アフロディさんのシュート力もヘパイスさんのディフェンス力も、そしてポセイドンさんのキーパー力も、その圧倒的なチカラの源は“神のアクア”――ドーピングです。
スポーツマンシップも何もない、言ってしまえば卑怯な強さ。ズルする相手に正々堂々真正面から挑んでも、敵わないのが当然です。
故にもちろん今回も、めげずに何度もシュートを打ちこんだ円堂さんたちの頑張りは報われることなく、アフロディさんが取った一点以降のスコアは動かないまま、前半戦は終わってしまったのでした。
アフロディさんたち――もとい、影山総帥の思惑通り、後半戦を迎えることとなったのです。つまりこの卑怯な、サッカーとも呼べないようなサッカーに、私も殉じなければならない時が来たということ。
気が重くてなりません。できることなら私はちゃんと“本当のサッカー”がしたいのですが、しかしもちろんそんなことを口にできるはずもなし。
「ふぅ……後半戦か。まさか俺たちがこんな長い時間、試合をすることになるとはな。……まあ、雷門の相手するくらいは別に苦でも何でもなかったが」
「そうとも。苦しかったのは俺たちよりもベータの方だろう。“
「だが、後半戦からは正真正銘、独壇場だ! データ取りもしなきゃだし、ボールは集めるから思う存分暴れてやれ! 俺たちも楽しみだよ、ベータの無双プレー!」
「……はい、頑張っちゃいますね」
加えてさらに、私の“世宇子サッカー”に多大な期待を寄せている皆さんを思うと、私には当たり障りのない首肯を返す以外の選択肢がありませんでした。
――が、しかし。憂鬱でありつつも「来るならいっそ早くしてくれ」と待ち続けた“その時”――“神のアクア”の到着は、どういうわけか中々訪れませんでした。
ハーフタイムも随分過ぎ去り、もうほどなく後半戦も始まろうという頃合いになっても尚、スタジアム内の出入り口からは誰も何も出てきません。
後半戦前には追加の“神のアクア”が間に合うという話だったはずなのに、その気配が微塵もなし。何かあったのでしょうか。
そんな不安が、徐々に皆さんの間にも広がっていきました。不安なざわめきが生じ始め、さっきまでの期待に沸いた空気が少しずつ掻き消され、静まり返っていきます。
チーム的にはよくない流れです。が、私のメンタル的には好都合――というか、息が詰まりそうなこの場を離れるチャンスです。
という我欲が七割。残りの三割にキャプテンとしての責任感を背負いつつ、私はベンチから立って皆に告げます。
「遅いですね、“
「……そうだね、了解した。くれぐれも頼んだよ」
「はい」
アフロディさんが私の眼を、一瞬じっと見つめてきました。
いったい何が気になったのか。しかし読み取る前に、その眼に浮かんでいた色は消え去っています。
そして私も逃避の欲望に突き動かされるまま、頷く彼と皆に後を任せ、“神のアクア”とそれを運んでくるはずの職員さんたちの捜索へと向かったのでした。
そうして通路を歩きつつ、心を落ち着けるための時間を堪能しようとしていたのですが――しかし。邪な想いの罰でもあたったのか、最初の角を曲がってすぐ、私はやっぱり起きていたトラブルと遭遇することになりました。
最初に、通路に響く逼迫した大声。グラウンドから届くざわめきの中で辛うじて聞こえたそれに次いで、ほどなく声の元らしき職員さん二人が、大慌ての様子で通路の先から飛び出してきます。
何かを探しているようで、立ち止まってキョロキョロとせわしなく辺りを見回すその二人。しかしそのくせ私の存在には一向に気付くそぶりがありません。
結局、探し物も見つけられなかったらしく、舌打ちをしながらまたどこかへ駆け去っていく――その寸前、さすがにこのまま隠れ潜むわけにもいかず、早足で駆け寄りつつ声をかけました。
「あの、何かあったりしちゃったんですか? “神のアクア”も放り出して」
「ああ、ベータか! 実は……っと、そうだ、“神のアクア”……! もう後半戦が始まる時刻か!? しまった、追うのに夢中になり過ぎた……!」
「……どうする? いったん“神のアクア”の準備に戻るか? だが……」
「今追跡をやめれば
「お忙しいなら私が“神のアクア”を運んじゃってもいいんですけど……
