持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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少し遅れましたが学校研究がようやく一段落しました。
そしてまさかまさかのスイッチとプレステにlibrary of ruinaが日本語吹き替えを引っ提げて発売されますね。
取りあえず買うつもりです。




それでは、どうぞ。


第25話

「千佳がなんともなくてよかったな」

「そうだな、本当に良かった」

「………オサムにとってチカってどんな奴なんだ?」

「大切な人(家族)だが」

「ならなんであんなにコンヤクに否定的だったんだ?別に嫌じゃなかったんだろ?」

 

一連のアクシデントが収まった後、修と遊真は腹拵えを終えてラウンジから離れるように歩いていた。その途中、不意に話題を投げ掛けた遊真はその答えに眉をひそめる。

 

「まぁ、なんというか、そうだな………強いていえば自分みたいな奴なんかが千佳の隣に立って良いのかっていう迷いがあったからだな」

「殴っていいかオサム?」

「拳を振り抜いてから言うな。どうしたいきなり」

「オサムが馬鹿みたいな事言ってたから。オレは既にチカと結婚するのはオサム以外認めてないからな」

「お前は俺の何なんだ」

「相棒」

「………まぁ否定はしないが」

 

迷いなく即答され、何とも言えない感情に襲われる。気恥ずかしくなったのか目線を反らすと同時に人通りが無くなった事を確認したレプリカが顔を出した。

 

『オサムは世間一般で言われる「スペックの高い人間」の要素を殆ど満たしているように思われるのだが、何故そこまで自分を下げるのだろうか』

「そうだそうだ」

「………これ以上の幸せを享受するのが怖い、って言ったら笑うか?」

「?」

「前にもお前に言ったかもしれないが、今のこの人生で十分過ぎる位に満たされている。前の人生で何かを殺し続けて好き勝手やって死んでいった自分がこんな恵まれて良いのかと思う時がある」

「………………これがこなみ先輩が言ってたクソボケって奴なのか」

 

呆れたように吐かれた息は人気の無い廊下の空気に溶けていく。そして修の前に立ち塞がるように立った遊真はピッと目の前の相棒を指差した。

 

「お前な………オサムの目的を達成してオレの体を治すまでは何としてもと生きててもらうからな。途中で投げ出すのは許さんぞ」

「あ、あぁ、それはわかっている」

「ついでにチカと幸せになってる姿を見せて、オレに色んな事を教えてくれ。そうだな……個人的にはオサムの言う外国がどんな場所か見てみたいな、連れてってくれ」

「………欲張りだな、お前は」

「オレをそうさせたのはオサムだぞ。オサムだけにしか出来ない事だし、チカの幸せにはオサムが必要だ。生きる理由を見つけたくないなら俺達が縫い止めてやるから覚悟しろ」

 

屈託の無い笑みを向けられ、それにつられて仕方がなさそうに笑う修。まだなにかを背負ったような悲しげな表情ながらも、それはどこか安心したようなようにも見える。

 

「ありがとう、遊真」

「なんか言ったか?」

「独り言だ、気にしないでくれ」

「そっか」

「あぁ………そろそろ指定の時間だな」

「んじゃ行くか、今日はどのEGOにするんだ?」

「ふむ……確か嵐山さん達の隊服は赤色だったか。なら……」

 

 

 

 

所変わって新入隊員の案内を終えて集まった嵐山隊の元へ迅が訪ねてきた。左手には大きい袋タイプのぼんち揚が収まっており、それを貪りながら軽く挨拶し始めた。

 

「あけおめ~嵐山」

「この間ぶりだな迅、あけおめ」

「他のみんなもあけおめ~。はい、お年玉代わりのぼんち揚」

「………遠慮します」

「え~……まぁいっか。じゃ、案内するからついてきて」

 

いつもの冷静さが現れた表情というよりもどこかいじけているような感じがする木虎に迅と嵐山以外の3人は内心首を傾げている。午前中の出来事で心が疲弊している佐鳥はそんな空気を変えようと佐鳥が前を歩く迅へ声をかけた。

 

