この小説での修のイメージですが、X等でワートリのイラストや漫画を投稿している薬用さんの女体化修と香澄さんを足して2で割ってスレンダーにした感じです。
それでは、どうぞ
「ボール……だな?」
危険度が高い武器の一つと聞いていた太刀川はその地味な見た目に拍子抜けしたようで、首をかしげながら修に尋ねる。
「なぁ、これほんとに危険なんだよな?さっき見た桜に比べりゃ弱っちい気がすっけど」
「………皆様の反応を見た方がよろしいかと」
「んあ?」
まじまじと観察していた太刀川が振り返った先には揃って顔色を悪くし、少なくとも正常であるとは言えない状態の部下2人がやっといった様子で立っていた。
「顔色悪りぃなお前ら、どうかしたか?」
「むしろ何で太刀川さんそんなピンピンしてんすか………それ見るだけでも……うっぷ」
「……………?…………???」
「これ以上は駄目ですね。お二方は少し離れた所で下向いてこれが視界に入らないようにしてください。加古さん、サポートをお願い出来ますか?」
「えぇ、ほら2人とも、こっちにいらっしゃい」
加古が2人を誘導してるのを心配している嵐山は隣に立っていた修へと問い掛けた。
「三雲くん、何故あの2人だけあんなに体調が崩れたんだい?俺はなんとも無いんだが……」
「ふむ、一つ質問宜しいですか?」
「あぁ、いいぞ」
「貴方にとって一番大切なのは?」
「家族だな!皆が無事でいる限り、俺は最後まで思い切り戦えるよ。特に副と佐補が可愛くて仕方がなくてな!最近になって少しそっけなくなっちゃったんだがそれでも俺を心配してくれて「あ、はい、もうわかりましたから大丈夫です」
怒涛の語りが始まることを察知した修は直ぐに止めようとするが、一度フルスロットルに入ったエンジンの如く止まる気配はない。どうしたものかと棒立ちしてると不意に遊真に袖を引っ張られる。
「オサム、そいつの能力に
「ざっくり言えば…「何かを崇拝する」という行為の優先順位がどうあがいても一位にならない、だな」
「ふむ?どういうことだ?」
「空閑、お前は戦場でピンチになった時に神に祈るか?」
「そんなわけわからんことしてる暇があったらどうにかする為に動くぞ」
「つまりはそう言うことだ、お前からしたら信仰なんぞ気に留める事柄ですら無いだろう?恐らく、貴方も宗教などに微塵も興味が無いでしょう?嵐山さんは優先順位が家族から変わらないでしょうし」
「まぁな、そんなんで実力が変わるわけでもねぇし」
「じゃあ私が無事な理由は何なのかしら?」
「………恐らく貴女の場合自我が強いので精神に入り込む隙間が無いんでしょう、つまるところ揺るがない精神力ですね。常に落ち着いて余裕のある貴女はそれが顕著なのかと思われます」
「あら、ありがとう」
クスリと妖艶な笑みを浮かべる加古であったが、異性への興味が微塵もない修が特に反応を示す事はない為少しつまらなさそうに口を尖らせた。それをも気に留めず、修は星の音を手に持ってまじまじと見つめている太刀川へと向き直る。
「さて、実際に持ってみたご感想は?」
「…………成る程な、風間さんの言う通りこれ自体に意志がある感じがしやがるぜ。しかも思考能力を奪うおまけ付きか」
「……侵食の様子なし、使用しなければ大丈夫なレベルか。どうです、使い方等は分かりますか?」
「んにゃ、多分投げて使うんだろうがあいにく俺好みじゃねぇから返すわ。次試すときは振り回せる得物をくれ」
ポイっと雑に受け渡された星の音を手慰みにお手玉の如く真上に投げては受け止めるを繰り返す。
「精神への干渉が顕著な物を選びましたが、特に堪えた様子もない辺り結構な場数を踏まれてるようですね」
