雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第三話 宇宙人の力

「――ベータ、お前は今回フォワードでなくディフェンスについてくれ」

 

「え?」

 

 

 と、ユニフォームとスパイクの準備を整え、前半終了のハーフタイムを終えた皆さんと共にいつものポジションに付こうとした、ちょうどその時です。

 私へと、鬼道さんが言いました。

 

 さあ頑張るぞと、ちょうど気合を入れ直していた時だったので、いきなりのことに思わずポカンとしてしまいます。本来はフォワードである私にディフェンスをやれだなんて、あまりにも型から外れた指令です。

 

 そしてその意外な指示に困惑したのは私だけではありません。後半戦からの攻勢を想像していた皆さんも、たまらず文句を言い立てました。

 

 

「な、なんでだよ鬼道!? ここから点を取ってくっていう時に、なんでベータを後ろに下げるんだ!?」

 

「そうです! ベータさんは俺たち雷門の攻撃の要じゃないですか! ……そりゃあ、豪炎寺さんに染岡さんもいますけど……」

 

「これから俺たち、最低でも11点は取り返さないと勝てないんだし。得点力を下げてまで、ベータに守りを固めてもらう理由って?」

 

「……前半戦、俺たちは点を取られ過ぎた。俺たちの中で最も【ジェミニストーム】の猛攻を受けたのはディフェンスだ。……これ以上の負担はかけられん」

 

 

 反論にそう答え、鬼道さんはベンチの方に眼を向けます。そこで秋さんたちの治療を受けているのは、メガネさんと栗松さん、そして影野さんの三人です。

 その中でもディフェンスの二人、栗松さんと影野さんの怪我は見るからに酷そうでした。さらに視線を戻せばフィールドに残った壁山さんも、その恵まれた体格のおかげでまだ体力を保っていはするようですが酷い有様。風丸さんに至ってはついさっき見た通り、メンタルまでやられてしまっています。

 

 

「このまま戦えば守備陣が潰されて、病院送りの怪我を負う事態にもなりかねないだろう。だからベータ、お前のカバーが必要なんだ。……幸い、お前は守備能力も相当高い万能選手なわけだしな」

 

 

 鬼道さんが私を見やり、そのゴーグルの奥で小さく苦笑を零しました。

 

 その眼差しが期待しているのは、きっとずっと前、帝国学園時代の鬼道さんと私たち雷門が初めて試合をした時のことなのでしょう。

 あの時の私は今のようにフォワードではなく、ディフェンダーとして試合に出場していました。そこそこ奮闘し、おまけに得点に絡む活躍もしています。

 

 要はそれをやれと、そういうことであるのでしょう。

 

 

「……わかりました。あの時みたいに、バッチリボール止めちゃいますね……!」

 

「ふっ……ああ、頼んだぞ、ベータ」

 

 

 思えば確かに、今のこの状況はあの時とよく似ています。

 相手が絶対的な強者であり、点数差も絶望的。これでまた私のディフェンスをきっかけに得点することができたなら、それこそまるっきり当時の再現になるでしょう。

 

 

(望むところです。やっちゃいますよ……!)

 

 

 守備の要となりながら、隙を見てオーバーラップ。攻めも守りも両方をハイレベルに行わねばならない、ひどく忙しい上に大変なプレーですが……やるしかありません。

 

 覚悟を決めて、そして周囲の皆さんも納得した後。人数の足りないディフェンスにさらに少林さんが加えられるポジションチェンジを経てから、とうとう試合が始まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボールは相手、ジェミニストームからでした。

 

 相手がこちらに攻め込んで、こちらがそれを受け止める展開です。

 故に。私は鬼道さんたち曰くの人外のフィジカルを、遠目にではあるものの、早速目撃することになったのです。

 

 

「これは……風丸さんがへこんじゃうのも無理ないですね」

 

「……情けないとこ見せて、悪かったよ」

 

 

 確かに、異常なほどのスピードでした。

 