尋ねてみれば、曰く試合のことも頭から飛んでしまった程の大事が起きているようです。なら対応しないのはまずいだろうと“神のアクア”の運搬を申し出て、職員さんたちは「そうしてくれると助かる」と奥のほう、私たち世宇子の控室の方を指さしました。
「なら、任せていいか? “神のアクア”は控室の中に隠してある。今のところ侵入者は逆方向に逃げていっているようだが……くれぐれも気をつけて運んでくれ。なにせさっきも言ったが、予備はない」
「はい、わかりました」
頷くと、職員さんたちはすぐさま踵を返して追跡を再開。走り去っていきました。
侵入者について詳しい話は聞けずじまいでしたが、物言いから察するにやはり、侵入者とやらの目的は“神のアクア”だったのでしょう。その秘密を探りに忍び込んだ――いわゆるスパイとか、そういう映画みたいな展開が巻き起こっているのかもしれません。
そう思うとなんだか、不謹慎ながら少しだけドキドキしてしまいます。ただ映画で例えるのならば、きっとスパイの方が主人公。悪役は私たちの方なのでしょう。
なにせ“神のアクア”というドーピングドリンクには法に触れる成分が含まれているはずですし、それを作らせている影山総帥自身も黒いうわさに事欠かないお人です。方々で怒りと嫌疑を買っているだろうことは想像に難くありません。
そしてそんな彼の犯罪歴。その中でも非の打ち所がない違法行為が明るみに出てしまえばどうなるかなてこともまた、想像するまでもありません。
つい最近も帝国学園で同じように露見して、それでも権力で握りつぶしてみせた彼ですがしかし、きっと二度目はないでしょう。その時にはきっと、彼も世宇子も私も、みんな全部おしまいです。
……もしかしたらそうなったほうがいいのかもしれませんが、しかしそんな裏切り思考は頭を振って追い出して、ほどなく控え室へとたどり着きました。
一応辺りを見回して、誰にも見られていないことを確認。そのついでに見えた時計は、もう間もなくの後半戦開始を示しています。
さっさと持って行って、さっさと全部終わらせてしまいましょう。ため息を呑み込み、私は戸を開けました。
「――あら……?」
「「「あっ……!」」」
中に一歩踏み入れて、直後、足が止まってしまいました。
数秒間、呆然と立ち尽くしてしまった私はきっと悪くはないはずです。
だって、職員さん曰く侵入者は控え室とは逆方向に逃げているはずなのです。さらに念には念を入れて周囲の様子まで確かめて、そうしてようやく中に踏み入った末に出会った光景がこれなのだから、そんなもの誰だって思考が追い付かないに決まっています。
誰もいないはずの私たちの控え室に、雷門のマネージャーさんたち三人が何故かそろい踏みしているだなんて、そんなの想像できるはずもありませんでした。
しかも見覚えのあるキャスターワゴンとそれに乗せられたタンク――“神のアクア”の前で何やらモゾモゾとやっていたのだから尚のことです。
驚愕を通り越して戦慄が背中を駆け、その衝撃で同じく驚き顔で固まる彼女らに先んじて我に返ると、戸を閉じ、できる限りの友好的を装って尋ねました。
「雷門のマネージャーさんたちが、こんなところで何しちゃっているんです? ……今は
「い、いえその……別に私たちは……」
関係ないですと、そう言いたげな、挙動不審に動き回る視線。やたらと嗜虐心を刺激される慌てふためきっぷりですが、ともかくこれで確定です。
侵入者とは、彼女らの仲間なのでしょう。おそらくは彼女らをここに――“神のアクア”に安全に導くための、身体を張った囮。斯くしてまんまと彼女らは、
まあ、その手を私がたった今、掴んで止めてしまったわけですが。
「さて……どうしましょうね? この状況で皆さんを見過ごすわけにもいきませんし、誰か人でも呼んで連れて行ってもらっちゃったほうがいいかしら」
「だ、大丈夫です! お気遣いなく! 私たち、部屋を間違えちゃっただけなので!」
「そ、そうなのよ! 初めての場所だから迷っちゃって……ああでも! 帰り道はちゃんとわかるから心配は不要よ! だから……もうそろそろ後半戦の時間だし、失礼するわね……?」
