持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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肉体労働で体が辛いですが、何とか慣れたい所存。
今回は少し短いです。





それでは、どうぞ。


第30話

『ランク外対戦10本勝負 開始』

(さーて、どうやってやってやろうかな)

 

自分の恩人で、憧れの人からスカウトされた。その事実がひどく気に入らなかった緑川はスコーピオンを手に再現された街を駆ける。相手はここ最近、ボーダー内部でまことしやかに噂される大型新人。やれトリオン兵の撃破TA最高記録更新者だの、やれボーダー本部の壁を破壊するほどのトリオンを有しているだの、やれA級部隊を壊滅させただの、そういった噂がボーダーに流れている事も抱いていた不満の一助となっていた。

 

(折角集めたんだし、大勢の前でコテンパンにすれば……迅さんも少しはオレを認めてくれるでしょ)

 

そんな思考をしながらもその身のこなしは軽く、やはりA級隊員という肩書きに劣らない実力があるように思える。そして彼の鋭い感覚は遂に修の姿を捉えた。

 

(…………なんだ、雑魚じゃん。期待して損した)

 

その背中は無防備に晒されており、こちらに気づく素振りはない。予想以上に誇張されていた実力に落胆しながらも予定通りに仕留めようと加速する。

 

ガッ!

 

「は?」

「流石に手を抜きすぎだ」

 

そして脳天にスコーピオンが突き立てられかけたその時、先程まで微塵も動く気配が無かった修が振り返り眼前まで迫った刃を片手で掴み取る。驚いて空中で姿勢を崩す緑川に冷めた視線を送ると

 

「グブォッ!?」

 

そのまま無防備な顔面に拳を叩き込んだ。モロに食らった緑川はそのままコンクリートの地面を転がって行くも直ぐに体制を立て直して顔を上げる。

 

スコンッ

「……え?」

 

しかし真正面を見て修の姿を捉えることは叶わず、何故か視界いっぱいに青空を映しながらベイルアウトするのだった。

 

 

 

 

 

「は?」

「何が起きたんだ……?」

 

モニター前に集まっていたC級隊員達はその異様な光景にざわめき始める。修が背後から不意打ちを仕掛けられてからの一連の事象が分からなかった者達は周囲と

 

「まぁそうなるよな」

「うっわ、無茶苦茶やんなぁアイツ。相手のトリガー奪ってから投げて殺すとか誰もやらねぇぞ」

「おお、さすがはおさむだな!」

 

そしてランク戦ブースの一角にあるソファに陣取る3人のうち、真ん中ではしゃぐ陽太郎を挟んでいる米屋と遊真はその優秀な感覚によって緑川が殺られるまでの過程を捉えていた。

 

「にしても、なんでアイツ自分のトリガー使わねぇんだろうな。最初のだって一回打ち合うだけでどうにかできんだろ」

「うーん……多分相手が全力を出してないからだな。普段ならああやって背中を晒すとかしないで殺しに来るし」

「………もしかして俺らを相手してる時も手加減してたりすんの?」

「あくまでもオサムは訓練相手だからな、この前言ってたけどこっちで黒トリガー対策訓練をする時はEGOの能力メインで自分の技量は抑えてるらしいぞ」

「うわ~、怖ぇな~」

 

言葉では恐怖を訴えながらもその口元には好戦的な笑みが浮かんでいた。頭の中で再戦の際の立ち回りを巡らせているらしい。しかし、そんな心情を全く知らない遊真は少々怪訝そうな顔をしていた。

 

「にしてもらしくないなオサムのやつ、普段なら自分から動いて殺す筈だし、あんな風に手を抜いたりしないのに」

 

 

 

 

 

「………」

 

何も理解できないままベイルアウトした緑川は転送先となっていたベッドに横たわったまま天井を見て呆けていた。未だに理解が及んでおらず、起き上がることすら出来ないようだ。

 

(今、何が起きた?オレはどうやって殺された?)

『どうした、次を始めないのか?』

「ッ!」

 

通信で聞こえてきた声で緑川は跳ね起きる。先ほど不意打ちを受け止められた時と同じような、一切の揺らぎのない声だ。

 

「ねぇ、さっき何したの?」

『今気にする事柄か?』

「いいじゃん教えてよ」

『……殴り飛ばした時にスコーピオンを奪って投げて突き刺した、これで満足か?』

 

向こう側から聞こえてくる声は何処までも平坦だった。今さっきの試合の結果に対する喜悦も嘲りもない、ただひたすらに通常運転である。

 

『言っておくが、そちらが舐め腐ったやり方をしてくるなら俺は自分のを使うつもりはない』

「ッ!へぇ、言ってくれるじゃん」

『たった今無手のC級に負けたのがお前だろうに』

 

至極当然であるかのように告げた事実は迅が絡むと面倒になる緑川の神経を見事に逆撫でした。

 

「いいよ、次からはフルでやってあげる」

『御託はいい、早く始めるぞ』

 

 

 

『第2試合 開始』

(早速居た!)