「そりゃ何回も遠征行ってるからな。そういうお前はどうなんだ、狩人」
「隠蔽していますがこの力を狙ってくる輩はそれなりに居るものですし、まぁそれなりに」
「だよなぁ、お前あからさまに対人戦闘に慣れてたしな。唯我にやった不意打ちを見るにお前多人数相手が一番輝くタイプだろ?」
「1対1よりかは得意ですよ。連携に意識が割かれる分、付け入る隙が生まれやすいものですから」
「おぉ怖ぇ怖ぇ、お前一人でランク戦出たら面白いことになりそうだな。ちょっと見てみてぇわ」
「あら、もうランク戦の話?ちょっと早いんじゃ無いかしら」
「来年の1月から入隊するなら次のB級ランク戦に十分間に合うだろ。多分この調子だと初期ポイント高く設定してさっさと上に上がらせる事になるだろうよ。しっかし、トリオン体でやりあってみたかったんだがなぁ?」
「じゃあ玉狛に来れば良いんじゃないか?」
「…………お前天才だな!よし、それじゃ早速」
「ちょっとちょっと、太刀川さんなに言ってんのさ。今戦った分で満足してよ」
遊真の発言にニヤリと怪しい笑みを浮かべて行動に移そうとした太刀川を止めたのは、図ったかのように現れた迅だった。
「おっ、迅……あ、そういやお前風刃手放したんならA級だろ!模擬戦しようぜ!」
「今日は予定があるから遠慮しとくよ~」
「そう言うなって、一戦だけだからな!な?」
「絶対一回じゃ済まないでしょ太刀川さんは。今日は玉狛でやる鍋パの準備の担当俺だからさっさと帰らなきゃいけないの」
「俺も行って良い?」
「俺の取り分が少なくなるから絶対やだ………所でさ」
絡んでくる戦闘狂をあしらう迅だったが、ずっと視界の端に映っていた存在へと意識を向ける。そこには揃ってソファに体を沈める出水と国近がおり、若干顔をひきつらせながら。
「あの2人はどうしたのさ。国近は宇宙背負ってるし出水は死にそうな位に顔色が悪いんだけど」
「星の音見せたらああなりました」
「え、あれ見せたの?確か精神が負けたら吸収されるんじゃなかったけ」
「元となったアブノーマリティはそうですがEGOはそこまでの能力はありませんよ。むしろ発狂して暴れまわる者を無傷で鎮圧するのにうってつけですし」
「………ちなみにどうやって使うのそれ」
「こうですね」
星の音は修の手から離れて宙に浮いて動き始める。主である修の指先による指揮に従うようにすいすいと空気を泳ぎ、急加速したかと思えば迅の目の前でピタリと静止した。
「本来であれば球数も増えるのですが必要ないのでそのままにしてます」
「わぁ物理的……」
「安心してください。まともな内は当てませんよ」
「メガネ君がそう言うってことは錯乱したら即座にぶち当てるって意味で良いんだよね?」
「よくお分かりで………さて
幻想模倣
己の元へと戻ってきた星の音を掌で握り潰すように掻き消すと、今度は2人に向けて手を伸ばして罪を許す存在からのギフトを分け与える。赤黒い茨の冠が出現すると共に、出水と国近の顔色は次第に元の状態へと戻り始めた。
「……んぷはっ、あ"~吐くかと思った」
「……あれ?何で私座ってるんだろ」
「大丈夫ですか?」
「おぅ、もうなんとも……ん?なんだこれ、茨?」
「これは俺がギフトと呼んでいる物です。与えられた者に干渉し、それなりの益をもたらす……装飾品とでも思っていただければ」
「へぇ、ギフト?あの犬耳と似たような物かしら」
息を整えたり、頭を振ったりして体の調子を取り戻そうとする2人を見て、一つ心当たりを思い出した加古は興味津々といった様子で会話に入り込んだ。
「犬耳?」