 最初にボールがレーゼさんへと渡ったと思いきや、次の瞬間にはもう豪炎寺さんたちフォワード二人が追い越されています。

 一瞬のうちに鬼道さんたちミッドフィールダーの中盤層に到達し――そのまま行けば数秒としないうちに、私たちディフェンスの下までたどり着いてしまうでしょう。

 

 思わず感嘆が漏れてしまいます。逆サイド、怯えからなんとか立ち直ったらしい風丸さんまで聞こえてしまったようですが――ともかく私は納得することとなりました。

 

 こんな相手を正面から止めるのは不可能です。

 人間を越えた宇宙人の身体能力という評価は本当。あまりに大きなスペックの差の前には、多少のテクニックなど付け焼刃にもなりません。

 

 現に今も、率先して前に躍り出た宍戸さんがまるで車に撥ね飛ばされるように吹き飛ばされてしまいました。

 ただのドリブルでこれだけの差がある以上、個人技の対決を仕掛けるのは自殺行為です。

 

 であるならば、ボール奪取は彼らのミスを期待するか、あるいはうまくパスカットでもするしかないでしょうが――

 

 

「ぐっ……くそぉッ!! 駄目だ、ボールに追いつけないッ……!!」

 

「ハハハッ! そんなスピードで俺のボールを横取りする気だったのか? 百回やったって、お前ら人間には取れやしねぇよ!」

 

 

 そのパスボールも、すさまじいほどの速さでした。

 受け取り手のダッシュ力と相俟って、パスが出たその瞬間にはもうボールは遥か彼方。超高速のパスにより、マークついていた半田さんはあっさりと置いてきぼりになっています。

 

 これもまた、止められるわけがありません。

 

 ドリブルブロックもダメ、パスカットもダメ。ならばもう、彼らジェミニストームの歩みを止められる者は誰もいませんでした。

 

 しかしもちろん、怯んではいられません。さらにパスが渡り、高速ドリブルで攻め込んでくるレーゼさんを捉えると、周囲に声を向けながら前に出ます。

 

 

「壁山さん、少林さん! 中央を固めて、私と一緒に来ちゃってください!」

 

「りょ、了解ッス!」

 

「わかりましたっ……!」

 

 

 逆サイドの風丸さんを除いた三人でプレスを仕掛け、ミスを誘う戦術です。

 

 この場に於いての最適解であるつもりですが、しかし、正直に言って彼らのドリブル力の前では悪あがきでしかないでしょう。力づくで突破され、それで終わりになる未来が予感されてなりません。

 私たちが三人束になろうとも、それを超える身体能力を有する宇宙人さんからしてみればあってないような障害です。

 

 が、しかし。

 

 

「ふん……ディアム!」

 

「え……?」

 

 

 レーゼさんはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、突破でなくバックパスを選択しました。

 

 ――間違ったプレーではありません。むしろセオリー通りと言えるでしょう。

 事実三人がレーゼさんに集中したため、パスの行き先、ディアムさんに対応できるのは風丸さん一人だけ。彼は絶好のシュートチャンスを得ることとなったのです。

 

 ですが……私たちを圧倒できる選手のプレーにしては、ちょっと手堅すぎる気が。

 

 レーゼさんのその、つまらなさそうな表情が妙に心に引っ掛かりました。

 

 

「っだ、ダメだ、追いつけない……っ! 円堂っ!!」

 

「くらえ……! 11点目だ!」

 

「ッ! マジン……くっ、間に合わ――ぐわあぁぁっ!!」

 

 

 しかし結局のところ、私が感じた違和感はこのボールの行く末には何の影響もありません。

 

 風丸さんを容易く引き離し、その勢いのまま放たれたディアムさんのシュート。パスボールと同様にすさまじく速いボールを前に、一度背を剥き心臓の気を溜める必要のある【マジン・ザ・ハンド】はやはり間に合いませんでした。

 

 円堂さんを巻き込んで、ゴールネットに突き刺さったのです。

 

 

「っ……円堂さん、大丈夫ですか!?」

 

「す、すみませんッス! 俺たちが前に出過ぎたせいで……」

 

 

 開幕早々さらなる失点。それはもちろん、皆さんの戦意に悪影響です。

 