「あの~、迅さん?オレら今から何するんです?」

「嵐山から聞かされてないの?」

「何か訓練を行うってのは聞いてますけど、その内容を聞いてもはぐらかされるから気になって気になって」

「対黒トリガーを想定してるだなんて銘打ってるなら……もしかして貴方が相手ですか?」

「えぇ、マジ!?」

「いんや、俺はもう黒トリガー手放したからS級じゃないよ。エリートであることは変わらないけど」

「でしたらどういう……?」

「ま、見た方が早いさ」

 

思い付いた可能性を笑いながら否定され、更に疑問が膨らんでいく。普段であれば明朗快活に答えてくれるリーダーもそんな笑顔でいながら答えはしない状況に困惑する中、目的地と思われる部屋の前に到着する。

 

「お待たせー、連れてきたよ~」

「存外早かったな迅。主要な奴は集まったぞ……太刀川は防衛任務で出水に引きずられてったが」

 

扉を開き入って来た迅を出迎えたのは笑顔の東と10人程度の目線だった。

 

「玉狛第一に風間隊……それに東さん?珍しい組み合わせですね」

「あ、さっきの女の子もいる…そういや、あの子も玉狛所属だっていってたっけな?」

「………嵐山さん、このメンバーってことは」

「確かもう伝えられてたんだったな、多分思っている通りの事だぞ」

「えぇ、聞かされましたよ………佐鳥先輩、時枝先輩、戦闘準備をしておいた方が宜しいかと」

「「?」」

「それじゃ俺達は転送するからここで待機、綾辻は向こうのオペレータールームに行って準備してくれ」

「は、はい、わかりました」

 

困惑しながらも気合いを入れ直したオペレーターの少女……綾辻遥が所定の位置に着くまでの間、迅がふと思い出したかのようにあ、と声を漏らす。

 

「嵐山、向こうから伝言」

「ん?なんだ?」

「「殺し方への文句は受け付けない」だってさ」

「……………そうか!まぁ今さらどんなやり方されたって気にすることでもないと思うが」

「そりゃあそうだけど、相手が誰でもホントに容赦の2文字がないからなあ。小南とか京介相手でも顔面ぶっ潰すし」

「さっきから会話が物騒過ぎませんこと!?」

「ちょっと黙ってて下さい佐鳥先輩……今烏丸先輩のご尊顔をトリオン体とはいえ傷付けた愚か者を罰するイメージトレーニングしてるんです……!」

「こっちはこっちで殺る気満々だし!」

「どうどう」

『あの、準備完了しました』

「お、じゃあ早速始めようか。転送されて数秒で首吹っ飛ばされないように気をつけろよ~」

 

丁度食べ終えたぼんち揚の袋を小さく折り畳みポケットにしまい込んだ迅がヒラヒラと手を振って転送されていく嵐山隊を見送る。

 

「にしても、狩人くんも容赦ないなぁ。嵐山は兎も角他のメンバーのトラウマにならなきゃいいけど」

 

視界の端に映ったこれから巻き起こる蹂躙劇に対してなんとも言えない苦笑いを浮かべながらぼそりと呟く。

 

(ま、僕達であれならそんなもんか)

「どうかしたか?」

「なんでもないですよ」

 

それを意図せず聞いてしまった菊地原は、特に表情に出すわけでもなく静かに観戦しようと歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

トリオンで形作られた仮初めの閑静な住宅街。人々の声や気配は当然無く、ただのステージとして存在しているその街の中を歩く者が一人。

 

「……………」

 

血のように赤い外套、所々が赤黒く汚れた黒の、腕や足に巻かれた包帯、そして血がこびりついた手斧と短銃。構成する全てが異質と言えるような姿をしているその存在は住宅街の裏路地を静かに移動していた。

 

「『獲物が来たか』」

 

被っていたフードの影から見えたのは黒く長い髪に本物の獣の牙を縫い付けたかのような口を覆うマスク、そして爛々と光る赤い目のみである。口から出るのはおおよそ日本語とはかけ離れた言語であり、その雰囲気も喜びなどではなく一種の哀愁を感じさせる。

 

