なんでか筆が乗ってしまったのでそのまま書ききりました。
それでは、どうぞ。
「………」
玉狛支部にて、己の寝室からリビングへと降りてきた迅は目の前の光景を見て宇宙を背負っていた。そしてまずは状況を整理しようと室内を見回す。
「………ッ!」
「……………」
フンスフンスと興奮した様子でビデオカメラを構える宇佐美とぽけーと呆けたように固まったまま動かない小南。これは良いだろう。宇佐美は時折推し活で似たような状態になり、小南は思考回路がショートした時の顔をしている。
「何で目を覆って上を見てるんだとりまる先輩?」
「いや……何て言うか、先輩として見てはいけないというか、見たら終わってしまうというか……俺は新しい扉を開きたくないんだ」
「良く分からないけど、しおりちゃんが言ってた手遅れって奴なんじゃないか?」
いつも通りの遊真と何故か真剣かつ早口で言い訳を述べる烏丸。これも……まだいいだろう。発言の節々から抗っている様子が伺えるがそっとしておいた方がいい。
「むー?なにもみえんぞ!おさむはだいじょうぶなのか!」
「よーし、陽太郎はこっち来ようなー、栗きんとんの味見をしてほしいらしいから頼むぞ~」
「なぬ!?ほんとうか!」
自分の足元にいる陽太郎の目を覆い、上手くこの場から離れるように誘導する林藤支部長。これも別に気にすることではない。むしろこの状況では子供の情操教育的にはこれ以上無い程に正しい選択だろう。
問題は、その全員が意識を向けるソファに居る存在である。
「んっ………んん……」
そこに居たのは顔を赤らめさせながらもよい夢を見ているかのように頬を緩ませて横になっている修だった。普段はキリッと引き締まりクールな印象を受ける表情はトロンと溶けたように緩んでおり、元から女性的だった容姿が少女のようなあどけなさを含んだ物になっている。しかし、外行きを意識していないリラックスと暖かさ重視のゆったりとしたセーターがずれて鎖骨と肩がさらけ出され、さらには艶かしい呻き声が漏れ出しそれらがとてつもない色気を醸し出している。
「ん~?」
のそのそと起き上がり、辺りを見回してこてん、と首をかしげる。萌え袖になった手でくしくしと目元を擦る姿は愛らしく、自分への視線に気付いて特に何も考えてなさそうにニコリと微笑みかける姿は男女関係なく魅了する物だった。それを直視してヒュッと息を飲んで固まったり、頭から湯気を出して顔を赤くしたり、心臓辺りを押さえて膝から崩れ落ちたりする中、いろんな意味で直視出来ない迅は目線を逸らして隣で眉間を揉んでいる木崎へと話しかけた。
「ね、ねぇレイジさん……あれ、何があったの?」
「………あぁ、その事なんだがな」
話は十数分前辺りまで遡る。
「3人とも、明けましておめでと~!」
「明けましておめでとうございます!」
「えぇ、明けましておめでとうございます、宇佐美先輩」
「んぉ?なんだ?」
「新年の挨拶だ。この世界では新しい年が明けた事を祝う文化がそこかしこにある。日本は節目を大事にするからな、こういった目出度い事は細かく祝うんだ」
「ほほぉ、成る程な。じゃあ俺も、アケマシテオメデトウ」
「あぁ、今年もよろしく頼む」
「よろしくね遊真くん」
「よろしくね~」
朗らかに挨拶を交わす4人が廊下からリビングに入ると、どこかそわそわしていた小南がずんずんと寄ってくる。
「やっと来たわね!」
「お、コナミ先輩もアケマシテオメデトウ」
「あ、うん、あけおめ……って、そうじゃなくて!今までどこ居たのよ!」
「オサムに少し訓練付き合って貰ってた。いやぁ、昨日のトシコシソバ?とやらを食べてハツヒノデ?とやらを見た後皆寝たから暇してたけどオサムが居たから誘ったんだよな」
「折角休みにした意味がないでしょうが!ちったぁ休みなさいよこの戦闘バカ!」
「えー、面白かったぞ?めっちゃ長く改造した弧月ビュンビュン振り回して俺の腕を地面ごと真っ二つだ。途中から参加したチカも普通に強かったぞ」
「修くんから習ってるお陰で銃を持った大人でも一方的に打ちのめせるようになりました!」
「え、何それ気になる……」
「心牽かれてどうするんですか小南先輩」