 壁山さんなんかはプレス作戦を悔いているようですが……それを言うのなら、指示した私も謝らないといけなくなってしまいます。

 生憎、あれは最善策だったのです。私に謝る気はありません。

 

 そして何より、反省なんてしている場合ではありませんでした。そこのところを、円堂さんはやっぱりちゃんとわかっています。

 

 

「俺もすまん! また【マジン・ザ・ハンド】が間に合わなかった……! でも、これでこっちのボールから再開だ! 今は攻撃に集中しよう!」

 

 

 痛みと悔しさを呑み込んで立ち上がり、彼は気丈に声を上げました。

 

 その通り、私たちは何を押しても得点を挙げなければなりません。なにしろ点差は11点と膨大なのです。

 

 勝利をつかむには最低でも12得点が必要で、そしてその無理難題を、円堂さんは一切の疑いなく遂行するつもりです。

 変わらないサッカーバカの熱意を浴びて、そうして取り戻した戦意で以って、今度は私たち雷門の攻撃が始まりました。

 

 

「――半田、無理に上がるな! 宍戸とマックスもだ! 接近されたらボールを下げろ! ボールを守って立ち回れ!」

 

 

 しかし戦意だけでは宇宙人さんは倒せません。

 ボールは持てても正面から彼らを突破できないことは変わらず、故に鬼道さんのゲームメイクも後ずさりを余儀なくされてしまっています。

 

 恐らく、前半戦ではこのままずるずると前線を押し下げられて、どこかのタイミングでボールを奪われ即失点と。そんな感じの戦いが繰り返されていたのでしょう。

 

 どうあがいてもじり貧です。が、しかし今は違います。

 

 

「ベータッ!」

 

「オッケー! ナイスパスですマックスさん!」

 

 

 私が居ます。そしてボールとは別にもらった鬼道さんからのアイコンタクトに、彼の戦術の意図を理解しました。

 

 パス回しです。正面突破ができないのなら、パスを繋いで前に進むしかありません。

 

 前半戦でそれをやらなかったのは、普通にやっては宇宙人さんたちの尋常ならざるスピードに追い付かれ、カットされてしまうから。単なるショートパスやロングパスではなくて、味方と相手の動きを把握しきったスルーパスが必要だったからです。

 

 しかし、私ならばそんな小難しいテクニックも実行可能でした。

 

 

「鬼道さん!」

 

「よし……! 行くぞベータ!」

 

 

 鬼道さんの前方、誰もいない空き空間へのパスが繋がりました。宇宙人さんたちはいずれも間合いの圏外で、ボールはそのまま、続いて前に飛び出した私の足先へと帰ってきます。

 

 

「いいぞ! ベータ、鬼道!」

 

 

 戦法はバッチリ通用していました。後はこのまま、じりじりと前へ進んでいくだけです。

 

 欲を言えばせめてあと一人、パス回しの人員が欲しいところではありますが――前半戦の結果の通り、私や鬼道さん以外の皆さんには残念ながら難易度が高いでしょう。

 あるいは『フィールドの魔術師』なんて異名を取った一之瀬さんならうまくやれるでしょうが、この場にいない以上はどうしようもありません。

 

 中継地点的に一瞬だけ半田さんやマックスさんたちにボールを預けることはあっても、基本的にはボールを保持するのは私と鬼道さんだけでした。

 

 だから普通に考えて、宇宙人さんたちは私たち二人を集中的に狙ってくるはずなのです。

 

 陣形を変えて対応してくるのが道理。まして彼らほど能力を持ったチームならばなおのことです。そのはずが――

 

 

(……向かって、来ない……?)

 

 

 ジェミニストームの陣形は動きません。中盤層の選手が近付くたびに反応して行く手を塞いでくるだけで、マークをするでもなく、パスを出せばたちまちそっちに意識を向けてしまっています。

 

 つまるところ、私たちは想像以上に楽に敵陣へと攻め込むことができました。

 

 なんだか、ちょっと拍子抜けです。何ならディフェンスすら、しっかりとゴール前に陣取っているくせに、その動きが妙に硬いというかなんというか。

 

 

ちぐはぐ(・・・・)って感じ……? まあ、とにかくチャンス……!)

