雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第七十一話 蹂躙

「――どういうつもりだ?」

 

 

 試合が再開した直後、ボールを保持する豪炎寺さんから私たちへ、訝しげな視線が放たれました。

 しかも彼らは動きもせず、キックオフだけしてそのまま不動。「どういうつもりだ」はこちらの台詞だと言ってやりたい場面です。

 

 がしかし、この状況では無理もないでしょう。なにせ雷門が攻め込むべき世宇子陣地、その三分の二までもが、どうぞおいで下さいとばかりにぽっかり開けられているのです。

 

 私を含めフォワードとミッドフィールダーの全員が端によけ、道を開けている光景。豪炎寺さんからすれば疑問を通り越して不気味でしょう。何か罠でも仕掛けているんじゃないかと勘繰る気持ちも十分に理解できます。

 が、実際のところ罠なんてものはありません。そもそも罠になんて嵌めずともボールは奪い取れますし、これは完全にただ豪炎寺さんたちにゴールまでの道を譲っているだけです。

 

 もちろん、善意からの行いでないことはその通りなわけですが。

 

 

「つまるところ、“禊”だよ」

 

「“禊”だぁ?」

 

 

 もう一人のフォワードである桃色髪さんも眉を寄せるも、これを指示したアフロディさんは平然と頷きます。そして開けた空間を手で示し、続けました。

 

 

「少々、世宇子の名に相応しからぬプレーを見せてしまったからね。汚名返上、名誉挽回の機会を頂戴したいというわけさ。安心して我らの陣地の奥深くまで、歩みを進めるといい」

 

「またわけのわからねぇことを……要するに、俺たちのことを舐めてやがるんだろう!? バカにしやがって……!!」

 

「ふん……なら、その油断が間違いだったと思い知らせてやるまでだ……! 行くぞ!!」

 

 

 桃色髪さんだけでなく、鬼道さんもそのプライドを刺激されてしまったようです。ゲームメーカーから指示が出て、ようやく雷門が動き始めます。

 

 桃色髪さんが闘牛みたいに勢いよく飛び出して、一瞬遅れて豪炎寺さんも走り出しました。

 ドリブルしながら私のすぐ隣を通過。警戒の視線――と言うにはどこか悲しげな色にも見える一瞥を佇む私へ投げかけて、そしてそのまま走り去ってしまいます。

 

 他の面々、鬼道さんたちも動かない私たちを不審感たっぷりな横目で睨め付けつつ駆け抜けて、正面の視界に残ったのは同じく怪訝なディフェンダー四人と、遥か遠くの円堂さんが一人だけ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 なんとなく、ため息が零れてしまいました。

 そしてまた何とはなしに、視界を背後へと移します。振り向き見やれば、本当に妨害が来ないことを訝しみながらも進んでいく豪炎寺さんたちの後姿。その様子に、またもため息がこみ上げてきます。

 

 すると二度目のそれがこぼれ出る直前、同じく彼らを眼で追っていたアフロディさんの背中が、私のほうにぴくりと反応をみせました。

 ため息を堪える気力も隠す気力も持ち合わせていなかったために、気取られてしまったようです。彼は私の方にゆっくりと振り向いて、静かな口調で言いました。

 

 

「……やはり、納得できないのかい? ベータ」

 

「いえ……別に、文句とかはないです」

 

 

 豪炎寺さんたちの手前、取り繕っていた昂然の仮面はもうその顔にはありません。私を見つめる彼が浮かべているのは心配の表情。様子のおかしい私を気遣ってくれる彼に、しかし私は大丈夫と返すほかありませんでした。

 

 例え彼ら(世宇子)との“ズレ”のおかげで口が重たくなっていようが、世宇子の一員である私が返せる答えはそれだけです。これまでずっと一緒に戦ってきた仲間は、どうやったって裏切れません。

 例え“禊”――“神のアクア”によるドーピングで雷門を蹂躙しようという、私にとって到底受け入れられないサッカーであろうとも、私はため息を呑み込んで見守るしかないのです。

 

 だから、要するに仕方なく大丈夫と口にした、その渋々感が声に滲んでしまっていたのかもしれません。私がそう答えると、途端にアフロディさんの眉尻は下がってしまいました。

 

 

「……納得できないこと自体は否定しないわけか。本当に、いったいどうしたんだい? 最初は“神のアクア(ドリンク)”を飲み損ねたことにショックを受けてるのだと思っていたが……君の言動の異常は、それではとても説明がつかない」

 

