仮執務室で明久は、地下で見つかった研究室に関する第一次報告書を見て、腕組みをしていた。
「司令、どうしました?」
そんな明久に、不知火がコーヒーモドキを差し入れながら、問い掛けた。
すると明久は
「いや、あの研究室……いち提督が入手して、使うには不相応だなって思ってね……」
「確かに、かなり広大な研究フロアでしたね……」
明久の言葉に、不知火も同意して頷いた。
広さは、少し狭い体育館程で、そこに等間隔で3列に生体ポッドが並んでいた。
今調査班が、残っていたデータを精査している最中だ。
「……もしかしたらだけど、あの電話の先の主が関係してたりするかも、って思ってる」
「なるほど……確か、最終的には陸軍のある高官に深く関与している家に繋がった、という話でしたね」
明久の話に、不知火は思い出しながら呟いた。
実は明久達は知らないが、実は電話先の相手は特定出来ている。
しかし武田長官が、明久に知らせる必要は無いと判断し、止めさせた。
その人物というのは、陸軍5大将の一人。
陸軍は日本本島を大きく5つに別けて、それにそれぞれ一人ずつ大将を配置し、市ヶ谷の陸軍本部に居る陸軍元帥が統括する、という方式を採用している。
そして件の大将は、東北・北海道地方を担当している大将。
尼崎大将は陸軍の中でも、人による解放を標榜しており、艦娘を深海棲艦と同じ化け物としか見ておらず、以前に陸軍との共同作戦中に、艦娘と深海棲艦が乱戦していた海域に無差別砲撃を指示した事もあり、海軍とは険悪な間柄な大将である。
陸軍でもその事件は重く受け止め、海軍との共同作戦では指揮権の剥奪を決定し、本部から監視役の参謀を何人か派遣している。
しかし、尼崎大将の実家は日本軍に対して大きな影響力を持つ家で、度々指揮権の復活を要望してきており、陸軍本部も手を焼いている。
しかし、海軍から絃神鎮守府の前提督と繋がりがある、と聞いて、陸軍本部は喜んで捜査に協力を決定。
今現在、陸海共同で尼崎大将の内偵を進めている。
「そうでした、司令。先ほど医療大尉から連絡が入りまして……潮を覚えていますか?」
「……拘束具を投与されてた、あの潮ちゃん?」
それは、明久が入浴しようとしていたら、突入してきたあの潮である。
保護した後は、明石に頼んで治療を進めていた駆逐艦娘の一人だ。
「はい。その潮なんですが、ようやく拘束具の影響から脱する事に成功した、と明石さんから連絡が入りました」
「そっか……近い内に、会いに行こうか。潮ちゃんからしたら、辛いかもしれないけど」
不知火からの報告に、明久はそう呟いて目を伏せた。
拘束具を使われて快復した対象は、個人差があるが、記憶が残っている事が多々ある。
そうなったら、最悪精神に異常を来す場合がある。
明久としては本意ではないが、話を聞く必要があるので仕方ないのだ。
「分かりました、手配しておきます」
「うん。お願い」
明久は頷き、執務に意識を戻した。
次に取った書類は、新しく建築中の艦娘寮に関する書類だった。
まず旧寮だが、寮全体と地下に強力な爆薬が仕掛けられていて、解体と回収に手間取ったが、なんとか完了し、新しく建築が始まった。
その新しい寮は、最大四人部屋になり、広さはおおよそ20畳程になる。
駆逐艦娘は人数が多いから、1フロア丸ごとを型や級用に割り振る計画になっている。
もし足りなくなったら、地下に増設か、まだ余ってる地区に新しく建てるしかないだろう。
戦艦や空母艦娘達は、絶対数が少ない為に大丈夫で、今回新しく、海外艦娘寮の建築も始まっていて、近い内に海外艦娘が何人か配属となる予定だ。
まあ、その海外艦娘達も少々難ある鎮守府等から保護された艦娘だが。
そして今回、明久発案で全艦娘寮の一階に、軍事式呼び方だとPXと呼ばれる購買が併設される事が決まった。
一応統括は執務棟の購買だが、そこで本や服、化粧品が買えるように現在調整している。
これもまた、復興の為の案の一つだ。
「……完全復興には、まだまだ時間が掛かりそうだ……」
明久はそう呟きながら、コーヒーモドキを一口呑んだ。