持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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もうすぐ就職活動や卒業研究の中間発表が終わるのでもう少し投稿頻度をあげられたら良いなと考えておりますが、書きたいものは沢山あってもそれを文章にする力が足りませぬ。





それでは、どうぞ


第5話

「うまうま」

 

修がボーダーから逃げ仰せた日の翌朝、遊真はリビングでフレンチトーストを頬張っていた。ふんわりとしたフレンチトーストは、唇で挟むだけで千切れ口の中で溶けて行く。甘酸っぱいオレンジソースはフレンチトーストのバニラの香りと絶妙にマッチしており、口の中で広がっていく。そんな口の中をカリカリに焼いたベーコンで中和した遊真は修に尋ねる。

 

「そういやオサム、ここに住んでるのってお前とこいつらだけなのか?」

「あぁ、週末千佳が泊まりに来る位で普段は三羽と俺一人だな。それがどうかしたか?」

「オサムの親って何処に居るんだ?昨日のチカの言い方からして居ない訳じゃないだろうし」

「俺の両親は二人とも外国に住んでる。2年前父さんが仕事の都合で海外に行く時、母さんがそれに着いていった形だ。俺自身、5年前には一人暮らし出来るぐらいには生活能力を身に付けてたしな………これがこの間送られてきた写真だ」

 

そう言って修は携帯電話を操作してその画面を見せる。そこには一組の男女が並んで写っており、その後ろにはエッフェル塔が見えた。女性の方は修と容姿が似通っている部分が多く、男性の方の瞳は、修と同じ綺麗な翡翠色だった。しかし、何よりも目を引くのは、その容姿が修の兄や姉と言われても納得できてしまうほどに若々しい事だった。

 

「………修、間違えてるぞ」

「間違いなく俺の両親だ。どっちも一年経てば40歳だぞ」

「へぇ~…………じゃあバットリ達はいつから居るんだ?」

「俺が生まれて一年位だったか、家族での旅行先で拾った……というか俺の頭に乗ってついてきたのが罰鳥だ。他の二羽がその一年後ご丁寧に呼び鈴押して玄関から訪ねてきた時は流石に絶句したぞ。その後普通に受け入れて家に上げて住まわせた母さん達も相当だが。多分帰ってきてお前が住んでても特になにも言わないだろうしな」

「すごいなオサムの親」

「生まれつき異常だった俺を「個性的」で済ませた二人だからな。その点では感謝してる」

 

そう言って隣で小さなフレンチトーストを頬張る罰鳥を優しく撫でる。罰鳥もそれを拒むことなく、気持ち良さそうに体を震わせた。

 

「オサムのEGOは生まれつきなのか」

「本命はギフトで武器とか防具はあくまでも副産物だ。日常生活には殆ど無縁な物ばかりだがな。」

「けど、オサムはそのEGOを使ってトリオン兵を相手にしてるだろ」

「…………昨日も言ったと思うが、俺は目の前で意味もなく死んでいく奴を大人しく見届けられる程、冷徹にはなれない。だから自分が持ってる力を振るう。幸い、実行できるだけの力はあるからな」

 

修は正面に座る遊真の目を見て断言する。

 

「言ってしまえば、俺のエゴだ。だから別に人から感謝される筋合いも無いだろうし、俺自身それを求める気は一切無いが……ただただ死なれても目覚めが悪いからな。研究のついでだ」

「その為にトリオン兵をブッ壊すのか」

「あの程度、幻想体に比べたらただでかいだけのからくり人形だからな。トリオン兵10体よりも暴走した幻想体の方が面倒だ」

「ほほう、そんなにか」

「そこの3羽が同時に暴走したら比喩表現抜きで世界が終わると思え」

「………怒らせなければただの鳥だな」

「そう言うことだ。さ、食べ終わったらとっとと準備するぞ空閑」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん?おい空閑」ガシッ

「どうかした……おぉ」

 

通学中、呼ばれた遊真が振り向く。視線の先の修は何処からか捕まえてきたのか、機械的な蜘蛛のような見た目をした何かの尻尾を掴んでいた。

 

「これもトリオン兵か」

「多分な。どっかで見たことあるし……レプリカ、わかるか?」

『……解析が完了した。ラッドと呼ばれる隠密用小型トリオン兵で間違いないだろう。』

「要するに工作兵か」

『その認識で問題ない。加えて、このラッドは改造され本来の機能とは別の物が付け加えられているようだ。厳密には、周囲の人間のトリオンを吸収し、利用する機構が付いている。今確定している情報はこの辺りだ、もう少し解析を進めてみよう』

「分かった……これだと持ち運びに不便だな」

 

そう言うと修はワシャワシャと動いているラッドの足を指で挟み、料理の下処理をするかのごとくそれを引き抜いた。

 

