持たざる者は幻想と共に   作:ゲガント

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レプリカ先生の影が薄くなってしまう……





それでは、どうぞ


第7話

「4年ぐらい前だったっけか、オレと親父は近界の戦争に傭兵みたいな形で参加してたんだ」

『その国の防衛団長とユーゴは旧知の仲であり、恩と縁もあってユーゴは力を貸していた』

「オレは親父にそこそこ鍛えられてたのもあって戦闘でもまあまあ役立ってたし、半人前なりに上手くやってたよ………親父が死んだ日までは」

 

遊真は過去を思い出しながらポツポツと語り始める。

 

「親父の言いつけを破って侵攻してきた奴らの相手のをしようとした直後だったっけか。化物みたいな見た目の奴……多分黒トリガー使いがいつの間にか隣に居て、そこで一回記憶が消し飛んでるんだよな。そこについてはレプリカの方が覚えてるんじゃないのか?」

『……一瞬の出来事だった故に不確定な部分が多い。それでも良いのなら話そう』

「……あぁ、よろしく頼む」

『承知した』

 

周りをふよふよと飛んでいるレプリカは、遊真の話を引き継ぐ。修と迅は時折マグカップに口を付けながら静かに話を聞いていた。

 

『咄嗟に振り返ったユーマは離脱しようとしたのだが、その瞬間突拍子もなく左足の膝から下が切り離された。その後バランスを崩したユーマに対し、例の黒トリガー使いはエネルギー弾を発射して左脇腹と右腕を消し飛ばし、そのまま去っていった。その際、離れた所に人間らしき者の姿があった。腕に身につけた装備が血に濡れていた事から恐らくそれと同時に巻き起こった大虐殺の犯人だと推測される』

「そういやいたなそんな奴。あの黒トリガー使いがどっか行った後意識がぐちゃぐちゃになってた時にほんの数秒ちらっと見ただけだから思い出せなかった」

『その後、瀕死となっていたユーマの元に来たユーゴは自らの命を代償に黒トリガーを作り、その中にユーマの肉体を封じ込めた。そしてその代わりとなるトリオン体を構築し、延命を行った』

「……俺の意識が明確になったのはそこからだな。親父は力を使い果たしてボロボロの塵みたいになって死んだ。親父の副作用を受け継いだのもそこだろうな」

「………嘘の判別能力は生まれつきじゃなかったのか」

 

独り言のように出た疑問に遊真は頷く。誰にも騙されずに生きていく上ではこれ以上ない程適した能力ではあるが、人間の醜い部分や狂気が凝縮された世界を知っている修としては、生きづらそうだという思いが最初に浮かんで来た。しかし、口に出しては無いためその考えを他の二人と一体は知るよしもない。

 

「そっからは親父の代わりに前線で戦って、確か3年位で戦争が終わった。一応、こっち側の勝ちってことになるのか?」

『あの戦争は侵略とそれへの対抗だった。敵国との講和が成立した時点で、防衛側の勝利であると言えるだろう……例の侵攻で防衛団の1/3が殺されていた事を考えれば、十分過ぎる結果だ』

「………その例の黒トリガー使いと殺戮を敢行した奴は出てこなかったのか?」

「俺が知る限りは無いな。正直、これがあっても勝てる確証が無かったからな、攻められていたら今度こそ殺されてたかもしれん」

『だがそれ以降その二人が現れることは無かった。それどころか通常のトリガー使いすら攻めてくる頻度が減り、トリオン兵メインでの戦いが展開された』

 

レプリカによる解説を挟みながら過去を語り、時折現地の住人との記憶も混ぜながら経緯を話す。そうして、話題は今現在までたどり着いた。

 

『紆余曲折はあったが、戦いを終えた私達はユーゴが度々話していたボーダーを訪れる為にこうして玄界へとやってきた』

「それで最上さんを訪ねてきたと」

「まぁ無駄足になったっぽいけどな。黒トリガーから親父を元に戻す方法も無さそうだし」

「お前自身はどうなんだ、空閑。いくら本来の肉体を封じ込められているとは言え、いつまでも誤魔化せる代物でも無いだろう」

「さぁな。ま、死にかけてる肉体の方が完全に止まったら普通に死ぬんだろうけど。」

『………………』

「これからどうするかな………向こうの世界に戻るとしても、何をすれば良いのかわからん」

「まだゆっくり決めるといいよ、俺達はいつでもお前を歓迎する。それに、お前のこの先の人生楽しいことはたくさんあるさ。俺の副作用がそう言ってる……それじゃ、俺は先に中で晩飯の準備でもしとくよ」

