おバカの提督業   作:京勇樹

12 / 37
不期遭遇戦

入院していた艦娘が全員出たのを確認した明久は、その隔離病棟を一度閉鎖。入口を鎖で閉じて

 

「さて、今日でこの隔離病棟は閉鎖です。明石さんも来たので、カウンセリングを随時行っていきます」

 

明久はそう言いながら、明石が設定した日時に一人ずつ入れていく。

 

「提督、私達に出来る事があれば、手伝います!」

 

明久の隣に長良が来て、そう宣言した。すると明久は

 

「今日はゆっくり、久しぶりに会話してください」

 

と言って、ひとつの鍵を差し出した。

 

「これ……」

 

「この鎮守府で、一番星空が見える場所……旧だけど、天候観測部屋を借りたから、そこで久しぶりに会話してみて」

 

絃神鎮守府は元々は古い大学の校舎を再利用した鎮守府で、その施設のひとつに天候観測部屋があった。

新しい方は鎮守府でも使っているが、古い方は何かしら再利用するつもりだったからか、適度に整備されていた。

今回、それを利用したのだ。

明久は鍵を長良に手渡してから

 

「さて、次は……」

 

と端末を見ようとした。そこへ、不知火が

 

「司令。そろそろ、遠征艦隊が帰還する時間です」

 

とタイマーを見せてきた。確かに、後数分もしない内に遠征艦隊が帰ってくる。

 

「それじゃあ、迎えにいこうか」

 

明久はそう言って、ドックに向かった。

しかし、帰ってきた艦隊を見て驚いた。なんと、負傷していたのだ。

唯一無傷なのは、時雨のみ。一番酷い負傷をしている神通に肩を貸している。

 

「何があったの!?」

 

「深海艦隊からの襲撃だよ、提督」

 

慌てて駆け寄り問い掛けた明久に答えたのは、時雨だった。時雨は、神通を一度椅子に座らせてから

 

「帰還途中で、軽巡洋艦へ級が旗艦の艦隊から奇襲されてね……あ、それは全滅させたから、安心して」

 

と説明した。どうやら、奇襲艦隊は撃滅させたようだ。だが

 

「ただ、僕の勘だけど……あれは、偵察艦隊だ……それに、全滅させるのに時間が掛かりすぎた……通信された可能性が高すぎる」

 

時雨のその言葉に、明久は

 

「不知火ちゃん。協力的な空母艦娘は?」

 

と不知火に問い掛けた。

それに対して不知火は、端末を見てから

 

「……正規空母は一名……軽空母は三名になります」

 

と答えた。

 

「誰が?」

 

「正規空母は、雲龍さん……軽空母は、鳳翔さん、瑞鳳さん、祥鳳さんになります」

 

「その四人を、直ぐに呼び出して」

 

明久の指示に従い、不知火は四人を司令部に呼び出し、二人は司令部に向かった。

明久と不知火が到着すると、既に四人の艦娘の姿があった。

少々目のやり場に困る服装に、三つ編みにした長い白髪の正規空母艦娘、雲龍。

次に、まるで大正時代のような和服を着た小柄で、ポニーテールにした黒髪が特徴の世界初の空母の艦娘。鳳翔。

そして姿はさほど似てないが、姉妹艦娘。祥鳳と瑞鳳の二人。

 

「初めまして、新しく提督になりました吉井明久です」

 

「軽空母の鳳翔です」

 

「……雲龍です……」

 

「祥鳳と言います」

 

「瑞鳳です」

 

明久が手短に自己紹介すると、鳳翔を先頭に同じように手短に自己紹介する四人。

しかし、まだ四人の目には明久に対する疑いの色があった。だが明久は

 

「時間が無いので、本題に入ります……先ほど、遠征艦隊が深海艦隊の奇襲を受けました……幸いにも、敵は殲滅出来て、遠征艦隊も全員無事でした……ですが、一緒に行動していた時雨ちゃん曰く、その艦隊は偵察艦隊の可能性が高いとの事……ですから、皆さんの艦載機で偵察をして、敵の本隊を見つけてほしいんです」

 

明久がそう言うと、不知火が地図を机の上に置いて深海艦隊と遭遇したポイントに丸を書いた。

そこは、鎮守府のある絃神島から西に30km程のポイント。もし相手に空母が居たら、艦載機による偵察が始まっていてもおかしくないポイントだ。

しかし、鳳翔が

 

「それは構いませんが……私達には、艦載機がありません」

 

と語った。

実は前の提督は新しい艦娘の建造に使用する資材が足りなかった時、艦娘の装備を奪って解体し、資材にして使っていたのだ。

 

「大丈夫です。少し前に、駆逐艦娘や軽巡洋艦娘の子達用に作っていた時に、他にも色々と作ったので」

 

明久がそう言うと、不知火が四人の前に空母艦娘が使える装備一覧を表示させた端末を置いた。

その一覧を見て、四人は驚いていた。

この鎮守府では、初期装備ばかりが使用されている。

だが

試製烈風後期型

彩雲

流星

天山

の名前があったからだ。

これらは上位装備と言われており、初期装備とは比較にならない性能を有している。

 

「こ、これは……」

 

「なんか、運良く開発出来ました……上位装備はまだ少ないので、話し合って使って下さい」

 

確かに上位装備はまだ少ないが、他には零式52型が幾つか開発されたらしい。

後は初期装備としても使われる97式等がある。

それらを確認した鳳翔が

 

