雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第二話 驚異の始まり

 反射的に振り返り、私はそれを目にしました。

 

 声の正体、豪炎寺さんが夕香ちゃんを守るように立ち上がり、鋭い目つきで睨みつけていたその人物。

 彼女は、感情の窺い知れない仮面のような無表情で私たちを見つめていました。

 

 

「怪我などされていたら、こちらの計画にも支障が出る。面倒がなくて助かった」

 

「……誰だ、お前たちは」

 

 

 夕香ちゃんを背にした豪炎寺さんが、その警戒心でこれまでにないくらいに張り付けています。しかし彼が睨みつける青髪に白のメッシュが入った凛然とした彼女と、そしてさらに、その背後に尽き従う顔色の悪い禿げ頭の大人が三人は、やはり動揺一つ見せません。

 特に集団の長なのだろう彼女はボディスーツのようなぴっちりとした格好で、相俟って創作物に出てくるアンドロイドか何かのようにも思えるほどです。

 

 そんな、徹底して私心が排された無表情で以ってして、

 

 

「私は……ウルビダ。遠き星エイリアからやって来た、星の使徒だ」

 

 

 彼女――ウルビダさんは、豪炎寺さんの詰問に少々溜めて、そう名乗りました。

 

 ……言葉はたったのそれだけでした。つまり、意味不明です。

 

 

「えっと……つまり、宇宙人さんってこと?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ええ……? 『そうだ』って言われちゃっても……」

 

 

 半分冗談だったのに、潔く認められては逆に困っちゃいます。なんだかとても電波(・・)な方々ですが、しかしやっていることは不法侵入。気を取り直して、豪炎寺さんが硬い声音で彼女らへ向かいます。

 

 

「すまないが、ここは俺の妹の病室なんだ。用がなければ出て行ってくれないか」

 

「用件はある。重大な使命がな。私がこの場を立ち去るのは、貴様たちからその答えを聞いてからだ」

 

 

 と、ウルビダさんは豪炎寺さんに淡々と首を振り、その要求を拒絶します。そしてその理由として、その手を私と豪炎寺さんへ差し出しました。

 

 差し出し、そして――あっさり言い放ったのです。

 

 

「豪炎寺 修也。そして米田 佳。お前たち、我らがエイリア学園に加わる気はないか」

 

「えぇ……?」

 

 

 なんと、宇宙人の学校に転校を勧められてしまいました。

 

 さっぱり訳が分かりません。そんな私たちを見抜いてか、ウルビダさんはじっと私に眼をやったまま、熱のない声音で続けます。

 

 

「貴様たちの能力は人間としては素晴らしい。だが、雷門中サッカー部などにいてもそれを腐らせるのみだ。……我らエイリア学園の下でなら、その才能を十全に引き出し、さらに上のレベルに進化させることも叶う。今よりもさらに強くなれるんだ。貴様たちにとっても悪くない話だろう」

 

「……要は引き抜き(スカウト)か。サッカー日本一になった以上、来ておかしくない話だな」

 

 

 なるほどです。豪炎寺さんが見せた訳知り顔に、遅れて私も理解しました。

 

 強い選手を引き抜いて自分チームの戦力補強。わかってしまえば簡単な話です。帝国のような名門ならばそうたやすく手を出すこともできないでしょうが、つい最近まで弱小チームだった雷門ならばそういうガードも薄いだろうと、彼女のエイリア学園とやらはそう考えたに違いありません。

 

 

「……返答は?」

 

 

 そう私が納得している間に、ウルビダさんは静かな眼差しで催促をしてきます。それに対して、私と豪炎寺さんはお互いの顔を見やると――当然のことながら、同時に苦笑が漏れました。

 答えなんて決まっています。

 

 

「悪いが、断る。俺の居場所は雷門だ」

 

「私もです。雷門を離れる気なんてないですし……そもそも、よく知りもしない人たちとサッカーしたって楽しくもなんともないですもん」

 

 

 雷門の仲間たちとするサッカーが、私の理想のサッカーなのです。豪炎寺さん然り、それを捨てる気なんてサラサラありません。

 『才能を引き出す』とか『さらに強くなる』だとか、そんな事は全くどうでもいいことでした。

 

 それは私たちの心を動かすものではありません。そう伝えて――そして、ウルビダさんは、

 