「あら、覚えてないかしら?貴方が狩人として活動してたときに襲いかかってきた相手に生やしてたじゃない」
「…………あぁ、カワイイ!!の事ですか。確かに撹乱目的でギフトを着けましたね」
「ん"っ」
先程から洒落た名前ばかりだったEGOが話題に上がっていた中突如として入り込んだカワイイ!!に吹き出しそうになる加古は震えながら再び修に問い掛ける。
「……ごめんなさい、色々と言いたいことはあるのだけど一応名前をもう一回聞いても良いかしら?」
「カワイイ!!ですが」
「んっふふふふ………」
駄目だったようだ。修がそのままのテンションで真面目に言い放っているのも相まって腹筋が破壊されたらしく、そのままプルプル震えながらしゃがみこんでしまった。それに首をかしげる修だったが、取り敢えず体調の確認を優先した。
「そろそろ大丈夫ですか?」
「おう、大分楽になったわ……なんで加古さんプルプル震えながら倒れてんの?」
「さぁ、EGOの名前を聞かれたので言ったらそのまま崩れ落ちてしまって」
「えぇ………ちなみになんて言うやつ?」
「カワイイ!!ですが」
「……ちょっと待って、もっかい言って?」
「カワイイ!!です」
「どうやって発音してんだそれ、か、かわ?」
「カワイイ!!です」
「あぁもうカワイイが飽和するわ!というかどんな感情で言ってんのお前?」
耳を塞いで呆れたような目線を向けてくる出水に対し、困ったように告げた。
「どんな感情と聞かれても本当にこんな名前なので特に何も……元となったアブノーマリティもキュートちゃんですし、妥当であると感じますが」
「そこまで一貫してかわいいアピールしてるのはいっそ清々しいね~。三雲くんってちゃん付けとかしなさそうなイメージだったけど、そんなにカワイイの?」
「いえ、"キュートちゃん"までが正式名称なので」
「ちなみにオサム、そのキュートちゃんとやらはどんなアブノーマリティなんだ?」
「所謂小型犬……恐らくパグみたいな可愛らしい子犬……」
「なんだ名前の通りただ可愛いだけ……」
「……という情報を相手に植え付けて自分に対する警戒心を消した上で油断しきった人間を補食する頭と手足と尻尾が犬のゴリラです。確か体長2m以上はあった筈」
「なんでそうなる!?」
納得しかけていた所に差し込まれた情報によって更なる混乱へと導かれる。吐き気から復活したばかりなのにツッコミ疲れで肩で息をする出水はへなへなとソファへと座り込んで背もたれに体を預けた。
「質の悪いことに、その印象操作能力が強大なせいで暴走したキュートちゃんと擬態状態のキュートちゃんが同一存在であると結びつけられる人が少ないんですよね。一種の洗脳に近い能力ですし」
「アブノーマリティってろくな奴居ねぇの……?」
「ろくな奴がいないから
「む、帰るのか」
「そうだね、それじゃあお暇しようか、2人もそろそろ帰った方が良いんじゃない?」
「それにあの時は……あれ、もうこんな時間だ」
「あー一月分ぐらい笑ったわね、っふふ」
周囲の状況など一切気にせず今の今まで弟と妹の可愛さについて語り続けていた嵐山とようやく笑いが落ち着いた加古も連れて隊室を出ていく3人。それを見送っていると別の扉から具合の悪そうな唯我がノロノロと這い出るように戻ってきた。
「ううう……あ、頭が………三雲くんに文句の一つでも言ってやらねば……」
「やっと起きてきやがった、もうあいつ迅さんに連れられて帰ったぞ」
「だって頭が爆ぜたんですよ!?あぁ、思い出したらまたあの感覚がっ!?」
「やかましい」
「そういやなに見てんすか太刀川さん。さっきからずっと同じとこ繰り返してますけど」
「出水、ここ見てみろ」
