雷門中のベータちゃん! ~連載版~   作:もちごめさん

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第四話 致命的な一撃

「ッ――ふざけんじゃねぇぞッ!!」

 

「な――っ!!?」

 

 

 地に折れかけていた脚が跳ね、その噴き出した激情、オレたち雷門のサッカーをコケにされた怒りが、レーゼへと渡る前に宙のボールを刈り取った。

 

 まさか立ち上がってくるとは――いや、それ以前にオレの足が届くなどと、レーゼの奴は思ってもいなかったのだろう。奴は目を見開き、間抜け顔を晒していた。

 

 しかし、それでも奴は腐ってもチームのキャプテン。驚きに揺れながらも、その口からは必死の指示が飛び出した。

 

 

「ディ、ディフェンス!! 米田を止めろッ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

 

 反応し、ギグが慌てて飛び出てくる。奇しくも今度こそ一騎打ちの決着だ。

 

 が、妙におかしい。さっきのそれでは他のディフェンダーの存在を抜きにしても、正直に言ってあまり勝機を感じなかったのだが――今は全くそうではない。

 

 確信があった。抜ける、と。

 

 

「――っな、なに……!?」

 

「ば、バカなッ!? ギグが……我々が、人間に突破された……!?」

 

 

 フェイントの、ただ一つ。それだけだった。

 ギグはオレの動きに面白いように騙されて、持ち前のフィジカルは逆に奴を遠ざけた。

 

 残るはディフェンス三人だが、こちらもまた狼狽が酷い。一応は組織立った動きができているものの、その視野は恐らく、オレしか見えていなかったのだろう。

 

 

「豪炎寺!!」

 

「ッ――!!」

 

 

 誘導するまでもなく、豪炎寺へのパスルートががら空きだ。ボールを繋ぎ、そして唖然としているディフェンスの間を縫ってオレも前に出る。

 

 そして――

 

 

「やるぞ、ベータ!!」

 

「ああ!!」

 

 

 ボールを受けた豪炎寺もまた、その眼を激しく燃やしていたのだ。

 

 得点のために、より強力なシュートを。それだけならば、オレの【アテナアサルト】でもよかっただろう。豪炎寺はオレへとパスを返せばいいだけだ。

 が、オレも豪炎寺もそれだけではまるで足りなかった。レーゼの言葉。雷門のサッカーを嘲笑った奴に、見せつけてやらねば気が済まなかったのだ。

 

 オレが――オレたちが見つけた、本当のサッカーを。

 

 雷門が最高のチームだということを証明するために。オレと豪炎寺は、二人同時に炎を纏って地を蹴った。

 

 ボールと共に空へと伸びる炎の大渦。二つのそれが螺旋を描き、そしてやがて頂点で結びつく。

 シンクロし、単純な足し算では収まらない範疇まで増幅されたエネルギーが、巨漢キーパーへと放たれた。

 

 

「「【ファイアトルネードDD】ッ!!」」

 

 

 二度目のシュートだ。狼狽しきった巨漢は前と同じように咄嗟に腕を突き出して、素手で火炎を受け止める。

 

 

「っ!? な、なんだ、これはッ……!? 俺まで、こんなッ……!! あり得る、はずが――ッ!?」

 

 

 だが今度は【ドラゴントルネード】のようにはいかない。ボールも炎も止まることはなく、じり、じりと巨漢の身体を押し込んで、

 

 

「こ、これは……ッ! おっ、おぉッ……!! ぬわァッ!!」

 

 

 その手を弾き飛ばすようにして、とうとう奴らのゴールネットを揺らしたのだった。

 

 ――得点です。とうとう宇宙人たちから一点を捥ぎ取ったのです。

 

 それまで何度も跳ね返され、力の差を見せつけられてきた相手への一点。しかも絶望に囚われかけた所に突然叩き込まれたカウンター攻撃だったために、皆さん中々理解が追い付きません。

 しばらくの間があって、コロコロとネットを下ってゴールから零れてくるボールを見つけ、その時やっと得点を実感したようでした。

 

 

「「「「「……や、やったああああぁぁぁッッ!!!」」」」」

 

 

 歓声が上がりました。

 

 

「すげぇッ!! すげぇぞベータ、豪炎寺!!」

 

「俺たちが手も足も出なかった宇宙人相手にあんなシュート……さすが豪炎寺さんとベータさんです!!」

 

「それに、みんな見たかよ!? ベータの奴、あの宇宙人を一対一で抜き去って……やっぱりすげぇ! ほんとにすげぇよ二人とも!!」

 

