持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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どうも、評価バーが赤色に染まっているのに驚きが隠せないゲガントです。お気に入りに入れてくださっている方々も500人を超えており、有難い限りです。



それでは、どうぞ


第4話

「待たせたな、出来たぞ」

「ほほう、良い匂いだな。これとこれはなんて料理なんだ?」

「カニクリームコロッケとミネストローネだ。冷めない内に食べてくれ」

「じゃあ早速イタダキマス」

「いただきます」

 

出来立ての料理を前に、食前の挨拶を済ませた二人はそれぞれスープとメインを口にする。

 

「ん~♪」

「はぐっ、んぐっ!」

「落ち着いて食え、別に逃げたりする訳じゃない」

 

しっかりと味わった後、千佳は頬を緩め、遊真は勢い良く次のカニクリームコロッケに食らい付く。

 

「たまりませんな、今まで食ってきた中でもトップクラスに美味い。これがカニってやつなのか」

「ミネストローネもベーコンから出た脂と塩気がしっかりしてるし、トマトの酸味が程よくて野菜の旨味も出てて美味しいよ」

「まぁ、口に合ったのなら何よりだ」

 

褒められて満更でもないのか、ほんの少しだけ頬を緩めながら自らの作った料理を口に運ぶ。その出来に自己評価を着けながら味わっていると、ふと遊真が口を開く。

 

「そういや、バットリ達も人間みたいな食事で大丈夫なのか?鳥って木の実とか食うもんだろ」

「大鳥の嘴の中を見てみろ」

「………歯があるな」

「元々こいつらの主食は肉だからな、有害になり得るものが特に無いことは確認済みだ。あとは栄養を偏らせないようにすれば良い」

「ふーん。ま、そういうもんか」

 

最早何でもありだと受け入れる姿勢に入ったのか、それ以上掘り返す事なく食事に戻り舌鼓をうつ。隣では三羽がそれぞれ少量ずつ盛られた食事を器用に味わっていた。端から見れば奇妙な光景ではあるが、確かに温かみのあるものだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあまた明日、おやすみ修くん、遊真くん」

「あぁ、おやすみ」

 

食事を終え、片付けも済ませた後、千佳を家まで送り届けた二人はすっかり日の落ちた住宅街を歩く。

 

「空閑、少し遠回りして帰るか」

「良いぞ」

 

段々と人気の少なくなっていく場所を歩き続け、川の堤防までたどり着く。

 

「なぁオサム、ここまで来たのは何か理由があるのか?」

「いや特に何も、ただ単純に散歩がしたかっただけだ。どうせなら人気の無い方が落ち着いていられると思ってな。」

「そんな気分ってやつか」

 

遠目にはうっすらとボーダー本部が見え、その上には満天とまでは行かないが多くの星が散らばった夜空があった。

 

「………なぁ空閑、近界の空はどんな感じなんだ?」

「……あんまり意識したことは無いけど、こんなに多くのキラキラが浮いてる訳じゃなかったな。それがどうかしたか?」

「近界はこの世界の人間が普通に観測できる領域に無いんだろう?そっちの空は星が見えるのかと思ってな」

「旅をしてる間に夜空が好きだって言ってた奴は何人も居たな。オサムもそうなのか?」

「いや、そんなんじゃない………ただ、あの時見上げた空が懐かしく思っているだけだ。例えその記憶の大半が絶望だろうが、それは確かに今の俺を形作っている。もっとも、俺の記憶に在るものと今見上げてるこの空は全くの別物だがな」

「オサムは近界から来たのか?」

「今の俺は生まれも育ちもこの世界だ。人智を超えた化け物に侵食されているだけの、どっち付かずの中途半端になってしまった人でなしだがな。」

 

そう言って空を見上げる横顔は、その端麗さとは裏腹に酷く寂しげだった。自嘲の笑みを浮かべる友人に言葉をかけようとしたその時、突如として空に穴が開く。

 

「こんな時間までご苦労な事だな」

「オレがやろうか?」

「……それもそうだな、頼んだ」

「おう、任された」

 