 

「……だろうな」

 

 

 と。

 ただ一言、私たちの応えに諦めの吐息を零しました。

 

 それは無に固められた表情に初めて現れた、諦念の感情でした。

 

 きっと彼女自身も、この引き抜き(スカウト)はうまくはいかないだろうと最初からわかっていたのでしょう。

 それでもエイリア学園なる奇妙な名前の学校のため、一縷の望みにかけて申し入れ、その結果がこんな“案の定”。息を吐きたくもなるはずです。

 

 故に彼女が零したそれは、残念がるような悲しむような、そんなか細い声でした。

 

 が、しかし。

 

 

「なら……無理矢理にでも首を縦に振らせるだけだ」

 

 

 次いで聞こえた声は、そんな暗い声とは百八十度違う――悪意に染まったものでした。

 

 

「ここにはおあつらえ向きの人間もいるようだしな。ちょうどいい」

 

「……何が言いたい」

 

 

 恐らくは使命感のために気負っていた無表情が解け崩れ、引き抜き(スカウト)の失敗を認めたはずのウルビダさんが、今やその表情を刺々しくゆがめています。

 ニヤリと哄笑混じりに口角を持ち上げて、そしてその時、それを私たちへ差し向けてきたのです。

 

 

「言わなくてはわからないか? 豪炎寺 修也、貴様が我らに付かないのなら、貴様の妹、豪炎寺 夕香の身の安全は保障できない。……そう言っている」

 

「ッ!!」

 

 

 ベッドで眠る夕香ちゃんへと眼をやって。それは紛れもなく、脅しでした。

 

 実際にウルビダさんの後ろに控えていた禿げ頭三人がその瞬間、これ見よがしにあくどく笑って腕や拳の骨を鳴らしてみせました。豪炎寺さんは夕香ちゃんを守るべく、本能的にその前に立ちふさがります。

 

 がしかし、その内心は警戒心や怒りよりも、困惑が多く渦巻いていることでしょう。

 

 私もそうです。なんなら受けた衝撃は彼以上。向けられた悪意に身動き一つ取れなかったくらいです。

 

 だって、全く予想できませんでした。ウルビダさんが、まさか影山の如き邪悪な所業で私たちを追い詰めようとするなんて。

 

 もちろん、私たちは彼女のことをほとんど何も知りません。出会ったばかりの初対面なのですから、その人となりなんて知りようがないのです。

 でも、それでも。同じくサッカーに関わるものとしての勘、でしょうか。こういうことをする人には、とても見えなかったのです。

 

 ……そう思っていたのですが、しかし今、彼女は夕香ちゃんを人質に豪炎寺さんを脅しています。

 だから、それが現実。頭の中での妄想は打ち捨てる他ありません。

 

 

「答えを出すのは今すぐでなくてもいい。豪炎寺、貴様にも考える時間が必要だろう」

 

 

 私たちを衝撃の渦に叩き落としたことを気にするでもなく、ウルビダさんが言いました。

 さっと手を上げ禿げ頭たちを下がらせると、豪炎寺さんへと向けていた眼を、次いで私へも向け告げます。

 

 

「そして……米田、貴様もな。いずれは貴様のための取引材料も用意する。楽しみにしているがいい」

 

「……何をされても、私は雷門をやめちゃう気はありません」

 

「そうか」

 

 

 と、ウルビダさんは嘲笑うように鼻を鳴らして――ふと、どこからか黒いサッカーボール(・・・・・・・・・)のようなものを取り出しました。

 すると途端、手にしたボールがピカピカと瞬き出して、

 

 

「今回はこれで失礼しよう。……よくよく、考えることだ」

 

 

 一際まばゆく輝いた、次の瞬間。

 ウルビダさんと禿げ頭たちの姿は、跡形もなく消えていました。

 

 

 ……また、白昼夢だったんでしょうか。

 眩んだ目を瞬かせながら唖然とし、部屋中キョロキョロ見回しても、彼女たちの姿はやはりどこにもありません。

 この病室にいるのは私と夕香ちゃんと、そして豪炎寺さんの三人だけです。

 

 そしてその豪炎寺さんも私と同様、唖然の表情。初めて目撃した白昼夢に当惑し――しかし二度目の私に遅れること数秒ほどで我に返ります。

 彼はかぶりを振ると、眠る夕香ちゃんの無事を確かめて難しげな息を吐きました。

 

