持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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どうも、ゲガントです。

他のシリーズも書きたいのですが、筆が進まないので取り敢えず書きたい物を書きます。




それでは、どうぞ


プロローグ

「中央本部に向かえ!管理人からの指示があった奴らが集まってる筈だ!」

「けど、先輩が………!」

「聞こえなかったか?さっさと行けって言ってるんだ!」

 

会話の最中、声を荒げて避難を促していた青年に向かって針のようなものが生える。即座に反応し、避けようとした青年だったが、会話によって注意が反れていた結果か、その一部が胴体を掠める。

 

「グッ!?」

「シュウ先輩っ!」

「チーフ!」

「構うなッ!ジャスミン、フィアを連れてさっさと行け!」

「………わかりました、御武運を」

「ジャスミンさんっ!?離して、まだ先輩がッ!?」

 

少女が言い切る前に金属製の物々しい扉が閉まる。それを背後に立つ青年は体の至るところに出来た傷から血を流し、自らが持つおぞましい大剣を支えにしながらも敵をまっすぐ睨み付ける。

 

「随分と仲間思いなのだな?」

「………そんな大層な物じゃない、俺は俺に課された事をやるだけだ」

「其れが死に向かう事だとしてもか」

「………………」

「憐れな物だな。だが私好みだ」

 

青年の前に立つ者はそう言って笑い、静かに手を伸ばす。それによるものなのか、隣には古代の文字のようなものがびっしりと刻まれた黒い柱が現れ、宙に浮きながらもその先端を青年の方向に定める。圧倒的な質量を持ち当たればひとたまりもないであろうそれを前にしても、青年は臆すること無く姿勢を直す。そして、天秤がモチーフとなった柄を握り直し、根本が歯の生えた肉塊に包まれた黒い羽のごとき刃を敵へと突き付ける。

 

「ここまで生きてた時点で俺は十分に幸福だ。そして何より、そんな簡単に死ぬ気なんて更々無いッ!!」

「………くくっ、何とも勇ましき言葉だ。それが虚偽とならぬと良いな?」

「本気で行くぞ」

「嗚呼、来ると良い。早々に死なぬよう戯れる程度にしてあげようか」

 

 

 

 

 

「すまない、遅れてしまった!」

「おせぇぞジャスミン!…………あ?おい、シュウの野郎はどうしたんだよ」

「…………暴走したビナー様を設計部門に留める為に一人で戦っている」

「………………は?マジで言ってんのか?」

「あぁ……私とフィアを逃がす為に………」

「そういう事じゃねぇッ!!おい管理人!お前あいつごと殺るつもりか!?」

『………そう希望を出したのはシュウだ。これを変更するつもりはない』

「クソッタレ!あんの馬鹿、何の真似だ!」

「おい落ち着けユージーン!一体何の話をしている?」

「あの野郎、R社の連中にビナー様を攻撃させる為に残りやがったんだよ!!」

 

 

 

 

「セアッ!!」

 

掛け声と共に黒い羽が空気を切り裂く。眼前に迫る針は弾かれ、その砕かれた後に消え去った。青年は体勢を立て直すとそのまま敵に肉薄し、返す刃で斬りかかる。

 

「ほう、流石、エージェントの中で最も生き抜いている実力は伊達では無いな。幾度もの繰り返しで魂の部分で覚えているのか?」

「何の話だ!」

「そう急かすな、お前なら何れ思い出すだろう………その機会が有ればの話だが」

「うぐぁッ!?」

 

黄金の衝撃波によって先程とは反対側の扉に叩き付けられた青年はうめき声を上げる。

 

「脆いな、やはり彼女に比べたらお前も有象無象に過ぎないか」

「ご期待に、沿えなくて、申し訳ないな……やはり、貴女相手なら命がいくつあっても足りないな………だが俺は言った筈だ、簡単に死ぬ気は更々ないと」

「そうだな」

「だからこうすることにした」

 

瞬間、発砲音がその通路に鳴り響く。その音源から放たれた銃弾は敵の体に傷を付けることは叶わなかったが、意識を向けるには十分な物だった。

 

「管理人は上手くやってくれたみたいだな」

 