「わ、わぁっ。わかりましたから! 嬉しいですけど、皆さんもうちょっと落ち着いて!」

 

 

 絶望的な状況に差し込んだ希望の光。それに歓喜する気持ちはもちろんわかっているつもりですが、しかしこうまで騒がしくなっては敵いません。

 皆さん自分の身体がボロボロなこともすっかり忘れ騒ぎ立て、それまでしんと静まり返ってきた落差もあって、ちょっと目が回ってしまいそうなくらいでした。

 

 ――けれど、変貌という意味でなら、彼らのそれは私たち以上でした。

 

 

「そ、そんな……そんな、バカな……ッ! 我々が、人間如きに手玉に取られるなんて……そんなっ……!」

 

「し、失点……嘘だ……人間に点を奪われるなんて、そんなの嘘だ……! 嘘に決まってるっ!」

 

「あり得ない……! こんなことはあり得ない……っ! 我々が人間に劣るだなんて、もしそんなことがあったら……っ」

 

 

 私たちの歓声に、ふと異質な声が混じってきました。怪訝に声のほうを見やって、そして私たち全員、あっけに取られてしまいます。

 

 宇宙人さんたちが、どういうわけか全員パニック状態に陥っていたのです。

 地面に突っ伏し、耳を塞いで頭を振りたくり、挙句に恐怖に身を震わせている者までいます。

 

 

「……なんだ? あいつら、どうしたんだ……?」

 

「へっ、知るかよ。ベータと豪炎寺の強さにビビっちまったんじゃねぇの? ……情けねぇやつらだぜ! 散々俺たちをバカにしてたくせによ!」

 

 

 そんな彼らに染岡さんが案の定、今までの仕返しと言わんばかりに煽っています。実際、宇宙人さんたちのその変貌のきっかけは、まあ間違いなく私と豪炎寺さんが捥ぎ取った1点です。

 

 ですが……たったの1点で、どうしてこうまで狼狽してしまったのでしょう。

 いくらなんでも異常でした。相手にはまだまだリードもあるのに、どうしてみんな、この世の終わり(・・・・・・・)のような表情を……?

 

 傲慢で尊大な態度が、失点だけで阿鼻叫喚。あまりに異様で、不気味ですらありました。

 

 染岡さんに続く声はありません。その染岡さんすらやがてその空気に呑まれ、嘲笑の勢いを失ってしまいます。

 皆、ただただ目の前の光景に圧倒されることになり――そしてその時、その異様から這い上がってくるように、レーゼさんが声を上げました。

 

 

「ま――まぐれだッ!!」

 

 

 声は半分裏返ってしまっていました。顔も冷や汗でびっしょりで、叫んだ言葉に反して余裕は全くありません。

 他の宇宙人さんたちと一緒です。しかしそれでも腕に付けたキャプテンマークの賜物か、その一声は宇宙人さんたちの顔を引き上げて、そしてさらに続きます。

 

 

「偶然……たまたま……『盲亀の浮木』っ! あんなもの、単なる運の偏りだっ! 我々が抜き去られたことも、ゴールを許してしまったことも! 全ては万が一の天運に過ぎないッ!」

 

「そ……そうだっ! たまたま運が奴らに味方しただけ……!」

 

「同じことは起こらない……! 我々は人間などに劣っていない!」

 

 

 レーゼさんが何度も重ねて言い聞かせ、おかげで徐々に、宇宙人さんたちが落ち着きを取り戻していきます。

 

 不気味な狼狽が過ぎ去って、私たちとしても何よりです。そしてとなれば染岡さんも復活し、彼はまたも煽りの言葉を吐きました。

 

 

「……『まぐれ』だと? 言ってくれるじゃねぇか……! なら、試してみろよ! なあ!」

 

「そうでやんす! 俺たちじゃどうしようもないけど……でもベータさんと鬼道さんのパスに、豪炎寺さんの力も加われば……!」

 

「ああ! 何度だって決めてくれる! まぐれなんかじゃないって、証明してくれ!」

 

 

 宇宙人さんたちへの反発は、やがて私たちの方へも期待の眼として向けられました。

 

 ――言われるまでもないことでした。

 

 まだまだ点は必要なのです。そして宇宙人さんたちから得点を奪えるのは、私と鬼道さん、そして豪炎寺さんだけです。

 

 

「俺だって、次は絶対ゴールを守って見せる……!!」

 

 

 あるいは、円堂さんも。

 