 

「いったい何だったんだ、奴らは……」

 

「さあ……エイリア学園って名乗っちゃってましたけど……豪炎寺さん、そんな名前の学校って知ってます?」

 

「いや、知らない。……さっぱりわからん」

 

 

 ですよねぇ、と私もため息。正直、最初は私たちが知らないだけの無名でヘンテコネームな学校なのだろうと考えていましたが、今やそうとは思えません。

 普通の学校が、あんな瞬間移動的な超常現象を使いこなせるはずがないでしょう。

 

 もしかして、本当に宇宙人だったりするのでしょうか。

 あるいは私が世宇子戦で味わったアレ(・・)と繋がりがあったりとか。でもそうならあの時のように異常を認識させずに引き抜いて(スカウトして)しまえばいいだけですし……ああもう、本当に訳が分かりません。

 

 

「……とりあえず、警察に通報しちゃいます? 何はともあれ脅迫されちゃったわけですし」

 

「……そうだな」

 

 

 今はそれくらいしか思いつきません。豪炎寺さんもあまり頭は回らなかったらしく、私に言われるがままポケットからケータイ電話を取り出します。

 

 そして躊躇いがちに110番にかけようとして――その瞬間。

 

 

「っ!? ……なんだ、いきなり?」

 

 

 電話がつながる代わり、病室のテレビに独りでに電源が入りました。

 

 流れ出したのはいつもこの時間にやっているニュース番組。しかしどうやら臨時ニュースに湧いているようで、もしかして鬼瓦さんが流した影山のスキャンダルの特集とかでしょうか、なんて思うも、しかし。

 

『――と、自らをエイリア学園と名乗る不明な集団は木戸川清修中学サッカー部を86-0という驚異的なスコアで破り、その結果として木戸川清修中学校の校舎が破壊されたということです! そして……はい、今入ってきたニュースです! 木戸川清修中学校を破壊して姿を消したエイリア学園は、次に今年のフットボールフロンティア優勝校である雷門中学校に標的を定めたという情報が――』

 

 

「え……? 豪炎寺さん、これってどういう――」

 

 

 予想は外れ、ニュースキャスターが唾を飛ばして語るのはそんな理解不能な事件の数々でした。頭が付いていけず、思わず豪炎寺さんに縋ったその時です。

 

 ケータイの着信音。今度はそれが、私のポケットから鳴り響きました。

 

 何か考えるまでもなく反射的に身体が動いて手に取って、そのまま耳に押し当てます。嫌な予感は遅れて届き、背が泡立ったのはその直後。だからもちろん、それに対して身構えられるわけもなく。

 その声が、私の鼓膜を殴りつけました。

 

 

『――佳ちゃん! 今、まだ病院!? こっちは大変なことになってるの! 豪炎寺君と一緒にすぐに戻ってきて!』

 

 

 電波に乗って届いたのは、半ばパニックに溺れている秋さんの声でした。

 

 その、動揺に焦りが重なった声がそのまま私へとまくし立ててきます。こちらの反応を気にする余裕もないくらい、彼女はあちらの現状を私たちへ伝えようと必死になって――それ曰く。

 

 

「雷門中が……襲われてる……!?」

 

 

 テレビで流れる臨時ニュースは、もうすでに現実のものとなっていたのです。

 

 途端、私と、豪炎寺さんの身に冷たい戦慄が駆け抜けました。破壊される木戸川校舎の映像がテレビ画面にまた流れ、たまらず二人同時に顔を見合わせ頷きます。

 

 

「……どうした、二人とも」

 

 

 と、ちょうどよく機材を手に戻ってきた豪炎寺さんのお父さまには、しかし事態を詳しく説明している暇もありません。

 

 

「ごめんなさい! 私たち、すっごく急ぐ用事が出来ちゃったので、今日はここで失礼します!」

 

「すみません、父さん……! 帰ったら説明します!」

 

 

 そう言い捨てて、私たちは病院内で許されるギリギリを攻めながら、急いで雷門中へと向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷門中を目指して駆ける道中。不穏に騒めく市街の中で、私の心配はやっぱり円堂さんたちに向いていました。

 