そう言って笑う青年の目線の先には、黒とオレンジを基調とした機械の鎧を身に纏う存在が何人も立っていた。その何れもが各々の武器を構えている。

 

「草を根絶やしにする兵士か。その程度で私を仕留められると?」

「思ってないがこの場所に少しでも食い止めることは出来る。そういうわけだ、次は彼女らの相手を楽しんでくれ」

 

その言葉と同時に開いた扉に飛び込み、即座に閉める。

 

「この状況からまだ生きようと足掻くか。良い、とても良い。其れでこそ潰し甲斐がある。私から他の者を次の日に逃げ切らせる為に動いているのだろうが………いつまで保つか見物だな。一先ずは…………」

 

腕を振るい、自らが持つ能力を働かせる。発生した斬撃はいの一番に飛び出していた機械鎧を切り裂いた。

 

「邪魔な雑兵には御退場願おう」

「ははッ!そこまでバカにされちゃ私達も黙ってらんないわ。蜂の巣にしてやるから覚悟しろッ!」

 

 

 

 

 

「はぁッ………はぁッ………ぐッ!?」

 

扉の向こう、中央に柱が一本立つ広い部屋の中で青年は剣を杖代わりによろめきながら歩く。全身から血を流しながら歩く姿は満身創痍と言っても良い位だが、その目にはまだ強い意思を感じられる。

 

「一旦、休息を………ッ!」

 

息も絶え絶えになっていた青年は反対側の扉を開けようとしたところで膝から崩れ落ちるように座り込み、壁に寄りかかる。そして、微々たるものだが少しずつ修復されていく己の体を見て、ようやっと深く息を吐き出した。

 

「管理人、聞こえているだろう?」

『……………』

「上はどうなっている」

『今のところ問題は無い。設計チームに置いているアブノーマリティは脱走しないタイプが殆どだ。クリフォト暴走の対処も十分間に合っている』

「そうか、ならいい。それよりまだ残っているか?」

 

返答は何処からか打ち込まれた数発の弾丸という形で返される。しかし、青年が怪我を負うことは無く、それどころか身体中にあった傷が塞がっていた。

 

『まだ働いてもらうぞ、お前が死ぬと終末鳥が来る』

「元より覚悟の上だ……………ん?」

 

ふと聞こえた音に会話を切り、音の主がいる方へと顔を向けると、パタパタと羽ばたきながらこちらに来る小さな鳥の姿があった。

 

「管理人、O-02-56(罰鳥)がここに居るんだが」

T-03-46(白夜)の入れ替わりで設計チームに来た』

「そうか、今は何処に?」

『コントロール部門だ。ジョシュアにご機嫌取りを任せている』

「………この間、「あのクソ大福から解放された」と言って喜んでいた気がするんだが」

『仕方がない、何故かはわからないがT-03-46(白夜)から妙に気に入られているからな。暴れられるよりかは良い』

「それもそうだな…………悪い、少し、休ませてくれ」

『わかった』

 

耳に着けていた装置からそれ以上音声が発される事はなく、これから来るであろう戦いに向け精神を落ち着かせる青年。一方で鳥は青年の近くで羽ばたき続けていた。

 

「…………いつもみたいにつつかないのか?」

パタパタ

「………そうか、今の俺はお前が罰するべき相手に選ばれていないのか」

ポフッ

「………モフモフだな」

 

差し出された手のひらに着地した小鳥は青年の言葉に心なしか赤い模様のある胸を張っているような気がする。それを微笑ましげに見つめ、暫くの間戯れる青年だったが、不意に何かを感じ取ったのか、もたれ掛かっていた壁から背を離して立ち上がる。

 

「そろそろ時間稼ぎも終わりか。罰鳥、そろそろ自分の部屋に帰ってくれ、巻き込まれるぞ」

パタパタ

「………じゃあせめて端に寄っていてくれ。出来る限りお前を巻き込みたくない」

 

その言葉を聞き入れたのか、他の部門と比べると殺風景なメインルームの隅に飛んでいく。それと同時に向かい側の扉が無惨にも破壊されながら開いた。

 

「派手な登場だな」

「待たせてしまったか。お前一人の方が愉しそうだが数が多かったのでな」

「30分もかからず全員殺し尽くしてそれか。光栄なのか恐ろしいのかわからないな」

「誇ると良い、私が称賛する相手はそう多く無い。どうか私を愉しませてくれ」

 