 

 

 攻め込み、軽くフェイントを入れてやるだけで空いたパスコースに、私はボールを蹴り入れました。

 

 

「染岡さん!」

 

「やっと来やがったか! やるぞ、豪炎寺!!」

 

「ああ!!」

 

 

 今か今かとボールを待ちわびていた染岡さんへと繋がって、そして我慢が解かれた彼は、すぐさま豪炎寺さんへと合図を送ります。

 豪炎寺さんも頷いて、あっという間にシュート体勢。染岡さんがドラゴンのチカラを込めた右脚を振り上げて、豪炎寺さんが炎を纏って跳びました。

 

 そこから放たれる、彼ら二人の連携必殺シュート。

 

 

「「【ドラゴントルネード】!!」」

 

 

 赤い炎を纏ったドラゴンが、ゴールへと突進しました。

 

 【ドラゴントルネード】ははっきり言って、今の雷門の必殺シュートの中では強力な方ではありません。

 この必殺技が産まれた当初ならまだしも、今となっては――一之瀬さんと土門さんが不在なために今は使えませんが――【ザ・フェニックス】や【皇帝ペンギン2号】、それに世宇子戦で私が見出した新たなシュート技、【アテナアサルト】もがあります。それらと比べれば一段階劣るものであることは否定することはできないでしょう。

 

 だからシュートが止められてしまうことそれ自体は――染岡さんは憤慨してしまうでしょうが、特別驚くべきことではありませんでした。

 

 けれども、しかし。

 

 

「――ギグ、やれ!」

 

「了解……!」

 

 

 まさかキーパーさんでなく、その前に立ちふさがったディフェンダーさんに止められてしまうとは、さすがに予想外でした。

 

 どばんッ、と激しい衝撃音。

 染岡さんと豪炎寺さんの赤いドラゴンは、真っ赤なお顔のディフェンダーさん、ギグさんの身体を張ったブロックによって――なんとその威力を全て受け止められてしまったのです。

 

 

「なッ!? バカな!! 俺たちの必殺シュートを胸でトラップだと……ッ!!」

 

「ふん……この程度、俺たちのパスの方がよっぽど重い」

 

 

 シュートは、彼の胸に僅か立焦げ跡を残しただけ。そしてそれすら、ギグさんが胸をはたくと簡単に消えてしまいます。

 

 染岡さんには相当ショックな光景だったでしょう。豪炎寺さんや、それを目撃した皆さんも然りです。

 けれどそんな私たちに対して、ジェミニストームはただ嘲るように嗤うばかり。

 

 

「哀れな人間どもだ。……一つ、お手本を見せてやろう。ギグ!」

 

「了解……!」

 

 

 と、響いた声にギグさんはまた同じように頷いて――蹴り上げた高速パスボールはセンターサークルほど近く、レーゼさんへと渡ってしまったのです。

 

 

「ッ不味い!! みんな戻れ!! 壁山、風丸、ゴール前を塞げッ!!」

 

 

 いやな予感。鬼道さんも感じ取り、指示を放ちますがしかし。

 

 

「これが、本当の必殺シュートだ……! 【アストロブレイク】!!」

 

 

 レーゼさんはフリーの状態で、中央からのロングシュートを放ちました。

 

 全てを吸い込むブラックホールのようにグラウンドを削り取りながら進む、黒いエネルギーで煌めくボール。

 ロングシュートが得意な私でも躊躇するほどの距離がありながら、しかしそれを宇宙人の身体能力でねじ伏せた滅茶苦茶なシュートは、やはり、多少の障壁など全く意に返しませんでした。

 

 

「こ、今度こそやらせないッス!! 【ザ・ウォール】!!」

 

「くっ……!! 【エアーバレット】!!」

 

 

 二人のブロックをあっさりと突破して、

 

 

「【マジン・ザ・ハンド】は間に合わない。なら……ッ!! 【ゴッドハンド】!!」

 