 今雷門中を襲っているという集団は、木戸川を襲ったエイリア学園です。

 まず間違いないでしょう。そしてニュースで言っていたように、彼らがサッカーと校舎の破壊が結び付いた無茶苦茶な道理で動いているのなら、きっと今頃は試合が始まっているはずです。

 

 けれどしかし、今雷門中にいるはずの面々は、決してベストメンバーではありません。

 

 私と豪炎寺さん、それに一之瀬さんと土門さんという、スタメン四人が欠けてしまっている状態です。

 特にストライカーに至っては染岡さんただ一人。鬼道さんも打てなくはないでしょうが、それを加味してもチームの得点力は格段に低くなっているはずなのです。

 

 だから、おそらくたぶん――雷門は、エイリア学園のサッカーに押されてしまっているでしょう。

 

 彼らはどうやら木戸川のような強豪チームを非常識な点差で下すことのできるほどの実力があるようですし、そんな相手に主力を欠いた状態でいい勝負ができるなどとは、さすがの私も楽観視できません。

 

 恐らく……0-3とか4とか、それくらいの点差で負けちゃっているのではないでしょうか。

 あるいは円堂さんが持ちこたえてくれているならもっとましな状況もありえるでしょうが――しかしともかく苦しい戦いをしているはずです。

 

 そんな予想で、故の心配。それは校舎の存亡がかかった、負けるわけにはいかない試合です。

 だからこそ、負けている中でもできる限りマシな状況になっていることを、私は祈って駆けていたのでした。

 

 そして――

 

 雷門中に到着し、目にしたその有様は、全くもって私の想像以上でした。

 

 

「――0対10、ですか……」

 

 

 スコアボードに刻まれた差は、前半戦だけで既に二桁の大台に乗っていました。

 

 もちろん木戸川の惨状と比べたらずっとマシです。

 けれど木戸川は、ぶっちゃけ守備面があまり強くありません。色々と要素が重なったが故のことではありますが、私も彼らとの試合で一人で8得点決めたことがあるほどです。

 86得点というのはやはり規格外ではあるものの、大量失点してしまう展開はあり得るチーム。それが木戸川清修中でした。

 

 しかし対して、我が雷門中にはキャプテンで且つチームの守護神、円堂さんがいます。

 

 防御力は言わずもがな平均以上で、特に世宇子戦で会得した新たなキーパー技、【マジン・ザ・ハンド】は相当に強力な必殺技です。

 あれを打ち破れるシュートはそうそう存在しないでしょう。もちろん無敵とは言いませんが、しかしその光の魔神の迸るエネルギーを間近で感じ、さらにその向こう側の秘めたる力をも目撃した私にとっては、少なくとも絶対的な信頼を置くにふさわしいものだったのです。

 

 だというのに――10失点。正直、信じることが難しい数字でした。

 

 

「いったい、何がどうなったらこんなことになっちゃうんです……!?」

 

 

 特別な作戦か、それとも世宇子の【神のアクア】のように卑怯な手でも使われたのか。

 

 あまりに予想外な状況に、私はスコアボードを見つめながらそんなことを考えることしかできませんでした。

 

 

「『何が』も『どうなった』も何もない。……単純に、奴らの実力にやられたんだ」

 

 

 鬼道さんでした。唖然の中にふと聞こえたその声。ハッと我に返って振り向くと、土汚れと擦り傷に塗れた我が雷門の司令塔が、悔しげに唇を歪めている姿が眼に入ります。

 

 そしてさらに、周囲で項垂れる皆さんの惨状にも気付きました。

 みんながボロボロです。鬼道さんと同じかそれ以上のダメージを負った身体でへたり込み、マネージャーの秋さんと音無さん、それに夏未さんの三人が手当てに駆けまわっています。

 

 誰一人無事な選手が存在しない、負傷者多数な戦況です。点差以上に衝撃的な光景でした。

 

 私だけでなく、豪炎寺さんまでもが思わず言葉を零すほどです。

 

 

「鬼道……エイリア学園とやらは、それほどの強者なのか? こんな、皆を叩きのめしてしまえるほどの?」

 

「ああ。パワーもスピードも、フィジカルの全てがとてつもない。それこそ……世宇子以上だった」

 

「そんなこと……!」

 

 

 ありえません。特に世宇子以上だなんて、そんなこと。

 