顔含めた全身が鎧に覆われている為、その表情は伺えないが声色は静かながらも愉悦に染まっていた。相対する青年は過去に使った数十種にものぼる武器の中でも最も使い慣れた得物を片手で構える。

 

「早く全力を出すと良い。幻想体に触れ続けたお前の本質が、疾うの昔に人から外れている事は分かっている。其とも、今更恐怖しているのか?」

「……………いいや、もう腹は括った、ここからが本番だ………!」

 

そう宣言し、剣の柄を音が出るほどに強く握り直す。背中から片翼だけ生えた目の付いた不気味な翼は一度羽を散らしながらはためくと、青年の瞳が赤く染まる。剣やコートの羽がざわめき、その全てが意思を持つかのように動き出す。

 

「ほう……EGOに干渉し作り替えたか」

 

羽の集合体に幾つもの目が付いた様な姿だった大剣は、柄の装飾を残し闇のような黒い刃の直剣へと変わり、それを中心に一つ一つが刃のように鋭くなった羽が渦巻いていた。また、散った黒い羽全てが意思を持つかのように動き出し、青年の側に控えるように止まる。その姿はまるで今か今かと放たれるのを待つ弾丸のようだった。

 

「どれ、一つ」

 

手が振るわれ、斬撃が飛ぶ。フロア全体にも行き渡りそうなその一撃が青年を捉えようとした瞬間、合わせて振り下ろされた剣によって掻き消される。それどころか、剣の周りを回っていた羽が刃となって敵に射出された。

 

ドポンッ!!

 

しかし、その凶刃は敵に突き立てられる前に突如として現れた黒い泥の波に飲まれて消滅した。だが青年は特に動揺した様子もなく、殺気を放ちながら腰を落とす。

 

「楽に殺せると思うなよ……!」

「ふふ、最期を締め括るには丁度良い相手だ。お前のお陰で暫くは退屈せずに済んだ事には礼を言おう」

 

敵の手が上げられ、それに伴い黒い柱が出現する。青年は直ぐに射出されたそれを剣と羽で流しながら前へと駆け出した。続けざまに放たれた柱も足場として飛び乗り、時には真正面からへし折りながらも敵に肉薄していく。

 

「ッ!!」

 

眼前に迫る黒い針は舞い散る羽が遮り、剣で纏めて切り裂かれる。射出された羽は目標に届く前に黄金の波動で押し流される。フロア全域に広がる斬撃は身を捻った青年を少しかするだけで当たらず、何処からともなく現れたロープによる鞭の様な打撃はまるで効いていないかのように腕ではね除けられた。

 

「ほら、受けてみると良い」

「邪魔だッ!!」

 

空中の波紋から現れた鎖が青年を拘束しようと迫るも、その悉くを剣で蹴散らし、そのまま剣を投げ付ける。予備動作に入っていた相手はほんの数瞬だけ固まり、その隙を突いて青年はより力を込めて地面を蹴って駆け抜ける。

 

「吹っ飛べ!」

 

人間には出せない様な速度で放たれた蹴りは、敵の胴体に突き刺さりそのままの勢いで後退させる力となった。間髪入れず舞っていたナイフの様に鋭い羽の数枚を掴み取り、敵に向けて投擲する。弾かれた直剣も空中で軌道を変えて青年の手の中に収まり、再び武器として振るわれる為に自らの使い手に力を流し始めた。戻って来た剣を握り、何度も敵を斬りつける。

 

「うがぁぁぁぁッ!!」

 

斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る

 

「いい加減鬱陶しい」

 

バチンッ!!