「分かりました。これらを使って、索敵します」

 

「お願いします」

 

明久が頭を下げると、四人は何やら話し合いを始めた。

基本艦載機による索敵は、数多くの艦載機を扇状に放って広範囲を調べる形になる。

恐らくは、そのルートを決めているのだと、明久は考えた。

そして、四人による索敵は始まった。

どうやら、主軸は雲龍に決まったらしい。唯一の正規空母だから、動かせる艦載機の数は軽空母の三人とは段違いになるから、数で索敵範囲を広げる算段なのだろう。

そして、鳳翔、祥鳳、瑞鳳の三人が補佐に回ったらしい。

そうして、索敵が始まって約一時間が経過した時

 

「……見つけた」

 

と雲龍が呟いた。

 

「場所と規模は?」

 

「……場所はここ。規模は」

 

雲龍が示したのは、南西に約40km地点。規模は何と連合艦隊が二個。計24。

一つ目の連合艦隊は空母機動連合艦隊。

そして二つ目が、水上打撃艦隊。

進路は間違いなく、絃神島に向かっているという。

それらを考えた明久は

 

「……不知火ちゃん、非常呼集」

 

と不知火に告げた。

つまり、協力的な艦娘だけでなく、敵対的な艦娘も呼び出すということである。最悪を考えたのか、不知火が

 

「下手したら、司令の命が……」

 

「少し怖いけど、僕に任されたのは復興とこの鎮守府の運営……だから、四の五の言ってられないよ」

 

明久のその意思を感じたのか、不知火は非常呼集で全員を講堂に呼び出した。数分もしない内に、全艦娘が講堂に集まった。

 

「皆さん。急に集まってもらって、ありがとうございます……単刀直入に言います。今この鎮守府に向かって、深海艦隊が接近してきています。その規模は、二個連合艦隊」

 

明久の発表に、ほぼ全員がざわめいた。

やはり、不安なのが大半らしい。

 

「そこで、こちらも連合艦隊を編成して迎撃しようと思います……どうか、力を貸して下さい」

 

明久はそう言って、深々と頭を下げた。

その直後

 

「はっ! どうせ、あたし達が最前線で戦っている間に逃げる算段なんだろ! 見え見えなんだよ!」

 

と一人から怒号が飛んだ。

声を上げたのは、重巡洋艦娘の摩耶だった。強気な艦娘で、少々言葉使いも悪い艦娘。しかし、姉御肌な艦娘でもあり、駆逐艦娘達からは慕われている。

 

「前の提督がそうだった! あたし達に迎撃するように命じたら、自分は一目散に地下シェルターに逃げ込んだ!」

 

その地下シェルターの存在は、明久も知っている。

地下100m近くに作られた堅牢な地下シェルターで、しかも非常用にと脱出挺まであった。

だが

 

「その地下シェルターなら、とっくに埋めました」

 

「……は?」

 

明久の言葉に、摩耶は呆然とした表情を浮かべた。

すると、明久の背後のスクリーンに映像が流れた。

音は無いが、なんと爆破している。

その映像に、摩耶だけでなく敵対的な艦娘達全員が驚いていた。恐らくだが、全員が同じ気持ちだろう。

明久は、自ら退路を塞いだと。

 

「任されたのに、逃げる訳にはいかない……僕はもう、この鎮守府の司令官なんだ……だから以後は、戦闘時は必ず司令部に居る! 絶対に逃げない! 皆が最前線で命懸けで戦ってるのに、逃げるなんて不義理は出来ないししない!」

 

明久のその宣言に、摩耶は肩透かしをくらったのか、頭をボリボリと掻いた。すると、一人の巫女服を着た眼鏡を掛けた艦娘。霧島が前に出てきて

 

「司令、少し前に装備を開発していましたね? もしや、駆逐艦娘や軽巡洋艦娘の装備ですか?」

 

「はい。それと少数ですが、空母艦娘や戦艦娘さん達の装備も開発出来ました……今でもまだ数は少ないので、話し合って使って下さい」

 

明久がそう言うと、スクリーンに開発出来た装備一覧が表示された。その中には、絃神鎮守府では初めての装備も多数あった。

 

「……分かりました。不精霧島、協力させていただきます」

 

「ありがとうございます。心強いです」

 

霧島は協力を確約した。これで、戦艦娘では初めて協力的な艦娘が出来た。実は明久は知らなかったが、元々霧島はそんなに明久を疑ってはいなかった。

霧島は計算能力が高く、艦隊の頭脳を自称している。

そしてこの霧島は、人を見る目には自信があり、前提督の不祥事を大本営に伝えるように、提督に不信感を覚えていた基地要員の一人を霧島が掴んだ不正の証拠持たせて、本土行きの船に逃がしたのだ。

その後、明久が来てからは姿を隠しながら明久のやっている事を把握し、明久なら信用出来ると判断していた。

 

「私が水上打撃艦隊の旗艦になります」

 

「お願いします。最前線での細かい指揮は、一任します」

 

「お任せください」

 

その段階になると、摩耶も

 

「……わかった、協力してやる……ただし、まだ全面的に信用したわけじゃねぇからな!」

 

と協力する事を告げた。それを皮切りに、次々と協力を申し出る艦娘が続出。何とかだが、連合艦隊を編成出来る人数を確保した。

それを確認した明久は

 

「では、これより侵攻艦隊の迎撃を始めます!」

 

と宣言した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。