持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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最近になって他の小説の続きの案が思い浮かんでしまったので執筆中です。あと期末テストもあるので2月は投稿頻度が落ちると思われます。




それでは、どうぞ。


第26話

「本気で、ですか」

「うん、一回位は体験しときたいからさ。」

 

これはとある日の深夜、皆が寝静まった頃に訓練室内で交わされた言の葉である。

 

「こっちも風刃を使うし、なんだったら使える手を使って遠慮なく殺すつもりでやる。君の全力を見せて欲しいんだメガネくん」

「………わかりました、それなら即座に復活できる状態にしてください。確か、トリオン無限モードでしたか?黒トリガーにもそれが適応されるかは知りませんが」

「オーケーオーケーちょっと待ってて」

 

数分後、ステージとして再現されたのは夜中の住宅街の中、街灯も殆ど点灯していない暗い町並みだった。そんな状況の中、僅かな明かりが2人を照らしていた。

 

「それで、貴方はどちらを望みますか?」

「どちら……ってのは」

「人としてか、それとも化け物としてか」

「…………なら、人としての君でお願いするよ」

「承知しました、では始める前に一言だけ」

 

そう淡々と返す修の姿が突如として書き変わる。本のページを10枚跳ばして捲られるように、録画された映像がスキップされるように切り替わり、予兆もなく現れた映画のフィルムテープは修だった存在の周囲を漂っていた。

 

「自ら望んだのなら、折れる事すら許されると思うな」

「ッ!!!!」

 

その存在が現れた瞬間に迅の視界に見える未来の全て、膨大な数の分岐の先が己が殺される様子に切り替わり、その事態に本能から理性まで全てが警鐘を鳴らしたことで反射的に8つの刃が靡く風刃を片手に地面を蹴って退避する。

 

「一度目は終わったぞ」

 

しかし既に始まっていた悪夢から逃れることは叶わず、動きだした頃には翡翠色の線が走り視界が横に真っ二つに割られていた。

 

「首、眼球、脳天、肺、心臓、脊椎………ざっとこんなものか、次は捻り殺す。宣言はした、対処して見せろ」

 

理解が及ばずバランスを崩しかけた迅のトリオン体が修復されると同時に空間に描かれるように線が走る。それを繰り出し続ける当人の目に光は無く、ただひたすらに相手を殺し続ける様は死そのものの体現のように錯覚してしまうものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さっきも体験したばかりだが速いな本当に!」

「今の一瞬で賢のところまで………」

 

仲間からの通信が途切れ、更には遠くで佐鳥が脱落した証が昇っていくのを見届けた2人は改めて武器を握り直す。だが時枝の体は至る所にヒビが入ってそこから黒い煙状のトリオンが漏れ出ており、既に死に体だった。

 

「充、お前は防御に専念してくれないか」

「……嵐山さんがフルアタックできるようにと言うことでよろしいですか」

「話が早くて助かる。綾辻、演算の手伝いを頼んだ」

『はい!』

 

気合の入った返事に頷きを返した後、嵐山は辺りの静寂に耳を澄まして集中し、思考を巡らせただひたすらにこの戦いに向き合い最適解を導きだそうとし始める。

 

(残っているのは俺と重傷の充だけ、この状況なら彼は……狩人はどうする………?)

 

静寂が辺りを包み込み、体を動かした事で布同士が擦れる程度の僅かな音すらも響くような現状、トリオン体には存在しない筈の心臓がからだの中で素早く脈打っていると錯覚してしまうほどの緊張感が嵐山を襲う。

 

(相手の武器は短銃と手斧、けど完全なインファイト型じゃないのはわかってる。そもそも彼の身体能力だと突撃銃の射程位の距離なんて有って無いようなものだ考えるべきは………)

 

既にやられた2人が撃破された状況こそ分からないものの断末魔すら無かった最後は意識の外からの攻撃であることは予想していた。猛者とも言えるレベルの練度を有する嵐山は経験則から答えを導きだそうと思考を巡らせる。

 

(攻撃対象と方向!)

「頭下げろッ!」

 

そう叫ぶと共に凪払うように突撃銃を乱射する。元から足を失い地面に座り込んでいた時枝は即座に反応して屈み、そのすぐ頭上を通った光弾の一つは音もなく近づいていた狩人の刃によって切り捨てられた。

 

「『良い反応だな』」

「お褒めの言葉どうも!」

 

一言だけの簡潔な会話の後、場所をある程度特定した嵐山は引き続き突撃銃を乱射する。普通の人間であればなす術もなく蜂の巣にされるか防戦一方になるか、はたまた射線を切りながら近づいていくのだが

 

ズガガガッ!!