「そんなの、私が知りたいですよ。私……やっぱりおかしくなっちゃったんでしょうか? “神のアクア(ドリンク)”のことも“仲間のためのサッカー”のことも、今まではそんなこと――世宇子のサッカーに疑問を持ったことなんて、一度もなかったはずなのに……」

 

「……そうかい」

 

 

 ひとたび詰め寄られてしまえば、もはや世宇子サッカーへの忌避感は否定のしようがありません。

 なのにその忌避感を呑み込まねばならないという、この状況に神経を削られながら、アフロディさん共々それ以上の言葉もなく、私たちは眼前で始まる雷門の攻勢へと眼を向けました。

 

 

「――世宇子の奴ら、ほんとに手を出してこねぇのかよ……。クソッ、ムカつくぜ……!!」

 

「だが、ディフェンスはやる気みたいだぞ、染岡! その怒り、あいつらにぶつけてやればいい!」

 

 

 ずっと肩を怒らせっぱなしの桃色髪さん、染岡さんのフラストレーションを誘導しつつ、豪炎寺さんがパスを出しました。唯一彼らに道を開けずに立ち塞がるディフェンスへと、ボールを持った染岡さんが突っ込んでいきます。

 

 そんな彼に最も近いのは――右サイドバックのヘパイスさん。どうやら“禊”の主役は彼に決まったようです。

 他のディフェンダーさんたちの少しばかり羨ましそうな視線を浴びながら、ヘパイスさんはプレッシャーなどものともせずにニヤリと笑みを浮かべ、染岡さんの前に立ちふさがりました。

 

 

「へっ……ようやく危機感感じてきやがったか!? だが、今更出て来たところでもうおせぇよ!! テメェ一人くらい、片手で捻ってやらぁッ!!」

 

 

 吐き捨て、そのまままっすぐ突っ込んでいく染岡さん。ヘパイスさんは自然体でそれを待ち構え、やがて二人がぶつかる――その直前。

 

 

「――今だ!! 豪炎寺ッ!!」

 

「……!」

 

「よし、いいぞ……! 染岡!」

 

 

 その怒りに任せて突撃するものと思っていましたが、意外とクレバー。少し離れて並走していた豪炎寺さんとのワンツーパスが、きれいにヘパイスさんを躱してしまいました。

 

 抜き去って、ボールも染岡さんに戻ります。そうして彼は得意げに、突破してやったぞと、ヘパイスさんへ挑発的に笑いました。

 

 

「見たか!! 俺たちを――いや、仲間の力を舐めた報いだぜ!! もうそろそろ、俺たちの強さってやつを思い知――」

 

「――!? 危ない、染岡ッ!!」

 

 

 がしかし、勝利宣言するにはあまりに気が早すぎです。彼らは未だヘパイスさんの射程範囲内。豪炎寺さんは寸前に気が付いたようですが、それでももはや手遅れでした。

 

 ヘパイスさんの身に集ったチカラが、次の瞬間、天へと解放されました。

 

 

「【さばきのてっつい】!」

 

「なっ……!? ぐごわぁっ!!」

 

「染岡……ッ!! ぐ、がはっ……!!」

 

 

 空から大地へ振り下ろされた、巨大な足の叩き付け。光輝くチカラで形作られた神の裁きは、その衝撃で染岡さんと豪炎寺さんをまとめて吹き飛ばしてしまいます。

 取り残されたボールは当然ヘパイスさんの足元へ。踏みつけられて止まったそれを、倒れ伏す染岡さんは愕然の眼で見つめる他ないようでした。

 

 

「う、嘘だろ……!? 完全に抜いてやったと思ったのに……!!」

 

「それに、あの威力……! 円堂の【ゴッドハンドW】並みだった。やはり世宇子、一筋縄ではいかないということか……!」

 

 

 そしてヘパイスさんの必殺技に込められたエネルギー、その膨大さにも、豪炎寺さんは気付いてくれた様子です。他の皆さんにもおかげで“強さ”伝わって、これで“禊”は十二分に機能することでしょう。

 

 見やればアフロディさんもどこか安堵の表情を浮かべています。それと――これからが本番な“禊”への、期待と愉悦。

 

 そして私はそんな彼にやっぱり隔意を抱いてしまい、すぐ視線を戻すと、そこにはもう雷門の第二陣。鬼道さんたちミッドフィールダーが集まり、ヘパイスさんへと向かっていました。

 

 

「まだまだ! 取られたのなら取り返すまで――!?」

 

「何度だって諦めたり――!?」

 

 

