おバカの提督業   作:京勇樹

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勘違い

 

 

 

提督排除派と明久が出会ったのは、不知火の報告から数日後の事だった。

明久が出会ったのは、扶桑だった。長い黒髪に柔らかな表情が印象的な戦艦娘で、明久を見ると微笑みを浮かべ

 

「初めまして、提督。私は扶桑型戦艦一番艦の扶桑と申します」

 

と礼儀正しく、明久に名乗った。

 

「初めまして、扶桑さん。新しく提督になりました、吉井明久です」

 

明久も軽く自己紹介すると、背後に居た時雨から書類を受け取り

 

「実は、山城さんもなんですが……扶桑さんにも大事な話が有りまして」

 

「大事な、話……ですか」

 

それを聞いた扶桑は、最初は解体されるんだな、と思った。命令に従わない艦娘は、本来は命令不服従が当てはまり、解体されるのが今の海軍の常だと前提督から聞いたからだ。

そして、扶桑は明久から差し出された書類を見て

 

「……新しい艤装の管理システムの導入について……?」

 

という予想外の文面に、思わず首を傾げた。

 

「はい。詳しくは、出撃口に行って説明を……」

 

と、そこまで告げた時、時雨が明久と自身の体の位置を入れ替えて、横からの一撃を刀で弾いた。

 

「つっ……! 時雨……! なんで分からないの! 提督を含めた奴らなんて、信用するに値しないって!」

 

「今の君の言葉なんて、聞くに値しないよ。山城」

 

山城は感情的に時雨に言うが、時雨は淡々と返して刀を構えた。そして山城は、拳を握り締めたが

 

「止めなさい、山城」

 

「しかし、姉様!」

 

「止めなさい」

 

扶桑の静かだが力強い言葉に、山城は渋々といった様子で従った。そして扶桑は、そんな山城を自身の後ろに後退させて

 

「申し訳ありませんでした、提督。妹が粗相を」

 

と謝罪した。

山城が何か言おうとしたが、気付けば夕立が後ろに居て、静かに殺気立っていた事に気付き、止まった。しかもよく見れば、夕立の右手は腰のナイフを掴んでいる。何か起きれば、即座に抜くだろう。

 

「夕立ちゃん」

 

そんな夕立に気付き、明久が右手を上げて制止すると、夕立は静かに山城から距離を取った。

時雨も刀を鞘に収めたのを見て

 

「大丈夫ですよ、扶桑さん……お二人が前提督にされた事を考えれば、納得出来ますから……」

 

「ありがとうございます、提督さん……山城、彼は私達にこれを知らせに来てくださったのよ」

 

「どうせ、私達が解体だって事でしょ……新しい艤装管理システムの導入……?」

 

扶桑から渡された書類を見た山城が、少し呆然としていた。すると明久は

 

「詳しくは、出撃口に行って説明しましょうか」

 

と告げて、歩き始めた。山城は一瞬拳を握り締めたが、時雨が鯉口を鳴らし、夕立が殺気を当てて

 

「山城」

 

と小さく制止され、山城は諦めた。

そして出撃口に到着すると

 

「艤装ロッカーが無い」

 

「はい。余りに非効率だったので撤去し、新しいのを導入しました」

 

山城の呟きに、明久は説明を始めた。

今まで、出撃の際には各艦娘が所持する鍵で艤装が入れられたロッカーを開けて艤装を取り出し、妖精達の手を借りて艤装を装備していた。

しかしこれでは、出撃するまでに時間が掛かる。

そこで明久は、元帥に頼んで最新型を導入した。

 

「まず、こちらにどちらでも良いので、掌を当ててください」

 

明久はそう言って、腰位の高さの四角い柱を指差した。まず先に、扶桑がその面に掌を当てた。

 

「少しそのままで……はい、大丈夫です」

 

2秒程台座の面が光ったが、扶桑の掌に何ら異常はない。山城は動かなかったが、扶桑が山城の右手を面に押し付けた。

 

「はい、大丈夫です。次に、あの台に乗って、正面の台座に同じように掌を押し当ててください」

 

言われるがままに、扶桑と山城は台に乗り、右手を面に押し当てた。

その直後、二人の居る台の後ろの床が観音開きで開き、下から二人の艤装が出てきて、あっという間に装着された。

 

「これは……」

 

「あっという間……」

 

扶桑と山城は驚いていて、明久は

 