 

 円堂さんが苦心の末に繰り出した光輝く手のひらをも粉砕し、再びゴールネットを揺らしてしまったのでした。

 

 

「ふう……。さて、地球にはこんな言葉がある。『見知らずの口叩き』。……そろそろ理解したか? 下等な人間如きが我々に勝利しようなどと、まさに愚の骨頂だということを」

 

「ぐの、校長……? 何言ってるかわからないけど、まだ時間は残ってる……! 試合終了の瞬間まで、俺たちは諦めないぞ!!」

 

 

 精神的にもますます追い詰められてしまった状況です。けれどしかし、円堂さんはまた立ち上がります。

 

 必殺シュートをその身に受けて、それまでにないほどのダメージだったでしょうが、それでも彼のサッカー魂は折れません。

 

 そして彼が折れないのなら、私たちだってまだ戦い続けられるのです。

 

 ……戦わなければと、背に背負ったモノの重さを思い出すことができました。

 

 

「そうだ……ッ!! 一発防がれたくらいで何だ!! 次こそ絶対決めてやる!! ベータ!! 次もまた俺にボールをくれ!! わかったな!!」

 

 

 染岡さんなどは半分恫喝のように気力を叫び――そして、三度目のキックオフで試合が再び始まります。

 

 

 パス回しは、まだまだ通用しています。やはり時間はかかってしまうも、前線へのボール運びは順調です。

 これならば染岡さんの要求通り、彼にパスを出すこともできるでしょう。

 

 できるでしょうが……けれどもしかし、です。

 

 やる気満々の染岡さんには悪いとは思いますけれど、生憎、染岡さんにもう一度【ドラゴントルネード】を打たせる気は私には全くありません。

 

 だってディフェンダーさんに止められてしまったシュートが、キーパーさんに通用するはずがないのです。なんといってもゴールの守護神なのですから、その壁が脆いと考えるのはあまりに楽観が過ぎています。

 私たちが得点するためには、最低でも【ドラゴントルネード】以上のシュートが必要でした。

 

 

(やっぱり、私が前に出ちゃうしかありませんよね……!)

 

 

 つまり、私のシュート。それが一番確実で、現実的です。

 近距離での【ダブルショット】か【アテナアサルト】か、あるいは豪炎寺さんとの連携技でもいいですが、ともかく私自身が最前線まで足を延ばさなければなりません。

 

 が、しかし。それも言うが易し行うは難しというもので。

 

 

(ディフェンスは、あれでも硬いんですよね……)

 

 

 さっきは保持したボールを意識させ、パスコースを開けさせたりもしましたが……逆に言えばそれくらいしかできることはないのです。

 

 パス回しの中核を担う関係上、私自身がゴール前でボールを持つには単身突破が絶対条件。ただしそれは、フィジカルでの突破が不可能である以上は難しく――端的に言って手詰まりです。

 

 ……もうイチかバチか、突っ込んでみるしかないのかもしれません。

 

 

「それしか、方法もなさそうですし……!」

 

「なんだ、もう逃げ回るのはおしまいか?」

 

 

 ギグさんと対峙しました。それまでと違いパスを出さずに身構える私に、彼がそんなことを言っています。

 

 私たちのパス戦術を『逃げ回っていた』なんて言われてしまうのは心外です。が、まあその眼がニマリと弧を描くように、『観念した』のは事実です。

 

 

「ええ――やってやろうじゃねぇか、お前ら宇宙人との一騎打ち……!!」

 

「ふん! 他の人間どもと同じように、お前も返り討ちにしてやる!!」

 

 

 決意して、そしてオレ(・・)は奴らの布陣に突っ込んだ。

 

 同時にギグと、それに連動して他のディフェンダーも動き出す。セオリー通りのディフェンス陣系。

 突破はますます困難だろう。だがもうここまで来たらやり抜く以外に道はない。

 

 

「くらえ……!! スピニング――」

 

 

 と、やはりすさまじいダッシュ力でこちらへ迫るギグへと向けて、オレは必殺技を発動させた。

 

 ――もとい、その直前でした。

 