 先んじて二人。ボールを奪い返さんと、左右からヘパイスさんを挟みこむようにフォーメーションを汲んで走り込んで来る鬼道さんともう一人、小柄なミッドフィールダーさん。

 意気込み、阿吽の呼吸で立ち向かおうとした二人の足は、しかしヘパイスさんと対峙する直前、止まってしまいます。

 

 理由は単純。ヘパイスさんが、鬼道さんたちが奪い返そうとしていたボールを当の鬼道さんたちにパスしてしまったからです。

 せっかくのボールをわざわざ返してあげるという、普通に考えればありえないプレー。さすがの鬼道さんの驚きが隠せないらしくボールを受けながらピタリと動きが固まって、そしてその数舜後、嘲弄に目敏い染岡さんが、その眉間に再び忌々しげなシワを刻みました。

 

 

「ッ――ああそうかよ……!! テメェら、とことん俺たちをコケにしたいみたいだなァ!!」

 

「……なら、気が済むまでそうしていればいい。どうせいずれ、余裕ぶってはいられなくなるッ!!」

 

 

 さすがの鬼道さんも苛立ち交じりに鼻を鳴らし、直後、足で再び地を蹴りました。今度はボールをドリブルしながら、瞬きほどの間でヘパイスさんとの距離が詰められてしまいます。

 

 

「お前の必殺技は確かに強力だが、あれほどのチカラ……そう何度も連続で放てまい! 【イリュージョンボール】!!」

 

 

 ヘパイスさんと激突する直前に、彼もまた必殺技を繰り出しました。踏みつけたボールが相手を幻惑するように彼の周囲を飛び回り、その勢いのままダッシュし突破を試みる心積もりであるようです。

 

 必殺技自体はさすが帝国の代表的な必殺技だけあって、よどみない完璧な動きでした。

 これで本当に彼の持論通りなら――【さばきのてっつい】が連続では使えない代物だったなら、ヘパイスさんも突破されてしまったかもしれません。

 

 が、もちろんそんなことにはならないわけで。

 ヘパイスさんの身体に、またもチカラが集い、放たれました。

 

 

「【さばきのてっつい】!」

 

「二発目――ッ!? ぐッ……少林ッ!!」

 

 

 行く手を塞ぐように振り下ろされる一撃に、しかし鬼道さんはさすがというべき反応速度と身のこなしで辛うじて、衝撃に襲われる直前にボールを逃がしました。

 

 バックパス。受け取った小柄ミッドフィールダーさん、少林さんは吹き飛ばされる鬼道さんを横目に歯を食いしばりながら、それでも繋がれたボールは無駄にすまいと覚悟を決めたような表情でヘパイスさんへと立ち向かっていきます。

 

 

「立て続けに二回もあんな技を使ったら、さすがにもう限界のはず……!! 通してもらいます!! 【竜巻旋風】!!」

 

 

 少林さんが両足でボールを挟み込んだかと思いきや、それを器用に回転させて竜巻を起こしました。鬼道さんに引き続き、必殺技での畳み掛けるような攻勢です。

 

 ヘパイスさんの体力もさすがにもう限界だろうと、そう見越しての三度目の攻撃でしたが、しかし彼らの目測は当然のごとく大外れ。

 

 

「【さばきのてっつい】!」

 

 

 三度、光の足は彼らを吹き飛ばすことになりました。

 

 

「うわあぁッ!!」

 

「少林ッ!! ……クソッ、どういうことだ!? あれだけのチカラが込められた必殺技を、どうして何度も発動できる!?」

 

「しかもあいつ、汗の一滴もかいてない……! 体力自慢にしても限度があるよ……!」

 

 

 さすがに三度目ともなれば、雷門の足も止まらざるを得なかったようです。染岡さんと一之瀬さんの驚愕の眼差しがヘパイスさんを見つめ、怯んだ身体がその場に立ち尽くしています。

 ニヤニヤ笑いのヘパイスさんがまたも奪取したボールを雷門に、一之瀬さんへと蹴り渡してしまいましたが、もはやそれでも彼らの衝撃が解けることはありません。

 

 そんな、俯き佇むばかりの雷門へ。“禊”のためにもっと仕掛けてきてもらわねば困るヘパイスさんは、そんな彼らにボールに続いて嘲弄の言葉をも向けました。

 

 

「おいおい、たったの三回止めてやっただけでもう戦意喪失か? あまりに張り合いがなさすぎるぞ、雷門。せっかくこっちがお膳立てしてやっているんだ、もう少し頑張ってほしいものだな」

 

「――全くだ。直に当てず衝撃波だけで相手してやっているというのに……。彼らの精神力なら問題ないと指示したが、見込み違いだったか……?」

 