好戦的な笑みを浮かべる遊真はのっそりと空中の穴から這い出てくるバムスターへと向き直る。

 

「レプリカ、10秒で片付けるぞ」

『了解した』

 

レプリカが指輪から体全体に纏わり付くように展開し、やがて遊真の頭以外が黒いボディスーツに覆われた。ようやっと全身を穴から這い出したバムスターに対し、遊真は意気揚々と突っ込んで行く。

 

強印(ブースト)弾印(バウンド)、せー…のっ!!」

 

上に跳んだ遊真の背中と足の辺りに光る印が現れる。足元の印を躊躇なく踏んだ遊真は弾かれたかのように加速し、バムスターへ跳び蹴りを叩き込む。その小柄な体躯では想像出来ないような強力な一撃は、バムスターの装甲を容易く叩き割りそのまま機能停止まで追い込みながら地面に叩き付けた。

 

「単純な筋力の強化に加えて触れた物に一定方向への推進力を与える印か」

「どーだった?」

「シンプルな力だがそれを突き詰めれば何であろうと捩じ伏せる事が出来るという良い例だな。体の動かし方も無駄がない。やるな空閑」

「このぐらいだったらまだまだ余裕だな」

「頼もしい限りだ」

 

純粋に感心した様子の修だったが、不意に何かを感じ取ったかのように顔を横に向ける。

 

「………まずいな」

「どうかしたか?」

「こちらに近づいてくる足音が聞こえる。恐らくボーダーの部隊の一つだな」

「おお、もう来たのか。中々に優秀だな」

「今日の昼にあったのは例外だろうからな」

「んで、このまま逃げるか?」

「そうだな、このまま振り切って帰るぞ。空閑、トップスピードで行け。近界民のお前が捕まれば最悪始末される」

「わかった。オサムは?」

「お前と別方向に行って誘導してくる。向こうの視界から外れたタイミングで転移するから心配するな。さぁ行け」

「生身で大丈夫か?」

「それを俺に言うのか?」

「………それもそうだな。じゃ、また後で」

 

そう言って遊真はその場から飛び去って行く。それを見送った修はその足音の主が来る前に昼間にも着た赤いフードの付いたコートと暗い灰色の服の形だけを呼び出して身に纏う。

 

「あら、もう終わってるじゃない」

 

足音の主は金色の長髪を揺らす女性だった。黒と紫を基調とした隊服らしきものを身に纏い、妖艶に微笑みながら修に向けて挨拶をする。

 

「初めまして、貴方が巷で噂になってる狩人さん?」

「…………………」

「そう警戒しないで、私は個人的に貴方の事が気になってて話を聞きたいだけなのよ」

「それならそこに隠れて俺を狙っている奴はなんだ?」

「ッ!」

 

視線だけ寄越した先にいたツインテールの少女は刀を抜こうとしていた所で動きを止める。日が沈み、僅かな月明かりと星の光のみが辺りを照らす光源となっている状況で闇と同化しようとしていたのか息を殺していたが見抜かれた動揺によってそれが解けてしまう。

 

「あら、気付いてたのね。うちの双葉、隠密行動とか得意なんだけど」

「どう足掻いてもそこに居るという事実は変わりはしない。そこらに罠をばらまいている奴もな。それが話し合いを持ち掛ける者の行動か?」

 

怪訝な表情で放たれた言葉にその女性は少しばかり驚き、感心したような様子になる。

 

「真衣にまで気付いてるなんて………ますます面白いわね。個人的には貴方とお話がしたいのだけど上からは貴方を見つけたら捕縛するように命じられてるのよね。大人しく着いてきてくれないかしら?」

「断る」

「そう……なら実力行使よ」

 

向こう側の戦意の高まりを感じ、修はそれに応戦するために記憶の中からEGOを引き出す。

 

「幻想模倣 Frost Splinter(氷のかけら)

 

 

 

 

 

「綺麗な刃ね……少し貰えないかしら」

「加古さん、どうしますか?」

「そうね………私が牽制するから、隙を見てやってちょうだい。杏は双葉のサポートを」

『分かりました』

 

