潮が快復した数日後、明久はその潮の病室を訪ねた。
潮はベッドで上半身を起こして窓の外を見ていたが、明久が来た事に気付き
「あ……貴方が、今の……」
「今の提督の、吉井明久です……あ、無理はしないで」
潮が何とかベッドから出ようとしたが、それを明久は制止して寝かせたままベッド近くのイスに座った。
すると潮は、穏やかな表情で
「私を助けてくれて、ありがとうございました……明石さんから聞きました……提督の指示で、助けてもらう事になったって」
「助けられるなら、助けたかった……辛いかもしれないけど、聴取もする必要があるから……」
明久はそう言って、不知火にボイスレコーダーとノートを用意させた。
「はい。それも明石さんから伺ってます……覚えてる限りでよければ……」
「うん……それじゃあ……」
そうして明久は、潮から前の提督に拘束具を投与されてからを聞いた。
聞かされたのは、前提督のゲスな言葉と潮に行った性的な加害。
そして、艦娘特有の頑丈な体と回復速度を利用してのストレス発散。
それを聞かされた明久は怒りで拳を握り締めていたが、もうすでに前提督は処刑されている。
それより大事な情報は、潮が前提督が何処から拘束具を入手していたか知っていた事だった。
入手先は、中国系の製薬会社だった。
これは調査班も入手していなかった情報で、聞いた不知火はすぐにボイスレコーダーとノートを持って病室から退室した。
ちなみに、病室の外には時雨と明久に好意的な朝潮が居る。
夕立は模擬戦で格闘戦を教えている最中だ。
話を聞き終え不知火を見送った明久は、潮に
「ごめんね……辛い話を聞いて……」
「いえ、大丈夫です……」
明久が謝ると、潮は明久の手を優しく握った。
「提督は、私が薬の効果から完全に快復するまでの間、何回もお見舞いに来てくれました……確かに、前の提督にされた事は、凄く嫌で……何回か死にたいって思った事もあります……ですが、提督はまるで人形みたいな私にも優しくしてくれて……凄く嬉しかったです……」
実は今居る病院は、明久も入院していた病院で、潮が入院してからは時々来ており、明石にはコストは考えないで治療を、と念押ししていた。
「本来、私みたいな薬が原因で戦えなくなった艦娘は解体されるのが原則……」
艦娘は確かに頑丈かつ回復速度はかなり早い。しかし、例外はある。それが、精神的な傷。いわゆるストレスやトラウマ。そしてもう一つが、薬物による後遺症だ。
つまり外面的な傷には強く内面的な傷には脆いのだ。
それを把握した一部提督達は、使えなくなった艦娘は即座に解体して資源として有効活用する。という暗黙の了解があるのだ。
「けど提督は、私を見捨てなかった……優しく、私の手を握ってくれました……」
「自己満足だよ……僕は、君たちみたいに戦えない……そんな力は無い……だからせめて、君たちを支えられるように、頑張ろうって決めたんだ……だから、潮ちゃん……ゆっくりでいい……今は体を治して……精神を癒して……絶対に、無理だけはしないで……僕の役割は、鎮守府の復興……僕は君たちと仲良くしたいんだ」
明久はそう言って、潮から手を離して鞄から小さな袋と一つの茶封筒を取り出して
「こっちは、お見舞いの品のクッキー……まあ、僕の手作り……そしてこっちは、退役届け」
「退役届け……」
「うん……もしかしたら、もう軍には居たくないかもしれない……人間が嫌いかもしれない……そうなったら、またストレスになるから……選ぶのは、潮ちゃん次第だ……もし退役を選ぶなら、僕は全力で支援する……すぐ決めなくていい……ゆっくり考えて」
最後に明久は、潮の頭を優しく撫でてから病室を後にした。
それから約一ヶ月後、潮は艦隊に復帰。明久に寄り添う優秀な秘書艦娘の一人になる。