持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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コロナでダウンして暫く書けていませんでした。次回は玉狛の方がメインになると思います。




それでは、どうぞ。


第20話

(姿が変わった……能力も別物になったと考えるのが妥当か)

 

風間は変化した姿に内心冷や汗を流しながらも冷静に観察し始める。

 

(先程の斬撃を見る限り、身体能力の強化と……あの紫電か?いずれにせよ情報の不足……いや、初見の相手に不足も何もあった物じゃない。今一番警戒すべきは……)

「考え事か?」

「ッ!」

(速いッ!)

 

思考を巡らせた一瞬の隙を突いて修が肉薄する。己に迫る刃を前に本能的に己の危機を感じ取り、即座に鞭状にしたスコーピオンを振り回しながら下がろうとする風間だったが、修が紫電を弾けさせている鉈を振るうと障害物など最初から無かったかのように刃が通る。腕から伸ばされたスコーピオンは細かく斬り刻まれ、体の中心に回し蹴りが叩き込まれる。

 

「かハッ!?」

《風間、菊地原、そっからスイッチボックスまで移動できないか?》

《無理だ、隙を見せれば直ぐに狩られる!それに三雲の速さはさっき当真が見ただろう》

《残りトリオンが10%を切ったぞ》

(もう限界か、せめて捨て身で一太刀……)

 

壁に叩き付けられた体からトリオンが吹き出し、自分のトリオン体にヒビが広がっているのを感じていた風間は目の前で暴れる存在に少しでも抗おうと足に力を込めた。

 

(……待て、何故スコーピオンが砕けていない?)

 

前を見据えて狙いを定めた瞬間、視界の端に先程の攻防戦で切り落とされたスコーピオンの一部が映る。そこには不自然な程に綺麗な断面が存在しており、辺りには破片の一つも散らばっていない。常用しているが故に他のトリガーと比較しての脆さを理解している風間はその情報から一つの結論に至った。

 

「受けるな、避けろッ!」

「ッ!?」

「遅い」

 

チュインッ

 

鉈を受け止めようと出されたスコーピオンは意味を成さず、菊地原のトリオン体を巻き込んで空間に紫色に光る線が走る。

 

ザパンッ!!!!

「………は?」

 

瞬間、まるで背後にあった景色ごと断たれたようにズレ落ち、それに巻き込まれた菊地原も例外無く体を断たれてベイルアウトした。己に起こった事を理解できずに脱落した菊地原を見送った風間は、こちらに振り向き自然体に佇む修を鋭い目付きで睨む。

 

「………防御が意味を成さない斬撃か」

「正しくは文字通り空間を裂く代物だ。仕組みは聞くな、俺自身もそういうものとして使ってる」

「迅からある程度聞いてはいたが……まさしく規格外だ。お前が居なければならない程の事がこの先にあるとは、俺も気を引き締めなくてはな」

「未来視の話か」

「あいつは副作用に関することに関して……ましてや危機的状況においては嘘はつかないのは確かだ」

 

互いに言葉を交わす最中、不意に修が片足をずらす。次の瞬間、足が置いてあった場所に下から刺し貫くようスコーピオンの先端が生えてくる。

 

「それはそうとこれは当たらないぞ?」

「………流石に誤魔化されてはくれないか」

「こちらに向けられた意識が中途半端だったからな。何かしらの不意打ちを仕掛けてくるだろうとは思っていた」

「そうか」

 

最後のあがきとばかりに側にあった瓦礫を投げつけ、走り出すと同時に足の裏から生やすようにスコーピオンを生成する。足に込めた力を更にブーストして隙を突こうとスコーピオンを振るった。

 

「チッ、届かないか」

 

しかしその刃は空を斬り、代わりと言わんばかりに脳天に鉈が突き刺さる。ステップで回避していた標的はそのまま鉈を雑に引きずり出して頭を破壊した。

 

「あと一人」

 

ベイルアウトの爆風に晒されながらも、修は行き先を見据えて紫電がバチバチと弾ける鉈を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