「だって気になることばっか言ってくるんだもん。あんただって同じでしょ」
「………まぁ否定しませんけども」
様子を伺っていた烏丸も会話に加わり、和気藹々と話し始める。話の内容は少々子供らしくないがかなり盛り上がり始めていた。
「姿が見えないと思ったら新年早々訓練か」
「おぉ、アケマシテオメデトウ、レイジさん」
「あぁ、今年もよろしく……それより、御節料理は昨日から拵えてあるぞ。修と千佳もすまんな、仕込みを手伝ってもらって」
「いえいえ、久しぶりに大人数分の料理を作れたので満足してます」
「楽しかったです!」
「そうか、ならいいんだが」
「わー!今年いつもより豪華じゃないレイジさん!?」
「海鮮関係は金をかけずに良いものを手に入れられたからな」
「ウェルチアースが年末だからと色々と持ってきてくれてな、俺達の両親は年末年始は旅行に行ってるからいつもは修と千佳と消費しているんだが、今年は早めに無くなりそうで助かった」
話に加わったのは、テーブルに割り箸等を並べていた麟児だった。
「おお、麟児さん。昨日玉狛来た時からずっと見なかったけどどこにいたんだ?」
「流石に2徹はキツくてな、お言葉に甘えて客間で寝させて貰っていた。今はパトロールを終えた鳥たちと雷神丸が身を寄せあってぐっすりと寝ている」
「オツカレサマデゴサイマス」
「そういえば迅さんは……?」
「あいつも仕事疲れで寝てんぞ。まぁもうそろそろ降りてくるだろ」
「あ、ボスもう呑んでる!」
「別にいいだろー?昨日は疲れててまともに呑めなかったし、これは正当な報酬ってやつだ……ってうおッ!?」
陽気に酔っている支部長の手が滑り、酒がなみなみと注がれたコップはテーブルの横にいた寝ぼけ眼の陽太郎な頭上へと倒れ込んだ。
「むにゃむにゃ………」
「ッ!すまない陽太郎!」
「ふぐっ!?」
バシャッ!!
「……で、陽太郎を庇って日本酒を頭から被った直後にぶっ倒れてな、怪我は見当たらなかったから取りあえず酒を拭いてソファで寝かせたんだが………ああいうことになった」
「そっか~、頭から被っただけでああなっちゃったのか~」
あっはっはっはっ、と棒読みで笑う迅だったが、スンッと表情を落とすと頭を抱えだした。
「読み逃した……ッ!」
「……意図してた訳では無かったのか」
「こうなるんだったら忠告の一つでもするよ!だけどメガネくんがこんなお酒激弱だとは思わないじゃん!?何なのあのあざとさ?最早別人だよあれ!これから皆で初詣行くのにあれじゃ変質者ホイホイになっちゃうってば!」
「落ち着け迅」
「……まぁ、もう100歩譲ってメガネくんは良いよ。いや良くないけど、変なのが襲いかかった瞬間だけ酔いが覚めて即座に蹴り飛ばす未来が見えたし………それより」
頭痛がすると言わんばかりに頭を押さえる迅はずっと目を逸らしていた方向を指差す。
「離して兄さん!修くんが!修くんが私を見て微笑みかけてるの!どう見たって私を誘ってるの!どう見たって据え膳なの!」
「落ち着け、あれは多分訳が分からないが取りあえず微笑んで誤魔化そうとしてるだけだ。流石にここで始めようとするな、修の見たことの無い一面を見たからってそう簡単に理性を失うんじゃない」
「フシュルルルルルルッ!」
「おい、千佳、人間の言語を失うな……なんでこんな力強くなったんだ………!」
「そんなの修くんと姫始めする為に決まってるでしょ……!」
「そんな言葉どこで覚えてきたんだお前……!」
「あれなに?」
「俺に聞くな」
二人の視線の先では獣になろうとしている千佳とそれを羽交い締めで食い止めている麟児がいた。目が死んでる木崎は一先ず水を取って来ようとキッチンへ向かい、迅は恐る恐るバーサーカーと化した千佳へ伺い立てる。
「ええっと……千佳、さん?」
「迅さん!良いですよね!?もう頂いても良いですよね!あれはもうOKのサインですよね!未来視で見れたチャンスですよね!行きます!」
「わぁいバーサーカーだ~」
「遠い目をしてないで手伝ってくれ、腕が疲れてきた」
珍しく額に冷や汗が見える麟児。しかし迅の視界に見える未来の中で、自分が介入したところで今の千佳を完全に止める術などはないという結果のみが示されており、どうしたものかと天を仰ぐ。着ていたジャージの袖がクイクイッと引かれたのはその時だった。
