さんも声こそありませんが、荒い呼吸の同意が聞こえてきます。

 帝国戦で倒された皆さんと違い、未知数だった私の体力。案外真っ先に私がバテるのでは、と思っていた人も多いのかもしれません。

 

「ええ。昔から足には自信ありますので」

 

「佳ちゃん、小学校の頃からずっと体育の優等生だったのよ。……確か、運動会のリレー競技で、最下位から一位まで一気にごぼう抜きしちゃったこともあったっけ?」

 

「そんなこともありましたねぇ」

 

 何なら今でも、足の速さに関しては女子で一番。走り込みで計れたのは体力ですが、実際そっちだって男子にも負けてはいません。

 その証明として、ほとんど乱れていない私の息遣い。合わさって事実の信用は増し、結果それは風丸さんにライバル心みたいなものを抱かせてしまったようでした。

 

「へえ……すごいな。なあ米田、俺と勝負してみないか? 百メートルくらいで一回」

 

「いいですよ。でも……」

 

 見上げる夕暮れ空。かけっこ勝負でも何でも構いませんが、しかし今日はなしです。

 

「もうそろそろ帰らないと。それに皆さんももう動けなさそうですし、今日の練習はここまでってことにしちゃいません?」

 

「……まあ、そうね。もういい時間だし」

 

 学校の大時計を見やって、秋さんも頷きました。さらに見渡せば、他の部活動の方々も片付けの時間に入っています。

 彼ら同様、私も日が沈むまでの居残り練習なんてやりたくありません。なので今から走る気満々の様子であった風丸さんには悪いですが諦めてもらって、余計な引き止めが出て来る前にさっさと彼らに背を向けます。

 

「じゃあそういうことで、お疲れ様でした!」

 

「……わかった、また明日な」

 

「う、うん。お疲れ様」

 

「おつかれー」

 

 ボールなんかの道具を使ったわけでもないので片付けの時間はなく、部室の戸締りなんかは秋さんがやってくれるはずなので、後はいつも通り空き教室で着替えてそのまま帰宅するのみです。渋々といったふうな風丸さんと、秋さんにマックスさんへ、お別れの挨拶的に手を振ります。

 

 すっきり気持ちのいい練習の終わりの風景です。がしかし、そのわきに転がる死屍累々の現状。

 ほとんどは未だ起き上がれないまま、挨拶をする余裕すらないようです。こんな人が大多数の、雷門サッカー部。

 

(……前途多難、ですねぇ)

 

 果たして彼らが試合で役目を全うできるようになる日は来るのでしょうか。ちょっとだけ不安になりながら、私は着替えるために校舎へと向かいました。

 

 

 

 

 

 そうして通学鞄を持っての帰り道、空き教室では誰が来るかわからないので着替えは急ぎにならざるを得ず、制服が汗で引っ付いてしまって気持ち悪く感じていた頃でした。

 

(シャワー室なんて贅沢は言いませんから、やっぱりせめて更衣室くらいは欲しいです……)

 

 そんなことを考えながら渡っていた鉄橋、以前に小学生と練習をした河川敷のグラウンドをなんとなしに見下ろして、私は見覚えのある姿を見付けました。

 部室を飛び出していった染岡さんと円堂さん、二人が、どうやら居残り練習をしているようです。

 

(……よくやりますねぇ、もう時間も遅いのに)

 

 しかもやっているのが、染岡さんのシュート練習という点。円堂さんのキーパーとしての練習にもなっているので無駄とは言いませんが、しかし染岡さんの必死な顔からするに、間違いなく本人たちはシュート練習の方がメインのつもりでしょう。

 だからやっぱり、呆れと感心が合わさりため息になってしまいます。もし彼のシュートが強くなり、例えば必殺シュートを習得するまでに至ったとしても、私が点を入れる以上、それはとくべつ必要のないものです。

 しかし秋さんの言った通り、彼のプライドには“米田()にストライカーの役目を任せる”という選択肢そのものからしてないのでしょう。であれば私も、もうこれ以上何かを言うだけ無駄というもの、なのかもしれません。

 

 染岡さんが自分のシュートを私や豪炎寺さんのそれと比べて下だと落ち込む、私に言わせれば当たり前だというような声が聞こえてきましたが、無視して通り過ぎようとしました。

 が、それに対する円堂さんの声が、ふと私の心に引っ掛かったのです。

 