 

機関銃による弾幕を真正面から凌げる修から見れば大した脅威にはならない。右手に握られている手斧で片端からアステロイドを弾きながら赤黒い銃弾を数発放つも、時枝が展開したシールドがそれを阻んだ。

 

「シッ」ブォンッ!!

 

続けざまに投げられた手斧は高速で回転しながら真っ直ぐと敵へと突き進む。しかしそれを視認してなお嵐山は修を見据えたまま銃を放ち続ける。

 

「シールド!」

 

地面に蹲る時枝が出した局所シールドが間に入り込み、手斧の行く手を阻もうとする。防御手段を失った修に対してアステロイドが襲いかかるが、それを器用に回避するとそのまま短銃の引き金を引く。

 

ガガギンッ!!

 

しかしその銃弾は時枝や嵐山ではなくシールドへと吸い込まれそのまま跳弾して手斧を弾いた。

 

「「ッ!?」」

 

既にボロボロで援護に徹していた時枝が狙われると考え、余ったシールドを重ねていた2人は虚を突かれて一瞬だけ思考に空白が生まれる。回転が止められ滞空した手斧は瞬間移動のような速さで移動していた修によって掴み取られた。

 

「いつのッ

ドグシャッ!

 

嵐山と時枝の間に現れた修は振り向く時枝の方へ一瞥もせず手斧を投げて脳天に突き刺す。限界を迎えたトリオン体がベイルアウトする風圧でコートを靡かせる姿に気迫こそ無いものの行動が一切読めない不気味さがあり、対峙する嵐山は静かに息を飲んで武器を構える。

 

「………」

「『………』」

 

緊迫した空気の中、ただだらんと腕を脱力させて立つ修と油断なく敵を見据える嵐山。沈黙が辺りを包み込み互いに動かない状況が続くが、その静寂はゆるりと踏み出された一歩で消え去った。

 

一歩目  突撃銃が放たれる

 

二歩目  射線に入らぬように斜め前に跳ぶ

 

三歩目  互いに踏み出し得物を構える

 

「らぁッ!」

 

至近距離で食らわせようとしたのは午前中の試合でも行ったスコーピオンによる刺突。しかし後ろから半ば不意打ち気味に行った際は即座に対応され、むしろこちらがダメージを負った。だが今度は真正面から相討ち覚悟で突貫しており、防御を考えていない鋭い一撃は修に迫っていた。

 

バサッ

 

しかしその刺突も首を捻って避けられたことで被っていた頭巾を落とし、素顔を晒すだけに留まってしまう。

 

「……えっ」

「『…………』」

「その、顔は」

 

追撃しようとした嵐山の動きが止まる。晒された修の顔、その右半分の皮膚は薬品か何かによって溶かされたように爛れており、場所によっては筋繊維が剥き出しになっていた。そのおぞましさに精神が揺らぎ、それに伴い体が硬直する。

 

「『この程度で動揺するな、愚か者』」

 

生まれた一瞬を狩人が見逃す筈もなく、首を掴んで惚けたように開けられた口に銃身を捩じ込むと

 

バァンっ!!

 

そのまま炸裂弾を撃ち込んで頭を丸ごと吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「うーん、四人全員頭を潰してフィニッシュ。未来視で見た通りだけどこれが生身だった場合とか考えたくないね」

「いつにも増してえげつないっすね。一応身に纏ってるのも含めてEGOだから蹴りとかでもダメージになるんでしたっけ」

「そーだね、まぁあの状態はアブノーマリティに()()()()から厳密にはちょっと違うけど」

 

強制的エンカウントした勇者パーティーとデータだけが残された理不尽な裏ボスの戦闘の如く一方的な蹂躙劇を見て、自分たちの端から見た姿を幻視した玉狛第一の目が遠くなっていた頃、唯一この展開が読めていた迅はからからと笑っていた。

 

「ふぅむ」

「遊真くん、どうかしたの?」

「……少し気になったんだが、あの肌って多分EGOの影響だよな?」

「うん、EGOの元になったアブノーマリティの姿に近づくからこの間みたいに生物じゃなくなったりすることもあるんだよ。それがどうかしたの?」

「単純に痛くないのかと思ってな。あぁいう怪我は空気に触れるだけでも痛むのが殆どだし、オレ自身がなったわけじゃないけど戦争であんな風に肌が焼け爛れて苦しんでた奴は居た」