女性……加古望が手を翳すと、光る球体が空中に現れそこから小さな弾が分離していく。

 

「ハウンド」

 

加古の一言で分離した弾が一斉に標的目掛けて発射される。真っ直ぐ飛んでくるものもあれば弧を描いて時間差を作るように放たれた物もあり、その全てが修の体を食い破ろうと迫る。しかし、その悉くは修が槍を回転させた擬似的な盾に弾かれる。

 

「あら残念、弾かれちゃった。ならもっと増やしても問題ないわね」

 

微塵も落ち込んでいないような声色で宣言された通り先程よりも厚い弾幕が展開され、修はそれを弾き、避け続ける。

 

「せあッ!!」

 

その攻防が10秒ほど続いた後、戦闘で発生した煙に紛れた少女……黒江双葉が手に持った刃の光る刀を修目掛けて振るう。フレンドリーファイアを嫌ってか少しの間だけ止んだ弾丸の雨の隙間を縫うように仕掛けられた攻撃は、氷の刃によって防がれる。

 

(槍なら米屋先輩との模擬戦で慣れて……)

「何を考えているかは知らんが、比較はやめた方がいい」

「は……なッ!?」

 

槍がいつの間にか直剣へと姿を変えており、鍔迫り合いをしていた刀に掛かる力が変化し、体勢を崩す。しかし修はそれに追い討ち等はせず弾き飛ばすとそのまま背後から振るわれた刃を受け止めた。

 

「少しズルいかもしれないけど悪く思わないでね」

「不意打ちも戦術の一つなのは重々承知している。意識外からの攻撃は実践では特に有用だ」

「あら、賛同してくれるのね。話が合いそうだわ」

 

言葉を交わしながら何度か打ち合った後、不意に剣を横に薙ぐ。それによって横から迫っていた光弾は標的に到達する前に爆発し、本人は無傷のままジロリとその弾を放った人物へと目を向ける。

 

「分かってるからこそ対応できる」

「あちゃー、ばれちった」

「仕方ないわ真衣、相手は私達ボーダー最初期から追い続けまだ捕らえられない実力者よ?そう簡単には行かないわ」

 

デフォルメされたような容姿の人間……喜多川真衣からの援護射撃の中舞うようにナイフのような武器を振るう。時折混ぜられる軌道の曲がる弾丸の対応をさせながら虚を突くように放たれる斬撃は並大抵の者が防げるような物と思えるほどに洗練されていた。しかし修はかつての自分(シュウ)が戦った化物達に比べればまだ余裕があると考えながら経験則から判断した場所に刃を通し、その全てを捌いていく。

 

「あっは、やるわね貴方!剣?槍?その不思議な武器一本でここまでやるなんて!」

 

剣で切り裂き、槍を振るい、攻撃を往なしていく。己が被弾する可能性のあるもののみを切り払っているが、その均衡を崩すために加古はハウンドと呼んでいた光球を空中にセットする。宙に浮く幾つもの大きな光球は合図もなしに分割して発射され、それに合わせるように援護射撃か入る。全方位から攻撃を向けられた修は、武器を槍に変形させ、それを地面に叩き付ける反動で飛び上がり、弾同士をぶつかり合わせて回避しそれを逃れた物を叩き落とす。

 

「"韋駄天"ッ!!」

 

その不意を突くように高速で放たれた居合斬りは空中で不自然な曲がり方を行いながら修を切り裂こうと迫る。

 

ガキンッ!!

 

(嘘、弾かれた……!?)