「………さぁて、どーすっかな~?」

《あの防具を纏っていない顔を狙うしか無いだろう。次は仕留めろ》

「分かってるって真木ちゃん。いやぁ、最初に隊長が落とされたせいでスイッチボックスが少ないのが難点だよなぁ。俺も入れるべきかぁ?」

《ほぅ?………成る程悪くないな》

「え、いや、冗談のつもりだったんだけど」

《貴様一人になってからの応急処置としては十分機能するだろう。後で隊長から教えを乞え》

「いやめんど《何か言ったか?》いや、はい、ナンデモナイデス……」

《……駄目です、生体反応が再び消滅してます》

 

風間がベイルアウトし、天に昇って行く様子を見上げる当真がやる気無さげに頭を掻く。路地裏に身を隠し、足元のスイッチボックスへと意識を向けながらオペレーターからの通信に耳を傾けるも、有益な情報は得られない。

 

「なんか三雲の姿が変わったとか聞いたけどそこんとこどーなの?」

《……こちらとしても、情報が不足していて把握しきれていない。分かっているのは奴が振るった鉈がスコーピオンごと2人を斬り裂いたということだけだ。貴様であれば近づかれただけで終わりだろう》

「そりゃまぁ、俺の本業は狙撃手なわけだし」

「なら近接戦闘術を覚えてみたらどうだ?」

「すぐに習得出来たら苦労してないっての……ん?」

 

溢した愚痴に対して生の声での返答がある。その違和感を感じ取った当真がそちらを向くと路地の出口に修が立っていた。一瞬だけ思考に空白が生まれるが、徐にこちらに向かってくる姿に直ぐ様身を翻し逃走を選択した。

 

「ちょおっ………!?」

《どうした》

「すぐに飛ばせ!三雲が来た!」

《何ッ!?》

 

通信越しの真木の少し焦ったような声に少々珍しいと思いながらも危機を回避するためにスイッチボックスの上に立つ。直ぐ様足元から消えるように転送される当真が移動する直前に見た景色は、それだけで射殺せるような錯覚に陥る程に鋭く冷たい眼光と直前まで首のあった部分に横凪で通る凶刃だった。

 

 

 

 

 

「ッぶねぇッ!?ガチで殺されるかと思ったわ……」

《厄介だな、生体反応とトリオン反応が無いだけでここまで神出鬼没になるものか?》

「さぁな、取り敢えずまたどっかに隠れ……」

 

深く息を吐き、調子を整えていく。先程の緊張から解放され、息を乱す当真はオペレーターと言葉を交わしながら転送された部屋から出ていこうと扉を開ける。

 

「先程ぶりだな」

「…………うっそぉ」

 

そのまま移動しようと走り出す当真だったが、何事も無かったかのように進行方向に佇んでいた修の姿を見つけて立ち止まった。言葉を漏らす口の端はひきつっている。

 

「最早なんでもありじゃねぇかこの野郎」

「黒トリガーというのはそういうものだと聞いている。理不尽に抗う力を養うのがこの訓練の目的だろう?それに……」

「それに?」

「………いや、何でもない」

 

不意に言葉を止めた修はもう話すことはないと言わんばかりに手に持った鉈を起動する。

 

「ッ!」

 

即座に下がりながらイーグレットを構える。一直線の廊下数十メートル、死神が一歩一歩歩く音が聞こえる中、瞬時に覗いたスコープ越しに赤色に光る目と視線が交差瞬間に引き金を引いた。

 

ガキンッ!

 

寸分の狂い無く頭……眉間へと向かっていた光の弾丸だったが、予測していたかのように差し込まれた鉈の側面へと撃ち込まれた結果光が鏡に反射するような軌道で横に弾かれる。その間も、修の目は瞬きもせず当真のみを見据えていた。

 

「あんにゃろ、舐めんなよ?」

 

相も変わらず引きつる頬を好戦的な笑みで塗り潰し、再び引き金に指をかける。狙うは手元、得物を握る部分だった。

 

(………あん?)