 だって世宇子の人並外れた能力は、【神のアクア】によって極限まで強化されたものです。

 身体を破壊しかねない危険なドーピングをしてようやく得られた人間の限界値。それを超える――人の限界を超えた身体能力だなんて、そんなものは到底信じられません。

 

 

「本当だ……。俺も奴らの動きに翻弄されて、シュートの一本も打ててねぇッ……」

 

「そもそもボールが繋げられないんだよ。せっかくボールを持っても、あいつらがどっしり構えてるだけで俺たちはそれを越えられない……」

 

「そ、それにディフェンスもッス……! あいつら、俺の【ザ・ウォール】を何でもないふうに破って行っって……それに、風丸さんも……」

 

「ああ……。奴ら、とにかく速いんだ。ドリブルもシュートも……俺も、全く追いつけなかった……ッ」

 

 

 信じられませんが、しかし染岡さんとマックスさん、壁山さんに、さらに風丸さんまでが同じような感想です。全員が証人でした。

 

 特に風丸さんなどは、相当なショックを受けてしまっているようです。打ちのめされただけでなく、震える握りこぶしと荒い吐息に漏れ出ているのは、きっと恐怖なのでしょう。

 チームでも私に並ぶ足の持ち主である彼が、思わず怯えてしまうほどのスピードだったということです。

 

 こんな剥き出しの感情まで『信じるに値しない』と切り捨てるのは、よほどのおバカさんだけでしょう。

 

 

「みんなが言った通りだ。……悔しいけど、俺たちはあいつらの動きに全然ついていけてない。【マジン・ザ・ハンド】だって、そもそも間に合いすらしなかったんだ」

 

 

 そしてその円堂さんまでもが、そう言い無念に表情を曇らせているのだから、もはやそれは否定のしようがありません。

 

 人間の範疇にない身体能力。つまり(・・・)、でした。

 

 

「じゃあ……まさか、本当に……? 本当に、エイリア学園は人間以上の力を持った、宇宙人だと……?」

 

 

 宇宙人を名乗ったウルビダさんも、テレビのニュース番組も、彼ら(・・)も。

 自称宇宙人たちは痛々しい電波系の人たちなどではなく、本当に宇宙から来た宇宙人だということなのです。

 

 

「少なくとも彼らは言っているわ。ほら」

 

 

 と、ようやく皆さんの手当てを終えた秋さんが、私の傍で不安に肩を震わせていました。そしてその眼が示す先。

 

 蹂躙の痕が残るグラウンドの土を踏みしめて、その彼ら(・・)が、こちらへ足を向けてきたのです。

 

 

「ああ、お前たちが豪炎寺 修也と米田 佳か。……なるほど、人間にしてはいいオーラを放っている」

 

 

 褒めるような嘲るような、どちらとも取れない調子で言ったのは、逆立った緑髪の男の子でした。

 

 病院でのウルビダさんとよく似たボディースーツのようなユニフォームにキャプテンマークの腕章を付けた彼は、やはり彼女と同様、とても宇宙人には見えません。

 服装さえ変えてしまえば、街を堂々歩いても誰も彼が宇宙人だとは気付かないでしょう。

 そしてそれは、彼の背後に控えるチームメイトの宇宙人さんたちも同じこと。……まあ数人は肌が赤かったり青かったり、奇妙なヘルメットをかぶっていたりと人外っぽさがありますが、ともかく見た目はほとんど人間と変わりません。

 

 ただし――それでもやはり、彼らが皆の言う通りの存在であることは間違いないようでした。

 

 一目でわかりました。彼らのその、人間以上の身体能力。そこに根差した傲慢なる自信に満ちた物言いと眼差しが、次いでさらに、私と豪炎寺さんへと言ったのです。

 

 

「いいオーラではあるが……ふん、やはり下等な人間ではこの程度か。雷門共がお前たちの到着を心待ちにしていたようだから、少しは期待していたが……どうやら無駄だったようだ」

 

「なんだと……!?」

 

「地球にはこんな言葉がある。『捕らぬ狸の皮算用』。……この二人が戻れば我々に勝てると考えていたのだろう? 生憎、この二人にはお前たちが期待をかけるほどの力はない。我々の勝利は揺るがない」

 

 

 そんな、ことわざまで使った嘲笑でした。

 当然、皆が反発します。

 

 