「こんなものか」

「オサム、あっちの住人でもトリオン兵を素手でへし折ったりしないぞ」

「いちいちEGOを出すのも面倒だからな、」

『普通であればトリオン兵はトリオンを用いた武器か強大な力でしか壊せない筈なのだが………今更というものだな』

 

しっぽも千切られ、対抗手段を全て失ってしまったラッドはただ蠢くだけの装置に成り下がった。一昨日から見てきた数々の行動で慣れてしまったのか、遊真は特にそれ以上言うこともなく話題を変える

 

「んで、昨日言ってたボーダー関係の知り合いってのはどれぐらい信用出来るんだ?」

「ボーダー本部に直行するよりかはお前が生きてる可能性が少なくとも数倍ある。本人曰く、近界民との交流を望む派閥だと言っていたな。EGOを使ってトリオン兵を狩っているのが俺だと知っているのもボーダー内では多分あの人ともう一人だけだ」

「成る程……オサムが信用してるなら多少は大丈夫か」

「そう言って貰えるなら何よりだ………居るのは分かってるんですから、大人しく出てきてはいかがですか?」

「あれま、もうばれてたか」

 

呆れたような修の呼び掛けに対し、一人の青年が曲がり角の陰から現れる。

 

「午後からという話ではなかったんですか?」

「それでも良かったんだけどね……急ぎで解決しなきゃいけない案件があったんだよ」

「あんたがオサムが言ってたボーダー関係者?」

「そうだよ。ボーダーの実力派エリート、迅悠一とは俺の事さ。お近づきの印にぼんち揚どう?」

 

そう言って青年……迅悠一は手に持った菓子の袋の口を差し出すが、遊真は手を前に出してそれを返す。

 

「エンリョしときマス」

「連れないねぇ。それで、お前の名前は?」

「空閑遊真」

「OK、遊真ね………そうか、お前、向こうの世界から来たのか」

「ッ!」

「大丈夫だ、落ち着け空閑」

 

話からして知られていない筈の情報が出た事に対し、警戒度を引き上げた遊真を修が抑える。

 

「あっはっは、ごめんごめん。別にお前をどうこうしようって訳じゃないよ」

「全く……そんなことやってるから罰鳥から胡散臭い判定くらってどつかれるんですよ?なんなら呼びましょうか?」

「おっと、あれ地味に痛いからそれは勘弁……あだっ!?」

 

飄々とした雰囲気を醸し出しながらも両手を上げて降参の意を示していた迅は、突如として現れた罰鳥と正面衝突してのけぞった。緊迫した雰囲気は一瞬にして消し飛び、修は呆れを隠さず溜め息をこぼし、遊真は突然のバードストライクに目を丸くしていた。

 

「おぉ、すんごい速さで突っ込んで行った」

「確か本気を出せば車の速度ぐらいは出せたと思うぞ」

「ちょちょちょ!?速くこの子なんとかしてメガネく……いだだだだ、髪引っ張らないで!」

「罰鳥、そこまでだ」

 

迅の頭に留まって頭髪を全力で引っ張っていた罰鳥は修の声を聞き、渋々といった様子で飛び立つ。

 

「いってて……相変わらず元気だね罰鳥ちゃんは」

「あんたもボーダーなんだろ?さっさとトリオン体になれば良かったのに」

「そういう訳には行かないんだよ。何故かは知らないけど、罰鳥ちゃんはメガネくんが使うEGOと同じ様にトリオン製の物を壊せるからトリオン体も破壊されちゃうの。まぁ、流石にトリオン兵ぶっ潰した時は驚いたなぁ」

「というか、バットリが突っつくってことはこいつは罪を犯してるってことだよな。本当に大丈夫なのか?」

「罰鳥の犯罪判定は少し嘘をつくだけでも反応するレベルでかなり緩いし、今の場合ただ気に入らない奴を小突いただけだぞ。実際、突っついたのは最初だけだろ?本気でやってたら今頃迅さんはこの世に居ない」

「判定ゆるっゆるだな」

「いや禿げるのも十分嫌なんだけど……」

 

頭皮をさすりながらなんとも言えないような苦笑いを浮かべる迅に、遊真は怪訝な目線を向け続ける。先程の出来事で毒気が抜かれはしたものの、どうやらまだ警戒心は残っているようだ

 

「んで、何であんたはオレが近界から来たって知ってるわけ?」

「俺の副作用がそう言ったからさ。あぁ、安心して、向こうの世界に行ったこともあるし、近界民にも良い奴は居るって言うのは知ってるからさ」

「……ウソは言ってないみたいだな。その副作用ってのは?」

 