「あ、太刀川さんがぶったぎられたとこじゃないっすか。これがどうかしたんすか?」
「弧月の
「んー?」
繰り返される映像が止まり、ズームされる。映されていた場面は丁度太刀川が上下に真っ二つにされた所だった。
「弧月ってこんなスパッと切れるもんでしたっけ」
「んなわけねぇだろ、壊れるとしても砕け散るのが普通だ。それに弧月の頑丈さはお前も知ってるだろ」
「そりゃまぁそうっすけど……」
「それにいくら再生しても斬る瞬間が見えねぇんだわ。スローでやってもそこだけ………えーと、ごま送りのアニメ……」
「コマ送り?」
「それだ!それっぽくなってる」
「………これつまり、カメラが捉えきれないレベルの速さでぶった斬ってるって事っすか………え、普通に化物じゃね?」
「まぁあれが不意打ちで飛んできたら誰でも死ぬな。あいつ自ら出てくるまで俺達が気づかないレベルで気配殺せるし、ランダム転送でこっちが先に見つかったらまず勝てないだろ」
「高速で移動してレーダーに映らない即死攻撃持ちのランダムエンカウントエネミーってこと?フロムでもそんな鬼畜難易度早々しないね~」
「そうなりゃただのクソゲーでは?」
常識を易々とひっくり返す存在に目を輝かせる者、朗らかに笑う者、なんとも言えない表情を浮かべる者、それぞれが違った感情を抱える中、この4人の中で最も関わりのある唯我が胸を張りながら自慢げに口を開く。
「三雲くんの凄さが分かりましたか先輩!だからボクは嫌だと何回も……!」
「うっせぇお前が偉そうにしてんじゃねぇ!」
「アバーッ!?」
後輩にコブラツイストを決める光景が背後にあるなか、それを気にも留めず太刀川は好戦的な笑みを浮かべ、国近は興味で目を輝かせてそれぞれ映像を再生し始めるのだった。
太刀川隊の隊室で悲痛な叫び声が聞こえてきた頃、加古と嵐山と別れた3人は昼頃に通った道を戻るように歩いていた。
「そういやさメガネくん、鬼怒田さんになに渡したの?滅茶苦茶渋い顔する未来が見えたんだけど」
「EGOの詳しい説明と主要な物を記載した資料ですよ。精神プロテクトをかけているので発狂する等は無い筈ですが、内容が内容ですから慣れてなければ顔をしかめるのも仕方ないかと」
「君がそこまで言う物がどんなのか気になるんだけど…」
「聞きますか?」
「やめときまーす」
本来であれば訓練生が数人程度は居そうなボーダー本部の廊下は今は伽藍と静まり返っている。どこかの誰かが誘蛾灯になっているのか、はたまた偶然出来たスペースを迅が選んで入り込んでいるのか定かではないが、一つ確かなのはこの場では発言に気を遣う必要が無いと言う事である。
「俺は聞きたいぞ、何を書いたんだ?」
「俺が前世で聞いた上でEGOを通して見せられたそのアブノーマリティ達の由来だな。さっき太刀川隊の隊室で話した墓穴の桜みたいなものだ」
「ほほぅ、他のEGOにもそんな話があるのか」
「あぁ、中には特異点や他の"翼"に関係するものもあってな、こうした形でその力の詳細を知れるとは思わなかった。まぁそのどれもがこの世界の倫理観なんぞ通用しない代物なんだが。トリオン器官を抜き取られる方がまだマシだ」
「近界でも酷い殺され方だぞそれ。戦争で殺されたり、そう言うのに巻き込まれたりもあるけど、それよりひどいってどれだけなんだ?」
「そうだな………次元の跳躍を利用したワープ列車で死ねない状態で数万年の間放置された結果、次元を裂く化物に成り果てた存在とかだな」
突如として追加された情報に遊真と迅は揃って一瞬だけ固まる。身をもって体験した修でなければ想像も出来ないような事柄だが、副作用によって真偽や事実を見極められる遊真と未来視でその存在から抽出したEGOを認識してしまった迅にとっては嘘と放り出せない事実なのである。