 

迅はそう言って一足先に屋上から室内に戻っていく。その背中を見送った修は明かりの少ない街並みを眺める遊真に話しかけた。

 

「………空閑」

「なんだ?」

「お前はこれから何がしたい?」

「……………わからん。あの戦争が終わってから親父を黒トリガーから元に戻すためだけにここまで来た。もうやること、やらなきゃいけないことは無くなった…………親父は、何でオレを生かしたんだろうな」

「早すぎると思ったんじゃないか」

 

手に持ったマグカップの中で渦巻くココアから空へと目線を移しながらぼんやりと呟いた言葉に対し、簡潔な答えが返される。

 

「俺はお前の父親じゃないから合っているかは分からない、あくまでも予想だ。だが、大切な家族に生きて欲しいと思うのは誰もが思うことだろう?お前だって自分の父親を生き返らせるためにこの世界に来た………それが出来たとしたら自分が死ぬのと同義であるにも関わらずにだ」

「そう……だな」

「ならお前とお前の父親は似た者同士だな」

「…………………」

「死は全ての人間へ平等に訪れる。それが遅いか早いかの違いはあるがな」

「でもオレが死にかけたのは忠告を聞かなかったオレの自業自得だ。親父が命を捨ててオレが生き延びる事には納得出来て無い」

「………まぁそうだな、託された側の心境はそんな風にもなるか。そもそも勝手に託した側だった俺がそこを言えた義理でもないしな」

「その言い方だと、オサムも死んでる事になるぞ」

「ん?あぁ、そういえばお前にはまだ言ってなかったな。俺はこことは別の世界で生きた記憶がある。要は一回死んでいる訳だ。」

「なんと」

 

いきなり話がとんでもない方向へと舵を切る。飲んでいた水がいきなりシャンパンに変わったように奇々怪々な話だが、それを言った当の本人は一切嘘などを話した覚えはないし、遊真もそれが分かっている。普通ならば信じられないような内容だが、生憎普通からは掛け離れている二人はそのまま会話を続行する。

 

『そのような事がありえるのか』

「イレギュラー中のイレギュラーだろうがな。だが記憶と精神、経験を引き継いで存在強度が確固たる物になっていた影響でEGOの侵食にも耐えられた。もし自我が無い状態でEGOの効力が発揮されてたら化物になってただろうからな。」

「成る程、オサムがオレの話を聞いても動揺すらしてなかったのはそれが理由か。生まれた時から別の世界を知ってたらそりゃ普通に受け入れるよな」

「近界とはまた別物だがな。その世界にはトリガーなんて物は無かった……いや、異物を嫌う頭が知れ渡る前に消してた可能性もあるか」

「物騒だな」

「途方もなく物騒だぞ。少なくとも、お前の話に出てきた国の戦時中よりも常に治安が悪かったからな。裏路地……前の俺が住んでいた都市の半分以上を占める区域では人の命は一枚の契約書よりも軽かった。倫理観が欠落した連中も至る所にいる、その都市を支える企業でさえも人を駒としか認識していない奴が殆どだった。それに比べれば、この世界は少しばかり優しすぎる」

 

修は深呼吸をして目の前に広がる夜景を眺める。記憶の中に確かに存在する都市にいた頃では想像も出来ない程に穏やかな気持ちでいることに何とも言えない感情が湧いてくるが、それを抑えながら話を続ける。

 

「俺は最期、後輩達を生かすために一人で立ち回って敵と相討ちになって死んだ。脇腹は風穴だらけで頭の半分も切り刻まれてようやく届いた訳だが………誰にも伝えずに決行したからもし生きていれば真正面からぶん殴られただろうな、「馬鹿野郎」って」

「………オサムはさ、死ぬのが辛くなかったのか?」

「辛かったさ。ただそれ以上に失うのが怖かった。一回自ら捨てざるを得なかったものを、もう一度目の前で失うのが嫌だった。自分の命を代償にする理由はそれで十分だろう?」

 

己の過去を継いだ少年はさも当然のように答えてココアを呷る。12月の冷たい外気に晒されていたそれは既に熱を奪われており、体を暖めるには少しばかり力不足だった。中身が無くなったマグカップを見ながら一息ついた修は自分をじっと見つめて続きを促す遊真に気付き、応えるように口を開く。

 

「心残りがあるとするならその後どうなったか分からない事位だが、それ以外は概ね満足だ。願わくば、あいつの計画が成功して楽しく生きて欲しいという思いはあるが、俺がそちら側に行く資格は無かったからな。まぁ悔いは無かった」