「なぁなぁ迅さん」
「ごめん遊真、千佳ちゃんが暴走しかけてるからちょっと待って……て……」
「何か大変そうだったからさ。修、連れてきたぞ」
「…………?」
「ヴァッ!?」
(=3=)のような顔になって自信満々の遊真が手を引いていたのはポワポワと不思議そうに微笑む修だった。その顔面力を間近で食らった迅は閃光手榴弾を食らったように可笑しな声を上げて膝から崩れ落ちていた。そんな状況になっているとは微塵も思っていない修は目をしぱしぱさせた後、目の前で顔を赤くして固まっている千佳の前に立つ
「……ちか?」
「お、修くん?」
「どーしたんだ?ねつがあるのか?」
先程までの暴走していた状況とは打って変わってしどろもどろになった千佳は、麟児の拘束から解かれてから足元が覚束なくなってしまったようで迎え入れるように腕を広げた修の方へと倒れ込む。
「お、さ、おお……」
「よしよし」
「~~~~ッ!?!?」
自分に甘えてきたと判断したのか、ふんわりと笑いながら子供をあやすように頭を撫で始める。好きな相手からのスキンシップによる喜びと不意打ちで心臓の鼓動が鳴り止まないことによる緊張、油断しすぎている色香をもつ容姿ととてつもないギャップから来る興奮がない交ぜになってプルプルと震えだした。
「だいじょうぶ、ここはあんぜんだから……そうだ、いっしょにねるか?」
「は、はひ………」
「だいすきだぞ」ポンポン
「はひゅぅ……」
その様子が何かに怯えているように見えたのか、修は安心させるためにポンポンと頭を優しく叩きながら笑いかける。しかし、想いを寄せる異性の幼馴染みに優しく抱き締められ、耳元で囁かれた千佳はボンッ!と頭から湯気を吹き出し、顔をさらに赤くして体から力が抜け落ちさせる。自らが抱き締める大切な人の一人が突然自分に体を預けた理由が今一働かない頭では分からない修は首をかしげていた。
「ちか?……ちーか?」
「修、止めてやれ。それ以上は供給過多だ」
「むぅ?」
ぐるぐると目を回してしまった千佳に呼び掛けるが反応は無い。妹が目覚めた瞬間に死なないように止めに入る麟児は何故かサングラスをかけていた。
「じゃあねかせてくる」
「そこのソファで良いだろう。その状態でわざわざ2階に行こうとするな」
「修、取りあえず水を飲んでおけ」
「んあぁ……ありがとう……んくっ……んくっ……んくっ」
キッチンから出てきた木崎から渡されたコップに入った水を飲む修。普段であれば数秒程度で飲み干せそうなそれをゆっくりゆっくり少しずつ、喉仏を動かしながら飲んでいく。少しだけ緩んだ口元から溢れてしまったほわの少しの水が頬、首、首元と伝い、数滴だけ開いた胸元から入ってしまった。その姿は禁断的な色気に溢れており、隣の麟児から差し出された予備のサングラスをかけた木崎はどうしたものかと頭をかく。
「大丈夫そうかオサム?」
飲み終わり、可愛らしく袖で口元をくしくしと拭う修の服を先程まで崩れ落ちていた迅を揺らしていた遊真が引っ張る。どうやらそういった色欲云々に一切興味がない為かこの中で唯一平常心を保っているらしく、この状況を早くどうにかして欲しい成人済みの二人は死んだ目で行動を見守っている。
「なんともないぞ」
「フムフム………ならいっか。なんかみんな固まって動かないけど腹が減ったから先食べても良いのか?」
「いいとおもうが……さきにたおれているやつらのかいほうをしといたほうがいいんじゃないか?」
「むむっ、それもそうだな」
しかしその思いは届かず、先程の笑みで壊れた一同のほうへと歩き出す。まずその餌食となるのは
「じーん、だいじょーぶ?」
「ッ!」ビクッ
一番近くで崩れ落ちていた迅だった。いつもは常に敬語で遊真と千佳、陽太郎と動物達にしか砕けた話し方をしない修が異常なまでにフランクで積極的に触れてくるという事実とギャップに迅の緊張がピークに達しようとしていた。
「な、ななな、なにかなメガネくん……」
「そんなとこでうずくまってたらかぜひくぞ?」ヒョイッ
「うおっ!?」
