おバカの提督業   作:京勇樹

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会談

明久が提督になって、約一週間が経った。

この日明久は、以前に寄った商店街の総合事務所に来ていた。その目的は、以前に見つけた女性達と今後についての話し合いだ。

 

「待たせたな、坊主」

 

「一週間振りです。徳重さん」

 

明久と時雨が待っていると、徳重が入ってきた。

 

「ん? 前に一緒に居た子とは違うな……」

 

「初めまして。ボクは時雨だよ」

 

初めて時雨を見た徳重が首を傾げると、時雨は軽く名乗りながら右手を差し出した。徳重は握手に応じながら

 

「おう、初めまして。俺はこの商店街の会長をしてる前谷徳重ってんだ。よろしく」

 

名乗ると、椅子に座った。

すると、明久が

 

「早速ですが、以前に求められた行方不明の女性達に関してです……」

 

と切り出した。

 

「どうだった……?」

 

「皆さん、見つけました……前提督による何らかの実験に使われたようで、衰弱していましたが、全員無事です……今は鎮守府敷地内の病院にて、治療をしています……ご安心ください」

 

明久は説明しながら、時雨が鞄から取り出した書類を机の上に置いた。その書類には、女性達の名前や現在の状態が記されている。

徳重はそれを読み

 

「……見つかったか……良かった……」

 

と深々とため息を吐いた。

実はその女性達の中には、徳重の孫娘の名前があったのだ。

自身の子供が唯一残した、忘れ形見の孫娘だった。

 

「もし望まれるのでしたら、連絡くだされば何時でも面会出来るようにします……」

 

「ありがとうな、坊主……全員見つけてくれたうえに、治療まで……」

 

「いえ……前提督のしてしまった罪ですから……後任とはいえ僕に出来る事はこれくらいですので……」

 

明久はそう言いながら、鎮守府の電話番号が書かれた紙を置いた。そして、徳重が落ち着くのを待ってから

 

「では次に、そちらから以前お借りしたお鍋の返却です。お鍋に関しましては、既に倉庫付近にまでトラックで運んであります」

 

「分かった。後で倉庫に運び込もう」

 

以前に明久が借りた2つの大きな鍋。その2つは洗ってあり、後は倉庫に仕舞うだけになる。

 

「それと、これは此方からのお願いになるんですが……漁業組合と海運業社さんへの橋渡しになってほしいんです……」

 

「……なるほどな」

 

明久の意図を察して、徳重は頷いた。

前提督が法外とも言える護衛料金を要求し、それを突っぱねた漁業組合と海運業社は両方ともに開店休業状態であり、更には海軍からの電話も一切繋がらないようにしており、一回直接向かったら、水を掛けられたのだ。

そこから、明久は徳重に仲介を頼んだのだ。

 

「しかし、肝心の交渉に使うカードはどうするんだ?」

 

「一応僕が用意してるのは、まず格安の金額です……一応、これくらいを想定してます」

 

前提督は大本営が定めた倍以上の金額を要求しており、明久は大本営が定めた金額より安くしている。

その値段は、十分に良心的と言える。

そして何より、燃料の融通だ。

 

「なるほど……今は船に使う燃料は、ほとんどが軍に買い取られてて、民間には回らない……回ってもかなり高額だ……」

 

「はい。それに、船が損傷した場合、鎮守府で格安で直せるようにうちの工作班にも頼みました」

 

明久が言った工作班というのは、明石である。

前大戦時の明石は、前線で傷付いた艦船を修理しており、実は連合軍からは最優先標的の一つに挙げられていたのだ。

今も修理能力は長けており、艤装さえあればその場で艦娘の修理も出来る程だ。

 

「……もしかしたら、だが……いけるかもな……」

 

徳重はそう呟くと立ち上がり

 

「一応、両方の代表とは昔からの顔馴染みだ……電話してみよう」

 

と言って、部屋から一度退室した。少しすると、戻ってきて

 

「運が良かったな、坊主。今二人とも、同じ場所に居るようだ。今から行くぞ」

 

と明久に告げた。

それから徳重の案内で向かったのは、商店街から程近い港の食堂だった。

 

「今二人とも、ここに居るって話だ……タケにゲン!」

 

徳重はドアを開けながら、大声を挙げた。

すると、程近い席に座っていた二人の男が徳重の方に振り向き

 

「んだよ、トク……デケェ声で……あっ!!」

 