「『………あぁわかっている、だが成長には壁が必要だ。だから貴女の力を借り受けよう、より多くの()を殺すために』」

 

 

 

 

 

 

『全員転送されたな。充はいつも通り俺と合流、木虎は佐鳥の護衛を頼む。綾辻は最短距離を割り出してくれ』

『護衛?狙撃手にですか?』

 

普段であれば隠密させ遊撃に向かわせる筈の木虎への指示に隊員達は首をかしげる。

 

「オレが言うのもあれっすけど、木虎もそっちに合流した方が良いんじゃないんですか?」

『私も同意見です』

『確かに木虎の速さと突破力は武器足り得るだろうが、こちらから向こうの姿が確認できない以上一人でいると狩られる。相手はトリオン体じゃないし、風間さん曰く生体反応もキャッチ出来ないらしいからな』

 

疑問を持って尋ねるも返ってきたのは指示の続行と更なる追加情報。しかし、それに加えて次に出てきた言葉にその混乱は加速することとなった。

 

『何せ相手はあの"狩人"だ、初動に何をしてくるかわからない程に手札が多い。警戒するに越したことは無いだろう』

「………………はい?」

『…………………』

『………すいません嵐山さん、今なんと?』

『あぁ!今更言うのもあれなんだが、今から相手するのは先月の中旬位に会った狩人くんだよ。ボーダーに本格的に協力してくれる事になって俺達の訓練相手になってくれているんだ!』

「いやいやいやいや!?急すぎませんか!?」

『あの時の彼がいるんですか』

 

隊員2人とオペレーターの動揺が通信越しにも伝わってくる。そんな中、相手の規格外度合いを意図せず知ってしまっていた木虎の声は呆れが混じっていた。

 

『………私は菊地原先輩に聞かされましたが、何故そうも口を閉ざしていたんです?』

『一応都市伝説の類いを公に出来ないというのが一つと彼の持つ能力が世間に知られたら大惨事どころじゃすまないからだな。まずは身をもって体験してその重大さを知ってもらおうということらしい!』

「そんなハツラツと言うことじゃないですよ!」

 

そんな叫びが思わず溢れていたのも束の間、佐鳥の居るマンションの近場にやってきた木虎は深く息を吐きながら通信を入れる。

 

「………こちら木虎、佐鳥先輩と合流しました」

『わかった、慎重に移動して狙撃ポイントを選んでくれ。くれぐれも気配を晒さないように気を付けるんだぞ?』

「木虎、了解」

「佐鳥、了解………」

 

通信が途切れそのまま移動を開始する二人。その途中、建物の屋上を渡りながら不意に佐鳥が口を開いた。

 

「木虎知ってたの?」

「何がですか」

「いやー、今から戦う相手があの赤い"狩人"だってこと」

「……今期の新人の一人がその"狩人"なんです。質問には答えましたしそろそろ口を閉じて……」

 

両手に拳銃とスコーピオンを展開しながら振り返る木虎。目の前にいる自身の先輩は未だ事態を飲み込めてないようで微妙な顔をしており、その事に対し若干呆れながら瞬きを行う。揺れるバッグワーム、とぼとぼとついてくる佐鳥、そしてそんな佐鳥の背後から血塗れの手斧を振り下ろそうとしているナニカ。

 

「ッ!!」

「ちょあッ!?」

「『………………』」

 

ほぼ反射的に拳銃の引き金を引きスパイダーを射出して標的となった佐鳥を引っ張り寄せる。振り下ろされた手斧が佐鳥の頭をかち割ることこそ無かったものの、引っ張られた際にバランスを崩した結果左腕を二の腕辺りから切り飛ばされてしまった。

 

『こちら木虎、ターゲットと接敵!佐鳥先輩の片腕を取られました!』

『了解、そちらに向かう!出来る限り到着までの時間を稼いでくれ!』

『………あまり期待しないでください』

 

頭の中で通信しながらも相対している狩人に集中し、両手の内にある拳銃と刃を握りしめる。

 

「佐鳥先輩、撤退して隠れてください。この距離は貴方の間合いじゃない」

「りょ、了解!」

 