「良い速度だ、暴走ヘルパー位はあるか?」

 

称賛する修が纏う深紅のコートの表面には本来の布では有り得ないような光の反射をする部分が生まれていた。そこには今しがた付いたばかりのような刀の傷が刻まれている。

 

「まさか、氷っ……!?」

「逃がすか」

 

自身の切り札を初見で防がれると思って居なかったようで、少女は目を丸くしながら切り札の反動による硬直を迎える。その隙を逃す訳もなく、修は氷の刃を少女の足元に突き刺し、そこを起点に目の前の少女を飲み込むように氷を生成した。

 

「双葉!」

「大丈夫です、それよりも………キャッ!?」

「すまないが、そろそろ時間だ」

 

少女の肩から下が氷に覆われ、動けなくなった所で更に地面に斬撃を飛ばし、氷の壁が生成される。全員の視線が切られて数秒後、突然氷にひびが入って砕け散った。

 

「……………やられたわね。杏、真衣、周りに反応は?」

『……観測できる範囲内にはいません。恐らくもう撤退しているかと』

 

氷の壁が砕け散る頃には既に修の姿は無く、とてつもない力で地面に叩きつけられ機能を停止したバムスターが転がっているのみとなっていた。

 

「出来るだけばらまいてた罠にかかった様子もない~」

「じゃあ嵐山隊からの報告に書かれてたワープかしら。流石、都市伝説になってるだけあるわね」

 

氷の一片すら残らず消え去った事に残念な気持ちになりながらも、加古は氷から解放された自身の部下へと歩み寄る。

 

「双葉、何とも無いかしら?」

「はい、大丈夫です。ただ寒さで手足がかじかんでしまって………今はもう何ともないですが、トリオン体なら普通こんなこと起るわけ無いですよね」

『私の方でも確認してみます!』

「まさかトリオン体の感覚にまで干渉してくるなんて、他にどんな物を隠してるのかしらね」

 

ニヤリと笑う加古に対し、黒江はおずおずといった様子で疑問に思っていた事を尋ねた。

 

「あの、加古さん、都市伝説って何ですか?」

「あら、双葉は知らなかったの?近界民に襲われるようになる前からあった話なんだけど、三門市には狩人が住んでいて、その姿は獲物の返り血で染まってる。ただ、その標的になるのは罪人だけ………ってやつ」

「それがさっきのやつですか?確かに血みたいな色をしたコートを着てましたが………」

「不思議な事にね、彼トリオン兵を破壊できるのよ。何回かボーダー隊員と遭遇した記録もあるんだけど、その度にすぐに姿を眩ませたりこうして足止めしたりしてどっか行っちゃうの。確か二宮くんとかも会ってたかしら」

「あの人からも逃げられたんですか?」

 

己が知る中でも上位の実力者からも逃げ仰せたと聞き、その詳細を知ろうと訪ねるが、話そうとする加古は何故か笑いを堪えるような様子になっていた。

 

「それがね!二宮くんってば問答無用でフルアタックして、それにムカついた狩人くんの反撃が当たってトリオン体にね…………ふ、ふふふふ」

『隊長、笑ったら………ふふっ』

「杏も笑ってるじゃない!あぁダメ、思い出したら笑いが止まらなくなっちゃう………二宮くん見ただけで笑うようになっちゃう………アッハハハハ!」

 

自分の隊長が腹を抱えて笑い出したことに困惑する黒江。そして、そんな少女に対し隣まで近づいていた喜多川が何処からか取り出した端末を操作し画面を向ける

 

「はい、これ」

「…………………プフッ!」

 

耐えきれずといった様子で吹き出した少女が見せられた画面には、スーツを着こなす茶髪で長身の青年が顰めっ面で写っている。

 

 

 

その頭と手には全く持って似合わないファンシーな犬の耳と手袋的な物が着けられていた。

 

 

 

 

 

 

「よ、速かったなオサム」

「すまない、待たせたな空閑。詫びに何か夜食でも買うか」

「おぉ、かたじけない」

「俺が食う分のついでだ。あまり燃費の良い方ではないんでな、糖分が欲しい」

「だったらオレの分もオサムが選んでくれ。こっちの甘いものとか良く分からん」




二宮さんは生身は何の異常も無いですし、トリオン体の方も暫くしたら自然消滅したのでご安心を。ただの見かけ倒しのギフトです。ただ一番知られたくないであろう相手には見つかってしまいました。


最初はおまはげの光をぶつけようかとも考えましたが、それだとオッサムもつるつるになるし、二宮さんのファンにぶっ殺されかねないので止めました
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