「………自分勝手だな」

「言い換えればそうなってしまうな。結局の所、自分で命を捨てるのはどこまで行っても自己満足だ。だがそこには意味がある………お前のそれは父親から託された命だ。お前は生きろと願われた。それに、生きることを楽しむのを止めるにはお前はまだ若すぎる」

「なんだそれ、親父みたいな事言ってるな」

「精神年齢に関しては多分お前の父親よりも上だぞ」

「そーいやそーだった………なぁ、オサム」

「どうした?」

「まだ世話になっても大丈夫か?」

「あぁ、別に構わないぞ。鳥達もお前の事を気に入っているようだからな」

「んじゃ、暫くの間よろしく頼む。一先ず迅さんが言ってたように青春とやらを楽しむとするか」

「そう意識してする物でもないがな、俺達もそろそろ降りるか」

 

互いに過去を語り、話が纏まった所で修はふと思い出したかのように尋ねた。

 

「そういえば空閑、レプリカ、さっき言っていた奴らの見た目を詳しく思い出せるか?」

「どうしたいきなり」

「少し引っ掛かる所があってな。実例があるからあり得ない事では無いが………いや、どうなんだろうか。可能性はなくはない程度でしかないのか……?」

「心当たりでもあるのか?」

「まぁな………ただの杞憂であって欲しいの気持ちと予想が合ってて欲しい気持ちが半々だが」

 

後半になるにつれ少し声が抑え目になる様子に首を傾げつつも遊真は当時の記憶を思い返す。

 

「ふうむ……まぁ俺を半殺しにしたやつは人っぽい形をした何かだった。あともう一人は……見えずらかったしほぼ覚えてないけど左腕だけなんかごつかったな」

「………そのもう一人には、注射器みたいな装置は突き刺さってなかったか?」

「んー……どうだったっけ」

『例の殺戮を生き残った者の証言では、中に詳細不明の液体の入った機器が頭部後方と左腕の装備に計三つ取り付けられていたような見た目をしていたそうだ』

「ッ!」

『オサム、君の心当たりとは何なんだろうか?』

 

遊真と出会って今まであまり動いていなかった表情が驚愕に染まり息を飲む。レプリカの問いかけに対する反応も数瞬遅れておりその動揺が伺えるが、直ぐに冷静さを取り戻したようで頭を振った後に考え込みながら答えた。

 

「……さっき言った都市に存在していた粛清機構、都市の統治を行っている頭が所有する戦力の一つだ。空閑達が見たのはおそらく処刑者と呼ばれる存在だろうな。だがそれが本当に処刑者であるのなら解せない点がいくつかある」

「解せない点?」

「処刑者はあくまでも都市にそぐわない不純物を排除する実働部隊だ。侵略してきた近界民の抹殺なら兎も角、空閑がいた国と戦争を行っていた国に戦力として存在している筈がない………いや、そもそもその国とは無関係で、偵察を行っていただけなのか?まだとしたら目的は?」

「良く似ている別物なんじゃないのか?近界は無数にあるし、俺だって知らない場所があるんだからな」

「願わくばそうあって欲しいが、お前達の言う通りの強さならあいつらの可能性が高い。レプリカ、そいつの戦闘の記録はあるか?」

『私が直接見たわけでは無いが、証言によると装備を着けた左腕で近づいた者を全て切り裂いたらしい。装置の液体が減少し姿が消えた瞬間、周囲にいた人間の肉体が消し飛んだという話もある』

「その装置の中の液体の色まで分かっているか?」

『オレンジ、青、緑の三種だ』

「なら間違いない。俺の知る奴らと同一存在だ………ボーダーに入る理由が出来たな」

「そいつを探しに行くのか?オサムでも危ないんじゃないのか?」

「問題ない。そいつらを率いている存在は兎も角、処刑者は何回か殺した事がある。空閑レベルの奴5人位がALEPHクラスのEGOを着込んで袋叩きにすれば何とかなるし、最悪今の俺一人でも全力でやればヘマさえしなければ殺せる筈だ。」

「つまり戦い慣れした傭兵クラスの奴が黒トリガーレベルの装備を使って相手しても返り討ちにある可能性があるって事だよな、それ」

「元の世界でも一軍隊程度なら瞬殺出来るような存在だからな。ボーダーの戦力を正しく把握してるわけではないが……恐らく対処しきれない化物だ」

「うへぇ」

 