地面と仲良しになっていたのも束の間、まるで重さなど一切無いと言わんばかりに迅の体を横に抱き抱える。一瞬の出来事に呆然とする迅だったがすぐ近くでこちらへ笑顔を向ける修が居ることに気が付いた瞬間に息を飲んでピシリッと固まった。そんな状態など一切お構いなしに迅を運んだ修は空いているソファに向かうとまるで高級な人形を扱うが如く優しく座らせた。
「………………」
「おつかれさま」
ポンポンと頭を軽く叩き、優しく頭を撫でて微笑みかける。ポカーンと固まったまま見上げる自分をよそに次の哀れな被害者の方へと向かっていくその背中を呆然と見送っていた迅だったが、次第に感情が戻ってきて静かに顔を覆った。
「オ"ォ"ン"………」
「大丈夫か?」
「ム"リ"…………カ"オ"カ"イ"イ"………イ"イ"ニ"オ"イ"シ"タ"………」
「駄目みたいだな……見ろ木崎、これが修に狂わされた奴の末路だ。俺はこうなってきた被害者達を男女問わず見てきた」
「………待て、
「旅行先とかのトラブルに巻き込まれて、そこで関わった奴が修の無自覚な毒牙にかかる事が良くあるんだ。ざっと数えて両手足の指でも足りないぐらいにはな」
「………お前も苦労してるんだな」
「まぁこれは異常な例だが……見ろ」
「からすま、おきろー」
「どうしたんだお前そんなキャラじゃなかったろお前やめろお前俺は」
「ん…しょっと」
「」
「いつもがんばってるな、よしよし」
「」
「だいじょーぶかこなみ?」
「……はっ。なななっ、なによアンタ!?私を気遣おうなんて100年ぐらいはや……」
「でもかおあかいぞ?どれ……」ピトッ
「………キュウ」バタッ
「ぐったりしてる、やっぱりむりしてたんだな」
「すごいねぇ修くん……ところでなんでそんな猫みたいにこっちへ?」
「だめだったか?」
「いやぁ役得というかなんというか、まさかここまでメスお兄さんって言葉が似合う年下が居るとは……あとちょっと近いかな~って……ね」
「?」
「ぐおぉ……顔がいい……あ、あ、そんないやらしい感じにカメラ退かさないで、抗えない………」
「おかしなことをいうな……きれいなのはそちらだろうに」
「コフッ……これが、ASMR………(遺言)」バタッ
「んい?……んっしょっと」
「大体こんな感じだ。自分の魅力を理解していない癖に顔面偏差値の暴力とパーフェクトコミュニケーションで性癖を13ターン後のジェンガの如く崩すのが毎回のパターンだ」
「ちょっと待て、素でもあれなのか?」
「もっとぶっきらぼう……というか冷淡だから時間はかかるんだがそれでも相手に対して下心も無く真摯に接するからな、それに本人は一切気にしていないルックスとかの身体的なスペックも加わると恐ろしいことになる」
「成る……程?」
「それを一番至近距離で10年近く食らい続けた結果が千佳だ」
「納得した」
先輩達を恥ずか死と供給過多で再起不能にした修は達成感を出すかのごとく汗をぬぐう動作をし、そのままあくびをしながら未だに気絶している千佳を抱えるとそのま抱き締めるようにしながらフカフカのカーペットの上で横になって寝てしまった。起きたら供給過多でもう一度気絶するであろう妹に麟児が十字を切っている中、ソファには被害者達が座らされており、その一人一人に遊真が生存確認を行っていたが、すっと麟児達の方を見ると静かに目を伏せて首を横に振った。どうやら駄目だったようだ。
「さて、半数が使い物にならなくなったわけだが……どうする?」
「……仕方がない、御節料理は夜に回して参拝も明日にするぞ。遊真、雑煮の準備をするから手伝ってくれ」
「あいあいさー」
はい、アルコール耐性クソザコオッサムです。
吐いたり二日酔いになったりはしない程度には肝臓は強いですが、ほんの少しでも摂取すると直ぐに普段からは考えられない程にぽやぽやし始めます。完全に無防備に見えますし、なんなら普段は絶対に見れないほどにふにゃふにゃの笑みを向けて来ます。
ただし、身の危険を感じたら即座に手加減なしの攻撃を仕掛けてくるのでご注意を。
ちなみにこの世界では麟児さんは玉狛の面々と迅さん経由て顔見知りですし、今年からは家族が所属するということでかなり親しくなってます。