 

 そして、ふと傍らのアフロディさんが鼻を鳴らすように呟きました。

 距離的に一之瀬さんたちには聞こえていないでしょうし、アフロディさんも話しかけているつもりはないのでしょうが、しかしだからこそ、それはあらゆるしがらみを抜きにした本心の独り言。

 そしてその――ほのかに滲んだ愉悦の表情も、本心そのものなのでしょう。

 私のように渋々ではなく、本心からこの世宇子サッカーに殉じているという証です。

 

 その感覚は、やはり私にとっては理解の外。“ズレ”を直接見せつけられているようなもので、思わず私はその現実、眼前の光景から顔を背けてしまいます。

 ――そしてアフロディさんはそんな私に気付くそぶりもなく、愉悦を孕んだ独り言を続けていました。

 

 

「弱ったな、このままでは後半戦までに試合が終わってしまいかねない。彼らには“神のアクア(ドリンク)”で本調子に戻ったベータのサンドバックになってもらわねばならないのだが……。ふむ、ならまあ、仕方がないか……」

 

 

 見下し視点でいかにもやれやれと雷門の皆さんに息を吐き、そして今度こそ、そんな彼らやヘパイスさんたちにも聞こえるくらいに彼は声を張りました。

 

 

「ヘパイス、悪いが下がってくれ! 他の皆もだ! 不甲斐ない雷門諸君に免じて、出血大サービスといこうじゃないか!」

 

「……今度は一体、何のつもりだアフロディ……!」

 

 

 声が届き、眼前の一之瀬さんたちが眉をひそめて振り向くのと同時、前方ではなく背後から警戒心剥き出しの声が返ってきます。

 風丸さんです。攻勢に出かけたミッドフィールダーの分まで私たちを警戒しているディフェンダーの彼が、じりじりと距離を詰めてきます。

 

 アフロディさんが何か良からぬことを企んでいるのなら、自分が必ず止めてやる。そんな決意を湛えた視線にアフロディさんも反応して振り返り、しかしその口元の愉悦は取れないまま、首が横に振られました。

 

 

「『何のつもり』も何もない。言った通り、サービスだよ。我々のディフェンスを突破できない君たちにチャンスをあげよう、とね」

 

「チャンスだと……?」

 

「ああ。フォワード、ミッドフィールダーに加えて、さらにディフェンダーも下げてあげよう。つまり、君たちの障害はキーパーただ一人だ。……もうパスにもドリブルにも気を回す必要はない。君たちはただ、強いシュートを打つことにだけ集中すればいい。簡単だろう? それくらいなら――」

 

「ふざけんなァッ!!」

 

 

 君たちも心折れずに、後半戦まで戦い抜いて(保って)くれるだろう。そう続くはずだったアフロディさんの嘲笑は、やはりと言うべきかなんというか、染岡さんの怒声に遮られました。

 

 

「さっきから、テメェらいったい何を考えてやがるんだ!? こんなのもう、舐めてるとかお膳立てとかそんなレベルですらねぇじゃねぇか!! 誰一人真面目に戦おうとしねぇ……そんなサッカー、もはやサッカーですらねぇッ(・・・・・・・・・・・・・)!!」

 

「そう声を荒げないでくれ、こちらにも事情というものがあるんだよ」

 

「事情……? サッカーの試合でサッカーをしないことに、いったいどんな事情があるというんだ……!」

 

 

 と、今度は鬼道さんの鋭い視線。ヘパイスさんの強さに気圧されながら、それでも抑えられないと言わんばかりに憤りを吐き出す彼に、アフロディさんはそれでも何一つ変わらず返します。

 

 

「事情それ自体を明かす気はない。……言えるとすれば、我々はただ君たち雷門に試合を諦めてほしくない、後半戦も戦いたいんだ――というところかな。……希望がなければ、人は戦えないものだろう?」

 

「希望……? キーパー一人、どうにかすれば点が取れると、そう考えて士気を上げろと……!?」

 

「そうとも。いつもであれば前半戦中に潰して終わらせるところを、わざわざ生かしておいてあげているんだ。……そう、『サッカーですらない』とかどうとか言っていたが、むしろ我々は君たちにサッカーをさせてあげている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)んだよ? 罵声を浴びせられるいわれはないし、感謝されるべきだと思うんだけどね」

 

「ッ……!!」

 

 

 ――その返答。豪炎寺さんが目を細め、そして染岡さんが歯を噛み下さんばかりの力で食いしばっているのが見えました。

 