片腕を失った佐鳥はトリオン体の身体能力を活かして直ぐ様隣の建物に跳び移り、急いで離れていく。その間狩人は武器を下ろし、その場に突っ立ったままだった。

 

「………随分と余裕なのね、狙撃手をみすみす見逃すなんて」

「『印は付けた、後で刈り取る』」

 

相も変わらず口から出てくる言葉は日本語とはかけ離れた言語だが、トリオン体で言語が自動的に翻訳されている状態の木虎がそれに気付く事はない。しかしその意味はある種の死の宣告であり、その標的に自分も含まれていることは自覚している。目の前にいる存在を見ているだけで心が折れそうになるが、エリート隊員としてのプライドが自分が膝を突くことを許さなかった。

 

「……………」

 

奇しくも同じような装備となった2人。色彩も似てはいるものの、木虎は正義のヒーローを象徴する赤で修は血を被ったような紅とその性質は真逆であり、より狩人としての装備の異質さが際立っている。一度目は得体も知れぬ都市伝説として、二度目は新入隊員として、そして三度目は明確な倒すべき敵として遭遇した木虎は警鐘が鳴り止まないのを無視して静かに出方を観察していた。

 

「貴方、そんなにおぞましい感じだったかしら……?」

「『お前の知っているであろう姿は力の無いレプリカを身に纏っているだけでな、こちらが本来の力だ』」

 

あからさまな異質さについ思考が口に出る。それに律儀に答えてくれたのも束の間、狩人は目の前の相手を標的と定めた。

 

「がはッ!?」

 

予備動作やそれに準ずる予兆もなく突然腹に入った蹴りは木虎の体を軽く吹き飛ばし、先にあった5階建てのビルに突っ込ませる。何が起きたかを認識する前には既に次の攻撃が迫っており、木虎は反射的に手放した拳銃を消してシールドを張って防御する。半透明の壁に突き刺さった物を見てみるとどうやら迫っていたのは猛スピードで投げられた血濡れの手斧であり、シールドへの刺さり方から頭を潰す明確な意志が感じられた。

 

「速い……!さっきの試合どころの話じゃ「『口を動かす前に体を動かすことだ』」

 

ひしひしと感じる殺気に抗いながらも体を動かす木虎。しかし一瞬意識が逸れた時には既に狩人は迫っており、己を覆っていたシールドを蹴りで木っ端微塵に消し飛ばす。離脱しようと出せるようになった拳銃からワイヤーを発射するも、巻き取るよりも早く短銃で拳銃ごと右手を消し飛ばされた。壁際に追い込まれた上に利き手を失った木虎だが、それでも最後まで抗おうと上下に刃の付いた形のスコーピオンを生成する。

 

「しッ!!」

 

壁を蹴り、腕を振るう。改造が施されプロペラの如く回転するスコーピオンは軌道上の物全てを切り裂く刃として木虎の手の中に存在していた。

 

「『いい気迫だ、だが実直過ぎる』」

 

しかし当たれば只では済まない攻撃であっても修にとっては取るに足らない物のようで、軽く避けて往なすとそのまま腕を掴んで背負い投げの要領で投げ飛ばし、クレーターが出来る程の強さで床に叩き付ける。

 

「がぐぁっ!?」

「『まず一人』」

 

反動で一瞬跳ね上がって制御が利かなくなった瞬間を狙って短銃を頭に突きつけて連射し、頭を吹き飛ばす。木虎のトリオン体が爆発しベイルアウトしていくのを見上げながら修は定めた標的に付けた印の位置を目指して地を蹴ろうとする。

 

「『!』」

「そこッ!」

 

しかしそれよりも前に、突如として現れた嵐山と時枝による突撃銃の弾幕が修を襲ったのだった。

 

 

 

 

 

「修ってばまた手加減してない?」

「仕方ないんじゃないか、今のあいつは仮想敵だ。理不尽に対してどう対抗するかがこの訓練の課題だが、あまりにも強大すぎたら成長の機会にならんだろう」

「あー……こないだの強制水中戦とかヤバかったっすもんね、対策がなければほぼ一方的でしたし」

「機械っぽい鯱みたいなのになってたしね~、あれの名前なんだったけ」

「"夢貪る濁流"ですね」

 