 私たちのプレーに奮起した彼が、今度こそという決意で燃えて、拾い上げたボールを手にレーゼさんへと付きつけます。

 

 

「さあ、試合再開だ!」

 

 

 しかし――でした。

 

 12失点に対してあまりに濃密な1得点であったために、私たちは全員、それに気付けていなかったのです。

 

 

「っこ、断るッ!!」

 

 

 そう、レーゼさんが怯えの拭えない声音で叫び返してきました。

 

 それを向けられた円堂さんも、私たちも、彼の言葉がすぐには理解できませんでした。

 しばしの時間が必要で、数秒が立った後、遅れて困惑が出てきます。

 

 

「……な、こ、断る!? どういう意味だよ、レーゼ!?」

 

「まさか、試合から逃げる気か!?」

 

 

 円堂さんが身を乗り出して、染岡さんが肩を怒らせます。

 

 レーゼさんは、しかしそんな二人に答えることなく、顔に滴る怯えを拭いながらある一点を指さしました。

 グラウンドの外、残酷な点差が刻まれたスコアボード。その上の、学校の時計です。

 

 

「ッ……!」

 

 

 その針は、てっきりまだ後半戦の半ばあたりだと思っていました。しかし眼にしてみれば全くもって違います。

 

 その倍。現実の時間が私たちの体感よりもはるかに速く進んでしまっていたことに、私たちはその時、はじめて気付くことになったのです。

 

 

「『光陰矢の如し』……! 既に試合時間は終了した! ……この試合は、12-1で我らジェミニストームの勝利で幕を閉じたのだッ……!」

 

「そ、そんな……!」

 

 

 いつの間にこんなに時間が、と目を見張り、後悔に眉を寄せたのは、秋さんたちマネージャーの三人でした。

 試合時間の管理は彼女たちの仕事なのです。ですがしかし、この際関係はないでしょう。時間がわかっていたとしても、今以上に速く得点することができていたかどうかに関して、あまり自信が持てません。

 

 それに、です。つい仕事を忘れてしまっていたとしても、致し方のないことでしょう。負傷者の手当てやボロボロにされた皆さんへの心配もあるでしょうし――何より、

 

 

「お前たち雷門は敗北した。よって……我々は、敗者たる学校にその証を示す!」

 

 

 負ければ、学校を破壊される。そんな条件の試合の中で、冷静でいられるはずがないのです。

 

 

「や、やめ――」

 

 

 と、円堂さんが止めようとするも、その手を伸ばした先でレーゼさんたちジェミニストームは一斉に散開し、病院でウルビダさんが持っていたような黒いサッカーボールを、私たちの学校めがけて蹴りました。

 

 ――轟音。そして宣言通り黒いサッカーボールの数々に貫かれる校舎。

 やはり色違いなだけのサッカーボールではないのでしょう。打ち込まれたそれらは容易く学校の壁を、床を、柱を破壊して、建物が崩れていきます。

 

 私たちの教室も、あっという間に砂埃の中に消えて行って、

 

 

「――ッベータ!!」

 

「っきゃ……!」

 

 

 私が点を取れなかったせいで――と、そのショックに呆然としていたことに、豪炎寺さんに腕を引かれて遅れて気が付きました。

 

 と同時に押し寄せてくる崩壊の余波から逃げ出して、たちこめる土煙の中、それを視認します。

 

 

「さらばだ、雷門。お前たちに完全なる敗北を与えてやれなかったことは心残りだが……我々の大義はそこにはない! これで仕舞いだ!」

 

 

 校舎だった瓦礫の上から、無理矢理浮かべたぎこちない嘲笑を以ってして、レーゼさんがドガッ、と。また黒いボールを蹴りました。

 

 その矛先は――私たちのサッカー部室。唯一残ったそれすらも、彼らは破壊しようとして、

 

 

「――させるかああぁぁぁッ!!!」

 

 

 皆が絶望に打ちひしがれる中、飛び出したのは円堂さんだけでした。

 

 ――しかし。

 

 

「【マジン・ザ・ハンド】ッ!!!」

 

 

 部室の前に立ちはだかり、迫る黒色の破壊兵器を迎え撃ったものの。しかしボールは一切その勢いを落とすことはありませんでした。

 

 

「円堂ッ!!」

 

 

 円堂さんと、そして背に庇った部室もすべてが吹き飛ばされて。

 そうして、からん、と。真っ二つに割れてしまった私たちのサッカー部の看板が、私の足元に転がりました。

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