 雷門の他の皆さんも、その内心は私には手に取るようにわかります。

 世宇子(アフロディさんたち)雷門(私たち)の間にある“ズレ”を、彼らもはっきり感じることになったでしょう。

 こんな、サッカーなのか定かですらないサッカーが、アフロディさんたちにとってのサッカーなのです。

 

 アフロディさんたちだけがその“ズレ”に気付くことなく、熱くなる雷門に対して相変わらず小馬鹿にするように笑っていました。

 

 

「それでも君たち雷門が憤る理由はわかるよ。敵に情けをかけられたくないんだろう? その感情は理解できる。だが、我々にとってそれは取るに足らないものでしかない。ここで君たちを叩きのめすことよりも、我々の事情を……命題を完遂することの方がはるかに重要。故に、君たちから希望の一かけらまでもを奪い、試合放棄の道に進ませるようなことはできないんだ。わかってくれたまえ」

 

「………」

 

「なに、後半戦になればお望み通り、我々も遠慮なく力を震えるようになる。その時はきちんと潰してあげるから、その時までの辛抱――」

 

「つまり、お前たちがちゃんとプレーしたら俺たちが『勝てない』って諦めて、試合放棄してしまうかもしれない。それが嫌だって……そういうことか、アフロディ」

 

 

 染岡さんも鬼道さんも、みんなが閉口する中で、アフロディさんの言葉を遮るように口にしたのは、彼らのキャプテン、円堂さんでした。

 

 突然の発言でありながら、アフロディさんはやはり平然と彼のほうに眼をやり、頷きます。

 

 

「そうだ。それがどうかしたのかい?」

 

「そんな心配、する意味ないぜ。俺たちはどれだけ強い奴らが相手だろうと、絶対に試合を投げ出したりしない!」

 

「そうか。だが実際君たちは、ヘパイス一人を突破することすらできずにへたり込んでいるじゃないか。……君たちでは我々の必殺技を越えられない。人の身では、神に選ばれた我々には絶対に勝てない。それは事実で現実だと思うのだが?」

 

「だとしても、まだ心は折れてない! 諦めてない! まだ、俺たちは戦えるッ!!」

 

 

 断ずるように言い切って、なんと円堂さんは走り出しました。

 

 キーパーでありながら、それでも今はゴールを放棄してでも得点が必要だと、そんな強い決意を携えた顔が私たちへと迫り、走り抜け、そして染岡さんたち攻撃陣の下へ。

 そんな光景に加え、さらに決意の鼓舞が響き渡りました。

 

 

「世宇子にどんな事情があっても、そんなの関係ない!! 俺たちは今、サッカーの頂点を決める舞台に立っているんだ!! なら、俺たちはただ全力で、俺たちのサッカーをすればいい!! そうするしかないんだ!! そうだろう、みんな!!」

 

「っ!! ……ああ、そうだな円堂!!」

 

「奴らの空気に呑まれては世話もない、か……!!」

 

「……へぇ」

 

 

 鼓舞に、みんな見事に応えました。立ち上がる豪炎寺さんや鬼道さんたちの姿を目にし、アフロディさんがほんの僅かに、感心したように鼻を鳴らします。

 

 それほどの熱量――迸ったサッカーへの想いとでも言うべき迫力は、当然のように私の心も熱くしました。

 

 本気の言葉を本気で語るが故の、ただの言葉には到底あり得ない説得力。そしてそれに応えるチーム。初めて彼と相対した時にも感じた、ある種の凄み(・・)

 それに惹かれてしまう気持ちは誤魔化しようがありません。本当に、面白い人です。

 

 ――そう、思います。が、しかし。

 

 

「いくぞ豪炎寺、鬼道!! 俺たちの最強の必殺シュート、【イナズマブレイク】だ!!」

 

「ああ!!」

 

「見せてやる……俺たちの実力!!」

 

 

 それでもやはり、隔絶した力の差が――“神のアクア”によって生まれた差が、埋まることはないのです。

 

 

「「「【イナズマブレイク】!!」」」

 

 

 黒い雷を纏い、ゴールの至近から三人同時のシュートで放たれたボールは、次の瞬間

 

 

「【ギガントウォール】!」

 

「「「ッ!!?」」」

 

 

 巨大化したポセイドンさんの拳を叩きつけられて、酷くあっけなく地に沈んでしまいました。

 

 

「……なんだ、この程度かよ。【ツナミウォール】で十分だったな」

 

 

 つまらなそうに鼻を鳴らすポセイドンさんを、信じられないものを見る眼で見つめる三人と、雷門の皆さんたち。私はやっぱりそれを見ていられず、眼を逸らすことしかできませんでした。

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