「数万年って、人が死ぬどころか朽ち果てて塵も残らないんじゃないそれ?」
「特異点の中に時間を回収し使う事が出来る代物があるのでそれで数万年もの時間の経過のみを数秒程度に縮めているのかと。そのせいで体感時間はそのままに首を掻き斬ったとしても死ねなかったので朽ちる前に人ならざる者に成り果てて戻ることも出来なくなったのでしょうが」
「うっわぁ、地獄………もしかしてそのアブノーマリティってWAW?それともALEPH?」
「いえ、HEクラスです。"都市"では人が事故で惨たらしく死ぬ事なんて日常と同義ですし、上2つのクラスに比べれば自由に次元を裂いて移動する程度はまだ弱い方ですよ。それと地獄と表現するのは止めてください、地獄に失礼です」
「訂正するのそっちで良いの?」
「地獄というのは基本的に罪人へ罰を与える世界ですから、その意義はあの都市よりも遥かにマシですよ。まぁEGO……次元裂きについては機会があればお見せします、扱い方間違えると異空間でさ迷い続ける事になりますが」
「あぁうん、遠慮しとく」
「オレもやめとく」
「それが正しいかと」
「俺もそう思うぞ」
2人共最悪の想像をして背筋が冷えてしまったのか、ぶるりと体を震わせながら修からの提案を却下しているとそこにまた一人別の男の声が会話に加わった。
「麟児さん、お疲れ様です。休憩ですか?」
「あぁ……ようやく狩人がボーダー上層部と直接対面したか。おおよそ迅が招き入れたんだろう?帰ってきた鬼怒田室長が唸り声を上げていた」
「あっはは、まぁそんな所だよ」
「迅、お前が何を見ているのかは俺には分からんが、あまり修に負担をかけるなよ?」
「分かってるよ麟児さん、メガネくんがこうして居てくれてるだけで最悪だった未来はもう消えてる。あとは俺達も頑張るだけさ」
会話に交ざってきた青年……雨取麟児は修と迅と親しげに話し始めるが、初対面の遊真は隣に立つ修の袖を引いて疑問を投げ掛けた。
「オサムオサム、誰だこの人」
「そういえば紹介していなかったな。迅さん以外に俺が都市伝説の狩人だと知ってる人が居ると言っただろう?それがこの人だ」
「雨取麟児だ、ボーダーでエンジニアをしている。君は……空閑遊真だったな、妹から話は聞いている。修と千佳の事、よろしく頼むぞ」
「ほぉ!チカの兄か……ふむ、似てないな」
「俺が父親に似て、千佳は母親に似ただけだ。それより、お前もここに居ると言うことは訳ありか?」
「こいつの親父さんがボーダー創設の関係者でね、その伝で玉狛支部にメガネくんと千佳ちゃん共々所属することになった訳なんだ」
「成る程、やはりそこに落ち着いたか。本人達か決めた事なら俺から言える事は何もないな」
納得したように頷く麟児。そして話題が途切れた後、新たに話に上がったのは先程の会議で修が交渉材料として提出したトリオン関係の代物であった。
「修、お前が持ってきたであろうトリオン電池についてだか、ここの部品の原理は何だ?現状、トリオンのみを意図的に外部に放出する技術は確立されてないが、そこはどうしている?」
「そこについてはボーダーで開発して貰えるとありがたいです、おそらくトリオン体での臨時接続の要領で大丈夫かと。あとトリオン体へのトリオン供給については触れる事で接触部位を経由して行う設計にしてます」
「触れるだけか。欠損した部位の再生にも対応させるには…本人の記憶領域に干渉するのは少々不安がある、元の身体が収納されてるトリガーを経由させた方がいいか……」
「早速実用化に向けての話し合い?」