「諦めるな染岡! ベータのシュートがすごいからって、あいつ一人に全部任せてしまったらサッカーなんてできないぞ! そうだろう!?」

 

「ッ……!」

 

 激励の言葉でしょう。くじけかけた染岡さんを奮い立たせるための、円堂さんらしい熱血です。

 しかしその言葉の字面は、つまるところ私に頼ってはいけないということ。うがった見方をすれば、私の力では雷門サッカー部を勝たせることはできないということです。

 もちろん円堂さんにそんなことを言った気はないはずです。本当にそう思っているなら帝国との試合の時、『任せろ』なんて言うはずがありません。が――

 

「……なんか、モヤモヤします」

 

 なんだか仲間外れにでもされている気分。一度そう思ってしまうと、心の感覚はなかなか消えてくれません。我ながら繊細過ぎると思いつつも仕方なく抱えたまま、私は背後で再開された練習の音に聞こえないふりをして再び歩を進めました。

 

 その一歩目を踏み出して、ふと正面。鉄橋の端っこに、人影があったことに気が付きました。

 私と同じく下校途中らしい豪炎寺さんでした。彼もまた円堂さんたちの練習を見物していたようで、そして同時に、私の存在には気が付いていないようです。じっとグラウンドを見下ろして、きっと彼も円堂さんたちの練習風景に気を取られているのでしょう。

 

(……しかしどうしてここに……通学路、私と同じなんでしょうか?)

 

 その背に挨拶をと、私の社交性が声を掛けようとしましたが、直前、声を出せば豪炎寺さんだけでなく円堂さんたちにも見つかってしまうことに気が付きました。気付かれたところで別になんということはありませんが、変なことを考えてしまったためになんとなく気まずかったのです。

 しかし慌てて口を塞いだその直後、まるで見計らったかのようなタイミングで、豪炎寺さんが欄干から手を離しました。思わず身体が跳ねましたが、どうやら私の存在に気付いたわけではないようで、彼はそのまま私の方に背を向けて、グラウンドの反対側の土手道を歩いて行ってしまいました。

 

 橋に一人取り残された私。ちらっと見やれば円堂さんたちは何も気付くことなく練習を続けているようでとりあえずは一安心ですが、しかしそうして身体の緊張が解けたことで、今度はまた向ける先のないモヤモヤが心へと戻ってきてしまいます。

 が、ふと思い至りました。

 

「……そうだ、豪炎寺さん」

 

 行き場のない感情の発散先。入部を決めた私に対して固辞した彼が言ったその理由、『サッカーはもうやめた』の一点張りは、思えばなんだか納得しがたい話です。

 

「なら、ちゃんと答えるまで聞いちゃえばいい話ですよね」

 

 そうと決まれば思う存分詰ってやるべしです。憂さ晴らしに。

 私は豪炎寺さんを追いかけました。

 

 走っていたわけでもないので、豪炎寺さんにはすぐに追いつきました。足音に気付いたようで、振り返った彼は「お前……」と驚いた様子になって、直後すぐに私の表情を認めて渋顔になってしまいました。そんな彼に、嗜虐心を以って言います。

 

「豪炎寺さん、どうしてサッカーをやめちゃったんですか?」

 

「……なんだっていいだろう。なぜ今更そんなことを聞くんだ」

 

 一瞬立ち止まったものの、その質問に答える気はないと言わんばかりに再び歩を進める豪炎寺さん。わかっていた反応なので素直に後ろを追って歩きつつ、さらに続けて投げかけます。

 

「だって不思議です。円堂さんと染岡さんの練習、あんなに真剣に見てたじゃないですか」

 

「! ……お前も見ていたのか」

 

「ええ。私みたいにサッカーに興味がなくなったわけでもないし、それにあれだけ動けるのなら怪我とかでもないでしょう? なら、なぜ『サッカーはもうやめた』なんて言っちゃうのかしら」

 

「………」

 

 答えは完全な無視。私とは目も合わさず、黙って歩き続ける豪炎寺さんの足は徐々に速くなっていきます。それはつまり、私を振り切りたいという心の表れ。反論の言葉がないということです。

 そんな態度を見せられてしまえば、私だってもう後には引けません。というか引きたくありません。豪炎寺さんの速足は私の家から離れていくばかりなので帰宅も遅くなってしまいそうですが、もうそんなことよりこっちです。

 

 結局ひたすら豪炎寺さんの言葉を待って追いかけて、数十分も歩いてしまいました。

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