明久と不知火が中に入ると、ベッドに小さく座っていた名取が明久達を見たのだが、その表情は怯えている。
「初めまして……僕は、つい先日に新しく絃神鎮守府の提督になった吉井明久です。こっちは、僕の補佐をしてくれる不知火ちゃん」
「よろしくお願いします」
「……よろしくです……」
明久達が挨拶すると、名取は小さく呟くように言いながら頭を下げた。
長良型軽巡洋艦、名取
性格は控えめで、少々悲観的な言動をする艦娘だが、人当たりは良いのが、本来である。
しかし今の彼女は、完全に提督という存在に怯えていた。
「僕がここに来たのは、君たちの復帰の支援の為です」
「……復帰……?」
名取が視線を明久に向けると、明久は懐に手を入れて
「これを」
と一つの封筒を差し出した。
「……これは」
「それは、君の姉妹からの手紙だよ」
「……え?」
明久の言葉に信じられないという表情をしながら、名取は封筒から便箋を取り出した。
明久が名取を最初に選んだのは、その手紙も理由だった。
それは、名取の姉妹達が綴った手紙。
要約すれば、前の提督の時は助けられなくてごめん。また、名取に会いたい。一緒に、食事したりしたい。というような感じに書かれてある。
「君のお姉さん……長良ちゃんから、この手紙を預かったんだ……ずっと、後悔してたんだって……手助け出来なかった事」
明久がそこまで言うと、名取の目から涙が零れ始めた。
恐らくは、見捨てられたと思っていたのかもしれない。だが、そんな訳がないのだ。基本、艦娘というのは姉妹達の仲は非常に良いのが確認されている。それは喧嘩もしたりするが、直ぐに仲直りするのも確かだ。
「僕は、鎮守府の復興の為に動いてる……」
「……鎮守府の、復興……」
「うん……その為に、この隔離棟も何とかしようって考えてる……こんな狭い場所に居たら、治るものも治らない……僕の事は、信用出来ないかもしれない……けど、姉妹の事は信用してあげてくれないかな……実は、この隔離棟の入口まで呼んであるんだ」
明久のその言葉に、名取は驚いていた。
実は、この隔離棟に来る前に、ある程度の艦娘達には呼び出しをしていたのだ。
「だから……ゆっくりでいいから……来てくれないかな?」
明久はそう言って、手を差しのべた。
すると、非常にゆっくりとだが、名取は明久の手を掴んだ。
その後明久は、不知火と一緒に名取をエレベーターまで連れていき、入口まで上がった。
そしてドアを開けると、少し離れた場所に様々な艦娘達が居たのだが、その中に確かに、長良を初めとした長良艦が居た。
特に長良は、名取を見た瞬間に涙を流しながら走り始めており、明久と不知火が離れたと同時に名取を抱き締めて
「名取……! ごめん……ごめんね……!」
と名取に謝っていた。僅かに遅れて、五十鈴、由良、鬼怒達も名取に抱き付いた。
「長良……お姉ちゃん……皆……!」
姉妹達を見た名取は、泣きながら会えて良かった、と口にしていた。それを見ながら明久は
「これから、皆を地下に連れていきます! 会いたい人が居る部屋は、今から張り出しますから、確認してください」
と言って、不知火が壁に隔離棟に入れられた艦娘の名前が書かれた紙を張った。
それを確認した何人かが、誰々に会いたい! と明久に進言してきて、明久はその艦娘達を地下に連れていった。
そして、一人ずつ地下から連れ出し、暫くは大講堂や会議室で寝泊まりするようにと告げた。
実は今朝方、明石が艦娘寮の解体を開始したのだ。
各艦娘寮は、無駄に壁が分厚く建設されていて、解体工事にも時間が掛かる事が判明したので、建材が届く前に解体工事を始める事にしたのである。
大講堂や会議室で寝泊まりするようにしたのは、今まで狭い牢屋のような部屋に居たのだから、新鮮さがあって良いかな、と考えて明久が許可したのである。
「……今まで、寂しい思いをさせて、ごめんなさい……まず、この隔離棟は一度完全に閉鎖します。その後、この隔離棟は新しく病院に建て替えをします。既に、その為の建材は大本営に申請済み……各艦娘寮も一緒です。艦娘寮は、明石さんが最低でも四人一組で住めるように建て替えをします。そして、各艦娘寮に食堂を併設……売店も併設します」
「食堂……」
「売店……」
それは、先代の提督の時には無かった物。
「だから、どうか……復興に、力を貸してください……!」
明久が深々と頭を下げると、代表してか長良が
「提督……私たちで良ければ、精一杯お手伝いします!」
と敬礼し、その場に居た艦娘達の大部分が追随して敬礼した。