「……多分普通に痛みはある筈だけど、修くんにとっては取るに足らない事なんだと思う。腕が千切れても真っ先に私を気遣う位、自分に無頓着だし」

 

困ったように笑った千佳の開かれた目からハイライトが消え失せていた。普通ならその変化に動揺するものだが、遊真からしたら3人で修の家で寝泊まりしていた頃によく見ていた光景であり、それよりも告げられた言葉の方に関心が向けられる。

 

「………修の腕が千切れたことがあるのか?」

「事故で死にそうになった私を庇ってね………私がもらってばかりだからちゃんと一生かけて返さないと」

「修が聞いたら「そんなことする必要も無いだろう」とか言いそうだな」

「言われても良いよ。絶対に離さないって『わからせる』だけだから」

「ほほう、ガンバレ」

「いやどんな会話してんのさ」

 

花が浮かぶ様子がうかがえるようなオーラを出しながらとんでもない事を口走り、更にそれを受け流すが如くサムズアップするという会話についに耐えきれなくなったのか、菊地原は顔をしかめて溜め息をつきながら文句を吐く。

 

「どちらさまで?」

「菊地原、覚えなくて良いから。で、それより何?あいつの恋人かなんかなのお前」

「はい、婚約者ですよ」

「………………マジ?」

 

予想よりもズブズブな関係であるという回答に問い掛けた菊地原のみならず後ろで聞き耳を立てていた風間隊の面々も驚いたように目を丸くしながら千佳を見る。その目線を受けてもなお、千佳の表情は微笑みのまま固定されていた。

 

「……チンチクリンな奴が好みってわけ?」

「どーゆー意味?」

「そりゃそう思うでしょ。お前ら2人ともちっこいし、そのうちチーム組むって勝手に聞こえて来たし」

「………修くんは容姿でチームメイトを決めた訳じゃありません。私からお願いしたんです」

「A級に上がるにはチームを組む必要があると聞いたからな、オレもオサムも互いに目的を達成するのに近づくからうぃんうぃんという奴ですな」

「ふーん、あっそ。期待しないでおくよ、変わった見た目だけじゃ初見じゃ兎も角そのうち限界があるだろうけど」

「おい菊地原、もう少し言い方をだな……」

「珍妙なのは間違ってないでしょ。ただでさえあいつ一人でも個性の塊みたいな感じなのにこいつらまで加わったら一種のエレクトリカルパレードじゃん」

「まったく……すまないな君達、菊地原は素直じゃなくてな。君達が潰されないか心配で激励してるだけなんだ」

「ほほう」

「ちょっと勝手に意訳しないでよ歌川、しかも全然違うし」

 

そう言って菊地原は相方を小突く事に意識を向けた。決してズモモモモと背後に黒いオーラを放ちながら微笑む千佳がボソリと「闇討ち……」と呟いていたからではない。ないったらない。その事を知ってか知らずか、取りあえずカオスな現状をどうにかしようとした三上は遊真達に声をかけた。

 

「えーっと、突然ごめんね、2人は新人さんかな?」

「空閑遊真デス」

「雨取千佳です」

「私は三上歌歩、風間さんが率いている隊のオペレーターをしてるの。宇佐美さんの後輩……になるのかな、困った事があったら相談してね」

 

柔らかく笑いながら純粋な気遣いでそう述べる三上に警戒を解いたのか、若干重くなっていた空気が解消される。その一方で戦いを終えたばかりの嵐山隊はベイルアウト先となっていた部屋からオペレーターを伴ってゾロゾロと出てきていた。

 

「いやぁ、ビックリした。まさか口の中に銃を捩じ込まれるとは思わなかったな!」

「何でそんな元気何ですか~…………うぅ、まだ踏み潰された感覚が頭に……」

「そんなやられ方してたんだ」

「…………………」ムッスー

 

朗らかに笑う嵐山とは対照的に、他のメンバーは少々疲れている様子が見られる。トリオン体である以上肉体的ではなく精神的な話になるのだが、そうなってしまうほどに狩人との戦闘がキツいものだったのだろう。顔面から頭を踏み潰された佐鳥は顔を青くして頭を抱え、近接戦闘を呆気なくいなされて頭を撃ち抜かれた木虎はいじけたようにそっぽを向いていた。

 

「帰ってきたか」

「風間さん」

「感想は?」

「やっぱり虚を突く戦い方が高度でしたね。いくら警戒してもそれを軽く乗り越えて殺してくる、そんな感じです」

「この試合の中で刃同士が触れ合った事すら無いからな、やはり本領を発揮出来るのは暗殺形式か……」

「『本来なら姿を見せずに殺す所だがそれだと意味がないだろう?』」

 