観戦席に集まっていた玉狛支部のメンバーは各々が感想を口に出しながら記憶を辿り、思い浮かぶのは支部の訓練室で行われた蹂躙の数々。時には完全に水没した工業地帯で無機質な巨大な魚の尾ひれで体を粉砕され、時には無数の棘で串刺しにされ、時には訳もわからず意識を失い、そしてまた時には真正面から阿修羅のような姿となって切り刻む。対峙する度に磨かれていく自らの技を繰り出しても念入りに対策を練ったとしても、その悉くを涼しい顔で真正面から踏み潰していく修の姿は全員の脳裏に焼き付いていた。

 

「一回位は本気の修とやってみたいのよね」

「やめといた方が良いよ、絶対に」

 

小南のぼやくような一言に対し、冷たく切り返される。

 

「何でよ迅」

「メガネくんが本当の意味で本気を出せば相手が廃人になりかねないから。そもそもEGOの中にはトリオン体を貫通して身体に直接ダメージが行く奴もある、そんなもの使われたらもう俺達に対抗する術はないよ…………まぁそんなものなくても心をへし折るぐらいなら余裕なんだろうけど

「一番最初に俺達と戦った時に使ったあのヤバそうな筋繊維の塊みたいなスーツが最高戦力って言ってませんでしたっけ?」

「あれは京介達を殺さないように出来る中での話。メガネくんは本気を出さないんじゃない、出しちゃいけないんだ。あれは人に向けるには過剰にも程がある」

 

いつもの飄々とした表情は何処にもなく、ひどく凪いだ目からは諦観が浮かんでいた。初めて見る様子に固まる面々の中、千佳だけは納得しそして困ったような笑みを浮かべていた。

 

「迅さんも見たことあるんですね」

「千佳ちゃんは流石に知ってたか。俺の場合は不可抗力だったけどね~………もう少しで目が焼き切れて未来視無くなるか発狂して死ぬかも知れなかったレベルでヤバかったけど、お陰様で耐性が出来たのも事実だし」

「あぁ、成る程……ちなみにどれでしたか?」

「音楽家と死体の川、罰鳥ちゃん達のフュージョンに……あとは影かな。一回ヤバいの見て気絶したのもあるけど、気絶したっていう記憶があるだけで今一何を見たのか思い出せなくて……」

「修くんお得意の精神分析(物理)ですね」

「……ちなみに内容は?」

「顎辺りをこう……ゴスッと」

「だから目を覚ました時なんか痛かったのか」

 

話している内に当時を思い出したのか顎を擦りながら微妙な顔をする。頭の中の記憶の一つが抉り取られたかのように消えていることに関して少しばかり違和感を感じているのだが、それ以上に本能がその記憶に触れることを拒絶しようと心臓の鼓動の速度を上げる。体調を正常にする為に頭を振って思考を元に戻した迅に対し、訓練の様子を眺めていた東が話に混ざるように口を開いた。

 

「随分と物騒な話だな」

「俺は事実しか言ってないよ東さん。文句ならこうでもしないといけない未来に言って」

「それ程なのか、ボーダーの未来の危機は」

「最悪三門市どころか日本滅ぶからね、けどメガネくんだけに頼ると絶対に破綻する。どうあがいても一人しかいないから」

「………お前が視た未来の敵は何なんだ?」

「こちらの対策を狂った技術とパワーですりつぶしに来る化け物、ついでに言えば本番は侵攻してくる奴らじゃない。ま、ただ一つ言えるのは………」

 

東と目だけを動かして合わせていた視線を前に戻す。

 

「現れるそれが俺達からしたらとんでもない理不尽でしかないってこと位だよ」

 

 

 

 

 

 

「………仕留めましたか?」

「ッ!まだだ充ッ!」

「『温い』」

 

ズドドドドドドドッ!!