気を取り直した迅は自分の目を指さすと、いたずらっ子のような笑みを浮かべながら口を開く。

 

「俺は未来が見えるんだよ。こうして目の前に立っている人間の未来がね」

 

修は事前に知っていたのか表情を動かさないが、自らの副作用で今の話が真実である事を理解した遊真は目を丸くした。

 

「すごいな、オレが巡ってきた国でもそんな副作用持ってるやつ早々居なかったぞ」

「そもそも副作用持ちが珍しいからね~。ボーダーにも副作用持ちは数えられる位しか居ないし」

「…………」

「ん?どーかしたの、メガネくん?」

「………いえ、わざわざ言うことでも無いので。それより、空閑の件とはまた別でご相談があるのですが」

 

話題を変えながら修は下ろしていた手を持ち上げ、先程捕らえたラッドを掲げる。最早抵抗が無駄だと理解したのか、完全に大人しくなっていた。

 

「あー、成る程成る程、そいつか」

「未来視でご覧になってましたか」

「そうそう、『イレギュラーゲートの原因が判明する』って未来がね。こうして朝に訪ねてきたのもそれを受け取る為だ」

「最早なんでもありだな」

『詳しくは私が説明しよう』

「お、トリオン兵か?」

『初めまして、迅。私はレプリカ。遊真のお目付け役だ』

「これはどうもご丁寧に。お会いできて光栄だ」

 

突然ぬるりと出てきたレプリカも副作用で読んでいたのか

 

『このラッドと呼ばれるトリオン兵は、バムスター等といった巨体のトリオン兵を隠れ蓑に隠密行動や妨害行為等を働くという特徴がある。それに加え、どうやらこのラッドは改造によって周囲の人間のトリオンを利用してゲートを開く機能がついているようだ』

「……成る程、ここ最近のイレギュラーゲートはそれが理由か。けど、隠密行動するって言ってもこんな形だと不便も多いんじゃないのか?」

『それに関してはオサムが攻撃しようとしたラッドを鎮圧するために素手でへし折ったからだ。本来であればモールモッドのような鋭い脚が備わっている』

「……………うん、やっぱメガネくんは規格外だね」

「うむ、それには同意しますな」

 

レプリカの一言で少しの間、辺りに沈黙が走る。修の方を見て固まっていた迅だったが、再起動と共に改めて目の前の少年の異常性を思い出し納得する。昔から関わってきた技術を真っ向から否定されたような状況ではあるが、これまでも何度かEGO等といった現実とは乖離した存在を目の当たりにしている為、今更単純なる力だけでトリオン兵を破壊したと聞いてもそこまで驚くことでもないと考えているようだ。先程まで懐疑的な雰囲気だった遊真も即座に肯定の意を示す。

 

「とりあえず、これは貴方にお渡しすれば良いですか?」

「そうだね、ボーダーの研究室に持っていってこいつのトリオン反応を検知できるようにする。そうすれば、街中のラッドを片っ端から見つけられるだろ?数が数だから、C級も動員されるみたいだな」

「それは確定した未来ですか?」

「たった今だけどね。ごめんけど、遊真の件についてはまた明日でも良いか?今日は忙しくなりそうだ」

「オレは別に良いぞ」

「……だ、そうです」

「そいつはありがたい。メガネくん達はこれから学校だろ?ほら行った行った、一時間目が始まるぞ」

「分かりました、また後日伺います。行くぞ空閑」

「りょーかい。じゃ、また」

 

そう言って去っていく二人の後ろ姿を見送る迅は独り言のように呟く。

 

「……やっぱ狩人くんはすごいね。あの大規模侵攻の時からそうだ、本人にその気は無くてもこうして人を救う事に繋がる道を選んでいく。都市伝説と言うけれど、やってることはまんまヒーローだよ、ホント」

 

感慨深く、といった様子で空を見上げる迅だったが、深く息を吐いた姿の中には僅かながら焦燥が見えた。

 

「だからこんな未来は見えて欲しく無かったんだけどなぁ………いや本当に、狩人くんが死ぬ未来なんてボーダーや三門市どころかこっちの世界の危機なんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか騒がしいな」

「さっき言ってたラッドの一掃だろう。レプリカの話だと一匹どころの話じゃないだろ?」

「あぁ、それもそっか………なぁレプリカ、この辺のラッドはどんくらい居る?」

『朝方に観測した数に比べればかなり少なくなっているようだ。対処法として人海戦術は正しい択だろう』

「もう昼だし、今日中には終わりそうだな」

 

学校にて、午前の授業後も終わり昼休みに差し掛かった所で外を眺める二人とイヤホンのようになったレプリカは言葉を交わす。

 

「しかし、午後から暇になったな……どうするか」

「あ、だったらやりたいことがある」

 