おや……? と、感じる違和感。確かに作戦失敗のこの状況、彼女たちからしてみれば諦めて逃走する以外の選択肢などあるはずもありませんが、しかしそれにしても、少々あっさりしすぎな気がします。
囮まで使って影山総帥の急所を掴もうと画策し、それが失敗したのだから、普通はもっとショックを感じるものなのではないでしょうか。
しかし囮の誰かさんが呑み込んでくれた危険に報いる成果を得られなかった、とかそういう申し訳なさは、彼女たちの様子には一切見て取れません。
――なら、そもそもの仮定が間違っていたのかも。
眼鏡をおでこに上げた子とお嬢様っぽいウェーブの子が並べ立てた言い訳の下、私が背にする扉へと足を向けたコンマ数秒後、思い至った私は、近寄ってくる彼女らに逆に一歩踏み出してみせました。
「もしかして、そこの“ドリンク”に何かしちゃいました?」
「「ッ……!!」」
図星だったようでした。
“神のアクア”は影山総帥の悪事の結晶のようなものです。てっきり丸ごと押さえて動かぬ証拠とし、それを以って所業の全てを白日の下に晒すつもりだと思っていたのですが、どうやらそこまで大掛かりな告発をする気はないようです。
というか、彼女たちはもっと個人的な思惑で動いていたのでしょう。
前半戦、始終圧倒されて相手にもされなかった戦況。今のままでは後半戦も雷門に勝ち目はないが、しかし世宇子が振るう絶対的なチカラさえ剥ぎ取ることができれば――と、そう考えたに違いありません。
チカラの源がこのドリンク、“神のアクア”だとバレたのは……まあ、初対面時に私が口を滑らせてしまったせいなのかもしれませんが、そのことはさておいて。
責任うんぬんよりも、今は起きてしまった事態への対処が第一です。
マネージャーさん二人がもう言い逃れはできないとばかりにお互い覚悟を決めた表情で頷き合い、私の牽制を踏み越えて足を先に進めるのと、一層逃がすわけにはいかなくなった私が後ろ手に扉のつまみを回してロックをかけたのは同時でした。
お互いににらみ合い、一触即発の状況にとうとう火が付く――その直前。
「タンクの中身は全部捨てたわ。今それに入っているのはただの水よ」
「せ、先輩!?」
「木野さんあなた、どうしてわざわざ教えて……いえ、どうせ口にすればバレてしまうのだもの。今、明かしてしまってもどうにもしようはないでしょうね。後半戦開始はもうすぐだし」
他二人と違って今までずっと静かにしていた三人目、外跳ね髪の木野さんなる子が、私たちの衝突に割って入るように言いました。
想像していたよりもかなり致命的な工作をされていたようです。
職員さん曰く、後半戦分の“神のアクア”はタンクに入っていた分で全部。それを捨てられてしまえば、補充はもうできないのです。
がしかし、そんな明かされた大事件のことよりも、私の意識はそれを明かした外跳ね髪の子自身に向いていました。
その、私をまっすぐ見つめる眼。初めて会った時もそうでしたが、どこか懐かしさを感じるそれに載せられた、真剣な疑問の眼差し。彼女はそんな視線を私へ向けたまま、場を宥めるようにゆっくりと私に歩み寄り、さらに続けて口にしました。
「私たちの役目は果たしたわ。後はもう、みんなに託すだけ。だから……もしあなたが私を捕まえるっていうなら、私は抵抗しない」
「木野さん!? あなた、何を考えているの!?」
「そうですよ先輩! 彼女、世宇子のキャプテンなんですよ!? 捕まったら何をされるか……!」
「ごめんなさい夏未さん、音無さん。でも……私には、彼女がそんな悪い人だとは思えないの。自分でもどうしてそう思うのかよくわからないけれど、でもだからこそ私、ちゃんと聞いてみたい」
思いもよらない彼女の発言に他二人も面食らった様子。しかし仲間のそれらを振り切って、彼女は私へ、その疑問とやらを言いました。
「どうしてあなたはあのドリンクを……ううん、“神のアクア”を使ってサッカーをしているの?」
「………」
当然それは、すぐには答えられませんでした。
「……“神のアクア”が、あなたたちにすさまじいチカラを与えている体力増強のドリンクだってことはわかってる。それってつまり……ドーピングってことでしょう? どうしてあなたが、そんなものを――」
「“完璧な勝利”のためです」
答えられないから、口は勝手に、皆が口にしていたテンプレートをなぞり始めます。