詳細を聞いた遊真は気の抜けた声を出す。想像よりも理不尽極まりない強さに引いてるのか、理解しきれてないのかは分からないが、取り敢えずろくなものではないのは経験則から感じているのだろう。

 

「ついでに言えば、あいつは都市に存在する特異点……非現実、非常識な技術を血清という形で使用する。次元の移動も身体能力の向上も出来る物なんだがそのうちの一つ、緑色の血清Kは身体の損傷を回復させる事が出来る。例え死にかけだとしてもな」

『……それは瀕死の重体だとしてもか?』

「強い力に潰されて骨格がぐちゃぐちゃになった状態からでも復活した事例は何回か見た事がある。アブノーマリティに食われて欠損した部分も再生していた。出来る可能性は十分にある。例え処刑者の持つ血清が使えなくても、処刑者がいるなら俺が前にいた世界……頭が統治する都市がある筈だ」

「オレの体も治せるのか………だけど、オレはそこまでして生きようとは思わんな。一人で行くにしても多分途中で死ぬだろうし」

「なら俺と一緒に行くか?」

 

可能性を提示されるもすぐに止める選択を採る遊真だったが、横に座る修は真っ直ぐ遊真を見て言葉を続ける。

 

「俺はあの都市の現状が知りたい。侵攻してくることは無いだろうが………それでも爪が派遣されている状況になっている理由は知っておきたい。ボーダーも他人事ではない筈だからな。どの道目的地は変わらないならまとめて用事を済ませるのが得だろう?」

「得か………そうだな、確かにそうだ。オサムの手伝いのついでにオレの体を治せばいいな、面白そうだし。だったら俺もボーダー入るか」

「じゃあ私も入る」

「うおっ、ビックリした」

 

遊真がニヤリと笑いながら答えた次の瞬間、千佳がいつの間にか音もなく修の後ろに立っている事に気が付き目を丸くする。まるで暗殺者のように近づいていた千佳は会話に介入しそのまま修に寄りかかって抱きついた。

 

「千佳、隙あらば気配消して背後に回るなっていつも言ってるだろ?」

「えへへ、でも修くんは気付いてくれるんだよね。うれしいなぁ………それよりも、修くんと遊真くんがボーダーに入るなら、私も一緒に入りたいな」

「……理由があるなら聞かせてくれるか?」

「恩返しだよ。私が今こうして幸せに暮らせているのは修くんのお陰だから………知ってるんだよ?私のせいで拐われそうになった青葉ちゃんを助けてくれたのも、私を置いて向こうに行こうとした兄さんを止めてくれたのも修くんだってこと」

「………前者は殆ど偶然みたいな物だ。それに麟児さんに関しては話を聞くつもりが無かったと判断して周りにいた奴らごと後遺症が残らない程度だったとは言え結構な重症を負わせたんだぞ?感謝される謂れはない筈だ」

「私の気持ちも考えずに勝手にどっか行こうとしたんだし、少しは痛い目を見てほしかったから別に気にしてないよ?」

「少しは気にしろ」

 

呆れ混じりの溜め息を溢す修に対し、千佳はニコニコと笑顔を絶やさない。

 

「いいんじゃないのか?仲間はいても困らんだろうし、何よりチカもいた方が面白そうだ」

「空閑……」

「ねぇ修くん、私にも手伝わせて。今まで私は貰ってばかりだったから、せめて修くんがやりたいことを手伝いたいの」

「…………家族の説得は自分でやるんだぞ」

「話は聞かせて貰ったよ!」

 

屋上と室内を繋ぐ扉が勢い良く開け放たれる。その音に3人が振り返ると、書類のような物を持った宇佐美と迅が立っていた。

 

「入隊届………さては既に見てましたね?」

「一応はね。でも本当にメガネくんの未来は他の皆に比べて大木の枝みたいに大きくて多いんだよ。今この時が来る確率だって不安定だったんだし、これは保険ってやつだよ」

「どうだか………まぁ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「うん、これでよしっと。いやぁ~新しい後輩かぁ~!楽しくなりそうだね~!」

「改めて、よろしくお願いします」

「ふむ、ヨロシクオネガイシマス」

「さて、そろそろ晩飯にしようか。何か希望はある?」

「じゃあ中華!」

「お、そう来たか。調味料あったっけなぁ~」

「あー……もしよろしければ俺が作りましょうか?」




入隊届けのタイミングは原作通りになりましたが正式な入隊までのイベントをどうしようか考えてます。取り敢えずオッサムとボーダー本部の繋がりは迅さんがどうにかします。

それかオッサムをボーダーに潜入させます。
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