「取り敢えず資料だけ配られて何か案があれば……というのが現状だ。お陰さまでエンジニアは仕事に困っていないからな、給金は良いんだが如何せんやることが多い」
「それでも泊まり込みの日が殆ど無い辺り優秀だよね麟児さん」
「繁忙期は徹夜することもあるがな、趣味に費やす時間は確保したい」
仕事のデスマーチで地獄絵図となった職場を思いだし、頭痛を和らげるように頭を押さえる麟児。ボーダーとはあまり関係の無かった2人は首をかしげるがその苦労を知る迅は同情したような顔でウンウンと頷いていた。
「俺はそろそろ戻る。千佳は休みの間暫くお前の家に泊まるようだから頼んだぞ」
「………はい?初耳ですよ?」
「別に良いだろう。そのうち同棲してそのまま結婚することになる、今か未来かの話だ」
「そういう話じゃないでしょうが、それにまだ確定したわけでは……」
「千佳の性癖を歪めておいてその言い訳が通用するとでも?お陰であいつはお前以外の男はアウトオブ眼中だぞ。というかさっさと義弟になれ、そもそも俺はお前以外を認めるつもりはない」
「なぜ貴方達兄妹は揃いも揃ってそんな押しが強いんですか?」
「安心しろ、式場選びについては詳しい知り合いがいる」
「話を聞け」
我が道を往きながらサムズアップしてくる麟児に敬語も外れてしまう修の肩に迅がポンと手を置く。
「メガネくん、俺が言うのもなんだけどさっさと認めちゃった方が良いよ?異性としてなのかは兎も角君も千佳ちゃんが好きな事には違いないんだし、それに結構お似合いだよ?」
「迅さんまで……………何か未来が見えたんですか」
「うん、何時かは分からないけど千佳ちゃんに襲われて既成事実を作られて婚姻届片手に迫られてた」
「………は?ちょっと待って下さい詳しい説明を求めます」
「黙秘権を行使しまーす」
「話してください脇腹辺りからじわじわ殴りますよ?」
「想像つかないけど謝るから止めて?」
残像が見えるほどの速さでシャドーボクシングを行い迅を脅そうとする。しかし、その姿を怯えながら身を竦める迅は副作用で既にどうしようとも回避できない未来を捉えていた。
(ごめんなメガネくん、たとえ君がどんな行動をしようがこの未来はほぼ変わらないし、千佳ちゃんから邪魔したら社会的に殺すって脅されてるから俺には精々それが起きる時期を先伸ばしするぐらいしか出来ないんだ。がんばれ!)
「リンジさん、キセイジジツとは?」
「既に現実となって誰もが認める事実となっている事だ。この場合だと結婚せざるを得ない程の責任がある行為をしてしまったという所だな。自分に何故好意が向けられているのかすら分かってない鈍感な修にはそれぐらいが丁度良いだろう」
「ふむ、確かにオサムはチカからぐいぐい迫られるのに弱いですな。この間も滅茶苦茶戸惑ってたし」
「ほぅ?それは良いことを聞いた。あいつの知り合いに掛け合って後押しするように仕向けるか。何人か不安要素がいるが……そこら辺を上手く調整すれば千佳も早めに行動するか?」
麟児兄さんはオサチカ同担歓迎過激派です。やむを得ぬ事情があり半年前にボーダーへと入りましたが、滅茶苦茶優秀で仕事が今までの1.5倍以上の速さで終わるようになった為、エンジニアや開発部門の人間からは泣きながら感謝されてます。まぁ一時期はボーダーのトリガーを盗んで密航しようとしてた人間なんですが、そのことは城戸司令と迅さん、あと林道支部長と密航仲間の面々位しか知りません。
一応この世界ではLimbus Companyに出てきた幻想体は変異したクローマーのような後から生まれた物を除いて本社でも観測し、管理していたという設定です。