「おい、そいつは!!」

 

と明久にすぐに気付いて、明久を睨んだ。

しかし徳重は

 

「大丈夫だ、この坊主は前の性悪とは全然違う……坊主」

 

「初めまして……僕は新しく絃神鎮守府の提督になりました、吉井明久と言います」

 

明久に紹介を促し、明久は深々と頭を下げた。

しかし、二人は

 

「はっ! どうせ、護衛料金を上げるってんだろ! 誰が払うか!」

 

「あの鎮守府に払う金なんざ、一円も無い! とっとと失せろ!!」

 

と大声を挙げて、明久に対してコップの水を掛けようとした。その時

 

「やめなさい! 良い年した大人が!」

 

『ガッ!?』

 

奥から現れた一人の恰幅のいい女性が、二人の頭を縦にしたお盆で叩いた。その時に聞こえた音で、どれ程の威力か明久には想像出来た。

 

「痛ぁ……!」

 

「何しやがる、鈴……!」

 

「あんたらがみっともないから、止めたんだろ! それに、ウチの店での暴力行為は厳禁だよ! 忘れたのかい!?」

 

日焼けした如何にも海の男という感じの男性は頭を抱えて震え、眼鏡を掛けた小太りの男性は女性に文句を言うが、女性は一喝して黙らせた。

そして、明久を見て

 

「それに、あの新しい提督の話はアタシは知ってる。中々良い提督で、自分で食材を買いに商店街に行って料理を作ったって話だ。話位は聞いてやんな!」

 

と二人を叱った。

すると、徳重が小声で

 

「あいつは、この食堂の女将。川原鈴(かわはらすず)……この食堂を一人で切り盛りして、海関係の男達は頭が上がらないんだよ……店で暴れたら出禁になって、飯が食えなくなるしな……」

 

と告げた。

すると、女性。鈴が明久を見て

 

「奥の座敷を貸すから、使いな」

 

と奥を指差した。

その後、四人で座敷に座り

 

「まずこっちが、漁業組合会長の秋川武文(あきかわたけふみ)だ」

 

徳重が教えるが、武文は明久を見ようともしない。

 

「んでもう一人が、海運業社社長の酒川元治(さけかわげんじ)だ」

 

もう一人も教えられたが、冷たい目で明久を睨んでいる。

 

「改めて初めまして……新しく絃神鎮守府の提督になりました、吉井明久です……今日は、お二人に大事な話がありまして、徳重さんに仲介をお願いしました」

 

明久はそう言うと、二人の前に書類を置いたが

 

「おい、トク……なんでこんな奴の話を聞いた」

 

「そうだ。どうせこいつも、金が目当てなんだろ。聞く価値なんざ無い」

 

と書類すら見ず、徳重に食いかかった。しかし徳重は

 

「お前ら、ちゃんとその書類を見ろ」

 

と二人に対して、書類を見るように促した。

最初二人は、書類を見ないで破こうとした。しかし、元治の方が

 

「……なんだ、この料金……かなり安いじゃねぇか」

 

と気づいた。

 

「なに?」

 

それを聞いた武文も、書類を見た。

前提督に比べたら、料金は1/3位に納まっている。

 

「そちらが、僕が提示する料金です。それと、船が故障した場合は鎮守府で修理も請け負いますし、燃料も補給します」

 

明久が提示した条件に、武文と元治は黙考していた。

はっきり言ってしまえば、破格の条件だ。

 

「……一つ聞く……前の提督はどうした?」

 

「既に逮捕され、今は裁判待ちです。僕が新しく見つけた証拠もあり、有罪は確実です」

 

元治の問いかけに、明久は事実を告げた。

それを聞いた二人は、目を瞑り

 

「……んて、お前は何をしに来たんだ」

 

と武文が問い掛け、元治は真剣な表情だった。

 

「僕は、僕に出来る事で鎮守府を……そして何より、皆さんとの関係を復興していこうとしています」

 

明久の真剣な表情に、二人は書類に視線を戻して頭を掻きながら

 

「……流石に、俺の一存じゃ決められない。他の組合員と話さないとな」

 

「俺もだ。社員と話し合って決める必要がある」

 

と告げた。つまり、前向きという事になる。

 

「ありがとうございます。お願いします」

 

「まだ決まった訳じゃねえ」

 

「ああ」

 

二人はそう言って、座敷部屋から出ていった。

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