 

煙の中から声がすると反撃と言わんばかりに同時に固まった血のように赤黒い銃弾が全方向へ乱射される。手応えをほとんど感じていなかった嵐山は即座にテレポーターで近場の建物の屋上に退避し身を隠した為難を逃れるが、虚を突かれた時枝は回避が間に合わず防御で凌ごうとシールドを張った。

 

バキッ バキバキバキバキッ!

 

「ッ!」

『一発一発が見た目より重すぎませんかあれ、シールドの割れ方が異常なんですが』

『時枝くん、シールドの耐久値がそろそろ限界よ!』

『賢、片腕吹っ飛ばされた所悪いが援護を頼む!』

『りょーかいです!』

 

割れた端からシールドを重ねるも段々と生成が追い付けなくなっていき、やがて一つの弾丸が片足を食い破りバランスを崩す。それでもなお弾幕は止む気配は無く、それどころか狙いを付けたのか全方向にばらまかれていた銃弾は真っ直ぐに時枝を集中的に狙っていた。

 

『そろそろっ、限界ですッ!』

 

焦りが混ざったように呼び掛ける時枝のトリオン体は次第にヒビが入り始めており、防ぎきれなくなってきた銃弾が更に体を削り続ける。

 

(見っけた!)

 

煙が霧散する直前、至る所からトリオンが吹き出し満身創痍とも言える状態の同僚への攻撃の主らしき人影をスコープ越しに捉えた佐鳥は即座にイーグレットの引き金を引いた。同時に嵐山も少しでもダメージを負わせようとアステロイドを乱射し擬似的なクロスファイアが煙の中を通り過ぎた。それと同時に煙から飛び出ていた弾丸が沈黙しやがて煙が完全に晴れる。

 

「………へ?」

 

そこにあったのはアステロイドと狙撃によってバキバキになったコンクリートの道路と崩れたブロック塀のみ。目立つはずの赤色は視界の何処にも存在はしていなかった。

 

「えぇッ!?何で、今の一瞬で何処に………」

「『片腕で良くやるものだ、4級フィクサー辺りなら仕留められていただろう』」

 

スコープを覗き込んだまま見失った相手を探していた佐鳥が上から聞こえてきた声に体を硬直させる。反射的に顔を上げた際、その視界の端には己の物とは別の人の形をした影が見えるが、その姿勢は明らかに真っ直ぐ立っているようには見えないものだった。

 

「『だが判断を間違えたな、()はそこまで鈍重じゃない。せめて倍は離れておけ』」

 

グシャッ!!

 

何か行動を起こす前に振り下ろされた足の軌道上にあった佐鳥の頭は呆気なく踏み砕かれ、そのまま体も砕け散りベイルアウトする。それに伴って発生した白煙が晴れる頃には既に修の姿は消えていた。




もし最初の独白を千佳さんに聞かれてた場合


「…………強いて言えば自分みたいな奴なんかが千佳の隣に立って良いのかっていう迷いがあったからだな」
「………なぁ、オサム、俺は何も知らないからな」
「何の話「修くん?」……千佳?」
「………修くんってば、自分を下げる癖は治らないよね。私悲しいな」
「……俺が人でなしなのは間違いないだろう」
「もう、私の旦那さんは頑固なんだから」

テク テク テク

「千、佳?」
「そんなひどいこと言っちゃう口は……こうするから」
「おい待て千佳、何をッ!?」

ズキュゥゥゥゥンッ!!!!

「んむッ!?」
「おー」

ぢゅるるるるるるッ! ヂュゾッ! レロレロレロレロ! チューッ! チューッ! ズルズルズルズルズルズルッ!

「~♥️」



「長いな」
『始めてから既に5分が経過している。流石に息が継続できなくなる頃合いだろう』
「普通はこういうもんなのか?」
『人それぞれと言うべきだな』

「ぷはッ!」
「はぁッ………はぁッ……わかった、わかったから少し離れ………」
「あはッ……まだ、まだ足りないみたいだね?」
「おいちょっと待て、なんでまたッ!?」

ズキュゥゥゥゥンッ!!!!

「~~~ッ!?!?」


「まだ長そうだし先行っとくか」
『そうだな』
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