 

しかしその一瞬、狙いを変更した瞬間にスコープの中から修が消える。思考が追い付かない当真だったが、直ぐに自分の結末を理解した。

 

(………あぁ、最初ッから手加減してやがったなこいつ)

 

視界に一筋の線が走り、それを起点に断層のように見える景色がずれる。ずれ落ち、ひっくり返った上側の視界が最後に映したのはひどく淡々とした様子で振り切った鉈を戻しながらこちらを振り向く修だった。

 

 

 

 

 

 

 

「いや~!こえぇな三雲の奴!」

「試合の録画はしてある、お前の端末にも送るから準備はしておけ」

「マジっすkぐおっ!?」

 

ベイルアウトの指定先になっている部屋からケラケラと笑いながら出てくる当真だったが、ヒールを鳴らして近づいてきた真木に胸ぐらを掴まれた事で余裕が消し飛ぶ。

 

「おい当真、何故逃げなかった」

「いや、もう無駄だと思って……いだだだだたッ!?」

「や、止めてあげよう真木ちゃん?」

「……チッ、三上に感謝しろ」

「大丈夫か当真?」

「関係ないという風な顔をしているが貴様もだぞ?」

「ヒエッ………」

「うーわ、ありゃもう誰が隊長か分かったもんじゃないね、冬島隊じゃなくて真木隊にした方が良いんじゃない?」

「……菊地原、そういうことはあまり口に出して言うものじゃないぞ」

「歌川だって少しは思ってるでしょ」

「……ノーコメント」

 

女傑に睨まれて身を縮こまらせる男二人とその様子を見てそれぞれ違った感想を抱く風間隊。それすら気にせず、木崎はマイク越しに訓練室内の修と会話をしていた。

 

「修、今から訓練室のステージを解除する。指定する場所まで向かってくれ」

『大丈夫だ、直ぐに出る……あぁ、入り口の前に人が居るなら退かしておいて欲しい』

 

向こう側から返答が来たかと思えば、訓練室へ入る扉付近に突如として紫色に光る線が引かれる。次の瞬間、電気が弾けるような音と共に線を起点に裂け目が現れ、紫色の奔流に埋め尽くされた空間が姿を見せた。

 

「よっと」

 

その中からまるで雷のような物に変化しながら飛び出した修は起動していた鉈を腰の鞘に戻すと同時にEGOとの同調を止めて元の姿に戻る。着ていたコートの内ポケットから眼鏡を取り出して掛けなおすその姿は木崎がよく知るいつもの姿だった。

 

「只今戻りました」

「転移能力にもレパートリーがあるんだな」

「実質自分以外を飛ばせないので黄金狂……この間見せたEGOよりかは汎用性は無いですがその分防御しようが関係無く空間を裂いて攻撃できますし、刃だけ意図した場所に飛ばせるので殺意の高さについてはこちらが上回りますね」

「聞けば聞くほど理不尽な能力を持ち得ているな」

 

先程の訓練内容の記録とコピーを行っていた風間が会話に交ざる。感情の読めない彼の手には既に情報端末ではなくトリガーが握られていた。

 

「お疲れ様です、風間さん」

「そういうお前は特に堪えた様子もなさそうだな」

「……まぁ、はい。そうですね」

「ならば連戦でも問題ないな、訓練室に入れ。今度はタイマンだ、EGOも別の奴を使え」

「おい風間」

「木崎、説明をしておいてくれ。俺は行ってくる」

 

それだけ言い残すと風間は先程木崎が入っていったコントロールルームへ向かって行く。制止が間に合わずその背中を見送ってしまった木崎は、隣に立つ修と目を合わせた後眉間を押さえて諦めたように溜め息を吐いた。

 

「行ってきてくれ、多分あいつは納得できるまで続けるだろうからな」

「了解しました」

「……侵食はするなよ?もしお前が怪我して帰ってきたら千佳が発狂するかもしれん」

「流石に使いません、あれは本気で殲滅する為に用いる手段ですから。あと、千佳も俺もそこまで弱くありませんよ」

「……あぁ、そうだったな」

「では」

 

軽く頭を下げて訓練室に入っていく背中を見送りながら、木崎は背後から感じる視線にどう対処しようかと頭を捻る。しかしその考えが纏まる前に鋭い眼光を向ける真木が口を開いた。

 