腕を組んで思考する修に遊真はふと思い付いたかのように手を挙げて口を開いた。

 

「たしか自転車……だったっけ?親父からそういうのがあるって話を聞いたからそれに乗ってみたい」

「だったら放課後に店に行くか。それと、そろそろ自分用の私服を買うべきだろ。何日も制服のままだとさすがにまずい。」

「おう分かった。安心しろ、金なら自分で出す」

「そういや軽く百万は持ってたな」

「それと、今日の晩飯はどうするんだ?」

「…………昨日のミネストローネが余ったから、それを使ったパスタでもするか。辛いのは大丈夫だよな?」

「おう、楽しみにしてる」

 

予定がある程度決まった所で意識を外から室内に戻す。昼休みに入ったということもあり、多くの生徒がざわざわと駄弁り出す。

 

「いや~昨日は凄かったな~!」

「ホント!あの都市伝説って嘘じゃなかったんだ!」

「オレ屋上から見てたんだけどさ、三階から飛び降りてそのまま下に居た近界民をブッ刺してたんだぜ!あんなん真似できねぇよ!」

 

その騒がしさの中心的な話題にあがっていたのは、姿を偽った修だった。その正体を知っている遊真は隣で我関せずといった様子で片付けをしている友人へと言葉を投げ掛ける。

 

「だってよ狩人」

「……その話題を俺に振るな。正直コメントに困る」

「すまんすまん」

 

棒読みで平謝りする遊真に軽くチョップを食らわせる。そんな所で一人の女子生徒が頭をさする遊真

 

「ねーねー、空閑くんはどう思う?」

「む?何の話だ?」

「ほら、昨日の!」

「むぅ……オレはこっちに来たばかりだからそういうのはわからん。都市伝説ってなんだ?」

「あ、そうだよね。まず都市伝説っていうのはね………

 

~説明中~

 

…………で、昨日私達を助けてくれたのが、今言った狩人なの!都市伝説って言っても色んな人が目撃してるし、昨日みたいに助けられた人も多いから人気なんだよね!」

「ほうほう」

「確か、ボーダーの特殊部隊の一人とかいう噂とか無かったっけ?」

「もしかして、噂に聞くS級ってやつ!?」

 

話しているうちに興奮が再燃したのか、周りの生徒も巻き込んであれやこれやと騒ぎ出す。それを端から揃って眺める二人の話す声は自然と小声となっていた。

 

「身近にいても気付かないもんなんだな。なんでそこまで隠すんだ?」

「狙われたくないからだが」

「………あー、確かに利用目的で奪おうとする輩が多そうだな」

「人数が多いと色々と面倒でな。昔海外でうっかりEGOを使う所を犯罪組織に見られて誘拐されかけたこともある」

「ほほう、それでどうなったんだそいつら」

「俺に銃を突き付けるのはまだ良いが家族にまで手を出そうとしてたからな、有罪判定を下した鳥達のエサにしてやった。拳銃程度なら自力でいなせるし、EGOを着込めばそもそも傷すら付かないからな」

「バムスターで黒トリガー使いに挑むようなもんか」

 

自らも幼少期から戦争に関わって来た遊真は冷静に戦力を分析する。嘘が分かるが故に、綺麗事を述べて強大な力を利用しようと迫ってくる人間を何回も見てきた為か、それらを思い返しながら納得した様子でうなずいていた。

 

「にしても、玄界は平和だって聞いてたんだが………オサムの話だとあまりそんな感じじゃないんだな?」

「それは場所による。酷い所は近界の紛争地帯と変わらないだろうが、大規模な争いとかは早々に起こりはしないな。他の国だと怪しい所もあるが………」

「まぁどこもかしこもそんなもんか。よくよく考えればオレがめぐって来た国も、治安はまちまちだったもんな」

「そう言うことだ………そろそろ昼飯食うか?」

「おう、今日は何だ?」

「サンドイッチだ。朝からパンが続くが許せ」

「美味けりゃ気にしないぞ」

 

その会話と共に取り出された箱の中には数種類のサンドイッチが入っており、そのどれもが具沢山かつ美味しそうな仕上がりになっていた。その一つを掴んで食べた修を真似するように、遊真も適当なサンドイッチを手にとってかぶりつく。

 

「おぉ、しゃきしゃきしてて、じゅわって水が出てきて、それらと一緒に塩辛いけど美味いのが来た」

「BLTだな」

 

学生達が浮き足立つ金曜日の昼休みは、特にアクシデントもなく過ぎ去って行ったのだった。




ボーダーの上層部は有能な方ばかりですからね。個人でトリオン兵狩りをしているオッサムがボーダーの一員だという噂を流すことで、面子を守りながらも市民を納得させているのです。
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