「一切の瑕も汚れもない、“勝利”という結果を手にすることが私たち世宇子の命題です。そのために……絶対的で圧倒的に敵を叩き潰すために、“神のアクア”は必要なんですよ。万が一にも敗北や、泥臭くてみっともない接戦を演じてしまわないために」
「っ……あなた、本気でそんなこと言っているのだとしたら、頭がどうにかしてるわよ……! 『一切の瑕も汚れもない、“完璧な勝利”のため』? 他でもないあなたたち自身が、ドーピングでそれを穢しているじゃない!」
「……そんなのは、神に選ばれなかった者の戯言ですよ。“神のアクア”は、最初から
木野さんよりも先に、お嬢様の子の方が顔をしかめました。
彼女の言っていることは、一から十までその通りです。少なくとも私には、反論なんてできない正論。故に、
そんな、私自身も納得できない借り物の言葉なんかで、他人を納得させられるわけがないでしょう。
お嬢様は私の言葉にあきれ果てたように口を閉じ、それから諦めたように緩み、木野さんたちへと向けられました。
「……聞いての通り、やっぱり相互理解はできなさそうね。私たち雷門と彼女たち世宇子の“サッカー”は違い過ぎる。まるでお互い別のスポーツの話でもしてるみたいだわ」
「そうです! ……第一、彼女は影山の手下なんですよ? そんな人が“神のアクア”を使う理由なんて、ろくでもないに決まってるじゃないですか……!」
お嬢様に続き、おでこ眼鏡さんからやたらと強い敵意の視線が私へと向けられます。
がしかし、私たちの“サッカー”が相反するとはっきり言葉にされても尚、木野さんの眼は穏やかに首を傾げました。
「そうね。私も影山のサッカーを肯定するつもりはないわ。ドーピングなんて、どんな理由があっても絶対に許されない行いよ」
「なら――」
「でも、彼女は影山じゃない。ただ、世宇子でサッカーしているだけの一人の選手。でしょう?」
また語気を荒くしかけたおでこ眼鏡さんを制し、木野さんが一歩踏み出し、私の顔を覗き込んできます。
私の借り物の言葉を――心の内の“逃げ”を、見透かすような眼差しでした。
そうして彼女は私を逃がさぬよう捉え、その優しげな疑問符を私へ叩きつけてきたのです。
「影山のサッカーじゃない、あなた自身のサッカーが知りたいの。あなた自身が、どうして“神のアクア”を受け入れているのか」
「……私が世宇子の一員だから、じゃあダメですか?」
「ダメ。だって……米田さん、あなたが本気でそう思っているのなら――そんな寂しそうな顔はしていないでしょう?」
「っ……」
借り物の言葉を吐いていた喉が、張り付いたように詰まってしまいました。
寂しそうな顔。私はそんな顔をしているのでしょうか。
頬に手を伸ばしてみるもそんなことがわかるはずもなく、しかしだというのに、彼女の言葉が事実であることはわかります。
『寂しい』。ああ、なるほど。確かに、今も私の胸の内に渦巻いているモヤモヤは、その通りの代物なのかもしれません。
「木野さん、もういいでしょう? これ以上ボヤボヤしていられないわ。いつ増援が来るかわからない……!」
「……この人が他とちょっと違うっていうのはわかりましたから、早く行きましょう! 本物の影山の手先にでもこられたら、それこそ――」
ようやく悟った、心の内のモヤモヤのその正体。寂しさ――孤独感を自覚した私から、何やら喋る二人の相手をする余裕が消え失せて――
「――わからない」
気付けば借り物ではない自分の本心を、零すように呟いていました。
「わからないんです、私。この試合の前までは“神のアクア”で戦うことに……影山のサッカーに疑問なんて持ってなかったはずなのに、まるでそれが夢か何かだったみたいに、いつの間にか変わっちゃっていたんです。私の中の“サッカー”が皆さんとかけ離れたものになっちゃっていて、それで……」
今や“サッカー”が違う
つまりはそういうお話です。
そしてだからこそ、私は仲間の、影山のサッカーを受け入れるほかないのです。
「……もうこれ以上、仲間を裏切るわけにはいかないんです。影山のサッカーを捨てちゃったら、私の仲間は本当に誰もいなくなってしまうから……。それだけは、嫌なんです」