風間と嵐山が意見の交換を行っている所に訓練室から堂々と出てきた修が合流する………めくられたフードを戻すこと無く、その爛れた皮膚を晒したまま。

 

「ヒェッ!?」

「「「ッ!?」」」

「『どうかしたか?』」

 

振り向いた一同はその異様な姿に各々驚いた様子を見せる。

 

「あー、うん。三雲くん、さっきまで君の頭を貫こうとした俺が言うのもアレなんだが………大丈夫なのかい?」

「『………何の話だ?』」

「今の君の顔半分を覆ってる火傷?の跡だよ」

「『これか?正直トラックに押し潰された時に比べればこの程度の痛み何とも………あぁすまない、外見の話か。見苦しいものを見せたようだな………これで大丈夫ですか?」

 

身に纏っていた服が溶けて血のようになって床へと広がり、爛れていた顔の皮膚が巻き戻るように再生される。そうして普段着の姿へと戻った修はポケットに入れていたメガネを取り出していつものように顔にかける。

 

「嵐山、三雲は今何を話していた?」

「え、聞こえなかったんですか?」

「明らかに他の言語だった。何処かで聞いた覚えはある気がするんだが……如何せん声にノイズがかかってるようで聞きづらい」

「侵食の副作用ですのでお気になさらず。トリオン体には言語を変換する機能がデフォルトで付いているので会話が成立していたのかと」

「あぁ、そういうことか」

 

整合性のある解答を得られて納得した様子の風間。しかし、あくまでもこの反応は事前にこれを知っていた者だった為であり、初めて変化の瞬間を見た者達からしたら脳が理解を拒むレベルで異常な光景だった。

 

「あ、貴方、今のは………!?」

「……説明を受けてないのか?」

「聞いてないわよ、貴方が都市伝説で有名な"狩人"だってことしか!」

「あの、僕らにも説明を」

 

 

~狩人説明中~

 

 

「まぁ、とても簡潔に纏めるとそんなところです」

「ほへー、そんなゲームみたいのが……」

「アブノーマリティ、EGO………都市伝説になる理由には十分すぎるね」

 

他の面々にも説明した内容を話し終えた後、隊長を除いた嵐山隊の面々は背後に宇宙を背負ったり深く思考し始めるが理解するまでは及んでいないようでそれぞれが難しい顔をしていた。

 

「いつ聞いても理不尽な存在だな。話を聞く限り先程や俺達と戦った時のお前の姿の元になった異常存在と同様のヤツがごまんと居るのだろう?」

「この世界には殆ど存在してませんがね。別の世界から持ち込まれたり大国一つが滅んだりしない限りは早々生まれるようなものでもありませんし」

 

何とも思っていなさそうにしながらサラッと物騒な事を宣う規格外。

 

「一つ気になったんだが、今君が着ている赤いコートも元になったのは何なんだい?この間の桜みたいに何か元になった話があるのかい?」

「"赤い傷跡"の事は……まぁ皆さんが知ってる話だと思いますよ」

「………もしかして、『赤ずきん』?」

「……確かに、赤い頭巾的なのを被ってましたね」

「えー、こんな血生臭い赤ずきんいます~?」

「正解ですよ、よくわかりましたね?」

 

ボソリと綾辻が呟いた一言に各々反応していたが、突然行われた答え合わせに悩んでいた全員が修の方へ振り向く。

 

「正しくは違う結末を辿った赤ずきんの成れの果てですね。救出が遅れた結果目の前で祖母が消化されて死んだ上自身の皮膚も溶かされ、それに対する憎悪で残りの人生を狼への復讐に捧げた無垢な少女だった存在が元になったアブノーマリティ……"赤ずきんの傭兵"です」

「……随分とおぞましい話だな。先程の皮膚は火傷ではなく胃酸によって溶かされたものということか」

「人間が元になったアブノーマリティは基本的に狂った末の姿ですよ。人ならざるものとは根本的に人とは相容れないものですから」

 

よく知る童話のバッドエンドのIFストーリーを聞かされ、先程までの姿の由来を否応なしに理解させられた風間は仕方がないと言う風に頭を振った。

 

「人と相容れないものって言うのなら、その力を扱う貴方はそのアブノーマリティとか言うのと何が違うのかしら?」

「一応分類的にはまだ人間だ。まぁ既に殺されてもそう簡単に死ねなくなる程には近づいてはいるが」

「………なぜ死ににくくなるのがその証明になるの?」

「アブノーマリティは殺しても破壊不能の核に変化して数時間後に復活する性質がある、根本的に殺せないし朽ち果てることもない、文字通りの不老不死だ。俺は半ば同存在になりかけてるからな、エネルギーが尽きない限りは心臓が潰されたり脳が吹き飛ばされても普通に生きて元通りになったからな」

