戦闘が終了した後、明久は不知火と一緒に執務室で消費した弾薬や燃料、鋼材、ボーキサイトに関する報告を整備士長から聞いて、決済の書類を捌いていた。
既に、戦闘に関しては海軍本部の舞鶴には伝えてある。
後は、艤装のブラックボックスから吸い出した戦闘詳報と艦娘達からの報告が噛み合えば、それを報告書にして送信するだけになる。
そして、不知火に指摘されながら書類を作っていると
「旗艦の霧島と、時雨、夕立です」
とノックがされてから、霧島の声が聞こえた。
「どうぞ」
明久が入室を促すと、霧島、時雨、夕立の三人が入ってきた。明久は一度書類を脇に退かし、ブラックボックスから吸い出した戦闘詳報を取り出して
「では、報告をお願いします」
と促した。そこからは、三人からの報告になり、三人の話は戦闘詳報と違いは無かった。それを確認した明久は
「戦闘詳報と差異が無いことが確認出来ました……これで、深海棲艦艦隊の奇襲迎撃戦の終息を宣言します……皆、無事で良かった」
と安堵した。すると、夕立はまるで犬のように明久に飛び付いた。そんな夕立の頭を撫でていると、ノックされて
「失礼する……」
と長い黒髪に凛とした雰囲気の艦娘が先頭で、更に何人か入ってきた。
戦艦娘の長門を筆頭に、那智、矢萩、磯風。そして書類では居るのは知っていたが、初めて見た褐色肌に高い身長、大胆な服装の眼鏡を掛けた戦艦娘。大和型の妹、武蔵だ。
「えっと、どうしたのかな?」
不知火が前に立とうとしたが、それを静止して明久が問い掛けた。すると、長門が
「先ほどの戦闘に参加せず、済まなかった……」
と頭を下げて、それに追随して他の全員も頭を下げた。
少しすると、長門達は頭を上げて
「……私達は、はっきり言ってしまえばまだお前の事を信用していない……」
「前提督の事を考えれば、仕方ないかなって思います……」
長門の言葉に、明久は同意した。
違法薬物の使用、先ほど知ったが、艦娘の違法売買に寮や食事と、挙げたらキリがない。
「だが……前提督とお前は違うと分かる……自分から食事を用意したり、大本営に頼んで工作班を呼び、食堂の解放に寮の建て替え……戦闘中は司令部から絶対に離れなかった……」
食堂に関しては、後は券売機を置けば何時でも行けるらしく、今は入り口に簡易的なメニューを書いた黒板を置いて開いている。寮は現在、まだ取り壊しの最中である。
「僕は僕に出来る事をしてるだけですよ」
「それに何より……あの地下病院とは名ばかりの場所から、多くの艦娘を解放してくれた……あそこには、私の妹が居た……」
そう語ったのは那智だった。確かに、名簿で確認していたが、那智の妹。妙高型艦娘の羽黒の名前があり、解放した時は妙高が抱き締めていたのを覚えている。
「羽黒は前提督の時、無茶な進撃命令を受けて、奇跡的に生還したが……よく泣くようになってしまってあそこに閉じ込められてしまった……礼を言わせてほしい……ありがとう……」
やはり、姉妹だから大事なのだろうということが分かる。
「私は、お前の事を誤解していた……口では良い事を言うが、戦いが始まればすぐに逃げ出すだろうと……しかし、お前は逃げなかった。怖がりながらも司令部に居て、何時でも支援が出来るようにとしていた」
「臆病なだけだよ……皆を死なせたくないって……」
磯風の言葉に、明久は少し恥ずかしそうに返答する。
すると、武蔵が
「それは仕方あるまい……お前は本来、まだ学生だ。しかも聞いた話では、少し前まで料理学校の生徒だったんだろ? 将来有望だったと聞く……それを無理矢理に短期育成コースに入れて、此処に居る……逃げても恥ではなかったのに、何故だ?」
「……知らなかったんだ……君たちみたいな女の子達が戦ってるっていうことを……料理学校に居た時、戦争を何処か遠い所でやってるって考えてた……けど、短期育成コースに入って知ったんだ……君たち艦娘が、日本人にとっては身近な海で戦ってるってことを……僕からしたら、君たちは少し特殊な力を持ってる女の子って認識なんだ……君たちが頑張ってくれてるのに、僕が逃げる訳にはいかない……僕は僕に出来る事をする。そう決めたから、司令部で出来る事をするし、開発も頑張る……皆に、生き残ってほしいから……戦争を生きて戦後を生きてほしいんだ」
「戦後を生きる……か」
明久の言葉を武蔵は噛み締めていた。
戦艦武蔵、第二次世界大戦末期の1944年10月24日にシブヤン海で沈んだ。
日本はその翌年の1945年8月14日にアメリカの出した無条件降伏に署名し、終戦を迎えた。
艦娘達は多少の差はあるが、日本が負けたという事実は認識しており、終戦日も知っている。
それは、ある意味で待ち望んでいた終戦であった。
「艦娘……ううん、君たちの前身だった軍艦はその殆どが撃沈した事は知ってる……だから今度は、ちゃんと生きて戦後を生きてほしいんだ……僕はその為に出来る事は全力でする」
明久のその言葉に、長門達は僅かに視線を交わらせると
「だから、信頼出来ると我々は判断した……都合が良いと言われるかもしれないが……」
そこまで言うと、長門達は一斉に敬礼した。
『我々は今この時を以て、正式に提督の指揮下に入ります!』
「……ありがとうございます。皆さんの信頼を裏切らないように、頑張ります」
長門達の言葉に答えながら、明久も返礼した。