 

2戦目、転送されたのは先程とは違う住宅地、そしてすぐさま視界に入ったのは自然体で十字路に立つ修の姿だった。反射的に駆け出した緑川は手元にスコーピオンを出現させた後、グラスホッパーを起動して加速する。

 

「りゃッ!」

 

今度こそはと意気込んでの斬撃は鋭く、相手の首に吸い込まれるように迫る。だがしかし目標に到達する事はなく、側面に打撃を加えられて軌道がずれて空を切った。

 

「ッ!」

(またさっきみたいに転がされる前に下がるッ)

 

自分の攻撃を防がれるや否やそのまま連撃に入ろうとする体を抑えつけ、グラスホッパーで瞬間的な加速をしてすぐに修から離れる。右手のスコーピオンは掌から直接生えるように生成されているため武器を奪われることもなかったようだ。

 

ガシッ 

 

「はぇ?」

 

だがそんな対策も圧倒的な力とスピードの前では無力である。いつの間にか音も立てずに緑川へ肉薄していた修は相手の首とスコーピオンを生やした手の甲を万力の如き圧力で握ると

 

「成る程、すぐに対策を思い付き実践に移せるのは良い。だが武装の破棄は早くしろ」

 

そのまま緑川が自分で心臓を突き刺すように動かした。

 

 

 

 

 

 

『第3試合 開始』

 

「ぁがっ!?」

 

スコーピオンを出した瞬間に背後から体の自由を奪われ、首をへし折られながら自分の武装でベイルアウト。

 

 

 

 

『第4試合 開始』

 

「ギッ!?」

 

修が突き出した指が眼球を捉え、反射的に目を瞑ったまま開けられない状況で反撃しようとするも、そのスコーピオンを奪われて追加と言わんばかりに顔をかち割られてベイルアウト。

 

 

『第5試合 開始』

 

「ブッ!」

 

グラスホッパーを起動しようとした所で足を掴まれ、そのまま何回も地面や壁に叩き付けられた後に手放してしまったスコーピオンで首を絶たれてベイルアウト。

 

 

 

「………」

 

ベイルアウト先のベッドで寝転がる緑川には余裕等は無く、ただ無言で起き上がって思考する。10本勝負という長丁場であっても既に負け越すのが確定する一歩手前、ついでに言えば相手はまともな武器すら使っていない。そんな状況に置かれた少年は今までにない程に焦っていた。

 

(どうすればいい?どうすれば勝てる?……あんな化け物、どうすりゃいいのさ)

 

脳裏に刻まれているのは自分がベイルアウトする瞬間に見えた訓練生とは名ばかりの怪物の目、現在進行形で戦っているというのに一切の興奮の熱が見られない酷く凪いだ目は少年の心の恐怖を掻き立てるには十分過ぎた。

 

「……いやいや、オレはA級だよ?たった数試合程度でへこたれてどうすんのさ」

 

そうやって無理矢理笑って自分を鼓舞して立ち上がる。トリガーを起動して準備を整えた緑川はそのままマイクを起動して向こうに居るであろ修に呼びかけた。

 

「もう準備出来た?」

『あぁ、いつでも構わない。それと、そろそろこちらも道具を使う』

「ッ!……へぇ?どういう心変わり?」

『そろそろこちらを侮って手を抜くのは止めた頃だろう。ならそれに応えるだけだ。安心しろ、トリガーはトドメにしか使わん』

「さっきも思ったけどもしかしてオレのこと馬鹿にしてる?」

『初見の相手を雑魚と侮って手を抜いてカウンターを食らって死んだ者が馬鹿でなければ何になる』

「言ったね?絶対ぶっ殺してあげるから」

 

先程までの恐怖は徹底的に見下してくる事に対する怒りで塗りつぶされる。ギラついた笑顔を見せながら緑川が再びランク戦用の空間へと転送されると、2戦目と同様に向かい合うような立ち位置となった。そうして一歩踏み出そうとした所で、相手がキョロキョロと周りを見渡していることに気が付く。

 

ガシッ

「…………?」

 

そして徐ろに近くにあった標識を掴んだと思えば

 

メキョメキョメキョメキョ バキンッ!

「………は?」

 

まるで土に埋まった野菜を引っこ抜くような感覚でトリオンで構成された道路標識を半ばから強引に引き千切った。そんな光景を見て緑川が呆然としている間に、その原因となった修は手に取った道路標識の残骸を調子を確かめるように軽く振り回す。

 

「よし、じゃあこちらから行くぞ」

「いや待って待って、お願いだから。理解が追いつかないんだけど」

「実際の戦闘に待ったなんてあるはず無いだろう」

 

混乱した緑川の静止をガン無視した修はそのまま相手へ攻撃を仕掛ける。恐ろしいのはその速度、一見歩いているような踏み出し方である筈なのに瞬きをすれば攻撃の事前動作も無く、既に得物となった道路標識の板の面が顔面を吹き飛ばす直前まで迫っていた。

 

(あぁ、うん。成る程、今更だけど理解した。

 

 

 

この人、マジの規格外だ)

「ブベラッ!?」

 

そんな感想を抱いていた緑川に避ける暇もなく、道路標識が顔面に直撃した。




リンバスカンパニー6章やった所でプロムンに一言

誰があそこまでやれって言った?
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