「さて、貴方にもキリキリと吐いて貰おう」

「……何から説明したものか」

「当真は事情は知っていても情報は曖昧な物しかない。分かっているのはあの男が三門市を騒がせている都市伝説の本人であるという突拍子もない話だけだ」

「仕方ないでしょ、なんせ隊長の代理で出た会議でいきなり迅さんの後ろから出てきた訳だし」

「それを何故直ぐ私達に伝えなかった?」

「城戸司令と忍田本部長、そしてウチのボスの意向だ。当真はそれに従っているだけだからあまり詰めるのは止めてやれ」

 

未だに胸ぐらを掴まれている当真を庇うように話を続ける木崎。しかし、事情を知らぬ者達は納得していないようで、更には上層部の面々の名前まで出てきたことに何名かが驚きを見せるなか、怪訝そうな表情の菊地原は面倒そうに溜め息を吐いた。

 

「それが風間さんがあのメガネについて僕たちにも何も言ってなかった理由って訳?」

「こうしてお前たちの前で遠慮なしに力を振るってはいるが、アイツの立場はボーダーの協力者に近い。つまりは完全な制御下に置くことが不可能な状況なんだ」

「はぁ?何、アイツなんかどっかの重役の息子だったりすんの?」

「そんな金次第でどうとでもなることじゃない。強制的に従わせようとしたらボーダーが壊滅するレベルの厄ネタというだけだ」

「………は?」

 

瞬間、その場の空気が凍りつく。まるで藪をつついたら蛇どころか龍がいたかのような緊張感が走るなか、当真のみがいつもとなんら変わりのない様子で頭の後ろを掻きながら笑う。

 

「まーそうだよな、なんせ初対面で殺気だけで首を落とされる幻覚見せる奴が制御なんてしようとするだけ無駄だよな。いわゆる狂犬ってやつ?」

「……迅から聞いてはいたが本当にやっていたのか。普通に過ごしている分には率先して手伝いをしてくれる良い奴なんだがな、料理もかなりの腕だったぞ」

「マジ?俺のイメージは下手なことすりゃぶっ殺すってかんじなんだけど」

「敵対すればそうなるだろうな」

「………そこまで危険なんですか?」

 

恐る恐るといった雰囲気で歌川は尋ねる。

 

「そう難しく考える必要はない、修自身もボーダーと敵対する事は望んでいないしその為に今まで逃げに徹していた。ただあいつの持つ力はそれ程のものだということを理解しておけ……もっとも、お前達は先程体験したところだろうだがな」

「………つまり前情報無しでいきなり戦闘が始まったのは、そちらの方が脅威であると理解するのが早いから、ということですか?」

「そうした方が早いだろう。ついでにA級部隊の鍛練も出来るからこうした方が良い、というのが迅の意見だ」

「なんかあの人の手のひらで動かされてるみたいで気持ち悪いんですけど」

「菊地原……!」

「あいつの暗躍癖は今に始まった事じゃないが、何がどうであれ最善を尽くそうとしてる。あまりそう言ってやらないでくれ」

 

迅の名前を聞いて一応の納得を見せる一同。一部は腹立たしさを感じているようで、それに対して弁解しながらも木崎の脳裏には先程の訓練試合の光景が浮かんでいた。

 

(………分かっていた事だがつくづく規格外だな、A級上位2部隊を前に意図的に手加減するなんて黒トリガーを持った迅でもしないぞ。物によってはトリオン体でも殺しかねないという事情があるとはいえ、流石は狩人と言うべきか………)

 

 

 

 

 

 

 

 

木崎が懸命に事情を説明している頃、先程とは打って変わって白で統一された殺風景な空間の中、身体から生成された光る刃と赤黒い針金の集合体のような槍が交差して火花を散らす。白だらけの部屋の中でも一際目を引く純白の修道服を身に纏った修は槍を握り直した。

 

「"奇跡"」

 

体を捻った力を解き放つように振るわれた槍は地面を削り、刻まれた線の延長線上に沿うように地を這う斬撃を放つ。血飛沫のようにも見えるその一撃を、風間は床を蹴って跳ぶようにして避けながら肉薄しようとする。

 

「側方注意だ」

「ッ!」

「"誰かの祈り"」

 

修が指揮するように手を動かすと時間が止まったように静止しその形を保って壁になっていた斬撃はその形状が溶けるように崩れ、血のような液体の球体が空中に形成される。一瞬波紋が広がったかと思えば、まるでレーザーの如くその液体が風間目掛けて射出された。