 

話を聞いた面々は絶句する。言外に自分自身もほぼ不滅の存在へと変貌すると言っており、それどころか実体験が如く内容を語っているのである。普通であれば妄想であると一蹴するところだが、先ほどまでの人ならざる者の力の一端をつい先程見せつけられたばかりであり、嘘と断じるにはあまりにも情報が多すぎる。そんな中、ただ淡々と説明を続けていた修は一度話を締め括るために口を開いた。

 

「まぁ余程の事が無い限りはそういうものだと思って流してくれ。さっき言った通り、存在するのはほんの少しだ。幽霊や怨霊、あと怪異とか、そういった物の方が世の中には溢れているからな。ボーダーにも何体か居たが消し飛ばしておいた」

「……………………待って、そっちもそっちで聞き捨てならないんだけど?」

「………それで、皆さん他に何か質問はございますか?」

「ちょっと、無視するんじゃ無いわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、雨取」

「鬼怒田室長、どうかされましたか?」

「今期の新人にお前と同じ名字の娘が居てな、もしやと思ったが……」

「あぁ、千佳の事ですか。歳は離れてますが正真正銘俺の妹ですよ。それが何か?」

「おまえさん、前から狩人………三雲と通じていたな?」

 

半分確認するかのように確信を持って尋ねられたその質問に対し、麟児はごく普通に疑問を抱いたかのように返す。

 

「確かに千佳は幼馴染みの三雲と一緒にボーダーに入るとは聞いてますが………それと狩人に何の関係が?」

「誤魔化さんくてもいい、迅の奴から聞いたわい……ったく、わっかりにくい演技をしおってからに」

「………そうでしたか、それで何のご用事ですか。それの確認がしたかっただけなら作業の続きをさせていただきますが」

「待たんか、話はまだ終わっとらん!貴様に声をかけたのはこいつについて聞きたかったからだ」

 

冷淡にそそくさと歩きだそうとする麟児を引き留める鬼怒田の手には一束の資料が握られていた。チラリと見えたその内容に心当たりがあったのか、去ろうと進めていた歩みを止めて上司の方へと向き直る。

 

「EGOですか。まさかそれまで渡されているとは」

「やはり知っておったか。フン、ワシとてこんな厄ネタ望んでなかったわい。技術者として都市伝説とも称されとる奴の武装が気にならん訳では無かったが蓋を開けてみればやれ……下手な小説でもこんなおぞましい物無かろうに」

「例えばどのようなものが」

「色々あるが…一番はこの自殺願望を刺激して手首を切り刻ませるナイフだな。自傷を招く武器の何が役に立つと言うのか……」

 

ほぼ呪いとも言うべき効果に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる鬼怒田。手元にある資料にはEGOの詳細な説明と、例となる物が幾つが載せられており、その中には麟児にとって見覚えのある武器なども見えた。

 

「あぁ、序の口ですね」

「何?」

「その程度はまだ序の口です鬼怒田室長」

 

確認を取って渡して貰った資料に目を通してからの一言目は、そんな呆気ない物だった。

 

「…………貴様が冗談を言うなんて珍しいな」

「その中に人間を砕く事で音楽をかき鳴らして攻撃する大砲は載ってましたか?」

「いやそんなものは……おい待てそんなものが実在すると言うのか?」

「それが無いということは修にしてはかなり精査して手加減した上で纏められたのでしょうね。ここまで配慮出来るようになっているとは……成長したな」

「待て待て待て、勝手に納得するんじゃない!説明せんか!?」

 

麟児の記憶に強く残っているのはそれこそ世界を滅ぼしかねない代物ばかりである。まだ知り合ったばかりの頃、"都市"の価値観が抜けきってない修からそれらを見せられた際に気絶しかけたことも今となっては思い出の一つに………なりはしないが、それでもちゃんと加減していることに麟児は一種の感動を覚えていた。そんな事情を一切知らない者にとってはその様子は疑問しか残らないものである。

 

(流石にアレは見せなかったんだな……まぁ当然と言えば当然か。()()()()()()なんて離れ業、技術者からした発狂で済んだら良い方だ)




最初の奴は修の切り札的な物の一つです。詳しい能力は明確に描写された時に行いますのでお待ちくださいませ。
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