「ベータと豪炎寺をバカにするな!! ……二人がどれだけ強いのか、お前たちにわかるもんか!!」

 

「二人がフットボールフロンティアでどれだけ活躍したか、どうせお前らは知らねぇんだろ宇宙人!! こいつらは……ウチのエースで、日本一のストライカーだ!!」

 

 

 円堂さんと、そして染岡さんまでもが反論を叫んでくれました。

 そうだそうだといきり立つ他の皆さんの様子も合わせ、実力を認められるのは嬉しいやら恥ずかしいやらわかりません。

 

 が、そんな私の内心はともあれです。

 

 

「そうやって『お前たちは我々には勝てない』なんて言っちゃうようなチームとは、これまでにも何度か試合してますけれど……生憎、そう言ってほんとに私たちに勝てちゃったチームって、ただの一つもないんですよね」

 

「ほう……? なら我々が、記念すべきその最初の一チームになるということだな」

 

「いいえ。あなたたちも、あなたが言う“下等な人間”のチームと大して変わらないってことですよ。……私たち雷門のサッカーは、あなたたちには負けません!」

 

 

 試合に対する気力。絶対に勝つという意志は、彼らの嘲笑程度で消えるものではありません。

 私もみんなも、それは同じことでした。

 

 

「そうだッ!! まだ、前半戦が終わったばかりなんだ……!! 俺たちは、まだまだやれるぞ!!」

 

「ベータさんと豪炎寺さんも、戻ってきてくれたんでやんす!! 雷門は、ここからでやんすよ……!!」

 

「ここから、反撃開始……。フフフ……!」

 

 

 つまり――宇宙人さんが私たちをはるかに凌駕する力を持ち、それを傲慢な自信で以って私たちに浴びせかけようと――そんなものは言ってしまえば、私たちにとって何の意味もないのです。

 

 気圧されようが怯えていようが、私たちの戦意は尽きず、故に戦うのみでした。

 

 

「ふっ、愚かな奴だ。……地球にはこんな言葉がある。『土仏の水遊び』。既に前半戦だけで10点もの点差が付いているというのに、勝てると思っているのか? お前たち雷門の敗北は既にわかりきっている」

 

「いいや! 10点取られたなら、11点取り返すだけだ! 決着がつくまで、俺たちは戦い続ける! 勝利の女神がどっちに微笑むかは、試合が終わるまでわからないんだからな!!」

 

 

 折れた膝も、その意思でもう一度立つのみです。

 

 なにせ敗北すれば、宇宙人さんたちの手によって雷門中が破壊されてしまいます。

 

 10点のビハインドは当然苦しいですが、しかし世宇子戦の時だって、私たちは同じように私たちは勝利を掴み取ったのです。だからそれは諦める理由になりません。

 

 今度も、やれるはず。

 

 いえ――

 

 

(勝たないと……学校のためにも!)

 

 

 背に多くの人の命運を背負い、私たちは円堂さんの御旗の下、宇宙人さんたちのチームに対峙したのでした。

 

 

「後半戦からは私たちも入ります。前半戦でどんな大暴れしたのか知りませんけど、同じようにいくと思ってたら痛い目見ちゃいますよ!」

 

「ああ。俺たちのシュートを見せてやる……!」

 

 

 私と豪炎寺さんの気迫を、嘲笑った彼らに叩きつけ。そして、

 

 

「……いいだろう。『石に漱ぎ流れに枕す』。今までの10失点が主力を欠いていたからだというのなら、今度はそんな言い訳もできぬほど、完膚なきまでに叩きのめしてやる!」

 

 

 宇宙人さんたちは愚かしいものを見るような眼で、やはり変わらず嗤いました。

 

 

「我らは遠き星エイリアからこの地に降り立った、チーム【ジェミニストーム】! 雷門よ、その敗北と象徴たる校舎の破壊を以ってして、我らの地球侵略の糧となるがいい!!」

 

「学校の破壊も、地球侵略もさせるもんか!! お前たちがサッカーで悪いことをする気なら、俺たちがサッカーでそれを止めてやる!! ……勝負だ、レーゼ!!」

 

 

 地球侵略という、さらなる尊大な野望をひけらかしながら。

 そうして、意気込む円堂さんの声と共に緑髪さん――レーゼさんたち【ジェミニストーム】との試合が始まったのでした。

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