 

「ベータ、左へ出せッ!!」

 

「っ!!」

 

 

 背中に響いた鬼道さんの声。咄嗟に身体が反応し、言葉の通りにボールを蹴ってしまいます。

 

 『どうして』と、水をかけられたせっかくの決意が一瞬遅れて困惑を抱き、しかし、直後振り向いた先の光景に、私は納得と同時に驚愕することになりました。

 

 

「っ! 円堂さん!?」

 

 

 円堂さんが、ここまで上がってきていたのです。

 

 私もみんなも、そして宇宙人さんたちもその意識の外を突かれ、反応することができません。

 唯一それを追いかけたのは“天才ゲームメーカー”としての広い視野を持っていた鬼道さんと、その意図をくみ取った前線の豪炎寺さん。ゴール前を守るディフェンダーがほとんど全員私に気を取られていたことも相俟って、彼らは電撃的に宇宙人さんたちのゴール前まで潜り込んでしまいました。

 

 キーパーさんとの直絶対決。そして揃ったこの三人。最高の状況です。

 

 

「【ドラゴントルネード】でダメなら、これでどうだッ!! いくぞ、豪炎寺、鬼道!!」

 

「「おうッ!!」」

 

 

 走り込み、そして鬼道さんへとボールを回すと、そのまま三人は見慣れたフォーメーション飛び出して、

 

 

「「「【イナズマブレイク】!!」」」

 

 

 暗雲から落ちた稲妻の連携シュートを打ち放ちました。

 

 その威力は間違いなく【ドラゴントルネード】の比ではなく、私たち雷門における最強クラスの必殺シュートでした。

 

 私が関わるシュートに勝るとも劣らない威力。当然でしょう。それは四十年前の雷門を“イナズマイレブン”という名の伝説へと育て上げた監督が、円堂さんのおじいさまが残した必殺シュートです。

 いわばそれは雷門の象徴のようなもので。雷門サッカー部の誇りを込めた、最強の一撃だったのです。

 

 ――だから、その光景には、私たち全員が愕然と膝をつくことになりました。

 

 

「え……」

 

 

 ぱすん、と。

 【ドラゴントルネード】の時以上に、誰も声すら出ないほどあっけなく。

 

 【イナズマブレイク】は、あくびをする巨漢キーパーさんに軽々と止められていました。

 

 私たちにとっての最強クラスのシュートであろうと、宇宙人さんたちにとってはどちらも大して変わらない弱いシュート(・・・・・)だったのです。

 

 

「うそ、だろ……? 【イナズマブレイク】が……」

 

「あ? なんだ、もしかしてこれがお前らのとっておきだったのか? ……なんだよ、がっかりだぜ。ちょっとは期待してたのによ」

 

 

 巨漢キーパさんの手の中でその威力を殺されてしまったボールを見つめ、円堂さんの口から呆然と声が漏れました。巨漢キーパーさんはその様子に【イナズマブレイク】が私たちの切り札だったことを悟り、そして落胆しています。

 つまらない。こんな奴ら、相手にする価値もない。とでも言うように。

 

 

「おぅい、レーゼ様。こんな試合、とっとと終わらせちまってくれよ」

 

 

 キーパーさんが気怠そうに息を吐き、ボールを山なりに投げました。目標は言葉の通り、またしてもキャプテンのレーゼさん。

 しかも今度は、ゴールに円堂さんが不在です。

 ただ蹴れば、それだけで得点となるボール。それを意識して、レーゼさんの声はますますもって尊大なものでした。

 

 

「多少はできる連中なのかと思ったが……結局、これで終わりか。この程度の実力で我々に勝つなどと、よくもまあそのような大口を叩けたものだなァ、雷門中サッカー部の愚かな人間どもよ」

 

 

 尊大、だったからこそでした。

 彼のその口から出た、その言葉。

 

 

「『馬鹿に付ける薬はない』とはこのことだ。このような粗末で見るに堪えないサッカーなど――消えた方が世のためだろう」

 

 

 それが、要するに――オレを焚きつけてしまったのだ。

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