 

「ぅぐぉッ!?」

 

怒涛の連撃の最中、痺れを切らしたのか攻撃に合わせるように黄金の波動を放つ。突如として武器を弾かれ隙を晒してしまった青年の胴体に、先程のお返しと言わんばかりの拳が叩き込まれた。

 

「ふむ、たまには自らの身体を動かすのも良い物だな」

「か、かふっ……」

「もう終わりか?」

「そんな訳、無いだろうが………!」

 

床に何回か叩きつけられながらも、再び立ち上がる青年は血反吐を吐きながら目の前に立つ敵を睨む。羽による防御が間に合わず、ジクジクと痛む腹を押さえた青年は再び立ち上がり剣を振るう。宙を舞う黒い羽は更に増え、フロア中を渦巻くように飛び回っている。やがて羽より向こうが見えなくなり、地下である筈なのに黄昏時の様に暗くなる。

 

「己を削り、EGOに喰らわせて同化したか。随分と無茶をするものだな」

「ゲブラー様のように自由にEGOの力を引き出せるわけでは無いのでな、俺みたいな凡人が出力を上げるにはこうするしかないんだ」

「自ら喰わせて尚侵食に耐えている者が凡庸である筈がなかろう。それに、お前は随分と他の職員や幻想体共に気に入られている様だしな?」

「………何の話だ?」

「自覚は無いのか………流石にあの者達が憐れだが、私が干渉してやる義理も無い。故に私は私のやりたい事をしよう」

 

空間が黄金色に波打ち、何かの力が時空を歪ませ始める。身に付けているマントがはためき、青年にかかるプレッシャーが最高潮まで達した。

 

「次は少し本気で行くぞ?紅茶の良さを語れる者が相手では少々心苦しいがな」

「躊躇なんて最初から存在しないだろうに」

「よく分かっているじゃないか」

 

表情は伺えないが、その声色は愉しみを隠そうともしていない。何度も死にかけながら攻撃を加えても尚余裕のある態度のままな相手に、青年は若干顔をひきつらせながらも歯を喰い縛り、攻撃に備える。

 

「さぁ、最後まで足掻き続け、私にお前の可能性を魅せてみろ。そして惨たらしく死ぬが良い!」

 

黄金の波動、無数に出てくる針、こちらを飲み込まんとする泥の波、人間が何とか視認できるか否かの速さで迫る柱。絶望を景色で表したかのような状況だが、相対する青年は覚悟を宿した目をしている。

 

「どの道俺が死ぬのは確定だろうが、せめてお前を連れていく!何処にも行かせはしないぞ!」

 

吠える青年は眼前に迫る泥の波を切り裂き、針を砕く。往なし損ねた攻撃が青年の体を削り、フロアを埋め尽くす斬撃が青年を襲う。体の至るところに傷が生まれ、血飛沫が辺りを染める。それでも尚、青年は2本の足で立っていた。

 

 

 

 

そして、新たに射出された柱は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツッ  コツッ

 

 

(ん………ああ、何だ夢か。随分と懐かしい夢だったな)

 

勉強机や本棚、タンス等が置かれたごく一般的な学生の部屋で一人の少年が夢から覚める。

 

(まぁ、やりたいことやって死ねたから満足か。調律者の相手なんて二度としたくないが………………管理人達は明日を迎えられたのだろうか)

コツッ コツッ

「………罰鳥、起きるから止めてくれ、そろそろ血が出る」

 

ベッドに横たわっていた少年が起き上がり、頭をつついていた小鳥………罰鳥を優しく退かす。一度伸びをした後、静かに床に降り立つと、脇に置いてあったメガネをかけ、そのまま部屋の中にあるタンスの方へと足を向けた。

 

「今日は一緒に行くのか?」

 

寝間着から運動着に着替え、玄関に向かいながら後をついてくる罰鳥に向けて問いかける。罰鳥はその返答と言わんばかりに少年の頭に乗った。頭に若干の重みを感じ、何とも言えない表情を浮かべる少年だったが、今度は退かすこと無く靴を履き始める。そうして、身支度を終え玄関の扉に手を掛ける。

 

「行ってきます」

 

自分以外が殆ど寝静まっている午前4時、少年………三雲修は小さな声でそう言うと、罰鳥を頭に乗せたまま、日の出に照らされる町へと繰り出したのだった。




原作のLobotomy Corporationを知っている方なら主人公が如何にヤバい事をしてるか分かると思いますが、取り敢えずスルーして下さい。


また、今作は他の作品である『「いいことだらけ」と言うけれど』とは違う世界線の話です。こちらはLobotomy Corporation等project moon作品がメインとなっています。読んで頂けたら幸いです。
https://syosetu.org/novel/270562/
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