 

「ちぃッ!」

 

思ったように動けない事にもどかしさを感じながらシールドを展開しながらその場を離れる。面を意識して放たれた赤い針は盾に阻まれて殆ど当たることは無かったが、左肩にかすった一本によってそこから少量のトリオンが漏れ始める。

 

「"願望器"」

 

そんな事を気にする暇もなく、風間は次の攻撃に備えた。一方でいつの間にか消え失せた槍の代わりと言わんばかりに、虚空から湧き出した血が器のようにした修の手の中に溢れ続けており、零れた液体は床を赤黒く染め上げている。

 

「随分と仰々しい名前だな」

「生憎、本質はそんな生易しいものではないですがね」

 

言葉を交わしながらも戦闘は止まることはなく、手に握ったスコーピオンが慣れたような手付きで投げられる。真っ直ぐ飛んでくるそれを軽く首を傾げる程度で避けた修は液体で満たされた手を血を握り込みながら腕を振るう。液体故にしっかりと握り締めたとしても間から溢れ落ちる血で空中によれた線を描きつつも尽きることの無いそれは、風間の目の前で解き放たれた。

 

「"善"」

 

短く言葉を告げた後、修の眼前を起点に血の華が咲く。散弾銃が発射された瞬間を切り取ったかのように拡がった鋭い血の結晶は防ごうと展開されたシールドを貫通し、トリオン体の左脇腹部分を刺し抉った。

 

「ッ!」

 

直ぐ様離脱した風間は自らを貫いた結晶から更に生えてきた刺を避けると、体勢を立て直しながら刃を振るう。その軌跡には細い線のような欠片が宙を舞っていた。

 

(大振りの質量攻撃に見せかけた精密で執拗な追い討ち………いや、あの結晶の方が糸の集合体なのか?いずれにせよ、俺の装備では攻撃力に欠けるな)

 

風間の戦闘スタイルはカメレオンを利用しての不意打ちや奇襲攻撃を主とした物であり、その練度は本業の暗殺者にも劣らないレベルである。たが相対している存在にはそれが通用しない。奇襲を仕掛けようものなら逆に意識外からの摩訶不思議な攻撃を食らい、不意を突いてスコーピオンを投擲しても容易く対処され、カメレオンで透明になったとしても気配だけで看破してしまう。一種の理不尽が形となったような物だが、それに似た者を風間は知っていた。

 

「今のを見切りますか」

「これでも攻撃手の中では上位の方でな。先程は不覚をとったが少しでもお前に傷をつけなければ顔向けができんと言うものだ」

「立ち回りは太刀川さんとは違うようですがね。まぁあの人は根本からの戦闘脳でとてつもない感覚派の気配がしましたが」

「良く分かっているようだな、一度戦っただけでそこまで理解するとは」

 

言葉を交わしている間も攻防は続く。

 

「個人的には貴方の技術も見事ととは思いますが。重ねた経験と鍛練が顕著に出てる無駄のなさはA級部隊の隊長といったところでしょう」

「随分と高く評価をつけるんだなッ!」

 

 

 

「才能があるだけで生き残れるほど甘くはないですから」

「……お前の持つその力は才能ではないと?」

「ご冗談を、これが才能なら俺はただの化物ですよ。所詮、これは俺からしたら借り物でしかない」

「ッ!」

 

瞬間、会議室で垣間見た殺気が襲い来る。その気迫に足を止めそうになるもそれを振り払ってカメレオンを起動しながら大胆に後方へと退く。

 

「俺が持っていたのは精々、人殺しの才能程度ですから」

 

風間の視界は気づかぬ内に上下が反転していた。脇腹から吹き出していたトリオンは刃を交わす内に止まっており、視覚的に己の位置を知らせる要素は潰えていた。それにも関わらず、自分と泣き別れた胴体部分越しにこちらに背を向ける狩人は寸分の狂いもなくこちらと目を合わせ、トリオン体の弱点である供給器官を寸分の狂いもなく貫き、ついでと言わんばかりに体を引き裂いたのだ。頭上の床に近づく視界の中でこちらへ振り向いた際に見えたひどく凪いだ瞳を見て風間は己の状態すら忘れて息を飲んだ。

 

(………その目は、何の感情だ?侮蔑なんてものは微塵もない……諦観、悲哀………………郷愁?)