「うん。二人の艤装も問題無しですね。良かった」

 

と安堵していた。

 

「この最新装着システムは、一年前に大本営が導入を開始してます。国内でもまだ呉や佐世保、横須賀位しか導入されてません」

 

「そんな最新の機材を……」

 

明久の説明を聞いて、扶桑は驚いている。

 

「しかも、武装の交換にも対応してます……例えば」

 

明久は端末を操作して、扶桑の主砲を40cm砲に換装した。この換装も、十数秒で終わっている。以前は手作業でやっていたので、最低でも数分は掛かっていた。

更には対空機銃も7、7mmから25mm連装機銃にあっという間に換装した。

 

「山城さんも換装しますか?」

 

「ふんっ! しなくていいわよ。好感度稼ぎって丸分かりよ」

 

山城はそう言うと同時に、明久に主砲を指向した。

 

「山城!?」

 

「動かないで、姉様。そこの二人も動くな」

 

山城は明久から視線を外さず、扶桑と時雨、夕立を抑えた。三人がどう動こうとしても、それよりも砲撃が早い。

 

「ほら。今この場で、提督を辞めるって言いなさい。そうすれば、命だけは助けてやるから」

 

山城はそう言いながら、右足を一歩踏み込んだ。

その瞬間

 

「……出来れば、艦娘相手には抜きたくなかったな」

 

と明久が呟いた。その瞬間、明久は腰の刀を抜刀と同時に一閃。山城が明久に向けていた腰右側の主砲が、艤装から落ちた。

 

「なっ……」

 

「これは……旋回部分を斬った!?」

 

山城は目を見開き、扶桑は明久がした絶技に驚愕した。艤装の主砲接続部分は、主砲が旋回する為に隙間が空いている。

しかしその隙間は、刀の刀身が入るか入らないかのギリギリさだ。その隙間を通し、明久は主砲を固定していた金具や金属を全て両断した。正に離れ業と言えるだろう。

 

「まだよ! まだ主砲は……」

 

「やめなさい、山城」

 

山城は再度別の主砲を向けようとしたが、それを扶桑が制止し、扶桑は山城に主砲を向けていた。

扶桑の主砲は換装した40cm砲だ。

 

「姉様……」

 

「山城……確かに、私達は前提督に無体に扱われて、艦隊でも古参組なのに改にすらなれてないわ……」

 

扶桑と山城だが、前提督が居た5年間の内、4年間在籍している。しかし3年半前から艤装を封印され、何人もの仲間達を見送る事しか出来なかった。

その無力感が、山城の提督への恨みに繋がっている。

 

「山城……彼は、前提督とは違うわ……彼は私達艦娘に寄り添ってくれてる……優しい人よ」

 

「そんなの、今だけかもしれないじゃない! どうせ、何時かは本性を見せるに違いないわよ!!」

 

山城は扶桑の言葉に、感情的に反論した。

しかし扶桑は

 

「……彼は、軍人には不向きなぐらいに優しい……いえ、優し過ぎる……しょうがないわよね……だって彼は、半年の即席教育を受けただけの、ほぼ民間人なんだもの……それも、本来は料理学校に通ってただけ……ただ、妖精が見えて、好かれやすいという理由から抜擢されて、無理やりに提督になったんだから……」

 

と明久を見た。

 

「……は? 料理学校……?」

 

扶桑の話を聞いて、山城は呆然と明久を見た。

実はこの山城、初日の炊き出しの時も明久に関わるまいと離れた場所に居て、木曽との会話を一切聞いていなかったのだ。

 

「しかも彼は、元帥に直接選ばれてこの鎮守府の提督に就任してるわ……山城……貴女も、元帥が私達を大切にしてくださってるのは、知ってるわよね?」

 

「……それは、知ってます……前提督は、元帥のやり方は生温いって言ってたから、知ってる……」

 

元帥は穏健派の筆頭。それに対して、前提督は強硬派。それも、艦娘なんて兵器としか使えない化物。と考える急先鋒の一人だった。

 

「元帥に選ばれた彼が、私達を無体に扱うと思う? 私は思わないわ、山城」

 

そう、山城は今まで明久が元帥に選ばれたとは知らず、勘違いしていたのだ。

明久も強硬派に属する一人だと。

 

「……私も、思わないわ……」

 

山城はそう言って、主砲の砲口を降ろした。

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