アフロディさんもそう言うように、私たちのサッカーは影山総帥のためのもの。だからたぶん、この“仲間”への固執も世宇子からはかけ離れているのでしょう。
けれど、それでもこれだけは手放す気にはなれません。『仲間のために』という想いまで捨ててしまえば、それこそ私がサッカーをする理由までもが消えてしまいそうで、心の深いところから怖れが湧いて出てきます。
故にどうであれ、私が取るべき行動は一つだけなのです。
「申し訳ないですけど、三人とも逃がしませんよ。“神のアクア”がダメになっちゃったなら、尚のこと下手人は捕まえておかないと。……もしかしたら相手チームの妨害ってことで、新しい“神のアクア”を用意する時間も稼げちゃうかもですし」
「く……! 当然、予備の当てはあるってわけ……!」
いいえ、ありません。今ある“神のアクア”は彼女たちが捨ててしまった分で全部。もしかしたら、ということもありますが、時間稼ぎに関してはほとんど希望的観測です。
だからふと思いついた建前のすぐ後に、本心はほとんど勝手に口をついて出ていました。
「せめて、仲間に筋を通すくらいはしておかないと。……私はまだ、
言いながら、唯一の出入り口の扉をロックの上からさらに背で塞ぎ、木野さんたち三人を睨みつけます。
しかしそうして私が開戦の合図を発しても、それでも尚、私へ向けられる木野さんの眼差しは優しく静かなままでした。
「『仲間とサッカーがしたい』……だから影山のサッカーを受け入れている。そういうことなのね、米田さん」
「……ええ。気は進みませんけど、でもどうしようもないんです。みんなのサッカーは“神のアクア”で戦う影山のサッカーだから、私がみんなとサッカーを続けるためにはそれに殉ずるしか――」
「殉じればずっとサッカーができるって、ほんとにそう思ってる?」
「え……?」
思わず疑問符。秋さんの言わんとすることが理解できません。
だって『思ってる?』も何も、それが事実です。
単純な話、私が影山のサッカーをしなければ、私はチームを追い出されてしまうでしょう。サッカーをプレーができなくなるのです。
が、しかし――
「影山の……サッカーとも呼べないようなサッカーを続けて、本当に仲間とサッカーができるって、そう言えるの?」
「ッ……!」
続いたその言葉に、私の“事実”はかき消されてしまいました。
「……“神のアクア”の力で勝っても、それは“完璧な勝利”なんかじゃない。ただサッカーを穢しているだけよ。他の世宇子の人たちはそう思っていないようだけど……でも、いずれ絶対に気が付くわ。自分たちのサッカーが“本当のサッカー”じゃなかったってことに。……ベータさん、あなたと同じようにね」
「私と、同じように……」
同じように、アフロディさんたちも蝕まれることになるのでしょうか。この“ズレ”のもどかしさと寂しさと……そして、“サッカー”ができない苦しみに。
「今のままじゃ、誰も本当の意味でサッカーをプレーすることはできないのよ。だから……あなたが仲間とサッカーがしたいのなら、他でもないあなたがこの状況を――」
変えるべきです。『仲間のために』。
と、その時でした。私が背にする扉の向こうからコツンコツンと、二人分の足音と話し声が、微かな音量で聞こえてきました。
そしてそれは私だけでなく、目の前の三人の耳にも届いた様子。三人とも、その顔に一気に焦りの色が増していきます。
「ッ! 人が……!」
「ま、まずいですよ! 追手に見つかったら、さすがに私たち……!」
捕まって、それこそ口封じの憂き目にあってもおかしくありません。
誇張でもなんでもなく、彼女らにとって生きるか死ぬかの瀬戸際です。
命運を握る私へ向く視線も格段に険しいものへ。私を無理矢理押し退けてでも、一刻も早くこの部屋から逃げ出さなければと、徐々に身体に力が入っていくのがわかります。
とはいえしかし、実際のところ、ただのマネージャーである三人が私を無理矢理突破することなど不可能です。なので本当に、彼女らがどうなるのかは私次第。
全てが、私の選択次第です。
「――米田さん……」
木野さんの――変わることのない、敵に向けるに相応しからぬまっすぐな眼。見て、感じて、そして私は――
――決意したのでした。