 

疑問を口に出す前に風間の体は転送され、トリオン体は修復される。そして無言で構える修を前に、自身もまた次の試合に向けて構えをとる。

 

(お前は…何を失ったんだ?)

 

昔、兄を亡くした風間にとって、その瞳はひどく印象的に映るものだった。




この後、ストイックな風間さんに巻き込まれ他のメンバーも個人戦を挑みますが、戦績は修の全勝でした。

それとアンケートの結果、大規模侵攻の難易度は「都市悪夢」に決定しました。もし不純物になったら調律者を突っ込もうかと思ってたので書きやすさが上がりました。ありがとうございます。あの化け物を制御しきる自信が無いんですよね。


ちなみに今回最後に使ったEGOの詳細はこれです。

識別名称 desiredevice
 (和名  願われたもの)

分類 O-01-112

リスクレベル WAW

座り込んで目を閉じて祈りを捧げ続ける少女型のアブノーマリティです。その容姿はとても優れていると言えるものであり、純白の外套と修道服がその印象をより強く引き立てているのでしょう。例え、彼女の前に置かれた器に溜められた赤黒い液体が溢れだし、その衣装を汚したとしても。

基本的に脱走することはありませんが、作業の失敗に伴い器へと血が流れます。それが抑え付けることが出来る許容量は彼女が受け入れることが出来る悪の量です。

彼女は善でなくてはいけません。彼女が悪を受け入れると世界は矛盾に殺される事でしょう。


EGO  The sage 
 (和名 賢者)

無数の血のような刺が絡み合ったような槍(武器)、汚れ一つ無い純白の修道服(防具)、周りに漂う朧気な光球(ギフト)

着ると自らが善なる者だと錯覚させるような感覚に襲われるEGOです。刺の槍は悪を貫く為に使用者に力と信仰を授ける事でしょう。


はい、少し前に出した被せられたものの対になるアブノーマリティです。被せられたものが悪であれと罪を押し付けられた人間ならば、願われたものは善であれと祭り上げられた人間であり、その共通点は元は何か特別な事情もない只の人間であった事ですね。本当に生け贄やこの為に用意された存在ではなく、適当に選ばれたのが二人だっただけなのです。彼らが結ばれていたことを知らずに。


少年は抗うことを諦めて、少女は心を壊しました。
悪は人々の身代わりにされ、善は人々の羅針盤にされました。


絶対悪は潰された目を開けて嘲笑いました

絶対善は光の消えた目を閉じて告げました



貴方が望む存在になろう、と






かつてとある宗教が根付く国がありました。絶対善と絶対悪が存在するとされるその国の人々は日々信仰と畏敬の念を抱きながら過ごしておりました。しかし信仰は増幅していき、次第に歪んだ教えを引き継いでいくことになりました。「絶対悪はこの世の全ての悪を背負い、善を汚すものである」、「絶対善は全ての人間の罪を許し、悪を退ける物である」。一組の男女がその役を被せられ信仰の犠牲となったとき、2人は役ではなくなってしまいました。

悪であれとこの世の全ての苦痛を味合わされた少年は望まれたように絶対悪となり、全てを呪い人々を地獄へと叩き落としました。

善であれとこの世の全ての罪を聞かされ続けた少女は望まれたように絶対善となり、全てを祝福し人々が最後に行き着く先へと送りました。



恐れた悪に、願った善によって葬られた人々は誰の記憶に残ることもなく消えました。同じであってはいけないはずの善と悪が同じ物を送ってしまいました。本来あるはずの無い事が起きた事を察知した世界はその歪みを断ちました。



その場所に国などはありませんでした。



「なーに被害者面してんだ、そうであれって押し付けたのはそっちだろ?だからお望み通りにやってやったんじゃねぇかよ、人を苦しめる悪であれってな!」
「良かったではありませんか、生きるという苦しみから解放されたのですから。私は善であれと願われましたので、私が善いと思った事をしたまでなのです」


「「俺/私達はそういうものだろ/でしょう?」」
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